スパイウィッチとウォーロックの遺児 作:haguruma03
1.
ガリア共和国
それは欧州西部に位置する歴史ある大国である。
だが1939年の第二次ネウロイ大戦が勃発し、1940年の6月にカールスラントの首都であるベルリン陥落からわずか一月で首都であるパリを守り切れずに陥落した歴史を持っている。
これはガリア軍の装備は不十分なものとブリタニア軍も主力が未着だったためカールスラントから押し寄せるネウロイたちからライン川の防衛が不可能であったのが理由とされている。
その後、ダイナモ作戦により多くの国民が国外に逃げることができたとはいえ、その弊害でガリア臨時政府が乱立してしまうという事態を引き起こしている。
その後1944年の9月に501JFWによってガリアの巣が破壊され、その翌月の10月にガリア全土が解放されている。
ガリアの現在の政治体制は共和制だが、帝政の名残として貴族が存在しており、その中の君主制の復活を望む王権派と共和制派の対立と、一度ネウロイによって国土を奪われた弊害による亡命政府の乱立などが原因で政治的混乱を抱え込んでいる。
その混乱と政治的策謀から生まれた、ガリアを守る新たなる盾である506JFWもガリア国内だけの問題だけでなく、欧州に発言権が欲しいリベリオンとそれを阻止したいブリタニアによる政治的対立も含み、様々な政治的策謀の糸に捕らわれていた。
ガリアの巣が消えてから半月経った1945年3月。
国内で不穏な空気をにじませながらもガリアは復興を進めている。
2.
AM 2:30 ガリア共和国セダン基地
第506統合戦闘航空団A部隊の基地であるセダン基地。
そんな深夜のセダン基地は夜にもかかわらずキャンプファイヤーのように赤々と照らされていた。
それもそのはず、数時間前に格納庫で大規模の爆破が起こり未だにその炎が燃えているのだ。
だがその日も爆発当初から考えると火の勢いは小さくなっている。
その様子をこの爆破事件の捜査指揮を取ることになったガリア諜報部、クリス・キーラ少佐はじっと見つめていた。
すでに格納庫は武装した部下達によって隔離されており彼らによって現場保全が進められている。
爆発が起きたのは、このセダン基地で506JFWのA部隊とB部隊の合同模擬戦が行われた昨日の夜。
それは基地全体が震えるような大きな爆発であり基地の多くの窓ガラスが吹き飛ぶほどであった。爆発原因は不明で、出火場所は複数。それが弾薬に引火して起こったものであるとされている。
幸い死者は出なかったものの合同演習を見に来ていた部外者を含め負傷者多数。
数十日後には506JFWの発足式が行われるというのに、外部の人間が集まるのをまるで狙ったかのように起こった大事件。
この事件は内部の破壊工作が疑われるものの表向きには『事故』として処理され、その責任をA部隊の整備班長が取ることになっている。
内部の破壊工作の可能性が高いことを知っているのは外部の一部の者を除けばA部隊とB部隊の人間だけ。
ただでさえ仲が良くないA部隊とB部隊がこの事を知って、このまま犯人が見つからなければお互いの仲がさらに悪くなり疑心暗鬼に陥る可能性がある。
そんな筋書き通りの結末にキーラ少佐は薄く笑みを浮かべた。
一から百まで計画通り。このまま行けばガリアのため、均衡のためにうまく事が進むことになる。
そんな予定通りに計画が進む様にキーラの口角はつい上がってしまう。
だが、彼女はすぐさまその笑みを正し、次なる算段に考えを巡らせる。
このまま行けば、疑心暗鬼を育てる新たなる要因として、爆破事件当日の午後に到着していた物資に時限性の可塑性爆薬ノーベル808が見つかった事が両部隊に報告される。
そしてその物資に外部の者が接触した形跡がないこと、つまりその物資に接触できた整備班員とA・B両隊のウィッチの中に犯人がいるという流れになり、それはさらに両部隊に不和をもたらすことができる...のだがキーラには一つ気がかりな要因があった。
その要因は先日舞い込んで来た情報。
モナコで起こった、新型ストライカーユニット『浮遊脚』の盗難。
その犯人がガリアに潜入したという情報であった。
新型ストライカーユニットの盗難という大事件なのは代わりないが、それはキーラにとっては関係のないことだった。
だが、それに連動するかのように、ガリアの一部でおかしな動きが見られたという情報が入って来ている。
ただでさえ506JFW関連で忙しいというのに新たな混乱のタネがガリアに撒かれてしまったことにキーラは嫌な予感を隠しきれなかった。
何か、厄介なことになるかもしれない。
キーラの脳裏にそんな直感が浮かび上がっていた。
3.
太陽から燦々と暖かい日差しが降り注ぐ昼間、まだ冬の寒さを微かに残した気温が暖かな日差しと合わさり、人々に微睡みを与え昼寝に誘うような天気のいい日。
そんな気持ちのいい日、長い間放置され半ば自然に帰っているぶどう畑の脇道を茶髪と赤髪の二人の少女が歩いていた。
茶髪をした少女はスキップをしながら先導して周りのぶどう畑を楽しそう見ながら歩いており、もう一人の赤髪の小柄な少女は口にタバコをくわえて、うつむきながら歩いている。
茶髪の少女、『フジコ・ルーガルー・アンウィン』はそんな辛気臭い雰囲気を醸し出している赤髪の少女にニヤニヤと嗤いながら声をかけた。
「どうしたんだいリベリアンもどき?ずいぶん元気がなさそうだネ」
そんな能天気な声に赤髪『ジェイミー・ボンド』は恨めしそうに顔を上げ茶髪を睨む。
「うるさいわよ狼。今日だけで何キロ歩いていると思っているの?疲れるに決まっているじゃない」
その表情は疲れ切っており、口にくわえたタバコもその疲れを表しているかのようにヘニョリとしなびていた。
そんな様子が余計におかしかったのか狼と呼ばれた茶髪がさらに笑みを深める
「それは君がタバコを吸いながら長時間歩いているのが原因じゃないかナ?」
「仮にも追われる身の私たちがこんな白昼堂々と二人で歩いているのだから。タバコ吸わないとやってられないわよ。いつ見つかるか気が気じゃないわ」
ジェイミーはそう言い、自己肯定をする。たとえルーガルーの言うことが正しかったとしても喫煙家としてその発言を認めるわけにはいかなかった。
そんな彼女の様子にルーガルーは自らの髪をつまみ、見せびらかす。
その髪はいつもの彼女の銀髪ではなく茶髪。ルーガルーの固有魔法の効果によって変色した髪の毛がそこにあった。
「此方の魔法があるから見つからないヨ。それにここら辺はガリアの田舎の中の田舎、そうそう追っ手なんて来ないし見付かりっこないヨ」
「田舎だからこそ追っ手は来るのよ。覚えときなさい狼」
「MI6のエージェントのご高説痛み入りまス」
「喧嘩売っているの?……後で休憩するとき買ってやるわ」
「今じゃないのかイ?」
「………うっさい」
ジェイミーは息を荒げながら、ため息をつく
彼女達がいるのはガリア東部にある土地『ヴァランス』
果実、野菜、ワインなどを生産する農業地でありパリとの距離は約570km。
まだまだ麗しのパリは遥か遠くであった。
そんな現実にジェイミーはげっそりと嫌気がさし過去に思いをはせる。
「クソ…リヨンはまだなの…」
「だからあれほど、1日待てば良いって言ったのニ。」
「……うるさい、モナコを脱出してここまで来るのに数日使ったのよ。時間短縮できるなら短縮するに決まってる」
ジェイミーはそう言うと、のっしのっしと足を進め前に進んでいった。
服を調達して着替え、『ルーガルー』の固有魔法を使ってモナコを抜け出し、ガリアに侵入してマルセイユに到着した彼女達が最初に考えたのはパリに行く方法だった。
徒歩では遠すぎ、車を用意するにもあてがない、ストライカーユニットも手にはなく、片足だけの『浮遊脚』も荷物になるからと重要な基板を抜いてモナコの森の中に置いて来てしまった。(本来は基板すら持っていく気はなかったが、いつのまにかルーガルーが抜いていた)
その結果選択された方法が、列車でパリに向かう方法であった。
ガリア奪還からの復興で着々と失われていた路線も復活し、今では主要な都市間の鉄道は息を吹き返している。
だが、鉄道をつかうというのは、多くの人々が集まる場所に行くということであり、多くの人々が集まる場所は追われる身である二人とって避けなければならない場所。
しかし彼女達にはルーガルーの固有魔法があり身体的特徴を変えることができる。
それに加えてあまり時間を掛けすぎてしまうと、今巻き込まれているこの事態がどう転ぶかがわかったものではなかったため、早くパリに到着できるというのなら逃す手はなかった。
だからこそジェイミーは鉄道を使いパリに向かうと言う手段を選択した。
だが結果的に彼女達は田舎道を歩くことになってしまっている。
その理由は簡単。
列車が動かないのだ。
途中までは良かった。二人は列車に揺られパリに向かっていたが、ちょうどヴァランス駅に到着したところで列車が止まったのだ。
その理由は、進路先の線路にて不調が見つかり、その修理の為に1日かかるという。
つまり列車に乗る為には1日、待たなければならない。
だがそこでジェイミーは要らないことに気がついた。
不調が見つかった線路よりも先の駅まで徒歩で行けば、その駅からパリへ列車でいけるのでは?
つまり、ヴァランス駅の次の駅であるリヨン市の駅まで歩けば良い
その考えは間違っていない。確かに次の駅まで歩けば、パリへの列車に乗れるだろう。
ただ間違っているのは二つの駅の距離。
ヴァランス市の駅とリヨン市の駅との距離は約100kmもあるのだ。
ウィッチが魔力を使ってランニングしても十数時間かかるのは目に見えている。
だがそれでも時間が惜しいジェイミーは歩き始め、ルーガルーは観光気分でそれについていった。
それが今から五時間前の話。
そしてその結果が、今の疲れ果てたジェイミーである。
「休憩!」
ジェイミーはそう言うと道の脇に生えていた木に寄りかかった。
木陰は日の下よりも気温が低いものの寒すぎることはなく、木漏れ日がほのかにジェイミーを照らす。
歩き続けて来た疲れも含めて急激に眠気が襲って来るがジェイミーは気力でそれに耐えた。
今ここで寝てしまったらヴァランス駅から歩いて来た意味がなくなり、下手に夜まで寝てしまったら真夜中の行軍をする羽目になってしまう。手持ちに明かりになるものは持っていないため、夜になってしまったら明かり一つない中での行軍を行う事になり、そうなったら一体どんなハプニングがあるかなんて考えたくもない。。
そんなこと、ジェイミーは真平御免である。
「じゃあ、此方も休憩しよっト」
だがそんなジェイミーの気持ちを知ってか知らずか、ルーガルーはジェイミーの横に座るとジェイミーの肩を枕にして呑気に目を閉じる。
まるで悠々自適な猫のような振る舞いにジェイミーはコツンとルーガルーの頭を小突く。
「ちょっと、アンタ。何寝ようとしてるのよ」
そんなジェイミーの態度にルーガルーは一向に目を開けず、ルーガルーは口を開く。
「別に休憩で一眠りしても良いだロ?」
「その一眠りが何時間になるかわからないから注意してるのよ」
「リベリアンもどきは気にしすぎだネ。もっと気楽に生きていくと良いヨ」
「……アンタ、私たちが今どんな状況なのか覚えてる?」
「リベリアンもどきが無茶して歩いて行こうとした結果、疲れて休憩していル」
「…ぐっ」
「もし寝ても、君が起こしてくれるから安心だヨ」
「あ、ちょ、ねぇ!」
ジェイミーはルーガルーの肩を揺さぶるが彼女が一向に気にせず体から力を抜き全く反応しない。
その様子にジェイミーはため息を吐き諦め、そのまま空を見上げた。
空は青く、真っ白な雲が様々な形を成している。
ジェイミーにはこんな平和な空の下のどこかでネウロイとの殺し合いや人類同士の策謀が応酬しているなんて考えられなかった。
優しい風が撫でるかのように木陰で休む二人を通り過ぎる。
こんな日に空を飛ぶと気持ちがいいんだろうなぁ。
そんな思いが浮かぶと、耳に規則的な吐息が聞こえて来た。
ふと顔を横に向けると。そこにはルーガルーが穏やかな表情で眠っていた。
いつもの人を馬鹿にするような笑みではなく幸せそうな表情な寝顔。
こいつも、普段からこんな表情をすれば良いのに。
ジェイミーはそんなことを思いながら彼女を観察する。
ジェイミーにとってルーガルーはよくわからない存在だ。
最初の出会いは殺し合い。
次はネウロイに襲われそうになった瞬間助けられ
その次は共に協力してネウロイを倒した。
最後はモナコ脱出どころか、パリに行くのにも手助けしてくれている始末。
彼女自身のことを聞いても、いつも帰って来るのは嘘の経歴のみ
側から見ても自問しても信用できる相手ではない。
手助けするのには裏があり、いつ裏切るとも知れない相手。
しかし今、彼女はまるで信用しているかのように無防備に寝顔を自分に晒している。
敵か味方か判断がつかない謎のウィッチ。
それがジェイミーにとってのルーガルーだ。
だがそれでもジェイミーは彼女を一応信用しようと決めていた。
諜報員なんて仕事をしていると、いかに信用や信頼が脆く作りやすいものであるかがわかりやすい。諜報員という存在は、情報を得るために、言葉巧みに人の心に寄り添い、他者から信用を勝ち取って行く。そしてその信用を利用して時には様々な情報を抜き取り、時には人々を煽動し、最後には裏切ることが常である。
だからこそジェイミーは、仕事が関わらないならば信用をしてくれた相手に対して絶対に裏切らない事を常にしていた。
それが自らの首を絞めることになろうとも、そこだけは譲れなかった。
ここを譲ってしまうと、今後何を、誰を信用すれば良くなるかわからなくなるという恐れがあるからだ。
「結局、仕事を抜きにすれば私は臆病なだけなのかもね」
ジェイミーはそんな独り言を呟き、少し目を閉じることにした。
大丈夫、意識をしっかり保っていれば寝ることなんてありえない。
そんな考えを巡らせながらジェイミーは体の力を抜き、耳をすます。
すると風の音が木々をゆらし、その葉や枝が優しげな音を奏でるのが聞こえる。
その音はジェイミーに癒しを与えてくれた………
………
……
…
4.
「結局寝てるじゃない私!!!!!!」
ホウホウというフクロウの声が響き、月がきらめく夜。
そんな静かな夜にに使わない絶叫が響く。
「いや〜お互い気持ちよく寝たネェ」
地面に手をつき項垂れるジェイミーを見下ろしルーガルーが楽しそうに笑う。
するとその態度が気に食わなかったのかジェイミーはルーガルーの襟首を掴み激しく揺さぶり始める。
「なにが『いや〜お互い気持ちよく寝たネェ』よ!!今日中にパリに到着するどころか今日中にリヨンに到着できるかわからなくなったじゃない!」
「あはははははははは」
「『あはは』じゃない!」
時刻はすでに8時を過ぎており、すでに日は完全に沈んでいる.
あたりは月明かり以外明かり一つなく真っ暗な道しか見えない。
明らかに不味い状況。
今日中にパリに行くことは不可能になり、それどころか、こんなあたりに人工物一つない田舎道。
二人ともウィッチであるため、獣に襲われても撃退するすべはあるが、それでも明かり一つない夜道を歩くのは危険である。
その後も十数分の間、ジェイミーはルーガルーに思いの丈をブチまけ、一通り感情を発散すると襟首から手を離し、今度はしゃがみ込み頭を抱え始めた。
ヴァランス駅から歩く失敗に加えて、寝てしまうという二度目の失敗。
そんな度重なる自らの失敗にジェイミーは顔を羞恥で真っ赤にする。
あー!何やっているのよ!私!
そんな自問自答をしていると、背後から肩を突かれる。
まるで恐る恐る指で肩を突くというルーガルーらしくない行為に羞恥と後悔で混乱しているジェイミーは猛獣のように怒鳴りながら後ろを振り返った
「何!?」
「ひぇっ!!」
カシャンとランタンが地面に落ち、一人の女性が尻餅をつく。
そこにいたのは茶髪の妙齢の女性。
明らかにルーガルーではない人物がそこにいた。
え…誰?
ジェイミーの混乱している脳がさらに混乱する。
呆然と目を瞬かせるジェイミーの様子にルーガルーがニヤニヤと笑みを浮かべる。
そんな二人の様子に、困惑しながら妙齢の女性は口を開いた。
「あ、あの…私近くの児童擁護施設で働いているものですが…こんな夜中にどうされたのですか…?」
困惑しながらも、ジェイミーとルーガルーを心配するような表情。
こんな夜中の明かり一つない夜道に騒ぐ二人に警戒ではなく心配するというお人好し。
そんな人物が現れた幸運にジェイミーの口から思わず声が漏れた
「泊めさせてください」
「へ…???」
妙齢の女性のさらに困惑した声が夜に響き、それに続いてルーガルーの笑い声が夜を彩っていった。