…いや、今回の話…俺は悪く無いんです。
大体ヘリーナさんとハジメくんのせいだから!
何か思いの外フラグが乱立された様な気がするけど気のせいだからァ!!(アホ)
とある話を聞いた人々は第一にこう思った。
──またお前か、と
良くも悪くも話題に事欠くことが無い少年。同時に話題に挙げられるのは彼との関係が一部では噂されている少女。二人は同様に世間の話題を集める存在であり、ならば当然新聞に書かれたならば大きな話題とならないはずがない。
「…最近王女側からの奴へのアプローチが無かったが為に、名を貸しているだけかと思ったが…思ったよりも奴にお熱な様だな」
「下手にあの男へ手を出せば敵に回る可能性が高いな」
「あの娘は
「おのれ…神に反逆するつもりか? あの小娘めが…」
ある者は彼女の寵愛の信憑性が増した事により、少年への手出しが難しくなったと頭を悩ませる。
「あっ! 王女様だー! 兄ちゃんも載ってるよー!」
「へぇ、すごいわねぇ。【ウォルペン工房】の唯一の良心だし…頑張って欲しいわねぇ」
「へー、あの
また城下町では、はたまた二人への好感度が上昇していた。もはや教会の弁もあまり気にしていない様で、その話題に盛り上がりを見せていた。
「ファ────!?」
「何やってんだ、アイツ!? 何やってんの、ホントに!?」
「つーかアイツの周り、地味に女子多いな?」
「優花はどうなるの!?」
「まだだ! まだだよ、妙子! まだ優花の勝負は終わってない! 多分!」
「奴め…目を離せば色恋に怠けおって…」
「いえ、これは恐らく記者側の私情も入っている類の記事でしょう。それはそうと、あの二つ名はやはり…」
「先生はそんなふしだらな事は認めませんよー!!」
新たに出発して間もない愛ちゃん先生護衛隊では皆が騒ぐ。ある者は胸の内にあるジェラシーを燃やし、またある者は友人の色恋に思いを馳せる。またある騎士は不真面目だと怒り、またある騎士は冷静に状況を理解していく。
そして先生は不純異性交遊じゃ無いかと、子リスの様に頬を膨らませた。
「へー、ふーん、はーん、ほーん、なるほどねー」
「あ──、畜生! あの屑野郎はまたフラグ立ててやがるし! 園部は怖いし! 俺は虚しいし! 俺が何をやったってんだ、神のバカヤロー!!!!」
『
『
また王城の一角、畜舎の前では一人の少女が能面の様な無表情となっていた。感情も何も無い、ただの無表情。ただし目の奥は違う。そこには凄まじい
その怒りを一身に受ける、話題の少年と目の前の少女の親友は非常にビビっていた。彼も彼で怒っているが、足が子鹿の如くガクブル。目尻には涙が溜まっていた。彼の使い魔達も同様だ。少年の陰に隠れ、その怒りから逃れようとしていた。
「フフフフ…ハーちゃんも話題に尽きませんねぇ」
薄暗い道で新聞に目を通す金髪の少女は、いつかの様に小さく笑う。ただしそこらにあるゴミをベキベキと魔法で潰しながら。その真意は分からないが、兎も角彼女は笑っていた。
「またアイツか…今度……………は?」
「…目を離せばこれか」
「これは…どう言うつもりなのかしら?」
「今週のミレちゃんもおもしれぇな」
ホルアドから王都に帰る途中であろうと新聞は届いた。【勇者】は抱いていた負の感情やらを一旦強制解除され、騎士団長は頭を片手で覆った。【剣士】の少女は「そんな事はないだろう」とは思いつつも、真意を掴め無い。そして【拳士】の男は新聞の毎日連載4コマ漫画『反逆れ! ミレちゃん』を読んでいた。
一人だけこの話題から蚊帳の外だが、兎も角も皆がこの新聞のとある記事に目をやっていた。
それはとある侍女が
その内容が以下の通りである。
『女王リリアーナ、噂の【錬成師】と密会か!? 彼等彼女等の
地球で言う所のスキャンダルという奴である。しかもその項目にはご丁寧にも一組の男女が抱き合っている
そして…それはとある【聖女】も同様に、だ。
「………まったく南雲くんってば、ねぇ?」
【剣士】の肩に頭を置き、記事に目を通した【聖女】は、その二つ名に相応しい清廉な微笑を浮かべていた。
その笑みの
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
一方その頃、王城のとある一室。
「ヘリーナさんの大バカ者は何処に行った!? 出てこい!」
日頃の優しさが一ミリたりとも窺えない、ブチギレた南雲ハジメがそこには居た。頭には幾つもの燃えた蝋燭を括り付け、両手には一対の日本刀が握られている。単純に言うならば、殺意が高かった。
まるで某派出所の部長を彷彿とさせるハジメは、正しくキレていた。
「あら? ついさっきまで此処にいたのですが…」
ただしそこには既にヘリーナは居ない。その逃げ足たるや某警察官の如く。既に影すらも見当たらない。
出来る侍女は逃げ足さえも速いのだ。それを今此処にて痛感したハジメは頭を抱えた。今度会ったらどうしてくれようか、と。
「ところでどうされたのですか? それ程腹を立てられて」
「新聞見てないんですか!? アレですよ、アレ!」
「…もしかして、あの如何にも誤解を招きかねない記事の事ですか?」
「招きかねないって言うか…もう積極的に招きに掛かってますよね、アレ!? 書き方が明らかにゴシップ記事でしたし!」
ハジメが言う様にあの記事の内容には凄みがあった。内容自体は馬鹿馬鹿しい物であり、よくよく目を通せば推測でしか語られていない適当な物である事がよくわかる。一見、情報誌として何の意義も為していない様な記事に見える。
だがそこは
…まあ、詰まる所センテン○スプリ○グである。スキャンダルに目が無いのは人間社会の常。それを利用し、記者ヘリオトロープはハジメとリリアーナの仲が良い、と世間に
ハジメの【王女の騎士】としての名をより強固にすると言う点では、ベストに近いアンサーだが…生憎ハジメは
「ですが、ただマナーレッスンをしているだけと伝えれば効果は薄いですわ。だからこそあくまでも匂わせに走ったのでしょう。少なくともこれだけやれば、
「でもリリアーナさんのお父さんとかは何も思われないんですか? 新聞だけ見れば知らぬ間に僕が娘さんとくっついてる訳ですし…」
「お父様もこれを鵜呑みにする程、愚かでは無いでしょう。それにあの新聞自体に証拠がある訳ではありませんしね。精々仲良くしている程度に思われるくらいでしょう」
とは言え作戦自体には何の支障も無いのは事実。この新聞会社自体、そう言った内容に特化しており、フィクションだろうが関係なくブッコム事で有名。あくまでも内容自体は『ハジメとリリアーナが知人よりは明らかに上の関係』と言う事のみ。何ら問題は無い。
また何も無い所からいきなりこの様な内容が降って沸いたならば、国王や教会も注意出来るだろう。しかしハジメとリリアーナの関係の良好さは、下町の一件から既に広く伝わっている。それに今更口出しするなど愚の骨頂。城下町の民からは不満の声が響く事だろう。
なので作戦自体はつつがなく、と言うよりも予想より遥かにスムーズに進んでいる。なので問題は無い。…そう、問題は無いのだ。
ただしここで、男子高校生的な悩みを持ち合わせていたハジメに、助け舟がリリアーナから提示される。
「それに南雲様は優しいお方ですから、嫌ではありませんわ。それとも…南雲様は私の事お嫌いですか?」
「それは無いです! ただ…」
「ふふふ。御安心を、南雲様。友人の方々への説得は私も手伝いますから。誤解されたら嫌なお方がいるのでしょう?」
「…すみません、何から何まで」
「いえいえ。これも『神の使徒』皆様への助力の一環ですわ。お気になさらず」
誤解が解けるならば、と静まるハジメ。もっともヘリーナに対する怒りが収まったわけではない。面白半分でやっている事は確定しているので、会ったら速攻で抗議してやると決意している。
…ただ彼女の場合、速攻で論破されそうな予感しかしないが。
「それは兎も角、今はマナーレッスンの御時間ですわ。準備は宜しくて?」
「はい! 出来てます」
本日はマナーレッスン四日目。おおよそのマナーに関しては(リリアーナが案外スパルタだった事もあって)一通り教えてもらった段階だ。
そんなハジメの装いは普段の物とは異なる。基本的にハジメの服装は質素なシャツとパンツ、コートが中心だ。手には魔法陣の描かれた手袋、髪は見苦しくない程度に整えている。
よく言えば悪くは無いのだが…逆に言えば面白みの無いファッションだ。ハジメ自身の顔も、素材は悪く無い以上磨けば輝く。
だからこそ…今のハジメを見たならば彼の友人等は間違い無く驚くだろう。
黒い紳士服に身を包み、髪は整髪料で丁寧に整えられている。手には白い手袋がはめられており、清潔感を感じさせた。立ち姿も四日間のレッスンにより様になっており、無理に胸を張っている雰囲気が全くない。
ハジメの顔立ちは大人びたものでは無い。されどこの厳粛な装いはハジメが生来から持つ、優しさと真面目さをより際立たせる。故に服に着せられている感は皆無。
誰よりも純真な紳士がそこにはいた。
紛う事なき紳士となったハジメは、その掌をリリアーナに向けて差し出す。そして恭しく頭を下げ、優しく微笑む。
「僕と一曲踊っていただけませんか、
リリアーナはその差し出された手に、己の手を重ねる。そして、ニコリと笑みを浮かべて、
「はい。喜んで」
ハジメの左手とリリアーナの右手が互いを結び合う。そして部屋の中央、ダンスホールへと二人は歩を進めた。
──言うに及ばない可能性があるが、新聞に添付されていた絵は紛れも無い事実の光景だ。
──ヘリーナが先日の二人のダンスを絵に留めた、それだけの事だ。
──それ程今の二人の姿は、様になっていた。
──数秒後
「南雲様、テンポが速くなっております。落ち着いてくださいまし」
「はい!」
「
「はい!」
「とは言っても大雑把にやって良いという訳ではありませんわよ?」
「Yes, sir!!」
「ma'amですわ!」
先程までの絵になる二人が嘘の様。不細工なステップを踏むハジメと、ジト目を放つリリアーナがそこにはいた。
というのも地球に居た頃から、ハジメは何もマナー知らずと言うわけでは無かった。むしろ親が親故に、よく知っていた側の人間だっただろう。
何せ親は大手ゲーム会社社長と売れっ子ベテラン漫画家。現代社会ではめったに見られない様な会食は、案外身近にあった。そして当然二人の子供たるハジメもよく付いて行っては、着実にマナーを学んでいった。
食事のマナー、挨拶の作法、客席での立ち振る舞い。そう言ったマナーは異世界でも大きな差は無く、幾つか直しただけで終了した。「手慣れている」とリリアーナやヘリーナから太鼓判も見事頂いた。
されど、そう上手くは問屋が下ろさない。ハジメには一つ、致命的な弱点が存在した。
それこそが今練習を積んでいる社交ダンスである。
現代社会ではまず滅多に行われない代物だ。上級社会や海外ならばまだしも、ハジメが暮らしていたのは日本。しかもオタク方面の社会である。そんな彼等が果たして社交ダンスを踊ろうか、否踊らない。
一応両親はハレ晴れユ○イならば踊れる。両親曰く、ハ○ヒは平成オタクの嗜みとの事。オタクエリートたる両親はやはり伊達では無い。コスプレも普通にするし。
ただハジメはオタ活の中でも体を動かす類にはあまり馴染みが無い。学校でもダンス経験は授業と学園祭のみ。しかもみんなで踊るタイプなので、適当に踊れば誤魔化せた。結果、本気でハジメにはダンスの経験値が無い。
正直、現代日本ではダンス経験が無いのはそこまで問題にはならない。しかしここは中世西洋に近い文化の異世界。貴族社会が完全に成り立っており、社交ダンスも当然の如く存在する。ある種、マナーとすらこの世界では言える訳だ。
足をたたら踏むハジメに、リリアーナは声を張り上げた。
「困惑しようと笑顔は絶やさない様に! 多少のミスならば、堂々としていれば誤魔化せますわ! 基本の姿勢は崩さず、自信を持って!」
「はいぃ!」
ハジメとリリアーナの距離は近い。ハジメが空いた片手でリリアーナの腰を支えている以上、抱き合う様な距離。そんな至近距離で厳しく指導を行うリリアーナに、ぶっちゃけハジメはビビっていた。
なおリリアーナはハジメよりも三歳年下だ。何処からか「ハジメよ…年下に怒られるとは情け無い」という
とは言え一応ハジメも成長している。最初の方はちゃんとした直立姿勢すらも苦戦していたし、ステップを覚えるのにも時間が掛かった。昨日に漸くリリアーナと合わせる様になれた事を考えれば、かなり成長した物だ。
ただ未だにリリアーナがリードする側となってしまっているのは、早急に改善が必要だろうが。
すると不意にリリアーナはハジメへと尋ねた。
「南雲様、もし…もしですが教会が貴方への処分を下す場合、どうされるおつもりですか?」
「…藪から棒にどうしたんですか?」
「もしそうなってしまった場合、本当に
リリアーナの申し出は、非常に優しい物だった。教会から処分が下された場合、何の後ろ盾も無しではハジメは野垂れ死ぬだろう。清水の時の様に愛子が庇護下に置くと言う事も出来るだろうが、短期間で二度も罪人を雇い入れると言うのはあまりにもやり過ぎだ。恐らくそうした場合、反感を買う者が出て来る事だろう。
だがリリアーナならば問題ない。城下町での一件といい、今回の新聞といい、下地は出来上がっている。ならば庇うというのは何も不思議な事では無いと世間は思うだろう。
そう、何の問題の無い提案なのだ。これが効力を発揮するのはハジメが罰を執行された時のみ。もし上手くいけばその提案は白紙となり、ただ名を貸してくれるだけに留まる。
だからこそ問題は無い、筈だが…
「すみませんけど、それには応えられません」
「…何故かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ハジメは頷く訳には行かない。必ず。頑固としてその首を縦に振る訳には行かない。
理由は──遥か先にいる少女が示してくれた。
「だって…約束しましたから。だから冤罪程度乗り越えないと、僕は彼女に顔向け出来ない」
そう。リリアーナの言葉に頷く事はすなわち、ハジメに「乗り越えられないかもしれない」という判断があるという事を意味する。
そんな訳がない。乗り越えられない? 馬鹿を言え。南雲ハジメはそれ程、賢い人間などでは無い。
愚かで、馬鹿で、ただひたすらに手を伸ばす。それが南雲ハジメの本質だ。
だからこの
「…ふふっ、そうですか。実に南雲様らしい答えですね。勇気を出したつもりだったのですが…簡単に振られてしまいました」
「人聞きの悪い様に言わないでください…」
「勿論、冗談ですわ」
それに対してリリアーナは笑った。何となくハジメの周りに人が集まるのも理解できる。
鮮烈で、純真で、人格者で。それでいて強欲かつ傲慢、そして愚かな人間。それこそが南雲ハジメだ。
そう、改めてリリアーナは再評価する。そして改めて謝罪を口にした。
「すみません南雲様。私は今にもなって貴方の覚悟を見くびっていたみたいです」
「いえ。お気遣いありがとうございます」
「気遣いなどではありませんわ。これは償いです」
「? 償い? どう言う事ですか?」
「…面白い話ではありませんわよ、南雲様」
「…聞かせてくれませんか? 僕の内に留めておきますから」
「ですが…」
「お願いします」
雰囲気が変わった。リリアーナの表情に陰が確かに落ちた。それを知覚したハジメはダンスを続けながらも、その眼でリリアーナを見つめる。
何度も断りを入れるリリアーナ。償いともあらば応えたく無い内容なのは明白。人には隠したい物があるのは必然。むしろ探ろうとするハジメがあまりにも野暮と言えた。
だが、目を背ける訳には行かないと思った。ハジメは目の前の少女に恐らく幾度と無く救われている。そしてこれからも、きっと彼女はハジメの窮地を救ってくれるだろう。
だからハジメ自身も力になりたいと思った。せめて一つでも、リリアーナの力になりたいと。
そうして繰り返していくとやがて、リリアーナが先に折れた。ぽつりぽつりと呟く様に告白する。
「ええ。私達が貴方方を巻き込んでしまった。本来ならば平和であった筈の貴方方に闘わせようと呼び寄せてしまった。特に貴方に関しては理不尽に貶められた。それなのに私に出来ることはこうした少しばかりの手助けのみ。それがあまりにも心苦しいのです。先程の言葉も、その様な罪悪感から来た物。…本当にどうしようも無い人間ですわ、私は」
それは以前リリアーナがヘリーナの問いに答えた、その先。かの日は『王家の務め』である、とヘリーナに伝えた。それも確かにリリアーナの内にはある。しかし全容では無かった。
そうして秘めて来た、誰にも漏らす事がなかった自責の念を、リリアーナは口にした。言い終わった後で、本当に何故言ってしまったのかと後悔して。
「申し訳ありません。こんな話を聞かせてしまって。ただでさえ貴方は様々な物を背負っていると言うのに…」
「………えっと、リリアーナさん」
「…はい」
リリアーナはハジメの顔から目を伏せていた。王族としてハジメがこれから言うであろう言葉は聞かねばならない。分かっている。真っ向から受け止めねばならないのは。
しかしリリアーナとて未だ年端も行かぬ少女。己の本心を言った上で、平静を繕う事が出来ずにいた。
これからの答えを聞くのが恐ろしいと、顔で顕著に答えて──
「何か勘違いされてるっぽいですけど…僕、今幸せですよ?」
「………はい?」
ハジメは間の抜けた答えを返した。
リリアーナはそれに困惑する。責められると思っていた。或いはその場凌ぎの慰めの言葉が掛けられるのだと思っていた。だが帰って来たのは、単純なハジメにとっての事実だった。
思わぬ返答にリリアーナは目を点にし、扉の奥からふふっと声が聞こえた。
構わずハジメは続ける。
「そりゃあよく分からない誹謗中傷とか敵意とかはありますけど、それに関しては元々あった様な物ですし。そんなに気にしてません。どっちかと言うとヘリーナさんの新聞の方が精神ダメージに来ました!」
「そっちの方がデカいのですの!?」
「思春期男子にとっては大ダメージですよ!」
恐らくこの場に『神の使徒』男子総員を呼んでアンケートを出しても、同様の答えが返ってくる事だろう。
男子は案外恋愛にウブなのだ。悪辣なイジメより、案外そっちの方が心に来たりする。
「でも向こうじゃ慕われる事も少なかったですし、友達なんて皆無でした。だから白崎さんとか八重樫さん、坂上くんにユッキー、園部さん、工房のみんなにメルド団長…あと愛ちゃん先生護衛隊のみんなとか城下町の皆さんと仲良くなれたのは間違い無く、召喚されたからです。辛い事とかもありますけど、それよりも沢山大事な物が出来ました。だから…」
そう、ハジメは地球にいた頃からはまるで変わった。かつては家族とそれ以外で基本的に完結していた。ハジメ自身に積極性が無かった事もあり、生憎と交友関係と呼べる者は無かった。
だが異世界に来てからハジメは変われた。他人の暖かみを知り、一緒にいる楽しさを知った。友を失いたく無いと本気で思い、再会に全身を喚起させた。
それを教えてくれたのは、この理不尽な世界とあの少女だ。
トータスに関しては憎たらしい事この上ないが、だがそれ故に知る事が出来たのだ。だからこそ、ハジメは言う事が出来る。
「
「!」
単なる同情から来る慰めならば、きっとリリアーナは返って傷ついただろう。気に負わせてしまったと。
だがハジメは純粋にリリアーナへと感謝を注いでいる。上部の皮を感じさせない言葉は良く、リリアーナの耳に響いた。
「だから「聞かせてしまった」なんて寂しい事言わないでください。むしろ色々言ってください。一応僕、歳上ですし。聞き相手ぐらいにはなれますよ」
「…は、はい。宜しいのなら」
「全然宜しいです。僕ばっかりお世話になってますから」
最初はハジメの罰の延長措置から始まった。それからヘリーナをハジメに付け、城下町でのハジメの評価をひっくり返し、優花をハジメの護衛に付け、果てにはこうしてマナーを真摯に教えてくれている。
ハジメの目から見ただけでそれだけあるのだから、恐らくはもっとハジメの手助けをしてくれていたのだろう。
だからこそのハジメの言葉だったのだが…何故かリリアーナは俯いてしまった。先程の様な陰りは無い。されど、明らかに目を合わせるのを避けていた。
(…もしかして他人に頼るのに慣れて無いのかな?)
慣れていない事をしているばかりに照れ臭くなっているのでは、とハジメは自己の中で結論を付けた。
そう思うとやはりリリアーナはまだ歳下なんだなぁと感じられた。大人びていて、完全無欠。それでもまだ成長過程で、未熟な箇所も存在する。
そう思うと少し…失礼かもしれないが、目の前のリリアーナが可愛らしく思えた。
「そう言えば…僕召喚されて無かったら、こうしてリリアーナさんとも会えてませんね?」
「へ? ま、まあそうなりますわね」
当たり前の話だ。ハジメは地球で、リリアーナはトータスで産まれたのだから。こんな
そんな当たり前の事を聞かれ、リリアーナは再び困惑を見せる。しかしその困惑はハジメの次の言葉で更に増す事となる。
「なら僕、やっぱり召喚されて良かったです」
「────ッッ」
その時、頑なに目を合わせなかったリリアーナが顔を見上げた。ただしそこにはいつもの様な冷静沈着なリリアーナの表情は無かった。
目は在らん限り見開かれ、うるうると熱を孕んでいる。眉は八の字に吊り上がっていて、彼女の動揺を顕著に示していた。口は固く結ばれ、声を上げる事を防いでいる。
そして彼女の肌は…赤く染まっていた。
「………へ?」
目の前の想定外の表情に呆けるハジメ。ハジメの思考に出来る一瞬の余白。
それを突く様にリリアーナは結んでいた手を放し、ハジメから距離を取る。その速さは電光石火。目にも止まらぬリリアーナの動きに、ハジメは目を剥いた。
そしてリリアーナはハジメに背を向け、立ち止まり一言。
「きょ、今日はここまでに致しましょう。そ、それでは失礼致しますわ!」
「えっ!? ちょっ!?」
「失礼! 致しますわぁあああああああ!!!!!」
絶叫! 続いて全力疾走! マナーもクソもありゃしない! 面目をもかなぐり捨てた逃亡がそこにはあった。
もはやうまぴょいレベルの走り。固有スキルでも発動したのか疑う程に、リリアーナは限界を超えた。
ハジメが気を取り直す頃にはリリアーナは、廊下の先に消えていた。
「……………どうすれば良いんだろ、これ?」
たった一人残された空間で、ハジメは自身に尋ねる。だが生憎ながらハジメは自己を正しく見つめる才が欠如している為、その解が浮かぶことは無い。
そしてどうしようものかとただ一人、立ち尽くすハジメ。そこに掛かる声が一つあった。
「ええっと、南雲君? 今凄い速さでリリィが通り抜けて行った気がするのだけれど…」
「あれ? 八重樫さん?」
扉からぴょこりと顔を出しているのは、クラス一の苦労人こと八重樫雫だ。【オルクス大迷宮】での探索を一先ず終わらせて来たらしい。怪我も大層な物は見られず、元気そうだ。
そんな彼女はついさっきリリアーナが走り抜けて行った方向を見ていた。どうやらリリアーナと雫はすれ違ったらしい。もっとも先程の速さならば、残像しか追う事は出来なかっただろうが。
「えーっと、リリアーナさんは…今日は大変だったぽいよ、多分。ところで八重樫さんは何をしに来たの?」
ただリリアーナの先程の反応はハジメも良く分かっていないのが現状。取り敢えず話を逸らす事にした。
だがハジメは気が付いた。その話をした途端、雫が剣吞な瞳でハジメを睨み付けた事実に。
思わず「ヒェッ」と声を上げるハジメ。だがハジメがすくみ上がった事実など、今の雫にとってはあまりにも些細。そのままズシンッ、ズシンッとハジメへと迫ってくる。
逃げようとするが雫は“無拍子”を駆使し、ハジメをすぐに壁際まで追い詰めた。そしてハジメの顔の真横に手をダァンッと叩きつけた。俗に言う所の壁ドンである。胸がドキドキする。恐怖的な意味合いで。
心臓が喉から飛び出そうになるのを抑えていると、雫は懐からある物を取り出した。
それはとてーも、ハジメにとって見覚えのある…とある侍女様特製の新聞記事であった。
あっ、とハジメがその新聞記事に愕然している内に、鼻と鼻がキスしかねない距離まで迫った雫。そんな彼女は二大女神たる所以を見せつけるが如く、とても美しく微笑んだ。…ただし目の奥は笑っていないが。
「南雲君? これ、どういう事か説明して貰えるかしら?」
取り敢えずハジメは一瞬で思考を巡らせる。やっぱ誤解されるよねとか、おのれヘリーナさんめとか、弁解してくれるはずのリリアーナさんが居ない!とか、八重樫さんマジオカンとか…
そう言った感情でごちゃ混ぜになりつつも、ハジメは取り敢えず一言。
「ちゃ、ちゃうんすよ! ちゃうんすよ、八重樫さん!」
動揺のあまり関西弁になりながら、ハジメはスピーディーに土下座を開始した。
非常に延長戦が予想される、誤解を解くが為の戦いの火蓋が切って下された。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「はぁ、はぁ、はぁ…」
胸が痛い。身体中が熱い。頬が、まるで私の言う事を聞いてくれない。
それ等は決して全力ダッシュしたが故の物ではないでしょう。むしろこの鼓動は、熱は、頬の緩みは走ってなお明瞭に感じてしまう。
何で? どうして? 何が起きている?
私の知らない未知の感覚に、脳がどうにかなってしまいそうで…
ただ、それ程の動揺だろうと、彼の姿が離れない。彼の声が脳裏に木霊する。
──そう言えば…僕召喚されて無かったら、こうしてリリアーナさんとも会えてませんね?
──なら僕、やっぱり召喚されて良かったです
「──────ッッッ!!!?」
そしてその声がまた私を狂わせる。私に熱を灯す。
恐らく、次もう一度彼に会ったならば、私は今までの様に冷静では居られない。こんな風に狂ってしまうでしょう。
でも…
「…彼の、南雲
そう思うのは、王家としての誇り故か、罪悪感故か。
それとも──
と言うわけでリリアーナさんが完オチ寸前まで辿り着きました。
…本来なら二章でここまで行くつもりだったんだけど…。
これも大体、ハジリリ推しのヘリオトロープって奴と天然タラシのクソ野郎の所為なんです。
リリアーナはヒロインの中でも特段チョロい子だと思ってます。
というか年齢的に子供で、かつ色々圧迫されてる人間なので、一定レベルまで優しくされるとコロッと行きそう。
ていうか行った。
だが安心してくれ! まだリリアーナさんは完オチしたわけじゃない!
あともう一段階残してるから!
二章で多分完成するからァ!!(アウト)
…キャラはもうちょい私の思う様に動いて欲しい。(ちょっとキレてる)
ーー追記
いつも誤字修正、及び感想感謝致します!
作者にとってそれらはエナジードリンクです!
あと評価もお待ちしております!
それでは!
この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?
-
ハジカオ!
-
オリジナル展開!
-
成り上がり要素!
-
考察要素!
-
曇らせ!
-
感想返し!
-
ダイレクトマーケティング!