「本当にそれだけって、どういう意味だよ」
その問いに対して、問いで返す彰人。
流石に難しすぎるか、とミクは補足のように言葉を続けた。
「冬弥のことならともかくそこまで必死になるなら、なにか別の理由があると思うな」
謙とは真逆の答えに少し考えてしまう。
別の理由がある。本当の想いに気付けていない、というように。
挑発的な態度ではあったが、それを聞いて黙っていられない彰人を理解しての言葉選びだった。
しかもこれは彼女のことではなく、自分のことだ。
自分の中でなにか気がかりになる理由があり、それが足を引っ張っている。
彰人はもう一度、あのステージを思い出す。
『その程度でめげんじゃねえ!!』
笛の音色が止まってしまったあの時、唯一声をあげたのは自分だった。
外的要因があったとはいえ、それで終わってしまうのはゴメンだった。
それからは期待に応えるように、あのステージは良いものへと昇華した。
「……ああ、なるほどな」
「何か分かった?」
「リスペクトしてたんだよ。あの2人に」
店で言葉の音楽を聞いた時も。公園で文のダンスを見た時も。
彰人が知らないだけで、まだまだこんなやつらがいるということを知った。
それだけの価値があったし、それ故に彼女達の意思に反して潰れるのは見たくなかった。
だからこそ、Vividsと重なって見えたのかもしれない。
「リスペクトか。確かに表現こそ違うが考えさせられることも多い」
「だろ。でなきゃあそこまでしねぇっての」
1つの単語に反応する相棒へ、声をあげた理由をほのめかす。
いつしか2人の表情は柔らかいものへと変わっていた。
「その、なんだ、ありがとな。話聞いてくれて」
「ううん、私も面白かったし気にしなくていいよ。
それよりそっか、リスペクトしてるってことはここから先大変だね」
「大変、とはどういうことだ?」
感謝の言葉を伝えても、以前として態度が変わらないミク。
冬弥の問いにコーヒーをわざとらしく飲んでから話を続けた。
「だって、その子達もこれから続けていくんでしょ、音楽」
「いや、それはどうかわかんねーけど……」
「あれ、そうなんだ。もったいないな、せっかく彰人達のいいライバルになるって思ったのに」
「ライバル……ね」
『あんなイベント、一緒に作り上げてくれる仲間がいなけりゃ到底作れないからな』
いつか冬弥に向けて語った台詞を思い出す。
もし彼女達がまたも同じステージに立つことがあれば、
お互い会場を盛り上げていくことだろう。
そして対戦形式なら、相手としてぶつかることもあるかもしれない。
そうしてお互いを高め合って初めて、最高のイベントが作られる。
RAD WEEKENDを越えるには、まだまだ足りない要素が多すぎた。
『人に聞いてもらった方が成長できるから、かな。
ここの人達は音楽、好きでやってる人が多いから』
ああ言っていたということは、言葉もまた音楽が好きなのだろう。
ジャンルこそ暗いものではあるが、そこは変わらない。
「ならひとつ、試してみるか」
ひとつの案が飛来した彰人はニヤリと広角をあげ、悪い顔をするのであった。
・
・
週末の休みが終われば当然学校がある。学生の本分は勉強だ。
といっても授業が終われば各自の自由時間になるわけだが。
「委員長、ちょっといいか」
「ん? どうしたの東雲君」
放課後、教科書を鞄に積める言葉の元へやって来たのは彰人。
その手にある音楽イベントのフライヤーが机の上に広げられた。
「これは?」
「近々開催されるイベントのフライヤーだよ。
初心者でも比較的参加しやすいやつを選んでおいた」
「参加しやすいって、私はまだ出るだなんて一言も──」
「──人に聞いてもらった方が成長できるから、なんだろ。
場数ぐらい踏んどけ」
言い込められてしまい、反論の余地がなくなる言葉。
行き場の無くなった視線をフライヤーに目を向けた。
「やっほー。彰人君に委員長、なにやってるの?」
「げっ、斑鳩……」
「げっ、はないでしょー? ってなにそれ、フェスのチラシ?」
そんな中理那が横から入ってくる。
当然次に移るのは見慣れぬフライヤーであり、その1枚を手にとって眺めていた。
「ねえ、こういうのってDJの人が曲回したりするやつ?」
「それはディスコだろ。全然違ぇよ」
「えー、ちょっと興味あったのに」
「確かに理那の直感なら盛り上げられるかもね」
「ほらー、委員長もこういってるしさー」
「だからってお前が出るのは絶対に、ない」
場をなごませるために思ったことを口にする言葉。
理那もそれに乗っかるように抗議の声を上げるが、
始めから興味のない彼にとっては関係のない話だ。
「とりあえず、ありがとう。文とも相談して検討してみるね」
「ああ、それじゃあな」
「じゃあねー彰人君」
それだけ言い残して、これ以上面倒にならないうちに教室を去る彰人。
教室の外では相変わらず冬弥が待っていた。
「終わったのか?」
「なんとかな。それより早く謙さんの所に行くぞ」
教室の中を覗けば、今も2人がイベントのフライヤーとにらめっこしている。
多少予定は狂ったものの、布石は既に打たれた。
いつかそれが日の目を見るまで、彼らは夢を追い続けるのであった。