スパイウィッチとウォーロックの遺児 作:haguruma03
1.
見慣れない天井。妙に柔らかいベッド。
おぼろげに意識を取り戻したエディータ・ロスマンが最初に認識した事はその二つであった。
ロスマンは未だ眠気によって朧げな意識のなか、寝転がりながらあたりを見渡す。
今着ている服装はいつも寝る際に着ているシャツとズボンの軽装。
だが今いる部屋はいつもの部屋とはまるで違う、お城の一室かの様にきらびやかな部屋。部屋にある調度品のどれもが高級感を漂わせ、今自身が寝ているダブルベットも今までの人生で寝てきたベッドのどれよりも肌触りも柔らかさも上質であった。
明らかにいつもの502の自分の部屋ではない。
そんなことを考えていると、部屋にハンガーにかけられた見覚えのある白いドレスが目に入った。
『綺麗だよ。 パウラ』
脳内に響く甘い言葉。
そんな言葉を思い出したロスマンの顔は真っ赤に染めて意識を覚醒させた。
ここはモナコの高級ホテルの一室。
休暇の意味も含んだ今回の任務の兼ね合いで泊まることになった部屋である。
カジノから帰って来た後、長旅の疲れからか眠ってしまったのね……
ロスマンはなぜ寝ていたのかを思い出し、時計を見る。
時刻はまだ夜。本来ならばもう一度眠って明日に備えるべきなのだが、一度目が冴えてしまった手前、去った眠気が帰ってこない。
ロスマンの今日の日程はかなり忙しいものだった。
ガリア経由の空輸でモナコに向かうが到着が遅れ着いた時には夕方。慌てて明日の式典について予定を会場設営の人間と合わせて行き、その調整が終わった頃にはすでに夜。疲れながらホテルに帰ると同僚が明日から仕事があるのにもかかわらず夜遊びに外に出て行ったため捕獲して連れ戻す。
そんな過密スケジュールだった今日を振り返り、ロスマンはため息をつきベッドから起き上がった。
ロスマンの部屋着は汗をかいてしまいシャツがべたついていた。そして汗を流したせいか喉が無性に乾いているのに彼女は気がつく。
水でも飲もうかしら。
ロスマンはそう思い部屋に常備されたミネラルウォーターを飲もうと立ち上がった。
その時彼女は1つのことに気がついた。
まさかと思いあたりを見渡すが、共にこの部屋に泊まっているはずの同僚の姿が見当たらない。
その代わりに机の上に一枚のメモが置かれてあった。
『下のバーで遊んでくるよ。心配しないで』
達筆な文字で書かれたメモ、その文末には気障ったらしいサインまで書かれており浮かれているのが一目でわかる。
ロスマンは明日には朝から任務が控えているのに酒を飲みに行った同僚に対して怒りを沸かせながらメモを握りつぶした。
心配するに決まっているじゃないニセ伯爵……!!
彼女のこめかみに青筋が立つ。
別に酒を飲むことに小言を言うつもりはないし、カジノに行ったことに文句を言うつもりもない。
だが明日は任務なのだ、カジノに行くのも酒を飲むのも任務が終わった後にするべきなのである。
やはりクルピンスキーをモナコに連れて来たのは間違いだったのじゃないだろうか?とロスマンは今回の任務が言い渡された時のことを思い出し、頭を抱えた。
あれは今から数週間前、『グレゴーリ』を撃破したため戦況が落ち着いて時期のことだ。
「モナコの式典に行きたい奴はいるか?定員は1名で宿泊先は高級ホテルだ」
いつもの様に502の一同で夕食をとっている時、そんな一言がラル隊長からもたらされた。
『モナコ』それは有名な高級リゾート地。今はネウロイの脅威によって寂れてはいるものの、かつては世界の富豪が集まり豪遊したと言われる夢の街。
その突然の提案は、娯楽もなくオラーシャの殺意のこもった冬に耐えていた502のウィッチ達にとって夢の国へのチケットであった。
「式典か…そんな畏まった所にみんな行ったことないだろう。皇帝陛下の謁見を経験したことがあるボクが立候補させてもらうよ」
「ダメだよ!伯爵なんかがモナコ行ったら帰って来なくなる!私が立候補するよ!」
「まて!お前が行ったら不運で式典がめちゃくちゃになるだろ!俺が行く!」
「菅野が式典なんて畏まった処に行けるわけないだろ!」
「あぁん!?」
「美味しいもの出るのかな…?」
「ジョゼ……」
「モナコってどこですか…?」
三者三葉の反応。だが皆あきらかに式典ではなく、式典以外が目的である。
ロスマンはそんな姦しい彼女達の反応を観察しながら一つの違和感を抱いていた。
机上で腕を組む502JFW司令グンドュラ・ラル少佐の姿いつも通り、だがアレクサンドラ・イワーノブナ・ポクルイーシキン大尉の顔色が悪く胃を抑えている。
アレクサンドラ・イワーノブナ・ポクルイーシキン大尉、もといサーシャ大尉はその固有能力と事務能力を買われラル少佐に戦闘指揮や事務作業を
そんな彼女が今の提案に胃を痛めているのだ。
裏がある…
ロスマンは確信しラルに鋭い視線を向けて質問した。
「隊長。それは任務ですか?」
「任務だな」
「ではその式典。どんな式典でどの様な人が来て、任務として向かう者はどの様なことをするのですか?」
「ん?それはだな…」
ラルはそう言い、なんともない様に語り始めた。
その言葉が語られるごとに、先ほどまでモナコへの憧れで盛り上がっていた食堂が静かになって行く。
式典の内容は新型ストライカーユニット浮遊脚のデモンストレーション。
これはいい、一人のウィッチとしてとても興味のある催し事だ。
だが問題はそのあとに行われるパーティーだ。
出席するのは501の隊長などのエースウィッチだけに止まらず、各国の名だたる政界の大物や各国軍部の上層部に位置する人間、つらつらと語られる彼らの階級や地位の高さだけでもめまいがする様だ。
「パーティーの際は出席者らの機嫌を損ねぬ様に、逆に機嫌取りをしてもらいたい。ああ、時折502のことを探ろうとする人間が現れるが必要以上答えない様に。それが終わったら数日モナコで休暇をとってもいいぞ。」
ラル隊長はそう話を締めくくった。
そして残ったのは静かになった食堂。本来なら聞こえないほど小さな、ジョゼがスープを救う際に食器が当たってしまい鳴らすカチャリという音がよく聞こえる。
数多のネウロイを叩きのめし、ついにはネウロイの巣すらも撃破した勇猛果敢な502のウィッチといえども、腹に一物かかけた者達が集まるパーティーなんて行きたくもない。
「……譲ってやるよニパ」
「……そっちこそ遠慮しなくてもいいよ菅野」
「行ってみようかな」
「美味しいものが出るなら…」
「やめたほうがいいですよ雁淵さん、ジョゼ」
すっかり行く気をなくしたウィッチ達。だがそれは全員ではなかった。
「みんなが行かないと言うならやっぱり僕が行くことにしよう。任せてよ。」
ヴァルトルート・クルピンスキーが茶目っ気のある表情と共にウインクをする。
皆がやりたくない任務を率先としてやる。なんと勤勉な軍人だろう。それはさぞ責任感のある優秀な軍人に違いない。
そんなありがたい軍人を、502のウィッチのほとんどは冷ややかに見ていた。
いやむしろ感心しているのかもしれない。我らが『伯爵』は、名だたる
同じく『伯爵』を呆れた目で見ていたロスマンはため息を吐く。
クルピンスキーも子供ではない。長い間カールスラント軍人として過ごして来ており、その性格からして隊長が要求して来た任務を的確にこなしてくれるだろう。
だがそれと同時に、可愛ければ富豪の娘や政界の要人の娘だろうが誰彼構わずに粉をかけまくるに決まっている。それが一体どんな火種になるか考えたくもない。
つまり彼女に行かせるのは悪手であり、それなら代わりに行く人間を見繕わなくてはならない。隊長が望む様な仕事ができそうでそうな人物は……私か
ロスマンはそこまで考えると、わかりきった回答に内心ため息をついた。
だがロスマンの気分は落ちてはいなく寧ろ口角をわずかに上げていた。
確かに様々な目論見が飛び交うパーティーに出席するのは気分が沈むが、それさえクリアすればモナコで休暇を取れる事実がロスマンを高揚させているのだ。
『エディータ・ロスマン曹長』
彼女は多くのエース達を生み出した優秀な教官であり性格は真面目だが、戦場や職務の最中以外では、毎日を楽しく生きるための努力を惜しまない陽気な享楽家である。
そんな彼女がモナコでの休暇なんて楽しいものを、多少の苦難はあれど逃すはずがないのだ。
ロスマンは微笑み思案する。
モナコに着いた時、どこを観光するかの予定。
パーティーに着て行くドレスの選択。
そしてクルピンスキーではなく私を向かわせたほうがいいと隊長に説得する方法。
だがそんなロスマンの『説得』に関しての思案は全くの無駄、いや取り越し苦労であった。
クルピンスキーが立候補すると共にラル隊長は言った
「決まったな。ならばヴァルトルート・クルピンスキー中尉とエディータ・ロスマン曹長の2名は夕食後に私の部屋に来てくれ。今回の任務について詳しい事を説明しよう」
「…え?」
カチャンと音を立てて、ロスマンの手からスプーンが落ちる。
スプーンを落としたことに気がつかないロスマンの頭の中では今ラル隊長が言った内容を反復されていた。
『ヴァルトルート・クルピンスキー中尉、エディータ・ロスマン曹長の2名は夕食後に私の部屋に来てくれ。今回の任務について詳しい事を説明しよう』
それはまるで、2人でモナコに行くような言い方で……
そんなロスマンの様子に気がついたのかラル隊長は顔色一つ変えずに彼女に告げた。
「腹芸が必要なパーティーなのだ。この502のウィッチの中で、そんな場所でうまく働くことができるのは私かサーシャ、ヴァルトルート、エディータの4人しか無理だろう? だがヴァルトルートだけに任せると女関係が面倒だ。つまり残り3人」
淡々と語るラル隊長。だがロスマンは隊長の口角が微々たるものだが上がっているのが見えていた。
ロスマンはそこでやっと、何故サーシャが胃を痛めて顔色が悪かったのかを理解した。
彼女はロスマンに対して申し訳なかったのだ。
「それに加えて私とサーシャは書類仕事で忙しいから行けないのでな。なのでエディータ・ロスマン曹長、モナコでの任務頼むぞ」
ロスマンに告げられるモナコでの仕事。その語尾にはクルピンスキーのお目付役としての仕事への示唆も含んでいるように思えた。
そう、最初から決まっていたのだ。ロスマンがモナコに行くことは。
確かに、ラル隊長は隊長であるため基地を離れられない。サーシャは書類仕事がありこれもまた基地を離れられない。クルピンスキーは1人で行かせるのはマズイ。
ならば残ったのは1人だけ。その1人を向かわせるのは当たり前のことだ。
あとの付き添いについては誰でもいい、だから全員に聞いて見たということなのだろう。
なるほど最初から私がモナコに行くことは決まっていたのか。とロスマンは理解する。
結果的にモナコに行けることが決まった事は嬉しい。
だがロスマンは、何か納得できない。すごく心中がモヤモヤしていた。
そんな彼女を知ってかしらずかクルピンスキーはロスマンに笑顔を向ける。
「楽しい慰安旅行になりそうだね!! ロスマン先生!!」
で、結局こうなるのね……
ロスマンは再び深いため息を吐いたあと自身の顔を軽く叩き気合をいれた。
無理やりとはいえ任務は任務。しっかり明日の式典をこなさなければならない。
そのため、このままクルピンスキーを放っておいて明日の式典に備えるという手もあるが、それは監督不行き届きとなってしまう。ならやるべきことはホテル1階のバーからあの『ニセ伯爵』を捕まえて帰ってきてベッドに投げ入れることだ。
すでにクルピンスキーはバーに向かっているため、彼女はもう酒は飲んでいるだろう。だがあの『ニセ伯爵』は酒に強い。酒を飲んだとはいえ1杯や2杯、1瓶や2瓶では潰れないし二日酔いにはならない。だから彼女が明日に影響があるほど飲むまでに捕まえる必要がある。
ロスマンは目的を定め、部屋着を着替え始める。
そしていつもの軍服を取ろうとしたが途中で止まり、視線を別の方向に向けた。
その方向にあったのは白いドレスであった。
彼女はそのドレスと軍服を交互に見て考え始める。
数刻考えたあと、彼女はドレスに手を伸ばした。
「せっかく…だから、ね?」
誰に聞かせるでもないのに、言い訳を言いながらロスマンはドレスを掴む。
その表情は先ほどまでため息をついていたとは思えないほど朗らかな表情であった。
2.
1人の富豪がホテルのベランダから夜のモナコを見ていた。
夜のモナコはきらびやかに光り輝き、人々の営みを感じさせる。
目下には夜にもかかわらずまるで昼のように人々が歩いているのが見えていた。
彼は片手に持ったワイングラスを揺らし香りを楽しむ。50年もののワインの香りは芳醇で歴史を感じさせるものであった。
そんな幸せなひと時を楽しむ中、彼は時計を見て思う。
回収の時間までもう少し、先ほどこの部屋で『彼女』は、うまく『アレ』と『あれ』を運び屋に渡しただろうか?
あの2つは、かの国に売った大事な商品。
あの2つがあれば、かの国、いやあの計画を推し進めようとしている彼らは私たちにとって、とても良い商売相手となるだろう。
----だが、1つの不安要素がある。
『彼女』が欲する『ウィッチ』
『彼女』は今回の計画でその『ウィッチ』を手に入れるためにも動くと言った。
『彼女』に対して不満や不安はない。
『彼女』ならば、精神的にも技術的にも私を裏切るわけがない。
だがそれでも。その余計な動きが計画を破綻させるのではないだろうか...?
未だに胸中に生み出される心配に、彼は自らの小心者さに笑った。
歳をとり後ろ盾に国家を付けながらも、私の小心者は治らないのだな。
彼は自身の心臓の小ささを確認しながら、ワインを飲み、目的のものが彼の国に届くのを、『彼女』が仲間を再び手に入れるのを願う。
「遺児が幸福をもたらさんことを」
そんな彼の言葉は誰にも聞こえず夜空に消えて言った
3.
やってられないわよ。
ジェイミーの胸中にそんな言葉が吐き捨てられる。
彼女はすでにシュテファニーの仮面を脱ぎ捨てて早歩きに地下駐車場に向かっていた。
クルピンスキーとのバーでひと時はとても楽しく、諜報活動を続けて荒んだ心を十分に癒すものだった。だがあの『浮遊脚』を見た以上早めに切り上げる必要があり、クルピンスキーが2杯目に頼んだカクテルに薬を忍ばせ眠らせたのがつい先ほど。
その後、彼女のことを「酒に酔って寝てしまったので少し見ててくれませんか?」と言い店員に任せ、ジェイミーは浮遊脚を運んでいた従業員の行方を捜し始めたのだ。
怪しまれぬように慎重に、だがそれと同時に迅速にジェイミーはこのホテルにいる従業員や客から話を聞き出し、ついに今、彼が地下駐車場に向かったという情報を手に入れていた。
従業員の彼が何者で、なんで浮遊脚を運んでいたのか?
その謎は、今は解けることはないが謎をとく前にあの浮遊脚は確保しなければならないという直感がジェイミーの体を動かしていた。
今ジェイミーが降りているのは地下駐車場につながる階段。もうあと数段降りれば地下駐車場につくはずである。
そんな時ジェイミーの耳に話し声が聞こえて来た。
その声はうまく聞き取れないが声の方向は行き先である地下駐車場。
ジェイミーは早足だった歩きを忍び歩きに変え、抜き足差し足と音を立てぬように階段を降りる。先ほどよりも声は大きく聞こえる気がする。
だがボソボソと聞こえるその会話はうまく聞こえない。
ただその声質から、言い争っているというのだけはわかった
彼らが何を話しているのか
ジェイミーはそれが気になり、駐車場に入り慎重に音を立てないようにしながら駐車場に止められた車の陰を利用して声の元にゆっくりと近づいていく。
そうやって近づいたおかげか、しばらくするとその言い争いの声が明確に聞こえてきた。
「受取人の運び屋はお前ではなかったはずだが?」
「あれぇ? そうだっケ?」
「謀るな。もとよりお前の行動はいつも怪しすぎる」
「それは君の偏見じゃないかナ?それよりも、『アレ』と『あれ』はちゃんと持ってきてるようだネ。最初聞いた時は偽物でも持ってくるのかと思ったけど、どうやら本物のようダ。それ手に入れるのに一体どんな手を使ったんだイ?」
「貴様には関係のない事だ。」
「つれないネェ」
詰問している方は先ほどの従業員。それに答えているのは声からして女性。
彼らの姿が気になり、ジェイミーは車の陰から顔を覗かせる。
そこには2人の人物がいた。片方は先ほどの帽子をかぶった従業員。傍らに荷物の乗った手押し車を置いている。
もう1人はジェイミーに背中を向けている少女。
髪型はジェイミーと同じ金髪のオールバック。
表情に関してはジェイミーに対して彼女が背を向けているためジェイミーには視認することができない。
そんな怪しい2人の会合。会話の内容からしてなんらかの機密取引
これはまたベタな展開に出会ったわね……
ジェイミーがそう考え2人を観察する。
だがそれがジェイミーにとっては不運であり失敗であった。
「あ……」
「------ッッ!!」
ジェイミーの瞳と従業員と瞳が合ってしまったのだ。
従業員はわかりやすくその表情を驚かせる。
見つかった。
ジェイミーはそれを認識すると、忍び歩きをやめ彼女らに向けて掛け始める。
距離は約35m。見つかってしまった従業員には無理だが未だこちらに背を向けている少女には不意打ち可能な距離。
地下駐車場にジェイミーの走る音が聞こえ始める。
すると、従業員の傍にいた少女が懐から拳銃らしきものを取り出した。
それはその形状からしてS&W M10。
そして形状からしてビクトリーモデル。今リベリオンで最も量産されている.38口径リボルバーであった。
この銃で使われる弾丸は.38スペシャル弾。
つまりシールドで防ぐことが容易に可能な攻撃
たとえリボルバーといえども弾丸径9.1の弾丸ではウィッチのシールドを破ることはできない。
ウィッチにとってはただのリボルバーによる攻撃は、シールドで弾くことができる攻撃であり、恐るるに足りえないものであった。
ジェイミーは走る。
35、34、33m。ジェイミーと従業員達の距離が近づくいて行くが、ついに少女の持つリボルバーが対象に向けられた。
だが、その銃はジェイミーに向けられたものではなかった。
BANG!
「な!?」
銃声が地下駐車場に響く。あまりの光景にジェイミーは驚きの声をあげ目を見開いた。
なぜなら少女の握るS&W M10からは硝煙がたちのぼり、従業員は胸を撃たれ血を流して倒れ伏したからだ。
先ほどの会話からして従業員は少女の仲間だったはず。だがそんな仲間を少女は撃った。
倒れた拍子に帽子が崩れ従業員の顔を覆う。そのせいで表情は見受けられないが、ピクリとも動かない様子から気絶……いや銃弾の着弾場所が心臓の部位であることから、従業員の彼は死んでいるのだろう。
躊躇なき発砲。彼女の後ろ姿から見える容姿からジェイミーと同年代かそれより下の年齢だとわかるが、そんな少女が行うにしてはあまりにその一連の動きは慣れすぎていた。
つまりは、この少女はジェイミーと同じ、表向きな組織の人間では無い、暗い世界の住人。
同業者である。
そんな、少女がジェイミーに向かって振り返った。