恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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5月29日日刊33位獲得です!
ありがとうございます!

お待たせ致しました。
お待たせし過ぎたかもしれません。
【ウル】編が終わり、気が緩んでいました。
誠に申し訳ない。

あと更新報告とかお休みのお知らせとかの為に、作者のTwitter乗せときます。
まあ、今まで趣味垢に使ってた奴だからあんま意味ないかもだけど。
とりま「更新教えてー!!」って人は登録しといてくだせぇ。
https://twitter.com/tzar77hk?s=21

取り敢えずそんな感じでスタートです!


閑話、表の英雄劇と袖幕の影

 ハジメ達が【ウル】で活躍を見せた一方で、その他多くのクラスメイトは迷宮で実戦訓練を行い続けていた。

 

 原作(本来の世界線)と異なり、ハジメが奈落が落ちなかった為か『愛ちゃん先生護衛隊』以外は【オルクス大迷宮】から離れていない。ベヒモスに対しての恐怖は未だに顕在だが、『神の使徒』のスペックはチート。いずれ乗り越えられるだろう事は明白であった。

 

 人数が多く、怠けも出始めたが故に原作(本来の世界線)よりも訓練や【オルクス大迷宮】の攻略速度は遅れが出ているが…逆に延びている部分もあった。

 

 それは他ならない【聖女】白崎香織の爆発的な成長にこそある。

 

「轟音を連れ、速く疾く裁きの光を──“雷光”」

 

【オルクス大迷宮】64階層。緑鉱石の灯りのみが頼りの暗闇を、白く眩い稲妻が裂く。強力無慈悲である筈の魔物等も抵抗の暇すら無い。貫かれ、絶命に至った。

 

 ──圧倒、そんな言葉がその場にいた全員の脳裏に浮かぶ。

 

 迷宮の攻略には多くの騎士、使徒が関わっている。しかしここ最近は今の状況と同様、彼女の圧倒的な実力に押され気味だ。

 

 本来ならば【聖女】は強力な天職とは言え支援職。味方の強化(バフ)回復(ヒール)に注力するのが普通だ。事実、香織も三日前、【オルクス大迷宮】に再突入する日まではそちらに集中していた。

 

 だが再突入当日。香織はメルドに対し直接、あるお願いをした。

 

『65階層の戦い…私一人にやらせてくれませんか?』

 

 それは無謀とも言える話だった。何せ65階層には、かのベヒモスがいる。

 

 ベヒモスはこれまで倒せた者がいない魔物だ。恐らくはかの()()ならば倒せるだろうが、アレは人族の中でも例外中の例外。普通の人族が単体で挑む相手では無い。

 

 しかも香織の天職【聖女】は後方支援職だ。その真価は仲間がいる事で発揮される。適性としては攻撃魔法もあるが、殺生能力が低い物が多い。

 

 唯一殺生性が高い()()()()もあるが、何せクセが強い魔法だ。そう言った点からも認めるわけにはいかない。

 

 だからこそメルドは己の役目を果たした上で、それだけの力がある事を証明しろと条件を付けた。実質的に断ったとも言えるだろう。

 

 香織は確かに二ヶ月で成長を見せた。その名に恥じる事の無い魔法の技術と覚悟を携えている。

 

 だが戦場にいる人間の支援(サポート)だけでも気を張る。それに加えて単体としての実力を誇示するなど、まるで正気の沙汰の行為ではない。まあ、メルド自身無理難題のつもりでそれを言ったのだから当然の話だ。

 

 信念と実力は伴わない。例え考えがどれだけ高尚だろうと、強い意志があろうと。結局この世界は何かしらの実力主義だ。メルドはそれを長い経験から知っている。

 

 それを知りつつもハジメに協力しているのは、そんな凝り固まった考えを彼自身否定したかったのかもしれない。或いはハジメならば…と思わされたのか。それはメルド自身も知らない話だ。

 

 結局の所、ベヒモスを単体で相手にするのはまだ危険(リスキー)だと言うのがメルドの結論だ。『神の使徒』の中でも【勇者】、【聖女】は最重要の人材。メルド自身の情もあり、冒険させるにはまだ早いと思っているのが現状だ。

 

 だからこそ無理難題を押し付けた。そして今は諦めさせようとした。

 

 ただ香織はそれに飛びつく様な早さで頷いた。当時メルドはその反応を、一か八かの物なのだと思っていた。

 

 そう思っていた結果が…目の前の光景だ。

 

「………嘘、だろ?」

 

 メルドは騎士団長としての体面をも忘れ、呆然と呟く。

 

 香織の仕事は完璧だった。支援・防御・牽制・攻撃。彼女の真価の一つである筈の“治癒魔法”はこの三日間、ほぼ使われる事は無かった。精々疲労回復程度。肉体治癒はこの実践訓練において、詠唱文すら聞こえなかった。

 

 また香織自身の攻撃も凄まじい物であった。詠唱は淀む事が無く、放たれた魔法(光や雷)は他の物を傷つける事なく、敵のみを灼いて見せた。その結果、下手な戦闘職の二倍を行く討伐個体数(スコア)を立ち上げた。

 

「やっぱ、白崎さんがいるだけで安定感全然違うわ」

「動きやすいんだよなぁ。強化魔法(バフ)あるだけでパフォーマンスが段違い」

「何て言うかさ、強くなったって勘違いしそう…」

 

 多くの『神の使徒』の声が聞こえる。恐らくは香織の事を言っているのだろう。それらを聞いてメルドは思う。彼等は()()()()()()()()()()()と。

 

 香織と他の支援職の強化魔法(バフ)には隔絶した差は無い。その他も同様だ。障壁も、牽制も、攻撃も…精度や威力は凄まじいが、それ等自体は他の者を遥かに超えている、という訳ではない。

 

 同時並列で行った上で、他の者の専門分野を超えている事にも驚嘆すべきだろうが…彼女の行う支援全てが()()()()()()()()()()()()()()。それが一番の異常だ。

 

 飛び交う魔法は時に人の動きを妨げる。視界に他者の魔法が入るだけでも不快感が出来るのはありふれた話だ。また強化魔法(バフ)ならば動きへの違和感、障壁ならば動きの阻害などのデメリットが発生し始める。そしてその采配は人数が増える程難易度を増す。

 

 だからこそ違和感や不快感を欠片も見せない『神の使徒』は気付かない。白崎香織の補助が既に一流のソレを大きく画しているという事実に。

 

(暫くは香織に補助をさせん方が良いかもしれんな…)

 

 規格外は光輝もだが、彼はあくまでも個体としての規格外だ。“限界突破”や“剣術”、“魔力感知”などの強力な固有魔法に加え、聖剣や聖鎧などのアーティファクト。今はまだ未熟だが、いずれは人族の英雄となる資質を確かに持っている。

 

 そして個体として収まっているが故に、あくまでも皆を率いるだけですむ。彼が直接影響を及ぼせるのは士気だけだ。プラスの効果の方が大きい。

 

 だが香織は違う。広い視野と多様な手段。それ等を用いて行われるは()()の強化。文字通りその場にいる味方全員の能力を底上げしてしまう。

 

 本来ならば連携には何かしらのガタが発生する。この実戦訓練にはそのガタを、創意工夫で埋め合わせるという目的もあるのだが…香織がいてはその練習にならない。最悪香織がいない状況下になってしまえば、パフォーマンスも連携も低下してしまうだろう。

 

 その為、香織の補助を暫くは取りやめにすべきか、とメルドは内心呟いた。

 

「メルド団長」

「…む? 香織か」

 

 そうしてメルドが香織への評価を更に高く更新し直していると、その香織がすぐ目の前まで来ていた。

 

「団長、約束は覚えていますか?」

「…決意は変わらんか?」

「はい。お願いします」

 

 彼女は先日と同様、覚悟を決めた顔をしている。ここでメルドは有耶無耶にする事は出来ないと悟った。

 

 当然65階層単独攻略など正気の沙汰では無い。今の光輝ならば“限界突破で無理矢理倒せるだろうが、無しならば怪しいとしか言えない。『個』として完成されている光輝ですらそうなのだ。香織ではあり得て一割あるか無いか。

 

 だが香織にとって65階層は、階層主ベヒモスは避けては通れない宿敵だ。そうして勝敗関係無しに一人で戦う事こそがターニングポイントであると言う考えにメルドは至る。

 

 だからこそ、メルドに残された選択は彼女の背中を押す事だけだった。

 

「………分かった」

「!」

「だが危ないと思えばすぐに助けに入るぞ、いいな?」

「──はい!」

 

 香織が力強く頷く。メルドはそんな変わらぬ彼女に笑みを零しつつも、振り返り全ての『神の使徒』に告げた。

 

「続いての65階層だが、他の者は指示があるまで手を出すな。最初の方は香織だけに行かせる」

「「「「「っ!?」」」」」

 

 当然、全員から無言の動揺が響く。65階層はここにいる全員にとっての悪夢(トラウマ)。それ故、掛ける思いは大きかっただろう。だと言うのに行かせるのは【聖女】とは言え、一人の女子のみ。その事実は彼等の矜持(プライド)を刺激するには十分だった。

 

「メルドさんの判断でもそれは納得出来ません! それなら俺が行きます! 香織一人でなんて…とっても納得出来ない!」

「そうだ、白崎! 俺達全員でやった方が安全だろ!? な!」

「鈴も行くよ! カオリンを一人で行かせるなんてダメだよ!」

 

 真っ先に抗議したのは光輝だ。持ち前の正義感により、香織の無謀な挑戦を防ごうとしている。

 

 そして多少の良心があるならば光輝のこの声に賛同するだろう。檜山、鈴に続き、他の『神の使徒』も香織を止めようとする。

 

「ごめんね、みんな。でも…行かせてくれないかな?」

「香織…でも」

「行かなくちゃ、ダメなんだよ」

「!?」

 

 ただ、そんな言葉だけで止められるならば、彼女は彼女たり得ない。彼女は生来から行動力は人一倍持ち合わせている。

 

 光輝は香織の言葉に静止する。否、その眼の向く先に呼吸をも忘れる。

 

 彼女の目は、他ならない65階層に向けられている。しかし何故か彼方を見ているかのようだ。

 

 では香織は今、何を見ているのか。()を見ているのか。

 

 光輝は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、再び説得を試みる。行かせてはいけない、なるものかと叫ぶ心の声に従い、止めようとする。

 

「それでも香織一人で行かせるなんて──」

「光輝。行かせてあげなさい」

「!? 雫!? でも──」

「いざって時は私達が駆け付ければいいわ。それぐらいなら許してくれるわよね、香織?」

「うん。でも…勝つよ?」

「フフ、そう。それなら勝って来てちょうだい?」

「うん!」

 

 しかしそんな光輝を今度は雫が止めた。それに対し、光輝は何故だと掴み掛かる様に尋ねた。

 

「雫、何で香織を行かせるんだ!? 心配じゃ無いのか!?」

「勿論心配はしてるわ。でもここで止めたら駄目。それだけは分かるわ」

 

 雫は香織と常にいるからこそ知っている。

 

 心配をされない様に布団を被りながらも、魔法の特訓を毎日行なっている事を。

【聖女】の真髄である魔法的な訓練のみにあらず、基礎体力のトレーニングも過剰と言えるまでに行なっている事を。

 何よりも、いつも何処かで彼の影を見ている事を。

 

 香織はここで止まれない。その事実を雫はこの場の誰よりも知っていた。

 

 だからこそ、せめてもと雫は香織の背中を押すのだ。

 

「それじゃあ、みんな。行ってきます」

 

 階段を降りる。一歩一歩。踏み外す事なく香織は一人、進んで行く。もう彼女の目は、意識は『神の使徒』を映していない。

 

 ならば何を映しているのか、その答えは瞬く間に現れる。

 

 香織が65階層に足を付けた途端、橋の上で二つの魔法陣が黒く魔力を滲ませる。そして空気を軋ませ、魔力光の先でその輪郭が見えた。

 

 香織の目の先にて骸骨の死兵、トラウムソルジャー等が傅く様に出現する。以前壊した魔法陣も復活している。自然修復機能でもあったのだろうか。

 

 そして頭を垂れるトラウムソルジャー達の背後。そこには巌の様に硬く、この世の物とは思えぬほど恐ろしく、灼熱を灯す角を持つ怪物(モンスター)がいた。

 

 階層主ベヒモスはただ見下ろす。動く気配も無い。入って来た挑戦者とトラウムソルジャーの行く末を、ただ見守っている。

 

「さて…どうなる事か」

 

 トラウムソルジャーは一体一体は弱いが、何せ数が多い。時間を取られれば消耗は確実。故にメルドは香織がどう動くかを注視する。

 

 香織が、詠唱を淡々と紡ぐ。そして──

 

「──“光爆”」

 

 一撃目は、鏖殺から始まった。

 

 香織からボッと音を立てて、発生する膨大な魔力の鯨波。魔力の波動がトラウムソルジャー達を瞬く間に飲み込み、砕いて行く。

 

 ──邪魔をするな

 

 彼女のそんな内心が見て取れる。一瞥も下されぬまま、トラウムソルジャーは戦闘開始数秒で魔法陣ごと消滅した。

 

 そして65階層に残されたるは一人と一匹。香織はこの瞬間、この戦いの合間だけ、ベヒモスに全神経を注ぐだろう。そしてベヒモスもまたフロアにたった一人佇む香織のみをその瞳に映していた。

 

『グォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

 ベヒモスは歓喜する。強者との戦いに、新たな獲物との遭遇に咆哮を上げる。トラウムソルジャーの瞬殺など気にも留めない。この階層の主は他ならぬベヒモスなのだから。

 

 ベヒモスの咆哮は遠くにいる『神の使徒』をも震えさせる。かつて刻み付けられた悪夢(トラウマ)を、脳裏に残響させるのだ。

 

 そして唯一の敵対者である香織は──

 

「──“縛煌鎖”」

 

 ──寸分も臆する事なく、開戦の始まりを告げた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 ──ズドドドドッッ!!

 

 幾つもの鎖が地面から顕現し、ベヒモスを強襲する。避ける暇も与えない。光属性捕縛系統上級魔法“縛煌鎖”は瞬く間にベヒモスの外皮を突き刺し、四肢に巻き付く。

 

 この“縛煌鎖”自体は攻撃手段足り得ない。だが攻撃に移る為の手としては最善。瞬時に香織は新たな詠唱を紡ぐ。

 

 だが──

 

『グォ? グォオオオオオオオオオオ!!!!』

 

(──浅い!?)

 

 ベヒモスは容易に鎖の戒めを振り払い、突進を開始する。まだ外皮に突き刺さる“縛煌鎖”もあるが、ベヒモスは意にも返さない。

 

 ベヒモスが強者たる所以として、その尋常に無い硬さとタフネス、そしてパワーが上げられる。

 

 確かに“縛煌鎖”は外皮を貫いた。しかしそれは何重にも渡る外皮の幾つかを貫いた程度。重なり合うが故に鉄の鎧を彷彿とさせる外皮こそ、ベヒモス最強の盾にして矛。

 

『グォオオオオオオオオオオ!!!!』

 

 外皮の下に敷き詰められている筋肉が膨張する。ズン、ズンと音を立てて直進。香織へと弾丸の如く迫る。

 

 詠唱の猶予など──皆無!

 

『グァアアアアアアアアアア!!!!!!』

「──ッッ」

 

 床を蹴り、身を投げ出す事で何とか直撃を免れる香織。しかし突進によりひび割れた岩盤の一部が香織の身体をくの字に折り曲げる。

 

 この橋は攻撃手段が突進に特化しているベヒモスの為に作り上げられたステージだ。逃げ場が少なく、万が一避けたとしても砕けた礫が敵対者を襲う。今の香織の様に、礫を喰らい死んだ者も数少なく無い。

 

 香織の場合、死にはしなかった。代わりに戦闘衣(バトルクロス)が無惨に引き千切れた。そして香織の脇腹が赤く露出していた。

 

 そしてベヒモスは身を翻し、再び香織を睨む。

 

「香織!」

 

 もう無理だ、と一人突貫しようとする光輝。他の『神の使徒』も同様だ。仲間の危機に駆けつけねば、と詠唱や武器を準備する。

 

 こればかりは仕方がないとメルドも足を踏み込もうとして…違和感を覚えた。

 

 香織が口ずさむ詠唱の言の葉が、あまりにも場にそぐわなかったから。

 

「光を放て──“光球”」

 

 それはただの光属性初球魔法。ただ光を放つ魔力弾を生み出すだけの魔法。そして物理的な魔法的な攻撃力を持たぬ、言わば非戦闘用魔法の一種だ。

 

 普通この場で詠唱をするならば防御系か、迎え撃つ為の攻撃系、後は避ける為の強化系(バフ)のいずれかだ。

 

 だからこそ、メルドは違和感を抱き…やがてそれはあまりに異常な光景を生み出した。

 

 戦場に、純白の魔力光が満ち満ちたのだ。その正体は数え切れないほどに浮かぶ“光球”の数々。

 

 それはその場にいたあらゆる者の目を潰し、ベヒモスさえも受容仕切れない光量に平衡感覚を失わせた。

 

 血迷ったか? 否。

 目潰しか? 否。

 

 これは攻撃の布石。

 

 白崎香織は幾度と無く魔法の訓練を行って来た。“光球”は彼女が訓練において数えるのも億劫なまでに使用して来た魔法だ。短文詠唱で、かつ攻撃性も皆無。それ故に出力を調整して訓練を積み重ねて来た。

 

 そうして段々と“光球”の数は増え、発動範囲は広がり、速度は加速、操作も極まって行った。

 

 やがて数百に渡る“光球”を操作する中、香織はある発想に至る。

 

 ──これで魔法陣は作れないのか、と。

 

 魔法陣は何も【錬成師】だけが作れる物では無い。例えば血や屍、地脈…こうした物でも魔法陣は作れる。それ等に何の統一性があるのかはまだ分かっていないが、これでも発動できる事は明らかになっている。

 

 だからこそ香織はそのアイデアを生み出し…そして試行錯誤の結果、その企みは成功する。

 

 当然、体内魔力を魔法にした上でもう一度魔法を発動するのだから、体内魔力のロスは発生する。単純に魔法を発動するよりも、必要魔力量は増えてしまう。

 

 更に言えば成立させるには澱みない操作精度が必要不可欠。並外れた集中力が、香織には必要となる。

 

 ではそこまでして得られる恩恵とはいったい何か?

 

 それは──

 

「──“聖絶”、“縛煌鎖”、“天灼”」

『グォ!? グッ! グガァアアアアアアアアア!!!!?』

 

 ──『魔法の遠隔発動』と『擬似的な詠唱破棄』、そして『魔法陣の補填』、主にこの三つに起因する。

 

 ベヒモスの正面に展開された“聖絶”がベヒモスの動きを阻害し、地面から現れるは“縛煌鎖”。先よりも厳重に絡まるそれを解こうとするがもう遅い。空に浮かぶ純白の魔法陣から稲妻が降り、ベヒモスの四肢を麻痺させた。

 

 詠唱は魔法陣へと魔力を流す為行われる技術だ。しかし一方で“光球”は体内魔力を放つ魔法。それで魔法陣を作って仕舞えば、詠唱の必要性は無くなってしまう。

 

 更に魔法は原則として魔法陣付近で発動する。ならば“光球”による魔法陣を遠くに作って仕舞えば、香織は遠隔発動が可能。当然敵の近くで魔法陣を作れば…最短最速の一撃が繰り出せてしまう。

 

 尤も香織はそんな理論は理解していない。ただ単純に『便利な攻撃手段』としている。

 

 だがそうして放たれる数々の速攻(無詠唱)魔法は、ベヒモスのあらゆる動きを阻害する。一刻の猶予すら許さず、動きの出を潰す。

 

 瞬く間に地面に伏したベヒモス。その事実に『神の使徒』全員が目を見開く。

 

「これは…なんて…」

「すげぇ」

「…綺麗」

 

 誰かがポツリと呟いた。無理も無い。この場の誰もが今、彼女に見惚れている。

 

 “光球”がダイヤモンドダストの様にキラリキラリと空に舞う。時にそれ等は円環を描き、一部は香織の周囲を泳いでいる。現実離れしたそんな光景は、最早神話の一頁にすらも思えた。

 

 だが、ベヒモスはまだ死んでいない。“天灼”がその背を焼いたが、絶命には至らない。いずれ死ぬだろうが、目には灼熱の殺意を宿らせている。

 

 ──せめてお前も道連れに

 

 迷宮の怪物(モンスター)としての意地が、ベヒモスの四肢に活力を与えた。

 

 “聖絶”がひび割れ、“縛煌鎖”が砕けた。『神の使徒』の悲鳴を無視して、その巨体をたった一人の少女に向けて加速させた。

 

 一方で香織は、逃げない。

 

 トータス(この世界)に来て、香織は幾度と無く自分の無力を責めた。無知を罵った。

 

 香織はハジメにこれ以上無く憧れている。弱くてちっぽけで、それでも不屈で優しくて…この世の誰よりも強い人。

 

 彼は強くなろうとしている。誰かを傷付ける為ではない。『大切』を守る為、彼は果てない道を歩いている。

 

 彼はきっと辿り着く。そして更に先へ進むだろう。

 

 その時、彼の隣にあるのは自分が良いから。その場所を誰にも譲りたく無いから! 彼を守るのは他でも無い、自分で有りたいから!

 

「──負けたくない」

 

 残り全ての“光球”を己の周囲に集めた。そして展開される幾重にも重なる魔法陣。彼女の背後に描かれる円環の数々。それはまるで神々が携える後光の様。

 

「南北東西、天上天下、世に秘める神々よ。いざ、我を見よ」

 

 詠唱が始まる。しかし既存の魔法には見られ無い特殊な詠唱。それにメルドは眉を八の字にする。

 

「瞬く命。万色の魂。此の(かがりび)を、我は(つが)う」

 

 香織は左腕で杖を前に構えると、逆の手を後ろに構える。それは所謂弓道の構えによく似ていた。

 

「闇よ、我を恐れよ。此の灼光から逃れらる事は無いと」

 

 すると香織の右手に矢が創られる。同時に杖の端に光の鋼糸が出来、それを振り絞る様に香織はより一層、右手を後ろにやる。(やじり)は、ベヒモスへと向けられている。

 

「光よ、我に仕えよ。我が指が捉えられぬ光は有らんと」

 

 これは白崎香織が生み出したオリジナル魔法。誰よりも速く、何よりも強く、仇を貫く為生み出した光属性()()魔法。

 

「一射当千、今戒めを解きて──」

 

 光属性最上級魔法“神威”をも超える一撃が、放たれる。

 

「──“天穿(てんせん)天叢雲弓(あめのむらくものゆみ)”」

 

 音も無い、衝撃も無い。

 

 ただ純然たる光の軌跡が後追いで描かれる。あまりにも速すぎる一撃は、光さえも置いてきぼりとしてしまう。

 

 そんな一撃にベヒモスが反応出来る筈もない。

 

 自慢の外皮も、分厚い筋肉をも貫く。そうして出来るベヒモスの魔石の小さな、しかし致命的な風穴。

 

 魔石の破壊により生命活動を不可能としたベヒモスは、今度こそ地面に沈み…灰へと還って行った。

 

 ベヒモスが消滅し、やがて『神の使徒』の面々が歓声を上げる。フロアを満たす興奮と絶叫。それらを一身に受ける香織は天井を、その先にいる誰かを見つめる。

 

「…私、ここまで来たよ」

 

 ──だから、必ず追いついて

 

 …それが、誰に向けられたものかなど言う必要も無いだろう。

 

 手に持つ細やかな指を握り締め、その手を空に掲げる。

 

 白崎香織、二ヶ月ぶりのリベンジは──圧倒的な勝利を持って収めて見せた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「まさか…ここまでとはな」

 

 メルドは香織を正しく評価していたと、そう思っていた。香織は支援職としては完璧だが、『個』として完成された存在では無いと。

 

 だがかの強大な怪物を倒して尚、余力を見せる香織。つい先の一撃も合わせ、その判断は完全に誤っていたと判断する。

 

 例えば光輝と香織が戦った場合は辛勝で光輝が勝つだろう。何と言っても光輝には“限界突破”、そしてその先がある。タイマンでの戦いならば、【勇者】という天職はこれ以上無く有効性を発揮する。

 

 ただ香織は支援を中心とした天職にも関わらず、だ。才覚を無視し、鍛え上げられた確かな力が、今の彼女にはある。

 

「全く…俺も耄碌したものだ」

 

 メルドはそう自嘲し、今日はここで引き上げる事を皆に伝える。明日は香織を支援に徹させた上で、全員でベヒモスを倒す予定である事も伝えた。

 

 クラスの士気はこれ以上無く上々。香織の圧倒的な力は皆の心に確かな熱意を灯した。

 

 

 

 

「光輝くん、大丈夫? 私の肩使う?」

「あ、ああ。大丈夫だよ、恵里。ちょっと疲れているだけだ。じきに元気になるさ」

「そ、そう? それなら良いんだけれど…」

 

 いつもならば戦いの最前線を行く光輝。しかし帰りは『神の使徒』の殿に付いていた。何という事はない。ただ単純に足が重い、それだけの話だ。

 

 光輝はその足の重みを疲労から来る物だと、()()()()()()()()

 

 だがフラッシュバックする様に、先程の光景を思い出す。香織が、一人で過去の宿敵を乗り越える、その瞬間を。

 

「…………んで?」

 

 そして香織がベヒモスを倒したその瞬間。彼女は何を見ていたのか。何を目に映していたのか。

 

 今日まで見ない様にしていたソレを…光輝は垣間見た。

 

 それは他でも無い。【裏切り者】と呼ばれるアイツで…。

 

「……何で」

 

 ──ベヒモス(怪物)を倒すのは自分で無ければないのに…

 

 ──ヒロイン(香織)は自分を見ているはずなのに…

 

 光輝にとって当然であるべき事が、崩れていく。いやよく思えばずっと前からかもしれない。

 

 香織、雫、龍太郎…親しい人間との距離を近頃感じる。三人と疎遠になっているわけでは無い。だが以前の様な場所では無くなってきている。確かな変化が感じられるのだ。

 

 それだけでは無い。ある者を中心として人が集まり始めている。それは香織の眼に浮かんでいるであろう男と同じ人物で…。

 

「…何でッッ!」

「ヒッ!?」

 

 隣の恵里がびくりと肩を揺らす。そんな簡単な事にも、今の光輝は気が付かない。

 

 ドロリドロリと胸の中で何かが動いている。ごちゃ混ぜに心を掻き乱す。光輝はその答えを知らない。光輝はその感情を、知らない()()()()()

 

「………南雲ォ」

 

 ボソリと一人でに、光輝は呟く。

 

 ただ一人にしか聞こえないその声は…普段の彼からは発せられない様な、ドスの効いた声であった。

 

 

 

 

 

 そしてこの2日後の事だ。【ウル】の騒動が、そして少年の新たな話題が降って湧いたのは。

 

 ──静かに。されど明確に。物語は新たな盤面を生み出す為、蠢いて行く。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 場所は【ウル】に戻る。時間はハジメ達が『湖信祭』に出向いていた、その時だ。

 

【ウル】の秘奥、魔物の鳴き声すら聞こえない樹海の中。静謐な自然の中、残酷なまでに赤い水溜まりが闇の中でも確かに見えた。

 

 血溜まりに沈む彼は、されど意識は明確に存在する。そしてその意識で思う。()()()()()()()()()、と。

 

 彼は死んだ筈だ。祖国と神の為、身を砕き…されど負けた。蒼い光に。そして騎士達の“天翔閃”に呑まれて、死んだ。

 

 だと言うのに、今自分は意識がある。呼吸が出来ている。体温が、感じられた。

 

「何…が?」

「あら、漸く起きられましたか。随分お寝坊さんですね?」

「誰か…いるのか?」

 

 焚き火がパチパチと爆ぜ、己ともう一人を照らす。身体が死に掛けであるが故に、良く見えない。ただ声から少女であると推測する事が出来た。

 

「もしかしなくても死に掛けですね…仕方がありません。取り敢えず回復でもしましょうか。“焦天”」

 

 瞬間黄金の魔力光がボヤけた視界の中、輝いた。そして瞬く間に彼は、レイスは千切れた腕を除き、全快を果たす。精度は高くない。代わりにふんだんに注ぎ込まれた魔力が無理矢理回復させてみせたのだ。

 

 消費された圧倒的な魔力量に戦慄しつつも、回復の恩を言葉で返そうと彼女を見て…絶句した。

 

「は? な、何故キサマが?」

「もしかして私の事、知ってくれてます? ここ最近私の事知らない人ばかりでしたので嬉しいです」

 

 あり得ない、あり得ない。絶対に、それはあり得ては行けない。

 

 レイスという個体の、遥か前の記憶。僅かに古い文献を読んだ際、目の前の少女を示した絵が有った事を覚えている。

 

 だからあり得ない。あり得ない筈なのだ。

 

 そうだろう? 何故なら…

 

()()()()()()()()()()!? ()()()()()()=()()()()()()=()()()()()()()()()()=()()()()()()()!!」

 

 トータスというあまりにも広大な世界。そんな世界の遥かに高き頂上、そこにかつて君臨した吸血鬼族の女王。

 

 そして()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()

 

 表舞台では、もう死んだとして扱われている伝説。紛う事なき世界最強、その一角。

 

 そんな彼女、アレーティアは冷徹に、されど愉しそうにレイスを見下ろしていた。




と言うわけで「香織さん書きてぇし、光輝も書きてぇ。何なら前回最後の方にティアの話挟むの忘れてた」という閑話です。

取り敢えず香織はバグりました。
ハッキリわかんだね。
光輝はある意味バグりました。
ハッキリわかんだね。(天丼)

ーー追記
綾禰様
夜戸 イズナ様
卵焼き二次創作好き様
Lichi様
亀の手様
評価ありがとうございます!
また語彙力ざーこな作者に変わり文章を直してくださる添削の先生様。
および感想大好きな私の要求を満たしてくれる皆々様。
ガチで感謝いたします!
これからもどうぞ宜しくお願いします!

この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?

  • ハジカオ!
  • オリジナル展開!
  • 成り上がり要素!
  • 考察要素!
  • 曇らせ!
  • 感想返し!
  • ダイレクトマーケティング!
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