荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第5話「夢を掴み損ねたからこそ」

「おかわりお願いしまーす!」

「はいよ」

「いやどんだけ食べるんだよ! これで3杯目だろ!?」

 

いつもより少し賑やかなWEEKEND GARAGE。そこにはいつもの4人以外に文の姿があった。

お互いに練習を終えて募る話もあると、こはねと杏の案内で来店している。

それぞれコーヒーやカフェオレを注文する中、

シーフードカレーに目をつけミルクティーと共に注文したのは、少し前の話。

 

「だって大盛用のお皿が無いならいっぱい頼むだけですもーん」

「こっちからすればライスが余ってたからな。むしろたくさん食ってくれると助かる」

「ほらー、マスターさんだってそう言ってるじゃないですか!」

「いや、それにしたってお前……はあ」

 

これ以上何を言っても動じないことを悟り、彰人は疲れた様子で天井を仰いだ。

既にいい人モードは終了し、ましてやこんな人物に猫を被っていたことすら後悔するほどだった。

 

「なに彰人、私のお客さんにケチ付ける気?」

「いやそういうわけじゃねえけど……」

 

杏に口を挟まれ言葉を濁す。これ以上安住の地に知人やトラブルメーカーを入れたくなかった。

1度は不可抗力だったかもしれないが今回は完全に不意打ち。

ましてやこはねの友人で杏の知人ともなれば、この店に訪れるのは必然ともいえる。

 

「おい、お前の友人だろ。なんとかしろよ」

「でも文ちゃん、いつもこんな感じだよ?」

「………」

 

普段は小動物のようにふるまうこはねが、動じずにその様子を眺めている。

それをいいことに静止させようと声をかけるも、彼女もまた文側の人間だった。

 

「彰人、こればっかりは仕方ない。割り切ろう」

「……だな」

 

我関せずとコーヒーを飲んでいた冬弥にたしなめられ、自分もとコーヒーを口にする。

いつもと変わらぬ風味が揺れる心を落ち着かせた。

 

2人において他の何よりも、この少女が委員長──鶴音言葉の妹ということに納得がいかなかった。

 

彰人からすれば姉の姿を見て育ったこともあり、反骨精神を受け継いだと言える。

冬弥も知りえる兄弟・姉妹といえば天馬兄妹であり、

その2人は容姿もさることながら性格もポジティブという共通点があった。

 

しかしこの姉妹は真逆。冷静な姉と活発な妹。容姿もさほど似ているわけではない。

腹違いの姉妹と言われた方がまだ納得のいく部類だ。

 

「そういえば文ちゃんのお姉さんって家では何してるの?」

「大体宿題と楽器の練習、かな。引きこもり屋さんだからお部屋から全然出てこないんです」

「お姉さん楽器やってるんだね。何の楽器か分かる?」

「フルートとか和楽器の笛とか……袋からいっぱい笛が生えてるやつ!」

 

3杯目のカレーを早々と平らげた文は杏から普段の姉の様子を聞かれていた。

そこに深い意味はなく、ただ妹から見た姉の像が気になっただけである。

こはねも姉については他の3人よりも知る事は少ない為矢継ぎ早に質問を飛ばす。

本人も音色こそ聞きなれているが楽器の名前は記憶から飛んでいた。

 

「へー、家でも練習してるんだ……ってことは家の人も知ってるんだね」

「うん。あ、でもわたしが踊り手してるのは秘密ですよ! お姉ちゃんにも秘密にしてるんで!」

「……? 別に知られたってアレになら気にすることないだろ」

「お姉ちゃんのこと何も知らないのにそんな口利かないでくれます?」

 

あの性格なら妹でも友人でも、やっていることに口を挟まないだろう。

伊達に彰人も半年間ほどクラスで彼女を見てきているわけではなかった。

 

しかしその発言を受け睨みつける文。年上の青年であってもお構いなしだった。

その眼光の鋭さたるや、中学時代の絵名と彷彿とさせ思わず震え上がる。

 

「……悪い」

「もー、冗談ですよー! そんな怖がらないでください」

「いや絶対冗談じゃないだろ」

 

冷汗をかきつつふとこはねの方へと目をやれば、対象が違うのにも関わらず飛び上がっていた。

 

「そういえば文ちゃんはイベント出たりしないの?」

 

一方で露知らずと杏がふと話題を振る。

あれほどの演技力であれば十分やっていけると思ったのだろう。

 

「動画の方で失敗しちゃったから、しばらくはいいかなーって。

 まだ人に見てもらうほど大したものじゃないんで」

「そ、そんなことないと思うよ!」

 

そう言って立ち上がったのは意外にもこはねであった。

 

「踊りなんて私じゃあんな動き出来ないし、歌だって全然ブレてないし、それにそれに」

「あはは、ありがとー。やっぱりこはねちゃんは凄いね。

 でもわたしはまだ夢もなんにもないし、そんなので人前に立っても意味ないかなって」

 

いまだ漠然とした状態で人に見せても、また非難の嵐を受けるだけだとカップを傾ける。

ポジティブな彼女ではあるものの、自分のやりたいことが見えない分弱気になっていた。

 

「意味があるかないかなんて、最初から分かる奴はいないだろうさ」

 

そういって追加注文していたデザートを差し出す謙。

対する文は思いがけぬ人物が会話に入ってきたことに目を丸くする。

 

「それに何にも挑戦しないまま変われるわけもないだろう」

「挑戦、ですか?」

「ま、そのあたりに関してはオレなんかよりよっぽど頼りになる先輩に聞いてみることだ」

 

その言葉を最後に店奥に消えていく。

行く当てのなくなった質問を投げようにも、誰に向ければいいか分からない。

戸惑った様子で4人を見れば、杏がこはねの背中を押す。

 

「ほらこはね、友達が悩んでるなら力貸してあげなきゃ」

「う、うん。文ちゃん、あのね──」

 

こうして少女は語りだす。自分が今ここにいる理由を。

 

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