スパイウィッチとウォーロックの遺児 作:haguruma03
1.
PM10:58 児童福祉施設二階廊下
右手の窓から見下ろせるのは人気のない庭、右手にはドアが立ち並んでいる二階の廊下。
明かりが微かに入る月光のみのそんな廊下を二人の男が足音一つ立てずに歩いていた。
その姿は闇に溶け込むかのような黒いスーツ。手には拳銃を持ち、彼らは何かを探すかのように一歩一歩足を進めて言っている。
彼らの目標である、二人の少女はまだ見つかっていない。
この建物を監視していた人員からの情報では、彼女達はまだ建物の外にでてはいない。つまりはこの建物の中にいるはずなのだが、まだ彼女達を発見することはできて来なかった。
この建物の中にはすでに6人の人員が侵入しており、目標を発見した時所持している笛を吹く手はずとなっている。
だが、すでに侵入してから数分が経っているのにもかかわらずまだ笛の音は聞こえない。
そこまで大きくないこの建物の中を、6人もの人数で手分けして探しているのに人間2人を見つけることができないのは些か奇妙な話である。
ならば考えられるのは、すでに目標に自分達の存在が察知され、隠れているという可能性。
一人の黒スーツはそう考え、相方の男の肩を叩き、身を寄せ小声で声をかけた。
「なぁ、セットゥ…」
「なんだ、シス?」
セットゥと呼ばれた男は、怪訝な表情をしながら返事をする。
シスはそんな表情を見ながら、自らの考えを彼に告げた。
「流石にここまで探してどの班も目標を見つけられないのはおかしい。向こうに察知されていることを考えるべきだ」
現状の不気味さを告げるシス。
そんな心配性な相方の忠告に、セットゥは薄く笑いながらその忠告を笑い飛ばした。
「心配性だなシス。ただ運悪く見つけられてないだけかもしれないだろ」
自らの忠告を軽く扱うセットゥにシスは、少し口調を荒くしながら言葉を続けた。
「運が理由であるものか。この建物の構造は単純なんだ。10分もあればさっさと人間一人見つけられるはず。それが見つかっていないということは向こうが隠れているってことじゃないのか?」
「それか、見つけたのはいいものの目標の手によって音一つ立てられず殺されているかだな。まぁ
「セットゥ…!! 無用心だぞ…!!」
セットゥの不用意な失言にシスは睨みつける。
だがセットゥはそんな鋭い視線を意に返さず、シスを置いてズンズンと前に前進していく。
「だれも聞いてやしねぇよ。運悪くここのガキが聞いていたとしても目標もろとも始末すればいいさ。」
「目的は捕獲だぞ!」
「それは
「それは…」
「それに
セットゥから語られる、物騒な言葉。
軽い口調で語られてはいるものの、語るセットゥの表情に冗談の色は一切見られず、その言葉が真実であると物語っていた。
そんな言葉への相棒からの返答はない。
だがセットゥはそれを気にせずに、シスを置いてまだ未探索の場所に向けて歩みを進めていく。
彼は相棒が、組織に属しているが甘い考えを捨てきれていないことを知っていたため恐らくこの考えに同意しきれないから返事をしなかったのだろうと察していたのだった。
だが、その事実は違っている。
「なるほどね、随分と面白い話をしているじゃない」
セットゥの動きが数コンマ停止した。
今真後ろから聞こえた声。
その声は聞き慣れた相棒の声ではなく、年若い女性の声であった。
そしてその声の持ち主が誰なのかは、考えるまでもない。
セットゥはすぐさま後ろを振り向き拳銃を向ける。
その動きは、声をかけられ1秒にも満たない素早い動き。
背後に向けられた銃を持つ手を、声をかけてきた少女によって掴まれるがすでに照準は少女の頭に向けられていた。
背後にいた少女の髪は金髪。そしてその顔は手配書や指令書で散々見た目標の幼い顔。だがその表情は仮面のように無表情。
つまり目標の人物がそこにいたのだ。
だが、彼女の顔を認識した瞬間にセットゥはおもむろにトリガーを引いた。
それは
だがセットゥはそれを意に返さず、戸惑い一つなく引き金を引くために人差し指を動かす。
なぜなら彼には別の使命があるからだ。
しかし、それは未遂に終わった。
「————なッ!?」
動かないのだ。
トリガーを引くための人差し指が、いくら力を入れようともトリガーを引くことができないのだ。
まるで動くはずのない巨大な岩を人差し指一つで動かそうとしているような感覚。
セットゥは重要な場面で故障したのかと疑問を抱いたが、その疑問はすぐに払拭された。
その疑問の答えは、自らの人差し指が今触っているものを視界に入れたことでもたらされた。
「———嘘だろ…?」
セットゥがそうぼやくのも無理はない。
シールドが貼られていたのだ。
極小さなシールドが、拳銃のトリガーとトリガーを引こうとするセットゥの人差し指との間に展開されていたのだ。
そのためトリガーを引こうとしている人差し指はシールドにあたり、シールドはビクとも動かない。
セットゥは20代後半の男だ。決してウィッチではない。
ならば、このシールドはなんなのか?誰がやったものなのか?
その答えを想像することはたやすい。
今、拳銃を持っているセットゥの腕を左手で握りながら、頭から猫耳を生やし、腰を深く落とし、右腕を弓のように引く、この少女が犯人であるに違いないからだ。
そんな彼女がやったのは、トリガーと指の間に、ピンポイントにシールドを展開するという曲芸じみた普通から逸脱した技。
普通のウィッチでは行うことすら難しい理外の技。
そしてセットゥはそんな曲芸を行なった少女が今からやろうとしていることも、容易に想像できていた。
しっかりと落とされた腰、目標に対してしっかりと正面を向いている体、魔力が使われていることを証明する猫耳、そして魔力が込められている右腕とその拳を守るために貼られたシールド。
それらの要因をまとめると、今から起こることはただ一つ
「———まっ!!」
「寝てなさい」
ドンッッ!!
プロボクサーが渾身の右ストレートをサンドバックにぶつけたような鈍い音が廊下にかすかに響いた。
「—————ッ!!」
少女の小柄な体格から打ち込まれたには重すぎる攻撃。
大人でも一瞬で意識を飛ばすような急所への一撃
そんなプロボクサーの渾身のストレートに似た一撃は的確にセットゥのみぞおちに直撃し、胃液と空気が体内からが口へ吐き出される。
致命的な一撃、だがそんな攻撃を受けながらも、セットゥは辛うじて意識を保っていた。
それは日々の肉体鍛錬の成果の賜物なのだろうか?それとも維持と信念のおかげなのだろうか? だが、今それはどちらでもいい.
飛んでいきそうな意識を必死に保ち、セットゥは眼前の少女に集中する。
眼前の少女は身長が150もないほどの小柄な体型。2m近い身長のセットゥからしたら、大人と子供の身長差である。
本来なら容易く体格差でひねり潰せるが、少女はウィッチだ。
人には持てないような重火器を、容易く振り回せるほどの身体強化を行うことができる普通から逸脱した存在、それがウィッチなのである。
つまり、瀕死の自分では彼女に太刀打ちすることはできない。
セットゥはそう結論をだすと、すぐさま後ろに跳びのきポケットから笛を取り出す。
本来の目的なら、同志ではない
だが、それすらも、セットゥは行えない。
彼は後ろに飛び退いた時、何かが足に引っかかった。
そのせいで、彼の体勢は崩れ、背中から地面に向けて体が倒れていく。
そして目の前には、トドメとばかりに必殺のストレートを振り下ろさんとしている少女の姿。
セットゥはまるでスローモーションのようにその光景を見ていた。
足を滑らせるようなヘマはしていない。
廊下につまずくようなものはなかったはず。
ならば今飛び退いた時に引っかかったものはなんだ?
体が地面にぶつかるコンマ数秒の間、必殺の拳が顔面に振り下ろされるまでの刹那の一時、そんなわずかな時間でセットゥは自らがつまずいた原因のものをみた。
それは、小さく青白く光る物、文字列と魔法陣が描かれた半透明の物体。
そう、地面から少し浮いた場所にウィッチのシールドが展開されていた。
これを誰が設置したのかは考えるまでもないだろう。
二度も同じシールドに行動を阻まれ、トドメの一撃は眼前に迫っている。
ウィッチとはいえ小さな子供にいいように踊らされたことに、セットゥは怒りの声を張り上げようとするが…
「だから寝てなさいって」
無慈悲な少女の言葉と共に、セットゥの顔面に拳が振り下ろされた。
2.
ジェイミーは、眼前に横たわる男を見下ろす。
その男の鼻はひしゃげ頬骨だけでなく上顎骨が破壊されていた。
もはや、高額な整形手術を受けない限り元の顔に戻ることはないだろう。
そんな哀れな被害者の事を加害者であるジェイミーは少し哀れみながらも、魔導針を展開して周囲の状況を確認する。
魔導針で反応を示した動く対象は、周囲には自分を含めて2人しかいない。
それ以外の反応は同じ建物内だが離れたところにある4つの反応と庭の外周にいる4つの反応、そして寝室にある複数の反応。
寝室は子供達とイリスだろうし、建物内の4つは他の諜報員、外周の4つはおそらくは見張りだろう
それを確認し終えるとジェイミーは、おもむろに先ほどセットゥと呼ばれていた男の服を脱がし始めた。
ぐったりと動かない人間の服を脱がすのはなかなか難しく、四苦八苦してしまう。
そんな苦労して服を脱がしているとジェイミーの背中から小さな口笛が聞こえた。
今の状況に似つかわしくない口笛。
ジェイミーが振り向くと、そこには一人の男がいた。
その姿にジェイミーは見覚えがあった。いや見覚えしかない。
なぜならその顔は今彼女が破壊した顔であったからだ。
そう、セットゥと顔や体型まで完全に同一人物がそこにいた。
その顔は今目の前にあるぐちゃぐちゃに整形された顔ではなく、ジェイミーに殴られる前の端正な顔がそこにある。
同じ人間が二人いるありえない自体。
だがジェイミーは警戒せずに呆れた視線を新たに現れたセットゥに向けた。
「余計な音は出さないで、見つかるでしょ」
そんな呆れた声に対してセットゥはニヤケながらその声に答えた。
「敵の位置は君の魔導針でわかるから心配ないサ」
「だからさっきも言ったでしょ。今の私の魔導針はユニットがないから精確じゃない。見逃しもあるかもしれないのよ」
「此方は君を信じてル」
「そういう事じゃないし、心にも思ってないことを言うなバカ狼」
そんなジェイミーのため息のような呆れた声にセットゥ…いや、セットゥの姿に固有魔法を使って擬態したルーガルーが嗤う。
モナコで見たときと同じ、完璧な擬態能力。
表情、体型、髪型、髪色、髪質、ホクロやシミなどの身体的特徴まで完璧にも同一な姿。
変装ではなく変身とも言うべきその固有魔法の真髄を改めて見たジェイミーは感心するしかなかった。
「相変わらずの変装ね狼」
「褒めてくれてもいいんだヨ?」
「変態じみた服装をした男を褒めるなんて趣味は持ってないわ。まったく…服もコピーすればいいのに、なんでわざわざ服を脱がさないといけないのよ」
「服までコピーするとコストが高いんだヨ」
そう語るルーガルーの姿は筋肉質な男の体が女性ものの服を着た変態じみた姿。
その服は先ほどまでルーガルーが来ていた服であった。
筋肉質な大男がその巨体に合わないピチピチに張っている女性ものの服を着る。
ここがリベリオンのブロードウェイにある劇場なら笑いを巻き起こすコメディアンとして人気を博したのかも知れない。
だが、ここはブロードウェイではなくガリア東部にある土地『ヴァランス』
しかも孤児たちが暮らしている児童養護施設の深夜の廊下。
言葉を偽らずに言えば不審者にしか見えない。
だがそう考えるジェイミーもまた、児童養護施設の深夜の廊下で男の服を剥ぐ痴女にしか見えないことを本人は意識していなかった。
そんな深夜の廊下で男の服を剥ぐ少女は、ルーガルーの姿をジロリと見た。
「そんな大男の体になっているのによく、さっきまでの服が着れるわね」
やっと上着を脱がし終えたジェイミーが、嫌な顔をしながらズボンを脱がしに取り掛かると同時にルーガルーに問う。
そんな姿をニヤニヤとルーガルーは見つめながらその質問に答える。
「此方の固有魔法は見た目だけをコピーするものだからネ」
「見た目だけ?」
「簡単に言えば見えるけど触れない着ぐるみを着ているようなものサ」
「それなら服もコピーすればイイじゃない」
「だから、服もコピーするとコストが高いんだヨ」
「コストってなによ」
「秘密。君も自分の固有魔法の全ては教えてくれてないだろウ?だからお互い様サ」
「……チッ」
そんなもっともな意見に、ジェイミーは舌打ちをしながら脱がし終えたズボンと上着をルーガルーの顔面に投げつけた。
ルーガルーは投げられた服を容易くキャッチすると同時に着替え始めた。
テキパキと着替えるルーガルーの姿をジェイミーは見ながらもその視線をルーガルの傍に向ける。
そこには一人の男が倒れ伏していた。
その男は先ほどシスと呼ばれた男性。
だらりと体が弛緩していることから意識がないことは一目でわかる。
なぜ彼がこんな事になっているのか。
それは先ほど天井に魔力を使って張り付いたルーガルーが真下を歩いていた彼を両手で釣り上げて、瞬時に首を絞めて意識を奪ったからだ。
そんな彼を見ながらジェイミーはルーガルーに声をかけた。
「殺してないでしょうね狼」
そんなジェイミーの言葉に対してルーガルーはいつものニヤケ顔で答える。
「殺すなと言ったのは君だろウ?それに殺したら厄介なことになるぐらい此方にもわかるサ」
「どうだか…」
ジェイミーは疑うような視線をルーガルーに見せた。
その様子に着替え終えたルーガルーはヤレヤレとジェスチャーして見せる。
「どうやら疑っているようだネ。気になるなら近づいて確認すればいいサ。でもそっちの彼は殺した方がマシじゃないかイ?酷い顔だヨ?」
ルーガルーはジェイミーによって顔面の強制的整形手術を受けた哀れな被害者の整形後の顔を見ながら告げる。
ピクピクと痙攣している彼の姿はあまりに哀れなものであった。優秀な治癒魔法でも使わなければ彼の顔は元に戻らないだろう。
それならば殺してあげたほうがいいというルーガルーの意見に対してジェイミーはため息をつき返答する。
「だから、殺したら余計な恨みを買って血眼になって追われる事になるから殺すなって言ってるでしょう。殺すときは身元がバレない時か本気でマズイ時のみにしなさい」
「殺傷はするなって言っているわけじゃないんだネ」
「……好き好んで殺しはしないけど、こんな仕事をしている以上やるときはやるわよ」
「そうかイ、そうかイ」
ルーガルーはジェイミーの答えに満足そうに頷くとパチンと指を鳴らした。
すると倒れていたシスの体が黒く染まり始め、夜の廊下の暗闇に溶け込みはじめる。
それはまるで虫が枯葉や木に擬態する時のような現象。しっかりと見つめればすぐにバレるような擬態だが、注意してなければ見逃すような擬態。
「デタラメね」
「制限と限度はあるけどネ」
「それを言う気は?」
「ないヨ」
そんなルーガルーの答えにジェイミーは、ため息をつくともにセットゥを俵担ぎで担ぎ上げた。
2m近い身長の大男を軽々と小柄な少女が持ち上げ悠々と廊下を歩き始める。
そんな珍妙な光景だが、これも魔力の力の賜物だろう。
その様子を見ながらルーガルーは可笑しそうに笑い、尋ねる。
「彼を連れていくつもりかい?逃げるのに邪魔になるよ?」
ルーガルーの言うことも最もである。
ただでさえ追われている状況にもかかわらず、今ジェイミーが行っている大男を担いで逃げるという行為は、避けない荷物を増やすという状況を悪化させるような行動。
だがジェイミーにはこの男からどうしても聞き出したいことがあった。
だからこそ、スルーできたのに彼らを襲ったのだ。
「ねぇ、狼。こいつが話していた事聞いてたでしょ」
ルーガルーの問いに対して、逆に問いで返すジェイミー。
その問いに対してルーガルーは軽快に答えた「。
「聞いてたけど?確か『ガリア我が喜び』だっけ?」
ニヤつきながら回答するルーガルー。
その表情にわかっているのにルーガルーが聞いてきている事に気がついたジェイミーは小さく嘆息してから答えた。
「だったらわかるでしょ。『ガリア我が喜び』…こいつら王党派よ」
ガリア王党派
政治体制が共和制のガリアにおいて、王政に戻すべきだという思想の人間が集まっている派閥。
これがただの思想だけならば問題はないが、問題は彼らの一部が王政復活のためには手段を選ばないテロリストであることであろう。
彼らは古くからガリアの政治の奥深くに根付きガリアが帝政だった頃から存在した貴族たち。混沌とし策謀が渦巻いているガリア政府が今の状況に陥った原因の一つとも言うべき存在である。
彼らは『ガリア、我が喜び』という合言葉とともに常日頃から暗躍している。
そしてその合言葉が先ほど、このセットゥという男から語られた。
しかも、彼が語っていたことを真実とするのなら、王党派は
そして何より、彼はジェイミーたちを殺すことを目的としており、その理由はスポンサーのお願いと語った
つまり、このセットゥという男は、ジェイミーを陥れた存在を知っている可能性が高いと言うことだ。
だからこそ、ジェイミーは彼から話を聞くために連行しようとしているのだ。
「王党派が
ルーガルーのぼやくような声。
その声をこぼした彼女の表情はいつもの顔とは違うが、明らかに楽しんでいるような表情であった。
相変わらずのその表情を見て呆れながら、ジェイミーは魔導針で敵がいない方角を見つけると共に前進しこの建物から脱出を図る。
周囲には相変わらず誰もいない。ならばさっさとこの場から逃げるべきだ。
ジェイミーはそう思うとともに先ほどよりも足早に廊下を突き進み出口を目指す。
目指す場所は一階の調理室にある裏口。
そこから外に出るためにジェイミー達は突き進む。
暗い廊下、あかりは右手の窓から降り注ぐ月光のみ。
だがその月光も雲のせいで途切れ途切れとなり、月光の明かりの乏しいこの廊下は闇に沈んでいる。
そんな闇に沈んだ廊下をジェイミーは大男を担ぎ歩みを進める。
そんな彼女の後ろに付き従いながらルーガルーの軽口がジェイミーに投げかけた
「まったく、きみのおかげで余計な手間が増えるヨ」
そんなおちょくるような言葉にジェイミーはカチンと少々頭にきながらも言葉を投げ返す。
「この行動を余計な手間というのなら、さっきの服剥ぎはどうなのよ」
「あれは此方が変装するために必要だったからサ。変装していたら敵に見つかった時うまく切り抜けれるヨ」
「敵に見つかる予定はないわよ」
「もしものためだヨ。なんだイ?不満だったのかイ?君も嬉々として男の服を脱がしていたじゃないカ」
モナコの時から変わらない人を煽るために生まれてきたような人をおちょくる言動。
普段のジェイミーなら怒り心頭で掴みかかったかも知れないが、今は仕事モード。
一度深呼吸をした後、ジェイミーは立ち止まり、後ろを振り返った。
「だれが好き好んで見ず知らずの男の服を脱がすのよ。あれはそもそも、あんたが頼んできたからしょうがな…」
ジェイミーの言葉が突如途切れる
なぜならば、その言葉を遮るかのように突然ガラスが割れたからだ。
ガラスが散乱し、廊下に巻き散らかされる。
割れたガラスはジェイミーの真横のにあった窓ガラス。
なぜそのガラスが割れたのかその答えは簡単だ。
ガラスが割れたと同時にガラスの対面にある壁に弾痕が現れたからだ。
銃声が聞こえたからだ。
ジェイミーの肌を銃弾がかすったからだ。
もし不意にジェイミーが立ち止まっていなかったら脳天を撃ち抜かれていた現実に二人は戦慄しながらゆっくりと右側に顔を向けた。
彼女達の視線の先は割れた窓ガラスから見えるのは真っ暗な外の景色。
その時、雲が晴れたのか月光が庭を照らす。
すると十数メートル先にある児童養護施設の玄関門に複数の人間がいた。
軽機関銃であるMAS-38を構えた数人の男達。そしてグラース銃という骨董品を持ち、暗闇だったのにもかかわらずジェイミー達に的確に銃身を向けている一人の少女。
その少女の頭にはネズミのような耳と魔導針が展開され足には陸戦脚がつけられていた。
ジェイミーは驚愕に目を見開く。
それは敵にウィッチがいたことか?暗闇の中正確に自分たちのことを発見されたことか?
確かにそれもあるだろう。
だが一番に驚いたことは、目視しているのにもかかわらず彼女達の存在をジェイミーの魔導針が捉えていないことだ。
ジェイミーの魔導針は今此方に対して各々狙いを定めてきている少女や男達の反応を探知できていない。
まるで何かに隠されているかのように、はたまた魔導針が妨害されているかのように。
しかしそれを深く考える時間はない。
「
「
ジェイミーとルーガルーの口からモナコ地下で吐いた時と同じ悪態がこぼれた瞬間には、おびただしい数のMAS-38から放たれた銃弾の暴風雨が二人の周囲に叩きつけられていた。