荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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第8話「私の隣に立つ者は」

「じゃあ、私がKAITOのパートで、文がミクのパートでいい?」

「うん! むしろラップだけど大丈夫?」

「まあ、そこはやってみせるよ」

 

ステージ裏。

音源は文の手によって既にスタッフに渡されていた。

幸いにもお互いに知る楽曲であり全くの未経験ではない。

 

言葉は耳コピの為に楽曲を、文は振りコピの為にライブの映像を、穴が開くまで見聞きする。

突然の予定変更にスタッフもせわしなく動いていた。

 

やがて会場がかつてない歓声に包まれる。Vivid BAD SQUADが歌い終えたらしい。

それを肌で感じた姉妹は意を決しイヤホンを耳から外した。

 

「文、行けそう?」

「もっちろん! お姉ちゃんこそ圧倒されて演奏忘れないでよね!」

 

意味までは察せ無くとも、体験入学後から明るさと活発さに磨きがかかっていることは知っている。

これから何が起こるか予想がつかないが、その自信に賭ける価値は十分にあった。

 

『では次は……っと、ここで飛び入りゲストの登場だ! 頼んだぜ!』

 

パンフにもない突然の出来事にざわめく観客。それを畳みかけるように姿を見せる2人。

 

「あっ、あれ笛の子じゃねーか」

「でもあの隣は誰だ? 初めて見るぞ」

「もしかしてユニット組んでたのか?」

「でも、あの子のジャンルじゃ盛り上げるの無理だろ」

 

言葉を知る者は少なくないが、まったくの初見の人物に戸惑いの声が上がる。

特別ゲストと言われ期待感が高まっていたにも関わらずこの仕打ちでは興ざめもいい所。

 

「音響さん! MC出来ないんで早速曲流しちゃって下さい!!」

 

文の合図とも言えない声と共に独特のシンセの音色に乗せダンスチューンが流れ始める。

メインメロディに合わせて合いの手とラップを刻む言葉。

ミクのパートを歌うとともに1人用にアレンジした振り付けを踊り舞う文。

ギターのメロを篠笛で奏でてみせる言葉がバックに続く。

 

「おい誰だよ盛り上げるの無理だって言ったやつ!」

「あの赤髪の子のダンスすげぇ、初めて見るが相当の練度だぞ」

 

片や幼い頃から感覚と腕を磨いてきた演奏家。もう片方は企業案件をいくつも蹴ってきた踊り手。

それでも初めて故のぎこちなさは残っており、他の面々よりはノれなかった。

 

言葉は文の思わぬ特技に目を丸くしつつ、後押しするために段々と調子を上げていく。

そして文は誰よりもこの場を楽しんでいた。大好きな姉の旋律の隣で自らの踊りを披露する。

誰かの大好きになるよりも、自らの大好きに酔いしれていた。

 

「……!」

 

しかし、そうは問屋がおろさない。サビの終わりで唐突に篠笛の音色が途切れる。

長年ロクなメンテナンスも無しに使い続けたガタがここで出てしまったのだ。

音源に問題はないものの急なトラブルは不安要素となって、文に、そして観客に伝染する。

 

「どうした? トラブルか?」

「せっかく盛り上がってきたのに」

「(お姉ちゃん……!)」

 

焦りはしないが思考が止まる。このまま無しで突き通すには無理があった。

文も自分のパートを無視してまで声をかけることはできない。

 

「その程度で止めんじゃねえ!!」

 

ステージの下手から喝が飛ぶ。何事かと視線を向ければ影から見守る4人の顔がそこにあった。

恐らく彰人の声だろう。まだ会場にはVivid BAD SQUADが残した熱がある。

所詮中継ぎに為に利用されるだけであっても、それだけはやり遂げたい。

そしてなにより、必死に場を持たせている妹の為に自分が出来る事は1つだけだ。

 

笛を下げ手ぶらになってもなお、その音色は途切れない。それは自然と見についた特技。

 

「口笛……!」

 

奇しくもその音色は似ているため、さほど違和感は生まれない。そしてなにより──

 

「──♪ ──! ──♪ ──!」

 

掛け声と演奏の切り替えが段違いに早い。

1番のサビでは見送っていた合いの手も2番には間に合わせてみせた。

それによってさらに後押しされた文も先ほどより活発な振り付けへと変わっていく。

言葉も篠笛用のマイクを手に取り、

軽快な足取りと空いた片手で出来る限りの振り付けをして見せ、観客を盛り上げに努めた。

 

「なんか、空気変わったな」

「ああ、面白いじゃん、この2人」

 

多少空回りしていても、元々あったまっていた会場だ。それに観客がノらないわけがない。

次第に場の空気を取り戻し、それに応えるように言葉の音色が研ぎ澄まされる。

姉の音色が研ぎ澄まされれば楽しくなって文のパフォーマンスも派手さを増していく。

 

曲が終わる頃にはVivid BAD SQUADまではいかないものの、

場の空気を保ったまま次のユニットへと繋げることが出来た2人であった。

 

 

 

「2人ともお疲れ様ー! ホントに助かったよ」

「文ちゃん凄く良かったよ!」

「えへへ、ありがとー! これもこはねちゃんのお蔭だよ!」

 

ステージを降りた2人を真っ先に出迎えたのはこはねと杏。

そんな2人に駆け寄って喜びを表す文は満面の笑みを浮かべている。

 

「お疲れ委員長。ま、ぶっつけ本番にしてはよくやった方だろ」

「そういいつつ、彰人が一番応援していたが」

「当たり前だ。オレ達の繋ぎに入ったからには、嫌でも盛り上げてもらわないとな」

「東雲君も割と無茶言うよね。でも、ありがとう」

 

彰人の言葉が無ければ彼女はあのまま何もなしに続行していただろう。

人から受けた期待にはしっかりと応える言葉にとって、いい発火材になった。

 

「それじゃあ、私達はこれで。文、行くよ」

「あれ、最後まで残らないの?」

 

基本的にイベントの最後にはどこが一番盛り上げたか、という発表がある。

初めてイベントに参加した彼女達は知らないのか、そのまま後にしようとしていた。

 

「今日は流石に疲れたから、早く帰って家でゆっくりしたいかな」

「あはは、わたしも無茶しすぎたかも。皆もまたねー」

 

返事を待たずにその場を去っていく鶴音姉妹を見送る4人。

 

「鶴音さん、また良かったら参加してよ! 私達も待ってるからさ!」

「文ちゃんも、また一緒にイベント盛り上げようね!」

 

そんな背中にかける2人の言葉。

一方は背を向けたまま手だけ振り、一方は見えなくなるまで友人の顔を見て手を振って応える。

どこまでも対照的な姉妹の、一夜限りの奇跡はこれにて幕を閉じるのであった。




大江戸ジュリアナイト/Mitchie M

ご無沙汰しております、kasyopaです。

事後報告となりますが、お陰様でこちらの作品でも赤帯を頂き、
お気に入りも50件となりました。本当にありがとうございます。
読み上げ機能も使えるようになりましたので、随時読み間違えなど洗って適応していきます。

というわけで、第2回ユニット絡みアンケートで選ばれたのは「Vivid BAD SQUAD」でした。
ビビバスといえばWEEKEND GARAGEと謙さんにも出てこないとなー、
と思いつつ執筆させていただきました。

サイドストーリーをこちらも6話設けておりますので、
もう少しだけお付き合いください。

現在実施中のアンケートに関してはビビバス編が完全に終わってからの投稿になります。
ご了承ください。

誤字報告、感想もお待ちしておりますので、もし宜しければお願いします。
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