恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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五月22日 日刊50位!
ありがとうございます!
これからもファイト一発でやらせていただきます!

最近アプリを始めた影響もあり、ダンまちの二次創作書きたい欲が凄い。
ダンまち×転スラがすごく書きたい。
ベル君をゼノ○側からスタートさせたい。
そんでアイズさんを闇堕ちさせたい。(性癖)
ウィーネは可愛いし、レイさんはセクシーだし、アステリオスはムチムチなんじゃ…。
あとダンメモで初めての課金をしました。
君もダンまちを買って、ダンメモに貢げ!(狂信者)

私事凄く言いましたが、記念すべき【ウル】編ラストスタートです。


17、新たな一歩

 気づいた時点では、もう遅かった。

 

 一週間もの時が流れた。話していた彼はその陰すら王城から消していた。幾日も王都を駆け回ったが、やはり居ない。段々と、彼と言う人間は何処かに行ってしまったのだとハジメは認めざるを得なくなっていった。

 

 功績は果たした。しかし失った物はハジメにとっては大きかった。

 

 訓練の方は【ウル】の一件もあり休養を言い渡された。メルドなりの心配なのだろう。そしてもう一つ、工房での仕事の方はと言うと…

 

『ボーッとしてんなら邪魔だ。【ウル】の町での仕事内容を見て文句言う奴もいねぇだろうから、その腑抜けぶりが治るまで休んでろ、ハー坊』

 

 と、ウォルペンが特別依頼の給料をハジメに押し付けて言った。強く成りたい一心のハジメではあるが、今は気持ちが揺らいでいる。まともな仕事も出来ないだろう事から、その暇を有り難く貰い受けた。

 

 そうしてハジメは連日、図書館にも足を運んでいる。適当に取った魔法書の一ページを開け、頬杖を付きつつ眺めている。

 

 次回の端の方にぼぅっと人陰が映る。するとハジメはすぐに其方へと視線を移した。

 

「!?」

 

 しかし()()違った。顔どころか背丈すら一眼で違うと振り向いた後で分かった。彼は急に振り向いて来たハジメに驚いたのだろう。肩をビクッと振るわせ、避ける様に図書館の奥へと進んでいく。

 

 連日、ハジメはこんな状況が続いている。一言で言えば追い詰められていた。

 

 もう彼が、清水が居ないのは分かっている。ハジメもまた仮にも『神の使徒』。清水との接触は許されない。

 

「故意に」という制限はあったが、案外と真面目な清水の事だ。なるべくハジメ達と会わない様な場所へと行っているに違いない。回らない頭でもその程度の事は理解出来た。

 

 だからこそもう、忘れなければならない。ハジメには香織との約束がある。立ち止まっている暇は無い。だと言うのに…

 

「…辛いな」

 

 こんな時に限って楽しい思い出が頭の中、残響する。記憶が、心が、忘れる事を否定したがっている。

 

 心が休まらない休養の中、やがてどれだけ経ったのだろうか。やがて夕焼けが沈んだ頃、ハジメはいつもの様に開いていた魔法書。それを閉じて小さく呟いた。

 

「…帰るか」

 

 その魔法書は今日もまた、一ページたりとも続きを捲られる事は無かった。

 

 

 

 

 

「あ! 久々で、【王女の騎士】様!」

「…その呼び名はやめて下さい。むず痒いです」

「む…それでは南雲様で」

「出来れば様付けもやめて欲しいんですが…無理ですよね?」

「無理な相談ですねぇ。こちらとしては助けて貰った恩がありますから」

 

 城へと帰る道中、一人の男がハジメに声を掛ける。彼はかつてハジメがリリアーナと共に、王国騎士から救った食堂の店主だ。ハジメに直接助けられた恩もあり、他の民衆よりも一層ハジメに対し尊敬の念を抱くようになった。なおその為か、『アスタマリア食堂』は前よりも増してウォルペン工房の利用頻度が増えたそうだ。

 

 まあそんな訳でハジメを見つけた途端走って、頭をしっかり下げた挨拶をわざわざしてくれる店主。お目目キラキラ、今のハジメにはあまりにも眩しい。

 

 ただまあ、この店主のみに限らずここ最近は前にも増して民衆のハジメへの評価は上がって来ている。その理由となるのが先日の【ウル】での直接依頼の達成、及び戦いでの活躍だ。

 

【ウル】での直接依頼は基本、難易度が高いと言われている。それは【ウル】の【錬成師】達が現場で着々と技術を積み重ねている事に由来する。王宮の方はどちらかと言えば研究者肌の【錬成師】が多く、純粋な腕で比較すれば現場仕事の【錬成師】の方が有ったりする。

 

 しかしそれにも関わらずハジメは【ウル】の【錬成師】の畏敬と仕事の完遂を掴み取った。これは十分に評価に値した。特に【錬成師】の界隈では早くもハジメがルーキーとして注目され始めている。

 

【ウル】での戦いの件も言うに及ばず、ハジメは遺憾なくその力を発揮して見せた。その活躍は一部の改竄こそあれど、新聞に載せられ居た。教会としては不本意であっただろうが、愛子の声もあり、事実の歪曲は出来なかったのだろう。そうした結果、この様な視線がハジメに集まって来ている。

 

「活躍はお聞きしましたよ。流石としか言えません。まさか魔人を退けるのに一役買うとは!」

「…ありがとうございます」

 

 目的には着実に近づいて来ている。しかしそれでも誤魔化せない傷がハジメの心には深々と刻まれている。目の前の店主がハジメを褒め称えるが、嬉しさは無かった。

 

 確かに客観的に見れば、ハジメはやる事は成したのだろう。しかしそれ以上の無力感がハジメを苛む。

 

(守り、切れなかった)

 

 正確には守り切ったつもりで居たのだ。あの戦いを全員で潜り抜け、全員が無事で終わったと錯覚していたのだ。

 

 この件に関してはハジメができる事は無かった。無闇矢鱈に首を突っ込めば、ハジメもまた余計な物を負ったかもしれない。清水がハジメにこの件を明かさなかったのはそう言った面もあったのだろう。

 

 分かっている、そんな事は。だがそんな理性的な考えはハジメの感情としては無意義。

 

 ハジメの感情はただ一つ。一緒に居られるよう、助け切りたかった。

 

 だからこそ、そんな些細で脆い願いを守り切れなかった己を悔いている。

 

「な、南雲様!? 手から血が!?」

「…ぁ、本当だ」

「す、直ぐに手当てを!」

 

 いつの間にやら爪が掌の皮を千切っていたらしい。ポタポタと血が地面に滴り落ちている。店主がすぐに店へと道具を取りに行く間、ハジメはその抉れた掌をぼぅっと眺めていた。

 

「…痛いな」

 

 果たしてその言葉はどちらの傷に向けられた物だったのだろうか。気付けばそんな独り言を呟いていた。

 

 滴り落ちる血は、僅かにもハジメの熱を空気へ溶かして行った。

 

 

 

 

 

 コツコツと足音を鳴らし、再びハジメは王城へと進んで行く。

 

 好奇、畏敬、嫉妬、憤慨、不信…進む度に増える視線は様々な感情を織り交ぜていた。以前より正の感情は含まれているが、どちらもハジメは気にさえしなかった。

 

 門を潜り抜け、訓練場を目指す。こんがらがった思考を振り切る為にも、動く事を手段として用いる事とした。

 

 夕方遅くの為か人は少ない。そもそも『神の使徒』の大半は【オルクス大迷宮】での実戦だ。こちらにいる事は殆どない。騎士の幾人かは居るが、ハジメに関わろうとする人間は居ない。【王女の騎士】の名が効いているのだろう。

 

【王女の騎士】の名は王女リリアーナが自ら与えた二つ名。すなわちそれを害する事はリリアーナの意向に歯向かうも同じ。王国騎士とは言え雇われの身。そんな真似をするのは余程の正義漢か阿呆の二択だ。

 

 改めてリリアーナに感謝を

 

 そして人行きが少ない奥へと向かう。今は、あまり人とは関わりたく無かった。

 

 そうして進むと見覚えのある人物が居た。彼女もまたハジメと同じ様に何かを振り払おうとしている。無意識にもハジメが彼女を見つめていると、やがて彼女はハジメの事に気がついた。

 

 滴る汗をタオルで拭き取り、すれ違いざまに話し掛けて来た。

 

「…明日ちょっと話しましょ、南雲」

「…うん」

 

 ちらりと見えた彼女の目からもまた、失意の念が感じられた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 翌日の朝、中庭の隅っこで並んで座る。二人の間には丁度一人は入れそうなスペースが空いていた。その隙間が何処か物足りなさを増長させる。

 

「…清水の話、聞いた?」

「聞いたよ。嫌でもあんなに話題になってたら、耳に入らない筈がないし」

「そりゃそっか」

 

 清水の事はこの一週間、よく話題になった。何せ『神の使徒』で初めての追放処分だ。ハジメも似た状況とはいえ、罰の執行までは行っていない以上、話題性は酷く高い。コミュニケーションの範囲が少ないハジメでも一日目でその事は知った。

 

 二人は目を合わせない。同じ方向、中庭の方を見ながら話している。自責故か、相手と目を合わせるのを避けている。

 

「…僕達、どうするべきだったんだろう?」

「どうするもこうも、アイツの責任よ。バカね。私達が出来る事なんて、何一つたりとも無かったわ」

「………うん」

 

 それはどうしようも無い事実だ。『神の使徒』とは言え子供。そして清水への罰には正当性がある。それを覆す事など出来ない。

 

 もしかすれば魔人族に罪を被せる、と言った事は出来たかも知れない。そうすれば世論は清水の味方になっただろう。だがこれは恐らく清水自身が決め、己に下した罰。そんな事は他でも無い清水が認めなかったに違い無い。

 

 だから何も出来なかったのは間違いでは無い。恥じるべき事でもない。どうしようも避けられない、残酷な真実だ。

 

「…寒いわね、南雲」

「…うん」

 

 陽光が差し込み、二人を照らしている。しかし優花は小刻みに震えている。顔を合わせていない為、その顔は見る事が出来ない。

 

 ただ恐らく明るい表情では無いんだろうな、と察するぐらいは出来た。

 

「…ねぇ、一人にしないでよ」

 

 それは優花にしては珍しく、縋る様な物言いだった。

 

「僕が居なくても、園部さんは一人じゃないよ」

「でもアンタらはアンタらだけよ。アンタ達二人だけ。妙子とか奈々みたいな仲良い友達はそりゃ他にも居るわよ。でもこっちに来てから気を置かないで済む相手になったのは…アンタら二人だけよ」

 

 優花は孤独ではない。コミュニケーションが得意であり、人の輪に混ざる才能を持っている。実際ハジメや清水と言う別タイプの人間とまともに話せるのは十分に才能だ。

 

 だがそれでも、仲良くしていた人間が居なくなるのは当然辛い。どんな人間でもそれは変わらないだろう。

 

 更に言うならば優花が此方に来てまともに友人と言えるレベルまで仲良くなったのはハジメと清水のみだ。クラスメイトとの交流はハジメの一件によるいざこざにより、一部とは敬遠。近づいて来る異世界人も年齢が高い事が多く、社交的な事が多い。

 

 なんて事はない話だ。寂しい、それだけの事。

 

 だから優花は願わない。代わりに言の葉にした。そうしなければハジメ(もう一人)も何処かに行ってしまう気がしたから。

 

「…だから負けないでよ、南雲。神様の決定なんかに屈しないでよ?」

「…うん。約束する」

「絶対よ?」

「うん、必ず」

 

 ハジメも誓う。かの朝焼けの誓いと、今契られた新たな約束を胸に。進まねばと他ではない己に叱咤した。

 

 今度こそ、何も失わない為に…ハジメは立ち上がらなければならない。

 

 空を見る。木の葉が散っていた。葉を失った木々はやがて幹すら枯れる。季節を超え、そして少年達は進むだろう。

 

『ピィ──!』

 

 空を飛ぶ白鳩。甲高い鳴き声を響かせ、その新たな誓いを祝福す──

 

「「うん?」」

 

 ここで二人は頭を傾げた。そして空を再び見上げる。今なお両翼を広げ、滞空している。その眼は間違い無くハジメ達を見つめている。

 

 その白鳩の姿を二人が見間違うことは無い。何故ならば()の肩でよく止まっていたのだから。

 

「「………ピナ?」」

『ピッピピィー!』

 

 その白鳩の名を二人は看破する。「大正解!」と言わんばかりに白鳩、ピナが鳴いた。

 

 相変わらず元気そうなピナ。それに和みつつも、二人は疑問やら混乱で頭が一杯。さっきまで頑なに目を合わせなかった二人が、「どういうこと?」「さあ?」とアイコンタクトで確認するが互いに何もわからない。

 

 何故ピナがここに居るのか? その答えは…向こうから現れた。

 

 朝日と重なる様に一人の陰が中庭の門を潜り抜ける。敢えて挙げる特徴の無い、中肉中背の男だ。纏っているフードが風に流れされる。以前まで目を隠す程長かった髪は切られ、以前には無かった清涼な雰囲気を感じた。

 

 彼は端的に言う。

 

「え──っと…久々だな、二人とも」

「────」

「────」

「…せめて何か言ってくれ」

 

 それは他でも無い、【闇術師】清水幸利だった。彼は若干の気不味さとそれでも隠せない喜色を滲ませ、控えめに手を振る。

 

 それに対してハジメと優花はただ沈黙を貫く。というよりも完全に呆けてしまっている。清水の方を見つつ、全身が硬直していた。

 

 そんな雰囲気なのが気まずいのか、清水は口を開く様懇願する。ただそれでも二人は何も言わない。硬直は解けた様だが、それでも顔を俯けるばかりだ。

 

 反応が全く無い事が不安になって来たのか、清水は慌て始めた。

 

「お、おい! どうしたんだよ、お前ら! 何だそのリアクション!? せめて何か一言ぐらいは──」

「新聞の件は…何? 嘘だったの?」

「ん? 新聞の…あれか。嘘じゃねーよ。実際俺はもう『神の使徒』じゃねーし」

「なら…此処にいるのもアウトだよね? 通報した方が良い?」

「ちょっと待て!」

 

 何かが噛み合っていないらしい。手でハジメを静止しつつも、清水がこめかみを押さえて必死に頭を回す。何も知らないハジメと優花はその様子に首を傾げた。

 

 やがてそのハジメたちの知らない何かの目星がついたらしい。ふとハジメ達の方を見ると、その目星について問いかけた。

 

「………もしかして南雲。お前先生から何も聞いてねぇのか? 園部も」

「先生? ここ最近見もしないわよ?」

「そうだね。忙しいらしいよ」

「あ──、よし。理解した。ちょっと待て説明する」

 

 何かに納得したらしい。清水は再びこめかみグリグリ。此処にいる理由を説明し始めた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「愛子…今回の件、かなり無茶をしてくれましたね」

「チェイスさん。すみません、ご迷惑をお掛けしました」

「いえ。我々は愛子の剣にして盾。この程度造作も有りません。…ただ以前の捨身と良い、もう少し自分の安全に頓着して欲しいと、そう言っているだけです」

「フフフッ、そうですか。ですがすみません。こればかりは譲る気が有りません」

 

 王城の廊下、そこで話すのは【豊穣の女神】畑山愛子とその護衛騎士、チェイスだ。チェイスはかの説教時と同様に目を尖らせている。しかしそれに愛子が屈する様子は無い。

 

 何故ならば愛子にとって、それは必ず成し遂げねばならない事だったから。

 

「清水幸利に罰を与えた上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…批判も一部ありましたよ。全く…」

 

 教会の発表はあくまでも『故意による王城・教会への立ち入り、『神の使徒』への接触』の禁止だ。逆に言えば()()()()()()ならば、その禁は簡単に破れる。

 

 ましてや命令者は名高い【豊穣の女神】。『神の使徒』への献身高さなどの噂もあり、世間的に見ても納得が行きやすい人物だ。

 

 当然ながら人族と魔人族の溝は深い。裏切り者である清水を雇い直すと言うのは批判もあった。何せ愛子は神の化身。清浄な存在が、穢れた男を救うなどあってはならないと言う声は少なく無かった。

 

 しかし同時にそれは深い慈愛の証明。多少実話を弄れば、それは美しい美談(サクセスストーリー)となる。

 

「【豊穣の女神】は清水幸利の裏切りに()()()()()()()()()()()。そして()()()()()()()()()()。その後『神の使徒』や神殿騎士を()()、魔人族の撃退を果たした。その後断罪されるべき清水幸利に罰を与えつつも、深い慈愛にて赦し再び迎え入れる…信者からすれば擬似的に神の懐の深さの証明ともなるでしょうね」

「その分、ありもしない功績を私が背負う事は非常に心苦しい話ですが…清水君を一人にしない為です。幾らでも偽善者になりましょう。それに聖教教会の皆さんもそうすれば認めざるを得ませんから」

「それはそうでしょうが…」

 

 教会が裏切った清水を再び受け入れる事を赦したのはこれが理由だ。詰まる所、【豊穣の女神】の名の威光を強める事が出来る…それだけでも教会が認める価値はある。

 

 更に言えば清水幸利という戦力は人族としては魅力的だ。魔物の使役に精神干渉。本音を言えば教会としてもそれだけの才を手放すのは惜しい。だからこそ教会としても愛子の提案は美味しい物だった。

 

「今回の問題は、()()()愛子が教会に貸しを作った事です。今までより一層愛子は教会の道具として利用されやすくなった…これがどれだけ危険な事か分かっていますか?」

「理解はしています。ですがそれは生徒を犠牲にして良い理由にはなりません」

「………全く貴方は」

 

 ただ教会にも『魔人族側に一度裏切った』と言う口実がある。その為あくまでも愛子からの要請として、この話は通すしか無い。つまりは教会に恩を作る形とせざるを得ない。

 

 教会の上層部は控え目に言って腐敗している。何故ならば彼等は『人』の為で無く『神』の為に己が役目を果たす。また神に認められる為、他者を蹴落とす事も厭わない。

 

 プライドは強いが正々堂々としているデビッドや物事を組織の損得で考えるチェイスは教会の中ではかなりの人格者の部類に入っている。…まあ、愛子の影響により改心した面もあるが、そこは割愛する。

 

 結論を言えば教会に貸しを作るなど、危険極まり無い行為だった。ここ一週間それにかかりっきりでロクに生徒とも話せなかったほどに困難でもあった。一つ間違えていれば本気で愛子は破滅していた可能性だってあった。

 

 だと言うのに愛子はそれを躊躇いも無く実行した。チェイスの心労も溜まると言う物だ。

 

「清水君は確かに罪を犯しました。ですがそれでも見放さず、成長させていくのが教師です」

 

 異世界だろうと、神の化身となろうと彼女の根本的な役目は変わらない。教師だ。

 

 そして異世界であることなど関係ない。彼女は教師としてその身を砕く決意をしている。だからこそ彼女は迷わず進み続ける。

 

 中庭を見れば、三人の少年少女が話をしている。清水は困りつつも、嬉しそうに話している。

 

 愛子からすれば、それだけでも価値があった。慈悲に満ちた笑みを携え、愛子はその光景を見つめる。

 

「それに、子供から青春の権利を奪う事なんて…誰であろうと到底赦される事ではありませんからね」

 

 そう言って愛子は次の責務に向けて、歩いていくのだった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「まぁ、そう言う訳だ。多分愛子先生もソレ関係で忙しかったんだろうな」

「…なる程。確かに雇用されての命令だったら『故意』ではないのか」

「アンタは一休さんか?」

「それなら愛子先生が一休さんになんぞ? 禿げるぞ?」

「愛ちゃん先生はストレス的には禿げそう」

「「確かに」」

『ピィー?』

 

 説明を粗方終える頃にはハジメと優花はいつもの様な態度に戻っていた。ショックが抜けてきたとも言える。

 

「でもそれだったら一週間もこっちに居なかったのは…」

「ああ。流石に冒険者としての格が無いのに【豊穣の女神】の護衛になるのは、不満を持たれるかも知れなかったからな。冒険者ランク『黒』になるまで上げてきた」

「えーっと…『黒』って…」

「確か上から三番目ぐらい…だったよね、清水くん?」

「おう。キツかったぞ。一週間まるごと依頼ばっかだったからな。しかも『神の使徒』の給料で考えたら達成金の安いのなんの。労働って大変だわ」

「分かる」

「実感エゲツないわね」

 

 ちなみにハジメは王宮錬成師なので給料は割と入って来る。ただ生産者であると同時に接客業でもあるのだ。良くない噂があるハジメともあらば当然クレームは何十何百とある。

 

 販売して五年ほど経った商品を値段が高いと返品しようとして来た時はどうしようものかと思った。しかも大分使っていた跡もあり、何かを殴打した痕跡が見受けられた。見た感じもう天寿を全うしていたフライパンだった。

 

 心の中で愚痴を吐きながらも土下座したのはハジメにとって思い出深い話である。当然マイナスのイメージで、だが。

 

「アンタ後衛職なのによく上げれたわね…」

「最近手に入った使い魔で無双した。採集系統もピナで無双した」

「ピーちゃん優秀だね、相変わらず…」

『ピィ!』

「それどっちかって言うと使い魔の実力じゃ無い?」

「最高級ペットフードをあげてるから問題無いと信じたい」

 

 ちなみにその魔物は今、畜舎に入れているらしい。ピナと違って戦闘能力が高いので無闇矢鱈に外に出せないらしい。ちなみに名前はポチとの事。

 

「じゃあ今の清水くんは元『神の使徒』兼【闇術師】兼ランク『黒』の冒険者兼愛子先生の雇われ騎士なのか」

「多いわね。もっと簡潔な纏められない?」

「『神の使徒』から追放されたランク『黒』の【闇術師】は【豊穣の女神】の配下となる」

「もっと長くなったし、何ならラノベっぽいわね?」

「悪いがもう一つ肩書きあるぞ、俺?」

「何で肩書きそんな多いのよ? 主人公なの? …あっ、ごめんやっぱ取り消す」

「俺は主人公の器じゃねーってか? 自覚はしてるけど俺を虐めんな」

「清水くんの場合、正当なヒーローじゃなくて、裏で暗躍。そしてその実力を知ってるのは一部だけって感じの主人公だよね」

「何かそっちのがしっくりくるわね」

「あっ、俺そう言うのめっちゃ好きだわ」

 

 ちょいちょいおちゃらけつつも、会話は進む。昔の清水ならば優花の言葉には腹を立てたかも知れないが、今は違う。もう主人公(それ)に清水は固執していない。

 

 だからこそネタにして流しつつ、清水は最後の己の肩書きを…己の()()に告げる。

 

「改めてまして、だ。()()()()()()()()()()()()()()()()【闇術師】清水幸利だ。宜しく頼む」

「「………うん?」」

「だから俺と、お前ら二人のパーティーだ。愛子先生からの指示でな。お前らの補助の役目になったんだよ」

「え? 本当に?」

「あ──、そう言う事ね」

「え? 園部さんも分かったの? 僕だけ?」

 

 優花は何かを察した様だ。こくこくと頷く。

 

 そして清水の宣言の時点でも割とパンクしているハジメに追い討ちを掛けた。

 

「なら私も…愛子ちゃん先生護衛隊を抜けて、()()()()()()()()こっちのパーティーに来たわ。【投擲師】園部優花。改めてよろしく」

「うん?? 僕の護衛?」

「そっ。さっきも言ったけど、アンタに負けてほしく無かったからね。その手助けとしてアンタの護衛を志願したのよ。ちなみに雇い主はリリィよ。お願いしたらオッケーして貰えたわ」

「王女様何してんの!?」

 

 ハジメは王城に向かって吠えた。空の向こう側にリリアーナのいい笑顔が見えた気がした。

 

 ちなみに世間体としては功績を徐々に上げて来ているハジメには護衛が必要とリリアーナが判断した、と言うことにしているらしい。色々不可思議な点もあるが、そこは王女スマイルで吹き飛ばしたとの事。ちなみに愛子の方も以下同文である。

 

 改めて【豊穣の女神】と第一王女の力を思い知り、戦慄したハジメ。確かに功績を挙げつつあるのは本当だけど…といった心境だ。有り難いが色々と情報過多である。

 

「もう一人自己紹介して無い奴が居るわね? 名乗りなさい」

「一人だけしないって不公平だろ? ほら早く言え」

『ピッピピィー? ピピ』

「君達のこう言う時の連携って何なの? まあ言うけど」

 

 別に改めても何も自己紹介するまでも無いのだが。何せその場のノリと言うものがある。別に拒否する理由も無いので、ハジメもまた二人になぞり言う。

 

「僕は【錬成師】南雲ハジメ。改めて宜しく、二人とも」

「簡素ね」

「簡素だな」

『ピィー』

「えー、二人ともこんなもんじゃ無かった?」

「大トリには誰も期待するものよ?」

「オチ付けろよ」

「知るか」

 

 何故か関西的なノリを強要されている事実にキレつつ、ツッコミを連打するハジメ。この二人は偶に連携してボケてくる事があるので微妙に疲れる。まあ、それも楽しさの一因ではあるが。

 

 ただこれで全員が漸く全てを飲み込めた。互いに見合い、小さく笑った。

 

「ただまぁ、これで【ウル】のメンバー再結集かな?」

「基本的にこのメンバーで行動してたからね。何か慣れたわね、このトリオ」

「確かに」

「………」

「うん? どうしたの清水くん?」

「いきなり黙ってどしたのよ?」

 

 心配も無くなったが故に、安らいだ様子で王城の食堂に戻ろうとするハジメと優花。しかし清水が何を思ったか、立ち止まっている。それを不審に感じ、二人は振り返り尋ねる。

 

 何拍か経った頃、漸く清水は言うか迷っていた言葉を吐き出した。

 

「…今回、俺がここに戻ってこれたのは愛子先生のお陰もあるが…そもそも【ウル】の町で誰か犠牲が出てたら、それこそ無理だった。今回は死者が居ないかつ、【ウル】の住民に負傷者が居なかったから美談(サクセスストーリー)として昇華出来た。だからその…何だ…」

 

 そう例えば犠牲が出ていれば例え元『神の使徒』だろうと才ある者だろうと赦される事はない。暗部に引き込まれる、という可能性もあったかもしれないが、その場合日は拝めない様な生活になっていただろう。どの道バッドエンドだった。

 

 清水は口籠る。恥ずかしさやら何やらで。だがやがて決心したのか。精一杯の勇気を込めて、()()は言う。

 

「ありがとな。()()()()()。お前らのお陰で俺はこうして居られる。感謝してる」

 

 それは幸利にとってどれほどの覚悟が必要だっただろうか。幸利は今まで友達を有した事が無かった。だからこそ距離の詰め方を知らない。もしかしたら嫌われるかも知れないとも思った。

 

 しかしそれでも、もう少し近く有りたいと願うから。幸利は二人をそう呼んだ。

 

 ただまあ、恐れる必要は無かっただろう。何故ならばもっと近く有りたいと願うのは、二人も同じだから。

 

「別に改めて言わなくても良いよ、そんな事。友達の為なんだし」

「そーね。お互いに迷惑掛けて行くもんよ、友達ってのは。これぐらいどうって事無いわよ」

「…お前ら」

 

 二人はすんなりと受け入れる。それに少し涙ぐむ幸利。そして二人の後を追おうとして──

 

 

 

 

 

 

「だから…行こうよ、()()()()

「おん?」

「とっとと食堂行くわよ、()()。朝飯が冷めるわ」

「ちょっと待って?」

 

 ──幸利を遥かに超えて距離を詰めてきた。

 

 しれっと言った二人が幸利の静止の声に「「うん?」」と振り返る。幸利としても不満は無い。何なら人生初渾名だ。割と嬉しい。

 

 ただ一点、そこに行き着くまでの順序が幾つか吹き飛んだのが非常に気になった。

 

「いや、おかしくね!? バグってね!? 何でいきなりその呼び方なんだよ! 普通に幸利(ゆきとし)で良いだろ!?」

「普通よ、こんぐらい。ねぇ、南雲」

「うん。園部さん」

「そんでお前らは呼び方一切変わんねぇのかよ!?」

「「だって今更だし…」」

「これを機に変えろや!」

「「えぇー」」

「息ピッタリか、馬鹿野郎!?」

『ピィーピピピ、ピッピッ!?』

「えーっと、それよりも早く行こう?」

「そーね、行きましょ」

「あっ、こら! お前らちょっと待て!」

 

 少年少女は再び走り出す。失ったと思った物は、決して失われてなど居なかったから。

 

 沢山の人々の支えが有った。振り与えられた天運が有った。それらに感謝し、そして胸を張って彼等は行くだろう。

 

 ──新たな冒険に、胸を躍らせて。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 少女はいつもの様に新聞を捲る。地球にいた頃には無かった習慣だ。しかし会うことの出来ない『彼』を求めて、少女は文字の羅列を読み進めて行く。

 

『彼』はちっぽけだ。しかしそれでもなお乗り越える力があるからこそ、少女は憧れたのだ。だからこそ今日とて今日とて、『彼』がその名を響かせる事を()()()()待っている。

 

 いつもの様に捲り続けて四枚目。気を引く記事があった。タイトルには【豊穣の女神】、つまりは先生の名があった。

 

 少女とて『彼』以外の知り合い全てに興味が無い訳では無い。寧ろ周囲の人間を良く気にするからこそ、【聖女】などと言う二つ名を名実共にしているのだ。

 

 だからこそ、その記事を読み進めて行く。

 

「…あはは」

 

 そして、笑った。

 

 何て事は無い。たった一文だ。教会としては不都合な内容故に最低限の情報に留めた一文。されどそれだけで少女の心を満たすには余りある程だ。

 

 少女はその文章を白磁器の様に美しい指でなぞり、微笑む。黒真珠の瞳を輝かせ、唇が『彼』の名前を紡ぐ。

 

「南雲くん…」

 

 ──約束の日はまだ遠く。

 

 ──されど着実に、その一歩を『彼』は踏み出したのだ。




ここまで来て漸くスタートラインです。
ですが…これで長かった【ウル】編終了だぁあああ!!!!
ここまで21話掛かりました。
これで一章の半分です。
作者は馬鹿です。(自己申告)

さてさてここからはちょっと補足をして行く訳ですが…今回は改訂前から読んで下さった人向けですね。
というのも改訂前、作者は清水を殺すつもりでいました。
改訂前作者「よっしゃ! 【ウル】でちょっと仲良くなった清水をハジメの目の前で殺そうぜ!」って感じです。
作者は地味にサディスト患ってるからね、許せ。
ただ清水の情報を集めて行くに連れて「清水ってあくまでも子供なんだなぁ」ってなって行ったんです。
単純に言えば愛着が湧きました。
なのでどうにかして殺さないルートを考えた…その結果がこの改訂版です。
こっちでも当然の様に清水は誤ちを犯します。
ただハジメや優花が必死に手を伸ばして、先生とかも色々して漸くハッピーエンドです。
いやー、本当にここに辿り着くまでが辛かった。
途中で「殺そっかな?」ってなりましたけど何とか不屈の決意でやり遂げました!
褒めて!(真っ白な灰状態)

次回からは切り口が違うストーリーになります。
ある意味奈落落ち回避故のお話です。
期待は…程々で宜しくぅ!

ーー追記
健康マン様
踊り虫様
星野優季様
あぴおー様
TOアキレス様
寝虎様
評価ありがとうございます!
またポンコツ作者に変わって誤字修正をしてくださる皆様!
及び寂しがりな作者を癒してくれる感想くれる皆様!
誠に感謝です!
ぶっちゃけ【ウル】編を書き上げられたのは皆さまの応援あってです。
本当にありがとうございます!
次回もぜひお楽しみに!

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