恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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9月11日、日刊17位です。
誠に感謝!

そしてハジカオ読者の皆様!
当然ご存知かと思われますが、ハーメルンでハジカオSS神として有名なふうすけ様とGREEN GREENS様がTwitterを始めましたよ〜!
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ちなみに私はTwitterやってるし、開示してるけど使い方がまるで分からない原人です。
更新通知と好きな絵いいねしかしてない…(汗)
なんかしたほうがいい?(純粋な疑問)

あと先週ので設定にミスがあったので、ここで一つ言わせて下さい。
黒鉄『二代目』× → 『三代目』○
ティア『三代目』× →『四代目』○
です。
「いや、なんここっちゃ?」と言われれば別に良いです。
考察勢はゴメンね!

今後はちゃんと考えて投稿します。
取り敢えずどうぞ!


28、誰かが意志の下、暴れ狂え

「フハハハハハハハハハハ!!!」

 

 この世界(トータス)の何処か。或いはその果て。

 

 誰も居ないその場所で、その者は呵呵大笑の声を上げた。大胆に、無邪気に。そして何処までも残酷に。

 

 世界を見渡す瞳の先に映るのは、その者にとってはあまりに矮小な戦い。当然だ。自分はこの世界の頂点に降り立つ者。全ては些事。もしくは茶番だ。

 

 だからこそその者は結果では無く過程を求める。如何に可笑しく、唆られるか。世界をも遊戯と語り、気分が乗れば手を出してみる。そしてお気に入りの駒をへし折り、腹の底から歓喜に満ちるのだ。

 

 その点、この茶番はその者にとっては珍しい類であった。何せこの茶番に己は()()()()()()()()()。だと言うのにこの戦いは招かれた。

 

「あの女、やはり面白いなぁ。ここまで我を利用しようとする駒は初めてだ。不遜であるが…それ故に愛おしい」

 

 その者は、『神』は嗤う。

 

 もはや熱に浮かされる事も無い。本物の感情とやらも久しく忘れた。

 

 されど己を満たす物が『盤面』にある事だけは覚えている。

 

「さあ、偽りの聖戦よ。せいぜい我を興じさせるが良い」

 

『盤面』の外側。唯一の玉座にて、『神』は見下ろす。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 ──ギィインッッ!!

 

 火花が散った。

 

 続け様に鋭い軌道を描き、飛ぶナイフの数々。それぞれには人をいとも容易く貫くであろうと予想出来るほどの破壊力が込められていた。

 

 ナイフの軌道はあまりにも特異だ。同一方向・同時に投擲されたにも関わらず、敵に対し前方、後方、真上の三方向からの時間差攻撃。少なくとも回避という手段は難しい。

 

 だが敢えて言うならば、それ等の工夫は彼女の前ではまるで無意味であった。

 

 その答えをつい先程とほぼ同じ結果を映す光景が、優花に教えてくれた。

 

 それぞれのナイフは空中にて何か硬い物に衝突したかの様に静止、そして速度を零として床へと自由落下。標的である鈴は顔を一変たりともしない。

 

「巨人の吐息は、痛く重く、砂礫を渦巻き、叱咤打つ──“飛砂(ひさ)”」

 

 鈴が詠唱を完結させると周囲の砂が急激に巻き上がった。

 

 直撃こそは回避したが、何せ量が量。砂礫の一部が優花を削り、幾つもの赤い線を肌に描いた。

 

「──甘いのよ!」

 

 だが刹那も臆する事は無い。むしろ攻撃を行なっている今が好機とばかりに、優花は全力でナイフをスローイング。つい先よりも格段に速い一撃が鈴へと迫る。

 

 避ける暇は無い。優花の一撃は展開されている障壁を砕いた。そしてナイフは尚も止まらず。

 

 ────ギィィンッッ!!

 

()()()()()()()()()()

 

 ナイフを止めたのは鈴を覆う()()()()結界。ナイフは繰り返し見た様に地面へとただ落下した。

 

 鈴本人への損傷(ダメージ)は皆無。ならばと優花は追撃を行おうと接近し蹴りを放つが、それよりも前に鈴の詠唱が開始される。

 

「騎士よ、大楯を持て、不動となりて、命果つるまで、守護を担え──“玉盾(ぎょくじゅん)”」

「──ッ!」

 

 橙色の魔力光が鈴を覆ったかと思うと、その光は凝固を開始する。そして修復された『第一の結界』。それが優花の追撃を完全に阻んだ。

 

 光属性中級防御魔法“玉盾”は魔法によって展開される障壁の中で、もっとも近接職に向かず、魔法職に最適であるとされる魔法だ。その理由はこの魔法が空間固定の持続性障壁であるためとされている。

 

 一般的に障壁は発動者の意に従い、移動させることが出来る。代わりに発動中、魔力を流し込む事が必要になるが近接職など移動する者達のサポートとしては最適解となり易いのもまた事実だ。しかしこの“玉盾”はそもそも移動する事がない。代わりに魔力供給は発動時のみであり、その与えた魔力がある限り障壁は持続する。

 

 移動を要する近接職にとっては却って邪魔となり易いこの魔法。しかし移動を無用と断ずる事ができる魔法職にとっては並列で他魔法の発動を行い易い、便利な盾となる。

 

 加えてその下に巡らされている『第二の結界』の正体は障壁自動展開アーティファクト、『ゼーゲン』。このアーティファクトは通常とは異なり、装備者がいる場合に限り周囲から魔力を吸収し、それを糧に障壁を展開する。

 

 これにより鈴は常に障壁を二枚拵えた状態での戦闘が可能。正しく鉄壁と言える防御特化。これを砕かねば優花の一撃は鈴に届く事は無いだろう。

 

 障壁が貼り直された事により、蹴りを放つ位置がズレた優花。それにより地面に降りる際、多少ながら姿勢を崩す結果となる。

 

「火よ風よ、慈悲は要らぬ、荒々しく獰猛に、迫り来る咎人を、焼き返せ──“衝壁”」

 

 それを隙と断じたのか。鈴は攻性の障壁魔法を展開する。爆風の障壁が優花の目の前で展開された。炎の盾はそのまま爆風により加速。優花ごと轢き殺そうと、地の草木を焼き焦がし、地面に刺さっていたナイフを吹き飛ばして行く。

 

 対人戦において一番凶悪とされる属性は火属性だ。何せ手軽に敵を行動不能とし易い。水・風・土はあくまでも敵に物理的な傷しか与えられない。闇属性は直接的な攻撃とは成り得ず、光属性も後遺症は残り辛い。

 

 だが火は初級魔法ですら、当たらずとも致命傷となり得る。周囲へと放たれる熱波が、生物を構成するタンパク質を焦がすからだ。この世界の住人は体内魔力による火への耐性や治癒魔法により重症となる事は少ないが、それでも凄惨たる光景を生み出し得る魔法属性なのだ。

 

 それ故に火属性魔法は対魔物・対異種族が基本とされており、一般的な手合わせでは基本的にタブーとされている。闘技場におけるデスマッチならばまだしも、学園などでは習いはするものの対人戦では無用の品となり易い。

 

 だからこそ鈴がこの魔法を発動した事実は、優花を確実に倒すという意志を過剰なまでに感じさせた。

 

 喰らえば一溜まりも無い一撃。優花は横に体を倒す形で回避する。熱波が優花の肌を炙ったが、中距離職故の魔耐の高さがダメージを軽減してくれた。

 

「うん、そうだよね、()()。ちょっと焦っちゃったね? 落ち着いて()()()()()…」

(? …まあ良いわ、取り敢えず()()()()()

 

 鈴がブツブツと何かを呟く。明らかに正気では無い言葉の数々を疑問に思いつつ、優花は手元のナイフ一本に魔力を流す。すると地面に転がっていたナイフが急に動き出し、優花の手元へと一目散に帰って行った。

 

 このナイフは十二本で一式の国宝アーティファクト。『使徒』として戦う定めを背負った際に王国から下賜された物で、名を『群鳥(むらとり)』と言う。投擲の飛距離を伸ばす効果に加え、仕込まれた感応石により流された魔力に反応し、使用者の手元に返ってくると言う効果を持つ。正しく【投擲師】である優花にあつらえ向きの性能をしていた。

 

 その能力故に使用者の手元に一本でも有れば、全てを手間を取らず回収できるという地味であるが役立つ能力は時に不意打ちなどに用いる事が出来る。

 

 だがこのアーティファクト、威力強化などの様な直接戦闘と関わる補助は存在しない。その為、数多くある国宝アーティファクトの中でも、下位に類するアーティファクトとなっている。

 

「ここに衝撃を望む──“石球”!」

「呑み込め、母なる大地よ──“地浪”」

「遥か高く、蒼穹より落つるは、礫の涙──“落礫”!」

「ッ──厄介、ねっ!」

 

 そうして次の攻撃準備を行う優花だが、その前に鈴が魔法を矢継ぎ早に発動する。

 

 あまりに早い連射。優花は巧みに身体を動かし、合間を避けて行くが何せ数が数。次々と優花の肌を掠め、数え切れないほどの傷を作り出して行く。

 

 そしてそこで…漸く優花は気が付く。

 

 己が走り駆けたであろう道。それを示す様に赤い斑点が、地面を彩っている事を。

 

(傷が──!?)

 

 “飛砂”が作り出した傷の数々。それだけでは無い。つい先の連射で出来た傷も。その全てが一切止まる気配が無い事に気が付いた。

 

 これまで戦闘中という状況により、一種の興奮状態へと陥っていた優花。それ故に己の傷の状態確認が明らかに遅れてしまっていた。

 

 ──ちょっと焦っちゃったね?

 

 ──落ち着いて削らなきゃ

 

 鈴が先程、呟いていた言葉を思い出す。成る程、鈴の戦闘スタイルはどうやら持久戦を主軸とするらしい。

 

 恐らくこの傷の状態もアーティファクトによる物だろうと結論付けた。よく見れば鈴が手に持つ鉄扇はいつもの装備と種類が違う。そこから見ても、その予想は大きくは外れていないだろうと考えられる。

 

 実際鈴が手に持つアーティファクトは、教会から与えられた物だ。名を『黒扇(こくおう)』、土属性魔法の攻撃に『不治』の状態異常(デバフ)を付与する。

 

『不治』の状態異常は文字通り、傷の回復を阻害する能力を持つ。状態異常の中でも軽い部類で、回復は容易。初級治癒魔法であっても解除する事が出来る。

 

(そうなって来ると目的は私の失血狙いか。こっちの攻撃は障壁で通じないし、アッチは結界内で魔法を打ちまくる。初級魔法ばっかだけど、その代わりコスパがいい物ばっかり選んで魔力を切らさない様にしてるっぽいわね。しかも私は()()()()二人と違って、尖った武器が無い。二枚の障壁を一発や二発で倒すのはまず無理。…回復魔法は効くかもしれないけれど、その隙を見せれば鈴の攻撃でやられる。その為には避けながら倒すのが無難。けどその時間もまず無い)

 

 全くもって不利だ。優花がアーティファクト一つで戦っているのに対し、相手は念話石を含め三つ。しかもそのどれもが破格の性能と来た。

 

(どうする? どうする? どうやって()()()()()()()()()()()()?)

 

 園部優花は思考を巡らせる。己が描く一手に如何にして近付けるのか、その道筋を頭の中で描いて行き──その前に鈴が鉄扇を振るった。

 

「──“岩杭(がんこう)”」

 

 土属性中級魔法、“岩杭”。瞬間、鈴から一定範囲内の地面が波打つ。

 

 当然、それだけの効果の魔法がある筈もない。優花はすぐに鈴の有効範囲(テリトリー)から逃れようとする。

 

 だが…遅い。踏み出した足の甲から土の針が見えた時点で、優花はその事実を理解した。

 

 ──ドドドッッ!!!

 

 突き刺す、貫く、穿ちて、突き破る。

 

 手、脚、腹、肩…急所では無いものの、行動を制限する箇所を的確に、大地は串刺しにして行った。

 

「…ごめんね、優花ちゃん。鈴にはね、負けられない理由があるから」

 

 やがて大地の槍は砕け散る。優花を支える物はもはや何も無い。物言わなくなった優花は、夥しいまでの血を溢しながら、ただ地面へと崩れ落ちた。

 

「すぐに…終わらせるから、そこで待っててね」

 

 空からカウントダウンの声が聞こえる中、鈴は優花に背を向ける。

 

 曇った瞳は、もう前だけを見ていた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

(やっぱアイツ、ヤベェな…)

 

 幸利は森の中、木の上を移りながら眼下に広がる光景を見ていた。そこには──

 

「ぁあ゛──!! クソがっ! 邪魔してんじゃねぇぞ!」

 

 ──暴風を彷彿とさせる刃が、幾重にも閃いていた。

 

 幸利が洗脳した鳥が、虫が、動物が。数の利など関係無いと言わんばかりに鏖殺されて行く。槍にこびり付いた血肉を払い、檜山は幸利に吠えた。

 

「清水! テメェ、雑魚が雑魚を並べても、雑魚には変わりねぇってのが分かんねぇのか!?」

「あれっ? すまん。俺の“言語理解”がバグったらしい。もう一回言ってくれ」

「ほざけぇ!!」

 

 突進。ただひたすら突進。

 

 幾度も無く繰り返される同じ行為に、幸利は正直()()()()()

 

(うーん。思ったよりも単調だな、コイツ。ちょいちょい傷ついてんのに気に掛ける様子もねぇ。【軽戦士】ってもうちょいテクニカルなイメージあったけど、コイツはどっちかっていうと【狂戦士(バーサーカー)】だよなぁ)

 

 と、思いながら幸利は闇属性魔法によるデバフを更に重ね掛けする。

 

 するとガクリッとバランスを崩す檜山。その瞬間を周囲の動物等は逃さない。嘴が、爪が、牙が、針が檜山を攻め立てる。

 

「ッ──! 邪魔つってんだろ!!」

 

 すぐに平衡感覚を取り戻し、槍を振り回して悉くを吹き飛ばす檜山。しかし今の彼には余裕があまりあるとは思えなかった。

 

 闇属性魔法は敵の魔法に対する耐性、即ち『魔耐』の値によって勝負が大きく分かれるとされている。

 

 そして檜山の『魔耐』の値はかなり高い。少なくとも、並の闇魔法師では何の干渉も出来ないのでは無いかと思う程に。だからこそ檜山も幸利に対して愚直に突貫したのだろう。

 

 要は油断だ。やっぱり舐められてるか、と思いつつも幸利はその油断を嘲笑う。

 

 幸利の闇魔法の腕は他に比べ隔絶している。洗脳する為に闇魔法を研究していた経歴もあり、闇魔法を『魔耐』の値をある程度無視して干渉する事が可能となっている。

 

 流石に人間相手に洗脳までは出来ない。しかし一瞬の意識の余白を作る程度ならば出来る。

 

 同時に森から片っ端集めた動物を特攻させて、チビチビ削ると言うわけだ。

 

 決定打はそこ等の動物に“縛解”を掛けて、突貫させれば十分だろう。そして身動きを取れなくすれば、テンカウント程度容易だ。

 

(まあ後はアーティファクトを要注意だな。序盤は俺を舐めてただろうから使わなかったんだろうが…ここまで追い込まれちゃ流石に使うだろ。それを警戒しなくちゃな。取り敢えず()()()()()()()()()()()()()()()()とするかね?)

 

 幸利に油断は無い。失敗の数々は【ウル】で学んだ。だからこそ慎重に、現在考えられる手を可能な限り予想し、それを潰して行く。

 

 だから…それは決して油断では無かった。

 

 檜山という人物像を見ても、性能を見ても。檜山がその手段を持ち得るなど、まず有り得なかった。

 

 その()()を、檜山は告げる。

 

 

 

 

「戦起こりし心音に安寧を──“夕凪(ゆうなぎ)”」

 

 

 

 

 ──は?

 

 檜山が唱えたのは()()()初級魔法、“夕凪”。効果は簡易(シンプル)、対象者の精神状態を安定させるという物だ。ただそれだけ。敢えて言うならばこの世界の精神科医の必須魔法、と言う程度。後は戦時中は兵士の士気を下げない為、用いられる事があると言う程度だ。

 

 少なくとも接近職の兵士が覚えるという事例は少ない。【闇魔法師】に任せれば良いという風潮が強い為だ。

 

 檜山はその典型例であり、攻撃系統ばかりにしか目が行っていない。幸利はそう檜山を評価していた。苛立ちを力に変え、暴れ回る様な奴だと思っていた。

 

 だからこそ溜まっていた苛立ちごと、檜山自身の精神を整理(リセット)し直すなど…まるで予想出来なかった。

 

 闇魔法は六大魔法属性の中でも最弱とされている。その理由は先程も上げたように『魔耐』の値にお祈りしなければならない相性がある事ともう一つ。掛けられたとしても対処が容易いという点にこそある。

 

 例えば光属性の結界。これの中にいるだけで、闇魔法は十分に防ぐ事が出来る。幸利が鈴との対決を避けたのはそれが理由だ。単純に相性が悪かった。

 

 他にも“治癒魔法”による精神回復、精神(メンタル)の強さで弾き返す、呪詛返し…など多くの手が闇魔法の対処としては存在する。幸利もそれ等に関してはある程度想定してもいた。

 

 だが今回の檜山の対処方法はかなり無理矢理だった。単純に言うならば檜山は自身の精神を()()()()()()()()上塗りしたのだ。他人が上塗りしようとしただけなら、幸利の強度には敵わない。しかし自己で上塗りを行うならば、その限りでは無い。

 

 何故ならば人間の精神に最も近いのは、結局の所その物を自身だ。故に魂魄の知覚が他者よりもしっかりと行え、結果的に練度が高くなるのだ。

 

(誰かの入れ知恵? だとしたら、一体どいつが? 教会? な訳ない。奴らは自分達自身は策謀なりを用意するが、『使徒』本人には頭を使わせず、命令だけを伝える。それはアイツ等が他人を傀儡として用いる事を基本としているからだ。国王なんかを見ればその傾向は顕著だ。檜山なんか傀儡としては特に使いやすい。俺もそっち側だから分かる。だからこそ檜山にこんな入れ知恵をしたのは、少なくとも檜山を対等として見ている、もしくはそれらしく振る舞ってるかの二択…)

 

 幸利はここで雑念(ノイズ)が入った。今は必要が無い、檜山の背後にいる者の正体の看破を始めてしまった。ある種、それは檜山の隠し手札による副作用とも言えた。だが…

 

 

 

 

 

「──何処見てやがる、雑魚が」

「ガッ──!?」

 

 ──(デバフ)から放たれた猛獣を前に、その思考はあまりに軽率過ぎた。

 

 彼の景色に映るのは、一瞬で細切れになった動物の群れ。そして幸利の腹に突き刺さる槍の柄。

 

 瞬く間の攻撃に体が浮き、視界に火花が散る。

 

 あまりの衝撃に身体が吹き飛ぶ。痛い。辛い。しかし幸利はそれにより少しでも距離を取れると思考する。

 

「ここに風撃を望む──“風球”」

「は? ──なぁっ!?」

 

 ──しかしそうするにはあまりにも思考が遅過ぎる。彼の脚が速過ぎる。

 

 気付けば檜山は横に居た。幸利は未だ着地すらしていないと言うのに。

 

 己をかち上げる様に解放された上昇気流。それが幸利の着地を防ぎ、空中に縫い止めた。

 

「さて…クソ雑魚が。調子に乗りやがって」

 

 瞬間、檜山の拳が閃く。その拳は幸利の首へと迫り、瞬く間にその首を握り締めた。

 

 強制的に宙ぶらりとなる幸利。呼吸が儘ならぬ為、口を開け閉めするが酸素がまるで捕らえられない。意識が少しばかり曇り掛かる。

 

 そんな中で檜山は嗜虐的に、憤りながら、それでいて冷徹に。矛盾した感情を内包した笑みを浮かべた。

 

「──蹂躙だ」

 

 そして檜山は幸利の体を空中に投げ、その一瞬で即座に刃で幸利を浅く切り刻んだ。

 

 瞬間、幸利の全身が受けた傷よりも遥かに激痛を訴えた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 カウントダウンが8まで行き着いた時の事だった。

 

「ここに焼撃を求む──“火球”」

 

 鈴はそれが優花の最後の一撃だと思い、二重の障壁を全力で展開した。これさえ受け切れば勝ちだと、そう判断したからだ。

 

 しかしそうでは無かった。

 

 焼いたのは他でも無い、死に体の()()()()だった。

 

「──へ?」

 

 自爆? 制御の失敗? それとも気が狂ったか?

 

 鈴は思考する。しかし思考すれど鈴が答えに辿り着く事は無い。思考を進める度に益々混乱の渦に落ちて行く。それもその筈だ。

 

 たかが狂人に()()()者が、狂人を理解出来よう筈が無い。

 

 そして鈴が目を丸くしている中で、園部優花は黒煙を纏って仁王立ちして見せた。

 

「…なるほどね。やっぱり肌を焼いちゃえば傷は塞がるのね」

「…う、うそ? なんで?」

「それにしても鈴。アンタ、案外()()()ね? 頭とか心臓ならまだしも…肝臓とか関節とかには一切攻撃してこなかったじゃ無い。急所だけでも防御しようとしたけれど、来なかったから結局全弾受ける事になっちゃったわよ。とんだ無駄骨ね。何処ぞのバカ二人に笑われちゃうわ」

「な、なにいってるの?」

「まあ、良いわ」

 

 見れば流血はどれも止まっていた。先程の爆炎が無理矢理傷を焼き塞いだからだ。乾いた血の粉が優花の肌にはこびり付いている。

 

 正気では無い。本人は牙を剥き出しに笑っているが、痛くない訳がない。何故そこまでして立つのか。何故倒れてくれないのか。鈴にはまるで分からない。

 

 じりっと鈴の足がいつの間にか半歩、下がっていた。

 

 それは顕著な鈴の心象の現れ。目の前の存在が己に何かを突き付けて来ている様で恐ろしい。見たくも無い物を見せられている気がした。

 

 そんな鈴に対し、優花は12本のナイフを手にする。満身創痍。絶対不利。そんな状況にも関わらず、口の端が吊り上がっている。

 

 元来、動物の笑顔は一種の威嚇行動と言われている。故に笑みの本質とは敵を慄かせる事にこそあり、人間の笑みは特殊なケースであるとされている。

 

 優花の笑みは正しくそれだった。隙あらば射殺すと言わんばかりに眼光を鋭くしている。

 

「覚悟なさい、鈴。私はやられっぱなしじゃ気が済まないタチよ」

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 ──ゾクッ

 

 執拗に攻撃していた檜山。その背筋にふと寒気が走る。

 

 状況は圧倒的。ここからは逆転の余地など一切無いだろう。そう思う程に、檜山は事実有利にいた。

 

 だからこそ痛め付けている。檜山の槍型アーティファクト『呪華槍』は、刃の箇所に敵を傷付ければ付ける程相手に激痛を与える能力を備え持つ。本来はハジメを痛ぶる用で有ったが、気が変わった。生意気な幸利(雑魚)に身の程を分からせる為、その刃を使用した。

 

 周囲に気配は無い。幸利を痛ぶっている途中もしつこいまでに襲い掛かって来たが、全ての動物は亡骸に変わっている。幸利のペットらしい白鳩の魔物は見掛けないが、直接的な攻撃手段になり得ない以上気にする意味も無い。

 

(…よく思えばもう痛ぶる意味もねぇ。とっとと気絶させて南雲の方に行きゃあそれで良い)

 

 つい先程までサンドバッグにしていたが、もう気が済んだ。すぐに倒して、南雲の排除に一刻も早く向かう。そう檜山は自身に()()()をした。

 

 本当は、まだ苛立っている。何故かは分からない。しかし目の前の存在がトコトン気に入らない。

 

 しかしその苛立ちよりも、檜山は南雲を虐殺する方を優先した。傷だらけの幸利にトドメと全力のハイキックを見舞おうとした、が。

 

「ふんぬっ!」

「…あ゛?」

 

 瞬間、先程までの満身創痍が嘘かの様に、幸利は檜山のハイキックをクロスした腕で受け止めた。腕には幸利自身を押し出す様に力が込められており、砕けた様な感触と共に、幸利は瞬く間に吹き飛んだ。

 

 だがそれでも幸利は足だけで見事着地。隙を見せる様子も無く、二足のみで立ち上がって一言。

 

「ハッ…あのゴリラ女の蹴りに比べりゃヘナチョコだな。本気で第一線張ってんのか?」

「…死に損なっただけで調子乗りやがって。倒れるまでの時間が延びただけだろ」

 

 反応した事にこそは驚いたが、問題無い。腕は砕いた。幸利お得意の魔法もこの距離ならば発動前に殴る事が(キャンセル)出来る為、意味が無い。

 

 だからこそ檜山はただ仕留めるのに時間が掛かるだけだと判断した。当然、外部から見てもそう思えるだろう。

 

 ただ不気味なのは先程の悪寒。そして幸利に垣間見える余裕。それ等が檜山にとっての不安要素となっている。

 

 そして直ぐに距離を詰めようとしたが、その前にもはや何度目になるか。動物の群れが檜山へと迫る。

 

 当然デバフが無い故に瞬殺。動物の弾幕を切り抜け、再度幸利に迫ろうとする。

 

 その間も会話は続けられる。

 

「違うぞ檜山。さっきのがラストチャンスだったんだ」

「何?」

「俺を倒せる、お前にとっての唯一のチャンスだった。それを決められなかった時点で、とっくにお前は負けている」

「…ふざけやがって」

「巫山戯てないぞ? 何たって巫山戯る意味が無いからな」

 

 そして幸利は、檜山にとってのトンデモ爆弾を投げ込んだ。

 

()()()()()の脚元にも及ばねぇ雑魚程度、どうとでもなるって言ってんだよ」

「………ぁあ゛ッ!?」

 

 それは逆鱗だった。

 

 “夕凪”という冷静さを対象に与える魔法の効果を遥かに凌駕する程、激情の炎が檜山の中で燃える。目は血走り、握り締める槍から苦渋の音が鳴る。それにさえ一瞥出来ない程、檜山は怒り狂っていた。

 

 しかもだ。それに加えてもう一つ、目の前の雑魚に苛立つ理由が今、よく分かった。

 

 似ているのだ。南雲に。目に宿る純然たる意志が。

 

 それに気が付くと、もはや我慢(セーブ)など出来なかった。すぐに檜山は話を打ち切り、戦闘モードに切り替わる。もはや口喧嘩という段階を、檜山の中では通り過ぎていた。

 

「もう邪魔だ。テメェはとっとと消す」

 

 檜山は構える。姿勢を低く、槍の切先を幸利に向けて。

 

 狙いはその構えから容易に推察可能。十中八九、突進の構えだろう。

 

 だが接近職、その中でも速さに特化している【軽戦士】の敏捷は伊達では無い。少なくとも、魔法職が肉眼にて捕らえられる様な速度で無い事は確かだ。

 

 ある種、それは檜山が本気になった事の示唆。たった一人の少年に向けられていた殺意が、僅かながらに幸利にも向いた瞬間だった。

 

 その様子にニタリと笑い、幸利は両腕を広げる。

 

 幸利の黒いローブには魔法陣が刻まれている。これはかつて国から貰い受けた代物であり、今尚幸利が愛用し続ける闇魔法補助のアーティファクト。

 

 そしてその中に一つ、厳密には“闇属性魔法”()()()()魔法陣が、大きく描かれている。

 

 その魔法陣が紫水晶(アメジスト)の如く煌めく。

 

「さぁて、準備は整った。力貸してもらうぜ? ()()()ヤベー奴様」

 

 

 

 

 ──表舞台の横に於ける、熾烈な二つの戦い。それは今正しく終幕を迎えていた。




====================================
谷口鈴 17歳 女 レベル:64
天職:結界師
筋力:290
体力:380
耐性:390
敏捷:260
魔力:700
魔耐:410
技能:結界術適性[+魔力効率上昇][+発動速度上昇]・土属性適性・光属性適性[+障壁適性連動]・言語理解
====================================
☆所持アーティファクト
・念話石のイヤーカフス
・鉄扇『黒扇』…土属性魔法に状態異常『不治』を恒常的に付与する。メッチャ悪い敵が使う奴。
・障壁自動展開アーティファクト『ゼーゲン』(ブレスレット型)…任意発動。使用者の魔力を使わない障壁。ただ空間固定なので移動して戦うタイプには向いてない。これと“玉盾”による二重防御が鈴を鉄壁たらしめている。
・礼装『天切之巫女』…防御強化(結界含む)、魔力消費軽減等。見た目はただの着物みたいな感じ。



====================================
檜山大介 17歳 男 レベル:69
天職:軽戦士
筋力:450
体力:390
耐性:280
敏捷:720
魔力:390
魔耐:300
技能:槍術[+刺突速度強化][+刺突威力教会]・縮地・風魔法適性[+消費魔力減少][+効果上昇]・言語理解
====================================
☆所持アーティファクト
・念話石のイヤーカフス
・槍『呪華槍』…敵に刃での攻撃が当たる度、敵に激痛を重ねる能力。ハジメを痛め付ける様。
・『魔力符:混沌』…所持者に闇属性魔法の適性・耐性を付与する。檜山はこれで“夕凪”を簡易的に発動した。耐性は清水相手にはあんま意味が無かった。ちなみに本来は南雲に嫌がらせする為用。なお魔力は外部から吸収する。
・礼装『韋駄天』…敏捷の身体能力大強化。シンプルに強い。その際でかなり化け物レベルになってる。パーツだけ守ってる鎧みたいな見た目。



こんな感じです。
チートですね。(今更)
ちなみに技能が少なく見えなくも無いですが、ハジメが“錬成”と“言語理解”だけなのに比べてはめちゃくちゃマシです。
というか鈴は土属性プラスしたし、檜山は原作適性剣(多分)を槍にしてる。
これはちょっとした訳ありです。
鈴に関しては「もうちょい属性欲しいな」って思っただけだけど、檜山
ちゃんと訳あり。
それはまた今度。

さてさてさて。
火属性の説明で「でもレイスの“破断”とかもかなり危険な性能してますよね?」っていう感想を抱いた人もいるかと思います。
そこで改めて説明。
というのも『やけど』という状態がかなり危険なんですよね。
“治癒魔法”の殆どは基本的に回復作用の活性です。
その為、基本的に広がった傷口を活性作用で作った細胞で埋める、というのが回復魔法の基本となります。(と私は思ってる)
なので傷程度ならまだ良いんです。(というか学生のバトルでは基本鎧とか来て、物理的な傷を防いでる)(あと学生はそこまで威力出ない)
でも火属性は熱による細胞の死滅が基本的な能力。
よく考えてください。
鎧とか着てても熱が伝播したら死にますやん。
なので火属性はくそ凶悪性能です。
私はそれを某マスタング大佐で知った。
多分ユエさんが“蒼炎”をよく使うのもそう言う理由。
少なくとも殲滅、って点ではやばい性能してるんですよね…炎。
ここまで早口で説明しました。

じゃあ火属性最強じゃん!って言われたらそうでも無い。
火属性は優秀ですが、ステータスの魔耐が高ければほぼ意味が無い。
火傷も負わんし、傷皆無。
そう言う奴には耐性・魔耐がどっちも必要になってくる土属性魔法が有効です。
土魔法は物理・魔法的なダメージをどっちも与えられるのでかなり優秀な魔法なのです。
ついでに環境から属性引っ張って来るのが基本なので、発生に必要な魔力コスト減らせるし、防御とか地形操作とかで戦略性も高い魔法属性。
多分接近職ばっかの戦場で一人いたら戦況が傾くレベルで優秀。

あと他の魔法属性の有効性を説明しますと…
・風→無難! コスト低いNo. 1! 使いまくってたら雷属性習得出来る! 雷は発生からの着弾が最速レベルで高火力、火傷付与なので雷は実質火の上位互換感は無くもない。
・水→環境からの利用が容易。こっちもコストが低い。ヤバい性能の火・雷・光の相殺・減衰には優秀であり、戦争では防御的に使われる事が基本とされている。ちょいちょい使ってたら氷属性に進化するので、殲滅面は兎も角もサポート面は充実している。
・闇→不遇トップクラス。「単独で敵を倒せない」というデバフ特化なのが一番の問題。で、肝心のデバフも敵の魔耐にお祈りします状態なので、悲しいぐらいに弱い。ただ最近魔物をテイム出来る可能性が出てきたので闇魔法学会は沸き上がっている。あと対光属性に悲惨なぐらい弱い。
・光→最優の魔法属性。高威力・着弾極速・汎用性極広・対魔特攻…と言った風に出来ない所がほぼほぼ見当たらない性能をしている。持ってたらメインアタッカー・メイジ・タンク・バッファー全てになれるので、この属性持ってる奴は勝ち組確定です。
・錬成→戦闘魔法じゃないが? と冷遇って言うか魔法とはある意味別区分にされて来た魔法属性。ただ最近何処ぞの馬鹿が“魔錬”とか言う技術を生み出したので、評価がかなり上がった。戦闘面では結局の所、使用者の魔力量に寄るので強いとは言えない。ただ魔力に干渉するオンリーワン性能は覆せないので、単純にヤバい。強いじゃない、ヤバいんだ。あと何処ぞの馬鹿は完全な例外です。アイツはもはや戦闘職と遜色無いどころか並を超えてるヤバい奴です。
…以上!
多分作中で説明する事無いと思うので此処で説明。
需要はあるのかと言われれば首を傾げるが、私にあるので問題ない(設定厨)

…後書きで二千字超えるってバカじゃね?(今更)
今回はただの味方側虐め回でした。
ぶっちゃけ今回は読み応えはあんま無いと思いますが…ご安心をば。
私が好きな言葉は『王道』『因果応報』『理不尽』です。
次回! 逆転パート!
ちなみにありふれ零持ってるみんなは、次の話をもっと楽しめるYO!


ーー追記
malativas様
ハシビ様
蒼三日月様
ギル太朗様
評価感謝致しますYO!
あと前回の「パーカー着るな、ポーカーしろ」の誤字報告を大量に頂きました(草)、ありがとうございます。
そして感想も大量投下ありがとね!
これらは全て私のエナジー、エネルギーです。

今週は、なんとか二話投稿したいなぁ…(しみじみ)

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