ここ最近復活しております、厨二野郎です。
この作品は「恋をしたありふれた職業は世界最強」の改訂バージョンとなっております。
出来ればそちらよりも面白く出来たらと思います。
とはいえ序盤の方はそんなに変わらないと思うので、出来れば巻で行きたいところです。
それではどうぞ!
0、分岐点
オルクス大迷宮、65階層。未曾有の罠により、身の丈に合わぬ修羅場へと少年少女は呑まれた。
ある者は死の恐怖に足をすくめ、死地からの逃亡を図った。ある者は声にならない何かを叫び、我武者羅に武器を振り回した。またある者は全員での生還を無意識に度外視し、怪物と戦う。
彼等は天からチートとも言える程の力が与えられている。だが器は強けれど、心は異なった。平穏の中で育った高校生達には耐えきれ無いのは当然の事だ。
「早く前へ。大丈夫、冷静になればあんな骨どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いて全員チートなんだから!」
「なんとかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」
ただ一人の、器さえも凡夫たる少年を除いて。
彼はなんの躊躇いもなく、死が隣に潜む前線へと駆け出す。
「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」
「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」
「そんなこと言っている場合かっ! あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」
日頃は争い事が苦手だからと声を荒げることも少ない彼の口。しかし今は在らん限りの言葉を込めて叫んだ。
日頃とは異なる剣幕に勇者さえも足を引く。
「……やれるんだな?」
「やります」
「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」
「はい!」
瞳を逸らすことなく、彼は答える。
団長たる男はそんな彼に一縷の望みを掛けた。
「――“錬成”!」
眩く輝く蒼。大地が隆起し、彼の意思に応える。
怪物を少しでも抑え込むために、むせ返りそうになるポーションを喉に流し込む。
「“錬成”、“錬成”“錬成”“錬成”ぇえええええ!!」
とち狂った様に魔法の名を叫ぶ。死にたく無い、死にたく無い。彼の心中を死の恐怖が埋め尽くした。
されど内心とは裏腹に眼は怪物を中心に捉えている。
恐怖と勇気という相反する感情を溢れさせながらも、【無能】の力を振るった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー最初に“錬成”を使ってからどれだけ時間が掛かったのか。
魔法による魔力の消費と、ポーションによる回復を繰り返した事による甚大なまでの倦怠感。それが僕の時間の感覚を麻痺させている。睫毛を濡らす汗が鬱陶しい。指でそれを払う。
「お前達! 坊主が逃げ切れるまで撃て! 撃てぇえええてえ!!!
すると耳朶にそんな声が響いた。同時に目の前の怪物へと炎が、風が突き刺さった。どうやらクラスメイト全員の避難が終わったみたいだ。
トラウムソルジャーは何よりも数が多い。僕にとっては一体でも難敵だけれど、クラスメイトの場合その数が攻略のネックになる。だからこそメルドさんに提案したのは僕一人によるベヒモスの足止め。そして同時に僕を除いた全勢力によるトラウムソルジャーの突破。
あくまでも一か八かでしかなかったが、作戦はうまく行ってくれたようだ。それだけでも少し安堵する。
あとは僕が逃げるだけだ。ポーション最後の一本を飲み干し、体に活力を取り戻す。そして脇目を振らず走る。
背後から地響きの様な轟音が鳴る。きっと奴が背中から迫ってきているんだ。でも確認している暇は無い。ただ腕を振り、足を前に出す。
ベヒモスは未だ健在だが、みんなの魔法が動きを阻害している。チート達の魔法の総射はベヒモスをしてもなお、堪えるようだ。追いついてくる気配はない。
背中を突くプレッシャーが遠くなるのを感じ、僕はあと一歩の所まで辿り着く。心に余裕が僅かに現れ、正面を見る。
だから見えた。目の前で燃え盛る弾丸が。
ーードオゥッッ!!
焔が胸を焼く。
驚愕に目を開く。
体が宙を舞う。
同時に僕を受け止めてくれるはずだった橋は今、蓄積した負荷により崩壊を迎えた。怪物と共に僕は重力に従い、奈落へと誘われる。
もし運が良かったなら…クラスメイトのみんなみたいに超人的な力を手に入れていれば、落下から逃れられたのかもしれない。…いや、そもそも運が良ければ異世界に来ることなんてない。こんな死地へと追いやられる事もなかっただろうな。
体が流れ弾によりのけぞったからだろう。視界を迷宮の天蓋が埋め尽くしていた。不気味に緑色の光を灯すそれはまるで僕がこの世界に抱く印象そのものだ。
この世界は僕にとっての檻だ。地球にいた頃ならば他人よりも上に立てる
けれども全て奪われた。
この世界で僕のアドバンテージは存在しない。地球よりも実力主義で、殺し殺されが当然の如く巻き起こる。戦う才がないと蔑まれ、理不尽を強いられた。元より人を傷つけるのが苦手だったから余計にだ。
この世界には現実逃避をする暇もない。常に誰かしらの視線がある。神の使徒唯一の【無能】というレッテルは僕に卑下の視線を浴びせ続けた。娯楽はあるものの興じる時間は無い。戦えないなりに価値を示す為、寝る間を惜しむのは当然となった。
そして両親も今は文字通り別世界にいる。学校で友人関係を形成しなかったのがいけなかった。この世界に僕を認めてくれる人はいない。
底は何も見えぬほどに深く、淵い。間違いなく死ぬ。
(ごめん、先にいく…)
父さんや母さんはきっと悲しむだろうと心の中で別れを告げて…そこでふと思い出す。昨晩部屋に訪れて、わざわざ僕を心配してくれた彼女のことを。
彼女は言ってくれた。僕が強いと。他人には無い強さがあると。立ち向かえる力があると。正直、何度も何度も、慣れない賞賛の声を浴びせ続けられてとてもむず痒かった。
でも…嬉しかった。両親以外の誰かに認めてもらえることが恥ずかしくて、同時にとても嬉しかった。我ながら単純だけど、本心なんだから仕方が無い。
…ああ、だからか。だから僕は何の躊躇いもなくあのベヒモスという怪物に立ち向かえたんだ。彼女があの時の僕を褒めてくれたから。彼女の言葉を証明する為にも、
それを自覚してしまうと状況が状況だというのに口角がほのかに上がった。本当に我ながら単純過ぎるな、と自嘲する。
そしてさっきまで悲観していた感情も消え去る。諦め切っていた心に
無駄だとは知っている。それでも僕は手を向こう岸に向けて伸ばした。生憎数センチが埋まるだけで、僕と向こう岸の間には数十メートルの距離がある。自在に空を飛ぶ魔法も風を蹴る脚もない僕がどう足掻こうと向こうに戻れる術はない。
ただきっと彼女は諦める僕が嫌いだから。ならばと僕は懸命に開いた手に全力を注ぐ。
「縛煌鎖!!」
彼女の声が聞こえた。そして伸ばした腕に巻きつく魔法の鎖。
堕ちていた僕を無理矢理引っ張り上げ、地上へと巻き戻す。奈落が遠く遠く離れて行く。
やがて体を包んでいた光が光子となり、空気に淡く溶けていく。そして光子の泡沫のその先、そこに彼女はいた。
「南雲くん!」
「しら、崎さん?」
「そうだよ! 大丈夫、絶対に治してみせるから! 守ってみせるから!」
気づいた時には抱きしめられていた。優しく、それでも強く彼女は僕を抱きしめる。律儀な彼女は昨日の約束を必死に守ってくれたらしい。それだけで何故か僕の胸が熱くなる。
「香織! 南雲は無事か!? なら早くここから逃げるぞ!」
「坊主は俺が背負おう。…よくやった、坊主、白崎」
「逃げるわよ! 香織!」
「う、うん! メルドさん、南雲くんをお願いします!」
「任せておけ!」
高鳴りとは別にやはり無理し過ぎたらしい。もう立つどころか意識を保つことさえままならない。瞼がゆっくりと閉じる。体をメルドさんの肩に投げ出した。
そして途切れる意識の中、僕は願った。
ーー強くなりたい、って。
あともう一作品改訂を目指しております。
ちょっとお待ちをば。
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