スパイウィッチとウォーロックの遺児   作:haguruma03

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8話 自己紹介とフットボール

1.

 

固い感触がする。

その感触がいつもの枕の感触が違うことに気がつき少女は胡乱な目で開眼した。

最初に目に入ったのは優しげな瞳。

そこには黒髪の少女の顔が自身を見下ろしていた。

まだ十代中頃の欧州人系の顔をした黒髪の少女。彼女のことを少女は聞いていたが膝枕されるほど仲良くなった覚えはなかった。

 

そんな黒髪は少女が目を覚ましたことに気がつき口を開く。

 

「私の膝枕の寝心地はどうだ? ルーキー」

 

そんな声を聞いたルーキーと言われた少女は顔をしかめて起き上がった。

ボサボサの金髪の長髪が体の動きによって揺れ動く。その姿は黒髪の少女よりもさらに幼い姿であった。

 

「別に…」

 

取り付く島もないような返答をした金髪の少女はボサボサになった自らの金髪も気にせずにあたりを見渡す。

 

そこは無機質なロッカールームであった。

そして今いるのはそんなロッカーに置かれた長椅子。そこで自分はこの黒髪に膝枕されていたのだろう。

 

そんな現状を思い出し、次は自室で体を休めようと思い少女は立ち上がる。

その様子をじっと見つめていた黒髪の少女は少し呆れた顔で彼女に再び声をかけた

 

「随分と鍛錬を頑張っているらしいじゃないか。だがあまりやりすぎると体を壊すぞ?」

 

今日初めてあったのにもかかわらず遠慮なしに喋る黒髪の忠告

そんな声を煩わしく思いながら金髪の少女は黒髪に背を向けて身を正しながら答えた。

 

「エリートですから大丈夫です」

 

答えになっていない答え。幼い少女にしては固すぎる返答。

だがその答えには金髪の少女の信念が篭っているような重い感情を含んでいた。

 

そんな返答に、何が可笑しいのか黒髪は体を震わせて笑い始めた。

突然の笑い。嘲笑ともいうべきその声を聞いた金髪はバカにされたのかと思い、振り返り黒髪を睨む。

だが睨まれてもなお黒髪は笑い、口を開いた。

 

「そのエリート。『候補生』でしかも『元』…だろ?」

 

その返答を聞いた金髪は顔を真っ赤にして拳を振り上げ黒髪に突進する。

振り下ろされんとする拳。

だがその拳を振るう腕はあまりに幼くひ弱であった。

 

次の瞬間にはその腕は黒髪によって受け止められ、そのまま流れるように体を抱きとめられてしまった。

 

「は、離せ!!」

金髪の少女がバタバタと暴れる。

その姿は先ほどまでの子どもらしくない固い表情ではなく表情豊かであった。

 

黒髪はそんな少女をあやすように今度は少女の両脇をもちあげる。

「や、やめなさい!!恥ずかしいでしょ!!」

 

子どもに行う『高い高い』のように持ち上げられた少女は、今度は怒りではなく羞恥で顔を赤らめながら叫ぶ。

 

そんな年相応な様子に満足したのか、黒髪はウンウンと頷き。

 

「よし、気分転換にいっしょにお散歩でもするか」

 

そのままロッカーから出て廊下を歩き始めた。

 

「や、やめて!!子供扱いしないで!! ッ!!そこの人見ないでください!!」

 

ブリタニアのある基地の廊下でそんな少女の声が響く。

だが哀れにもそのまま数分の間黒髪によって彼女は運ばれるのであった。

 

 

 

2.

 

「うう…運ばないで…見ないで…」

 

何か変な夢を見ているのだろうか、ジェイミーの寝言がポツポツと紡がれる。

だがそんな寝言も、辺りに時折響く騒音のせいで気にもならない。

 

狼はニヤニヤと笑いながら、そんな寝言を言うジェイミーの鼻と口を覆った。

手のひらに生命の呼吸があたり、それが徐々に荒くなっていく感触に快感を得ていく変態。

 

だがその快楽もすぐに終わる。

「…? ......ッ!モゴッ!フゴッ!」

 

寝ていたジェイミーはあまりの息苦しさに目を覚ました。

彼女が最初に目の前に見えたのは、狼の耳を生やして頬を染めたニヤついた笑顔。

先ほど機関砲をぶっ放し、その前は人の顔を勝手に借りて散々嘲笑してきた女。

 

「あんた!! 一体なんのつも…っ痛った!!」

詰問しようとしたジェイミーは、その言葉を途中で途絶えさせ脇腹を抑えた。

未だ広がる鈍い痛み、その痛みが突然体を動かしたせいで再びぶり返してきていたのだ。

 

その様子を可笑しそうにニヤつきながら偽物は答える。

 

「ああ、あまり無理しないほうがいいヨ。多分肋骨にヒビが入っているからネ」

 

ジェイミーを心配する言葉。だがその表情は心配ではなく嘲笑を意味していた。

ニヤニヤと笑う偽物にもう一発蹴りをぶち込んでやろうかとジェイミーは思案すが代わりの物がすぐに偽物に下された。

 

ポカンという音と共にゲンコツが偽物の頭に振り下ろされた。

偽物は頭を摩りながら後ろを振り返る。

「ひっどいなァ…」

 

「あなたがこの緊急事態にふざけるからでしょう」

 

エディータ・ロスマンはこんな時にでもふざけた雰囲気を崩さないその姿にデジャブを感じながらため息をつき、ジェイミーに目を向ける。

 

「気絶していたようだけど、大丈夫かしら?」

 

「は、はい。意識はちゃんと明瞭です」

 

偽物とは違う優しげな声にジェイミーは思わずこくりと頷いた。

 

 

 

辺りには瓦礫が巻き散らかされ、横転した高級車の陰に3人はいた。

ジェイミーは床に寝そべっており、偽物は足に浮遊脚を履いたままジェイミーの真横に座っている。そしてロスマンは横転している車に背を預けていた。

 

するとその時、轟音があたりに響きわたる。それは巨大な何かが振り下ろされ車がひしゃげる音。

 

『アシダカ蜘蛛ネウロイ』が未だ暴れている。

 

その音を聞いたジェイミーは表情を改める。

「状況はどうなっているのですか?」

 

ネウロイに見つからないようにささやくような大きさの声がジェイミーの口から溢れる。

その声に対して偽物は答えた。

 

「状況も何も、さっきと変わらないヨ。相変わらずあの謎のネウロイが此方たちを探しているヨ」

 

「謎のネウロイって…あれはあなたの組織が持って来たものでしょう?」

 

ジェイミーは偽物を睨みつける。

その視線を受けた偽物は、さっぱりだとでも言うようなジェスチャーをして、その表情には先ほどと同じニヤついた笑みが貼り付けられていた。

 

最初に対峙した時と全く変わらないその雰囲気。顔は変われどあのイラつく偽物と同一人物であることが確信できる振る舞いであった。

 

偽物がジェイミーの追及に答える。

 

「知らないものは知らないヨ。此方はあれを持ってくるように言われただけだからネ」

 

「どの口が言いますか」

 

「この口だヨ」

 

「は?」

 

「それにしても、今更敬語で喋って猫かぶっても意味ないヨ?リベリアンもどきちゃン?」

 

「あ? やるなら今ここで息の根を止めてあげるわよ??」

 

脱線する話。威嚇し合う猫と狼。

だがそんな喧嘩もすぐに狐によって終止符がうたれる。

 

「いい加減になさい!」

 

振り下ろされたのはゲンコツ。頭をかかえる二人の諜報員。

生徒を叱る先生のようにゲンコツを振り下ろしたロスマンは深くため息をついた。

私が話を進めないとダメなのね。

ロスマンはそう決心し、二人を交互に見て口を開く。

 

「まずは自己紹介をしましょう。知っているかもしれないけれど私はエディータ・ロスマン。階級は曹長で今は第502統合戦闘航空団『ブレイブウィッチーズ』の所属よ」

 

唐突に語られたロスマンによる自己紹介。

そしてどうやら、彼女が話の司会進行を取ってくれようとしていることに気がついた残りの二人は顔を見合わせ、此れ幸いと用意している自己紹介を話した。

 

「シュテファニー・ブロードチェストです〜。カジノの給仕をやっているものです〜」

「ヴァルトルート・クルピンスキーだヨ。よろしくネ」

「…そんな嘘が今更通用すると思う?」

 

冷たい視線と共に向けられるワルサーP38。そして、スタンドアップする二人の両手。

今更給仕のふりをするには遅すぎており、片方に至ってはその名前はロスマンの戦友である。顔も背丈も髪の色すら似ていない。

 

もう、二人が普通の少女ではないことを知っているロスマンに対して偽装の身分は意味をなさなかった。

 

 

諜報員にとって自らの情報はとても重要なものだ。

だがそれは策謀が渦巻く人間社会の中でのみの話であり、ネウロイがすぐそばで暴れているこの状況下では意味をなさない。むしろ今更ごまかす余裕はない。

ここで下手にごまかしてしまえば信用を得られず、今のこの状況は3人で協力しなければ潜り抜けられない状況なのだ。

 

それにジェイミーは思う。

別に今の名前を教えたところでこの名はコードネーム。それに所属を言ったところでその名を調査しても、ブリタニアがそんな人物知らないと言えばそこで終わる話だ。

そしてこの身分はウソではない。下手な嘘を言えば怪しまれ信用を失うが、『ジェイミー・ボンド』という身分は今の私にとっての本当の身分なのである。

 

ジェイミーと偽物の二人の諜報員はやっと自らの身元を語り始めた。

 

「『ジェイミー・ボンド』 ブリタニア軍秘密情報部の所属よ」

「『フジコ・ルーガルー・アンウィン』 ロマーニャ軍の諜報員だヨ」

 

一瞬の空白。だがすぐに二人の視線が一人に集中する。

 

「…は?」

「…本気?」

 

語られた二人の自己紹介。だがジェイミーとロスマンは『フジコ・ルーガルー・アンウィン』 と名乗った女を睨みつけた。

フジコは扶桑の女性名。アンウィンは英語の家名。ルーガルーは人狼のガリア語での読み方。所属はロマーニャ、よく口ずさむ単語はオラーシャ語。

赤ずきんに出てくる嘘つき狼もびっくりのウソまみれ。

しかもこのウソはワザとらしい、すぐわかる嘘ときている。

 

だがそんな事を知らないと言うように、ルーガルーは嗤う。

 

「お互いの呼び名さえわかればいいだろウ?」

 

ロスマンは熟考する。

明らかにあからさまにあやしい自己紹介。だがそれをここで怪しんでも答えは見つかることはなく、そもそも言うなら『ジェイミー・ボンド』と名乗った彼女も本当ことを言っているのかわからないのだ。

 

それに今は彼女達を尋問するよりも、あのネウロイを倒すことが先決。

 

「わかったわ。ルーガルー。詳しい身元は後で聞きましょう」

 

「……」

 

ロスマンはなんとか納得し、同じ事を考えていたであろうジェイミーも顔をしかめながら無言で同意する。

 

「助かるヨ、二人とモ。この状況を脱したら本当のことを言うサ」

 

ルーガルーはウインクしながら二人に感謝した。

 

 

 

これでお互いの名はわかった。なら後に行うのは現状の打開である。

 

「それで、あれをどうにかする算段はあるの?逃げれそうにはなさそうだけど」

 

ジェイミーは車の陰から顔をゆっくりと出しながら二人に問う。

今ネウロイは駐車場から外への出入り口の前で暴れまわっている。

そのせいで逃げようにも、出入り口を塞がれてしまっており逃げ出すこともできない。それに加えて、地下駐車場から建物への出入り口はすでに瓦礫によって塞がれてしまっていた。

だが問題はそれだけではない。

ジェイミーの視線がロスマンの足に向く。

彼女のあの砲弾のような移動による弊害なのだろう。その雪のように白く綺麗な足首は青く腫れ上がっており、内出血をしているのが見て取れた。

その足首を見るだけでジェイミーは彼女の高潔さに身を背けたくなった。

 

ジェイミーは思う。

こんな状態ではロスマン曹長は歩くことができない。

だがこうなる事は行う前から彼女もわかっていたはずだ。しかしそれでも彼女はウィッチとして私たちを救うために行動した。

人を救うために魔力を使うその姿は、国家利益だけのために魔法を使う私たちよりも傷ついてはいけなかった存在だ。

 

ジェイミーがそんな思いとともに向けた視線にロスマンは気がつき、視線の先を見て苦笑した。

 

「気にしなくていいのよ。おかげであなたたちを救えたのだから」

 

自らのした事への後悔が一切見られないその表情はやはり眩しい。

「そうだとしても…」

ジェイミーはその答えを聞いても暗い表情を変えようとしない

そんな彼女の様子に、友人に睡眠薬を盛った諜報員とは思えないほど落ち込んでいる姿に、ロスマンは、あの時バーで感じた怒りが少し収まるのを自覚する。

それと共にふと彼女はバーでのある一つのことを思い出し、それを口にすることにした。

 

「24フラン」

「…?」

「あなたがバーで払ってくれたクルピンスキーの酒代よ。」

 

ロスマンはそう言うと微笑みながらジェイミーに告げる。

「あなたが私の行動が気になるなら、私の行動は酒代の借りを返すために行ったってことにして。」

 

ロスマンはそう語ると、茶目っ気のある笑顔をジェイミーに向ける。

そんな笑顔につい頬を赤らめ顔を背けた。

 

微笑ましい光景。だがそのバックコーラスではネウロイによって車がスクラップになる音が響いている。

ニヤニヤと二人の様子を見ていたルーガルーは口を開いた。

 

「とりあえず、ロスマン曹長がこれだから逃げられなイ。なら隠れてネウロイがどっかに行くのを待ってみるかイ?確かモナコに501などのエースが来てたからなんとかなるのでハ?」

 

「確かにそうかもしれないけれど。それは...」

 

ルーガルーの提案にロスマンが待ったをかけた。

確かに彼女の言う通り、逃げれないのなら救助を待つしかない。それかあのネウロイがどこかに行くのを隠れてやり過ごすのが一番だろう。

だがここから去ったネウロイが何をするのかは想像に容易い。

間違いなくウィッチが駆けつけるまでの間に多くの死人が出る。

それは軍人として、ウィッチとして避けなければならないこと。

 

そんなロスマンの苦悩する表情を見たルーガルーはもう一つの案を出した

 

「なら倒すしかないネ。とは言っても武器はこれだけだけド」

 

そう彼女はいい、武器を広げる。それに応じてロスマンとジェイミーも手持ちの武器を広げた。

 

3人の所有している武器が地面に置かれた

ワルサーPPK 装弾数2発

ワルサーPPKのマガジン3つ

ワルサーP38 装弾数4発

ククリナイフ2本

 

「あれを倒すには火力が足りないわね…」

 

ロスマンの呟きとともに沈黙が広がる。

とてもあの『アシダカ蜘蛛ネウロイ』を倒せるような武器ではない。

 

絶望的な状況の中、ククリナイフを二本しか出さなかったルーガルーをジェイミーはジロリと見た。

 

「あんたS&Wはどうしたのよ…」

「踏み潰されたネ」

「じゃあ機関砲は…」

「あそこにあるわ」

「…?」

 

ルーガルーではなくロスマンが答え、指で指し示した先。そこにジェイミーは視線を向けると確かに機関砲が転がっていた。

砲身どころか胴体の真ん中からひしゃげ、ただの鉄塊となってはいるMK108 2連装30mm機関砲の哀れな姿があった。

 

「どうすんのよ…」

「一応ナイフがあるからあのネウロイ切り刻めるけど、あの巨体じゃあ、ククリナイフの刃の長さではコアまで届かないヨ。それにあんな巨体の攻撃長時間捌けなイ」

「切り刻めるって…。ルーガルー、あなたやっぱり何者なの?」

「扶桑のウィッチだヨ、ロスマン先生」

「さっきと所属が変わっているじゃない…」

 

無為な会話が続いて行く

だがいつあのネウロイがその場で暴れまわるのをやめ、外にその歩みを進めるのかわからない現状そう時間は多くなかった。

 

3人のウィッチは3者ともに考え込む

そんな時、現状を打破する答えがなかなか導き出されないジェイミーは再度同じ質問をルーガルーにした。

 

「もともとあんたの組織の物でしょ。なんでもいいから情報はないの?」

「だからさっきも言ったように、ろくに知らないヨ。元から此方は裏切るかもとされていた人員だからネ。機密情報は渡されず、渡される仕事もしょうもない運び屋仕事ばかりサ」

「で、現に裏切ったと言うわけね」

「そういうこト。一応覚えているのは、あれが『遺児』の一つってことだケ」

「『遺児』?」

「そう『遺児』。だけどそれ以外の情報はわかんないヨ。あの見たこともない謎のネウロイなんて…」

「見たこともない?」

 

二人の会話にロスマンが疑問を上げた。

二人はロスマンに視線を向けて見ると、そこには疑問符を頭に浮かべ困惑したロスマンの表情があった。

 

その表情をみてジェイミーは目を瞬かせながら聞く。

 

「ロスマン曹長、あれを見たことがあるの?」

「見たも何も、あなたたちも軍学校で見たことあるでしょう?」

「???」

「…?」

 

ロスマンの返答に逆に疑問符を頭に浮かべる二人。

その様子に本当に知らないのかと驚いたロスマンは二人に説明を始めた。

 

「あの形のネウロイは第一次ネウロイ大戦の初めごろに見られたネウロイよ。あのネウロイはその身体構造のほとんどがアシダカ蜘蛛の体を参考にしているわ。そんな形状が特に目立ったから戦場で写真も撮られていて。その写真が各国の教科書に使われていたはずなのだけど…」

 

語られて行くネウロイの知識。

諜報員たる二人が知らないのも無理はない。現在を生き、ネウロイではなく同じ人間相手に戦う彼女たちにとって、30年も前に存在したネウロイの1個体という雑学に近い情報は触れる機会がなかったのだ。

 

そんな雑学にルーガルーは感心しながらロスマンに質問した。

 

「へェ...そんなに情報があるならコアの位置もわかったりするのかイ?」

 

「昔と同じなら、胴体と首の付け根。人間でいうならば『うなじ』ね。とはいってもそのコアを撃つための火力が足りないのには変わりはないわ」

 

思案しながらロスマンは答える

ロスマンの知識により確定ではないが心臓部の予測はついた。だが、そのコアを潰すための火力が不足しているという問題は超えられていない。

 

「なら、ボンド。君の固有魔法で爆破出来ないのかい?」

 

ルーガルーがジェイミーに聞いてくる。

確かに先ほど手痛い一撃を受けた彼女はそう思うだろう。その質問が来ることを予測していたジェイミーは彼女にとって残念な回答をした。

 

「私の固有魔法は、球体であればあるほど爆発しやすいけど、球体でなければないほど爆発の威力も爆発しやすいかも変わるのよ」

 

「つまリ…?」

「弾丸を爆発させようとしても、形状が球体に近くないから、弾丸に込めた魔力のほとんどが爆発の起動のためのエネルギーに使われて爆発火力が落ちる。」

「あー…どれぐらイ?」

「野球ボールならあのネウロイの片足吹っ飛ばるけど、ラグビーボールなら外皮を削る程度」

「そりゃまた極端だね」

 

その答えにルーガルーは苦笑して手を挙げた。

まさにお手上げ。

そんな彼女に今度はジェイミーが質問した。

 

「そっちこそ浮遊脚履いているのだから、どうにかならないの?」

「どうにかしたいのは山々だけれど、手元に武器がないからねぇ。たとえ歩行脚に近い魔導エンジン履いていても出来ないものはできな…」

「まって」

 

ロスマンの一言が再び二人の会話を止めた。

二人は先ほどと同じようにロスマンを見る。

彼女は何か思いついたような顔をした後、真剣な目で二人に疑問を投げかける。

 

「その付けているユニットは浮遊脚なのね?」

「そうだヨ」

「浮遊脚は歩行脚に近い魔導エンジンを積んでいるのね?」

「そうですね」

「ルーガルーは一応あの足の攻撃をナイフで捌ききることができるのね?」

「長くは持たないけど5分ぐらいなラ」

「最後に聞くけど、ジェイミーの固有は誘爆するの?」

「まぁ、しますね」

 

ロスマンは目を瞑り、頭の中でピースを組み始める。

コアは頭の付け根

武器は少数。

歩行脚に近い魔導エンジンを積んだ浮遊脚。

5分ほどなら捌ききることができるウィッチ。

誘爆する魔法を付与できるウィッチ。

そして501

 

ロスマンは組み上がった現状の打開策の内容に頭痛を感じていた。

あまりに突飛で頭の悪い作戦。成功する見込みもない。

だがそうやって眉間にしわを寄せていたロスマンを見てジェイミーが笑いかける。

 

「ロスマン曹長。何か思いついたのならそれをやりましょう」

 

ルーガルーも頷きがそれに同意する。

 

「対人に関してはプロのつもりだけれど、ネウロイに関しては先生がこの場で一番のプロフェッショナルなのサ。従うヨ」

 

そんな二人に見つめられ、ロスマンは決心を固める。

そして作戦概要を話し始めた。

 

「行うかどうかは置いておいて、一つの案としてを聞いて…」

 

所属も生きて来た道も違う3人のウィッチの作戦会議が始まった。

 

 

3.

 

「みなさん落ち着いてくださーい!」

従業員たちの声が響く。だがその声も走り逃げる客たちの騒音によってかき消される。

数刻前にホテルに響いた無数の砲撃音、その音は地下から聞こえ、その後には何かが暴れているような振動がホテルを襲う。

そしてきわめつけは一つの鳴き声であった。

多くの者たちが聞いたことがあるその声は金属を捻りすり合わせたような特殊な声。そう、ネウロイの声がこのホテルの地下から響き渡ったのだ。

 

その声を聞き、多くの客たちが狂乱し逃げ回る。そんな客達を今、従業員たちが必死に避難誘導を行っていた。

 

 

彼らの様子を見ながら富豪はため息をつき内心で独白する。

予想外の事態である。

まさか、一匹の飼い犬が裏切ったせいでここまでひどいことになるとは思いもしなかった。

 

今聞こえる声は、おそらくは『遺児』の一匹。

浮遊脚を逃し、『遺児』を解放してしまったのは大きな痛手とはいえ、優秀な部下が書類と残りのシリンダーだけは回収して来てくれただけ、よしとするべきなのかもしれない。

 

だが、こうなってしまっては後始末が大変である。

各国の様々な組織が今回のことの調査に入るだろう。

 

富豪は再びため息をする。

今回の騒動のせいで、このままでは『計画』にまで別組織からの手が及ぶ可能性が出て来た。

それは非常に低い可能性だが、可能性が生まれたこと自体がまずいのだ。

そしてその対策として用意していた予防策を発動させなければならない。

 

問題はその予防策が、自らの子供のように可愛がっている優秀な部下が私に頼み込んできた願い事を潰して行う策だからだ。

 

富豪は傍らに立つ2人の秘書に命令をする。

それは対象を『強制的な引き抜き』から『トカゲの尻尾』に変更する命令であった。

 

 

 

4.

 

『アシダカ蜘蛛ネウロイ』は暴れていた。

目に入るものを壊しつくす勢いで腕を振り回していた。

 

そんな時、ネウロイの視界に一体の生き物の姿が現れる。

その生き物は足におかしなものを履いて浮かび、両手に刃物を持っていた。

 

そちらに体を向けるネウロイ。だがその巨体を向けられてもなおその生き物は嗤い、手に持った刃物を動かす。

その動きはまるで手招きしているかのような動きであった。

 

次の瞬間にはすでにネウロイの体は動いていた。

轟音のような風切り音、鳴り響く金属音、あたりを彩る無数の火花。

 

暴風雨のように振り回される『アシダカ蜘蛛ネウロイ』の脚部。

その巨木のような足に人間が掠りでもすれば脳震盪、直撃すればひき肉となりうる。

そんな自らの攻撃が、些細な衝撃と共に軌道がずれていく違和感をネウロイは感じていた。

 

目の前で線香花火のような火花が無数に咲いていく。

その煌めく火花は目の前の存在が両手に持った武器で黒塊の足を弾いたものだろうか

 

ならばそれごろ潰さんとネウロイは踏み潰すように足を叩きつける。

だが、それすらも僅かな感触の後に軌道がそれ、無為に地面を破壊した。

 

ルーガルーはその場に浮き続け動かない。

ただ両手に持った二本のククリナイフを振るい、宙に無数の刃の線を描いていく。

その線の一本一本が黒線に触れると白い閃光を放ち、それと共に黒線の進路は乱れあらぬ方向に流れる。

 

ネウロイは自らの巨体から繰り出される必殺の攻撃が、矮小な存在の細腕によって弾かれる現実に違和感を募らせていった。

 

ルーガルーは別に攻撃を弾いているわけではない。

あのような豪脚の一撃を弾きでもすれば、良ければ手に持ったククリナイフが折れ、悪ければ腕ごと持ってかれる。

だからルーガルーは逆にその豪脚に刃を絡め引き寄せ、その勢いに後押しをさせていた。

その結果、ネウロイの攻撃は勢いを増すがそれによって着弾地点がずれルーガルーから攻撃がそれていく。

『剛に対して柔で制す』

扶桑の武術の極意が欧州人の手によって再現されていた。

だが武術を怪異に実践し成功させるなどこの世に幾人いるだろうか?

目の前でいるのは普通の人ならば腰を抜かすほど恐ろしい巨大な大蜘蛛、そしてその巨大な怪異の8本の豪脚によって振るわれる暴風雨なのだ。

 

だがそんな中を狂人は嗤い、武術を示して行く。

狂人には確信があった。

相手が人間ならばまだしも目の前にいるのはただの獣。このような技法など想像もつかないだろう。

 

その確信は正しかった。

ネウロイは目の前で募る違和感に対して策を弄するのではなくさらなる剛で対抗し始めた。

 

豪脚の暴風雨は津波となる。

巨木のような足が幾十にも見え死の壁を作り出す。もはやその速度は動体視力で捉えるのも難しいほど早く、例えるならばまさに『死の津波』

その津波が一斉に目の前の矮小な生き物に襲いかかる。

だがその光景を見てもなお、狂人は嗤う。

 

確かに、この死の津波を全て流すことは不可能だろう。

そう……全てならばだ。

 

 

次の瞬間、ネウロイは爆発音を聴覚が認識すると共に視界が暗転した。

目を覆われたのか?

そんな怪異の考えは現在の身体損傷状態の報告により覆される。

今の爆発により視覚器官吹き飛んでいたのだ。すぐさま急速に視覚器官の再生を始めるが、間髪おかず2射3射と顔面に直撃し爆散して行く。

 

爆発を引き起こしたのは一人の諜報員。

瓦礫を盾に割座に座ったジェイミーが、ワルサーPPKで固有魔法を込めた.32ACP弾を撃ったのだ。

 

だが、その攻撃は視覚器官を潰しても先ほど彼女が語ったようにその威力は小さく、『アシダカ蜘蛛ネウロイ』の驚異の再生速度に完全に負けている。

 

だがそれでも、その弾丸によって作り出された僅かな暗転によって死の津波に穴が作り出されたのだ。

 

その時ネウロイは聞いた。目の前の矮小な存在による侮蔑を含んだ嘲笑を。

 

Глупый(愚か者)…狩りは一人でするものじゃないヨ」

 

ジョンブルの活躍によって生まれた僅かな綻びをルーガルーは認識し、その穴を二本のククリナイフでこじ開ける。

視覚を奪われた事によって数本の黒線がルーガルーからそれていく。

だがそれでもまだ存在する彼女に直撃せんとする猛攻を、彼女はより正確に、より早く、より的確に。彩る無数の白刃が津波をかき分けて行く。

 

ネウロイの思考が苛立ちに染まる。

決死の乱舞は目の前の存在に防がれ、それに苛立ち攻勢を増そうとすると、その出だしを的確に後ろの射撃手が潰して行く。

ならば射撃手を潰さんとしても目の前の存在が邪魔である。

 

幾度火花が散っただろうか、だがルーガルーの動きは一向に鈍る様子がなかった。

 

殺せるはずの矮小な存在が未だ存在し続ける現状。

ネウロイの心に生み出されるのは苛立たしさ、煩わしさ、鬱陶しさ。

そんな感情が湧き上がるが、ネウロイの胸中に焦りだけはなかった。

 

ネウロイは経験で知っているのだ、

目の前の存在はよくわからないものを履いてはいるもののあの雪国で無数に蹂躙した矮小な生き物。

そんな貧弱な体がいつまでもこの猛攻を耐えることができるわけがなく、いつかは息切れを起こす。

万が一近づかれたとしてもあんな小さな刃物では殺されるわけがない。

 

その知識と共にネウロイは乱雑に腕を振るう。だがそれもまた再び弾かれた。

ちょうどその瞬間、突然飛んで来た5発の9x19mmパラベラム弾が振るわれようとしていた足達の関節に直撃し、その動きを一瞬静止させた。

 

ネウロイはその弾丸が飛んで来た方向を見る。

その方向は、ジェイミーがいる方向とはまた別の方向。エディータ・ロスマン曹長がワルサーP38を構えていた。

 

ルーガルーの剣戟、ジェイミーとロスマンの射撃、ネウロイの慢心。

それらが組み合ったのか、一瞬だけ繰り広げられていた暴風雨が、作られていた死の津波が消え去ったのだ。

 

生み出された僅かな隙。

それでもネウロイに焦りという感情は存在しない。

 

 

だがネウロイは…いや長年眠り拘束され続けていた怪異は知らなかった。かつては蹂躙したその生物が今は自らの巣すらも殺しうる力を手にしていることを。

その力の一つが、いま彼女が履いているストライカーユニットだということを。

 

先ほどの無数の砲撃を受けた時点で、怪異は人類の技術の進歩に気がつくべきであったのだ。

 

 

浮遊し、宙に留まり続けていたルーガルーが初めて動きを見せる。

 

 

確かにネウロイのいうとおり、小さな刃物で、小さな拳銃では今ここにいる『アシダカ蜘蛛ネウロイ』を殺すことは難しい。

だが、代わりになるものはある。

 

その方法は、ロスマン曹長が501JFWによるガリア解放の真実を知った時に知った情報。

その方法は、501JFWの戦いの最後を飾った決死の一撃。

その方法は、常識はずれと名高い扶桑の魔女の中でもさらに常識はずれが行なった最後の攻撃。

 

 

ルーガルーが空を舞った。

その動きは奇しくも数刻前自身が受けた曲芸と同じ動き。

 

体を地面と水平にして、胴を捻り、右足を振るう。

 

空中胴回し回転蹴り。

 

しかしその蹴りは『アシダカ蜘蛛ネウロイ』の胴体には届き得ない距離。

空中を空振りする滑稽な曲芸。

だが、そもそも彼女は蹴りを当てることが目的でこの技を行なったわけではない。

勢いと飛距離を伸ばすために行なったのだ。

 

「刺激的な料理をご馳走してあげるヨッ!!」

 

そんなルーガルーの声と共に回転蹴りは放たれ

 

 

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右足から故意にすっぽ抜けたユニットは、まるでフットボールの選手がゴールにボールを蹴り入れるように、『アシダカ蜘蛛ネウロイ』の開いた顎の中に蹴り込まれる。

 

ひしゃげる浮遊脚。口腔内を舞う部品。

そして、起動する固有魔法と暴発する魔力エンジン。

 

「kaboom!」

 

ジェイミーのリベリアンもどきな決め台詞と共に、『アシダカ蜘蛛ネウロイ』の頭はうなじごと大爆発の閃光に包まれた

 

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