書きたいことを書くだけの短編集   作:如月風牙

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SAO編 仮題:其の者、唯の愚者につき。
SAO 2022,11,6 始まりと終わり。


「……」

 

 目眩がする。チクチクと、まるで熱された針に身体中刺されているかのような鋭い痛みがする。

 

「ーーっ」

 

 今にも吐き出しそうな自身を何とか平静を保つようにして押さえ、状況把握のため頭を回す。

 

 

 

 ーーしかし、いくら考えても、いくら思案して、シュミレーションしても結果は変わらない。だって、現に視界に映っているものが全てを物語っている。

 

 視界には、見慣れたニュース番組から見慣れない、文字から見て外国のものだろう。その全てが一つのことを報じていた。

 

 

 

『緊急速報です。今日販売されたVRMMORPGのソードアート・オンラインですが、今現在入った情報によりますと二百人前後のプレイヤーが脳に激しい損傷を受け亡くなっているという事件が……』

 

『製作者の茅場晶彦氏による声明によると、無闇にナーヴギアを取り外せばプレイヤーの生死は保証しないとのことで……』

 

 

 

 ーー実際には聞こえていない。しかし、そんなことを言っているのがありありと分かるほどに、ニュースの画面は緊迫したものだった。

 

 ニュース番組の画面に見える「SAO」の三文字と「脱出不可!?」の文字が、今の状況を嫌なほど忠実に再現していた。

 

 

 

***

 

 

 

「……っ!」

 

 ハッと気がついて辺りを見渡す。どうやらパニックになっていたのか短い間だったが意識が無くなっていたようだ。

 

 右手の人差し指と中指を合わせてチョキの指をくっつけたような形にして上から下に降ろす。

 

 軽快な音と共に複数の白い丸が視界に映る。そのままアイテム「手鏡」をオブジェクト化して顔を見る。

 

「……リアルの俺、だよな。どう見ても」

 

 そこに居たのは先ほどまでのアバターはおらず、十数年付き合ってきた自分の顔が映っている。勿論、先までの影響で顔色は悪い。こんなところまでリアリティに満ちさせる必要はないと言うのに……

 

 

 

『ではこれでソードアートオンラインの正式チュートリアルを終了する。では諸君、この世界を存分に楽しんでくれたまえ』

 

 そんな皮肉を最後に、「始まりの街」を包むエラーメッセージで埋め尽くされた赤い空から青い空へと戻り、その中央にいた十メートルはありそうな黒ローブの人物が消え去った。

 

「いやあぁぁぁぁーーっ!」

 

 一人の女性プレイヤーが発したそんな悲鳴が、九千人ほどのプレイヤーの不満や恐怖を爆発させた。

 

「ふざけんなよ! 早くうちに帰らせてくれ!」

「……なんでこんなことに」

 

 阿鼻叫喚。静かに絶望するものや怒声を上げる者もいる。

 

「……選択肢は三つ」

 

 パニックになった者がいれば返ってこちらは冷静になりと言ったのはどうやら本当のことだったようで。

 

 気がつけば広場を抜けた先にある武器屋の前に立っており、これからどうしていくか考えていた。

 

「第一層に留まって助けを待つか」

 

 そうすれば他力本願だが、待つだけでいいので金銭面……コルの問題がどうにかすれば宿屋あるいは野宿でも過ごしていける。

 

 だが問題が一つ……いや、全部に言えるが、精神面……SAN値がマッハで削れるだろう。

 そしてあり得ないかもしれないがPK……プレイヤーを殺す者も現れるかもしれない。世界は広い。この一万人余りの中に殺人鬼の一人や二人、それもこの状況だ。現れてもおかしくない。

 

「生産職として稼ぐか」

 

 そうすれば上位プレイヤー……攻略を行うプレイヤーにも支援ができる。しかもこちらの損傷は余りない。問題はスキル上げぐらいだろうか。

 

「……攻略にあたるか」

 

 文字通り、百層を目指すプレイヤーとなるか。これが一番確実性があるが死亡のリスクもある。ハイリスクハイリターン。俺が戦闘面で何も出来なければノーリスクハイリターンの一種の賭け。

 

「本当は、生産職にするべきだ」

 

 一層で待って、それでどうにかなるとは思っていない。茅場の言っていることは本当だと、あの記事が教えてくれているからだ。

 

『これは、ゲームであっても遊びではない』

 

 その言葉が頭をよぎる。インタビューを受けた茅場のとある一言。それが今の状態を喩えるにはどうにも的を得すぎている。

 

「……それじゃあ」

 

 

 

 ーー“あの時”と、同じだ。

 

 他人に頼って、自分は後ろで見ている。そんなの、耐えられない。そうやって知らない誰かが死ぬのなら俺が死んだ方が何十倍も有益だ。

 

 正確には違うのは分かってる。でも、自分の手でやらないと意味がないような気がしてならない。

 

「……」

 

 本音を言おう。一層で篭っていたい。そしてクリアするまで他力本願でいたい。でも、それじゃいけない。それでは俺はあの人達に顔向けできない。

 

 それらしき理由を述べるのだとすれば、PKという行為がある以上、どうしても安全を保障される代わりに自身の強化を放棄すると言うのは考えたくなかった。

 重厚な装備を持ったプレイヤーにリンチされるのは想像しただけでゾッとする。

 

「行こう」

 

 だから、俺はそう呟いて、阿鼻叫喚の広間から飛び出すように駆け出した。

 

 

 

***

 

 

 

 ……状況は最悪。走りながらある程度頭を冷やしたが、それだけだ。それだけじゃ何も変わらない。少し視野が広がるだけだろう。まぁ、ないよりはマシなのだが。

 

 俺はβテストを受けているわけじゃない。運良く発売日に間に合って購入ができただけで、このゲームの仕様も説明書を読んだぐらい。

 

 でも、何となくは分かる。この手のゲームは何度かしたことがある。

 スキルスロットには必要なスキルを入れていく。これが一つの生命線になるだろう。

 片手剣スキルならば片手剣の技であるソードスキルが使用できる。

 隠蔽スキルならばモンスターやプレイヤーから身を隠せたり。

 

 そしてそのスキルスロットの数の増え方は、初期状態で二つ、レベル六で一つ、そしてレベル一〇で一つ増え、以降は一〇レベル刻みで一つずつ増えていく。

 

「まずは武器スキル……片手剣スキルをとっておくか」

 

 このチュートリアルが始まる前に少しだけ各武器を一種類ずつ初期装備でスキルを取らずに戦ってみたが、やはりポピュラーでレンジも長い片手剣が良いだろう。

 

「ーーっ」

 

 妙に緊張する。序盤……もしくはずっとこの片手剣という武器カテゴリーが俺の相棒となるわけだから緊張しないわけがない。

 ……スキル画面で片手剣を取得するかの確認文が出て震える手でOKボタンを押す。

 

「……」

 

 今の俺には戦闘カンというものがないからまずは付近のモンスターを狩っていくといいのかもしれない。こんな経験初めてだしな。仕方ない。

 

 だから買うのはポーションのみ、このゲームのポーションは時間経過による回復で、ポーションを何度も飲むことは出来ない。

 しかしレベルが低い状態だと全回復できる。

 

「あとは情報だが……」

 

 道具屋でポーションを十本程買い、フィールドに出ようとするところで、足音と次いで話し声が聞こえた。

 

「今のうちに次の拠点を目指した方がいい。俺は危険なポイントは全て抑えている。だからレベルが低い今でも安心して到着できる……だから」

「……」

 

 いきなりで隠れるような形になったため盗み聞きのような構図になってしまった。余り声が聞こえないし顔も裏路地にいるからか見えない。

 

 聞く限りだと、βテストに参加してたらしきプレイヤーがもう一人の男をパーティに誘っていると言う話らしい。そして話を聞く限りだと男は仲間とSAOを買っていたからテスターの話を聞いて躊躇っているらしい。

 

「いや、俺はこれでも前のゲームじゃギルドのアタマ張ってたんだしよ。大丈夫、おめぇは気にしないで次の村に行ってくれ」

「……そうか」

 

 その話が聞こえた瞬間、俺はゆっくりと離れることにした。

 

「(次の村……そこにまずは行った方がよさそうだな)」

 

 目的が決まった。後は行動に移すだけだ。あのテスター殿に頼ってもいいがそれじゃあこの先生きていけないだろう。だからゆっくりと二人から離れてフィールドに向かうように足を向けたのだが。

 

「そこなオニーさん。オレっちの話を聞いていかないカイ?」

「ーーっ!?」

 

 いきなり話しかけられたためみっともなくビクッとしてしまったが仕方がないだろう。足音なしにいきなり後ろに現れたのだから。

 

「成程……それが隠蔽スキルの効果ってやつですか」

「そういうコト。今ならオネーさんが君の欲しい情報を売ってあげるヨ」

 

 後ろを向けばそこには金褐色の巻き毛でショートの女性プレイヤーが立っていた。身長は低めだが恐らく俺よりは何歳か上なのだろう。

 そう感じたため、というか初対面では敬語が基本なため基本で話しかける。

 

「そう言う貴女は……ベータテスターって事ですか」

「そーだネ。確かにオレっちはテスターだヨ」

「……じゃあ、次の村への安全ルートを教えてくれませんか?」

 

 運が良いとばかりに先ほど手に入れた次の村へのルートを聞こうとしたのだが。

 

「あー売りたいのは山々なんだがネ。まだそういうのは売れないんだよナア」

「βテストとの擦り合わせが済んでいないから。ですよね、見た限りだと貴女は情報屋。しかも手慣れている事からβテスト時からの古株でしょう……ならばそれなりにプライドがあるんでしょうね」

「……中々の切れ物だネ。オレっちから提供した情報が間違っていテ、結果的にプレイヤーを殺してしまウ。なんてことになったら信頼度ガタ落ちだからネ」

 

 どうやら当たっていたようだ。彼女の目線が鋭くなる。それを真正面で受け流しながら。

 

「じゃあ、俺がその情報を貰ってそのエリアを制圧してきます。それで情報との差異を貴女に流す。というのはどうでしょうか?」

「あのナ、話聞いていたカ? それにオニーさんが死んじまったら情報も入ってこないじゃなカ。そうなれば元も子もないダロ?」

「それでも、です」

 

 覚悟はもうとっくに決めている。このゲームのクリアに貢献すると。そのための第一歩を踏み出す。そうなれば後は走り続けるだけだ。

 

「……分かった。こんなのオレっちの性分じゃないんだけどナ」

「ありがとうございます」

 

 と呟きメニューを動かす。そして視界の中にフレンド申請の文字が。

 

「……アルゴ。ですね」

「じゃあこれが例の情報ダ。トー坊」

「それ、俺のことですか?」

 

 “Touga”だからトー坊。我ながらナイスネーミングだロ? と言うアルゴ。

 

「……死ぬなよ。トー坊」

「分かってます。この御恩は決して忘れません」

 

 頭を深く下げて、暫くした後に振り向いてフィールドに向けて足を進める。

 

「(こんなところで死ねない。無様に死ぬことだけはできない)」

 

 

 

 ーー死ぬのなら、せめて誰かを守って死にたいものだ。

個人的に好みな作品(安寧の天使制作に付き、二回目)

  • SAO 仮題:其の者、ただの愚者につき。
  • 魔法科 仮題:魔法科高校のニ科生
  • 殺戮の天使 仮題:安寧の天使
  • なし
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