荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第4話「赤雷の舞踏家」

それから幾日か過ぎて。

Vivid BAD SQUADの面々は次のイベントの練習にと公園へ向かっている。

しかしそこでは既に赤い髪の少女がダンスの練習をしていた。

ただ普通のダンスというより、もはやトリッキングの域に達してる。

 

「珍しいな、オレ達以外で使ってるやつなんて」

「そういうこともあるだろう。ここはビビッドストリートからも近いからな」

「邪魔しちゃ悪いし、別の場所で練習しよっか?」

「つってもアテはあんのかよ、アテは」

「探してみなきゃそんなのわかんないでしょー」

 

広い公園ではない為、派手に動かれては一緒にやろうにも危険が伴う。

たった1人の人物にいつもの場所を譲るのも気が引けるが、これを機に候補を探すのは悪くない。

3人が踵を返す中でこはねがその踊る少女を見ていた。

 

「こはね、どうかした?」

「あれってもしかして……皆、ちょっと待ってて!」

「あ、おい! ……行っちまった」

 

思い当たる節があるのか、急に駆け出す彼女。

妙に度胸のある行動をすることがあるが、その行動原理は相棒の杏ですら理解が及ばなかった。

踊っていた少女も曲が終わり休憩に入っている。

そこで駆け寄ったこはねの存在に気付き、楽しそうに談笑を交えていた。

 

「もしかして小豆沢の知り合いか?」

「いや、だとしてもオレ達には関係ないだろ。杏、連れ戻して来いよ」

「はーい。こはねー!」

 

手を振りながら杏も2人の元へと駆けていく。

すぐに連れてくるものだと思って待っているも、どうしてか杏もその会話の輪に入っていた。

挙句の果てには2人のことも呼んでいる様子でこちらに視線を向けている。

どうやら杏にとっても知り合いであったらしい。

 

「しゃーねー、オレ達も行くか」

「……そうだな」

 

このままでは練習の時間が短くなってしまう。

それに知り合いなら譲ってくれるかもしれない、と淡い期待もあった。

 

「あ、やっと来た。ほら、せっかくだし自己紹介しちゃおっか」

「はい! 鶴音文っていいます。えーっと、お姉ちゃんがお世話になってます?」

「鶴音でお姉ちゃんって、まさか」

 

その顔を凝視しながら言葉と姿を重ねるも、顔の形や面影ですら微塵も似ていなかった。

もちろん2人も妹がいるという話は初耳ではあるが、

挨拶されたからには返さないわけにもいかない。

 

「妹さんが居たんだな。俺は青柳冬弥という」

「東雲彰人です。えーっと、君はここでよく練習してるのかな」

 

知人の妹であっても他人は他人。

彰人お得意のいい人モードで対応するも、杏の表情がニヤついている。

 

「青柳さんに東雲さんですね。

 いつもは別の公園でしてるんですけど、イベントやってて使えなくって

 ここ、お姉ちゃんが演奏してる通りに近いし、ちょうどいいかなって」

「なるほど。小豆沢や白石と知り合いみたいだが」

「こはねちゃんは宮女の体験入学で……」

「私はバレンタインの時にちょっとね。それより、今から休憩入るから使っていいってさ」

「あ、でも練習みちゃいますけど、大丈夫ですか?」

「別に気にすることないよ。オレ達の方が後から来たし、むしろありがとう」

 

その彰人の言葉と共に離れてベンチに腰掛ける。

呑気に頑張れーと応援してるあたり、この4人について何も知らないらしい。

こはねと杏は笑顔で返していた。

 

「ところで彰人、別にいい人モードしなくていいんじゃない? 鶴音さんのこと知ってるしさ」

「それでもだ。余計なトラブルは起こしたくない」

 

「(それにあいつ、斑鳩と同じ匂いがするんだよな……関わると面倒そうだ)」

 

溢れ出る陽の気配から言葉の友人の面影を感じつつも、彰人は練習に打ち込むのであった。

 

 

 

4人の練習風景を真剣なまなざしで見つめていた。1人1人の動き・位置取りを記憶するかのように。

その練習が終わってからそれぞれの分の水を買ってきていた。

 

「もしよかったらこれ、どうぞ!」

「ありがとー! でもごめんね、私達もちゃんと持ってきてるから」

「えへへ、解ってます。それでも、必要になったら言ってくださいね!」

「……なんていうか、杏のやつ懐かれてるな」

「ふふ、杏ちゃん、文ちゃんと気が合いそうだもんね」

「あれは懐かれてるというより、先輩後輩としてあるべき対応をしているだけじゃないか?」

 

杏に笑顔で断られてしまうもお互い水分の重要性を知っている。

そういって自分用の1Lのペットボトルを傾けた。

 

録画していた自分達の練習風景を眺める一方で今度は文の練習が始まる。

動画を投稿するわけではないが希望を貰ったあの日から、いざという日の為に研鑽を続けていた。

以前問題となった炎上も対象を失ったことで自然鎮火したと、友人を通じて知っている。

 

結果として負い目なく自分の趣味として没頭出来ているわけで。

ワイヤレスイヤホンを耳に踊るのはバーチャルシンガーを主題にした家庭用ゲームのテーマ曲。

誰に見せるわけでもないからか歌も口ずさんでいた。

それでも間奏と後奏部分は自分の運動神経をアピールするようにアクロバットに踊って見せる。

そんな動きをしていれば嫌でも目立つ。いつしか4人の視線を集めていた。

 

しかし片方は明確な、もう片方は漠然とした夢に向けて交互に練習を続けるだけだった。

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