荒野の少女と1つのセカイ   作:kasyopa

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星4 白石杏 サイドストーリー後編


複雑怪奇な間柄 後編

「例えるなら……お前達、ポーカーは知ってるな?」

「知ってるけど、なんでポーカー?」

「確かトランプで出来る賭け事、だっけ」

「ああ、配られた5枚のカードで相手より強い組み合わせを作った方が勝つゲームだ」

 

そんなに単純なゲームではないのだが、杏は名前だけ、こはねも詳しいことまでは知らない。

しかし生真面目な冬弥が知っている、というのは意外であった。

 

「お前そんなことよく知ってんな」

「最近ゲームセンターで見かけたんだ」

 

待ち合わせの時間潰しや暇潰しにゲームセンターをよく利用している冬弥。

基本的にUFOキャッチャーをプレイするものの、

新しく入ったゲームなどは目に付くようになっている。

 

「全員知ってるようだから続けるぞ。まず言葉の方だが、基本的に席に座ろうとしない」

「は? それだと勝負も何もないじゃないですか」

「そうだな。だが、それが本来の彼女だ。思い当たる節はあるんじゃないか」

 

『? イベントにも出る気が無いって、じゃあ何のために音楽やってんだよ?』

『それは秘密』

 

そういわれて彰人は考えるまでもなく、彼女の台詞を思い出した。

相手を選ぶようにのらりくらりと交わすやり取りは嫌でも覚えている。

 

「そんな彼女でも、席に着く時がある。なんだかわかるか?」

「誰かにお願いされた時、ですね」

 

この場でリクエストした冬弥も、少しずつ彼女の在り方が見えてきたように思える。

 

「そうだ。後は恩を売られた時か。しかも望めば自分の技量で出来る限りの勝ちを取ってくる。

 そして分け前は依頼者が10で自分が0、といったところか」

「……なんだよそれ。勝てるなら総取りすりゃいいじゃないですか」

「それが否が応でもしない。何とも独りよがりだがな」

 

彰人はそれに対して苦虫を嚙み潰したような顔をする。

自分の才能を、他人に利用されるがままの少女がそんな身近にいて、

少しでも気に掛けた自分が愚かに思えてくる。

 

「あ、でもそこは望む分だけ勝ってくる、とかじゃないんだ」

「当たり前だ。それが出来るのはそれこそ彼女の妹の方だ」

「えっ、文ちゃんが……?」

 

ここで予想外の人物の登場に目を丸くする一行。

しかし答えが気になる為感嘆の声くらいしか上げなかった。

 

「妹……文、だったな。あの子はあの子で無意識に強い手を引き込むんだろう。

 それでも、役の意味を知らない。それで勝てることも、ましてや掛け金の意味も知らない」

「じゃあ、もしディーラーさんが悪い人で、掛け金を渡さなかったら?」

「そういうものと納得するだろうさ」

 

自分で楽しむ分ならば、それだけでも問題ないだろう。

しかし賭け事で勝てなければ得られる物はない。

勝っていても帳消しにされる様な者など、食い潰されるのがオチである。

 

「そういう意味では姉妹揃って似た者同士だ。

 何があってそうなったかは知らんが、気にしすぎると引きずり込まれるぞ、杏」

「えっ、私?」

「お前以外に誰がいる。他の3人も気をつけておくんだな。

 人の人生に首突っ込むと、火傷じゃすまないもんだ。相棒のことならまだ分かるが、な」

 

まだ自分の相棒のことすら真に理解し合えてない上で誰かの心配をしては、両方が破綻する。

それを指摘しているのだと諭されているようで、同意しか出来ない4人であった。

 

 

 

「それじゃあ、この辺で」

「うん、東雲君も青柳君も、またね」

 

本格的にバー営業の時間となる為、店を追い出されるように出た4人はそれぞれの帰路につく。

こはねと杏は2人と別れビビッドストリートを歩いていた。

 

「はぁ、まさか父さんがあそこまで言うなんて思ってなかったなー」

「鶴音言葉さん、だっけ? 杏ちゃんと同い年なんだよね?」

「うん、それも彰人のクラスの委員長。すっごい優等生で人気なんだけど……」

 

いざ言われてみれば、そう思い当たる節が無いわけでもない。

 

後から聞いた話によれば、

バレンタインには態々クラス全員とお世話になった人全員に、チョコを配っていたらしい。

義理堅い誠実な人かと思われたが、恩返しを果たすために機会を利用した、ともいえなくもない。

杏には当初の予定としてなかった様子だが、そこはご愛嬌というものだろう。

 

『やっぱり、真面目な人ほど苦労してるのかな』

 

神高祭が終わってから友人である瑞希が零した言葉。

その時言った言葉は、無責任だったのではと今でも思えてしまう。

 

「でも、だからかな。今日のイベント、盛り上げられたのって、2人一緒だったから」

「? それってどういうこと?」

「何にも知らない文ちゃんでも、鶴音さんが教えてあげたら、勝負に勝てるのかなって」

 

あいにく、こはね達がいるのは1対1の賭場ではない。1人で出来なければ頼ればいい。

お互いに持っていないものを埋め合えば、勝つことが出来るのでは、と。

 

「言われてみればそうかも。あの時の楽しそうな鶴音さん、私も見たことなかったし」

「私も、あんなに嬉しそうな文ちゃん見たことなかったから驚いちゃった」

 

ステージの上に立つ自分達も、他の人が見ればあんな風に見えているのだろうか。

なんてことを思いつつ道を歩いていると、道端に寄りかかっていた一人の少女が躍り出た。

 

「Vivid BAD SQUADのメンバー、とお見受けする。少しいいか?」

「はい、そうですけど……」

「今回のステージ、見させてもらったぞ。本当に、本当によかった」

 

街灯を吸って輝く真っ白な髪が特徴的だった。

大きな瞳は真っ赤に染まっており、肌も白く見える。

外見からしてアルビノのそれであった。

 

断る理由もない為、首を縦に振ればにっこりとほほ笑んで口を開いた。

 

「それでその、なんだ。君達の後に出ていた2人についてなんだが……」

「……? もしかして鶴音さんの知り合い?」

「鶴音! やはり、あの2人が……」

 

やっぱり、といった顔で声を張り上げたと思えば、顔を伏せ微かに震える少女。

 

「ふふふ……ようやく、ようやく掴んだぞ……」

「え、えーっと、あなたは?」

「我が名は雲雀(ひばり) 千紗都(ちさと)

 遥か西の地より審判者を追い求め、このシブヤの地にやってきた者!」

 

明らかに不味い雰囲気の人物に声をかけられたと、思わず苦笑いを浮かべる2人。

一方で矢継ぎ早に質問を飛ばす千紗都。

 

「おっと失礼。話は変わるが、あの2人はよくイベントに出たりはするのか?」

「あー、今日は助っ人かな。でもまあ、鶴音さんなら週末にたまにこの通りで演奏してるから、

 本人に何かあるならその時に話したらいいんじゃない?」

「ふむ、そう簡単にはいかんか。情報感謝する。それでは諸君、さらばだー!」

 

そう言って高らかに笑い声をあげながら立ち去っていく少女。

その小さな姿は人通りの中へと消えていった。

 

「何て言うか……その、すごい人だったね」

「そうだねー……鶴音さんに用があったみたいだけど……」

「もしかしてファンの人だったり?」

「あー、それあるかも」

 

そんなことを話しながらも、2人の少女はやがて別れ、自分の家へと帰る。

かの少女が何をもたらすかなど、今の2人にとって知る由もない。

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