恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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ダンまち最高! ダンまち最高!
オマエもダンまち最高と叫びなさい!
…失礼、ありふれ零5をスルーしてダンまち最新刊を読み耽った作者です。
あー、ダンまちおもしれぇ。
次が読みたいんじゃぁ〜。

ちなみに私の作品が好きでダンまちは読んだことがない人にはダンまちがオススメ!
ベルくんはすっごく良い子です!
あー二次創作やりてー!(一度も完結させたことのない作者の戯言)

まあ、そんな感じでどうぞ!


13、『始まりの戦い』上

「──なる程、町の方の魔物は仲間に対処を求めましたか。悪く無い判断ですね」

 

 月明かりが照らす夜空。そこに浮かぶは幻想的な少女、ティアだ。

 

 彼女は空中を浮遊し、脚を組んでいる。本来ならばあり得ぬ現象。されど彼女はそれを苦とする様子も無い。ただただ地上を優雅にも見下ろすばかりだ。

 

「ですが、まず貴方を追う魔物はただで済まされる様な相手では有りませんよ? …不可思議な動きで避けていますが」

 

 森の中を覗くと、木の上で体操選手ばりの動きをするハジメとそれを散らばり対処する魔物達の姿が捕捉された。良くも人を抱えながらもあの様な動きを出来るものだ、と感心する。

 

「それにしても…やはり魔人族本体は従来のソレと変わりませんが、魔物が非常に厄介ですね。流石、としか言えませんね」

 

 同時に地上の魔物の中でも上位に食い込むであろう『グロル』を見つめ、彼女は呟いた。まだ【真の大迷宮】の魔物には程遠いが…それでも今後の成長を考えたならば脅威には違いない。

 

 やはり()()()は厄介だな、と嘆息するティア。しかもこれで発展途上なのだ。タチが悪い事だ。

 

 もっとも一番の反則的な存在(チート)たる彼女にはそんな事を言われたくは無いだろうが。

 

「嗚呼、それと…」

 

 ふと、ティアは己の背後を見返した。肩越しに視線をやる彼女は非常に芸術的だ。しかしその視線の先には何も有りはしない。

 

 一見すれば、にしか過ぎないが。

 

 彼女は()()()

 

「何の御用で? 『()()使()()』」

 

 するとふと空間が歪む。否、ソレが姿を露にしたのだ。

 

 ソレは白を基調としたドレス甲冑のようなものを纏っていた。ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている。その姿はまるで神話でのワルキューレのようである。

 

 特筆すべきはその背にて輝く一対の翼だ。銀光を纏った翼は魔力により編まれた物。背後に月を背負い、煌く銀髪を風に流すその姿は神秘的で神々しい。ティアとは別種の浮世離れした美しさと魅力を放っていた。

 

 だが、惜しむらくはその瞳。彼女の纏う全てが美しく輝いているにも関わらず、その瞳だけが氷の如き冷たさを放っていた。その冷たさは相手を嫌悪するが故のものではない。ただただ、ひたすらに無感情で機械的。人形のような瞳だった。

 

「…やはり()調()()()()()()()、私を看破しますか。()()()

「大袈裟ですね。高い自己評価は身を滅ぼしますよ? 貴女、それ程隠れるのは上手く無いでしょうに」

「…」

 

 銀の少女はあいも変わらず無表情。しかし恐らくは多少なりともティアの言葉は彼女の癪に触ったのだろう。その口からギリッと噛み締めた様な音が、確かに聞こえた。

 

 だがなおも彼女は淡々と進める。瞳を細めつつ、本題へと話を移した。

 

「要件はただ一つです、神の器。…()()()()()()()()()()()()?」

「それは、答える義理がありませんね」

「そうですか…」

 

 銀の少女のガントレットが開く。そして手に取るは鍔無しの銀の双大剣。二メートルをも行く剣を軽々と握り、背にある翼を在らん限り広げてみせる。

 

 一方でティアの周囲を二匹の龍が取り巻く。それは燃え盛っていた。それは紫電を纏っていた。“蒼炎龍”と“雷竜”。ティアの代名詞ともされる魔法だ。

 

「我が名はフィーアト、『神の使徒』として貴女に罰を与えましょう」

「フフッ、御冗談を。貴女こそ今日は月が綺麗なので、取り敢えず死んだらどうです?」

「戯言を…」

 

 地上にて各々が動き出す一方。月夜の空の中で神の領域の闘いが幕を開いた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「バリケード足らねぇぞ!」

「トラップはこんなもんか?」

「や、もっと殺傷力を…」

「即席で良いんだよ! そんなのより数だ数。魔物の動きを止めることを優先しろ!」

 

【ウル】の町では魔物の襲撃への対処に追われていた。当然きっかけとしては優花の知らせ。ハジメからの報告を通し、彼女が円滑に話を進めた為である。

 

 しかし、やはり優花は一人の少女。「魔物が来たから戦え」と急に、しかも夜に言われても、士気はそれ程望めなかっただろう。

 

 だがそれは…【神の化身】が居なければの話だ。

 

『町の皆さん! 時計台の周囲に集合を! 散らばっては行けません! 此方には『使徒』が…そして神殿騎士の皆さんがいます! 落ち着いて避難を!』

「おお! 我らが【豊穣の女神】!」

「その意に我らは従いまする!」

「どうか御身の声を我らに!」

 

 風初補助魔法の“風音”を用いて、その声を町中に響かせるのは【豊穣の女神】畑山愛子だ。彼女は時計台の見回り台で己の声を響かせる。

 

 愛子は非戦闘職。しかし規格外の天職、そして魔力量が存在する。攻撃魔法ならばまだしも補助魔法ならば彼女は十全に使用可能だ。

 

 これには民衆も跳ね起き、命に従う。何せ彼等は己の信仰に真摯だ。今も時計台の元で愛子を見上げ、崇めている。こう言った場合に彼女の名声は凄まじい。

 

 また【錬成師】達は簡易的なバリケード、堀などで時計台を囲んだ。ここに『使徒』や神殿騎士達の攻撃が混ざれば、かなりの防御力となり得るだろう。

 

 更に【農作師】の能力により城壁には肥大化した蔦が敷き詰められている。これは『ネイラソウ』と呼ばれる植物で、潰れると粘液を外部に吐き出す。魔物が壁を登ろうとした際を考慮した自然のトラップだ。

 

「ぅう〜。優花ぁ〜、奈々ぁ〜。ホントに魔物来るの?」

「らしいわよ。しかもかなり強いのが」

「らしいって…優花、それ誰情報?」

「南雲と清水。ちょっと電話? 念話? があってね」

「電話ってんなわけ…そんでその二人は何処だよ?」

「今は…遠い所よ」

「「「「「死んでるの!!?」」」」」

「生きてるわよ。じゃなきゃ私が殺すわ」

「「「「「ヒエッ」」」」」

 

 そのバリケードの上に立つのは『使徒』の六人。近接職業の者も少なく無いが、魔法が使えないわけではない。彼等は中距離、遠距離からの魔物の行動の妨害を主軸として配置されている。

 

 では誰が魔物と直接立ち向かうのか。それはバリケードから外で布陣する四人の神殿騎士。近中遠全てに優れた戦闘職である彼等だ。今も腰に差している剣に籠手を当て、来るであろう魔物に備えている。

 

「…本当に来るのか?」

「恐らくは。魔人族が相手とならば、十中八九目的は愛子か『使徒』。その全員がここに集合している以上、ここに来るしかないでしょう」

「だ、だが」

「南雲ハジメはこんな状況で『魔人族が来る』などと言う嘘は吐きませんよ。教会の定めた罪人とは言え、愛子の教え子。それ程腐ってはおりません」

「むぅ…」

 

 デビッドは未だにハジメに反感を買っている様だ。それ程教会への信仰が深いとも取れるが、逆に言えば頭が硬い。チェイスはこめかみを揉みつつ、必殺とも言える言葉を放った。

 

「第一…その言葉に従うと決めたのは他でも無い我らが愛子です。その言葉を信じずしてどうすると言うのです?」

「っ!? …そうだな。そうだったな。よし! いつでも来るが良い、魔物共! 私が斬り伏せて見せよう!」

「ちょっっっろ」

「ん? 何か言ったか、チェイス?」

「いえ、何も?」

 

 愛子の決定だと再認識した途端、デビッドは覚悟をメラメラと燃やした。非常に分かりやすい。バリケードの上にいる『使徒』達も呆れていた。チェイスはそれにフフッと顔を逸らして笑う。

 

 各々が決意を固める。未だに魔物が来る兆候は無い。バリケードの中にいる民衆は「本当に魔物が来るのか?」と僅かにだが疑い始めている。

 

 しかしバリケード製作完了から二十分と経たない頃だった。それは、現れた。

 

『皆さん! 魔物です! 数は…()()! お気をつけて!』

「「「「「「──ッ!!」」」」」」

「…来たな」

「ええ。残念ながら…南雲ハジメの報告は事実だった様で」

「そうだな」

 

 見張り台にいる愛子が森から『グロル』の群れを発見する。それに『使徒』達は少なくない緊張を、神殿騎士達は戦意を露わにした。

 

『『『『『『『グルルルル…』』』』』』』

 

『グロル』は唸る。今の主が彼等に与えた命に従う為に。その爪牙を光らせ、地を踏み締める。

 

 バリケードを覆う様に散開する『グロル』。それに伴い各方向にばらける『使徒』と神殿騎士。

 

 そして互いに相見合う。この場の緊張を示す様に静寂する事一拍。一陣の風が彼等に吹く。

 

『『『『『『『グォヲオオオオオ!!!』』』』』』』

「“螺炎”!」

「“天翔閃”!」

「“雷蛇”!」

 

 それが──戦いの合図となった。

 

 後に『【ウル】攻防戦』、そしてその更に後に『始まり戦い』と呼ばれるこの一戦が、()()()()ここで幕を開けた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「──よし! 南雲! 作戦決行するぞ!」

「上等! 死ぬなよ、清水くん!」

「お前こそなぁ!!」

 

 そして本当のこの戦いの幕開けは、終わりの一途を告げていた。

 

 迫る『グロル』三体は変わらずハジメの右後ろ、左後ろ、木の上と散らばって追いかけて来ている。互いに視界を共有し合う様な形だ。

 

 やはり()()()()()()()()()()()()()と思考しつつも、ハジメは止まらず移動。生憎立体的な動きによる逃走に『グロル』は慣れつつあり、厳しくなりつつあるのが現状と言えた。

 

 だがそこでハジメは、逃走中にも関わらずしっかりと()()()()()()()()

 

『グロル』は学んでいる。ハジメが地面に手を付けた時には『何かしら』を起こすと。ナイフ生成、鋼線生成、段差形成…、【錬成師】の力を今の今までフルで活用した方が故に『グロル』は警戒し、彼等の固有技能である“予測”を使用。

 

 だから彼等にはコンマ数秒先の未来が()()()

 

 そしてだからこそ、彼等は後ろに下がった。

 

 何故ならば今回のハジメの“錬成”は道具の生成でも地形の形成でも無い。ただただ単純な、レイスに一度見せた煙幕だったからだ。

 

 だがレイスは食らっていても、『グロル』達にとっては初見。視界だけで考えたならば何かが迫って来る図にしか思えない。『グロル』はそれを攻撃だと判断し、大袈裟に後方へと逃げた。

 

 そして彼等の“予測”の通り、煙幕がハジメを中心として発生する。その頃には『グロル』は煙幕範囲から外にいた為、あまり視界を塞ぐという効果は無いだろうが。

 

 だがこの煙幕は『グロル』等の視線を遮る。別に煙幕の中でも戦う事は出来るだろう。だが煙幕が無くなってからの方が確実だろう、と迅速に判断。結果、『グロル』は砂煙が上がってから、攻撃する事とした。

 

 砂煙はすぐに開けた。何せこれは多少の()()があるとはいえ、“錬成”。物の変形を主としているこれは『土砂を立ち上げる』ということにしか特化していない。

 

 即ち立ち込めてから後には魔法の影響は無い。開け始めたのは精々七秒あったか無かったか。土砂の向こうに見える二人の影。そしてその時を待っていたとばかりに『グロル』は駆ける。

 

 何せこれはチャンスだ。二人は『グロル』が動いて尚、一歩も動かない。先程まで奇妙な動きで走り回っていたハジメさえもだ。だからこそ『グロル』等はそれを他ならない隙だと判断した。

 

 砂煙が僅かに立つ中を『グロル』達は掻き分け、進撃する。

 

 この時、『グロル』は気付かなかった。砂煙の中から僅かに響く『歌』に、ぼんやりと光を灯す円陣に。

 

『グロル』は知性を持つ。狡猾さを持つ。いつのタイミングで攻撃をするか、そのタイミングを早めるための戦略を、彼等は知っている。

 

 しかし『グロル』は知恵を持たない。弱者故に回し続ける知性を、死の際まで足掻く一手を、掴み取る奇跡を。彼等は知らない。

 

 だからこそ、『グロル』はその『歌』を間近で聴いた。

 

「惑わし、微睡む、気分屋な案山子(カカシ)。彼は今君の目の前に──“起異”」

 

 そしてその爪を、獲物から遥か遠くで振るった。まるで遠近感覚も分からなくなったかの様に。

 

 闇属性下級魔法“起異”。これの効果はあまりにもシンプル、相手の感覚をズラす。ただそれだけだ。正確には五感に作用するのでは無く、相手の意識を()()()()そちらへと追いやる魔法だ。

 

 誘導力・干渉力が低く、違和感も視界や聴覚などで補填出来る程度。更には効果範囲も術者から5m以内と、後衛職の役割にはそぐわない物だ。それ故に凄まじい集中が生まれやすい戦場ではまず役に立たない事が多い。

 

 ただ砂煙は『グロル』から正確な視界を奪った。また「敵の隙を突く」という油断が、彼等から皮肉にも集中力を削いでしまった。

 

 故に一匹残らず『グロル』は清水の寸前で停止してしまった。先程まで一糸乱れぬ連携を行なっていた三匹の魔物。その動きに綻びが生じた瞬間だった。

 

 そしてそれを逃す事なく清水は叫んだ。

 

「──南雲っ!!」

 

 瞬間、砂煙すらも晴らす程の光が地面から発せられる。それは何処までも蒼い魔力光。それが魔力の円環を巡る。

 

 その魔法陣は半径2m程だろうか。成人男性二人でも寝転べる程の大きさを誇る魔法陣。並の【錬成師】ならば三十分は掛かるであろうそれを、ハジメは砂煙が発せられてから晴れるまでの間に製作した。

 

 そんな【錬成師】として神業とも呼べるそれを成し遂げつつ、ハジメは“()()()()()()()()を唱えた。

 

「彼の意志は折れず砕けず鉄の様。その刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け──“光刃”」

 

 蒼く、淡く輝く光。それがナイフの刀身を覆う。詠唱の通り、正に曲がらぬ意志を宿している。

 

 本来適性が無いハジメには簡易的に“光刃”は使えない。だがそれは実践的では無いというだけで、通常の魔法陣よりも詳細かつ大きい魔法陣を使用すれば発動が可能となる。

 

 そしてハジメはそれを握りしめ。魔力循環と側にあった木を蹴り加速。『グロル』の内一匹は避けようとしたものの、“起異”はナイフからの距離感を狂わせる。避ける間も無く刃が首にある魔石へと突き刺さった。

 

 同胞が矮小な人間により殺された。その事実を認知出来ず、『グロル』等は思考を停止させる。だがその間にも二人は動く。

 

「──“錬成”!」

「──“起異”!」

 

 再び立ち込める砂煙、発せられる『歌』。今度はあっさりと砂煙に呑まれる二匹。そして束の間に一つの断末魔が響いた。

 

 瞬間一匹の『グロル』の“予測”は発動。そして見えるは己の死の瞬間。それによりこの場所は危険だと、逃れようとする。

 

 先程言った様に“起異”はある程度の集中力で振り解ける。だからこそ死の際だと悟った『グロル』の本気に“起異”の干渉は弾かれた。

 

 しかし──

 

「──逃がさねぇよ」

 

 己の脚部の爪。それに敢えて()()()()()()()()()清水。筋力値の低い後衛職と言えど人一人分。敏捷に偏るステータスを持つ故、軽量へと進化している『グロル』には十分な重り。

 

 そしてハジメが辿り着くには──あまりにも時間があり過ぎた。

 

「肉を切らせて骨を断つ…なる程、中々有効だな」

 

 そんな声を聞きつつ、三匹目の『グロル』は魔石の砕ける音と共に絶命を迎えた。

 

 

 

 

「そう言えばさ、何でこの作戦だったの?」

「ん? ああ、そうだな…」

 

 清水の腹部に応急処置をしつつ、ハジメはふとそんな事を尋ねた。

 

 清水が提案したのはそう作戦と呼べるものでは無かった。清水がハジメに伝えたのは「“錬成”で煙幕を張り続けろ」、「その隙に自分のナイフに“光刃”を使え」の二つだった。

 

 清水の失血が酷く、出来るだけ早急に手当をしなければならなかった為、訳は聞かないまま戦っていたハジメ。しかし三体の『グロル』を倒し終えた今ならば問題は無い。

 

 清水も回復ポーションを口に含みつつ、順に説明を始めた。

 

「まず俺達が『グロル』攻略に必要な物…それは“予測”の攻略、攻撃力、そんで攻撃をぶち込む一瞬の隙だった」

「改めて考えると何だかんだ条件厳しいね」

「ま、この内の一つでも欠けてたら死んでたしな」

 

 清水が指三本を順に立てる。ハジメは無茶したなぁ、と遠い目をしつつ清水の腕に包帯を巻いていた。この数ヶ月で応急処置にはすっかり慣れた。もっとも他人よりも自分への手当の方が得意だが。

 

 そもそも割と危なげなく倒す事ができたが、『グロル』は本来格上だ。三匹で1/2ベヒモスと考えればその脅威も分かるだろう。それを二人で倒したのだ。割と健闘である。

 

「まー“予測”に関しては…そういう類は基本『視覚』から働くらしいからな。“先読”とか“見切り”とか。それと同じ部類って考えれば…視覚さえ封じれば、“予測”が塞げるんじゃねーかって考えたんだよ。そもそもお前の動きが幾らめちゃくちゃだからって五感で未来知れるなら見失う訳がない。だからこその“錬成”での煙幕だ」

「へー、そうなんだ」

「昔の神殿騎士が戦った何かにそういうのがいたらしくてな。やっぱ何でも知識は役立つな」

「それはそう」

 

 ハジメは物凄く頷いた。そもそもハジメの即時魔法陣形成も“錬成”の知識を蓄え続けた結果だ。更に言えば使うと思って見なかった“光刃”もこうして使ったのだ。知識は武器、それが二人の総意である。

 

「そんで…攻撃力に関してはまあ、言うまでも無いな。『グロル』は普通に硬いからな。そんでまあ、俺は攻撃手段無いからお前“光刃”使えねーかなぁって。まあ、まさかお前が一瞬で魔法陣作って“光刃”発動するとは思って無かったけどな?」

「逆に作れなかったらどうするつもりだったのさ?」

「つーか、“光刃”に関しては俺自身無い物ねだりで言ったつもりだったからな? 本当だったら“錬成”で質量武器作って、とかで考えてたよ」

「ハンマーとか?」

「斧とか」

「チェーンソーとか?」

「それは違うな?」

「ドラゴン殺しとか?」

「それは漢の浪漫だ」

 

 そもそも“光刃”の様な補助魔法の魔法陣はハジメにとってまだ馴染み深い。例えば“火球”などの攻撃魔法の魔法陣ならば五分や十分は時間を食っただろう。ついでに言えば満足に発動する事も厳しかっただろう。ヒョロヒョロな火の粉が上がるだけだ。

 

「そんで最後は攻撃のチャンスを作る事だな。これはまあ…俺が頑張ったな、うん」

「それで怪我増やしてたら世話無いよ、まったく…」

「お前の頭にブーメラン突き刺さってんぞ?」

「…まあ、作戦の意図自体は良く分かったよ。ありがとう」

「スルーすんなや、お前」

 

 ハジメのスルースキルは異世界生活で鍛えられている。今だって清水の抗議の声を完全無視出来ている。取り敢えず手から消毒液を滑らせ、清水の傷口にたっぷりと流し込んでおく。清水の声が聞こえるがこれも無視。

 

「まー、あと穴だらけにしたのも臨機応変にする為だな。お前アドリブ得意そうだし、良いかなって。つーか正直、『グロル』側の意図がよく分からなかった。完全に殺しに来るならお前が念話石で喋ってる間に殺しに来れば良かったのに、その時点でもアイツらはお前の体力を削ぐのに集中してた。…いや、もしかして念話石自体を警戒してたのか? やっぱ分からん。何だったんだ、あの動き」

 

 ぶつぶつぶつぶつ。清水は独り言の様に、考えを張り巡らせている。『グロル』との戦闘はもう終わったと言うのに、未だなお思考を続けられるのはやはり流石だとハジメは思わざるを得なかった。

 

 そうして処置が終わり、取り敢えず立とうとした時だ。

 

 ハジメは森の奥に、かなり離れたそこに先程まで睨まれ続けていた眼と同じモノを見つけた。

 

「──『グロル』!?」

「──嘘だろ!?」

 

 それは一匹の『グロル』だ。一瞬倒し損ねたのかと考えたが、周囲に死体が三つある。つまりは別個体。追い討ちとも言えた。

 

 ハジメはすぐに床に刻印した魔法陣に魔力を込める。清水も闇魔法発動の為、『グロル』に視線をやった。

 

 確かにこの追い討ちは効果的だ。ハジメも清水もかなり疲労やらダメージやらを蓄積している。そこにさらに一匹と言う事実は、かなり効く。

 

 しかしそれでもたった一体だ。ならば倒せる。幸い攻撃の手筈も整っている。あとは隙を作り、一撃をぶち込むだけだ。

 

 そうして二人は構えて…『グロル』は急速に踵を返した。

 

 違和感を持つ二人。それに対して『グロル』は口から何かを落としてから、その場を去った。ハジメの目にさっきの三体には無かった錆色の何かが首にあるのが見えた。

 

「…何だったんだ?」

「取り敢えず…何か落としたよね。見てみよう」

 

 周囲に『グロル』がいない事を確認してから、ハジメは落ちた何かを拾う。それは帯により丸められた紙だった。一見して文書とも思えるそれには、目を引く文字が綴られている。

 

「…『清水幸利へ』?」

 

 何故これを『グロル』がわざわざ持ってきたのか。

 

 やはり名指しされ清水の方も気になるのか、その手紙を受け取り開く。

 

「…レイスの野郎からか。何だ? 今更また勧誘でもする気か?」

 

 中を見て最初はそんな事を嘯いていた清水。しかし目が下に進んでいくに連れ、その表情は険しいものとなって行く。

 

 何を見てそんな表情となるのか。ハジメも横から見ようとして、その前に清水が頭を押さえた。

 

「あ──────!!!!!!」

「うおっ!? 何!?」

「ミスった! 意味がわかった! クソッタレが! ()()()()()!」

「何!? 一体何!!?」

 

 腹の傷に構うものかと叫ぶ清水。だが彼自身、上手くいったと思ったばかりに己の大きな計算違いに頭を抱えていた。

 

「南雲! 今すぐ手当中止だ! そんで村に戻るぞ!」

「へ? でも園部さん達が【ウル】の防衛してくれてるから──」

「その園部が問題なんだよ!」

「園部さんが?」

「最悪だ! レイスの野郎…()()()()()()()()()()!」

 

 ハジメと清水は勘違いをしていた。レイス()の目的は愛子・清水の殺害だと。だからこそハジメは全力で『グロル』から清水を守り、優花に愛子を守らせる様に言った。

 

 だがレイスの目的は既に異なる。正確には優先順位を変えている。

 

 文書の内容は実にシンプルだ。再度の清水の勧誘。そしてそれに従わない場合の処置。

 

「さっきまでの『グロル』達の動きも納得が行った! あれは殺す為なんかじゃない! ()()()()()()だったんだよ! もしくは捕まえる為か! どっちだって良い! 問題は──」

 

 敵の目的を勘違いしていれば、最悪敵の手助けをしている事もある。例えば将棋のルールを勘違いしている男が居たとする。その男は『王』の駒では無く、『飛』の駒を取った物が勝つと勘違いしている。

 

 その場合、『王』の駒を最悪捨て駒とし、強力な駒である『飛』を後方に燻らせる事となるだろう。それが相手側への手助けをする事となるにも関わらず。

 

 そう、ハジメと清水はレイスの目的、その手伝いをしていた。他でも無い、園部優花を『戦う側』に回してしまった事。それこそが一番の悪手だった。

 

「──レイスの目的は俺を魔人族側に取り込む事! そしてその為に…園部を人質に取る気だ!」

「────ッッ!?」

 

 ハジメ達は、みすみす『(弱点)』を前線へと引き摺り出していた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「…三体の『グロル』が死んだか。あの方から頂いた物だったのだが…今回ばかりは捨て駒とするのもやぶさかでは無い」

 

 ハジメ達の目の前から逃げた『グロル』は戦闘用では無い。代わりに盗聴器の役割を持った錆色のアーティファクトを持たせ、今までハジメと清水側の状況を把握する為利用していた。

 

 あの『グロル』は何もあの瞬間に二人に近づいた訳ではない。ずっと一定以上離れた距離から二人を追いかけていた。三体の『グロル』は目を引く為の囮であり、かつ()()()()()()()

 

 ハジメ達は確かに戦いに勝った。しかし同時に【ウル】の町から遠のいていた。

 

 今から急いでも遅い。【錬成師】の男は確かに天職の割には早い。しかしこの距離をすぐに詰めれる程ではない。

 

 そしてレイスは『グロル』のアーティファクトを通して『女』の声を聞いた。清水幸利のもう一人の『友人』。その声を聞いた。

 

『ッ──! ちょこまか動くわね! この狼共!』

「…アレだな」

 

 視界に映るのはバリケードの上からナイフを投げる女。なる程肝が据わっている。清水が気に入るのも何となく気に入った。

 

【錬成師】の男は遠隔からでも話すアーティファクトを所持している様だが…もう遅い。

 

 森に身を潜めつつ、レイスは指笛を吹く。騒音が響く戦場でも尚明確に響き、『グロル』の耳に届く。

 

 彼等に言い渡された命令は…ただ一つ。

 

 ──ナイフの女を持って来い

 

 夜明けまで…あと一時間。




一難去ってまた一難!
さーて、次回は【ウル】側の戦場に目線をかなりやると思います。
神殿騎士とか愛子先生も活躍させねばならんし…。
嘘みたいだろ、まだこれで一章前半なんだぜ。
作者はノロマなので許せ(許された)

あと冒頭のティアさんはかなり伏線ぶち込みました。
かなりぶっちゃけてます。
もしかしたらこれからの展開もバレるかもなぁ〜って思いながら書きました。
…気づいた人! 言うなよ!(作者がテンプレ好きなだけ)

追記
Art様
雲戸由紀夫様
さーくるぷりんと様
評価ありがとうございます!
また日本語苦手な作者に代わって添削してくださる誤字修正の皆様、感想をくださる皆様にも感謝を!
これらは全て私の創作意欲に繋がります!
Thank you、very much!!

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