「ふぅ、ここに来るのも久しぶりだなぁ……先生元気にしているだろうか?」
早朝、颯が足を運んだのは九重のいる寺。ゆっくりと深呼吸をして、足を踏み入れる。
するといきなり鋭い蹴りが颯を襲う。しかしそれを予測していたかのように体を横に倒しながら回転して蹴ってきた者と向き合う。
「お久しぶりですね。八雲先生」
「そうだね颯くん。なんだかんだでもう七年も経つのかい……君の腕はいまだ落ちていないようだね?」
「訓練を怠ったことはありませんので」
先ほどまで攻撃を受けていたとは思えないほど穏やかな声音で会話する二人。これが二人にとっての普通なのだろう。
「久しぶりに乱取りでもするかい? 暇な弟子たちも多いしさ」
「……そうですね。そうしましょうか」
数分後、寺の中には多くの修行僧と颯が向かい合っていた。
「君たち本気を出しなさいよ? 颯くんはもしかしたら達也君よりも強いかもしれないよ?」
「それはさすがに言いすぎですよ? 先生」
「君の方こそ謙遜しすぎじゃないかい? 一度私を倒したというのにさぁ」
その声にざわめきが広がるがそれを聞いて颯は苦笑しながら、
「ただの不意打ちですよ。あれは粘り勝ちしただけじゃないですか」
そんなことよりも、と言いながら構えをしながら。
「先生の弟子がどれほどなのか、お手並み拝見ですね」
「ひえ~怖いなぁ相変わらず」
それを合図に修行僧たちが襲い掛かってきた。それを涼しい顔で避ける。
「そういえば、先生のことだから深雪さんにいろいろとちょっかいかけているんでしょう?」
「む、なんでそれを」
「あのですねぇ……これでもあなたのもとで何年も修行してきた身ですよ? 先生の性格ぐらいは把握しています」
会話する声に疲労など一切ない。だが修行僧の方が徐々に息切れしてくるものが増えてきて、軽くあしらうついでに体の軸をずらすように手刀を当てるとぐったりと倒れこんで、修行僧たちは全滅した。
「ほら、次は先生ですよ?」
「おっと、そうしたいんだがねぇ……君にも用事というものがあるだろう?」
「……はいはい。では修行僧の皆さん。これからも頑張ってくださいね」
そう言って颯は八雲についていく。しばらく歩き、そのまま寺の裏側の縁側に座る。
「まぁ要件というのは簡単です。最近行動を起こしているエガリテとその上位組織ブランシュについてです」
「相変わらず話が早いなぁ君は……君の方でも調べたんじゃないのかい?」
まぁ、確かにそうですが。と言うも続けて、
「念のためですよ、もしかしたら何か食い違いがあるかもしれませんし。ついでに先生に会いたかったですし」
「君じゃなくて美人な子にいって欲しかったよその台詞」
そんなこんなで世間話をしていたのだが、不意にまじめな表情になり、
「……っと、ブランシュについてだね、知っている通り魔法能力による社会差別を根絶することを目的に活動する反魔法国際政治団体でそれ日本支部のリーダーが」
「司一。第一高校に剣道部主将の司甲の兄であり、再婚相手の連れ子でもあるから実質的には義理の兄弟といったところでしょうか」
かぶせるようにして話す颯に八雲は苦笑いしながら、
「そこまで調べているのなら問題はなさそうだけど?」
「まぁ、そうですね」
そのあとに時計を確認し、話をそこそこに切り上げ寺を後にした。
「……変わらないねぇ、颯くんは」
「師匠、お言葉ですが、彼は……?」
「ん? そうだね、一言で言えば……消えた者。としか僕からは言えないねぇ」
***
「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「大丈夫か? 颯」
「レオか……ん、大丈夫ぅ……」
新入部員勧誘週間も終盤になるころ、颯と達也は別の意味で疲労していた。
「なぜかは知らないけど、俺と達也の前で事件が起きることが多くてね、それを抑えた後必ずと言っていいほど魔法の暴発が起きてね……疲れた。達也は初日から大活躍じゃないか。剣術部数十人相手に勝ったそうじゃないか」
「それに今や有名人だもんな、魔法を使わない謎の一年生! ってな」
「謎のってなんだよ……調べれば個人特定は楽だというのに」
確かに、謎のっていうのは意味が分からないなぁ。
「疲れたぁ……なんで朝なのにこんなに疲れてるんだろ……あそっか朝から運動したからかぁ」
「……颯さん大丈夫ですか? どことなく口調もおかしい気が……」
度重なる疲労で颯の思考はすでにおかしくなっていた。詳しく言えば口調も間延びしている。
「達也ぁ。そういえば壬生先輩から呼ばれているんだよねぇ? 深雪さんから聞いたよぉ」
「あぁ、何やら厄介ごとかもしれないな」
「もしかしたら告白でもされるんじゃない?」
エリカがニヤニヤしながら達也をいじる。達也は眉一つ動かさずに
「そんなわけないだろ? 精々あの時のお礼とか、そんなところだろう」
「そうかなぁ? 助けてくれたことで恋しちゃったとかあるんじゃない?」
「仮にそうだとしても、俺は答えるつもりはない。深雪がいるしな」
「そこで深雪さんを理由に出すのが達也さんらしいですね……」
机に突っ伏しながら話す颯はどんどんと眠気が増してくるのを感じた。
***
「んぅ……ふぁぁ」
目を開けると外はすっかり放課後になっていた。こうしていると時間は気が付けば過ぎ去っていて、記憶もあいまいだから大変だ。今日は風紀委員の仕事もなかったため、さっさと帰ろうとしたのだが。
「あ」
「颯さん、こんにちわ」
ちょうど雫が校内にいたようで、二人は鉢合わせした。
「雫さん? ほのかさんがいないけど」
「私とほのかをセットで考えないで」
「それもそうだ。それで、雫さんもこれから帰るの?」
「うん、颯さんも一緒に帰る?」
「そうだね……することもないし、構わないよ」
一人で帰るのもなんだかんだであれなので一緒に帰ることにした。
「そういえばほのかさんは?」
「バイアスロン部に入部するって」
「へぇ、あんなことがあったのに?」
「まぁほのかだし」
なかなか度胸があるというか、一度は大けがしそうになった原因の部活に入るとは。
「そういえば颯さんはCADの調整ができるんだよね?」
「そうだね、とはいえ達也の方が実力的に上だろうし、自分はそんなに大したことはできないよ」
「ふーん……にしては颯さんの調節したCADの展開速度は一科生と同じくらいだったと思うんだけど」
ジト目でこちらをにらんでくる雫に、狼狽する素振りを見せる颯に、
「なんかほかにも隠していること、あるでしょ」
「隠してることって……ないよ別に。CADの調節は入学試験の基準にはなかったし、自分の魔法力は本当に実技試験のままだから」
「……そう」
まだ納得はしてないけど。と再びジト目で颯を見る雫だったが暫く経つとため息をついて
「まぁいいか、誰にも言えないことはあるもんね」
「だからなんで俺が何か隠している前提なんだよ……」
そうこうしているうちに分かれ道に出たようだ。
「じゃあ俺はここで、また明日」
「ん、また明日」
なんだか普通の青春っぽいことをしたなぁとどこか見当違いなことを考えながら颯は岐路に着いたのであった。
***
「昨日、二年生の壬生をカフェで『言葉攻め』したのは本当か?」
「……(にこっ)」
「そんな事実はありませんよ、ただカフェで世間話をしていただけです。だから深雪も抑えてくれ」
開幕なかなかな切り口で始まる会話に少し反応が遅れてしまったが、達也の女たらしが発動しただけだろうと自己解決する颯。少し生徒会室の室温が数度下がったが、達也が深雪をたしなめると直ぐに温度が元に戻った。
「そういえば、達也くんと颯くんはここ数日かなり事件に巻き込まれているようね」
「そうですね、そして生徒には共通点がありました」
「青と赤で縁取られた白いリストバンド……そしてそれで活動していてなおかつこの魔法科高校にかかわってきそうな組織……例えばですが、ブランシュとか、あり得そうですね」
その言葉に真由美と摩利の表情が驚愕へと変わったことで達也と颯の中で答えが一致した。そして達也は改めて颯の危険性を認識した。
「どこで……それを?」
「情報規制がかかっていようが情報は洩れる者です。噂や口コミなどなど……すべての情報源を止めることなんてできませんよ」
「……それもそうね」
真由美の顔に緊張が浮かぶ。まさか颯……一生徒にそこまで情報を持っているとは思わなかったのだろう。
「とはいえ確証はありません。魔法差別をなくそうとしている組織と襲い掛かってきた人が二科生のみだったこと。これが二科生と一科生の差別をなくす、あるいはどうにかしようとしている生徒たちがいるとすれば。エガリテの後ろにブランシュがいると考えたほうがいいでしょうね」
エガリテという言葉に再び驚嘆する。しかし、と颯は続けて。
「まぁあくまでも予測でしかありませんので今は今の職を全うするまでですよ。無理ない程度にやっていきますよ」
そう一方的に話を打ち切り、颯は言いしれない怒りを抱えながら生徒会室から出た。それを達也は冷ややかな目で見つめていた。
***
『全校生徒の皆さん!!』
放課後、ボーっとしているとハウリングするほどの大音声が校舎内に響き渡った。
「うわびっくりした」
「何だ急に!? びっくりさせんなよ!」
『失礼しました。生徒の皆さん!』
どうやら放送室のつまみを間違えたようで、しばらくたった後に同じセリフがすこし音量を抑えられた状態で響いた。
『僕たちは、学内の差別撤廃を目指す有志団体です』
「有志団体……ねぇ」
エリカがつぶやく。恐らくブランシュが動いたのだろう。どうせ放送室もジャックしたのだろうと考えている。
「達也、俺たち多分お呼びがかかるよな? 放送室前に行くか?」
「そうだな」
そういって教室を出ようとすると風紀委員に配布されているレコーダーから着信があった。
「噂をすればなんとやらか。よし、行くぞ」
「あ、お気をつけて」
美月の不安そうな声音を聞きながら颯たちは放送室へ駆け足気味に向かった。
***
途中で深雪と合流した颯と達也が放送室前に来た時には既にほかのメンツがそろっていた。
「遅い」
「すいません」
摩利自身本気で咎めるつもりはないんだろう。形だけの叱咤となった。
「それで、状況はどうなっているんですか?」
「生徒がマスターキーを用いて放送室に立てこもっている状況だな」
「明らかな犯罪行為じゃないですか」
窃盗と立てこもり、どう考えても犯罪である。そしてカギはもちろん閉まっているため今往生しているようだ。
「十文字会頭はどうお考えですか」
達也がいまだ沈黙を保っている克人に話しかける。克人はゆっくりと口を開き、
「俺は彼らの要求にこたえてもいいと思っている」
「そうですか、ですがそれをどうやって伝えるべきか……」
「自分に考えがあります」
そういって達也が端末を取り出しどこかにかけ始めた。その場にいた全生徒がその様子を確認していると……
「壬生先輩ですか? 司波です」
その言葉を聞いた瞬間、体感温度が低くなるのを感じ、隣にいた氷の女王をなだめることを決めた颯であった。そんな颯を知ってか知らずか、達也は一切表情を動かさずに、
「……それで、今どちらに? ……はあ、放送室ですか。それはお気の毒です」
はたから見れば親しげに見える光景に深雪の表情がどんどん暗くなってくる。
「深雪さん、落ち着いて」
「ですがお兄様は」
「恐らく呼び出されたときに交換しただけでしょうし、達也自身壬生先輩にそこまで思うことは無いはずだ。だから落ち着いてくれ。そろそろこっちも霜焼けしそうだ」
すでに廊下は薄い氷が張っており、夏とは思えないほどの寒さを出している。
「……すみません。颯さん」
「いや、気にしないでくれ」
颯が深雪と交渉しているうちに達也の交渉も終わったようで、
「それより、体制を立て直すべきではないかと」
「…君は先ほど、身を保証するという旨の話をしていたはずだが?」
「自分が保証したのは壬生先輩の身柄だけですよ」
その言葉に生徒会メンバーなどの達也にかかわりのある生徒は苦笑いをしていた。確かに嘘入っていないだろう。達也は「先輩に交渉して壬生先輩の安全は保証する」という話をしていた。そこに他の生徒は含まれていないということだろう。
「それはそれとして、お兄様。壬生先輩のプライベート番号をわざわざ端末に保存していた件はあとでゆっくりお話ししましょうね?」
「……わかった」
今日も司波兄妹はいつも通りです。
個人的に好みな作品(安寧の天使制作に付き、二回目)
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SAO 仮題:其の者、ただの愚者につき。
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魔法科 仮題:魔法科高校のニ科生
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殺戮の天使 仮題:安寧の天使
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なし