スパイウィッチとウォーロックの遺児   作:haguruma03

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2話 伯爵と先生

1.

 

モナコ、それはヴァチカンに次ぐ世界で二番目に小さな国

第10代モナコ大公シャルル3世によって1861年に領土の95%をガリアに売却することによってモナコ公国の主導権を回復し完全独立した国である。

 

元々は漁業以外にこれという産業のない小さな港町であったが、大公が「わがモナコにはこの美しい景色がある。これこそ神がわれらに与えたもうた何にも代えがたい恵みだ。これを売り物にして、モナコをどこにも負けぬ一大リゾートに作り変えよう。」と考えモナコを大規模なリゾート地へと変化させていった経歴を持つ。

 

その変化は凄まじく、富裕層向けの高級ホテルや宮殿のような建物の国営カジノ『グラン・カジノ』を作り出し、多くの富裕層を虜にしていった。

これらのホテルやカジノを作り出すことができた資金は借金ではなく全て領土売却時の資金で賄われており、借金をせずにモナコは小さな港町から高級リゾート地へと変化を遂げたのだ。

 

多くの数えきれない人々たちがモナコのカジノに集って大金を賭け、大儲けした者、逆に財産をすべて失って破産した愚かな者が現れては消えてった

 

だが、それもネウロイの出現によって話が変わる。

第二次ネウロイ戦争により、欧州の様々な国がネウロイによって占領され、リゾート地で遊ぶような余裕は人類には無くなっていった。

それだけではなく、モナコに湯水のように金を落としていた富裕層たちもモナコを訪れる事は無くなっていき、高級リゾート地であるモナコは直接ではなく間接的にネウロイによって滅びを迎えようとしていた。

 

もはやこれまでかと、モナコの人々が嘆いた時、一つの英雄がモナコを救った。

それは501統合戦闘航空団。通称ストライクウィッチーズ

彼女らの活躍によりガリアは解放され、多くの人々がガリアに帰ってきたのだ。

ガリアの奪還と復興。これは隣国であるモナコにとっても救いであった

 

だが幸運はそれだけではなかった。

502統合戦闘航空団。通称ブレイブウィチーズが超大型ネウロイ「グレゴーリ」撃破に成功

 

相次ぐ戦争の好転。人類による反抗、これらの希望に浮かれた人々を、そんな好機をモナコが逃すわけがなかった。

モナコは各国に手を回し、モナコ復興のために動きに動いた。

その結果、モナコにて各国の最新鋭の航空機がデモンストレーションされる式典が開かれることになったのだ。

それはただの式典ではない。ガリア解放という長く苦しい戦いを戦ってきた人々への、これから行われる人類のネウロイへの反抗のため英気を養うための慰安も含まれていた。

 

数年ぶりに人々が賑わうことになるモナコ。その事実に多くの人間が喜び街に活気が戻ってきている。

 

活気が戻ってきたのは良いことだろう、だがその活気とともにモナコは人間の澱んだ欲望も引き寄せることになる。

 

 

 

 

2.

 

時刻は夜。本来ならば静けさを伴う時刻であるはずのなのに、そこは様々な音や明かりに満ちていた。

多くの人々が集まった宮殿のような建物

その中は天井が高くシャンデリアで照らされた巨大で広い空間があった。

不夜城のように煌々と照らされるライト、回るスロット、溢れるコイン。

配られるカード、大勝に喜ぶ声と、大敗に膝を屈して嘆く声。

人々の欲望渦巻くカジノがそこにはあった。

 

人々が喜び嘆き熱狂して、湯水のように金が動いていく。

賭け事に一喜一憂する彼らの服装は皆変わらずドレスコードを守っており、この場にいる人間たちが富豪であり上流階級の人間であることが容易に想像することができた。

 

そんな中一人の給仕がワイングラスを乗せたトレーを持ち歩き回っていた。

まだ年若い10代前半の少女の給仕。本来ならばこんな大人の欲望渦巻くカジノなどには似合わない子供。だが今の世界は戦時中であり、子供ですら働くことに違和感を抱く事はない時代。誰もその様子に違和感を抱かず給仕からワインを貰っていく。

 

そんな少女に対してワイングラスではなく、少女の臀部に伸ばす手が現れる。

熱心に仕事をする少女に気がつかれないようにソッと動く卑猥な腕。

だがその手が臀部を触れようとした時その腕は別の腕によって掴まれた。

 

捕まえた腕の持ち主は、今臀部を触られそうになった少女本人。彼女はトレーを片手に持ち、残それた片手で後ろから伸ばされた腕を見ずに掴んだのだ。

 

少女は振り返り、ウインクしながら下手人に告げる

 

「お客様〜?おさわりはダメですよ〜?」

 

こういったことに慣れきっているような少女の反応。そんな反応を向けられた下手人はニヤリと笑う。

その下手人は革靴を履きスーツをぴっしりときた女性であった。

175cmはあるような長身と短めに切りられた金髪の女性。

はたから見れば、ボーイッシュな雰囲気と優雅な振る舞いで若い男の伯爵を連想させる立ち振る舞いだが、先ほどの行動とニヤリと笑う表情から軟派ものであることが一目でわかる。

 

軟派ものは咎められてもなお、軽口を給仕に向けた

「それは申し訳ない。あまりに可愛らしいおしりがあったから、ついボクの腕が動いてしまってね」

 

反省一つないセリフ。

咎められているのにもかかわらず、開き直るかのような言い分

口説き文句にはあまりにひどい言い分ではあるが、彼女の優雅な立ち振る舞いと端整な顔のせいでその言い分にユーモアを感じさせる。

そんな口説き文句を吐かれた給仕はクスクスと笑う。

 

「どんなに可愛くても、私はお仕事中ですから〜」

 

「じゃあ仕事が終わればいいのかい?」

 

軟派ものが給仕に詰め寄る。

先ほど尻を触ろうとした腕は今度は給仕の方に乗せられていた。

軟派ものの端整な顔が給仕に近づけられる。端整な顔が近づけられ情熱的に自らを求めてくる。そんな軟派ものの行動に、先ほどまで余裕の表情を見せていた給仕も少し頬を赤らめ目を見開く。

 

そんな可愛らしい反応を見た軟派ものは、内心舌なめずりをする

 

「答えを聞かせてくれるかい?子猫ちゃん」

軟派ものの腕が給仕の顎に触る。

ロマーニャじみた情熱的な光景。

ラブロマンスの始まりを彩るような場面。

 

可愛らしい給仕と優雅な伯爵のラブロマンス。

 

だがラブロマンスはすぐにコメディへと変貌した。

 

バシンという音とともに軟派ものの背中に扇子が叩きつけられる。

軟派ものは突然の衝撃に少し飛び上がりイタタと呻きながら背筋をさする。

給仕は突然の事に、驚き目を瞬かせる。

すっかり情熱的な雰囲気は消え去っていた。

 

「なにやっているのよ。ニセ伯爵」

軟派ものが振り返ったそこには身長が150cmほどの小さな銀髪の少女がいた。

肩までの銀髪に小さな体。そんな子供のような体だが、ドレスと手に持った扇子、そして立ち振る舞いから子供ではないことが容易にわかる。

その彼女が、絶対零度のような視線を軟派ものに対して降り注いでいた。

 

絶対零度の視線を向けられたニセ伯爵と呼ばれた軟派ものは誤魔化すように笑みを浮かべ口を開く。

 

「あ、あれ?先生、さっき移動で疲れたからからホテルで休むって言ってたじゃないか?なんでここに先生が?」

 

まるで浮気の場面を見つかってしまった亭主のような言動。

その言動に対して、これもまた浮気現場を見つけた妻のような表情をした先生と呼ばれた少女、エディータ・ロスマンは答える

 

「あなたが散歩に行って来るって言って、何故か正装しながら出て行ったのを疑問に思ったから尾行してきたのよ!」

 

目尻を釣り上げて放たれる一言。

怒気が混じった叱りつける声。

 

だがそんなコメディのような一幕を見ていたあたりの人々たちは思う。

 

『いや、尾行しにきたにしては随分と気合の入ったドレスだな??』

 

ロスマンの衣装は銀髪が映える白のドレス。そのドレスは肩が完全に見える肩だしドレスであり、彼女の雪のように白く丸い肩が外気に晒されている。

幼く見えるような小さな体。だがその立ち振る舞いとそのドレスにより大人の色気を醸し出している。

まさに彼女のために用意されたような似合ったドレス。似合ったコーディネート。

彼女のことを知っているウィッチなら「ロスマン先生どうしたんですか!?風邪ですか!?」と驚くような大人の色気を醸し出す服装。

突発的な尾行で用意できる服装ではなく、明らかに前々から準備されていた服装。

雪のように白いドレスを着た銀髪の彼女の横に立つならば、白を包むような黒のスーツを着た容姿端麗な金髪の人物にちがいない

 

そして、それが誰だか、周囲にいる人々にとっては、今の状況を見る限り一目瞭然であった。

 

そんな生暖かい目で見られている事に気がつかないのか、彼女は目の前の軟派ものに説教を続けていた

 

その状況の中、あまりに唐突な空気の変化、状況の変異、先ほど情熱的に自分を口説いていた軟派ものが粛々とドレスを着た女性に説教をされているという状況についていけない給仕はポカンと口を開け、呆然とその様子を眺めている。

 

そんな彼女にロスマンは気がつき、慌ててコホンと一息つき給仕に向かって頭をさげた

 

「ごめんなさい。同僚がお仕事の邪魔をしてしまって」

 

角度90度まできっちりと振り下ろされた頭。軍人じみた正確な礼。

いきなりしっかりとした礼を向けられた給仕は、先生の謝罪の言葉に対して慌てて給仕は答えた

 

「い、いえ〜。構いませんよ〜」

 

軟派ものを怒っている姿とは全く違う礼儀正しい姿。

おそらくこれが本来の彼女なのだろうと給仕はわかり、それと同時に同僚のやらかしに頭をさげる彼女はいい人なのだと、その同僚に苦労しているのだとわかった。

 

そしてそんな苦労させている人が何をしているかというと

 

ロスマン先生の説教にひと段落ついた途端に、給仕に向けて流し目を向けウインクを送っていた。

喉元過ぎればなんとやら、反省のはの字すら見受けられないその行動。

給仕は「アハ、ハハハ」と苦笑いを浮かべ、ロスマンのこめかみには青筋が立つ

 

ロスマンはすぐさま軟派ものの襟首をつかむと、ズンズンとカジノの出口に向けて歩き始めた。

 

「帰るわよクルピンスキー」

 

唐突な帰還命令。軟派もの、ヴァルトルート・クルピンスキーは引きずられながらも、その言葉に文句を垂れる。

 

「そりゃあ酷いよ先生。今回は慰安旅行だったはずだよ。」

 

「あなたねぇ.......。それは、式典が終わってからのでしょう。来るなら仕事が終わってからここに来なさいっ!」

 

「そうだけど式典は明日。つまり仕事は明日だよ?」

 

「それなら明日のために体を休めなさいっ!到着してすぐにカジノに来る人がいますかっ!」

 

ロスマン先生の一喝。その答えにクルピンスキーはやれやれと首を横に振い、改めて先生の姿を足の先から頭の先までをまじまじと見る。

 

その舐め回すような視線にされされたロスマンはジロリとクルピンスキーを睨んだ

 

「何......?」

 

「綺麗だよ。パウラ」

 

突然の愛称呼び。その声色は情熱的なロマーニャ人顔負けの甘い声色であり、そしてそんな甘い声と共にクルピンスキーは情熱的な視線をロスマンに向けた。

 

突然の事に、ロスマンは一瞬ポカンとした後、顔を真っ赤に染め口をパクパクと動かす。

 

真っ赤に頬を染めた白いドレスの少女の様子にあたりの見物人から黄色い声が上がる。

そんな声に正気を取り戻したのか、ロスマンはキリリと目尻を再び上げてクルピンスキーを睨みつけた

 

だがクルピンスキーはロスマンの睨みに対してにこやかに笑う

 

「どうやら見せつけてしまったようだね」

 

「っもう!」

ロスマンはそんな一言を吐く共に耳まで真っ赤にして再びクルピンスキーを引きずり始める。

 

そうして最後の一幕を引き起こした張本人のクルピンスキーは、ロスマンの照れ隠しに満足しながらも先ほどまでちょっかいをかけていた給仕に向けて投げキュスをしながら引きずられ人混みの中に消えて行った。

 

コメディのような痴話喧嘩。コメディのような去り方。

離れて行っても、カジノの騒音に紛れてまだ微かに聞こえる二人の言い合い。

その様子を呆然と見つめていた給仕の肩に背中から手が置かれた

給仕が驚き後ろを振り向くと、そこには上司であるチーフマネージャーがいた。

 

彼はどこか哀れみを給仕に向けながら口を開く。

 

「痴話喧嘩に巻き込まれて疲れたろう......。今日はもう上がっていいぞ」

 

給仕はその言葉に甘える事にした。

 

 

 

 

3.

 

今日の仕事が終わった給仕はカジノの中にある従業員室で一息ついていた。

 

「は〜つかれました〜」

そんな呑気なつぶやきが従業員のロッカールームに響く。

このロッカールームは女性用のロッカールーム。主にバイトで働いている子たちの着替え部屋でもある。

 

まだ仕事中のこの時間、そんな時間にこの部屋にいるのは彼女しかいなかった。

 

 

そうそのはずであった。

 

「おつかれさまです」

「随分と楽しそうでしたね」

 

給仕のつぶやきに対して二つの返答が聞こえる。

 

給仕はその返答に驚いた様子を見せ、その声が聞こえた方向を見た。

 

すると二つのロッカーがギィという音を立て開く。

ロッカーの中から出て来たのは二人の少女。

彼女たちは瓜二つの顔をしており、髪型も両者共に同じ綺麗に短く切りそろえられたおかっぱ、そして服装も全く同じのありきたりな少女服であった。

彼女たちはピクリとも表情を動かさない無表情で給仕の少女を見つめている。

 

ロッカーが立ち並ぶ部屋に突然現れた二人の少女

そんな突然の双子の来訪者に給仕は口を開く。

「あれ〜。ここは従業員室ですよ〜どうやって入って来たんですか〜?」

 

間延びした声が部屋に響いた。

能天気な給仕のその返答を聞き双子同士は目を見合わせる。

 

慌てていない給仕に驚いているのか?

それは否である。

双子はしばしの思考の後、給仕に対して答えた

 

「安心してください。この部屋に盗聴器はありません」

「安心してください。すでに確認済みです」

 

給仕の質問の答えになっていない答え。

会話のキャッチボールが暴投している答え。

だがそんな答えが紡がれると変化がおこった。

 

給仕がはぁと息を吐くと、足を組みながら従業員室の椅子にドカッと音を立てて座ったのだ。

 

それは先ほどの給仕とは思えないような仕草

その仕草と共に先ほどまでの給仕の呑気な雰囲気は消え、どこか大人びた雰囲気が漂う。

だがそんな変化があったのにもかかわらず双子はそんな様子の給仕を何事もなく受け入れる。

なぜならば、彼女たちにとってはこれが普通だったからだ。

 

「随分、役にはまっていましたね『ジェイミー』」

「『伯爵』に口説かれて嬉しそうでしたね『ボンド』」

 

双子は先ほどまでの無表情を少し崩し、微かに笑いながら給仕、いや給仕に扮していた『ジェイミー・ボンド』に告げた。

 

その言葉に対してジェイミーもまた微かに笑いながら双子に答える。

「こっちは、真剣に役にはまり込んでいたの。からかうのはやめてよね」

 

その口調と表情は先ほどの給仕とは全くの別人であった。

 

 

なぜブリタニアの秘密諜報部に所属している彼女がカジノの給仕をやっているのか?

それには理由がある。

それはとある人物への監視指令が下されたからだ。

 

その人物はブリタニアの富豪『アーカーディ・ジョン』

巨額の富を有している富豪の一人であり、今回モナコで行われる『最新鋭航空機のデモンストレーション』でお披露目されるうちの一つである新型ストライカーユニット『タイガー』の研究において多額の出資金を寄付している人物であり、『タイガー』のデモンストレーションにも出席するという。

 

そんな人物がなぜ監視されるのか。それは彼が数ヶ月前に拘束されたトレヴァー・マロニー大将が行なっていた研究の出資者の一人でも会ったからだ。

 

トレヴァー・マロニー大将が行なっていた研究。それはウィッチに頼らない新らしい新戦力『ウォーロック』。それはマロニー大将がウィッチ達の存在意義を失墜させ、代わりに自らが世界の軍事バランスの中心に立つという野心が生み出した兵器であった。だがその結果はウィッチに代わる人類の新たな守りの翼として開発した兵器が、皮肉にも人類の敵に転じてしまうという最悪の結果に終わり、『ウォーロック』の存在は闇に葬られた。

 

そして、今のブリタニアでは、マロニー大将の派閥、『ウォーロック』に関わった人物の『お掃除』が始まっている。

 

おそらく今回の監視は、『アーカーディ・ジョン』はその『お掃除』の対象になるかならないかの判別するための行為なのだろう。

 

 

 

そんな彼、『アーカーディ・ジョン』の経歴は、年齢は53歳。家族はおらず未だに独り身。

戦争が始まる前はよくモナコに遊びに来てカジノで豪遊していた経歴がある。

この経歴から、彼はモナコに訪れたのならカジノに向かうと推測がなされ、そのためジェイミーは彼がカジノに来た時の監視役に抜擢され、彼が訪れるであろうカジノに潜入したわけなのだが、その推測は外れることとなった。

 

 

「それにしても彼、一向にカジノに来ないわね・・・・」

 

ジェイミーがはぁとため息をつく。

 

そう、『アーカーディ・ジョン』はこのモナコに数日前に着いてから一向にカジノに顔を出さないのだ。

 

それどころか他の監視員の話を聞く所によると、彼は宿泊中のホテルから一向に出てこない。

 

怪しい、怪しすぎる。

だが下手に動きすぎると彼に存在がバレてしまう可能性がある。

ただでさえ、今のモナコは各国の諜報員が入り乱れている魔境なのだ。不意の一歩が致命傷になり得る。

 

「我慢してくださいジェイミー」

「耐えどころですよボンド」

 

そんなジェイミーを双子が慰める

その気遣いを彼女はありがたく思いながら、一息つくと、真剣な表情をして双子に目を合わせた。

 

この双子は同じ諜報機関に所属するウィッチ。仲は良いが仕事中にこうやって話しかけて来るほど彼女たち双子は不真面目な人間ではない。

 

「で、わざわざあなたたちが話しかけて来たってことは、なにか進展でもあったの?」

 

ジェイミーが双子に問うと、双子はコクンと頷いた

 

「新たに得た情報は二つ」

「どちらとも、ボスから送られて来た情報」

 

双子はそう言い、懐から数枚の紙が折りたたまれた二つの資料を取り出す。

 

「一つは『タイガー』の性能についての資料」

「もう一つは今日の深夜、『アーカーディ・ジョン』が外出するという情報」

 

その言葉にジェイミーはピクリと眉を動かし、双子から受け取る。

片方は『タイガー』について。もう片方はモールス信号の記録

 

ジェイミーは『タイガー』についての資料を脇に置き、モールス信号の記録を読み解きながら双子に聞いた

 

「この情報の出所は?」

 

双子は答える

「ボスから直接の情報。盗聴の結果らしい」

「ボスに聞いても答えてくれない。たぶん私たちに言えないスジから」

 

その答えに、『ああ、いつものことですか』とジェイミーは諦め半分に納得するも脳裏に、部下によくお節介を焼いて来る諜報部の上司らしくないボスの顔を頭に浮び、すぐに消した。

 

今はあんなボスよりも、このモールス信号の内容だ。

内容は至極簡単。今から3時間後にとあるホテルでの待ち合わせ。そのホテルは『アーカーディ・ジョン』の泊まっているホテルとは違うが歩いてすぐの場所にある。

 

この待ち合わせの情報が本当ならば、ここで何らかの動きがあるはずだ。

 

だが一つ引っかかることがジェイミーにはあった。

 

「で、この情報を渡したってことは、私に行けってこと?私よりもあなたたちの方が適任でしょ?」

ジェイミーはモールス信号の記録資料を双子に返しながら聞く。

 

ジェイミーは思う。

私はカジノでの監視役に抜擢されている。

私が行かなくても他の監視員がいたはずである。それなのになぜわざわざカジノでの監視役をやっている私なのだろうか?

そもそもそういった事はこの双子の方が適任のはずだ

 

だが、その疑問は双子によってすぐに答えをもたらされた

 

「理由はわかりません、ただボスからの命令です」

「私たちは同時刻に別の任務を言い渡されています。他の諜報員については知りません」

 

ああ、そうですか

 

ジェイミーは『なぜ私が行うことになったのか』の答えになっていない答えを聞き、理由を知るのを諦めた。

 

やれと言われた仕事は必ずやる。それがMI6の諜報員になるために必要な第一条件だ。

 

 

ジェイミーはすぐに思考を切り替え今から3時間後の待ち合わせについて深く考える。

 

待ち合わせで指名されているホテルはジェイミーの脳内に入っている情報を確認する限り、かなり格式の高い豪華なホテルだったはずだ。それも一見さんお断りのホテル。

こんなご時世によくそんな商売をやれているものだと思ったのだが、こうなって来るとかなりまずい。

 

客に扮して侵入しようにもそもそも一見さんお断りのため入ることができない、従業員に扮して潜入しようにも、そういったホテルではバイトなどを雇わずに正式に決められ訓練された従業員が働いており、見覚えのない従業員がいた場合すぐに見つかってしまうだろう。

 

ならやれる事は、客にも従業員にも誰からも見つからない潜入。

無茶振りもいい所である。

 

「できるだけバックアップしますので」

「なにか手伝えることがあるなら」

 

双子の声がジェイミーの耳に入る。

おそらく深く考え悩むジェイミーのことを気遣ってのことだろう。

ありがたい、ありがたいが、今考え付く限り彼女たちに手伝ってもらえる事は思いつかない。

 

うーんとジェイミーが悩んでいる時

 

コンコンというドアをノックする音が聞こえた。

ジェイミーはノックされたドア、従業員室のドアを見つめたあと、双子に目を向ける。

 

するとそこにいたはずの双子の姿は消え去っていた

それをジェイミーは確認して声をあげた

 

「は〜い。どうしました〜?」

 

一瞬でジェイミーは給仕の役を演じ始める。

その声を受けてすぐに扉の向こうから返答があった。

 

「ああ、すまないちょっといいか?」

その声はチーフマネージャーの声であった。

 

何か、あったのだろうかとジェイミーは疑問に思いドアを開ける。

するとそこにはチーフマネージャーが一枚の小さな紙を持って立っていた。

 

チーフマネージャーは苦笑いをしながらその紙をジェイミーに手渡して来る。

 

「さっきの痴話喧嘩をしていたお客さんがね、これを君に渡してくれっていって来てね」

 

ジェイミーはその紙を受け取り見る。

それは名刺であり、ヴァルトルート・クルピンスキーの名が記されてあり、その名刺には一つのホテルの名前と一筆の文章が書かれてあった。

 

文章の内容は『今日の夜、君のことをホテルのロビーで待っているよ』

書かれているホテルの名は、今まさに悩みのタネであったホテルの名前であった。

 

 

まさかの幸運。まるで導かれたと思うような運命。

そんな事態を実感しているジェイミーの脳裏に一つの言葉が思い出されていた

 

『物事の半分は幸運によって決まる。残りの半分は運命だ。』

 

ジェイミーは名刺を届けてくれたチーフマネージャーに礼を言いつつ過去に思いを馳せた。

 

 

どうも今回は任務はあなたのことをよく思い出しますよ。アレン。

 

 

 

 




クルロスいいよね
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