一方その頃、2人と別れた冬弥は彰人と共に帰路についていた。
「クソッ……」
しかし彰人は謙の話を聞いてから不機嫌である。
それは自分よりも音楽の才があり、1度でも自分達と同じ場に立った相手が、
ただの
赤信号で足を止めれば、以前話していた事を思い出す。
『ん? イベントにも出る気が無いって、じゃあ何のために音楽やってんだよ』
『それは秘密』
そうやって言葉を濁したのは、きっと彰人の想いに気づいていたからだろう。
彼女が見たのはBAD DOGSの頃であったが、
その時の方が良い意味でも悪い意味でも尖っていた。
一個人としての想いが伝わりやすかった。
「…人」
それでも、Vivid BAD SQUADの後でありながら会場の熱を保って見せた。
それは姉妹揃っての技量によるものだと嫌でも理解している。
だからこそ彰人にとって許せなかった。
それほどの才をもて余す人物が、迫ってきているという事実に。
「彰人」
「なんだよ冬弥。今考え事して……」
「もう青になっている。渡らないのか?」
冬弥に呼ばれて顔を上げれば、歩行者信号が青になっていた。
交差点は人で溢れており、変わってからそこそこ時間がかかった事が見てとれる。
「ああ、すまねえ」
「もしかして、鶴音のことか」
「……ああ」
相棒に対して、今さら隠す必要はない。その問いに首を縦に振って答える。
『何があってああなったかは知らんが、気にしすぎると引きずり込まれるぞ』
「(このまま1人で考えても仕方ねえか)」
引きずっていては、以前の冬弥のように歌に出るかもしれない。
それ以前に顔に出ているだろう。
謙の言葉を思い出しつつ、割りきって話すことにした。
「冬弥、お前にはあのステージどう見えた?」
「そうだな……まだまだ荒いところもあるが、センスは悪くなかった。
それに何より、お互いを高め合ういいものだった」
冬弥にとってあの2人はセンス以上にお互いをよく知っていて、それに応えていた。
ラップ勝負でお互いをリスペクトしつつ、会場を盛り上げるものに似ている。
「お互いを高め合う、ねえ」
相棒とはそういうものだが、それ以前に姉妹である。
それを知ったのも最近だが、ライブが終わった後の2人を見る限り仲が悪いわけではないだろう。
それでも、言葉本人の考えは変わらない。
「それでも、あのままなら委員長が足を引っ張るだろ」
「それもないとは言えないが……」
ふむ、と考え込む間に分かれ道へとたどり着く。ここから先は彰人と冬弥も別方向だ。
「悪い、最後までこんな話してよ」
「いや、気にするな。……そうだ彰人、明日空いてるか」
「ん? 確かに空いてるけどよ。どうした急に」
「ちょっと付き合ってほしいところがある」
別れの挨拶を告げ、立ち去ろうとしたところで明日の予定を訪ねる冬弥。
休養もかねて休みにしていたが、どうやら別件の用事があるらしい。
答えを聞かぬまま了解した彰人は、今度こそ自宅へと足を向けた。
・
・
翌日。彰人と冬弥の姿はストリートのセカイにあった。
「付き合ってほしいって言ってここはねぇだろ」
「だが、今の俺達にとって必要だと思ったからな」
なんとなく嵌められた気がしなくもないが、
確かにcrase cafeにいるバーチャルシンガーなら面白い答えが聞けるかもしれない。
「いらっしゃい、2人とも」
「こんにちわ」「メイコさん、どうも」
「いらっしゃい。今日は2人だけで来たんだね」
「(今日もリンとレンはいない……か)」
ベルを鳴らしながら店内へ進めば、いつもの2人が出迎えてくれる。
今の彰人にとってもっとも望んだ人物でもあった。
店内を見渡す仕草から、ミクが彰人に声をかける。
「2人に会いたかったの? さっき出ていったからしばらく戻ってこないと思うけど」
「いや、今日は大丈夫だ。むしろミクがいてちょうどよかった」
「メイコさん、コーヒーを2つお願いします」
「はーい。ちょっと待ってて」
わざとらしくミクの近くを選んで座る彰人と、
それに続いて腰を掛ける冬弥。
2人が会話をしている間にメイコへ注文を飛ばしていた。
「それで、私に用があるっていうのは?」
「オレの知り合いの話なんだが……」
「彰人の知り合い……へえ、聞かせてよ」
今まで相棒の話か音楽の話ばかりだった彼が、初めて別の話題を振ってくる。
それだけでもミクからすれば興味の対象であり、聞く理由としては十分すぎた。
割と乗り気な彼女に対して、やっぱりミクらしくないと思いながらも話を進める彰人。
その話が終わったのは、メイコがちょうどブレンドコーヒーを差し出した時であった。
「なるほどね」
話を聞いている間は視線を外さなかった彼女。
終わってみれば案外さっぱりと返事を返し、視線をカップへ移す。
片手でカップを揺らしながら、コーヒーの水面を眺めていた。
「それで彰人はその子にどうして欲しいのかな?」
「どうって、そんなの決まってるだろ。
半端な覚悟すら無かったら後悔するって話だよ」
それはかつての相棒が陥ったこと。
隣に立つのは相応しくないと、黙ってそばを離れていこうとしたこと。
以前の彼なら「そんな覚悟も無しにステージに立つな」とまで言っていただろう。
そんな経験から多少丸くなったとも言える。
「──でも、本当にそれだけかな」
再び彰人の顔を見てミクが口を開く。
その表情はいつになく真剣なもので、心の内をも見透かさんという鋭いものだった。