恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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五月十六日、日刊35位です!
ありがとうございます!

あと許されました!(何がかは前回の前書きとありふれた錬成師は治癒師と共に12話前書きをご参照)
ハジカオはやっぱり正義だぜ!
と言うわけで頑張ります!


16、誇りを胸に、罰を背に

「二人とも、反省してる?」

「「はい、バッチリしてます。なので木串は勘弁を、園部様」」

「園部さん。南雲くん達がすぐ様土下座しましたが、一体何が…?」

『ピエッピッピ!』

「まあいいけど…ちょっと待ちなさい。そのエゲツない量の血は何よ?」

「…カエリチダヨ? ネ、シミズクン」

「ソウダゾ? ジッサイオレタチニハキズヒトツネェヨ?」

「…服を見るからに内側から滲み出てるわね? どうやって治癒したかは分からないけれど…説明お願い出来る?」

「僕は悪くない! 清水くんが悪い!」

「俺は悪くねぇ! 南雲が悪い!」

「「君(お前)、売りやがったな!」」

アホや(ピィ)アホがおる(ピッピ)…』

「良く死にたがるわね、馬鹿共…二人とも説教よ。──先生」

「はい、園部さん。お手伝いします」

「ヤメロー! シニタクナァイ! シニタクナァイ!」

「助けてチェ○ソーマン!」

「チェンソー○ンでも心臓くり抜けば死ぬわよね、確か」

「「女子がそんな事言っちゃいけません!」」

 

 ニコニコと迫り来る恐怖(二人)。ハジメ達は後ろに下がりつつも逃げるが、精神的にボロボロ。間も無く転んだ。

 

 万事休すか、そう思った時だった。

 

「見つけましたよ。愛子、皆様」

「…ふん。無事か、【錬成師】も」

「デビッドさん、チェイスさん。ご無事で何よりです」

 

 現れたのは二人の神殿騎士、デビッドとチェイスだ。森でレイスを仕留めてからここに来たのだろう。ハジメと清水とは違い、鎧には凄まじい量の返り血が付着していた。

 

 二人は愛子の方に向き、「恐悦至極」とばかりに拳を作り胸に当てた。そしてハジメ達を一瞥し一拍。指差して愛子達に尋ねる。

 

「それで…この状況は?」

「無茶の過ぎるお二人に説教を始めます」

「人をハラハラさせてくれましたから。タダで返す気は無いです」

「なるほどなるほど。それは良いですね。このチェイス、参加させて頂きます」

「ならば私もそうさせて貰おう。覚悟するが良い、貴様ら」

「増えた!?」

「なんでさ!?」

 

 二人は戦慄した。最早殺意すら垣間見える、己らを囲い込む四人に。当然逃げる事など出来やしない。包囲網を抜ける間も無く捕まってしまうだろう。

 

 だが同時に二人の神殿騎士の反応に違和感を覚える。彼等が忠誠を誓う愛子、彼女への対応が少しばかり上の空の様に感じられたのだ。優花に対しても同様だ。ふと感じたそれにハジメ達は首を傾げる。

 

 その回答は間も無く訪れた。

 

「ですが…それならば愛子達も当然説教されるべきでは?」

「園部優花、君もだな」

「「………WHY?」」

 

 まさか自分達がタゲられるなど思いもしなかった優花と愛子。二人は普段ならしない様な、少しばかり頓珍漢な反応を示した。

 

 一方でハジメ達はもう自分達がタゲから外れられないと分かっている為、女子二人を巻き込む事にシフトした。お目目ギラギラ。逃がさねぇ!

 

 そんな男子(お馬鹿)二人を他所に神殿騎士達はまず優花の方に向く。身構える優花。しかしそんなファイティングポーズも…直ぐに剥がれた。

 

「優花殿は最初の一撃は兎も角、負傷してからも普通に魔物と戦っていましたよね?」

「………」

「視線を逸らさないで下さい」

「おい、南雲。偉そうに言っときながらコイツ、俺らと同類だぞ?」

「そうだね。完全に自分を棚に上げてたパターンだよね?」

「だな。よし園部こっち座れ」

「Welcome!!」

「これが…ミイラ取りがミイラになるって事なのね…」

 

 ハジメ達と完全同類である事が悲しかったのだろうか。優花は地に四つん這いとなり、伏した。ただ男子二人の煽りにはムカついたのか、木串が各一本ずつ飛び交った。当然刺さった。痛い。

 

 そして優花も並ぶ様に正座となった。三人仲良く並んでいる。なおその目は死んでいる。見事なシンクロであった。

 

 神殿騎士達は止まらない。続いて愛子へと視線を飛ばした。

 

「愛子…君は言うまでもなくだ」

「何故ですか!? 私は何も変な事は──」

「飛び降り自殺未遂」

「…」

「囮として魔物を誘導」

「……」

「なお非戦闘職」

「………(スッ)」

「確かに箇条書きして行けば、愛ちゃん先生が一番アウトね」

「流石は俺たちの先生だな!」

「蛙の子は蛙と良く言ったもんだよ!」

「清水幸利も、そうだそうだと言っています」

「アンタらはいったい何なのよ」

 

 愛子は抵抗も無く正座した。正しい大人は己の過ちを認められるという物。彼女も例外では無い。生徒の手本となるべく、綺麗な正座を果たした。

 

 全員巻き込めたハジメと清水は謎のハイテンション。当然優花が白い目で見てくるがスルー。イェーイとハイタッチだ。

 

「…静粛にしろ。今回ばかりは愛子もだ」

「「アッハイ」」

「…この馬鹿達に絆されたせいよ、絶対」

「ぅう…」

「静粛に、と聞こえないか?」

「「「「………」」」」

 

 だがその喜びも束の間。神殿騎士デビッドの睨みにより、全員がビクッと震えた。

 

 抵抗の意思など、もう有りはしなかった。全員がハイライトを消し、これから先にあるであろう説教(地獄)を受け入れた。

 

 なおこの説教は計二時間に及んだ。当然ながら肉体的にも精神的にも限界の来ていた四人は終わる頃には屍のよう。それに対しデビッドは「やらねばならない事だった」と悔いの無い顔をしていたと言う。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 その後は全員が死んだように眠った。

 

 殆どの『使徒』にとっては【オルクス大迷宮】以来の実戦。それがどれだけの精神的な負荷となるだろうか。更に言えば数ヶ月前までは高校生だったのだ。よくも乗り越えられたと賞賛されるべきだろう。

 

 町は『湖信祭』への最終準備を進めていたが、その賑わう音にも彼等が目を覚ます事は無かった。そして当然、町の人々も彼らを起こす様な真似はしなかった。

 

 唯一神殿騎士達は『使徒』達の守護の為、眠る事は無かった。扉の前で依然として仁王立ちし続けた。町の人々はそれにより、益々神殿騎士達へ畏怖を募らせていった。

 

「ふわぁ〜、よく寝た〜」

「ねー。あっ、男子も来てるじゃん」

「おう。お先に昼飯食ってんぞ」

「よく入るね〜。あ、ニルシッシルくださーい」

「私もー」

「女子組めっちゃ食うじゃん。あんな戦いの後なのに」

「菅原も宮崎ものほほんとしてるけど強メンタルだよな」

「異論ねーわ」

 

 やがて昼過ぎに『使徒』の面々は起き始めて行った。菅原妙子と宮崎奈々が腹をすかせ、最寄りの食堂へと足を運ぶ。するとそこには相川昇、仁村明人、玉井淳史の三人が早くも飯にありついていた。

 

 そこからは普段の様に気の置けない会話をした。ニルシッシルが上手いだとか、依頼も終わるから米とはサヨナラだとか、『湖信祭』が楽しみだとか…そんな他愛もない話だった。

 

 だがやがて彼等彼女等は空いた席を気にし始めた。幾つかある空席。護衛を未だ務める神殿騎士の分を除けば…それは四つ存在する。

 

 誰が初めにその席へと目をやっただろうか。釣られる様に皆がその席に気付いていく。僅かに訪れる静寂。やがて奈々がぽそりと呟いた。

 

「愛ちゃん先生に優花は…まだ寝てるんだよね」

「…()()()()もか」

「…おお」

「うん…」

 

『アイツら』が誰か、と言うのは皆一様に気付いた。ただこれまでの事もあり、直接名を呼ぶ事は憚られた。

 

 思い出すのは先日魅せられた『蒼』。そして【オルクス大迷宮】での同じ光の輝き。

 

 果たしてそれらが彼等の目にどう映ったか、言うまでもないだろう。

 

「…助けられたんだな、俺たち」

「二回目、だよな?」

「うん。【オルクス大迷宮】でも助けてもらったんだよね」

「今考えれば…何で味方になれなかったんだって話だけどな」

「なんて言うか…情けないね、私たち」

「だな」

「本当に、そうだね」

 

 彼等彼女等は決してハジメが【裏切り者】だとは思ってはいなかった。何せ己を賭して本気で守り抜いてくれたのがハジメだ。疑える筈もない。

 

 しかし同時に彼等彼女等はたかが学生。そして周囲はハジメへの疑惑を疑う事は無かった。一部抗議の声を上げる者もいたし、沈黙を突き通す者達もいた。自分達も後者だった。

 

 だが前者になる事は出来なかった。周囲の同調圧力、それに真っ向から反する事が出来なかった。本気で南雲ハジメの味方だと言えなかった。

 

 年端も行かない少年少女には仕方の無い話、しかしそれを悔いる事もまた仕方の無い話だった。

 

 しかし同時に彼等彼女等は決心する。今度こそは、と。

 

「もう、裏切れねーな」

「というか、一生返し切れないぐらい恩がある気がするんだよね…」

「だったら南雲の気が済むまで味方で居ないとな」

「愛ちゃん先生護衛隊兼南雲支援隊に名前変更か?」

「一応、園部と清水の意見を聞く意味は…無いな」

「…いや、二人は逆じゃ無い?」

「確かに」

「流石は南雲支援隊の特攻隊長と参謀、伊達じゃねーわ」

「誰だよリーダー?」

「白崎さん?」

「ぐうの音も出ない完璧な回答止めろ」

 

 否定する者は誰も居ない。彼等彼女等は守られてばかりでいいと思う子供(ガキ)では無い。確かな力と覚悟を持つ『神の使徒』だ。

 

 味方になれなかったという過去の彼等彼女等への罪はあまりにも重い。少なくとも己等自身にとっては限り無く。これからも幾度と無く自責を繰り返すだろう。

 

 だから「正しい」と思った道を見て見ぬふりする訳には行かない。

 

「取り敢えず…次南雲くんが起きた時、みんなで謝りに行こ?」

「異論なし!」

「…許してもらえるかな?」

「いや、別に南雲が俺たちを許さなくてもいいだろ。俺たちがずっと南雲の味方で居れば良い話だ」

「…そりゃそっか! うん! そうしよ!」

「いい事言うな! 昇!」

 

 相川昇の言葉に皆頷く。そうだ、己等はハジメに許される為に味方になるのでは無い。これ以上ハジメが苦しまぬ様にする為に助けたいと、そう思ったのだ。

 

 だがそれはそれとして謝罪の言葉は必要だろう。今まで見て見ぬふりをして来た事、味方になり切れなかった事を侘びずして味方になろうなど厚顔無恥にも程がある。

 

 過去に戻り清算する事など出来はしない。そんな事が出来るならば『後悔』などありはしない。

 

 しかしだからこそ、人は悔い改めるという事が出来るのだ。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「うぎぎぎ…身体中が痛いな」

 

 もうじきに深夜へと突入しようかとする頃、ようやくハジメは目を覚ました。身体中の怪我は清水曰く、ティアに治療して貰ったらしい。…その際般若の様な形相で此方を見ていた事は、ハジメの記憶からは消えている。

 

 ただそんなティアの治療でも不意に訪れる身体の軋みが存在した。筋肉痛などの様な物とはまた異なる痛み。それを疑問に思いつつも、ハジメは気怠げな体を起こした。

 

「ようやく、目を覚ましたか」

「へ──うわっ!?」

「全く…騒ぐな」

「(こくこく)」

「それで良い」

 

 するとすぐ側、ベッドの脇には神殿騎士デビッドの姿があった。不意をつく様な彼の存在。あと寝る前に起こった説教タイムも思い出し、ハジメは慄いた。もっともデビッドの言葉により、すぐに黙らされたが。

 

 ハジメの脳裏には疑問の声が幾つも浮かぶ。何せデビッドは神殿騎士の中でもハジメに対して険悪だ。何度彼に仇の様に睨まれた事か…数えてもキリが無い。

 

 詰まるところハジメはデビッドに苦手意識を持っている訳だ。まあ、マイナスイメージしか無い相手に好感を抱けと言うのも無理な話だ。

 

 ベッドの上、デビッドと向き合いながら後方に下がるという微妙に器用な真似をするハジメ。そんな彼にデビッドが声を掛ける。

 

「…昨夜の蒼い光。アレは…お前か?」

「蒼? 昨夜? うん?」

「魔人族を攻撃した光の事だ! アレはお前かと聞いている!」

「ハイ! 僕です! あと光じゃ無くて槍です!」

「そこは聞いていない!」

「すみません!」

 

 それを聞かれるとはまるで思っていなかったハジメは言葉を濁したが、デビッドの喝により反転。キビキビと言葉を発した。やはり恐怖が身に染みてしまっている。

 

 まるで今朝の再現の様だが、違いは他に叱られるメンバーがいない事だろうか。

 

 だがハジメの返事を聞くとデビッドはまるで苦虫を噛んだ様な顔をした。不本意です、と言わんばかりの顔だ。ハジメにとっては疑問符しか浮かばない。

 

「お前か。そうか…」

「ええっと、何か不都合がありましたか?」

「……………」

「???」

 

 デビッドが周囲を見渡す。当然ハジメの部屋なので誰も居ない。というかデビッドが居る事自体がおかしいのだが…今は気にしてはならないのだろう。

 

 そしてハジメに向き直り数秒。時間が増すごとに増えるデビッドの眉間のシワ。流れるハジメの汗。僅かな時間だが緊張も相まってかなーり長く感じられた。

 

 やがてデビッドが端的に言う。

 

「………良くやった」

「………へ?」

「良くやった、と言ってやったのだ! 喜べ!」

「…えぇ」

 

 ハジメは困惑の声を上げた。というのもハジメにとってデビッドは尊敬出来ない大人、と言う物だ。そんな相手に褒められても素直に喜べないのは何だかんだと人の性か。偉そうに言われるのだから、尚更の話だ。

 

 しかもデビッドからも「渋々です」と不満ありありの様相が見て取れる。ぶっちゃけた話、嬉しさが微塵も湧き出ない。

 

 だがまあ無視するのもまたデビッドの機嫌を損ねそうなので、反応は返す事とした。

 

「えっと…ありがとうございます。ですが、デビッドさんや清水くん、皆さんの助けがあっての事です。僕がやったのは大した事じゃ無いですよ」

 

 結果ハジメは自分を下げつつ、皆の手柄も誉めるという手段を取った。というかハジメ自身、そう思っている所が強い。デビッドの名を強調したのは故意だが、それ以外は全てハジメの本音である。

 

 ただまあデビッドはプライドが強く、ハジメに敵意に近い物を持っている。こうやって謙遜という手段を取った事は過ちでは無いだろう。そう判断した。

 

「本気で…貴様がやってのけた事は大した事ではないと、そう思っているのか?」

「え? まあ、はい」

 

 しかし何故か。デビッドの眉間に皺が増していた。それに理解が及ばぬハジメ。一方でデビッドは()()()

 

「巫山戯るな!」

「………え?」

 

 デビッドから噴き出したのは憤怒一色の叫び。思わずハジメが仰け反る程の大声だ。恐らくは外にも余裕で響き渡っただろうと思える程、凄まじい大声量であった。

 

 何故怒るのか。脳が真っ白となるハジメを他所にデビッドは続ける。

 

「今回貴様がやり遂げた事は多い! 魔物の襲撃の危険を伝え、魔人族の魔物を仕留め、我々に魔人族の居場所を知らせた! これだけの事をやってのけて、()()()()()()()と…貴様は本気で言うのか!?」

「で、でもそれ等は僕一人だけの力じゃ…」

「くどい! 確かに貴様一人では出来なかった事かも知れん。一人の功績では無いかもしれん。だが…同時に大した事のないらしい貴様一人が居なければ…我々はより危機に陥っていたのは言うまでも無い事実だ」

 

 何もハジメの存在が必要不可欠であった訳では無い。恐らくハジメが居らずとも最終的には魔人族を倒す事は出来ただろう。ハジメの活躍はあくまでも支援などがメインだった。大凡ハジメが無罪を獲得できる様な功績では無い。

 

 だが恐らくは幾人もの犠牲者と引き換えに、だ。それだけの犠牲を無とする事が出来たのは間違い様も無く、ハジメが関わっている。

 

 例えハジメが認めずとも、他の者達は間違いなくそうだと認めるだろう。それだけ必死にハジメは戦い続けていた。

 

「愛子から聞いた。貴様は上を目指していると。より高みに行かんと常軌を逸した研鑽を積んでいると。そして今回の件でそれを遺憾無く証明して見せた。少なくとも…不本意ながらこの俺が認めざるを得ないまでにはな。それだけの事を貴様は成した!」

 

 デビッドは自他共に認める意固地な性格だ。それ故に一度断じた者を再度認め直すと言う事が非常に稀。それだけにデビッドは例え口が減らずとも、内心はどうしようも無いほどに認めているのだ。

 

 そしてデビッドは知っている。より高みを行くならば『自信』と言う物は確実な財産となり得る事を。だからこそデビッドは不器用ながらも()()()する。

 

「確かに他者が貴様を褒め称える事は出来る! そうした声がやがて明確に信頼や実績という物に形付く! だが…それも他者の声だ! 貴様自身が認めずしてどうする!? 貴様が胸を張らずして何を証明する!?」

 

 実績を成せば人々は褒め称えるだろう。だがそれは自己肯定では無い。他者からの肯定を自己の中心に据えた人間は何とも脆い。現代社会に蔓延る闇の様に…そうで無くとも()()()()と言う形にもなり得る。

 

 だからこそ──

 

「真に己を誇る事が出来るのは──己自身しか居ないのだぞ!?」

「────ッ」

 

 永遠に自身を肯定出来る事が確約しているのは己という一人しかいない。それはありとあらゆる人間に認められた権利であり、為さねばならない義務だ。

 

 それは当たり前の話だ。しかし今のハジメにはその言葉が心に響いた。

 

 何と言ってもハジメは冤罪により周囲から多くの罵詈雑言を受けた。理不尽を受けた。勿論今のハジメはそれらをスルーしているが、全く心に傷を付けずに済む訳ではない。

 

 例え浅い傷だろうと積もればキリがない。元々ハジメにある、いざという時の他者中心さもあり…浅慮にも己を棄てる箇所があった。特に最後のレイスへの一撃は自己を顧みない諸刃の一撃だった。

 

 それを今になってようやく自覚した。

 

 ──うん…待ってる。絶対に、南雲くんが来てくれるまで。いつまでも待ってるから!

 

 あの日の彼女の言葉を、無に帰す所だった。

 

(そっか…今、気付けて良かった)

 

 自分が生きていなければあの約束は果たせない。そんな当たり前の事を今、ハジメはその頭で理解した。

 

 すると少し落ち着いたのか。デビッドはハッとハジメに目をやる。そして頭を押さえ、踵を返した。

 

「……少しばかり熱が入った。失礼する」

「待ってください!」

「?」

 

 今も変わらずデビッドの事は苦手だ。高圧的な上に意固地、それに自身の意見を押し付けて来る。正直に言ってハジメの苦手なタイプだ。

 

 ただ──

 

「ありがとうございます。お陰で大事な事を思い出せました」

 

 こればかりは感謝せねばならなかった。

 

「…ふん。それならば良い。せいぜい励め、()()()()()

「──はいっ」

 

 デビッドは振り返らずにそう言う。よく思えば彼に名前を呼ばれたのは初めてだった。

 

 そうして直ぐに扉は閉まる。デビッドは部屋から出て、ハジメだけが取り残された。すると身体の気怠さが思い出したかの様に表れた。それに従い、ハジメはベッドに横になる。

 

 寝転がっていると、部屋の外からは祭囃子が流れているのが良く聞こえた。民衆の声からは辛気臭い雰囲気は一切無い。死者の一人や二人が出ればこんなムードにはならなかっただろう。

 

 そんな音にハジメは頬を緩ませた。

 

「…守れたんだなぁ」

 

 デビッドの言葉もあり、漸くそれを自覚し…()()。自分も町を守るのに貢献したのだと、胸を張れた。それだけで良い。

 

 かつての【オルクス大迷宮】での戦いでは誇る事も出来ず、理不尽にも一度地に落とされた。成し遂げたと胸を張る事など許されなかった。

 

 だから今になって漸く報われたかの様な…そんな風に思えた。まだ判決に対する功績は不十分、終わりでは無い。それでもなお込み上げる物がハジメにはあった。

 

「…良かった」

 

 だからこの言葉は自分に言い聞かせた嘘じゃ無い。心からの、南雲ハジメの吐露だ。

 

 仰向けになってなお頬に流れる物を手で押さえ付けながら、ハジメは震えた声でそう言った。

 

 すると廊下の向こうからドタバタと喧しい喧騒が響いてくる。聞き覚えのある声の数々だ。少なくとも十は超えているであろう足音に、ハジメは目を拭って扉の方を見る。

 

「御無事ですか、ハジメの旦那ぁ──!!」

「目覚めたと聞いていの一番にやって来たで御座るよぉおお!!!」

「「「「「うぉおおおおおおおおお!!!」」」」」

「あ、皆さん。大丈夫です、無事ですよ?」

「そりゃあ何よりで! 俺ぁ心配で心配で…」

「凄まじい怪我と聞いておりましたがそこはハジメ氏クオリティー! 平然としておりますな! さ、さす、流石なんですな!」

「「「「「うぉおおおん!! うぉおおおおん!」」」」」

「えっと…皆さん静かに」

 

 そして扉がバーンッと開き、そこから現れたのはナイスミドルな叔父様方。詰まる所【ウル】の町の【錬成師】の皆々様である。

 

 余程心配してくれたのか、無事なハジメの姿を見て号泣している者も多い。髭を生やすナイスミドルがうぉんうぉん涙を流す姿は、ハジメとて汗を流さずして見れなかった。

 

 というか彼等の中でのハジメの評価が非常に気になる。何か「ハジメ氏だったら問題ないんですな!」とか言ってる人がいたり、崇め出す人がいたり…非常に反応がオーバーである。もしかすれば神とすらお思いかも知れない。

 

 取り敢えず数多い【錬成師】の皆さんを宥めていると、ピョコッと彼等の背後から見知った顔が現れた。

 

「一応大事は無いっぽいわね。元気そうで何よりよ、南雲」

「園部さん! えっと、頭の怪我は?」

「痛むけど無事よ。あと数日もしたら塞がるでしょうし、それまで我慢ね」

「そっか…なら良かった」

「そっちこそ怪我は無いけど全身が筋肉痛とかとは違う痛みを訴えてるぽいけど大丈夫?」

「園部さん、エスパー!?」

「顔に出てるわよ」

「そこまで普通出るかなぁ!?」

 

 現れたのは園部優花だ。『キメラ』による攻撃により頭部を負傷していたが、現在は包帯も巻かれ出血も治っていた。本人からも疲労などの様子は見られなかった。

 

 ただ一目で今の自分の容態を見破られたのは正直怖かった。デビッドや【錬成師】の皆々様が気付いていないので全員が全員気付くわけでは無いだろう。取り敢えずそう思う事にした。

 

「清水も誘おうと思ってたけど部屋に居ないしいいか」

「うん? どうしたの?」

「あー、えーっとね南雲………暇?」

「今で良いんだよね? うん暇だよ」

「そっか…なら、いやでもうーん…」

 

 優花は何やら迷っている。釈然としない様子で頭を捻り、時には落ち着かないのか首のスカーフをくるくると指で巻いている。

 

 なお【錬成師】の皆様は黙って見守っている。ムッキムキな筋肉の壁がハジメと優花を覆っている構図…控え目に言っても地獄だ。ムードも赤兎馬の速度で逃げ出すだろう。

 

 だが不思議な事にムードは成立している。何故だろうか?

 

 するとハジメが何かを思い出した。そして未だにうんうーん、と迷いに迷っている優花へと話し掛けた。

 

「あ、そう言えば園部さん。一個聞いて良い?」

「な、何よ南雲! かかって来なさい!」

「何でファイティングポーズ取るのさ? いや、そうじゃなくてお祭り一緒に行かない?」

「……………うん?」

 

 優花の時間が静止する。目が点だ。

 

 だが事態を掴む事が出来たのか、優花は間も無く頷いた。

 

「いやどうせだし、皆んなで行きたいなって…駄目かな?」

「…勿論良いわよ。っていうか珍しいわね」

「何が?」

「アンタから誘って来るの。基本遠慮しがちじゃない」

「意識した事無いけど…確かにそうかもなぁ」

 

 ハジメは会話や提案に於いて、基本的に受け身の姿勢である事が多い。死地などにおける思い切りの良さは例外とし、そう言った自発的な行動を苦手とする。それは単純に己に自信が無い事から来ていたのだろう。

 

「何? 心変わりでもしたの?」

「…そうだね。うん、そうかも」

「あやふやね。まあ良いわ。さっさと行きましょ?」

「うん、行こう」

 

 廊下に出る。そうすれば妙子や昇が出会い頭に謝って来た。凄まじい勢いだった。まあ、そもそもの所ハジメ自体、今更冤罪の件をねちっこく言うつもりは無いのでアッサリと許した。

 

 更に宿を出る。すると屋台の数々が華々しく迎え入れる。稼ぐだけ稼いで使ってこなかった工房の給料を使って行く。初日では考えられない程、【ウル】の住民は優しく迎え入れた。

 

 焚き火が灯る。業火は組み木を焦がし、天に煙を上げた。やがてこの煙が雨に還る事を祈り、人々は踊る。ハジメ達もまたそれに加わった。

 

 祭りは刻一刻と進んで行く。子供は家に戻り、大人は酒を口に流した。

 

『神の使徒』等もまた口に肉をいっぱい頬張り、遊びに興じる。昨夜とは真逆の、楽しい時間が流れる様に過ぎていく。

 

 だが…それでもまだ、清水は来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで…俺が知ってる事は全部だ。チェイスさん」

「…なる程、証言ありがとうございます。お陰で色々と楽に事が進みます」

「…そんで俺の事はどうなった?」

「ええ。()()()()()…」

「………そっか」

「やけにすんなりと受け入れますね?」

「それだけの事をやらかしたんだ。覚悟なら出来てたさ」

「そうですか」

「…なあ、チェイスさん。アイツらにはこの事、言わないでくれないか?」

「南雲殿や園部殿の事ですか?」

「ああ。きっとアイツらはこの話を聞いたら何とかしようとするからな。そんな事すりゃアイツらの立場が悪くなる。だから…頼みます」

「…承りました。この件を彼等には伝えないと我が騎士道と神に誓いましょう」

「ありがとうございます」

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 ──ハイリヒ城下街新聞の一部より抜粋

 

『かくして、【ウル】の町での魔人族の襲撃は【豊穣の女神】の名の下、『神の使徒』と神殿騎士により守られた。死者はおらず、被害も一部の『神の使徒』のみとの事。なお彼等も既に戦場復帰可能であり、戦闘訓練を再開したとされている。』

 

『ただしこの襲撃は『神の使徒』清水幸利の企てにより魔人族を巻き込み、行われた物とされている。途中、一部の人間の説得により人族側へと戻って来たが、一度裏切ったという罪は重いと教会は判断した。』

 

『この為、教会は清水幸利に与えられている『神の使徒』の称号の剥奪。及び()()()()()()()()()()()()()()()()、『()()使()()()()()()()()()()物とした。』

 

『なおこの判決の執行は既に執り行われたとの事。ただし【豊穣の女神】はこれに対し、──』




よし、やっと堕とした!(伏線回収)
長かった、ここまで長かった!
殺さずとも堕とす方法など幾らでも有るもんです。

あとデビッドの主張は私の意見でもあります。
なのでまあ、「うるせぇ!」って思う方が居ても、「おっ、そうだな」って作者はなります。
ただハジメ君には大切な事なので言わせてもらいました。
デビッドはクッッッッソ面倒だけど、ツンデレ野郎です。
…需要はあるのか? 作者は訝しんだ。

さてさて次回で【ウル】編はラストです。
ちなみに場所はハイリヒ王都です。
矛盾してねーか、という質問は無視で行きます。
それではまた次回。

ーー追記
火力万能主義様
レッドナイト様
Brahma様
東雲 那音様
ふうすけ様
シユウ0514様
キティー様
北原楓希様
松影様
かたやぶり様
評価・再評価ありがとうございます!(何この人数!? すごっ!?)
及び誤字修正をして下さる皆々様、感想を下さる読者様にも感謝を!
…というかダイレクトマーケティングの副作用か、前話が戦闘ラスト回だったからかどちらが理由かは分かりませんが評価も感想もいつもより多かったです。
スッゲェ有り難い。(語彙力)
いずれにせよ作者はチョロインなのでやる気上がりました。
改めまして感謝です!

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