恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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3/20日、日刊18位!
ありがとうございます!

そんでちょっと遅れました!
ゴメンね!


9、消失

【ウル】の職人とハジメが“錬成”の腕比べを始める一方で、愛子はその技能を用いての作物の促進を行っていた。土地の地力を上げ、作物の実りを一段と大きくする、正しく神の真技。

 

 そんな彼女の護衛を務めるのは神殿騎士と『使徒』。ただ愛子は女神同然の存在。村の者は敬う事はあれど、害することなどありはしない。どちらかというと愛子に近づき過ぎるのを防ぐことが護衛のメインとも言えた。

 

 それ以外としては魔物や万が一の異常事態(イレギュラー)だろう。何せ【ウル】という土地は実りの豊富さ故に獣害・虫害と言う物が酷い。それに対応するために発展したのがギルドであり、“錬成”の技術。

 

 ただ…この町に来てからというものの、()()()()()()魔物は姿を現していない。

 

 そこで町の人々から話を聞いてみたりもした。しかしその内容はあまり芳しくい物では無かった。

 

「この時期だと北上してきた魔物が襲いかかってくるんだけど…子供を安心して外に出せるから有り難さはあるけれど不安ね」

「女神様が来てからかねぇ…魔物がうんともすんとも言いやしねぇんだ。そのせいで強い魔物にビビって出てこなかった害虫どもが顔出しやがる! 商売上がったりだよ!」

「魔物がいねぇからギルドに来る依頼も少ねぇってもんさ。地味な採集系しかねぇから、ランクが上がりづらぇな」

 

 近年、魔物のスタンピードは多々として見られる。だが…逆にここまで静寂を見せる事は非常に珍しい。喜ばしくはあるが…こう言った静寂の後には嵐が付き物。

 

(何も…無ければ良いがな)

 

 騎士達は脳裏に僅かな警鐘を鳴らした。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「それではお二人共…準備は宜しいでしょうか」

 

 一方ではハジメと【ウル】の棟梁、ジェルノが鉱石に手を触れ、準備していた。後は号令さえ響けば二人は“錬成”を開始するだろう。

 

 二人が触れる鉱石は古物の残骸(フラグメント)と呼ばれる特殊な鉱石だ。要は昔に存在したアーティファクト、それが何らかの理由で砕けた物、その欠片だ。

 

 砕けたアーティファクトは魔法陣などを起動できない為、アーティファクトとしての役割を終える事となる。だがその欠片、古物の残骸(フラグメント)を使う事でまた別の形でその役割を担う事ができる。

 

 古物の残骸(フラグメント)はそれ単体のみでアーティファクトとしての権能を使用する事は出来ない。しかしかつてのアーティファクトのその能力、それを保有している。だからこそ【錬成師】が再びこの古物の残骸(フラグメント)に魔法陣を刻み込む事で、再びアーティファクトとしての形を作り直すのだ。

 

 古物の残骸(フラグメント)を使用可能な状態にする事は実質的にアーティファクトの修繕と同義。現存の【錬成師】にとっては最難関とも言える技術だ。

 

 何せ、ただでさえ困難と呼ばれる魔法陣の刻印。それを鉱石に込められた力に合わせねばならないのだ。鉱石に対する的確な『鑑定』、それに見合った魔法陣を選び取る『魔法陣学』、更にはそれを正確に刻み込む“錬成”の『技量』。それら全てが求められる。

 

 だからこそ二人はこれで競い合う事を選んだ。これならば【錬成師】としての優劣がハッキリとする、そう考えた上での判断だ。

 

 再現するアーティファクトは単純に言えば照明。“光球”が付与されている鉱石にその魔法陣を刻み、利用できるように直す。単純ではあるがその実、かなり困難である。

 

 何せ求められるのは『実用度の高さ』、『完成速度』、『特異性』と多岐に渡る。他にも幾つかあるだろうが、求められるのは兎も角これだ。最後の『特異性』は指導役であるハジメだからこそ、特に求められる事となるだろう。

 

 審判役はチェイスだ。彼は【ウル】側の人間でなく、且つハジメに思い入れがある訳でも無い。他の者達よりも公平に見られる人物だ。

 

 チェイスがハジメとジェルノの前で直立している。一瞬たりとも二人から視線を逃す事は無いだろう。鷹のように鋭い瞳が其れを如実に示している。

 

「オレは完璧だ。この若造はどうか知らんが」

「大丈夫ですよ? 準備は出来てます」

「そうか、それを言い訳にすんなよ?」

「はははっ、そんなみみっちい事しませんよ」

「…なら良い。とっととやろうぜ」

 

 両者の間に火花が散る。と言うよりもジェルノが一方的にハジメを目の敵にしている形だ。ハジメの一言一句に生意気だ、と言わんばかりに顔を顰める。

 

 一方のハジメはまるで何も気負っていないかの様だ。この後を左右する様な競争。だと言うのに、恐ろしい程に落ち着いている。余裕。ハジメを見ればその言葉がどうしてもチラつくだろう。現にジェルノはその態度に益々怒りを募らせていた。

 

 周囲には沢山のギャラリーがいる。【ウル】の【錬成師】達はジェルノを応援し、時にはハジメにヤジを飛ばす。完全アウェーである。

 

 ただし友人である、優花と清水はちゃっかり最前列を取っていた。優花が「南雲、勝ちなさーい!」と叫び、清水が行く末を黙って見守っている。

 

(負ける訳には…行かないなぁ)

 

 今更ながら呑気にハジメはその事実を再確認する。負ければ功績がどうのこうのなど言ってられないだろう。四ヶ月後に罰を受けてバッドエンド直行だ。

 

 それにハジメはウォルペン工房の代表としてここに来ている。ウォルペン工房は実力だけで成立している工房。その代表が他の【錬成師】に負けたとあっては面子に泥を塗る事になるだろう。

 

 ただ、今はそんな事よりも…二人に格好悪い所を見せたく無いと言うのが一番強い感情だろう。ハジメにも見栄はある。最近ちょっと復活した矜持(プライド)が、そう思わせる。

 

「それでは…参ります」

 

 手袋の魔法陣に魔力を込める、その準備をする。体内魔力を手へと流し、直前で堰き止める。本来なら詠唱が無ければ、人が出来ぬ体内魔力の操作。ハジメが何故か会得したそれを、今存分に活用する。

 

 思考はクリアだ。目の前の古物の残骸(フラグメント)を見て、大凡の完成形を幻視する。魔法陣も頭の中に入っている。…速さ重視なら()()を使おうか。

 

「始めぇっ!!」

「“錬成”ぇええ!!」

 

 そんな思考を刹那の間で繰り返して。やがてチェイスの声が木霊した。同時に叫ぶはジェルノの鍵言。彼の掌から魔力光が溢れ、古物の残骸(フラグメント)に魔法陣を描いて行く。

 

「──“錬成”」

 

 一方のハジメもまた鍵言を呟く。小さく、しかし確かに。その声は明らかな存在感を放って、周囲へと響き渡った。

 

 ハジメの蒼い魔力光が鉱石を覆う。彼の魔力は無駄に光を放たず、されど鮮烈さを感じさせる。

 

 だが僅か数秒だろうか。蒼い光は直ぐに消えた。その魔力光を(ベール)にして現れた古物の残骸(フラグメント)は…形を明らかに変えていた。

 

 そしてハジメは掌を掲げて言う。

 

「よし、終わりました」

「「「「「………は?」」」」」

 

 審判役のチェイスも、対戦者のジェルノも、周囲の【錬成師】も。誰もが事態を理解出来ず、硬直する。十秒にも満たぬ作業時間。ジェルノは魔法陣の一陣目を刻み終えた所だ。目にも止まらぬ速度、と言えるだろう。

 

 魔力光が晴れた先にあったのはランタンの様な形をした何かだ。掴みやすい形をした取手、従来のそれよりも小さく書かれた魔法陣、そしてその魔法陣を守る様に付けられた檻。少なくとも物の数秒で変形できる様な作業量では無かった。

 

 誰もが目を点にする中、ハジメは復元したアーティファクトを摘み、魔法陣に魔力を込める。

 

 すると数秒前まで古物の残骸(フラグメント)であったそれが、確かな光を放つ。古物の残骸(フラグメント)に込められていた“光球”の魔法が、しっかりと発動している証拠だ。

 

 慌ててチェイスがハジメからそれを受け取り、魔力を込める。すると先程同様、それは光を放った。間違いない、アーティファクトとして起動している。

 

「あ、ありえん! 幾ら何でも速過ぎる! 一体何を──」

「そうですね…『非部分的錬成法』ってご存知ですか? それを使ったんです」

「ひ、『非部分的錬成法』だと!? ば、馬鹿なありえねぇ! こんなガキが!!?」

 

 ハジメのあまりの“錬成”速度に驚愕を隠せぬジェルノはハジメにそのタネを尋ねた。そしてハジメがあっけからんと答えると、ジェルノや周囲の【錬成師】達はざわめき始めた。

 

「ひぶぶんてきれんせーほう? 何が凄いのよ、それ?」

「さあ? お前程馬鹿では無いが、俺も“錬成”の分野には明るくねぇからな」

「そんなに木串欲しいの?」

「アイアムノットドM…」

「『非部分的錬成法』ですか…やりますね」

知っているのか(ピィピピッ)! 雷電(ピィピピ)!!』

 

 ただそれの何が凄いのか、優花や清水は全くついていけない。ぽかーんとした様子で、頭を捻っている。

 

 すると二人の横にいたチェイスが感心した様子で頷く。そしてその技術を知らぬ二人に解説役と言わんばかりに適切な説明を始める。

 

 二人は「審判役の筈だったのにいつの間にここに…」とある意味気が気で無かったが、解説は有難いので黙って聞く事にした。

 

「本来“錬成”と言う魔法は加工を行う際、部分毎に分けて作業を行います。何せ魔法とは言え、加工を行うのは己自身。一箇所に集中してベストな形へと変えて次へとして行くのが通常の方法です。皆様も何かしらの模型等を作る際にはパーツごとに作って行くでしょう。それが普通です」

 

 そう言われて二人は粘土で像を作るイメージを浮かべた。確かに手で細かい部分を作る際には一箇所一箇所丁寧に作るだろう。それが“錬成”でも同じなのだろうと理解できた。

 

「ですが『非部分的錬成法』は文字通り()()を一度に整形して行く方法です。技術としてもですが、並列的な思考プロセスや正確な設計能力等が求められる為、【錬成師】の中でも実力者しかやりたがりません。何せこれらの労力に対して、メリットが完成速度のみとあまりにも少ない」

 

 粘土を全体的にこねて、像を作るイメージをする。…無理だ。手で考えているからかも知れないが、自分達ではふにゃふにゃの像しか作れないだろう。

 

 アイツヤッベ、マジヤッベと心の中で思っていると、さらにチェイスが解説をしてくれる。親切丁寧である。

 

「ましてや古物の残骸(フラグメント)の復元は慎重を期す作業。それで『非部分的錬成法』を用いるなど…正気の沙汰ではありません。流石はかのウォルペン工房の【錬成師】、という所でしょうか」

「ウォルペン工房…」

「あそこ…かぁ…」

『ピ──』

「ええ、あそこです」

 

 あそこあんなだけど凄いんだな、と二人が遠い目をする。チェイスも分かるよ、と言わんばかりに頷いた。神殿騎士もウォルペン工房には迷惑かけられているのだ、仕方がない。

 

 そんな風に妙な形で三人が納得していると、再現されたアーティファクトに寄ってかかっていた【錬成師】の内の一人が我大将首を得たりとばかりに声を上げた。

 

「待て! この魔法陣、起動式と基本五式しか無いぞ! 一般人用だと言われているのに、この五式だけでは実用性に欠けるのでは無いか!?」

「確かにそうだ! 光属性初級魔法とは言え、適性を持たぬ者も多い。少なくとも拡散率・収束率や抵抗度の式は書くべきだ!」

「速度は特筆すべきだが…やはりそういった知識はまだまだと言うべきか…」

 

 彼の声を聞いて他の者もまたハジメに詰め寄る。年端もいかぬ若造に負けたく無い、という矜持故の発言の数々だろう。

 

 適性を持たぬ者はその分、魔法陣に書かれる式を多く書かねばならない。それは【錬成師】にとっては常識だ。ある程度の適性がある者ならば基本五式で構わないが…案外適性を持つ者は希少なのだ。確かにそれだけならば実用性に欠けるだろう。

 

 速度では負けたが実用性ならば…という彼等の声が聞こえて来る様だ。外聞も関係なく、彼等はハジメに詰問する。それに対するハジメは…ただ一つの事実を告げた。

 

「あの…書いてますよ、他の式も」

「「「「「…は?」」」」」

 

 改めて彼等はハジメが作ったアーティファクトを確認する。しかし魔法陣はどう見ても起動式と基本五式のみだ。何処にあると言うのか。

 

 しかし思い返せば、確かに“錬成”以外に適性を全く持たぬハジメが起動できていたのだ。他の式も刻まれて居なければ辻褄が合わない。

 

「すみません、実用性重視だったので小型化したくて…『立体魔法陣』にしてるんです。他の式は基本五式の()にあります」

「「「「「………下?」」」」」

 

 そう言われて【錬成師】達は一同に“鑑定”を始めた。すると間も無く彼等は目を開いた。

 

「こ、鉱石の中に魔法陣が!?」

「しかも…それが表面の魔法陣と連結している、のか?」

「適性がある者は表面の魔法陣のみを…そうで無い者は更に下の魔法陣にも体内魔力を流すのか! こ、これは…」

 

『立体魔法陣』と呼ばれるそれは、縦に魔法陣を並べ連結された物を指す。本来ならば魔法陣を連結する場合、基本魔法陣の周囲に更に書く事になる。その為魔法陣が陣取る面積はどうしても広くなってしまう。

 

 しかし『立体魔法陣』の場合は奥行きこそ必要だが、面積はかなり小さくなる。その為小型化に向いており、ハジメが言う様に持ち運びが容易にし易い形となるのだ。

 

「こ、こんな技術…一体何処で!? 何処で習ったんですか!?」

「あ、敬語になったわね」

「何か目がキラキラしてんぞ、あのオッサン」

「【錬成師】という生物は得てしてあの様な生態をしているのですね…」

『ピィ、ピピ』

 

 耐えられねぇ!とばかりに尋ねるジェルノ。それに若干引く優花清水チェイスのトリオ。それとは別にハジメは慣れた様子で説明を始める。

 

「まあ、知らなくても無理は無いです。王都で最近生まれた技術ですし。…というよりもウチの工房の先輩が見つけた技術なんです。ちょっとコツは必要ですけど…慣れたら便利ですよ?」

「「「「「ぉ、ぉお…神よ」」」」」

「ついに崇め出したな…」

「傍目から見たらヤベー奴よ」

「いえ、傍目から見ずとも思考が常軌を逸して居るかと」

「おっ、そうだな」

『ピィ…』

 

 職人達が先程までの敵意を霧散させ、平伏している。目が怖かったジェルノさんも「お見それいたしやした! ハジメの旦那ァ!!」と土下座している。ヤの付く方々みたいだ。絵面が酷い。

 

 最初からこれである。その日の作業が終わり、晩飯をハジメが食べようとした頃には…

 

 

 

 

 

「ハジメ殿、次にこちらのはどうでしょうか!? 某が三日三晩頭を悩ませて導き出し、更に一週間で形にした濾過用準アーティファクトですぞ!」

「そうですね…干渉力、射程、属性の三連式魔法陣まではスムーズに発動できると思われます。特に魔法陣の組み合わせのレベルはかなり高いです。ただその次の範囲指定の術式で少し雑さが見られます。容器内全部を指定してしまうと容器内の空気も範囲対象としてしまいます。そうなると僅かな間隔ですがエラーが発生します。こうなるとこの準アーティファクト自体に少しずつですが綻びが生じます。多分、このエラーがあるないで準アーティファクトの寿命が二年三年程度は違うでしょう。なので範囲指定を水そのものだけにしてエラーが起こらない様対策しましょう。また魔力吸収は予めプログラムしているようですが、水の量に合わせて魔力吸収量を決めるプログラムにした方が無駄が無くなります。こちらがそのプログラムの参考資料となると思われますので、是非とも参考にして下さい」

「は、ハジメ氏!? これ、全部ハジメ氏が書かれたのですか!?」

「僕の研究日誌の一つです。僕の主観に基づいて書かれているので、あくまでも参考程度でお願いします。ああ、あと魔法陣が少し不均一です。魔法陣は出来るだけ均一な空洞を作れる様に意識してください。難しいかと思われますが、それをするしないでは魔力効率が雲泥の差です」

「なるほど…ちなみにナグモ様が一番注意しているのは何処になるのですかな?」

「造形は後から仕込む魔法陣や利用方法に合わせなければならないのでよく考えて設計してください。次に素材は性質によってはマイナスの影響を及ぼしかねませんので厳選に厳選を重ねてください。魔法陣は準アーティファクトにおけるシステムを組み立てる必要要素です。必ず気を抜かないでください。魔法陣の陣そのものは先ほど言ったように、失敗すると魔力の無駄が発生します。準アーティファクトの利用者は魔法の適性が低い人間が主ですから、利用者に負担をかける真似は出来ません。油断は禁物です」

「…えーっと、つまりはどういうことでしょうか?」

「全部大切です。楽できる場所なんてありません。全霊を掛けてください」

「「「「「Yes, sir!!!!」」」」」

 

 この有様であった。

 

 兎も角ハジメは認められた。職人という者は技術が全て。ウォルペン工房とか言う技術の宝石箱みてぇな場所から来たハジメの一言一句に目をキラキラ。最初の反骨精神は何処に行った、という有様である。

 

「あ、この枝豆モドキうめぇ…」

「こっちのモツ煮っぽいのも良いわよ」

「此方のリニエールも如何ですか? 美味しいですよ、御二人」

「「…何その料理?」」

『ピィ…』

 

 バーの隅では草臥れた様子の優花、清水、チェイスがいた。三人で晩飯を共有して楽しく食べている。ただしそのハイライトはとっくの昔に死んでいた。

 

 まあ、それも仕方が無い。興奮した【錬成師】達に「離れてくださーい」をやったのだ。どっからその力が出て来た、とばかりに『使徒』越えのパワーを出してきたのだ。当然疲れる。

 

 何なら全員ホルスタインみてぇな感じのムッチムチの我儘ボディなのだ。押し寄せてくる筋肉の津波と興奮した錬成師(馬鹿)どもの声。三人の神経は摩擦して居た。

 

 そんな訳で三人はハジメとは離れた距離にいた。心無しか心の距離が縮んだ気がする。吊り橋効果みたいな物だろうか? 親しい友人みたいな感覚が『使徒』二名と神殿騎士の間で築かれていた。

 

 すると【錬成師】の鯨波に変化が生じる。ハジメが何かを言っている様子だ。

 

「もう夜も遅いですし、皆さんの明日の作業に支障が出たら技術の伝達も出来ません。そろそろ寝ませんか?」

「ですが! 正直我々試したい事いっぱいで、興奮して寝れませんぞ!」

「すみませんがハジメの旦那ぁ。帰ったとしても俺自身、鉱物弄りする絵面しか思い浮かばねぇです。他の奴らも同様でしょう。だったらここで旦那の話を聞いた方が建設的に思え──」

「そうですか、残念です。明日の作業では準アーティファクトが主です。知識だけでなく体でも覚えられるので、そちらに集中していただきたかったのですが…」

「──よっしゃあ! 俺は寝る! 健康第一! 早寝早起きだ! お前らはどんちゃん騒ぎしてていいぞ! そしたら俺が明日旦那とマンツーマンだぁ!!」

「ずるいですぞ、親方ァ! 我々もベッドに飛び込めェ!!」

「「「うぉおおおおおおおお!!!!」」」

 

 ハジメの周りの肉壁達が急に店の扉へと雪崩れ込んだ。ズドドドドッとけたたましい音が鳴り響いてコンマ数秒、そこにはハジメのみがいた。きっと今頃【ウル】の【錬成師】等は全員己の部屋で熟睡している事だろう。切り替えが凄まじい。

 

 そして漸く解放されたハジメは一度屈伸すると、清水達の方へとやって来た。

 

「今日の分の仕事は終わったよ。園部さんも清水くんもお疲れ。チェイスさんも有難うございました」

「ん、南雲もお疲れ様。このモツ煮っぽいの美味いわよ。ちょっといる?」

「うん、お腹減ってるし欲しいな。有難う」

「おー、お互い大変だったな。褒美だ、この枝豆モドキをやろう」

「はは〜〜っ。謹んで頂戴致します…あ、うん美味い」

 

 今日のハジメの仕事量は膨大な一言だ。故に優花も清水も労いの言葉を投げ掛ける。ついでに己のご飯を別の更に盛り付け、ハジメへと渡した。

 

 一方でチェイスは一度気まずそうに目を逸らし…やはりハジメへと向き直した。真っ直ぐとハジメを見据え、口を開く。

 

「…お見事でした、南雲殿()。正直貴方がここまでの腕を持っているとは思って居ませんでした」

「あれ? やけにあっさり認めてくれますね?」

「少なくとも愛子の教え子としては相応しい、と認めざるを得ませんでしたので。それなりの敬意は払いますとも」

「そうですか。なら良かったです」

 

 そう言われると実感できる。一歩だけだとしても彼女に近づけていると。今までの修練に価値があったと思える。

 

 そしてやはりチェイスは実力主義的な部分が強いらしい。他の神殿騎士三人よりもハジメに対しての忌避感という物が少ない。他のメンバーならば認めない、とムキになっていただろう事が容易に想像できるので尚更だ。

 

「ぅ、うぇええええええええん!!!」

 

 そうして話しているとふと外から鳴き声が響いて来た。幼い少女の物だ。

 

 余程の人間不信でなければ流石に反応せざるを得ない。真っ先にハジメと優花が外へと飛び出し、そして清水とチェイスがそれに続く様に駆けた。

 

 飯屋から十メートル程先だろうか。声色と遜色のない幼女が泣きじゃくっている。それを静止しようと母親が叱りつけているが、尚更泣き声は強くなるばかりだった。

 

 話を聞くとどうやら、少女が大切に持って居たぬいぐるみを無くしてしまったらしい。しかも今日少女は森を散策して居たらしい。最近森に魔物が居ないとはいえ、流石に夜は危険だ。

 

 その為明日にしようと母親が言ったのだ。しかしそこで少女が駄々をこねてしまい、結果この現状との事だ。

 

「確かにこの夜の中探すのはなぁ…」

「魔物が出てもね…」

 

【ウル】の町は魔物が多い方に該当する。特に人間が寝静まった夜に活動する個体が多い。その為夜の中動くのは成人であろうと危険視される。

 

 もし森の中でなく、町の中が範囲だったならば魔物避けのアーティファクトが起動している為危険性は少なかった。だが外となれば対抗策が少ない。

 

 そのためハジメと優花も説得に回ろうとした。が、ここで説得以外の手を使おうとする者がいた。

 

「なぁ、君。それどの辺りに落としたか分かるか?」

「…おにいちゃん、とりにいってくれるの?」

「場所を言ってくれ。何とかはする」

「えーっとね…」

 

 清水は屈んで少女と視線を合わせる。清水の対応に希望を持ったのか、泣くのを止め、ぬいぐるみを落とす前の出来事などを少女はたどたどしくも述べて行く。清水はそれにちょっとおざなりさは見せつつも、真剣に頷く。

 

「なるほどな…ついでに聞く。それって君でも片手で持てるか?」

「う、うん。ミッニーちゃんはすごくかるいよ」

「何だそのギリギリな名前は…まあ良い。それなら…ちょっと待っててくれ。この鳩さんが何とかしてくれるんだ」

 

 話を聞き終わると清水は己の肩に留まっているピナに話しかけ始めた。

 

「ピナ、すまんが仕事だ。後でエサはやるから…そうだ、取りに行ってくれるか?」

『ピピーッ!!』

 

 ピナは清水の問い掛けに高らかな鳴き声を上げた。そして翼を広げて、空へと飛ぶ。体躯の小ささに反して、その羽ばたきは力強くかつ速い。あっという間に見えなくなってしまった。

 

 そして暫くするとピナは帰って来た。その足にしっかりとネズミのぬいぐるみを掴みながら。

 

 少女は己のぬいぐるみが帰ってきた事やピナという可愛らしい白鳩に夢中だ。泣き止むどころか、より一層元気そうだ。

 

「ハトさんすごいねー!! ぬいぐるみありがとー!」

『ピピッ!』

「おにいちゃんもありがとー!」

「お、おう」

 

 そして少女はぶんぶんと手を振る。彼女のお母さんも清水へとぺこぺことお辞儀をして、帰っていく。ピナはその翼をバサバサと鳴らしながら振り、清水は照れ臭そうにそっぽ向いた。

 

 あまりこう言った純粋な感謝に慣れていないのだろう。視線を逸らしながら、頬を掻いている。

 

 やがて少女とその母親が角を曲がり、見えなくなる。清水がそれに合わせて帰ろうとして…

 

「へー、清水…優しいわね」

「………アッ?」

「流石清水くんだね!」

「……………何のことやら」

 

 優花とハジメの言葉に、目に見えて硬直する。そして先程と同様、その視線をそっぽ向けた。

 

 その清水の対応に優花は面白そうに目を細めた。

 

「あれ? もしかして照れてるの? 顔真っ赤よ?」

「はぁっ!? てれっ!? 違うに決まってんだろ!!」

「凄く慌ててるじゃない…可愛いわねー。なでなでして欲しい?」

「ふざけんな! いらねーわ!!」

 

 優花と清水は口喧嘩をする事が多いが、大体五分五分の戦いをする事が多い。これほどまでに優花がマウントを取りっぱなしなのは非常に珍しい物だ。

 

 そして5分後。満足したのか気持ち良さそうに汗を拭う優花と顔を真っ赤にして蹲る清水がそこには居た。ハジメが仲裁に入る暇も無い怒涛の攻めだった。優花さん、恐ろしや。

 

 ただ優花は先程までの意地悪そうな笑みとは一転。柔和な笑顔で清水の顔を覗く。

 

「でも…アンタが居なかったら、あの子泣き寝入りだったわ。やるじゃない、清水。散々揶揄ったけど…これはちゃーんと本心よ?」

「僕も、清水くんの事凄いって思うよ。それに清水くんがあの子の助けになりたいって思ってくれたから、助けられた。ありがとう、清水くん」

「…揶揄うなよ、ホントに」

 

 清水が居心地悪そうに顔を顰める。しかし嫌では無い様で二人の間から抜けようとはしない。

 

 こうして【ウル】での直接依頼、一日目は何とも平和に幕を閉じた。

 

 しかし彼等はこの時、知る由も無いだろう。

 

 ──三日後、直接依頼四日目の朝…清水が【ウル】の町から失踪してしまう事を。




ちなみにこの作品では、原作でハジメが雫に渡した魔法陣無しの黒刀は実質フラグメントです。
というか原作ハジメの魔法陣無しアーティファクトはほぼ全体的にフラグメントと言えるでしょう。
フラグメントは「力はあるけど人間にゃあ使えねーよ!」っていう代物。
なので魔法陣が刻まれてないアーティファクトは直接魔力操作出来ない人間には実質フラグメントなのです。
ただこれに関しては私が「アーティファクト壊れたら修理とかって出来んのかな?」って思って独自解釈した代物なのでぶっちゃけあんまり深い意味は無い。

ぬいぐるみ親子エピいる?って言われれば結構いらない。
でもいるにはいる。
何故って言われても今は言えない。
まあ必需とは言わない。
でも私はいる。

で、最後に消えた清水くん。
多分次回から【ウル】編佳境!
やっとだよ!
お楽しみに!

追記
sarki様
暉祐様
ajmwtg1822様
評価ありがとうございます。
また文字修正のエリート様方、割と馴染みのコメント欄の皆様にも感謝を!
これらは全て私の創作エネルギーです!
感謝の連打です!

この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?

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