寝ます!(今日だけで六千字程書いたよ! 褒めて!)
──コツコツ、コツコツ
「──ぅん? 何かしら」
ハジメが清水のいる洞穴に辿り着いた同時刻、窓から響くその音に優花は目を覚ました。音は絶えず部屋に響いている。一瞬だけならば二度寝する事も出来ただろうが、何せけたたましい。優花はそれを無視出来るほど図太い神経の持ち主では無かった。
布団を払い除けると、窓に近づく。月の逆光が窓にその陰を映す。少なくとも人間では無い。サイズも小さく、威圧感は無い。そしてその魔物はよく見知ったシェルエットであった。
優花はそれで気が付く。
「…ピナちゃん?」
『ピィ──!!』
それは清水の使い魔であるピナだ。その嘴で窓を突き、己の存在を優花に知らせていたのだ。
「どうしたのよ、ピナ? 今は夜よ? 清水は何を…」
ピナの勝手な悪戯とでも解釈したのか、優花は宥める様な声を掛ける。そして窓を開けて…ふとそこで気が付いた。
白い筈の羽毛を固める血の色に。
それに少なくない動揺と不安が立ち込めるが、同時にピナの足にある物にも気が付いた。一つは手紙、そしてもう一つは…
「…石?」
それは結晶の様に澄んだ鉱石。白磁に輝くそれは丁寧に形を作られており、それを加工した者の腕が伺える。
窓から月の光が差し込む。その光は…彫られた魔法陣の輪郭を浮かび上がらせた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
場面は戻り、血の匂いが充満する洞穴の中。そこにてハジメは魔人の 兵士、レイスと対面していた。
レイスは動かない。いや、様子を伺ってるのか。【錬成師】と言う名前を言えば油断すると思っていたが、レイスがハジメから視線を逸らす事は無い。
何と言ってもハジメはレイスの“破断”を弾いたのだ。部外者が来る事がレイスの予想外だったとしても、それは十分な実力の示唆に当たる。大小は兎も角、レイスがハジメを『敵』として認める理由はそれで事足りた。現にレイスは魔法陣の刻まれた掌をハジメへと向けている。
レイスを視界に入れつつも、清水を見る。彼はハジメを睨み付けている。何故ここにいるのかと困惑、共に怒りがあるのだろう。それはハジメも同じだ。
そして彼の腹に滲む血。服の布切れで覆われているが、それでもかなりの物だと推測される。睨み合いに時間を使うのはかなり惜しい。
(…まずは逃げるのが先決かな)
魔人族は強い。素のステータスも人族よりも断然高く、魔法の適正にも恵まれている。少なくともハジメがタイマンで勝てる様な相手では無い。勝つならば神殿騎士二人か三人はいるだろう。
搦手を使えばもしやすれば勝てるかもしれない。だが、それには多量の魔力を必要とするし、一か八かの賭けだ。最悪清水も自身も死ぬ。
逃げるにしてもレイスが入り口側を塞いでいる。入って来る際は自身一人だった為、天井を駆ける事でレイスを躱した。だが清水を負ってであれば不可能だろう。
だからこそハジメの選択は早かった。逆手に構えていたナイフ。それを最小の動きでレイスの腹へと投げつけた。
魔法の準備をしていたレイスはそれに多少の意識を割かれる。半身になって避けようとする。その時には既にハジメは動き出していた。
「うおっ!?」
「清水くん、捕まって!」
左片腕で清水を担ぎ、ハジメは壁に右手を叩き付けた。唱えるは彼唯一の魔法。与えられた才能。
「“錬成”!」
瞬間、壁は砂となって爆発する。威力は無い。代わりに砂塵が洞穴の中を埋め付くした。
こうなればレイスの目は機能しない。そしてハジメは予め、走行ルートに目を付けていた。それに従いハジメは逃走を開始した。
魔力循環はこれ以上無く好調だ。土壇場故の覚醒か、清水一人抱えていても壁走りならば出来る。ハジメはそれを用いて、レイスの横を抜けようとした。
だがその寸前、ハジメは砂塵を貫く視線を感じた。ぞわりと肌を舐める様な悪寒。それに従い、身を捻った。
「──“破断”」
瞬間放たれる水の斬撃。それはハジメの頬に確かな傷を付けた。
敵は歴戦の猛者。戦闘種族たる魔人族の中でも選りすぐりのエリート。視界など無くとも耳が、肌が、経験則が砂塵の中からハジメを暴き出したのだ。
危うく脳を貫かれる所、ハジメは冷や汗をどっと噴き出した。死の気配が隣にある。【オルクス大迷宮】以来の恐怖だった。
だがそれに恐怖すれど、縛られる事は無い。ハジメは知っている。止まれば『死』は簡単に訪れる事を。だからこそハジメは己が身を前へと押し進める。
やがて洞穴を抜け、森に入る。後方を見ても追いかけて来る気配は無い。
──ピュィイイイイイ!!!!
代わりに来たのは指笛の音。恐らくは風魔法で音を広範囲に響かせているのだろう。何かにレイスが呼び掛けている、それだけがハジメには分かった。
分からない、だが嫌な予感がする。ハジメは更に魔力を激らせ、駆けようとした。
「──南雲! 右だ!」
「──ッ!?」
だが清水の声がそれを遮った。ハジメは言われた通り視線を傾ける。そのお陰で気づいた。
──四つの眼光。それが草を隔て、現れる瞬間を。
魔人族が使役する黒い四つ目狼、通称『グロル』。それが牙を剥き、ハジメへと襲い掛かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
砂埃が晴れた洞穴、そこからレイスはゆったりと現れた。周囲に人の気配は無い。大分遠くに清水とその仲間は逃げた様だ。
「…【錬成師】、か」
本来ならば非戦闘職の男など視界にも入らない。それ程に戦闘職と非戦闘職では格が違う。
だがつい先程の対面、そして見事己から逃れて見せた事実。それがレイスの思考を何処までも冷徹とする。
だからこそレイスは指で輪っかを作り、それを咥える。そしてそのままに彼は口笛を吹く。
これは合図だ。総勢十体。その内の三匹への攻撃命令。音が鳴った時間こそは短いが、口笛の段階ごとの音程が詳細な命令を『グロル』に伝える。
──清水幸利といる男を半殺しにしろ
命令内容はこう言った物だ。油断は無い。だが同時に己が優位に立っていると言う自負はある。また『グロル』は己の上司から貰い受けた特殊な魔物。生半端な者ではまず勝てない。
かの【錬成師】は【ガーランド】にとって価値は無い。だが人質としてならば十分に価値が見込める。レイスは先程の清水の話を思い出す。
──俺には馬鹿がいるんだ。それも二人。男女それぞれ一人ずつだ。
レイスが見るからに、清水は決して人族側にいる事自体が重要で無い。彼にとって重要なのは二人の友人。彼等が人族側にいる事だろう。
そしてかの【錬成師】が現れたその時、清水は確かな動揺を見せた。死の瀬戸際よりも尚、大きな動揺だった。そこからアレが清水の友人の一人であると察せた。
清水幸利は【ガーランド】において非常に有用だ。魔人族が長年、人族に劣って来た物量と言う名の武器。それを己が上司と共に更に進化させられるだろう。
清水幸利は確かに勧誘の手を離した。だが、友の首に刃が突き立てられて尚、彼はその手を払い除けられるか? 彼にとっての『大切』を手放せられるか?
「その為には…もう一人の女も捉えねばな。使命が増えるばかりだが、これも我らが魔王様が為…止む無し」
【豊穣の女神】愛子の殺害、清水幸利の再勧誘及びそれに伴う友人二名の人質としての確保。その為、レイスは再び口笛を吹く。それは残る七匹の眠りを醒ます音であった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ぐっ! ぬぉっ!? はいやぁっ!!」
駆ける、駆ける、そして駆ける。
絶えずハジメは脚を回転させる。全力で走り続けて十分やそこら。疲労が徐々に溜まりつつある現状。されど今のハジメに止まるという選択肢は存在し得ない。
『『『ウォオオオオオ!!!』』』
後ろから迫るは三匹の『グロル』。彼等はそこらの魔物を軽々と超える力、そして狡猾さが存在した。
群れ、地形、そして
その内一匹に対し、ハジメは地面に手を当て、“錬成”。そして創り出したナイフを投げ付けた。だが『グロル』はそれを予め予想していたかの様で、慌てる様子も無く回避。そのままハジメとの距離を詰める。
そこでハジメはワイヤーを生成。それを枝に引っ掛け、木と木の間を振り子の要領で移動する事でそれを回避。
こうした木々、壁等を駆使した立体的な逃走により、身体能力の差を何とか埋められている現状。だがこの現状はハジメにとってそう芳しい物ではない。
今は体内魔力やスタミナが十分にあり、かつ距離がまだある為冷静でいられている。素のハジメならば無茶も考えられたが、今は死に体の清水を左腕に抱えている。清水が巻き込まれる事、片手が埋まっている事。これらを考えると、そう無茶も出来ないのが現状であった。
そして『グロル』達は正しくそのスタミナ切れを狙っている。所々で『グロル』達から余裕が見られるのは、ハジメの疲労が確実に来る瞬間を待って温存している為だ。稀にハジメに攻撃を仕掛けるのは、ハジメに全力での逃走をさせる為。
このままでは体力切れに至り、その瞬間ハジメは殺られるだろう。
(どうする!? このままじゃ距離も詰められる。“錬成”で落とし穴でも作る…いや、あの狼達は賢い。そんなチンケな罠じゃ無理だ。余裕がある内に応戦…それもリスクがあまりにも高い! 考えろ…考えろっ!)
そう思考を巡らす間にも『グロル』達は横に間隔を空け、走っている。ハジメの意識をより広範囲に広げる為の策だろう。自身の集中力が削られていく感覚が鮮明に感じられる。
ハジメの体内魔力の循環は技能による“身体強化”や天職自体が与える恩恵とは異なる。身体強化の倍率、魔力消費量の効率の良さなども挙げられるが、その真髄は強化の恩恵を受ける者が自ら操作するか否かだ。そしてハジメの場合は前者。それは即ちハジメは一時たりとも集中を欠かす事が出来ない事を示している。
(【ウル】に逃げ込むか!? ただティアさんとの契約がある。下手に【ウル】のみんなを巻き込んだら、最悪清水くんが死ぬ! …何か無いのか! 方法は!)
「…ぐも」
「何、清水くん!? もしかして傷が痛むの!? でも今止まったら死──」
「俺を、置いてけ」
「…は?」
思考を巡らす中、清水が己を置いていく様に言う。走る事は止めなかったが、それは十分にハジメの思考を停止させた。何を言っているか、まるで理解出来なかった。
「俺を、置いてけって…そう言ったんだよ! 馬鹿野郎!」
「何言ってるの! 死ぬよ!? 後ろの魔物が見えないのか!? だから──」
「俺は──裏切ったんだよ!」
「ッ………」
ハジメが理解していないのがよく分かったのか、清水は再度告げる。今度こそは清水の言葉を理解出来たハジメ。しかし納得は無い。
馬鹿な事を言うなと怒鳴るハジメ。しかしそれを封殺するように響く清水の叫び。それは事実の宣告。清水自身が自ら背負った咎。
「お前は馬鹿だろうから気付いて無いんだろうよ!? 全部説明してやる! 俺は魔人族側に着いたんだよ! 目的は愛子先生の殺害! その為に今日まで作戦を練って、魔法を鍛え上げて来た! そして護衛が薄くなる今日を狙ったんだ! 今日奇襲するのを提案したのも俺だ! 魔人族は俺の口車に乗っただけ! そんな俺にお前が救う程の価値があるか!? また裏切るかもしれないのに!? お優しい事で! 反吐が出る!」
これらは全て事実だ。かつて清水が夢見た【勇者】。それになる為に目論んだ事。魔人族は清水の補助をしていたに過ぎない。最終的に清水が再度裏切っただけで、それが無ければ清水は【ウル】と【豊穣の女神】を葬っていただろう。
その間にも『グロル』は襲い掛かる。牙が、爪が、体躯が。一度擦りでもすれば致命傷。ハジメの不規則な動きにも慣れて来たのか、その攻撃は徐々にハジメへと近付いていた。
「それに俺は死に体だ! 生き延びたとしても失血死する可能性が九割がたは超えてる! ここで死ぬのと何ら変わりねぇ! むしろ一瞬で死ねるだけ、こっちのがマシかもな! 使い物にすらならねぇ俺を抱えて走るよりもお前一人で逃げた方が幾分もマシだろ!?」
これは不器用な願いだ。清水はとうに袂を分かっていたのだ。かの日、魔人族と手を結んでしまった日から。清水の手は汚れ始めていた。
人は殺していない。けれど魔物の尊厳を奪った。
人を犠牲にはしていない。けれど一度しようとした。
人を辱めてはいない。けれどそればかりを夢見ていた。
清水幸利はエゴイストだった。ハジメや優花の様な他者を助けられる様な人間では無い。己が要求に従い、恐怖に慄く。一言で言えば小物だった。
今は違うかもしれない。成長出来たかもしれない。だが…二人はあまりにも眩し過ぎる。
「こんだけ言えば分かるだろ? お前はどうするのが一番なのか」
──だから、ここでくたばるのは自分だけで良い
──とっとと俺を置いていけ
清水はぶっきらぼうな口調で、そう願った。どうか、自分を見てくれた二人に生きてくれと。
そう言って清水は目を瞑って──
「────ふんっぬ!!」
「グハッ!?」
──右腕でハジメに殴られた。
「な、何すんだ!? 捨てろとは言ったが、おま──」
「君さっきから、ごっちゃごちゃうるさい!」
「んなっ!?」
犠牲になる覚悟は出来ていた。しかしハジメ本人が攻撃してくるのは覚悟していなかった。清水はすぐに抗議を開始する。
しかも清水史上一番の覚悟。それをまさかのうるさい呼ばわり。清水は呆気を取られた。
「やれ何だ裏切ったから置いてけだの、重傷だから置いてけだの、お前だけでも生き延びろだの…煩い! 僕に関係ない事こんな状況で言うなよ!」
「てめっ!?」
関係ない? 巫山戯るな。大ありだ。ハジメが清水を捨てるか捨てないかで、ハジメの生存率は大きく変わるのだ。それを関係ない? 清水は停止していた頭を熱くした。
だがそれを吹き飛ばす程のハジメの怒号。それが絶えず此方にぶつけられた。
「いいか!? 僕はヒーローなんかじゃ無い! 聖人君子でも、仏でも、ましてや【勇者】でも無い! ちっぽけな…ただの【錬成師】だ!」
「…は?」
「だから世界の事情も、王国も、教会も知らない! 僕は僕の為にある!」
「だから何だよ!?」
「まだ分かんないのか!?」
「分かるかっ!」
「ならハッキリ言ってやる!」
清水は何とかしてハジメの腕の拘束を逃れようとする。しかしハジメの腕は非戦闘職のそれとは思えない程に硬い。己が失血しているせいか、それともハジメが全力で清水を抱えているのか…それは恐らく両者だろう。
だがここでふと清水は気がつく。もしやハジメには──清水を置いていくという可能性が存在しないのではないか、と。
清水は逃れられない。そしてそのままハジメは構うものかとその声を大にして叫ぶ。
「僕は──君に生きて欲しいからここに来たんだよ!」
「ふざっ、ふざけんな! この後に及んで揶揄うな! 第一何でお前がそこまで俺に──」
「決まってるだろ!」
かつて言って欲しい言葉があった。孤独な男が望んだ言葉だ。
両親からも、兄弟からも、周囲からも。何処の誰とでも彼とは埋められない距離があった。
彼は空想の中で色んな物に憧れた。冒険、英雄譚、成り上がり、ハーレム…。
本当に、多くの物を望んだ。
だけれど掛け替えの無い人に自分自身を見て貰って彼は、満足したと…そう錯覚していた。
──違った。
彼が、本当に望んでいたのは──
「──友達だからに、決まってるだろ!」
「────ッ」
そんな、あまりにもありふれた言葉だったのだ。
「あと…君は自分が裏切り者とか言ってたけど…僕は『使徒』全員を危機に追いやったテロリストだ。今君を助けた所で僕の名前に傷は一つも付かないよ」
だから、とハジメは先程までの烈火の様な怒りが嘘の様に。穏やかな笑みを携えて清水を見た。
「だから僕は君の味方だよ。自分だけ犠牲になるとかそんな寂しい事言わないでよ…手伝わせてよ。それで…一緒に明日も馬鹿やろうよ」
「…ぁ」
何だか瞳が熱い。何故だ。何故だ。そんな理由、もう分かっている。
嗚呼、困った。死ねなくなった。死にたく無い。さっきまでは諦めていたと言うのに。もう、一寸たりとも死にたく無い。
清水の頭が、体が、魂が、そう訴える。
『こら、男子共。勝手に二人でイチャイチャして燃え上がってんじゃないわよ』
「「してないよ(ねぇわ)!?」」
すると途端に声が響く。二人は反射でツッコミを入れるが、すぐに違和感を持つ。
その声は二人にとって馴染み深い声だ。【ウル】に来てからと言うものの、常に側にいた人間の声だったからだ。だからこそ清水は今居る筈のないその声に辺りを見渡す。だが誰もいない。
一方でハジメは気が付き、『それ』を懐から取り出した。
現れた『それ』は一見すれば澄んだ鉱石だ。見ようによれば宝石にも見紛うだろう。しかし良く見れば、その鉱石には魔法陣が刻印されているのが分かる。
──アーティファクト:念話石
月下の日、ティアから貰い受けたアーティファクト。それらピナにより彼女の手元へと無事届けられた様だ。届けられた事実とピナが無事だった事にハジメは安堵し、呼び掛ける。
「遅くにごめんね、園部さん。寝てた…よね?」
『そりゃあ寝てたわよ。しかも起きて電話?したら男共が友情してる所、散々聞かせられて…まあ、清水が無事っぽくて何よりだけど』
「園部…」
園部優花の少しばかりぶっきらぼうな、しかし確かな温かみを感じる声が念話石から発せられる。二度と聞けないと思っていたその声に、清水は聞き入った。
『一応言っとくけど、私だってアンタの事友達って思ってるし、死んだら殺すつもりだったわよ? 次、自殺志願したら私が直々に葬ってやるから覚悟なさい』
「南雲…俺、二度とあんな事言わねぇわ。すっげぇ反省した」
「それが良いよ、清水くん」
何だかんだと優花は恐ろしい。それがこの二人の共通認識だ。ここ数日でそれを身を持って理解している。例え二人は魔王に歯向かえたとしても、優花には打ちのめされるだろう。それ程に二人は尻に敷かれている。
命大事、と頷く清水。それに更に賛同するハジメ。なお二人は今、『グロル』に追われ、命の危機真っ最中である。
「それで…大体は把握してくれた?」
『アンタの手紙とこのアーティファクトを通してね。あとピナちゃんが名状し難いボディランゲージで説明してくれたわ。説明はしづらいけれど分かりやすかったわ』
「何だそれ? 俺知らねぇぞ?」
「ああ、分かる。名状し難いけど分かりやすいよね、ピーちゃんのボディランゲージ」
「知らねぇよ?」
どうやら清水の知らぬ所でピナが変な技術を手に入れたらしい。何だか『名状し難い』という枕詞があまりにも不穏なのだが…清水は目を背ける事にした。
『まあ、兎に角こっちにも魔物が来る可能性が高いのよね? 清水が寄越した魔物が』
「いや、俺の魔物はほぼ全滅だ。ピナ以外は多分くたばってる。問題はレイスの『グロル』だ」
『「グロル?」』
ハジメと優花の二人は初めて聞くその名に首を傾ける。一方で清水は魔人族から手に入れた情報を元に、『グロル』の詳細を語り始める。
清水の情報によると『グロル』は魔人族側が生み出した、特殊な魔物の一種との事。強力な身体能力のみならず、知性、そして固有魔法として“予測”と呼ばれる少し先の未来の可能性を見る力を持っているとの事。これらのシナジーが相当までに厄介との事だ。
「でも僕、さっきからかなり避けれてるよ」
「そりゃお前が変な動きばっかしてるからだろ。それに“予測”はそんな完璧な技能じゃないらしい。しかもちょっと賢いつっても魔物の知性だ。何個もある可能性を全部使いこなせる訳じゃ無いんだろうさ」
「なるほど」
『待ちなさい。アンタ今、どんな動きしてんのよ?』
「コイツ凄いぞ。チンパンジーでもこんな活発に動かん」
「清水くん? 僕の事馬鹿にしてない?」
だが実際片腕に清水、片手に念話石を持った上で木の上やら地上やら谷やらを立体的に走り回っているのだ。実に変態的…もとい超絶的な技術である。
なお走りながら普通に喋っているのは体内魔力の循環は肺器官にまで強化を及ぼしているからだ。
「ちなみに今回あの魔人が連れて来た個体数は十だ。今こっちに三体いる事を考えると…残りは【ウル】に向かってるかもな」
『なる程ね。面倒な事になったわね。流石トラブルメイカー共。やってくれるわ』
「………あ」
ここまで言われてふと思い出す。ティアの折衷案の内容の一部を。
──【ウル】の町にて一人でも被害が出たならば…その時点でその貴方の御友人を仕留めに掛かります
今現在、【ウル】を襲おうとしているのは決して清水では無い。だがそのきっかけは清水で間違い無いのだ。「二度と起こさぬ様に」と殺される可能性は十二分にあり得る。
ハジメは血相を変えて念話石に叫んだ。
「園部さん! 【ウル】の人達に被害、絶対出さないで!」
『そりゃ勿論そうするけど。何でそんな慌てて…』
「詳しくは説明出来ないけど…最悪清水くんが死ぬ!」
「『何がどうしてそうなった!!?』」
詳しくは言えない。何たってティアはハジメ自身もよく分からない存在なのだ。しかも「誰にも言うなよ?」的なプレッシャーもあった。ハジメは黙秘した。
『…はぁ、ホントこのトラブルメイカー共は。取り敢えず帰って来たらみんなに心配と迷惑を掛けたお仕置きとして木串の刑+αだから覚悟しなさい』
「ヒェッ」
「南雲…俺もう帰りたく無い」
もうさっきまでの覚悟が決まっていた清水はいない。優花様々である。彼女が清水に再び恐怖を取り戻したのだ! …まあ、ハジメも恐怖に駆られるがそれは些細な話である。
『まっ、取り敢えずこっちは愛子先生とかに掛け合ってみるわ。一旦切るわね』
「うん! ありがとうね」
どうやら【ウル】の方は町中を巻き込んだ総決戦になりそうだ。敵は二桁にすら及ばないが相手が相手。魔人族に加えて新種の魔物七匹。それだけの警戒でもなお、期間余りある存在だ。
ただそれでも優花の言葉の一つ一つには揺らぐことの無い強固さがある。任せられると、ハジメは思えた。
そして念話石の機能を切ろうとした、その瞬間。ぽつりと小さな声が向こうで呟かれた。
『…帰って来なさいよ、馬鹿二人』
「…うん」
「…おう」
次には魔法陣の輝きは消え失せた。恐らくこの戦いが終わるまで、また輝く事はないだろう。そんな余裕がそもそも無い。
そしてこの追いかけっこもいよいよ終盤だ。
「さて…それじゃあ先ずは、ここを打開しないと、ねっ!」
痺れを切らしたのか『グロル』はこれまでに無く迫力と勢いを乗せ、ハジメへと迫る。恐らくは先程までの念話石での会話を挑発と受け取ったのか。それとも『グロル』の動きに
兎も角、ここを乗り越えねば明日の日の出は拝めない。ハジメは舌で唇を舐め、正念場へと身構えた。
すると脇に挟まれた清水が声を出す。先程までの
「南雲…案がある」
「よし、乗った」
「はえーよ!? ただかなりリスキーだ。ミスが一つでも有れば二人仲良く地獄行き。…やれるか?」
ハジメは思い返す。異世界に来てからと言うものの死へ近づく感覚は幾度となくあった。
オルクス迷宮、檜山達による暴行、メルドとの訓練、ウォルペン工房…本当に幾度となく経験した。恐らく一歩間違えれば死んでいた物ばかりだ。
それと今は何ら変わりない。変わっているのは近くに頼れる仲間がいる事か。何と心強い事か。
ハジメは口を三日月の様にして、念話石をしまいナイフを取り出した。
「生憎…逆境には慣れてるからね」
「ホント…こう言う時に、お前は心強いな」
──【ウル】での死闘はこうして火花を散らした
…や、戦闘回来週からだし。
流石に次回からちゃんとやるし。
というか今回も逃げてばっかだけど実質的に戦闘回って言えるからセーフです。
ちなみに前回ハジメが洞穴まで行けたのはピナの名状し難いボディランゲージがあったからです。
ピナは割と優秀です。
寝ます!(現在1時越え)(明日大学一限から)(寝る!)
追記
dさん様
評価ありがとうございます。
並びに誤字修正の匠様、感想を下さる皆様にも感謝を!
全てそれらは私のエネルギー!
多分それらが有れば遅れる事は無くなるのじゃ…(結構もらってる現在でも遅れてる作者の説得力皆無な言い分)
…取り敢えず次回はちゃんと0時0分に出せる様努力します。
この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?
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ハジカオ!
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オリジナル展開!
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成り上がり要素!
-
考察要素!
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曇らせ!
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感想返し!
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ダイレクトマーケティング!