スパイウィッチとウォーロックの遺児   作:haguruma03

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3話 賞金首と夜の訪問者

1.

 

PM10:22 セダン基地

 

消灯時間まであと30分と少しになったセダン基地。

そんな基地内で、電灯によって照らされた廊下を足早にかける一人の少女の姿があった。

彼女の名はイザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール

第506統合戦闘航空団に所属する空軍少尉である。

ハンチング帽をかぶり長めのコートを着たその姿は、遠くから見れば少年のようにも見え、またその振る舞いも女性的よりも男性的に見える。

それもそのはず、彼女は幼年期に性別を偽り、『アイザック』という名で生活していた時期があったため、そのせいで男性的な振る舞いが板についていた。

 

彼女は明日、506JFWの仲間たちと共に行う劇の最終調整をしていたため自室に帰るのが遅れてしまっていたのであった。

 

理由があるとはいえ、消灯後に出歩いているのが見つかり叱責を受けるのは彼女にとって望むべきものではない。

だから足早に廊下を歩いていたのだが、そんな彼女はふと、進行先に一つの人影を見つけ歩みを止めた。

その人影は掲示板の前で目を輝かせながら掲示板に貼られているものを見ていた。

 

まるでケーキ屋さんのケーキを見る子供のようなキラキラとしたその瞳は純粋な子供のように見えるが、彼女の同僚であるイザベルはその瞳は金に目を奪われた光であることを知っていた。

 

同僚の名は黒田那佳中尉

扶桑皇国陸軍 飛行第33戦隊所属であり、最近506JFWにやって来た軍人で、イザベルの友人でもある。

 

なぜ消灯まであと少しなのに廊下にいるのかはイザベルには分からない。だが彼女が目を輝かせている理由はなんとなく予想がついていた。

このまま放っておいてもいいが、彼女のことだから消灯時間が過ぎてもこのまま、大金のことを妄想して警備員に叱られるまでこの場に止まりかねない。

 

だからイザベルは黒田に一声かけることにした。

 

「どうしたんだい?黒田さん」

 

近づいていたことに気がつかなかったのか、那佳はビクリと体を震わせるとイザベルの方をむいた。

声をかけて来たのがイザベルと認識した那佳は興奮が収まらないかのように掲示板を指差しながら彼女に詰め寄って来た。

 

「ねぇねぇ見てアイザックくん!!この手配書!!」

 

彼女の指し示す先には今日の夕方ごろ掲示板に貼られた一つの手配書があった。

 

その手配書に書かれている犯罪者は、二週間ほど前にモナコで行われた新型ストライカーユニットのデモンストレーションにおいて、軍の目を掻い潜ってその新型を盗み出した少女。

髪は金髪、肌は北欧系の白人であり、身長は小柄。そして何よりウィッチであることが書かれている。

 

そうウィッチなのだ。

今の世ではウィッチならば兵士として駆り出される時代。そんな時代であるのにもかかわらずこの盗人の少女はウィッチであるのだという。

なら考えられるのは元軍人ということになるのだが、それは現在否定されている。

元来、魔力を発現すると政府に必ず登録されるのが各国の常識だが、このウィッチの存在を各国は否定しており、彼女が何者なのか見当もつかないと夕方この手配書を貼り付けていたA部隊隊長であるロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ少佐がぼやいていたのをイザベルは聞いていた。

 

またそれだけでなく、ロザリー隊長がこの手配書に書かれた懸賞金についてもため息をついていたのも覚えていた。

イザベルは手配書に書かれた懸賞金の金額をチラリと見る。

そしてプチ守銭奴である那佳が興奮するのも無理はない数字の羅列を見て乾いた笑いが口から漏れた。

その金額はなんと軽くストライカーユニットを数機買えるほどの金額であったのだ。

 

本来ならばこういった懸賞金がかけられたものは軍の基地などには貼られない。だがロザリー隊長が言うには、この手配書は一部の軍上層部と太いパイプを持つパトロンが軍に『お願い』したものらしく、『お願い』された上層部が各基地にこの手配書を貼ることを命令したというわけであった。

 

そんな命令を、格納庫爆発事件やネウロイ取り逃がし未遂事件などの事件を引き起こし、常に上からのお叱りを受け続けている506JFWの我らが隊長が断れるはずがなく、こうしてセダン基地の掲示板に貼られることになっていると言うわけだ。

 

そんな胃痛を抑えながら語るロザリー隊長の話を聞いた時、イザベルは「まぁ、この基地でこの手配書に興味を持つのは一人しかいないな」と思っていたが、今目の前でイザベルに懸賞金について早口で捲し立てる黒田を見る限り、やはり間違ってはいなかったようであった。

 

「アイザックくん!この人を捕まえたら全額入るのかな!それとも中抜きされたりするのかな!そもそも扶桑人の私が受け取れるのかな!」

 

目を輝かせ興奮がやまない那佳の様子にイザベルは苦笑し、人差し指をたてその指を那佳の口に押し当てた。

 

突然の行為に機関車のように動いていた那佳の口が止まる。

 

「Shhh. 消灯前に騒いでいたらまた姫様に怒られちゃうよ?」

 

イザベルがウインクをしながら忠告する。

それに那佳はコクリコクリと頷いた。

 

「明日はせっかくの劇のお披露目。今日はゆっくり休もうよ黒田さん。それにその手配書の犯人はモナコで事件を起こしたんだ。このあたりまでは流石にこないよ」

 

「う〜ん、そっかぁ…確かに手配書の子が遠く離れたここまで来るわけないよね…」

 

そんなイザベルの言葉に那佳はしょんぼりとする

そんな様子に少々言い過ぎたかなとイザベルは心配するが、すぐに那佳は元気を取り戻しイザベルの手を掴み部屋に向かって歩き出した。

 

「よーし、そうとなれば、明日のためにいっぱい寝よう!」

「わわっ、黒田さん! ひっぱらないで!」

 

元気に快活に歩く那佳に引っ張られイザベルは自室に歩いていく。

 

その後、結局うるさいと姫様に怒鳴られる事になるのを、まだ彼女たちは知らなかった。

 

そして何より、手配書の人物がそれほど遠くない位置にいるなんて気がつくわけがなかった。

 

 

 

2.

 

PM10:46 児童福祉施設にて

 

すでに子供が寝静まる時間帯。そんな時間にランタンの灯りがゆらりと揺らめき、3人を照らしている。

 

そこには、ランタンを持ったジェイミーが、手を繋いだルーガルーとレオに先導して2階への階段を上っていた。

ジェイミーはルカのことをルーガルーに任せるのは少々不安であったが、ルーガルーは予想外なことに子供に対しての対応がうまく、食堂を出てからわずかな時間でレオ少年と親しくなっていた。

ジェイミーは先ほど抱きつき甘えてきたレオをルーガルーに取られたことに少し寂しさを感じながら階段を登る。

 

そんな後ろではルーガルーが今までの旅という前提のホラ話をダイナミックに語りレオの瞳を輝かせていた。

ルーガルーが話すホラ話を聞きながら、聴こえてくる話のあまりの滑稽さにため息をつこうとしたジェイミーは、ふと階段を登りきったところで突然立ち止まった。

 

その様子に、数歩後ろを歩いていたルーガルーも歩みを止める。

 

 

「どうしたんだイ?もしや君もレオのように暗い廊下が怖いだなんテ…」

 

「黙って」

 

ジェイミーはルーガルーの軽口をさえぎると同時に、階段を登りきった先、廊下の窓の横に体を貼り付け窓から外を伺い始めると同時に魔力を解放した。

すると彼女に猫耳と尻尾が生え、それとともに頭に魔力でできたアンテナのようなものが現れる。

 

『魔導針』

それはナイトウィッチたちが使う魔力で作った哨戒レーダーであり、ナイトウィッチたちの夜の目。

熟練のナイトウィッチならば地平線までの飛行物体の探査が可能な他、意識を集中させることにより遠方のラジオの電波や、果てはネウロイの「声」まで聴き取ることが出来るという技術。

 

本来ならば夜の空をネウロイから守るためのそれは、夜の対人戦においてもかなり有用な能力でもあり、今その力がこの夜の児童養護施設にて最大限に有効活用されている。

そんな『魔導針』をジェイミーは展開し、そのレーダーに反応した地点を夜の暗闇に慣れた目で追っていく。

その表情は先ほどまでの表情とは違い無表情に近く、瞳からは温かみが消え冷たい視線を窓の外に向けていた。

 

その動きの意味に感づいたルーガルーも同様に壁に張り付いた。

その表情は先ほどと同じ笑みだが、先ほどまでの笑みとは違う、獰猛な笑みであった。

そしてルーガルーは服の下に隠していたククリナイフを一本取り出す。

 

ルーガルーの手に突然現れたナイフを見たレオは驚き目を瞬かせるが、ルーガルーは気にせずにナイフで手遊びしながらジェイミーの視線の先を観察する。

 

そこは夜の暗闇に沈む児童養護施設の庭が広がっていた。

日中には子供達が駆け回り賑やかな庭も日がくれた今では何も動くものがいない静寂に包まれている。

だがそんな暗闇の庭へと目を向けているジェイミーの視点を追って目を凝らしてみると、庭を夜の暗闇に紛れて動く人物が複数人いるのがうかがえた。

 

黒いスーツを着た彼らは手に拳銃を持ちゆっくりと建物に近づいてくる。

その動きは素人を感じさせないほど慣れきった動きであり、そして各自一人一人の連携が行き届いている組織的な動き。

ただ一瞬窓の外から庭を見ただけでは彼らがそこにいる事には気がつかないようなベテランの動き。

だがそのベテランの動きも魔導針の前では無意味となる。

 

ルーガルーはそんな彼らの動きを見下ろしながら、冷えた視線で外を確認するジェイミーに声をかける。

 

「よく『お客さん』がいると感づいたネ。先に気がつかないと『魔導針』なんて出さないだろう?」

 

「視界の端に動きが見えたのよ」

 

「へぇ……こんな真夜中ニ?遠くの距離の?コソコソと動く彼らをかイ?」

 

「……いろいろ言いたいことはあるでしょうが、それは後。魔導針の反応からして囲まれているわね」

 

「敵は何人?」

 

「最低でも6人以上。ユニット無しで発動した不安定な魔導針だから確認出来ていない敵も多くいると思う」

 

「それはまた、絶体絶命だネェ」

 

そう返すが言葉と裏腹にルーガルーは楽しそうに舌なめずりをする。

その姿はまるで獲物を見つけた猟犬のようであった。

 

 

ジェイミーはルーガルーのそんな様子を視界の端で捉えながら考えを巡らせていた。

 

動きからして今迫って来ている敵は訓練された人間。普通の警官ではないことは一目でわかる。

彼らの正体として一番可能性が高いのはガリアの諜報部だろうか?

 

だが彼らの正体がなんにせよ、片手に拳銃を持って闇夜に紛れて忍び寄る姿からして『お友達』ではないことは明らかであり、彼らが自分たちを目的にやってきたのは想像に容易い。

 

だがジェイミーは一つ疑問が脳裏に浮かんでいた。

それは、彼らの人員が揃いすぎている。ということ。

 

これがジェイミーを突発的な発見をした事による行動ならば、こんなにも武装した人員がいるとは思えない。

 

つまり、彼らはジェイミーとルーガルーの二人がここにいると判明したため人員を集めて準備してここに来たと考える方が容易だ。

 

なぜ二人がこの児童養護施設にいることがわかったのか。

 

考えられる理由として、通報されたか尾行されていたかの二つの理由がある。

だがその二つはどちらも考えづらいものであった。

 

通報されたとして考えられるのが、イリスが二人の正体に感づいて通報したという事。感づかなかったとしても真夜中に怪しい人間二人が転がり込んで来たら不審に思って警察に連絡するという行動も理解できる。

だが通報したとはいえ、まだここに来てから30分も経っていない状態。その間に連絡したとしても、わずか30分の間にこんなにも武装した人員。しかも警官ではなくおそらく諜報員らしき人員を集めることは不可能だろう。

しかもここは都心から離れている田舎町、前々からこの町に人員を用意していない限り、都心から人員を集めた場合移動時間だけで一時間以上経つだろう。

それに加えて、二人は顔を変えていないまでも髪の色をルーガルーの固有魔法を使って変更し、髪型もモナコの時とは完全に変えている。

熟練の捜査官でもない限り、手がかりやきっかけもなく一目であってその人物が、手配書が出回っている人物だと判断がつくわけがない。

 

つまりは通報という点は考えづらい。

 

ならば尾行はどうだろうか。

モナコ、それかガリアに入ってからずっと尾行されていたというもの。

だがこれも考えづらい。

 

なぜなら行動中二人は追っ手の存在を常に警戒していたし、毎晩ジェイミーは魔導針を展開し追跡者の存在を確認していた。

そしてそれらの警戒や確認で追っ手の存在を確認できたことは未だにない。

それにもし、その警戒や確認をくぐり抜けて尾行していたのならば、今日の半日近く二人揃って昼寝をしてしまうというチャンスを逃すはずがない。あの何もない場所で包囲して詰め寄れば二人とも捕獲されていたであろう。

 

それに、わざわざこの児童養護施設に入ってから包囲するのも奇妙な話だ。

この建物に閉じ込めるというのが目的だとしても、建物内という遮蔽物や隠れる場所が多い場所で追い詰めなければならなくなり、それに加えてこの児童養護施設にいる民間人が巻き込まれてしまうのが可能性が高い。そんな手間をかけるのなら、やっぱり日中のあの昼寝の時に追い詰めた方が楽である。

 

また、そもそも2人がこの建物に来たのはたまたまなのだ。

これがもしイリスが実は敵対者であり、二人を誘導してこの児童養護施設にワザと呼び寄せ仲間を呼び寄せたというのなら、今の状況も説明がつくが、それは可能性が低い。

何故なら、そもそも泊めてと最初に言ったのはジェイミーであるからであり、それなら最初にこの施設に入った時に待ち伏せされているはずである。

 

ではイリスが敵対者であり、二人と出会ったのが偶然だった、というのはどうだろうか?

だがそれがそうだとしても、結局は無理な話だ。

結局先ほど考えたのと同じ、通報から30分でここまでの人員が集まるはずがないのだ。

 

 

だが現実では、今まさに武装した複数人の人間たちがこの建物に迫って来ていた。

それがジェイミーには不可解で理解できないが、それを考えるよりもこの状況を打破しなければならないことが先決であった。

 

ジェイミーは胸元からワルサーPPKを取り出し残弾数を確認する。隣にレオがいるとはいえ、敵が迫って来ており、ルーガルーがナイフを出している以上、武器や正体を隠す必要性はなくなっていた

それよりも、今から起こる騒動に巻き込まれないようにレオを安全な場所……つまりイリスや子供達がいる寝室に送らなければならない。

 

はてさてどうレオに伝えたものか…

ジェイミーがそう思案していると、ルーガルーがナイフを持っていない手でレオを手招きしていた。

 

レオは突然の事に目を白黒させながらもオドオドとルーガルーに近づく。

レオが目の前に来るとルーガルーは彼の頭を撫でながら優しげに笑い質問した。

 

「ねぇレオ。君はさっき明日ここで劇が行われるって言っていたよネ」

 

「う、うん…」

 

「それはどこかの劇団員が来るって事かイ?」

 

「ちがうよ」

 

「ほぅ。じゃあどんな人達が来るんだイ?」

 

「それは…お姉ちゃんと同じ」

 

レオはそういうとジェイミーに指をさした。

突然の指摘にジェイミーはぽかんと口を開けた。

 

その様子を見ながらレオはさらに言葉を紡ぐ。

 

「お姉ちゃんと同じウィッチの人たちだよ。軍人さんで『いもんかつどう』で来るんだって」

 

「…なるほどネ。答えてくれてありがとうレオ」

 

ルーガルーは望む答えをくれたレオの頭をワシャワシャと激しく撫で、その行為をレオは恥ずかしそうに笑いながらも受けいれる。

だがそんな微笑ましい光景を見ているジェイミーの顔は引きつっていた。

 

 

なんてタイミングの悪い…!!

 

ジェイミーの内心にそんな独白が生まれる。

 

『いもんかつどう』つまりは『慰問活動』

そして『軍人』、『ウィッチ』

それらの単語からジェイミーの脳裏に先週見た新聞を連想される。

その新聞には大きな見出しである記事が出ていた。

その記事は506JFWの二つの失態、セダン基地で起きた爆破事件やネウロイ撃ち漏らし未遂事件について。

内容を要約すると事件を引き起こした506JFWをマスコミが揶揄している記事であった。

 

そんなイメージダウンを頻発する506JFWがイメージアップ戦略を行うのも当然のことだろう。

なぜなら今月の終わりには発足式が行われるのだから。

今のうちにある程度のイメージの向上を行なっていないと発足式でマスコミが何を書くかわかったものじゃない。

 

ならば行うイメージアップ戦略として考えられるものは、児童養護施設への慰問活動なんてなんてありきたりなものだろう。

 

そしてレオの話を聞く限りその慰問活動先がたまたまこの児童養護施設であり、つまり明日この児童養護施設に506JFWが劇を行いにやって来る事になる。

 

それならば、ここまでの人員がいるのも同意できる。

なぜなら明日ここには、ガリア内どころか各国の策謀が渦巻きそれに囚われている506JFWが来る場所。

各国のエース達が集まる統合戦闘航空団がくる場所なのである。

 

行うことが慰問活動である以上、当日ならまだしも前日から警備の軍人や警官を配置するのは過剰であるため、警備の人間がいないことは納得できる。

だが、明日来るのはあの506JFWなのだ。

ならば、表向きではないにしろ前日に児童養護施設の周囲を警戒するのも当然だし、なんらかの工作活動が起きないように人員を配置するのも当然の事。

 

おそらく警備していた彼らは、506JFWが来る前日の真夜中に児童養護施設に侵入して来た怪しい二人の身元を調べた結果、手配書の二人ではないか?という推測でも出たのかもしれない。

だがその答えがどうだろうと、今の二人が狼の巣に呑気に散歩しに来た羊である事には変わりがない。

 

つまり、ジェイミーとルーガルーの二人はそんな警備の張り巡らされた場所に自ら突っ込んだという事になる。

 

そんな結論をジェイミーの脳は導き出したため、彼女はたまらず頭を抱えた。

 

というか何故劇なの!普通に訪問とかで良かったじゃない!

 

そんな八つ当たりじみた恨みをジェイミーは506に抱いていた。

 

「君といると退屈を感じないヨ」

 

「…うるさい」

 

ニヤニヤと嗤うルーガルーを、ジェイミーはこめかみをヒクつかせながらも無視して、レオの正面ににしゃがみ目線をあわせた

レオは真正面からジェイミーに視線を合わせられた事に頬を染める。

そんなレオの様子にジェイミーは微笑ましく思うが、真剣な表情でレオに語りかけ始めた。

 

「ねぇ、レオ。一つお願いを聞いてもらってもいいかしら」

 

「…えっと、なに?」

 

「今から寝室に帰ったらイリスさんと他の子供達と一緒に絶対に部屋から出ないで。たとえ外でどんな音がなろうとも絶対よ」

 

「…な、なんで?」

 

「理由は言えない。だけど約束して。お願い」

ジェイミーはワルサーを持っていない手でレオの頬を撫で、顔を近づける。

「え、あ…うん」

突然の事にレオは顔を真っ赤にしてジェイミーのお願いに頷いた。

その様子にジェイミーは微笑み、さらに顔を近づけ…

 

「ありがとう。これはお礼よ」

 

チュッという音ともに、ジェイミーはレオの額に軽くキスをした。

 

ジェイミーが顔を離すとそこには、顔をトマトのように赤く染め硬直しているレオが案山子のように立っていた。

そんな可愛らしい様子にクスリとジェイミーは笑い、ポケットからメモ用紙とペンを取り出すと文字を書き始める。

 

そしてレオが正気に戻ると同時に彼にメモ用紙とランタンを渡した。

 

「さぁ、行ってレオ。メモはイリスさんに渡して」

 

「う、うん」

 

レオはジェイミーに促されるまま夢心地のような雰囲気で寝室まで歩いていく。

 

その可愛らしい様子にジェイミーは微笑み、ルーガルーは嗤う。

 

「随分と悪女じゃないカ」

 

「レオは嬉しそうだったわよ?」

 

「oh…よく言うものだネ」

 

ジェイミーとルーガルーは二人顔を合わせて苦笑すると、すぐにその表情を引き締める。

 

「それで、どうするんだイ?ボンド?」

 

「このまま立てこもってもいい事なんてなに一つないわ」

 

「つまリ?」

 

「魔導針を頼りに敵が薄いところに向かって、障害を排除しながら突破して離脱。ついでに彼らの車でも貰おうかしら」

 

「いいネ。好きだよそういうのハ」

 

「こっちとしては本当ならドンパチは勘弁してほしいのだけれど」

 

そう語るジェイミーは先ほどまでレオに向けていた温かみのある微笑みは失われ、冷たく冷静な表情に覆われている。

 

その表情はモナコの地下でみせた表情とも、長い徒歩を歩いていた時の表情とも、あどけない寝顔の際にみせていた表情とも、レオに見せていた表情とも違う。

 

感情を完全に抑制している一人のエージェントとしての顔があった。

その顔を見たルーガルーは嗤う。

 

 

「それが本来の顔かい?」

 

「仕事の顔よ」

 

「それにしてはモナコでの仕事の最中はやんちゃだったけド」

 

「あれは予想外のことが起きすぎていたのよ」

 

「じゃあ、今回のことは予想外じゃないとでモ?」

 

「これぐらいなら…いつものことよ」

 

「いいネ。君のことがもっと好きになったヨ」

 

ジェイミーとルーガルーは軽口を交わし終えると、ゆっくりと歩き進み始めた。

 

 

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