とはいえ、稚作を待ち望んでいる方なぞ数えるほど居ないでしょうが。
では、どうぞ。
キリトのその顔を、俺は呆然と見つめることしか出来なかった。
「……っ」
自然と、手が右胸を握りしめるようになってしまう。ダメだ。このままじゃ、何も出来ないままになってしまう。それだけは、それだけは嫌だ。
「私も行く」
そんな時に、アスナの声が耳に入ってきた。
俺よりも若いであろう女子がここまで言っているんだ。言い訳にしかならないだろうが、年上の俺が立ち上がれない訳がないだろうが……
「……俺もだ、まだこんなところで終わっていいわけがない」
「分かった。……行くぞ!」
キリトのその号令と共に、俺は、俺たちはコボルトロードに向かって駆け出した。
駆け出しながら、アスナは邪魔そうにフードを外し、キリトは周囲に指示を出しながら。前へと進んでいく。
「二人とも! 手順はセンチネルと同じだ!」
「「了解!」」
返事を返しながらも視線は前方に固定して走り続ける。
徐々にデカくなっていく巨体に体がすくみそうになる。さっきのは無我夢中だったからあまり注目していなかったのだろう。
「おおォォォォ!!」
自らを鼓舞するかのように声を上げる。
***
そこからのことは、あまり覚えていない。夢中に、かつ繊細に二人と連携を行いながら四本のHPゲージを削っていく。
ソードスキルとスイッチを繰り返し交互に、隙が見えれば回復も行いながら。
しかしそれにも限界があった。
「ぐあっ!」
「きゃあっ!」
俺がポーションを飲んでいる間、二人のそんな悲鳴が聞こえ、すぐさま視線をそちらによこすとコボルトロードを跨いで向こう側、俺の見えない場所に二人が倒れているようだ。
「……」
すぐさま体を動かそうとし、体が動かないことに気がついた。
長時間、無我夢中に命をかける戦いに精神を集中させていたからだろうか、一度緩まった緊張と焦りで体はどんどん重くなっていく。
「動けよ……っ」
「ぬ……おぉぉぉぉっ!!」
そんな時、向こう側から野太い声と共に、振りかぶったコボルトロードが大きく怯むのを見た。
「今しか……ないだろ!」
ここで動かなきゃ意味がない。何も変わらない、変えられないだろう!
「……っ」
走り込みながらコボルトロードのガラ空きの背中に向けてスラントを放ち、一瞬だけこちらに視線が向く。
怖くはない、もう慣れた。命を賭けるのも、元より賭けて当然の命だ。今更無くなろうがどうだっていいんだ。吹っ切れろ。
「ボスを後ろまで囲むと全体攻撃がくる! 技の軌道は俺が言うから、ソードスキルで相殺はせずとも盾で防げる! トウガ! まだ動けるなら正面でエギルたちの援護を頼む!」
「おう!!」
どうやらちょうどいいタイミングで前線メンバーが到着して戦うようだ。
「分かった! 今そっち側に行く!」
大声で返事しながらコボルトロードの正面。キリトたちの方向へ向き直る。そこには攻略会議の際にいた黒人男性であるエギルがいた。どうやらこのエギルたちのグループが駆けつけてくれたようだ。
「次、右水平斬り!」
「おう!」
コボルトロードの構えを見た瞬間にキリトからの言葉が飛ぶ。全員がそれに反応して各盾を構えたり回避行動を取ったりする。
エギルが大斧を振りかぶり、アスナが細剣を手に軽やかに舞い、他のプレイヤーもそれぞれ自分に出来ることを精一杯行なっている。
「ラスト! アタック行くぞ!」
「了解!」
俺たちのソードスキルの硬直時間を待たずにキリトとアスナが駆け出す。理由は単純、あと一撃でコボルトロードのHPは消し飛ぶラインまで行ったからだ。その後ろ姿を覗き……
ーーそこに、黒い剣士と紅白のフェンサーの姿を幻視した。
「いけぇぇぇぇ!!!」
キリトが雄叫びを上げながら、V字型に軌跡が描く片手直剣二連撃ソードスキル《バーチカル・アーク》で、コボルトロードがポリゴンへと姿を変えた。
それは今までのモブには比べ物にならないほど大きく、パリィン、と音を立てながら消え去った。
第一層攻略。期間にしておよそ一ヶ月。残り階数は九十九層。
***
ボスは消え、ボス部屋には平穏が戻った。そして多くのプレイヤーが安堵の表情と、これからの不安を浮かべていた。
「お疲れ、キリト」
「……あぁ、トウガか。お疲れ」
今回の主役であるキリトに声をかける。キリトはやはりと言うか、かなり疲れているようだった。
「見事な指揮だった。コングラチュレーション。この勝利はあんたのモンだ」
「……ありがとう」
エギルもその場に現れ、キリトを称えるようにいう。それに少しむず痒さを覚えているようで、少し頬をかきながらも向けられた拳を合わせようとする。
「……なんでだよ!」
そんな中で、一人の青年プレイヤーの大声がそのボス部屋に響き渡った。その青年は耐えられないと言った様子で怒りを露わにしてキリトを指さした。
「なんでディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」
「見殺し……?」
心底分からない。と言った様子で首を傾げるキリト。
何を言いたいのかは分かるが、いかんせん理解ができない。
「そうだろ!? だってアンタはあのボスが何を使うかを知ってたんだろ!? 知ってて黙ってたんだ!」
そんな、側から見れば何を言っているんだと一蹴したくなるような場面。これはゲームだ。何もそこまで怒ることは無いじゃないかと。思うかもしれない。
だが、これはゲームじゃない。命を賭けた戦い。そこに不備が見られたんだ。そのヒビは徐々に広がっていく。
「確かに……」
「カタナのソードスキルなんて聞いたことがないぞ……?」
そこからは先程までの平穏が嘘のように波が荒立ち始めた。
「このアルゴの出した攻略本もウソだったんだ!」
「こいつはベータテスターだ! 俺は知っているんだぞ!」
「やっぱりベータテスターが……!」
そんな、謂れのない言葉がキリトの状況を悪化させていくばかりではなく、ベータテスターまでもに飛び火している。
「……」
キリトは顔を俯かせたまま動かない。何かを考え、何かを言おうとしているのだろうが、これ幸いと他プレイヤーたちはキリトへ言葉をぶつけ続ける。
「お前ら……」
怒りを彼らにぶつけようとする俺やアスナ、エギルを腕を横にすることで止められる。そして、前に一歩踏み出した。
「元ベータテスター、だって? 俺をあんな連中と一緒にしないでくれないか?」
「……なん、やて?」
いかにもな表情を作り、キリトが続ける。
ベータテスターの中で俺のような本物のゲーマーは何人いた?
俺はあんな奴らとは違う。他のプレイヤーの言っていない層まで一人で上り詰めた。カタナスキルはそこで嫌というほど見たんだ。
など、側から見れば明らかな矛盾が見られる言葉。だが、それを見つけれるほどに、彼らは冷静ではなかったのだろう。次々とキリトに対して罵詈雑言を発する。
「そんなの……チーターじゃないか!?」
「ビーターだ。チーターのベータテスターでビーターだ!」
「ビーターか、いい名前だなそれ。これからは俺をベータテスターごときと一緒にしないでくれ」
そしてキリトは、コボルトロードのLAボーナスである黒いローブを身につけて、ゆっくりとした足取りで次の層に向けて足を運び始めた。
「……和人」
俺は、その背中を見て。
どう思ったのだろうか?
ロクに頭が働かなかった。どうしようもなく、見覚えのあるその背中は。俺がかつて手を伸ばし損ねたものと、似ていた。
俺はキリトが姿を無くし、エギルに声をかけられるまで、その場を動くことができなかった。
個人的に好みな作品(安寧の天使制作に付き、二回目)
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SAO 仮題:其の者、ただの愚者につき。
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魔法科 仮題:魔法科高校のニ科生
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殺戮の天使 仮題:安寧の天使
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なし