複雑怪奇な間柄 前編
イベントは熱気の冷めぬまま幕を閉じ、Vivid BAD SQUADの面々はWEEKEND GARAGEを訪れていた。
「でももったいないよね。最後に名指しまでされてたのに」
「そうだね。文ちゃん知ったら悔しがりそう……」
最も会場を盛り上げたとしてVivid BAD SQUADが祝され、
合わせて健闘した鶴音姉妹が呼ばれた。
しかし2人は既に帰路へついており、残された者達の気まずさたるや筆舌に尽くし難い。
一応その内容で連絡したものの既読が付くことはなかった。恐らくシャワーでも浴びているのだろう。
「しかし姉妹とはいえ共演は今日が初めてだったんだろう? それであそこまで練り上げてくるとは」
「オレ達とは逆なんだろ。『勢いだけで技術がない』ってやつの」
「……なるほど、そういうことか」
BAD DOGSを組んだ頃に客から言われたことだ。
それから2人は呆れるほど練習に打ち込み見返すことに成功する。
彼女達はその逆。『技術は達者だが勢いがない』。
それを曲の雰囲気と彼らが残した熱によってなんとか誤魔化しただけだ。
いざ彼女達の演奏を聴こうと身構えれば肩透かしを食らうだろう。
「でも、やっぱり私達のステージ見てほしかったよね」
「あー……それはまたいつか機会があるだろ。これで満足して終わり、なわけないしな」
「これからもイベントに参加していれば、また誘う機会も出来るだろう」
「そうだよこはね! RAD WEEKENDを超えるからにはもっともっとイベントに出ていかないとね!」
「うん、そうだよね。私も、頑張って文ちゃんくらい歌って踊れるようになれたら」
目を閉じて踊り舞う文の姿を思い浮かべるこはね。
ダンスに関しては恐らくあのイベントの中で上から数えた方が早い程の出来栄えだっただろう。
歌に関してはそうとは言えないが。
「いやなにもあそこまで行かなくてもいいだろ。何より歌なら負けてねえんだから」
「あっれー彰人、今日は珍しく素直じゃん?」
「いちいち突っかかってくんなって……はあ」
珍しく褒めたことで杏がにやけ顔で迫ってきて、誤魔化すようにカップを傾け視線を外す。
それに他意は無くとも、いつもの彼らしからぬ言動であるのは確かであった。
「そういいつつ、彰人も今回は張り切っていたからな」
「あ、だからあの時声かけたのも……」
「あーうるせえ。冬弥も余計な事言ってんじゃねえって」
言葉がトラブルに見舞われた時、真っ先に動いたのは彰人だ。しかし理由は音が途切れたことにある。
それはVividsが結成して初めてのイベントで起きたトラブルと似ていた。
自分が引き起こしたわけではないものの、知り合いが起こしたとなれば責任感はある。
こはねのように意気消沈してしまえばそれこそ二の舞。
人の未来が、外的要因で潰れる瞬間を見たくない。
何より未来を無理やり切り開いてきた彰人だからこそ、出た言葉であった。
「おーいお前達、おしゃべりもいいがもうすぐバー営業に切り替えるぞ」
そんな談笑にカウンターから割って入ったのは謙であった。
WEEKEND GARAGEは夜にカフェからバーに切り替わる。
未成年である彼女達がいてよい場ではなく、
また本来手伝いをしている杏も出来る事が少ない為家に帰るのが常であった。
「あ、父さん。そういえば1つだけ質問いい?」
「ん、なんだ突然」
このまま解散の流れになるか、という時杏が何か思い返したように声をかける。
「この前、随分と厄介な奴に関わってる、って言ってたけど、あれどういう事?」
言葉がこの店を訪れた日、謙は確かにそう口にした。
「今それを蒸し返すのか? 別に流しても問題ないだろう」
「まあ、一応友達だし。気になることは気になるかなって」
杏も随分と周りの噂や空気の変化には鋭い。そして何より彼女の過去を知っている。
それを父である謙は何も知らないながらも、的を射るかのように指摘した。
自然と話す雰囲気になるため、他の3人の興味もそちらの方へと移っていく。
「単刀直入に言うが、彼女には何もない、というべきか」
「何もない……ですか?」
こはねの問いと、その言葉に少しばかり思い当たる節がある彰人と冬弥。
彼女がこの場で奏でた1曲目。それは決して明るいものではなかった。
ビビッドストリートで奏でれば客が逃げそうなもの。しかし技量だけは確かなので魅せられる。
「でも、今日入ってくれた時はそんなこと全然なかったけど」
「それは誰かにリクエストでもされたか?」
「あ、いえ! その時は妹の文ちゃんと一緒でした」
「文……ああ、あの子か」
謙からすれば、ここにいる常連の4人のうち1人しか食べられないという新メニューを、
まるで人生最高の一皿のようにおいしく食べてくれたのは記憶に新しい。
声は大きい方だが、特に気になるほどでもなく活気のあるもの。
店からしてみれば上客以外の何者でもない。
「なら、少し例え話を使った方が解りやすいか」
そういって身近な席に腰を掛ける謙。今夜の彼の話は少しばかり長くなりそうだった。