恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

11 / 40
3/12、日刊31位を獲得しました!
ありがとうございます。

そしてぇ! 連☆続☆投☆稿!
ヒャッハァー! テンションでアホやるのは楽しいぜェ!
…え? 何、この作品金曜投稿じゃないのかって?
その通りだけど?
…え? 何、今土曜日だって?
何をおっしゃるか、太陽が登ってない=まだ金曜です。

ハイ! これ以上の反対意見は? ーーナシ!
それじゃあいくぞぅ! 投稿!

※前の閑話読んでない方注意。
番外編でもハジカオだから読んでネ!


7、月下脈動

 湖畔の町【ウル】は大陸の中でも一二を争うほど水源が豊かな街である。それ故に稲作が最も豊富。稲作以外でも食糧生産量はトップクラスだ。

 

 その様に実質人族の食糧庫と言える場所である【ウル】は他の文明も豊かである。

 

 例えば魔物による被害を防ぐ為に多く保有される準アーティファクトや大規模な冒険者ギルドだ。そして冒険者の生活に潤いを与える為、宿や街並みも質が実に良い。また観光面としても大河による船のツアーなどが挙げられるだろう。その様な水運により物資の輸送も潤滑に行われている。

 

 つまりは都市程では無いとは言え、その生活はかなり良い。少なくとも生活者に不自由を感じさせ無い程度にはレベルが高い。

 

 しかしそんな【ウル】の発展は二の次である。王国騎士達は兎も角、『使徒』たる日本人高校生達にとってはそんな事どうでも良い。

 

 そう、【ウル】で豊かなのは()()なのだ。すなわち…()である。

 

 言わずもがなトータスの主食は小麦によるパンやら麺類である。魚類などは魔法による冷凍があるため、金さえ積めば王都でも刺身にして食える。だが…米は非常に珍しいのだ。それこそ…王都であっても『食』として根付いていない程には。

 

 だが【ウル】では米による食生活がメインだ。そしてそれに連なる料理も非常に豊富である。モドキではあるがカレーやら丼物、チャーハンに近い物もある。

 

 まあ王都でも滅多に食えない米。そして日本人として『米』への執着と言う物はやはり持ち合わせている。結果──

 

『おかわり!!』

「かしこまりました。こちらニルシッシル(異世界版カレー)、九人前となります」

 

 まず【ウル】に着いた瞬間、一行は久々の米料理に舌鼓を打つ事となった。生徒は兎も角、愛子先生までもが元気に店主に声を上げている。

 

 ──やはりお米! お米は全てを解決する!

 

「………まぁ、旨いな」

「………そうですね」

「………だな」

「………ああ」

 

 まあそんな日本人のシンパシーが異世界人に分かろう筈もない。デビッド達、神殿騎士四名の背中は何処と無く寂しそうだった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

『使徒』念願の米。それに皆、食が進む。スプーンを持つ手が残像を出す程にスッルスル。

 

 だがしかし、唯一『使徒』の中でハジメだけはあまり食が進んでいない。見ると周りよりおかわりペースが遅い。折角の米だと言うのに、まだ一杯目。年頃の高校生である事も考えると、まだまだ食べ足りないだろう。だと言うのにスプーンで掬い上げた米は僅かだ。

 

 果たしてその理由は何か。

 

 馬車酔いして胃が細くなっているから? ──違う。

 

 ニルシッシルの味が日本のカレーとは程遠かったから? ──違う。

 

 町の人々の視線が疑念を孕んでいて、何となく食べ辛いから? ──違う。

 

 隣のテーブルにいる神殿騎士達が放つ威圧(プレッシャー)が怖いから? ──それもあるにはあるが、違う。

 

 では何が理由か。それはハジメの両サイドを見ていただければ御理解して頂けるだろう。

 

「で? 肝心のリア充(裏切り者)サマは白崎さんと何処まで行かれたのでしょうかぁ? A? B? もしやC?」

『ピピィ〜〜?』

「いや。違うよ、清水くん。白崎さんとはそんな関係じゃ──」

「へぇー。そんな関係じゃ無いのに南雲ってば手紙貰ってデレデレしてたんだ。私の料理にそんな反応しない癖に

「お、落ち着いて…」

「「落ち着いてますが?」」

「ヒェ」

『ピィ』

 

 右に座る清水がめっちゃくちゃ嫌味を含んだ質問をハジメに投げ掛ければ、左サイドにいる優花が冷ややかなジト目を放つ。これがまぁ、怖い。他の理由が些細な事になる程に、ハジメの胃を痛めつけてくる。

 

 と言うか両者共にこの依頼でハジメが混ざるまで、コミュニケーションを取った事が無かったと聞いていたのだが…息がピッタリだ。阿吽の呼吸でハジメの冷や汗を量産しに来る。

 

 何故こんな事になっているのか。それはハジメの鞄に入っていた一通の手紙が原因である。

 

 雫がハジメに出発直前に工夫を凝らし手渡してくれたのだが…その内容と言うのが香織が書いた物だったのだ。

 

 香織がハジメの憧憬である事や、その色々凄まじい内容によりそれはもう心がピョンピョンしたハジメ。ここまでは良かった。嬉しかったし。

 

 しかし興奮により寝転がっている隙に、あろう事か二人が内容を読んでしまったのだ。その結果清水は愛に飢えている為、嫉妬の化身に進化。優花は謎の圧力を帯び出したのだ。

 

 何とか手紙を取り戻す事は出来たが…二人の様子は【ウル】に到着した後でも戻る事は無かった。そして今の現状がある、と言った過程となっている。

 

 ハジメ的には清水は兎も角、優花が何故怒っているのかも分からない。また清水の方は恐らくハジメと香織が()()()()()()だと勘違いしているのだろう。一応、違うと言っているのだが、清水は聞く耳を持つつもりが無いらしい。

 

 結果、ハジメのテーブルは隣に二人がいるだけで、向かいには誰も居ない。他のテーブルに避難したらしい。正しい判断だ、畜生め。

 

 なお愛子先生は「どうしたんですか!?」と近付こうとしてくれたのだが…神殿騎士がハジメに近づく事を許さなかった。そのまま連行され、現在別テーブルで心配そうにハジメの方をチラチラ見ている。

 

 あ ! あ い こ が ぬ け だ そ う と し た !

 

 し か し ざ ん ね ん ! で び っ ど が さ き ま わ り し た !

 

 どうやら救いの主が現れる事は無いらしい。つまりハジメ一人でこの問題を解決するしか無い。

 

 ハジメはここ最近学んだ事を一つ一つ思い返して行く。戦闘法、駆け引き、魔法学、“錬成”、魔法陣、顧客の情報…、何も今の状況で役立つ気がしない。冷や汗がダラダラと流れる。気分はまるで下弦の陸。そんな事を僕に言われても、である。

 

 そんな風にハジメが無量空処状態になっていると、両サイド二名は同時に溜息を吐いた。

 

「ま…別にいっか。応援してるわよ、南雲」

「俺はまだ問い詰めたい所だが…依頼もあるしな。後回しにするか」

 

 どうやら自身で自己解決してくれたらしい。清水に関しては後回しであるが、一先ずは解決。ハジメはホッと胸を撫で下ろした。

 

『ピィピッ』

「うおっ。ふふっ、ありがとうピーちゃん」

 

 するとそんなハジメの肩に一羽の鳩が乗り、ハジメの頬を「良かったな」とでも言う様に撫でた。見た目は掌サイズの小さな白鳩、実際には魔物の一種である。名をピナ。清水のペットである。

 

 と言うのも清水の“闇魔法”による魔物の洗脳、その記念すべき成功例一体目の個体だ。そのステータスは魔物と思えない程に非力。王都での飼育を問題無いとされる程である。

 

 戦力にはほぼならない個体なのだが、気に入ったのだろうか。清水は洗脳して一ヶ月半程ずっとピナを飼育している。最近では肩に乗せて歩き回っており、城下町や図書館では【鳩の人】と呼ばれている程だ。

 

 …ただこのピナ、洗脳されている気配が全くしない。普通に自立行動をする上に、物凄く感情豊かである。洗脳されていればこうもならないだろう。発動者である清水さえも「コイツめっちゃくちゃ勝手に動くんだよな…」と呟くのだ。普通に懐いてる説が強くなりつつある。

 

 とは言え可愛らしい事には変わりない。頬を撫でてくれるピナにハジメはほわぁと和んだ。

 

「…ピナ、ハウス」

『! ピィ!!』

 

 すると自分のペットが他人に懐いている様子が気に入らなかったのか。清水は人差し指を差し出し、ピナに声をかける。ピナはそれに素早く反応。ハジメから直ぐに離れ、清水の指に止まった。

 

「…懐いてるね」

「…懐いてるわね」

「その穏やかな目、ヤメロ」

『ピイ!』

 

 やはり普通に懐いているようにしか見えない。ハジメと優花の意見は物の見事に合致した。微笑ましいやら何やら、菩薩の様な顔で清水の方を見た。

 

 清水は口振りでは嫌そうだが、やはり小動物に勝てる人間はいないらしい。僅かに口角が上がっている。つまりは中途半端にニヤニヤしていた。

 

 ただ恥ずかしいのは間違い無いようだ。菩薩スマイルをする二人の気を逸らす為、清水は別の話題を提示する。

 

「コホンッ。そういや俺らの方は先生の護衛だが…南雲の仕事は何なんだ? 一応【錬成師】の仕事らしいけど、具体的にどう言う事やるつもりだ?」

「うん? そうだなぁ、単純に言えば準アーティファクトとかの定期メンテナンスみたいな物かな。普通だったら他の王宮工房の仕事らしいんだけどね。ウル出身の顧客の人が推薦してくれたらしくて、僕に直接依頼が来たって形だね」

「何で南雲の…ウォルペン工房は普通依頼されないのよ? 技術レベルは高いのよね?」

「………先輩方がちょっと独特でね?」

「「あ──」」

『ピ──』

 

 納得顔で頷く二人と一匹。実は二人も別々にではあるが、一度工房に訪れた事があるのだ。その際にまあ、色々あったのだ。二人が言葉を濁らせながらも頷いた。

 

 部屋の一角が危うく全焼仕掛けたりだとか、男装した女が女に刺される現場を見たりだとか、借金取りから逃げる為窓から飛び降りる職人だとか…本当に色々あったのだ。二人の目が死んでいるが、本当に色々…あったのだ。

 

 その点、ハジメは世間の評価を除けば普通に腕も性格も良い職人だ。ウォルペン工房の職人に慣れ切った顧客が過敏に評価してしまうのも致し方の無い話である。

 

「あとそれ以外にも余裕があれば技術を教えたりとかかなぁ。期限は十日間。みんなの任務と期間は一緒だよ」

「じゃあ帰る時も同じ頃合いね。…何事もトラブルが無ければ、だろうけど」

「園部さん? 何で僕の方を見てくるのさ?」

「そりゃあオメーがトラブル大魔人だからじゃねぇか?」

「いや…僕そんなにトラブル起こしては──」

「異世界来て一ヶ月で三度ベッド送りになった人間が何か言ってるわね?」

「話題に困った事が人生で一度も無さそうな野郎が何を抜かすか」

『ピッピッ!』

「君達、僕を弄る時だけ息ぴったりになるのやめない?」

 

 実際問題、ここ最近は暇な時が無いハジメ。トラブルが少ない方といえば嘘になるだろう。本人としては不本意であるが、一級トラブル建築士である事は認めねばならない。

 

 とは言え不本意は不本意。結託する二人に目尻を上げるハジメ。しかし二人はどこ吹く風。清水はそっぽ向くし、優花は舌を出してウィンクする。

 

「まぁ、しかし。それなら俺らと南雲は別行動か…や、別に俺は何とも無いけどよ」

『ピッ…』

「そもそも私らの任務は愛子ちゃん先生の護衛だしね。仕方が無い話よね」

「だね。…ちょっと寂しいけど頑張るy「御安心ください!!」うわっ!!?」

 

 馬車での大はしゃぎなどもあり、短期間であったにも関わらず馴染んできた三人組。しかし任務は当然ながら別であり、一抹の寂しさがあった──所を非常に元気な声が遮った。

 

 その声の主は『使徒』ならば、かの高校の人間にならば誰にでも分かる。誰も座っていなかった席にちょこんと座り込む人物がいた。

 

「ふふふっ。南雲くんも清水くんもドンドン仲良くなっていますね。園部さんも楽しそうですし、先生何よりです!」

「「「愛子(ちゃん)先生!!」」」

『ピピピィ!!』

 

 ぴょこぴょこと擬音を付けたくなる様に身じろぎするのは、我らが畑山愛子である。大人だと言うのにちんまりとした身長、保護欲をそそらせる可愛らしさ。しかし同時に強い精神力と包容力を持ち合わせており、『使徒』全員の心強い味方だ。

 

 天職は【作農師】、非戦闘職であるがその希少性は【勇者】や【聖女】に比肩する程。その力は世界の食糧問題を改新するまでに偉大。人々を飢えから救い上げたその力により、彼女は【豊穣の女神】、神の代行者として信仰を集めるまでに至っている。

 

 なお、愛子に付き従っている神殿騎士はただの護衛では無い。愛子の無自覚攻略により、ガチ惚れした『男』達である。愛子の為ならば信仰を捨てるも辞さないと言うのだから、その覚悟がどれほどかは理解して貰えるだろう。

 

 そんなに凄いのに生徒的には尊敬よりも可愛らしさが勝る謎。ハジメと清水は言わないが、他の生徒は基本的に「愛子ちゃん先生」呼びである。本当に何故だろうか。

 

「ところで南雲くんは今回一人で行動するつもりだそうで…ダメですよ? 君も子供なんです。君はもう少し他人に頼るという事を覚えないといけませんよ?」

「は、はい…え? でもこの依頼は僕の単独任務ですし…」

「ええ、依頼の方はこの場において君以上の適性者はいません。しっかり勉強した事を出し切ってくださいね」

 

 愛子の背後にいつの間にやら立っていた神殿騎士達。彼等の顔は何やら不服に染まっている。…特にその内の1人。確かチェイス、と言っただろうか? 彼の顔が凄く険しい。

 

 何やら警鐘が鳴っている。それも以前のウォルペンの時よりも半端なく。

 

「ですが君に万が一があってはなりません。また…一人で心細いと言うのもあるでしょうし、もう少し自身の交流関係を大切にして欲しいとも思います。なので…園部さん、清水くん。君達には私で無く、南雲くんと一緒に行動して欲しいのです。勿論お二人の意思に任せますが…如何ですか?」

「い、いいんですか、愛子ちゃん先生? 私はその、そうしたいですけど…」

「…まあ、俺もその方が都合がいいな。ストレスもねぇし」

『ピッピッ!!』

「では決まりですね。お二人とも、よろしくお願いしますね?」

 

 ──あれ? 良い方向に進んでる?

 

 この展開はかなり有難い。二人は『使徒』故、かなり強い。しかもコミュニケーションも他のメンバーより断然取れる。ハジメの護衛としては正にSSR。頭の中で虹色演出が光ってらぁ。

 

 だと言うのに止まらぬ警鐘。むしろその音量は増している。好転する状況と反比例するが如く、ハジメの冷や汗は噴き出していた。

 

 すると愛子ちゃん先生は笑顔でもう一つ、言葉を付け加える。警鐘の音量はマックスだ!

 

「あと生徒だけ、と言うわけには行きません。なので君達とは別に…チェイスさんにも南雲くんの護衛をお願いしています!」

「「「…え゛?」」」

『…ピ゛ッ?』

 

 三人と一匹の時が止まる。特にピナの出した鳴き声が鶏の断末魔の様だった。言葉にせずとも分かる。三人は思ったのだ、「何て?」と。

 

 しかしリアルに巻き戻しボタンは無い。愛子の背後から一人、そう先程めちゃくちゃ不服そうにしていた神殿騎士がハジメに歩み寄る。彼は重々しくただ一言。

 

「………宜しくお願い致します、ナグモ様」

「ハ、HAI…」

 

 握手を交わす両者。それにニッコニコする愛子先生。しかしハジメは、愛子のそれが思い遣りによる物だとしても思うのだ。

 

 ──やってくれたな、と。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 と、まあこの日はその様な顔合わせだけで終わった。明日からは至近距離でチェイスに目を付けられるのか…と憂鬱ではあるが、メリットも多い。

 

 何せ神殿騎士だ。神殿騎士団はエリートの中のエリート。人族トップクラスの実力者が集う、そんな場所だ。流石にメルドクラスは神殿騎士団にも数人いるか程度だろうが…それでも安全性が高くなったのは変わりない。

 

 あとめちゃくちゃ頼み込んだらワンチャン試合無いかなとも思う。もうハジメの思考は訓練でいっぱいだ。多分ハー○マン軍曹に頭がヤられてしまっている。

 

 そしてそれを如実に示す様に、今ハジメはシャドーによる訓練を行なっていた。幻視する相手はメルド団長だ。未だに傷一つさえも付けられない彼をイメージする。

 

 ナイフ、魔力循環、“錬成”、体術…何もかもを用いてもなお、メルドとの差は大きい。こうやってのシャドーでもなお、想像上のメルドはいつの間にか己から一本をとっている。

 

 側から見ればナイフを振り回して、勝手に倒れているだけの滑稽な姿に過ぎない。それに明日からは直接依頼の仕事だ。体をそれに備えなければならないのは分かっている。

 

 ただ焦燥がある。自分はこのままで良いのか。まだ出来る事が有るのでは無いか。四ヶ月後に手に入れなければならない功績、それに向ける確かな焦燥が、ハジメにはあった。

 

 だからこそ休まねばならないこの状況でハジメは一人、外で戦闘訓練などしている。体の排熱により出る汗が、地面を斑に彩っていく。

 

「──フッ! シッ! ハァッ!!」

 

 横薙ぎ、回し蹴り、突き。無駄を省かれた数々の攻撃。しかしそれでも尚、胸に宿る不安を拭う事は出来ない。むしろ幻想のメルドにすら一撃を加えられない事により、益々と大きくなるばかりだ。

 

 それを何とか振り切ろうと後ろに下がるメルドの追撃に掛かる。右手に持つナイフを投擲し、それを避けたメルドの足を払おうとして──

 

 

 

「あら、申し訳ありません。お邪魔してしまったでしょうか?」

 

 

 

 ──そのナイフを片手で受け止める()()がいた。

 

「い゛っ!!?」

 

 シャドーに熱中し、人陰に全く気が付かなかったハジメは急停止。結果現れた人物のすぐ目の前で止まった。

 

 そしてその勢いのまま両足を折り曲げ、掌を膝の前に突く。そしてその手の甲に額を合わせ、ハジメは在らん限りの声を出した。

 

「すみませんでしたぁ!!」

 

 即ち土下座。南雲家直伝のハジメの超必殺である。人にナイフを投げるなどと言う、失礼極まりないどころか殺しに掛かっている行動。謝罪の他あるまい。

 

 ナイフが飛んできたかと思えば、その次にはスライディング土下座。現れた人物が唖然としたのか、何も声がない。

 

 とは言え土下座は根気だ。相手から許されるまでは頭を下げるなどもっての外。真摯に心からの謝罪を続けなければならない。

 

 10秒程時間が過ぎただろうか。くすくすと心地の良い笑い声がハジメの耳に届いた。

 

「怪我も無かったですし良いですよ。顔を上げてください」

「で、ですけど殺しに掛かってる様な物ですし…」

「あら? ワザとだったのですか?」

「いえ! それは無いです!」

「でしたら許します。顔を上げてください。いつまでもそうされてしまっては此方が困りますから」

「で、でしたら…」

 

 予想外にあっさりと許された事を意外に感じつつも顔を上げる。するとそこには──月があった。

 

 厳密には()()の背景を飾る形で満月。その光は冷たくも華やかに夜を照らしている。

 

 そしてその光に少女の黄金の髪が、真紅の瞳が淡く輝く。夜闇に溶ける見た目とは真逆の妖しい美貌。美という概念を象徴するかの様なプロポーション。月の光から寵愛を受けているかの様な神秘的な雰囲気。淡い光に照らされ、漆黒のドレスを纏う彼女は月下美人そのもの。

 

 そして顔を見上げたハジメを少女はふふっと柔和で意地悪な笑みで歓迎した。

 

「…ようやく、顔を見せて下さいましたね?」

 

 ごくりと息を呑む。万人が見惚れてやまぬであろうその人。しかしハジメは何故か()()()()()()()()()()()

 

 何故? そう聞かれても分からない。ただ一つ分かる事は──少女は己にとっての『未知』である。初対面ならば当然の、それだけは分かった。

 

 そして少女は笑みを携えて、こう言う。

 

「私の名前は…()()()。ただのティアです。どうぞお見知りおきを」

 

 少女は恭しくも、その手をハジメへと差し出すのであった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 そして別の場所では、()が辺り一面に響いていた。獣にとってそれは精神を蝕み、謳う者にとっては力に他ならない。

 

 歌が森に、空に、彼方に響く。雄だろうが雌だろうが、子供だろうが老ぼれだろうが関係無い。歌は獣達を傀儡へと塗り替えていった。

 

 謳う者はただ一人。フードで顔を隠し、紫水晶(アメジスト)の魔力光を立ち上らせる。暗くも輝き、闇くも眩い。あまりにも矛盾したそれは、夜の闇をより幻想的に彩った。

 

 そんな彼の後ろで何者かが、ニヤリと笑う。そして謳う者のその歌の凄まじさへの感嘆か、その瞳は濡れていた。

 

「嗚呼、素晴らしい! やはり君の力は…我が国でこそ十全に輝くだろう!」

 

 見ればその男は()()()()()()。黒色の肌に長細い耳、そして夜でも尚赤と分かるその髪。

 

 謳うその男以外がその容貌を見たならば…怯え恐怖するだろう。何故ならばその外見は()()()のそれに他ならないのだから。

 

 だが謳う彼は怯える事などありはしない。何故ならば──魔人は己の味方なのだから。

 

「さぁ…さあっ! その力でこの塵の様にいる人族を! そしてかの忌々しき女を! 討ち滅ぼしてくれ!」

「…うっせぇよ」

 

 歌が終わる。そして紫水晶の魔力が止み、彼は踵を返す。今日の()()は終わった。あとは適当に休ませてもらう、と手を振り言う。それに魔人は反論する様子も無い。笑みも変わらぬまま、頷いた。

 

 興奮冷め止まぬ様子で魔人は己が主である魔王、そして魔神への祝福の言葉を告げる。

 

「嗚呼、我らがいと尊き王よ! 我らが信じるべき神よ! どうぞご覧あれ!」

 

 月は低高度に有るのか、紅い。それはまるでこれから来る吉凶を示している様で…魔人は殊更声を張り上げた。

 

「我らが魔の『使徒』! 我らが魔の【勇者】! ()()()()が齎す…人族の破滅の第一歩をっ!」

 

 その魔人の焦点は何処か別次元の何かを見ているかの様に、散らばっていた。

 

 

 

 ──かくして月光の下、物語は次の段階へ進む。

 

 ──いずれ辿り着くであろうその終着点は…神さえも知らぬ所であった。




と言うわけで遂にストーリーが進んだ感があって楽しいです。
ハジカオはガチで暫くお休みですが、その分色々やってくので楽しんでくれたらなぁって。

あとピナはnotカトレアのペットです。(香織とか勇者をピンチにした女魔人族)
厳密にはアレの“変性魔法”の前の個体がピナの種族。
アイツ程万能では無いけど固有能力は持ってる。

そしてティア…一体何者ナンダー!!
…愛称ってこれで良いのかな?

…あとこの話が大体8400字ちょいなんだよね。
で、前回が10400字程…。
何で番外編のが多いのか、恐らくはハジカオがあったからですね、ハイ。

追記、
ユニバース@アトリエスキー様
ナノオー様
Hiko293様
籠城型・最果丸様
評価ありがとうございます!
更にいつも感想くれる皆皆様や誤字修正のプロ様にも感謝を!
更に更にこの作品のお気に入りが400越えしました!
二回更新もそのお祝い的な所もあります。
改めましてthank you!

この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?

  • ハジカオ!
  • オリジナル展開!
  • 成り上がり要素!
  • 考察要素!
  • 曇らせ!
  • 感想返し!
  • ダイレクトマーケティング!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。