荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第8話「感謝を伝えたい人」

「「ただいまー」!」

「おかえり2人とも。とっておきのお菓子があるから、手を洗ったらいらっしゃい」

 

こうして家へと戻った2人を出迎えた叔母。

しかしその服装はフォーマルなものであり、明らかに外行きの服だった。

玄関の扉をあければあの時のようにチョコレートの香りが漂ってきた。

 

腕の立つ叔母の、とっておきという言葉に胸を高まらせる。

事を済ませて食卓の席に座れば、それぞれチョコケーキとスプーンが置かれた。

焼きたてのようで少し手をかざせば熱が伝わってくる。

 

「さあ、冷めないうちにどうぞ」

「いただきます」「いただきまーす!」

 

ナイフを入れれば、中からチョコレートがあふれ出す。

 

「わわっ! なにこれ面白い!」

「フォンダンショコラ、っていうのよ。テレビで見たことあるでしょ?」

「そういえば最近情報番組で見たかも」

 

慣れないお菓子に苦戦しながらも、味は絶品であり2人は舌鼓を打つ。

 

「それじゃあ私はちょっと出掛けてくるから。

 晩御飯は冷蔵庫にあるから、レンジで温めて食べて」

「はーい、行ってらっしゃい叔母さん!」

 

上機嫌に家を後にした叔母を見送り姉妹揃って台所で洗い物をする。

こういった記念日には何らかの理由を付けて叔父と叔母は出掛けることが多かった。

 

「デートだよね。いいなー、わたしも彼氏とか出来たらお出かけしたいなー」

「脈がある子、いるの?」

「いなーい」

 

そういった色恋沙汰より自分の趣味や仕事にしか興味が無い為に、

好意を向けられても即時断っていることだろう。

互いに女性としての魅力が無いわけではないのだが、それ以上に我が強すぎるのが欠点で。

それが良くも悪くも拍車をかけて自分のことへと没頭するわけだが、

指摘する人物すら2人にはいないのであった。

 

皿洗いを終えて沈黙が降りる。

 

「──今年もお参り、行けなかったね」

「……そうだね」

 

ふと言葉が口を漏らす。

人が縁を祝するその日は、両親との縁が断たれた日でもあった。

 

そんな日でも祝うことを優先するのは、

過去に囚われないという意味を込めた叔父と叔母による必死の気遣いによるもの。

当時はそんな気にもなれなかった言葉であったが、本当の想いを見つけてからは興が乗ったと言える。

姉に便乗する形で頑張った文もなかなかの楽しみ具合であったが、

こうして日が落ち2人きりになってしまっては考えない方が不自然だった。

 

「とりあえず、晩御飯食べよっか」

「うん」

 

その日の食卓に会話はなかった。

 

 

 

晩御飯を食べ終え1人部屋に戻った言葉は、荷物を片手に自らのウタを再生する。

荒野のセカイに降り立ち、今や目印となった思い出の枯れ木の下で待ち合わせ。

約束などはしていない。それでも必ずやってくるセカイの住人。

 

「久しぶりだね言葉。今日は何かあったのかな?」

「あら、可愛い紙袋」

「おかえり2人とも。えっと、これ、受け取ってほしくて」

 

差し出したのは赤と青の紙袋。

色褪せた世界では黒の濃淡でしか表現されないが、言葉なりに一番近い色を選んだものだった。

 

「今日はバレンタインデーだから、日頃の感謝と、そのお礼を込めて」

「あら、外だとそんな風習があるのね。もったいないことしたわ」

「こんなことならまた何か見繕って持ってくるべきだったかな?」

「バレンタインデーは女性が男性に送るものだから、KAITOは大丈夫だよ」

 

ひとまず、といった形で受け取り中身を確認する。

MEIKOの袋にはウィスキーボンボン、KAITOの袋にはチョコレート味のアイスケーキがあった。

 

「2人とも好きな物がこれしか思いつかなくて……その、手作りじゃなくてごめんなさい」

「いいのよ、まさか言葉からこんな素敵な贈り物をもらうなんて思ってもみなかったわ」

「たまには歌以外の贈り物もいいかもね」

「あら、自分には言葉のウタがあるからって、随分余裕そうじゃない」

 

それを聞いてふと思い出す。確かにUntitledから生まれた曲はKAITOのソロ。

MEIKOも様々な形で助力してくれたというのにこれでは味気なかった。

 

──言葉にとってバーチャルシンガーを知るきっかけはKAITOではあるが、

  MEIKOも同じように大切な存在なのだ。

 

「なら、ちょっと待っててくれるかな?」

 

一言だけ告げて言葉は石碑へと歩み寄る。

すると楽器を取り出して捧げるように音色を奏で始めた。

 

その曲は知る人ぞ知るMEIKOの代表曲。死者を弔う桜の歌。

石碑を墓と見立てたのか、それは言葉にすらわからない。

両親の鎮魂を込めて奏でた旋律が、言葉のセカイに変化をもたらす。

 

薄い記憶を頼りに紡ぐ旋律は枯れた桜の木を揺らし、無いはずの花弁が舞い落ちる。

曲の進行とともに枝は薄紅色へと色付いていき、丘を染めていた。

しかしそれは一時の奇跡。旋律が消えた今ではその面影すら残っていなかった。

 

「歌も想いも、人それぞれだからね」

 

『両親』を喪った彼女の胸に響いたからこそ、そこが可能だったと言えるだろう。

 

「MEIKO、良かったら歌って欲しいな。元は貴女の曲だから」

「ふふ、言葉のお願いなら聞かないわけにいかないわね」

 

哀愁たっぷりに奏でられる旋律は歌声を乗せて、薄紅色の風を起こす。

どこにも行けない魂を元あるべき所へ送り届けるように、鈍色の雲へ舞い上がりそして消えていった。

 

 




黄泉桜/hinayukki 仕事してP

※例によって長文注意

ご無沙汰しております。kasyopaです。
今回でバレンタイン編は終了となります。

本来ならバレンタインに投稿したかったのですが、
主に宮女の面々との関係構築がサイドストーリー編終了前提のお話だったので少しばかり遅れました(半月)。

今回の話でワンダショタグも追加し、あと1ユニットだけとなりました。
各キャラでタグつけると20個になるのでユニット名だけ。

さて、次回はアンケートで選ばれたユニット絡みのストーリーになります。
アンケートに参加された方々には、この場を借りて再び感謝を。

そして長くなりましたが、次の章をもって第1部とし、
一旦の完結とさせていただきます。ご容赦ください。

次回「Going All the Way!」。お楽しみに。
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