恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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お待たせしました!
遂に清水くんフェスタです。
皆さんテンション上げていきましょう!
えいえいおー!

…あと、私土曜の『ありふれた放送で世界最強』見れません。
バイトです。
クソです。
…見たかった(拗ねてる)
まあ、漫画版最新が白崎さん表紙だし、ありふれ零も直々発売だしテンション上げようか!
ゴーゴー!


11、弱体化・裏

 清水幸利にとって、異世界転移と言う物は焦がれて止まなかった代物だ。ありえないとは思いつつも、「もしも」と空想をしては悦に浸った。それを示す様に彼の部屋には美少女のポスターやフィギュア、薄い本までが敷き詰められていた。

 

 クラスでの清水は、彼のよく知る言葉で表すなら、まさにモブだ。特別親しい友人もおらず、いつも自分の席で大人しく本を読む。話しかけられれば、モソモソと最低限の受け答えはするが自分から話すことはない。元々、性格的に控えめで大人しく、それが原因なのか中学時代はイジメに遭っていた。当然の流れか登校拒否となり自室に引きこもる毎日で、時間を潰すために本やゲームなど創作物の類に手を出すのは必然の流れだった。親はずっと心配していたが、日々、オタクグッズで埋め尽くされていく部屋に、兄や弟は煩わしかったようで、それを態度や言葉で表すようになると、清水自身、家の居心地が悪くなり居場所というものを失いつつあった。鬱屈した環境は、表には出さないが内心では他者を扱き下ろすという陰湿さを清水にもたらした。そして、ますます、創作物や妄想に傾倒していった。

 

 だからこそ異世界転移が実現した時は夢心地に感じた。何度も夢見た世界が眼下に広がっていたからだ。ここならば。そう清水は周囲のクラスメイトが騒めく中、胸を期待に膨らませていった。

 

 ここならば『特別』になれる、と。

 

 だが所詮妄想は妄想。理想と現実は食い違う。スペックは世界基準で見れば高かったが、クラスメイトの中で特別秀でているとは言えなかった。全員が同じようなレベルならば良かったが、中には【勇者】と【聖女】と言う例外中の例外がいた。注目を集めるのも彼等であり、地球にいた頃と何ら変化は無かった。

 

 更に【オルクス大迷宮】でのトラウムソルジャーとの戦闘は彼の脳裏に『死』を刻み込んだ。それは己が『特別』であると言う自負を消し飛ばすには十分過ぎた。結果、誰も死ぬ事は無かったが、清水は浮ついた心を地に叩き付けられる事となった。

 

 そして地球と違い、トータスには現実逃避を助長する創作物など無い。古臭い歴史物や神話・御伽噺だけだ。濃厚なサブカルチャーに浸り続けた彼に、それで満足しろと言うのはあまりにも酷な話だった。

 

 それでも心を壊さぬ為の術としてか、彼は己の適性魔法である闇魔法関連の本をひたすらに読み続けた。後衛職にとって己の魔法の知識という物は必要不可欠。毎朝毎晩、何かから逃れようとする様に(ページ)を捲る彼を止めようとする者は居なかった。それによって益々孤立していったのかも知れない。

 

 ──清水くん、大丈夫ですか? 先生の声は聞こえていますか?

 

 ──飯食べてるの、清水? あとちょっとは顔出しなさい。一応心配してるんだから。

 

 …いや、一応止める者はいた。またその読書の途中、何らかのスピーチを教皇が言っていた気もした。しかし当時の清水にとってはどうでも良かった。当時の彼は耳を傾ける事なくただただ文字の羅列を頭へと収めるばかりだった。

 

 闇魔法は主にデバフや精神作用、呪詛などを中心とした魔法効果を持っている。他の属性魔法と異なって物理的なダメージの発生は起こりづらく、代わりに搦め手が多い。『死』が頭によぎって以降、陰鬱としていた清水であったが、僅かにその恐れを知識は埋めてくれた。

 

 そして読んでいく内に清水はある可能性に辿り着く。この内の精神作用、これを極める事で『洗脳』を行う事が出来るのではないか、という物だ。この発想により清水の黒い感情は爆発した。その衝動のまま、清水は図書館へと駆け出し、研鑽に明け暮れた。

 

 ただ前人未到の難題は容易くは無い。清水は何度も何度も頭を捻らせた。時には魔法理論の破綻により、魔法が使えなくなった時期もあった。それでも彼は洗脳魔法習得の為、知識を貪った。その途中で魔人族とも接触でき、己が【勇者】となる道筋も見えて来た。

 

 そんなある日の事だろうか。

 

 いつもの様に彼は図書館に向かった。理由もいつも通り、闇魔法への理解を深める為だ。ただ単に闇魔法についての知識を付けるだけでは間に合わないと判断し、その日は魔法自体の仕組みを調べる事とした。

 

 ──だからさ、ちょっと教え合わない?

 

 まさかあんな阿呆がいるとは、当時図書館に入った瞬間には分かっていなかったのだ。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「…ん? ぁあ、寝てたのか。俺」

 

 薄暗い洞窟の中、清水幸利は目を開いた。事態の急展開に追い付かず、頭が休憩を求めていたらしい。もしくは単純に失血のせいかもしれないが。

 

 地面に着いた手を動かすとピチャと音を鳴らした。見れば血溜まりが出来ている。それに応じて漸く痛みが再来する。腹に出来た抉れた傷、それを頭が思い出したのだ。

 

 そう言えば、と清水は懐を探りポーションを見つけ出す。あくまでも回復を促進する物にしか過ぎず、抉れた腹を治せる程良質な物では無い。だが無いよりは断然マシだ。容器を掴むと、その液体を躊躇うこと無く喉へと流し込んだ。

 

 プラシーボ効果のお陰か痛みが和らいだ気がした。ただ一呼吸すれば、また痛みは元に戻ったが。意味ねぇと心中愚痴った。

 

 すると洞窟の奥から何やら音がする。足音だ。恐らく一人の。()()()は居ないのかと思ったが、どちらにせよ絶体絶命。なーんでこうなったかなぁ、とぼんやりと呟いた。

 

「見つけたぞ、清水幸利」

 

 やがて足音の元、魔人族の男が姿を現した。清水と元々協力関係にあった彼だ。確か名はレイスと言ったか。オールバックの髪型をした男の魔人だ。

 

 そして彼にはかつて清水に向けていた興奮やら畏怖は無い。代わりに冷酷なまでの殺意を晒していた。

 

「御苦労様だな。もう帰ってくれて良いぞ? 休みたいだろうしな」

「それがそうとも行かないのだ」

「そりゃあ残念だ。俺は休みたかったよ。今にも意識がイッちまいそうなんだ。実際ついさっきまでそうだったしな」

「…ならば殺すには都合が良い、か」

 

 レイスが掌を清水へと向ける。そして輝く手袋に刻まれた魔法陣。確か“破断”だったか。中級の水魔法であり、簡易的に言うならウォーターカッターの様に水を飛ばす攻撃魔法。

 

「…一応聞いていいか?」

「一時とは言え共に道を歩んだ身だ。聞こう」

「何で、俺を殺そうとしてるんだよ? 狙いは先生の筈だろ? まさかお前の黒い四つ目狼(ペット)が勝手に俺を噛んだ、とか言わねぇよな?」

 

 ハジメが予想した様に魔物の洗脳を行なっていたのは清水だ。その目的はこの町に来ていた【豊穣の女神】、畑山愛子を殺す為。

 

【勇者】である天之河光輝や【聖女】である白崎香織の様な『個』としての絶対的な力では無い。代わりに人族の底上げを容易とする力が【作農師】である彼女には有った。それがどれだけ魔人族にとって厄介なことか人類史が示している。力が有ろうとも十分な兵糧が無く、負けたという例はざらにある。その可能性を無に返せるというアドバンテージはチートそのものだった。

 

 清水がレイスと接触したのは迷宮の件から僅かに経った頃、簡易的な依頼でたまたま単独になった時期だ。その際に愛子を殺す事を条件に【ガーランド】へ高待遇で迎え入れられる事を契約したのだ。その実行が今日だった。なお今までその殺害を視野に入れてこなかったのは愛子の護衛が手堅かった為だ。【神山】のお膝元である【ハイリヒ王国】、そこに所在する愛子の護衛は凄まじい数だ。殺せたとしてもすぐに捕らえられるのが目に見えていた。だからこそ護衛の数が減る遠征、それをレイスと共に狙うというのが今回の作戦だった。

 

 しかし順調に魔物を集め、大進攻(スタンピード)を起こす前にレイスが元々使()()していた黒い四つ目の狼達が清水を奇襲。咄嗟の判断により噛まれた腹を千切り、抜け出す事が出来たがそれにより今清水は死にかけている。

 

 恐らくこれまで使役した魔物の多くもレイスと四つ目狼達により殺されているだろう。清水の力は魔物から自由意志を奪う。即ち自立行動に疎くなってしまう。逃走に必死で魔物達に指示などロクに出して居なかったのだ。とっくのうちに死んでいるだろう。

 

 だからこそ一応、清水は己が殺されかけている理由を尋ねている。とは言えある程度予測は付いているが。

 

「此方は常日頃戦場に居た身だ。お前の心に宿る反意、それを誤魔化せると思ったか。最初の頃は私に殺意を向ける事など無かったと言うのに…いつ頃からか裏切ろうとしていたのはよく分かった。幸い私の事を漏らす様子は見えなかったのでな。ここまで利用させて貰ったよ」

「そっか。んじゃ、俺に演技の才能は無かったか」

「断言しよう。無い」

「そりゃ残念」

 

 やはり勘づかれていたらしい。何か証拠でもあったか、と思ったがまさかの気配。長く訓練を積んでいる兵士でも無い清水には盲点であった。

 

 やっぱチートは違うな、と心の中で苦笑する。そして己もそうなれていたらなぁ、と存在する筈のない可能性を思い浮かべる。

 

 すると顰め面はそのままだが、何処か腑に落ちない所でもあったのか。神妙な顔持ちでレイスは壁にもたれている清水へと近寄った。

 

「どうせだ。遺言ついでに私も一つ、君に尋ねよう」

「…何だよ?」

「何故私を、【ガーランド】を裏切ろうとしたのかだ」

「………」

 

 どうやらレイスは清水の裏切りが全く解せないらしい。レイスは他の魔人族よりも選民主義が多少ではあるが薄い。でなければ清水を評価する事も、ましてやその清水を本国に招こうとするなどあり得なかった。

 

「貴様には我が国で英雄と崇められるまでの才能があった。知識も豊かで、『使徒』側の情報も良く知っている。選ばれた我々魔人族としても評価せざるを得ない力が貴様にはあった。それこそ高待遇を得られるまでの、な」

「お褒めの言葉、どーも」

「だからこそ解せん。貴様の目的は成り上がる事であった筈だ。忌々しき【勇者】や【聖女】を超え、世界に名を知れ渡す事だっただろう。ならば【ガーランド】にて英雄となる事が一番手っ取り早い。数多くいる『使徒』の中で埋もれる事を脱却せねば成らなかった筈だ。我々魔人族に価値を示す事が一番だっただろう?」

 

 かつてレイスに伝えた己の目的。それは誰かに己の力を認めてもらう事だった。かつて夢見た様に成り上がって、ハーレムを作って、己だけのハッピーエンドを築き上げる事だった。

 

「…そーだな。多分、それが一番手っ取り早い。正直俺も何でこんな事をしたのかは…よく分かってねぇんだよ」

「ならば何故!? 貴様の()ならば──」

「強いて言うなら…何となく、か?」

「…それ?」

 

 “闇魔法”は聖教教会に於いて多少ではあるが忌避されている。理由は単純に精神干渉という『卑怯』とも言える搦め手の様な性質故の物であるからだ。別に使用が規制されているわけでも無いが、マイナスイメージは付き纏い易い。それ故、それだけで英雄となる事は少なくとも人族側では割と困難であった。しかも比較対象が【勇者】や【聖女】とあっては尚更難しい。

 

 だが魔人族陣営ならば“闇魔法”は彼等にとっての信仰対象である魔王が得意とする権能の一つ。魔人族の中でも得意とする者は多いポピュラーな属性魔法だ。そして“闇魔法”のチートたる清水は人族であろうと、()()()()()()()()尊敬の的でしか無い。成り上がるならばこれ以上の場は無いと言える程だ。それだと言うのに清水はその道を投げ捨てた。正しくそれは愚行に他ならない。

 

 それでも理由は何となくなのだ。気まぐれみたいな物だ。

 

「俺には馬鹿がいるんだ。それも二人。男女それぞれ一人ずつだ。馴れ馴れしいし、事あるごとに俺に構って来る。そんな大馬鹿達だ」

 

 脳裏に浮かぶのは笑顔の二人だ。一人は冴えない平々凡々な同類(オタク)、もう一人は何だかんだと面倒見が良いリーダー気質の女子だ。

 

 話し始めたのはいつ頃だったか。数ヶ月前だと言うのに覚えていない。人生のほんの僅かだと言うのに、随分前に感じるのだ。

 

「だってそうだろ? 俺はかなり前から人族を裏切ってたんだ。どんだけ目が節穴何だって話だろ? 俺が魔人族側にいる事を知らずにへらへら笑って、オカンみてぇに口煩く関わって来て…鬱陶しいたらありゃしねぇ」

 

 清水がレイスとの、魔人族との接触を開始したのは迷宮直後、つまりは二人とよく会話する様になる前の話だった。つまりは仲良くなった頃にはとうに清水はスパイになっていたのだ。

 

 だと言うのにアレらは話掛けて来た。日に日に会話の文字数が増え、距離が近付き、躊躇いも無くなってきた。馬鹿な話だ、自分は裏切り者だと言うのに。

 

「俺を見つける度に嬉しそうに駆け寄って来て気持ち悪ぃし…しれっと距離詰めて来んなや! 楽しそうにしやがって…バッカじゃねーのか、アイツら!? 大して会話上手でもねぇ、俺と喋ってて楽しい訳ねーだろ! あと罰代わりなんだろうが木串痛ぇわ! 加減しろや、あの鬼畜女! 南雲も南雲でラブレター貰ってんじゃねぇよ! 裏切りやがって! 俺の親近感返せ!」

 

 段々と、その何気無い話に力が籠っていく。常日頃から思っていたのか、鬱憤か何かが荒々しく吐き出されていく。これには僅かにレイスも戸惑う。

 

 腹の痛みが吐き出される声に伴いジンジンと熱を帯びる。痛くて辛くて仕方がない。だがそれよりも、この衝動を声にしたいと無視する。

 

「園部は気持ち悪ぃぐらいにこっちの気持ちを把握してくんな! 疲れてる時は軽い挨拶程度で済ませるし…そうじゃなくても俺が話易い様に向こうから話題提示してくるし…エスパーか、アイツは!? お陰で昔よりかは話しやすくなったよ! ありがてぇ! 何なんだ!? あと飯も偶に食わせてもらうけど、うめぇし…気さくで緊張せずに話せるんだよ、アイツはッ! ぜってぇアイツの飯屋繁盛するわ! そりゃそうだわ!」

 

 するといつからか。清水の視界が滲み始める。痛みから来た脂汗だろうか。目に染みる。思わず掌で目を覆った。

 

「何で南雲は【錬成師】のクセに魔法の知識も多いんだよ!? 俺の立場は何処だ!? だっつーのに、俺が説明した時は真剣に聞いて、ちゃんと理解しやがる! 俺が特に教えたい所は聞いてくれるし…聞き上手かっ!? あと漫画とかにも詳しいから喋り易いし…ジョ○ョネタにもすぐに反応するし…本当に馬鹿だよ。アイツ、何だかんだ優しいからなぁ…そりゃモテるわ、クソッタレが」

 

 汗がいつになっても収まらない。目を押さえても、歯を食いしばっても止まらない。それに合わせて喉も震え始めた。情けないったらありゃしない。

 

「それによ…アイツら、事あるごとにスゲェスゲェって言ってくるんだよ。インコかってぐらいな。ちょーっと何か手伝ったぐらいで褒めてくんじゃねーよ、甘ちょろ共がって心の底から思ってたさ」

 

 ──流石だね、清水くん

 ──本当にわかりやすかったよ。凄いね、清水くん

 

 出会って間もない頃、南雲(あの馬鹿)はそう言った。心にもねぇ事を言うなと思ったが、生憎あの男は割と純粋だ。きっとあれは本心からの物だったのだろう。本当にタチが悪い。

 

 ──おにいちゃんもありがとー!

 

 小さな少女がぬいぐるみを抱えて言った。

 

 ──やるじゃない、清水

 

 園部(陽キャ)が俺の髪を雑に撫でながらそう言った。

 

 ──僕も、清水くんの事凄いって思うよ

 

 …本当に馬鹿か、アイツら。

 

「そんな訳ねぇだろ? 俺から闇魔法を引いたら何もねぇ様な屑だってのは分かってんだよ…。家族から見放されて、特に秀でた部分もねぇ屑なんだよ、俺は…」

 

 かつての地球で清水は孤独だった。兄弟は気味を悪がり、両親も清水に接するのを避けていた所があった。それにより清水はより妄想や二次元にに入り浸り、余計に家族とは疎遠になって行ったという繰り返し。学校でも人と関わる事は無かった。もしかしたら話し掛けていれば友人の一人や二人、出来ていたのかもしれない。だが酷い扱いを受けるハジメを見て、もしオタバレしたらと思えば恐怖があった。結果、清水は黙々と教室の隅で本を読むだけでいた。

 

 だがそれでも清水は妄想に浸り込む事でそんな現実から目を背け続けていた。少なくとも、この瞬間までは。

 

 今頃、そう今頃だ。魔人族の英雄になれるその直前に清水はあんな馬鹿達の大切さを知った。有り難みを知った。離れたくないと、本気で思った。

 

「だから…そんなアホみてぇな褒め言葉に絆された俺も大馬鹿野郎、なんだろうなぁ」

 

 ポタポタと血とは別の何かが血溜まりに落ちて跳ねる。頬を伝い、落ちた何かのせいだ。清水はその正体を知らない。

 

「結局の所…理由は何となくだよ。お前は()()()を求めた。そんでアイツらは()を見てくれた。そんで…何となくアイツらを選んだって話だよ」

「…そうか」

 

 ずっと魔人族は清水では無く、その力を求めていた。己も前まではそれで良いと思っていた。だが最後の最後で()()()()()()()、このザマだ。本当に馬鹿らしい。

 

「だがそれでも命は惜しい筈だ。今ならばやり直せる。此方にもう一度来い。以前言っていた待遇よりは窮屈になるかも知れんが…死ぬよりはマシだろう?」

「…イエスって言わなきゃ殺すつもりだろ?」

「ならば死を選ぶか?」

「………」

 

 死は…怖い。それは異世界に来て随分と実感させられた事だ。漫画やらではバンバンと人が死んでいっても、悲劇の一言やらで済む。だがここは現実。死ねばやり直しは効かない。

 

 もしかしたら死んでから発動するループの力があるのかも知れないが、生憎そんなギャンブル好きな性格を清水はしていない。

 

「本当に…本当に命は、助けてくれるのか?」

「約束しよう。貴様の力は失うには惜しいからな」

「そうか…」

 

 ならばこそこの場で選ぶべき選択は、嘘だろうと協力を誓う事だ。もしかすれば役目さえ終わればまた殺しに来るかも知れない。だが生きられる可能性があるだけマシだろう。隙があればそれに乗じて逃げるのもアリだ。

 

 プライドなんざ要らない。生きたい。

 

 だから清水幸利は──

 

 

 

「──だが断る」

 

 ──そう言うと残る体力の全てを込めて、清水は中指を立て付けた。

 

 

 

 すると本日何度目だろうか。しかし今までのそれとは比べ物にならない程、レイスはぐしゃぐしゃに顔を顰めた。

 

「…どう言うつもりだ?」

「どうもこうも…この清水幸利が最も好きな事のひとつは自分が有利だと思っている奴に「NO」と断ってやる事だからな」

 

 レイスは唖然とする。全く合理性も何も無いセリフを返されたからだ。清水の言う意図が分からず、立ち尽くす。

 

 すると中指を立てる事に体力を使い果たした清水は腕を地面に落とし、そして笑った。それは盛大に。愉快気に声を上げて笑った。

 

「ハハッ、マジで言う機会あるもんだな…一回言って見たかったんだよ。サンキューな、これで心残りはねぇわ」

「そうか…それが貴様の遺言か」

「遺言が俺の憧れのオマージュなら悔いはないね」

 

 血が出過ぎたのだろうか。ポーションを飲んだと言うのに手の感覚が無い。頭が回らない。こんな状況で目の前の魔人族から逃れるなどまず不可能だろう。

 

 再び目の前の魔法陣が輝き始める。詠唱も始まった。残り僅かで清水は死ぬ。今まで積み重ねて来た清水の人生は此処で途絶える。

 

 ──お終いだ。

 

「…死にたくねぇなぁ」

 

 天井を見上げ、ぽつりと呟く。迷宮で実感した死の恐怖。死にたく無い。こんな惨めなままで終わりたく無い。体が、本能がそう叫んで止まない。

 

 さっきの言葉なんて嘘だ。死にたく無い。心残りなんか幾らでもある。こんなモブのまま死にたく無いし、ハーレムだって築きたい。ちやほやされたい。それに地球に帰って気になっているゲームや漫画の続きも見たい。

 

 …それに、もう一度アイツらと馬鹿騒ぎをしたかった。

 

 そんな悔いだらけだ。やはり自分は物語のキャラの様に綺麗には死ねないらしい。こんなに未練が残っていては何とも格好が付かないでは無いか。

 

 だが同時にかつてとは違う想いも溢れた。最後の最後で、『自身』では無く『他人』を選べた。その自覚こそは無いが、その事実に清水は僅かに口端を釣り上げて──

 

「──“破断”」

 

 ──放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫? 清水くん?」

 

 痛みがいつまで経っても来ない。意識がいつまで経っても途絶えない。それに違和感を感じ、清水はゆっくりと瞼を開けた。

 

 そこに居たのは…一人の男の背中だった。清水はその背を、姿を何度も見ている。だが一瞬、それが誰なのか清水には分からなかった。一拍を置いて、漸く理解が追いついた。

 

 次に溢れたのは何故と言う疑問。お前はそこにいちゃいけない、という怒り。そのためにわざわざ手紙も書いたと言うのに。

 

 力も無い癖に。才能も無い癖に。心中、清水はそう憤慨した。

 

「…何だ? 貴様は?」

 

 だがそれでも。その背中は誰よりも逞しく…彼は間違い無く英雄(ヒーロー)だった。

 

 服は枝による切り傷が目立つ。肌も汗と泥で塗れている。ここまでどれだけ彼が急いで来たのか、清水はふと想像した。

 

 魔法によりひび割れたナイフ、そこに蒼い稲妻が走る。するとそのナイフは修繕され、銀の輝きを放つ武器へと還った。

 

 そしてそのナイフをレイスへと構え、彼は彼の尋ねに応えた。誇らし気に己を、【無能】たる所以を叫ぶ。

 

「──【錬成師】、南雲ハジメ」

 

 ──他に無い親友を背に、ハジメはその白刃を煌めかせた。




と言うわけで拗らせてる清水くんでした。

原作見てもらえればわかると思いますが、今回の清水くんと原作の清水くんは割と対照的です。
原作の清水くんは命の瀬戸際、自分が生きる事を求め、他者に何ら思っていませんでした。
一方で今回の清水くんは生きる事よりも友人を思うプライドが勝ちました。
彼の心を動かしたハジメと優花の勝利です! やったね!

次回からは戦闘シーンに入ります。
…前回ぐらいから佳境って言ってるのに、次バトルシーンはおかしくないかって?
前回のティアとの問答も今回のレイスとの問答も実質バトルなのでセーフでは?(澄んだ瞳)

ちなみに言っておくと清水の「だが断る」は例の奇妙なオマージュですが、私は一度も読んだ事ないです。
単純にノゲノラで出て来たのが印象的だったので書きました。
二次創作でパロにパロを重ねるって何ぞや?
あと奇妙なアレって面白いですか?

追記
Lichi様
Kaimax様
評価ありがとうございます。
また感想くれるみんなにも感謝を!
これらは私のエナジーです!
感謝だ感謝!
…あと最近誤字修正来てないけど、私誤字ないですか?
無いなら良いんだけど間違ってたら恥ずいので、あったら指摘ヨロです。

この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?

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