…15!?
すげぇ…。
そんですんません、大遅刻です。
いや、本当最近休み多いですね私。
ごめん。
今回に関しては改訂前に予定して、改訂後は消したはずの話がまた出てきたので、思い出すのに一週間必要だったというのが理由になります。
…いや、ホントままなりませんよね、執筆活動って。
ガチですまねぇ!!
兎も角…それではどうぞ!
──君を傷付けたく無い
そう思ったから、私は君から離れた。
すごく寂しくて、悲しかった。
けれど約束してくれた。いつか私の所まで来てくれるって。
だから待とうと思った。君を助ける力を育てながら、ずっとずっと。
でもね。もし君が傷付いてるなら。ボロボロになってまで進もうとするなら。
私は、もう一度約束を破るよ。
だって私は──
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
意識が浮上する。
気怠い理性が、起きる時間だと瞼を持ち上げた。
それでも心地良い覚醒だった。ここ最近は悪夢を見てばかりだったから。
何処か思考もクリアで、それでもまだやらなきゃいけない事を思い出して目を開けた。
開けて一番に見えた物は、薄暗い天井。そして不均一に点在する緑色の光だった。
ハジメはそれに良く見覚えがある。それは日光でも、照明でも無い。【オルクス大迷宮】にて見られる鉱石の一つ、緑光石だ。
そこでハジメは気絶する前に【オルクス大迷宮】で特訓していた事を思い出す。同時に特訓途中で気絶してしまった事実を理解した。
ただそれ以上の記憶が思い出せない。何処で気絶したのか、何があったのか、まるで記憶が白紙になった様に。
そこでハジメは状況を理解しようと体を動かそうとして…身じろぎしか出来なかった。どうやら相当身体が酷使された後の様で、ピクリとも動かない。
今回は何をやったんだっけか? と過去の己にジト目を向けながら、五感に意識を飛ばす。一部の感覚は身体と同様、ロクに使えなかったが、
そして情報収集する五感の内、触覚がハジメに異変を訴えた。
場所は後頭部。そして違和感の内容は…ヤケに温もりがあるとの事。
「………ぅん?」
続いて嗅覚。訳が分からんが、花の様な香りがすると言う。
更に聴覚。誰かの呼吸音が己の近くで聞こえて来ると…
「………」
霞がかった記憶が、僅かに喚起する。死に掛けた自分を救った陰を。焦がれた陰を。
そこまで思い出してハジメは不意に思う。
視覚が呼吸音とは真逆を向く。その理由は上げればキリが無い。恥ずかしさやら動揺やら照れ臭さやらで、束の間の現実逃避を行う。
しかし無駄だ。
「あ、南雲くん! 起きたんだね!」
「………」
視線を逸らすなど無駄だと言っているかの様だ。覗き込む姿勢で、視界に入って来たのは他でも無い、白崎香織だ。
そして彼女の存在を認識したからこそ分かる。後頭部の温もりの正体が、触れる太腿の体温であるという事を。
俗に言う──
「取り敢えず精神汚染とか魔力回路は治癒したよ。後は神経とか傷口とかを治すだけだよ」
「…ハイ、アリガトウゴザイマス」
「ちなみに此処は65階層前の階段だよ。“聖絶”で一帯を覆ってるから、襲われても大丈夫だよ。ところで南雲くんの顔赤いよ? 大丈夫?」
「イエ、ナニモモンダイナイデス」
「?」
確かに周囲を見れば薄い純白の光が見える。これが光属性最上級魔法の一種に数えられる“聖絶”だとするならば、果たしてその維持に掛かる魔力量は如何程か。…ハジメにとっては、途方もない程の魔力量に違い無い。
遠くから魔物の雄叫びが聞こえるが、結界が軋む予兆は全く無い。香織自身も平然としており、この場はそう言った意味では安全である事が良く分かる。
だがそんな事はどうでも良い。問題は後頭部に収束している。めっちゃ危険だ。
実行犯である白崎香織氏は特に気にしてもいない様子だ。何せ元が猪突猛進よろしくの突撃娘。実行した事がよっぽどで無い限り後悔する事は無いし、後悔するにしてもかなり後というケースが殆どだ。
しかしハジメはそうでは無い。躊躇い無く危険地帯に突貫するイカレ野郎でこそあれど、割と恋愛感情や異性との距離感に関してはウブだ。優花との距離感やリリアーナとのダンス等は、友人関係というフィルターや持ち前の集中力故に気にする事は無かった。
だが相手が香織、ましてや寝起きドッキリに限りなく近い形での膝枕。
このままではあまりに恥ずかしいのでハジメは即刻、起きあがろうとした。しかし香織の言う通り神経が傷付いてるいるらしい。身体が本気で言う事を効かない。
「あ、もうちょっと待っててね。まずは傷口の方を治すから」
「…マジっすか?」
「うん! 本当だよ!」
「…そっかぁ」
しばらくこのままかぁ、と視線の先が遠くなるハジメ。
役得ではある。間違いなく役得だ。
しかしその遥か数十倍、恥ずかしいのだ。現役思春期男子たるハジメにとっては、蛇に睨まれた蛙にも劣らない。それ程の圧倒的プレッシャーが存在するのだ。
結果、緊張状態にあるハジメの頬を、香織の手がそっと触れた。純白の光子が目に映る事から、回復の一環だろうと分かる。それはそうとハジメの鼓動は高鳴るが。
バクバクと忙しない心臓。それを知らぬ香織は呟く様に、ハジメへと言葉を放った。
「それに…南雲くんは動ける様になったら、すぐにまた無理しそうだからね」
顔は見えない。身動きが取れないハジメの視界には、香織が覗き込んで来ない以上、大迷宮の天井しか映らない。
しかし分かる。声色から良く分かる。多分今香織はニッコリと笑っているだろうと。…目の奥を除いて。
「…白崎さん。もしかしなくても怒ってます?」
「ふふふ、答えなきゃ分からないかな?」
アッ、怒ってるなコレ。ハジメの思考は瞬時にそう、判断した。
恐らくは無理をしたが故だろう。香織の怒りの訳をそう判断したハジメは、その怒りを宥めに掛かる。
「一応もう大丈夫だよ。気絶する前に比べたら思考がクリアになったし、ある程度は慎重に行って、鍛えようと思ってるよ」
今のハジメの思考はクリアだ。迷宮では使命感のみに囚われていたが、今はしっかりと判断が付く。だからこそハジメは今の状態を問題無いと、そう断じた。
すると香織は何故か、笑みをより深めて一言。
「でも一人で戦うつもりでしょ?」
「ッ…そんなつもりは無いよ」
「嘘。それぐらい、すぐに分かるよ」
「………」
香織は見通していた。ハジメが未だに無茶を貫き通すつもりでいる事を。
そう、未だにハジメは『神前決闘』を一人で戦う気でいた。
耐えられないのだ。己の為に他人を巻き込む事が。
「南雲くんは優しいから。他人を巻き込むぐらいなら、一人で背負い込もうとする。
「違うよ。僕はそんな善人じゃ無い」
「
「…?」
香織が「善人でない」と断じるのは滅多に無い。彼女は基本的に他者を否定する言葉を積極的に使う事はしない。むしろ苦手まである。
故に彼女がそう断じたのは、紛れも無く凄まじい意志があっての事だ。
「だって…あの夜、言ったでしょ? 『私が南雲くんを守る』って」
「…それは」
それは紛れも無い、最初の約束。
まだ碌に力も覚悟も無かった頃のハジメが頼み、香織自身が放った言葉だ。
「あの約束は守れなかった。他ならない私自身が、南雲くんを傷つけていたから。…でもね、南雲くんを護りたいっていう意志自体を、私は一度も嘘だって思った事は無いよ」
かの約束は一度途切れた。香織という存在自体がハジメを傷つけていたから。一度離れるべきだと、香織は覚悟したのだ。
しかしもし、ハジメが独りで足掻きもがき苦しんでいるならば…香織は大人しく待っている
香織の願いは初めから同じ。ハジメの助けになりたい、そんな想いなのだから。
だから香織は此処に来た。此処にいると確信していたから。
「それに…寂しいよ。私も、きっとみんなも。あの日みたいに頼ってくれない事が、すごーく悲しい」
「………」
「私達みんな待ってるよ。南雲くんがもう一度、ああやって言ってくれるのを」
──守ってくれないかな
ハジメは煌めく月の下で、香織にそう言った。忘れる筈が無い。彼女との繋がりを。
それを思い出して、漸くハジメは気が付く。
きっと同じなのだ。ハジメが大切な人達に願う感情、大切な人達がハジメに向ける感情。そのどちらもが相手を思い遣る物なのだと。「無事で居て欲しい」と言う単純な願いなのだと。
思い出すのはかつての【ウル】での戦い。一人、命を投げ出そうとした清水に、ブチ切れた事を思い出す。
人の心を完全に知る事など出来ない。だが、もしかすれば優花も幸利も、皆が自身にそんな風に怒っているのかもしれない。あの日のハジメと同じ様に。目の前の香織と同じ様に。
きっと迷惑とも何とも、彼等は思わないだろう。
何故ならば彼等彼女等自身が、
やらねばならない事など無かったのだ、最初から。ハジメが勝手にそう思っただけ。
「…馬鹿だな、僕は」
そうして
罪とか罰とかそんな事はどうだって良いのだ。
──パリンッ!
“聖絶”が砕け散る音が聞こえた。
互いの声しか聞こえなかった静謐。それがたちまち入れ替わる様に破砕の轟音が続く。
その轟音は下の階層からだ。ナニか、は見るまでも無い。
「! まだ生きてたの!?」
強大な四肢で階段を崩しながら猛進し、迫る。灼熱を宿す突角の何と雄々しい事か。その身を覆う鋼の如き表皮も
迷宮から賜りしその名はベヒモス。香織が倒した筈の個体は尚も健在であった。
本来ならば迷宮の魔物は同じ階層に留まり続ける。それはあくまでも彼等を創り出した迷宮の目的が、挑戦者への試練にあるからこそ。加えて言うならば…迷宮の魔物には思考能力が基本的に無く、自我が薄い事も挙げられるだろう。
しかし【聖女】白崎香織の一撃に加え、
──コロスッ
それは魂の喝采。
──コロスッ!!
あるいは祝福。
──コロスッッ!!!
その名は殺意。
迷宮の理から、支配から外れたベヒモス。ソレはもう止まらない。漲る力を脚へ注ぎ込み、己をここまで追い詰めた敵。香織を目指す。
狙われる香織は、ただ見つめる。ベヒモスでは無く、目の前の少年を。
傷は塞がった。神経や魔力回路も十分に癒えた。だが精神はもうズタボロ、の筈だった。
「…行っちゃうの?」
「うん」
少年は立ち上がる。力強く。他ならぬ己の為に。
「そっかぁ…南雲くんてば、仕方ないなぁ」
「大丈夫、目は醒めた。一人で立つなんて事、もう言わないよ。ただ…ここは譲れないってだけで」
そうだ、譲れない。この
「むぅ…意地悪だよ」
「でも、納得してくれるでしょ?」
「…仕方ないなぁ」
だってそうだろう。南雲ハジメの原動力はいつもそれだ。
「それじゃあ、勝ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
責任感や使命感、他にも様々な物に囚われていたが、結局の所南雲ハジメの核はそんな物では無い。
──
ならばもう南雲ハジメは止まらない。ベヒモスと同様、ただ敵へと駆ける。
疾走。“魔錬・武装”により強化された脚が、ハジメを加速させる。間隔ごとに埋められた緑鉱石が、ハジメの影を映しては消えた。
「──“錬成”!!」
超短文詠唱。【錬成師】の権能が階段の壁を変形し、身の丈をも超える極厚の大剣へと成る。剣どころか、もはや鈍器とすら形容しかねる鉄塊。それをハジメは両手で捉え、上段に握る。
その様な質量武器を持ちつつも衰えぬ疾走。境地にて目覚めた“魔錬・武装”の力は、此処に来て一番の効果を発揮した。
『グゥオオオオオオオオオオオオオ!!!!』
そして合間見える少年と怪物。怪物は、迫る
しかし──
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
『グォッッ!!?』
それを優に超える少年の咆哮。
疾走の勢いと武器の重量に任せた振り下ろし。技としてはあまりにも不細工で、しかし敵を確かに捉えた。
階段にて轟くは破砕音。果たしてそれは粉々となった大剣か、ひび割れるベヒモスの表皮か。或いは超重量のぶつかり合いに耐えきれなかった階層の悲鳴か。
兎も角も迷宮が揺れる。衝撃波が礫を粉砕する。一人と一体が生み出したとは思えぬ光景が繰り広げられる。
本来ならばぶつかり合いなどハジメに勝ち目はない筈。しかし階段という不安定な地形と、ハジメが位置的に上を取った事。それらが上手く起因した結果だ。
あいあって一合目。ベヒモスか踏み締める階段が砕け散り、下の階層へと再び戻って行く。
死んでは居ない。ただただ下の階層に落下しただけだ。時間が経てばかの怪物は再び戻って来るだろう。
当然逃げる事は出来る。自由意志を得たベヒモスも、何処までも追って来る事はないだろう。あの巨体だ。全力で逃げれば撒ける。
だからハジメは…ベヒモスと同じ様に下り落ちる。
宙を舞う瓦礫等を蹴って、無事かつての石橋に着地する。階段の崩壊により、階層に雪崩れる砂塵。しかしその中でも尚、紅蓮に燃ゆる突角が褪せる事は無い。
かの怪物は尚も健在。ハジメ史上最強の一撃でもなお、ベヒモスは平然としていた。
その様子に少し
それは決して気が触れた故の物では無い。ましてや戦いに喜びを見出した訳でも無い。
あの日、恐怖した怪物はやはり強いのだと、そう再認識し直した。ただそれだけだ。
「
ベヒモスはハジメを見下ろす。かの怪物にもはや慢心は無い。己とぶつかり合い、地形も関与したとはいえ押し負かしたハジメ。自我を形成したベヒモスはハジメを凡百の『挑戦者』としてでは無く、『敵』として認定した。
吹き荒れる殺意。しかしハジメは変わらず、その言葉を発した。
「僕の糧となれ」
この程度、乗り越えてやる。
ハジメは“錬成”で新たな直立剣を用意しつつ、見据えた。
──半年の刻を経て、65階層の試練が…再び始まる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「…
見下ろす陰は一つ。
黒鉄を纏ったナニカが、試練の行く末を見詰める。
「さあ、見せてくれ。新たな可能性を」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「だぁああああああ!!! 64階層、突破ァ!!」
『ピィイイ!!』
『グゥオウ!』
「やったわよ、
「おお、やったぞ!
「…仲良いわね、二人とも」
「此奴らなりのコミュニケーションだ。気にするな。お前達も早く行くぞ」
「「「了解です!」」」
『ピィ!』
『グルルゥ!』
一方、階層を繋ぐ階段前。そこでは四人と二匹による臨時パーティーが騒ぎ立てていた。
アホとチンピラは互いの右腕を組み、喜びを分かち合う。白鳩と魔獣が二人に合わせて騒ぎ立てれば、それを特異そうに見るのは髪をポニーテールで束ねた少女。慣れた様にスルーするのは壮年の騎士だ。
彼等は単純に言うならばハジメ+香織捜索隊だ。ハジメだけならばメルドがわざわざ出向くなど許されないが、香織が追いかけたとなれば話は別。あっさりと此方に向かう事ができた。
その分、国にとって重要な【聖女】がどっかに行ったと言う事実は何枚も書類が必要に成る程ヤバい話なのだが…。
メルドはこれから書くことになるであろう書類の束を思い返して、白目を向いた。基本書類関連に関しては不真面目なメルド。人格者である事は間違い無いが、その辺りは話が別である。
まあ、捜索隊と言っても別に二人を心配しているわけではない。一応心配してはいるが、精々全体の感情一割以下程度。あの二人なら、意地でも生きているだろうという信頼が、彼等にはあった。
では何故ここまで来ているのか、それは単純に言うならば…
「まあ、今はアンタに構ってても仕方ないわ。あのバカ雲に一発かますのが私の使命よ」
「そうだな。俺も取り敢えずあの安本丹にボディーブローを一発入れるつもりだ」
「…まあ、そうね。今回ばかりは南雲君に非があるわね」
「ああ。…俺も一喝してやらねば気が済まん」
香織が言った様に彼等は待っていたのだ、ずっと。ハジメが自分達に信頼を預ける、その瞬間を。
それを何だ。自分一人で抱え込むわ。手紙を置いて、勝手に何処かに消えるわ。挙句の果て、自分達に待っていろなどと言って来た。
当時、これによって怒髪天にまで至ったのはバカトリオの幸利と優花だ。
『
『…遂に筋肉バス○ーをお披露目する日が来た様ね』
…あの時の二人はヤバかった。多少セリフがふざけている気がしなくも無いが、ガチで二人はキレていた。
ただまあ、二人ほどでは無いが雫もメルドもムカついていた。当然、リリアーナも頬を膨らませていたし、ウォルペンも珍しく煙草を吹かす程度にはムカついていた。
そんな訳で「文句を言いに行くから、ついでに助けに行こうぜ」というのが、このパーティーである。助ける事がついで扱いされているのは如何な物かと思わなくも無いが、その辺りはハジメの生存力を信頼しての話である。
「にしても…えらいボロボロだな、階段」
「つい前来た時はこんな事にはなって無かったわよ…何かあったのかしら」
「まあ…十中八九アイツが原因でしょ」
「だろうな」
「否定出来んな」
「待って、香織の可能性も否めないわ」
「八重樫さん、思ったより親友信頼してねーのな?」
「お前さんが言うか? 幸利」
64階層から65階層へと続く階段は、もはや見る影も無い。まるで災害の一つや二つが此処を通ったかの様だ。
普通ならば何があったのかと驚く所だろうが…此処にいる者は全員屈指のトラブルメイカーとの関係者達。この光景を見た瞬間に「ああ、またか」と何処か納得した様に頷いた猛者である。
とは言え、この破壊痕は見たところ出来て間も無い。そして下からビリビリと振動が足を伝って感じ取れる。そこから下に彼等がいると確信出来た。
ならばチンタラしている暇は無いと、全員が全速力で駆ける。唯一体力が無い幸利はポチの背に乗り、下へと下る。
そうして65階層の入り口へと辿り着いた面々。その入り口で彼等は捜索対象の一人を見つけた。
「香織!」
「? 雫ちゃん、何でここにいるの?」
「二人を心配したに決まってるでしょう、まったく…それで南雲君は──」
親友を見つけ、取り敢えず一安心した様子の雫。しかし香織が見詰める先を追い、そして息が詰まった。
他の三人も同様だ。魔力光が、音が嫌が応にも視線を其方に導く。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
『グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
雄叫びが、轟いていた。
片や怪物。堅牢な表皮に身を固め、巨躯にて圧倒する紛う事なきモンスター。
片や少年。あまりに頼りない一対の双剣。されどその覇気は衰える事が無い。
絵面だけを見れば一方的な戦いに見えるだろう。ベヒモスの連撃に、ハジメは避ける事ばかりを選択させられている。人が見れば、臆病だと判断しても仕方がないだろう。
しかしハジメは避けはするが、逃げる事はしない。張り付く様にベヒモスの側に留まり続けている。また隙があると見るや、ハジメはその度に風をも斬る連撃を叩き込んでいる。
体格差はあれど、これは紛う事なき近距離戦。一瞬の油断が命取りになる、正しく死闘である。
『ググッ、グガァアアアア!!!』
「──ッ!!」
「! あのベヒモス!」
「ああ…間違いない。
するとベヒモスが脚による連撃を、肉薄するハジメに放った。ただ乱雑な物ではない。橋の縁へと追い詰める、その思考あっての攻撃であった。
ベヒモスが獲得した自我は決して『知性』と呼べる程、高尚な物ではない。ただの人形から獣になった、それだけの話だ。
しかし産まれた自我は、ベヒモス自身に新たな成長を促した。どうすればより敵を確実に殺せるか、それをベヒモスは思考せずとも、学習しようとしていた。
迷宮の魔物は基本的に行動サイクルが決まっている。それは当然、
だからこそ、もうこのベヒモスは明らかに常識から隔絶していた。紛う事なき『敵』を潰す為、一秒一瞬で進化し続けている。迷宮産故の強力なスペックに加わり、『怪物』の名に恥じぬ程となっている。
だがあえて言うならば…それは少年も同じ事だ。
「グッ! オッ! ラァ!!」
瞬時に生み出される、槍に斧。そして元から持っている両刃剣。これ等を持って、ハジメは右前足の関節に三度に渡る連続攻撃を放った。
通常部ならばベヒモスの表皮は分厚く硬い鎧の様になっている。しかし…可動域たる関節部分に関してはそうもいかない。
事実、即席の武器は砕ける事なくベヒモスの表皮を突き破った。ズブリッと関節部分を穿っていた。
「「「入った!!」」」
舞う鮮血。されどベヒモスはそれでも尚止まらない。
ダメージがあるはずだと言うのに、右前足でハジメを蹴ろうと体を振り回す。巨体故の凄まじいまでの遠心力がつい先程までハジメがいた箇所を抉り潰した。
刻まれている筈だ。だというのに、強大な魔物は尚も力を増長させている。
まるで見えぬ終わり。されどハジメもまた全身全霊で答える。秒速で繰り広げられるヒット&アウェイにより、ベヒモスの巨体を翻弄する。
正しく互いに手詰まりだった。ベヒモスは素早いハジメを捉えられず、必殺の一撃を当てられない。一方でハジメはベヒモスの防御を潜り抜ける攻撃力がまるで無い。
通常で考えるならば、ベヒモスが俄然有利だろう。ハジメは素早くはあるが、防御力が高いわけでは無い。それはつまり、一撃を喰らえばほぼ必死である…と言う事だ。つまり意識を一瞬でも切って仕舞えば、そこで終わりなのだ。
だが…この戦いはどうしようも無く平等に命を掛け合っていた。
ハジメは逃げようとしないし、ベヒモスも持久戦に持ち込もうとしない。互いが互いの土俵に上がり込み、その上で決戦をつけようとしている。
別に示し合わせた訳でも無い。単純に互いを認め合ったから…なんて言う事もない。ただ単純に、そうして勝たなければ意味が無い。一人と一匹はそんな意志を共有し合っていた。
火花が散る。石橋が何度も軋み、血の粒が斑点を事あるごとに描かれた。
剛腕が少年の髪を掠める。迫る致死を寸前で躱した。
再び造られる棍棒の質量武器。ベヒモスは物ともせず受け切った。
灼熱の角が服を焦がす。その箇所をナイフで切り取り、火傷を防ぐ。
詠唱が始まる。それを塞ぐのは息つく間も無い怒涛の連撃だ。
それは正しく死闘。単なる殺し合いでは無く、雄と雄の
だからか。その階層にいる者、全てがその戦いを邪魔する事なく見守った。この戦いに手を貸すのはあまりにも野暮な事だと、その場の全員が断じた。
果たしてどれだけの時間が掛かっただろうか。決着の時は訪れる。
やがてベヒモスがその巨体の横を使い、タックルを行う。
ハジメは避けようとしたが、生憎迫る面積があまりにも広い。それ故にハジメは回避の代わりに、迫るベヒモスをそのまま蹴った。
結果、ハジメもベヒモスも両者共に吹き飛ぶ。体重差故にその距離に差はあれど、互いにダメージはほぼ無い。
そうして二者間に最初以来の十分な距離が完成する。
ベヒモスは四肢を踏み締める。ベヒモスの必殺はやはり十分に加速しての突進だ。本来ならばたかが人間一人の為には行われない、対多人数用の必殺。しかし確かに認めた『敵』を己最凶の技で沈めんとベヒモスは判断した。
それに対しハジメは改めて“錬成”を行う。そして創られたのは、ハジメの身の丈を遥かに超える戦鎚だ。それ等を片手に握り、ハジメは“魔錬”による魔力循環をより活性化させる。外部まで漏れる『蒼』の魔力光は、【ウル】での槍投げを彷彿とさせた。
『………』
「………」
静謐が、世界を満たす。
見る者も誰も、戦いの最後を固唾を呑んで見守っている。
少年と怪物の思考が溶け合う。混ざり合う。惹かれ合う。
最早言葉すら要らない。
両者は共に、同じ時にその場を蹴り加速を開始した。
『ゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
「ぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
加速。互いに敵よりも加速せんと地面を蹴り、やがてすぐにゼロ距離へと至る。
ハジメは戦鎚でベヒモスを叩き潰そうとする、がそれをするにはあまりにも接近し過ぎていた。予想を遥かに超えるベヒモスの加速。それに気付いた時には、ベヒモスは眼前に迫っていた。
「────ッッ!!」
そこでハジメは戦鎚を放棄。かわりに己の体を回転させ、ベヒモスに
脚に確かに伝わる衝撃。凄まじいGを体感しつつも、全神経を集中させてハジメはベヒモスを蹴った。
ベヒモスがハジメに与えた衝撃に加え、蹴りの威力。ハジメは文字通り吹き飛び、65階層最奥の壁に着地する。
ビキッと嫌な音を立てる脚。しかしその痛みをも勝利を求める熱に変えて、ハジメは大槍を“錬成”した。
ベヒモスは尚も加速し、ハジメに迫っている。この壁を蹴り、加速しても最早ベヒモスの速度には勝てない。事実、ベヒモスはあと数十メートルの距離を、瞬きの間で数メートルにまで埋めていた。
だからこそハジメが選んだのは迎撃。
槍で迫るベヒモスの弱点を一瞬で突く。豪速で迫る敵に対しては、あまりにも無謀。正直に言って撃ち合いの方が勝ち目はまだしも、勢いを相殺できる分、生存率は高い。
だがハジメは敢えて其方を選ぶ。そうでもしなければ、辿り着くことなどできないと、そう思ったから。
そして残り1mにまでベヒモスは迫り──そしてハジメの槍は蒼く閃く。
入れ替わる様にハジメに突き出されるのはベヒモスの灼熱の突角。それが今正に心臓を貫かんとしていた。
蒼と赫の交差。時間にしてコンマ数秒。
あまりにも一瞬の戦い。その中でハジメは見る。
──灼熱の角が自身の左胸に突き刺さるその瞬間を。
──そして放たれた槍がベヒモスの目を貫き、そしてその奥のナニカを砕く、その瞬間を。
ハジメの呼吸に熱と血が混じる中、心臓に至ろうとしといた角はボロボロと崩れて行く。
同時にベヒモスの体も灰色になり、やがて瓦解した。
その中央から溢れた魔石は、見事なまでに粉々となり風に乗って散って行く。
「………勝っ、た?」
刹那のズレで負けていたこの戦い。天運すらも左右するであろう、結末。
しかしそれ故に、実感する。自身の勝利を。
「…やっ、た」
ここで再び意識は途切れる。
最後に見えた物は駆け出して来る仲間達と、己の目の前に転がる小さな
やー、何とか書き切りました、ベヒモス戦。
原作だと「突進しか能が無い雑魚」ってアフターでハジメ様が言ってますけど、この段階だと普通に強いよなぁってのが感想です。
やはり質量と大きさ。
質量と大きさは全てを解決する!(案外巨体信者)
そんで香織さんもハジメ君を解放してくれました。
やー、良かった。
次回辺りで『神前決闘』の前哨戦は終わりです。
そっからはガチンコバトルです。
…作者は疲れました。
所で黒鉄のナニカはオリキャラかって?
…いや、原作キャラです。
ちょっと私独自の改変を織り交ぜた、ね。
そもそも私はメインキャラにオリキャラは混ぜないタイプなので。
…ですけど、このキャラが一体誰か挙げられた人が居たら作者は軽めに戦慄します。
ーー追記
七海55様
仮面幻夢様
たかたかた様
ロロポン様
狂気の白ウサギ様
カルシウム殿下様
評価誠に感謝します!
及びポンコツ作者を支える誤字修正プロの方。
加えて喋りたがり中毒の作者に付き合ってくれる皆様。
敬礼!
これらは間違いなく私のエネルギーです。
前回なんて感想20だぜ、やる気上がるってもんよ。(なお投稿速度)
あ、あとアンケート撮ります。
この作品、何が目的で読んでますかってのです。
この話投稿したすぐに貼るので、もし良かったらアンケート参加してね。
よろしこです!
そんじゃ、またねー!!
この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?
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ハジカオ!
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オリジナル展開!
-
成り上がり要素!
-
考察要素!
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曇らせ!
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感想返し!
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ダイレクトマーケティング!