家に帰った文はベッドの上に寝転がる。思い返すのはこはねが語っ本当の想い。
『杏ちゃんと一緒に、歌いたい。
それで、杏ちゃんと……皆と一緒に『RAD WEEKEND』を超える最高のイベントをやりたい!』
その表情は真剣そのもので、以前観覧車で見た小動物の様な可愛さは感じられなかった。
「皆、かあ」
あの場所にいた4人は1つの夢に向かって歩き出している。
未だ道の見えぬ少女からすればそれは尊敬すら値するものであり、
また自らの小ささを実感するものでもあった。
自分も気の合う仲間が居れば少しでも変われるのだろうか。
現実でも仲間の存在は大きい。若ければ若いほど猶更である。
文にも友達がいないわけではないが、この踊りを共にする者は居なかった。
『もしよかったら、来てくれると嬉しいな』
そして別れ際に渡されたのは今度4人が今度参加するイベントのチケットが2枚。
姉の分もと渡されたわけだが、悩んでばかりで誘うに誘えない。
部屋にはいるらしいが、笛の音が聞こえてこない所を見るに勉強中なのだろう。
大好きなミクの曲も考え事のせいで聞き流してしまっていた。
「とりあえず、甘い物でも食べて考えよーっと」
考え事をしていれば糖分を要求するという。
燃費の悪い文であれば猶更で、何か残り物が無いかと食卓へと足を向けた。
「叔母さーん、お菓子の作り置きとかってない?」
「あら文ちゃん、ちょうどよかったわ。言葉ちゃんを呼んできてくれる?」
そういいつつ台所でケーキを切り分けている叔母の姿があった。
晩御飯は要らないと連絡していたものの、ケーキはちゃんと4人分である。
思わず飛びつきそうになるも叔母から言われたことを優先し階段下から声をかけた。
「お姉ちゃーん! ケーキあるよー!」
「うん、すぐ行くから待ってて」
言葉にしては珍しくすぐに返事をして姿を見せる。
宿題のキリがよかったのだろうか、と文は首を傾げるも甘い誘惑の方が強かった。
皆が腰を掛けたところで早速食べ始める。
話題として挙がるのはWEEKEND GARAGEでの出来事。
文としては晩御飯を断ってまで入り浸ることは珍しく、叔父と叔母の興味を引いた。
そんな中で言葉は口を挟むことなく静かに聞いている。
「あ、そうだお姉ちゃん。これ」
「イベントのチケット? どうしたの、これ?」
「友達がそのイベントに出るからよかったらって! ほら、お姉ちゃんの友達も出るし!」
「そういえば白石さん、小豆沢さんが相棒って言ってたっけ……」
神高祭の時も仲睦まじげであったことから、世界は広いようで狭いのだと実感する。
言葉からすれば友人というより知人ではあるのだが。
「今は4人で色んなイベントに出てるんだって。
確かグループ名はビビっとババっとすくっと……だったっけ」
「どうして全部擬音……それって『Vivid BAD SQUAD』だったりしない?」
「そうそれそれ! お姉ちゃん何で知ってるの!?」
「知ってる、というより多分発音でそれかなって」
その名前もついこの間に青年達のユニットに絡まれた際知ったもので、
メンバーがどういった人物なのかは想像もしていなかった。
今までの話からして、彰人や冬弥もそのメンバーなのだと予測を立てる。
『当然だ。何せオレ達はあの『RAD WEEKEND』を超えるんだからな』
「(あの時はBAD DOGSで2人だったけど、そっか。今は4人でやってるんだね)」
随分と前の出来事だが思い返せば最近のことのように思い出せるあのイベント。
こうして機会を与えられては、あれから彼らがどうなったのか気になるというもの。
「お姉ちゃんどうしたの? ケーキいらないなら食べたげよっか?」
「文は文の分あるでしょ。また怒るよ」
自然と手が止まっていたらしく、文が物欲しそうな目でケーキを見つめている。
イベントに誘うのかケーキが食べたいのか解らないものの、とりあえず咎めておく。
「ねえねえ、叔父さんも叔母さんもいいでしょ?」
「そうね、文ちゃんだけなら心配だけど、言葉ちゃんが一緒なら問題ないかしら」
「そうですね。文さんも最近は調子がもどってきたようですし、
言葉さんが一緒なら問題ないでしょう」
「むー、わたしも今年から高校生だよ? お姉ちゃんが居なくてもしっかりできますー!」
一応2人とも少女ではあるだがやりたいことを優先してくれるため、ダメとは言わなかった。
とはいえまだまだ未熟な所も見え隠れしているせいか、心配はしてくれている様子で。
それに納得のいかない文は頬を膨らませながら反論していた。
「ほらほらお姉ちゃん、2人も良いって言ってるよ!」
「そこまでいうなら行ってみようかな」
「やったー!」
妹がひっかきまわしてばかりではあるが付き合う以上満更でもないのだろう。
やれやれといった表情でチケットを受け取る言葉であった。