「意外だったな」
演習室の扉を開けるなり摩利がそういってきた。
「何がでしょうか」
「君がそんなに好戦的だったことさ。君はあまり他人に興味がないように感じていたからね」
そういっている摩利の目は爛々と輝いており、期待しているのだろうというのがひしひしとわかる。
そんな二人を見ながら、早々に準備を始める俺に話しかける声が。
「あの、颯くん。すいません! 生徒会役員がご迷惑を掛けました!」
「あの……あずさ先輩が気にする必要はありませんよ。それに敬語はやめてください。自分そんなに高尚な人物じゃないですから」
年下に対する対応じゃなかったため少し引きながらそういう颯に安堵したのかため息をつくあーちゃん先輩に大変なんだなぁと感じる颯であった。
「そう……だね。ありがとう颯くん!」
「いえ、大丈夫ですよ」
達也たちのようなピリピリした雰囲気とは違い、ここはほんわかというか、そんな緩い空気であった。
達也と服部の準備ができたようで、達也が黒いアタッシュケースから拳銃形態のCADを取り出す。そして二人は向き合うように立つ。審判は摩利が務めるようで、ルール説明が始まる。
「よし、これからルールを説明するぞ。相手に障害となるような攻撃や死に至らしめる関節攻撃含んで禁止。捻挫以上の怪我を与えないのであれば直接攻撃もありだ。勝敗は一方が先頭不能か降参、審判が続行不能と決めた場合とする。以上だ」
その言葉に二人は頷き、それぞれがCADを構える。颯はちらっと深雪の方を向くが、その表情はまるで兄が負ける姿を想像できないようだった。
「……始め!」
……その瞬間、服部が倒れる音が辺りに響き渡った。
あまりにも一瞬で決着がついたため、深雪以外の生徒は絶句している。
(身体能力強化の魔法の発動は無しで……これはいくら何でもこれは……)
颯は冷や汗が出るのを感じた。目で追えなかったわけではない。確かに達也は一瞬で服部の後ろに回りこみ、魔法を発動させた。そしてその瞬間服部が倒れたようにしか見えない。事実そうなのだからどうしようもない。
「……勝者、司波達也」
そして達也の表情。何てことはない。ただ自分のなすべきことをしただけだという顔。まるで服部に興味すら持たずにCADのアタッシュケースのもとへと歩む。
「待て。今のは自己加速術式を予め展開していたのか?」
「……していないというのは、先輩が一番おわかりだと思いますが」
そう、達也のあの身体能力はあくまで天性のもの。摩利はそうとしか思えなかったし、他のメンバーもその結論に至った。しかしまぁあり得ないという意見が大半だろう。
「しかし、あれは……」
「魔法ではありません。正真正銘、身体的な技術ですよ」
「私からも提言します。兄は忍術使い、九重八雲先生の指導をお受けになられているのです」
その後の証言で、達也はその体一つで魔法師と戦えるであろう古流の体術使いである九重八雲の弟子ということ。それを聞いた颯は何となく納得がついた。あの人ならやりかねんというそんな確証ももとに。
(まぁ、それなら妥当……か? どちらにせよ身体能力が桁外れってことは分かったが)
「では、あの魔法は……見たところサイオンの波動そのものでしたが」
「酔ったのではないんでしょうか?」
「……どういうこと? 颯くん?」
ほとんど喋らずに考え事をしていた颯がようやく口を開いた。その発言に疑問を浮かべた真由美に颯は続けて。
「魔法師は、サイオンに酔わないように訓練するのが基礎技術ですが、予想外のサイオン波に晒されると体が揺さぶられたかのように感じるんでしょう」
「ですが魔法師は普段からサイオン波に晒されています。そんな簡単に……」
「波の合成でしょう」
それでも信じられないと感じている真由美にそういったのは鈴音であった。
「振動数の異なるサイオン波の重なる場所をちょうど服部君のいる地点に合わせたのでしょう。よくそんな精密なことができますね」
しかしそれだとまだ疑問が残る。と鈴音は続けて、
「しかし一度に三回の魔法をどうやって……それほどの処理能力があれば二科生にはならないはずですが……」
その問いに答えたのは先ほどから達也のCADをじーっと見つめているあずさであった。
「もしかして、達也君の持っているCADって【シルバー・ホーン】じゃありませんか!?」
「え? ほんとですかあずさ先輩! 達也、どうなんだ!?」
それにかみついたのは意外にも颯であった。颯とあずさは唐突にテンションが上がっているのか、達也も見たことがないほどに“おかしく”なっている颯に少し引いていた。
「あ、ああそうだよ」
さすがの達也もそんな颯をみて何時もの平然とした表情をしていられるわけではなかったようだ。
「ちょっと見せてください!(見せてくれ!)」
「あ、ああ」
許可を得た二人は達也からシルバーホーンをひったくるように取り、観察を始めた。
「これが夢にまで見たシルバー・ホーン……」
「この配色、すらっとしたフォルム。そして控えめにかつ大胆に書かれている【SILVERHORN TRIDENT】の文字。あぁなんてすばらしいんだ!」
「しかも持ち手も使用者を考えて作られていますよ! ほらここを見てください!」
「なるほど見た目では硬派に見せているが実はここでクッション素材を使用することで使用感を……実際に見たことがないからこそ堪能できるこの感触!」
「まさか颯くんが話が通じる方とは思いませんでした!」
「こちらも、あずさ先輩が同類だとは思いませんでした。そしてさすがの観察眼です。俺もまだまだ磨きどころがありそうですね……」
「「「「「…………」」」」」
「「……はっ」」
いつの間にか服部も目を覚ましており、全員でジーっとみられていることに気づいた二人はあわあわとしだした。
「……とりあえず、返してくれるか?」
「「あっ……」」
達也にシルバー・ホーンをとられた二人はまるでおもちゃをとられた子供のようにしゅんとしてしまった。
***
あずさと颯のせいで話がそれたが、波の合成にはシルバー・ホーンのループキャスト、という技術が用いられている。これは一回毎に魔法を再展開せずに連続で同じ魔法を自身のキャパシティが許す限り連発できる、というものだ。
これを用いて周波の違うサイオンの波を合成して服部のいる場所に三つの波が重なるようにしたのだという。それはそれでなかなかやばいのだが。
「……んんっ、とりあえず。決着はついて、次は颯くんの番ですね!」
「はい! そうですね!準備はいつでもOKです!」
若干二人のキャラがぶれているような気がしないでもないが気にせずに続けるとしよう。もういろいろと疲れたと感じていた達也であった。
「じゃあ次は颯くん、いけるか?」
「……大丈夫です」
フィールドの中に入ると、先ほどまでの雰囲気はすでになく、颯は真剣なモードになっていた。正直負けてもいいと考えていたのだが。
「自分も大丈夫です」
「どうやら服部も本気のようだ。颯、油断するなよ?」
「こちらが挑む身なんです。油断なんてもってのほかです」
そういって懐の中から特化型のCADを取り出す。個人的にカスタムされているのか、CADの色は赤と黒の配色になっている。
「……始め!」
その瞬間、颯は自分よりも魔法の処理速度の良い服部が先手を打つことは分かっていたため、自らを視界から外すために走り出す。
その速度はもはや達也にも迫るだろう速度だ。達也たちの息の飲む音がわずかに聞こえるがそれに思考を割いている暇はない。標準を外すために飛ぶ。
「っな!」
その高さは優に三メートルを超え、そのまま服部の後ろに着陸するが、達也との戦闘で変態的な動きに慣れたのかすぐさまこちらを振り向き、魔法式を完成間近の状態で颯に標準を合わせ、発動させる。
……しかし、魔法は発動しなかった。颯の手にはCADがある、あの速度で術式解体を行ったようだ。しかし、それで動きが止まるほどではない、一旦距離をとり颯を睨み付ける。
「今年のニ科生は体術が必修科目だったりするのか?」
「そんなまさか」
そこで会話は打ち切られ、颯が駆け出す。CADはすでに服部の方向を向いている。服部もそれに反応しCADを構えようとしたが。
「なっ!?」
服部のCADはまるで鉛のような質量を持っており、持ち上げるのに数瞬かかる。
「すいませんね、先輩。俺の勝ちです」
「……どうやらそのようだ」
動揺した服部の隙を見逃すほど颯はバカではない。すぐさま服部に接近し、体術で抑え込みCADを後頭部にあてがう。
「勝者、柊颯!」
その合図を聞き、颯は大きなため息をつきながら皆の方へ振り向き、心底嫌そうな表情をしながら。
「これで自分も風紀委員参加ですよね……はぁ。負ければよかった」
「さっきのが術式解体か……」
颯の後に立ち上がった服部に颯は解説? を始める。
「自分は昔からサイオン量だけはあったんですよ。ですから術式解体のようなサイオンだけを用いた魔法であれば使うことはできますね」
「そしてその身体能力は?」
それもなかなかイレギュラーではあったが、服部はそれよりもと続けてその異常な身体能力について聞き題した。
「あっはは、まぁ自分も達也と同じってことですよ。自分も九重八雲先生から指導を受けた身ですから」
「そうなんですか!? 颯さん!」
「……受けている、ではなく受けた。か」
「そゆこと、俺は八歳まで九重先生の指導を受けていたんだけど、家の事情で受けれなくなってね」
「……はぁ、それで、最後のは加重系魔法か?」
「そうですね、自分は加重系……主に重力を使う魔法に関しては自信がありますので」
颯自身も九重から指導を受けて今の体術を得ているのだという。
「まぁ身体能力やサイオン量は審査の対象になりませんし、達也のようなサイオン波の多変数化も同じく審査の対象外ですからね」
「実技試験での評価対象は、魔法を発動する速度・魔法式の規模・対象物の情報を書き換える強度で決まる……テストが本当の能力を示していないっていうのはこういうことか」
そしてCADをしまい、あずさとCAD会談をしながら帰ろうとした俺の耳にとある会話が聞こえた。
「司波さん。さっきは、その、身贔屓など失礼なことを言いました」
「いえ、わたしの方こそ生意気を言いました。お許しください」
……どうやらこれで一件落着。らしい。
「颯くん颯くん! まずはどのCADについて話しましょうか!?」
「そうですね……まずは達也が持っていて鮮明に記憶に残っていることですしシルバー・ホーンについて話しましょうか!」
「はい!」
そんなことはさておき、あずさと話す颯を見ている真由美と摩利。
「……仲がよろしいことで」
「そうだな。あずさが男性にこんなに心を開いたのも珍しい」
どうやら、あずさは面倒な先輩方に目をつけられたようだ。二人の目は新しいおもちゃを見つけたかのようにきらめいていることに二人は気づくことはなかった。
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