荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第8話「初めから知っていたこと」

 

勉強を進めながら今日のイベントのことを考える。まだ耳には熱狂と残響が響いていた。

それにあの場所その物が音楽に魅入られているようだった。

それだけ東雲君が語った『RAD WEEKEND』というイベントは偉大だったんだろう。

 

「きっかけ、か」

 

かつての自分も、他の人から見ればああいった風に見えたのだろうか。

叔父と叔母と妹が楽しそうに私の昔話をしていたことを考えると、間違ってはいないだろう。

たった一つの想いを胸に努力して、努力して。しかしそれは無慈悲にも奪われてしまった。

 

最近気にしなかった事が追ってくるような錯覚を感じつつも、

何かしらの理由を付けて自分から逃げている気がする。

理由は言わずもがな、セカイというものに触れたから。

でも改めて考えてみれば、私の想いなど最初からそこにあったのだ。

探す必要なんてどこにもない。昔からずっとこの想いを抱いて生きてきた。

 

『両親に私の演奏を聞かせてあげたい』

 

そんな時だった。

自分のスマホがひとりでに輝きだして、画面にKAITOの姿が映し出される。

そんな機能はスマホに搭載されていないが、その光はUntitledの時とよく似ていた為納得する。

 

『言葉、今いいかな』

「うん、勉強中だけど……何かあった?」

『そうだね。口で言うより見てもらった方が早いと思う。

 差支えがなければ一度、セカイに来てくれないかな』

 

勉強中とはいえ、特にこれといったことはない。

むしろセカイにいる彼からの連絡となれば何か異常があったのかもしれない。

でもこちらとしても都合が良かった。私の本当の想いを伝える手間が省けたというもの。

 

「解った。ちょうどいい所で切り上げるからもうちょっと待ってて」

『焦らなくても大丈夫だよ。誘っておいた自分が言うのもなんだけどね』

 

こうも私のことを気にしてくれると、以前考えていた疑念も失われる。

手早く勉強を終えてセカイへと向かった。

 

 

 

セカイに降り立った私はその光景に息をのんだ。

 

「雪……?」

 

吐く息は白く染まり、鈍色の空が白い結晶を絶え間なく降らせている。

一応ここは屋外だから私服に着替えておいたけど、傘を持ってきた方がよかったかもしれない。

ただ不思議なことに冷たいけれど濡れはしない。溶けても消えるだけ。

それでも草原はところどころ雪化粧でおめかしをしている。

 

「濡れないけど積もりはする、って感じなんだ。やっぱり不思議な場所」

 

いつもの桜の木の下には和傘をした二人が待っているのが見える。

体を温める為にも足早にそこへ向う。

 

「MEIKO、KAITO、待たせてごめんね」

「別に気にしなくていいわ。それより──」

「この雪、だよね」

 

以前までは降っていなかった。

ただの天候の変化なら問題ないけれど、ここは私の想いで出来たセカイ。

 

「これってやっぱり、私の影響?」

「そうだね。ここは言葉のセカイだからそれ以外は考えられない」

 

いつの間にか私を傘の中へと入れてくれていたKAITOが語ってくれる。

丘の下に見える街並みも屋根が薄く白く染まっていた。

 

心境の変化がそのままセカイに影響を与える。

そんな現実を目の当たりにされ思わず目を伏せた。

 

「言葉?」

「素直だね、セカイって。私の想いをこんな感じで表すなんて」

 

自分の本当の想いがこのセカイに雪を降らせた。

KAITOが呼んだのはそういう事を察知したから……ではなさそうだった。

単に変化が起きたから、何か思い出せるかもしれないから、わざわざ呼んでくれたんだ。

ならいっそここで明かしてしまうのがタイミング的にもちょうどいいだろう。

 

「良かったら、話してみない? 口に出すだけでも楽になるかもしれないから」

「そうだね……うん」

 

MEIKOも私の変化に気付いたのか優しく声をかけてくれる。それを皮切りに私は語り始めた。

 

今日クラスメイトから誘われて音楽のイベントに参加したこと。

そのイベントは素敵な物で私に忘れようとしていたことを思い出させてくれた。

私がかつて抱いていた想いを。

 

最初からそんなことなど二人からすればお見通しかもしれない。

それでも語らずにはいられなかった。

 

「だから、このセカイは私の未練の形なんだと思う」

 

私の演奏をお父さんとお母さんにただ聞かせてあげたいという想い。

それは永遠に叶わない。届かない。それでもなお捨てきれない想い。

 

だからこのセカイはずっと両親が死んだ冬のままだ。

二人との思い出が残るこの桜の木を残して、何もない。誰もいない。導き手である二人を除いて。

 

「私の本当の想いは、最初からここにあったんだ。両親に私の演奏を聞かせたい、

 っていう想いが」

 

私が語っている間、二人は何も言わずにただ聞いてくれた。

それが少し嬉しくて、申し訳なくて。

 

「ごめんね二人とも。私はもう、大丈夫だから」

 

謝罪と感謝の言葉を口にする。しかし二人の表情は釈然としないものだった。

 

「──その想いは本当に今の君の『想い』なのかな?」

「だってそれ以外ないよ。このセカイを見ればわかるでしょ? 私の想いは叶わないんだから」

 

こうやって、諦めきれない想いを抱いて生きていく。

誰しも想いが叶うとは限らないし、何らかの要因によって叶えることが出来なくなることもある。

なら何らかの形で割り切るしかないんだ。

私のセカイはその想いを時折忘れそうになった時の為に残っている。

この先また迷いそうになった時に、思い出させてくれるための場所なんだ。

 

「「………」」

 

その言葉で何かに気付いたのか、彼女達は何も言うことはなかった。

そして表情が明るくなることもない。

最終的に私はそれが気まずくなり、適当な言い訳をつけ現実へ帰る。

 

逃げるようにしてベッドの上に倒れ込み冷え切った体を布団で温める。

目を閉じれば思い浮かぶのは二人の顔。

セカイのお蔭でMEIKOやKAITOに会うことができた。

でも会うためにはセカイで自分の想いと向き合わなければいけない。

 

「……セカイっていうのはどこも、いいことばっかりじゃないね」

 

綺麗なものばかりでは人は生きていけない。常に苦楽を共にして生きていく。

そんな事を思いながら私は眠りに落ちていくのだった。

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