恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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セーフッッッ!!!(魂の叫び)(なお遅刻)

前回の投稿から何とかほぼ二日間で書き上げました!
頑張った俺!
ナイスだ俺!
ぶっちゃけ深夜テンションだから、語彙が狂ってるぞい!

というわけで書き上げました、サブキャラ決戦。
設定厨が、バトルシーンで弾け出るのは何故?

まあいいや、どうぞ!


29、己が意志の下、憧れを叫べ

「よっしゃー!! 下克上じゃ、オラ──!」

勝ったど(ピピョ)──!!』

やった(グォゥ)──!!』

「嘘…私が、ユキに負けた?」

 

 何日前になるだろうか。『学会』後の、とある朝の戦闘訓練。そこにはガッツポーズを高々と掲げる幸利とその使い魔、そして四つん這いになる優花の姿があった。

 

 これまで優花はその巧みな戦闘法により、一度たりとも幸利に負けた事は無かった。

 

 ポチはタフだが遅いし、ピナに関しては直接的な戦闘力が無い。幸利本人に関しては魔法に才はあるが、その前に優花が体術で倒すと言うのがこれまでの流れであった。

 

 しかし何度も蹴られ、組まれ、地に伏し続けた幸利は何とか対接近戦への対処法を獲得。そしてデバフの数々を重ね合わせ、遂に優花を組み伏せる事が出来たのだ。

 

「フハハハハ! これまで散々煽ってくれやがって! 見下される気分は如何ですか、優花さ〜ん? 如何なんですか〜? 教えて下さいよ〜?」

「このっ、一回勝った程度でっ」

「はーい、聞こえなーい。敗者の戯言なんて聞こえなーい」

「本気で勘に触るわね、アンタ!!」

「うん! 僕はね、煽るのが大好きなフレンズなんだよ!」

「〜〜〜〜ッッ!!!」

 

 暖簾に腕押しとは正しくこの事。優花は非常に苛立っていた。他の人間は別に良い。コイツに見下されるのはゴメンだと、内心ブチギレていた。

 

 しかし負けたのは事実。出来る事と言えばせいぜい、負け惜しみを言う程度。当然幸利はノーダメージ、どころかむしろ煽って来る始末。

 

「ま、優花は動きに意外性が無いな。フットワークは軽いが、大体が常識の範囲内。優等生なだけの動きだ。それなら予想もしやすいし、対処しやすいってんだ」

「アンタはつい最近まで、そんな私にやられてたクセに…」

「お前に散々言われて来たが、俺も接近戦が雑魚だったからな。現段階の俺も『受け』しか出来ねぇが…もうちょいで『攻め』の手立ても手に入りそうだ。そうなったら…またお前と差を開けちまうな。あの美人さんには感謝しなきゃな」

「…腹立つわねぇ」

 

 だが言う通りだ。

 

 優花は基本的にオールラウンダー。全てをバランスよくこなし、場合に沿って対応するスタイルを取る。

 

 それは一見すれば完璧だ。しかしそれでは格上にはまず敵わない。何故ならばそれは自分の得意分野(ステージ)が存在しない事を指しているからだ。

 

 敢えて言うならば投擲と絞め技だが、それも決め手としてはかなり弱い。

 

(決め手ね…思い当たる節が無いわ)

 

 投擲、絞め技、敏捷、魔法、感応石込みのアーティファクト。己の武器を再確認するが、どれも決め手にはまず至らない代物ばかり。意外性も無く、ただただ堅実な要素ばかりだ。

 

(そういや、南雲の奴は意外性の塊みたいな奴ね。アイツのやってる事真似てみたら何か良い手立ては思いつ……)

 

「……あ」

「おん? どうした? そんなでっけぇ口開けやがって」

「暗に私の顔がデカイって言ってる?」

「流石にその煽り文句は思い付かなかったわ」

「…ま、今はそんな事は良いわ」

「?」

 

 思い付いた、一つだけ。自身の持つ数々の武器で放つ事が出来る()()()が。

 

 とは言えあくまでも今、優花の中にあるのは「出来るかもしれない」という仮説だ。マトモな()()で無い自分では、その仮説が正しいのかはまるで分からない。

 

 だが試す価値はある。優花の顔に、力強い笑みが溢れた。

 

「ねぇ、ユキ。一つ、私の実験に付き合ってくれない?」

「…嫌な予感しかしねぇ」

「大丈夫よ、多分。後でアンタの手伝いもしたげるから」

「不安しかねぇな? ま、受けるけど」

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 ──そして今、優花は瀬戸際に立たされている。

 

「もう…いい加減、倒れてよ!」

「嫌よ。私がそんな殊勝な性格に見える?」

「ッ──“石球”!」

 

 戦い始めて何分経っただろうか?

 

 一時間? 三十分? はたまた数分?

 

 どうだって良い。そんな思考も今は、彼女にとって無駄だった。

 

(右、上、下の三方向…それらが見せ弾。本命はタイミングをずらした斜め左上の一撃)

 

 数秒にも満たぬ、瞬く間の駆け引き。戦い始めは失敗も多く、受けた傷は数知れず。無理矢理肌を焼き、塞いだ痛々しい傷。

 

 しかしその傷は蓄積した経験の数と同じ。あれほどまでに苦戦していた弾幕の回避を、優花はもはや息をするかの様にこなしている。あまりに自然で流麗な身のこなしは、精霊の踊りにさえも見えた。

 

 周囲も認める所だが、優花の一番の武器は天職通りの投擲では無い。真の武器は生来から授かっている繊細なボディーコントロールだ。

 

 その腕が、脚が、身体が。彼女の思い描く最善を再現する。

 

 一見すれば地味だがその有力性は凄まじい。普通の人間が動きを再現する為に必要な修練を、彼女は数秒で再現出来る。

 

 彼女に与えられたその天性のセンスは、数多くいる『使徒』の中でもトップクラス。それ故に彼女はオールラウンダーたり得ているのだから。

 

 もはや何度目になるのか。優花のナイフが結界に衝突する。

 

 凄まじい速度で投げられたナイフであるが、彼女の二重障壁の前では無意味。そうしてナイフは幾度と無く繰り返した様に重力に従い、床へと突き刺さった。

 

 鈴の周囲には同じ末路を辿るナイフが幾つも転がっている。優花が持つナイフは十二本。その内の四本が、障壁を破れずに落ちていた。

 

 もう何度も、優花のナイフは二重の障壁を崩せずにいた。

 

 ──(はち)

 

「無駄だって、何度言えば分かるの!?」

「分かんないわよ? 雨垂れ石を穿つって言うしね」

「無理だよ! 絶対に! 鈴の防御を破れるはずが無い!」

 

 鈴の死角、背後からせめぎ合う音が聞こえた。【投擲師】故の物理法則を無視したナイフの軌道。

 

 確かに【結界師】の傾向として、結界の見えない部分の強度が弱くなってしまう事は良くあるミスだ。数ヶ月前の鈴も同じ様なミスを幾度かしてしまっていた。

 

 しかし鈴は半年間も『使徒』の中で結界術のエキスパートとしてやり遂げて来た。その程度の対処、今更何の問題も無い。現に鈴の結界は割れるどころか、悲鳴を上げる事すらない。

 

 ──(しち)

 

「だって鈴は、恵里の信じてた物を信じてる! 恵里を信頼してる! だから負ける訳には行かない! 負ける訳が無いんだよ!」

「そう…」

「優花ちゃんも南雲くんを信頼してるだろうけど、そんなの関係無い! 鈴は負けない!」

「信頼…ねぇ」

 

 次は地を這う様な一撃。されど鈴の障壁には意味がない。また鈴の足元に、新たなナイフの墓標が立てられただけだ。

 

 ──(ろく)

 

 そんな状況にも関わらず優花は鈴の叫びに一つ、否を唱えた。

 

「期待に沿えなくて悪いけれど、鈴。私は全く南雲の事を信頼してないわ」

「…へ?」

 

 的確に投擲されたナイフは彼女の思う様に曲がる。そして鈴の障壁と鍔迫り合う。

 

「だってアイツの事信頼してたらアホらしいもの。いっつも馬鹿やってるし、抜けてるし、放って置いたら勝手に死に掛けて…その癖他人の事は一丁前に助けようとする、そんな奴。そんな大馬鹿、信頼出来る訳ないでしょ?」

 

 先のナイフと時間差で飛来したまた別のナイフ。それは丁度鈴を挟み込むかの様な位置に投擲された。

 

 真逆の二方向からの全力の投擲。すると僅かにだが、鈴の一枚目の障壁にヒビが入った。

 

 されどそれ以上のダメージを齎すことは無い。また繰り返す様に二本共に落下する。

 

 ──()

 ──()

 

「だから…アイツの意志に私自身を委ねるなんて出来ない。そんな事してたら…アイツは自分一人で解決しようとして、勝手にどっかに行っちゃうから。そんなの私は、絶対に許さない。絶対に一人なんかにさせない。私は私自身の意志で、南雲の助けになる」

 

 手持ちのナイフは残り四本。だが投擲する手は止めない。

 

 傷だらけの身体にも関わらず、時間が増すごとに優花の投擲による威力は増している。

 

 繰り返す様に放たれたナイフ。それは鈴の一枚目の障壁を遂に砕き、同様に地面へと突き刺さった。

 

 ──(さん)

 

「私は他人(南雲)に私の意志を委ねない。私は私の思う道を行く」

「うるさいよ! 鈴と恵里の邪魔になるなら…どいてよ!」

 

 鈴は魔法を唱える。土属性初級魔法、“飛砂”。攻撃範囲・消費魔力量(コスト)・速度は良好。砂を飛ばすだけで、敵の肌に傷を付けることしか出来ない弱点を持つ。しかし傷の回復を困難にする『黒扇』との相性は抜群。

 

 恐らく此方の攻撃に慣れ切った優花ならば、避けるのは難しく無いだろう。

 

 それでも構わない。鈴は持久戦に持ち込めればそれで良い。肌を焼き、傷を塞いだ優花だが流れた血の量は並ではない。待てば確実に行動不可、或いは気絶に持ち込める。

 

 そう思ったが故の、守りの一手に鈴は躍り出た。

 

 それに対し優花は──

 

「…地を這え、荒れ吹く、雷霆の蛇」

 

 ──回避する事なく、突貫。そして詠唱を開始した。

 

 これに驚いたのは鈴だ。現在の状況で回避しないなど、選択肢としては愚の骨頂。其方を選ばれた事は鈴にとって都合ではあるが、同時に予想外故の動揺を孕ませた。

 

 瞬間、残り一枚の鈴の結界が揺れた。

 

(──なっ!?)

 

 背後を見ればそこには、障壁を貫こうとする優花のナイフがあった。

 

 当然一度の攻撃程度では砕けない。だが障壁にはかなりのダメージが有っただろうと予想される。耐えてあと二、三撃か。

 

 ──()

 

 同時に砂塵から突き抜ける陰がある。

 

 優花だ。数々の砂により肌を切り刻まれている。されど膝を屈する様子は無く、彼女は今にも障壁へと迫っている。

 

 此処で鈴は優花の狙いを察した。遂に全霊を掛けて己の障壁を壊しに来たのだと。

 

 ならば鈴にもう攻撃は必要ない。優花が狂った様に攻めている事からして、もう優花の限界は近い。勝負の内容は切り替わったのだ。

 

 優花が防御を崩すか。

 

 鈴が耐え切るか。

 

 魔力を残り一枚の障壁もじきに破られる。火事場の馬鹿力とでも言うべきか。今の優花の攻撃力は凄まじい。それこそ今にこの障壁を破りかねないまでに。

 

 だからこそ鈴がするべき事は障壁を繰り返し展開する事。【結界師】としての本領を発揮するべきなのだ。

 

 目の前の優花がナイフを一本投擲する。至近距離故に威力は絶大。障壁越しでも空気が揺れる。

 

 されど障壁は耐えた。ひび割れていようと、形をまだ残している。

 

 鈴が詠唱を完結させるには、それだけ有ればじゅうぶ──

 

「──フッ!!」

 

 ──その落ち掛けたナイフの柄を、優花は蹴り付けた。

 

 人力パイルバンカーとでも言うべきか。失った勢いを取り戻したナイフは、障壁を見事破壊。そして鈴へと迫る。

 

 鈴は紙一重で回避。ナイフは鈴の背後の地面に突き刺さった。

 

 ──(いち)

 

 だが、これでもう鈴を守る物は何も無い。

 

 優花の拳が鈴を捉えようとして──

 

「──“聖絶”、全方位展開!」

 

 ──優花の拳は最硬の結界に阻まれた。

 

 光属性最上級防御魔法、“聖絶”。今まで鈴が攻撃と並行して展開していた結界とは違う。鈴が防御に専念したが故に扱える、並外れた防御力を持つ結界だ。

 

 これならば一度や二度の攻撃ではまず破れない。鈴が魔力を注ぎ込める限り、この結界は持続する。

 

 そして鈴は消費魔力を軽減するアーティファクト、礼装『天切之巫女(あまきりのみこ)』に身を包んでいる。まず自分が魔力切れするよりも、優花が失血で動けなくなる方が明らかに早い。

 

(勝った──!!)

 

 コンマ数秒でもズレていれば、優花の拳は鈴を捉えていただろう。

 

 だが己を包んでいた二重の障壁が、そうはさせなかった。優花の猛攻に耐え切り、鈴が完全な防御を整える迄の時間を与えた。

 

 ギリギリの駆け引きがあった故に、鈴の心中を安堵が満たした。

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──(“雷蛇”)

 

 ──優花が持っていた最後の一本のナイフ。そして()()()()()()1()1()()()()()()。それら全ての感応石が、眩く魔力光を溢れさせた。

 

 そして、雷撃が弾けた。

 

「──へ?」

 

 鈴は理解出来ない。自身は確かに最硬の結界を創り上げた。

 

 割れない筈だ。砕け無い筈だ。それ程に鈴は全力をその結果の形成に注いだ。

 

 だが違う。結界は硝子の様に容易く割れ、鈴は雷に撃たれた。

 

 何故? 何故? 何故?

 

 幾度と無く思考を繰り返せど、鈴は結論に至らない。

 

 そして瞬間、優花の腕が鈴を捉えたのだった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 優花の狙いは元より一つだった。

 

 結界を破るなど、火力が無い己には無理だと分かっていた。

 

 魔力切れを狙う持久戦も圧倒的に不利な上に、性に合わ無い。

 

 だからこそ優花は、()()()()()()()()()()()()()()にした。

 

 その手段を思い付いたのは数日前。幸利からの助言、そして()()()()()の研究成果により優花はそれを試し始めた。

 

 必要になるのはアーティファクトのナイフ、魔法、そして何よりも己の技術だった。

 

 それはズレてはならない。大きく位置をずらしてしまうと、形が成立しないからだ。

 

 それは敵を真ん中に据える必要がある。それが最速で魔法を当てるのに最適だからだ。

 

 それは怪しまれてはならない。妨害方法は単純で、何よりも騙し打ちとして一番効果を発揮するからだ。

 

 それは一度しか通用しない。己の武器を全投入し、狙いも分かり易いその騙し手は明らかな初見殺しだ。

 

 そして投擲を十一回成功させねばならない。今の自分では技術が無いのか、それ以上の()()は不可能だった。

 

 だから優花は動き回って戦うスタイルの檜山では無く、鈴を相手に選んだ。

 

 だから“衝壁”が()()()の陣形を崩した時点でやり直しが必要だった。

 

 だから優花は障壁に当て続け、敢えて落下させる事で狙いを悟らせなかった。

 

 だから優花は終盤、無理矢理障壁を壊す様な()()をした。

 

 だから──この一撃は通じた。

 

 優花の騙し手の正体は()()()()()()。11本のナイフで円を形成し、残り一本のナイフにより魔力を循環させると言う物。

 

 ハジメの研究成果の一つに「魔法陣は魔力により成立する」という物がある。その事実を記憶していた優花は各ナイフに仕込まれている感応石を通じて、体内魔力を11本のナイフに伝導。そうして作り上げられた簡易的な魔法陣により、中央点に魔法を発動する。

 

 結界は外部からの攻撃を弾く事に特化している。当たり前だ。自ら守る盾を壊そうとする愚か者が何処にいる。故に障壁という代物は一度内部から衝撃を受ければ崩壊する様に設定されている事が多い。

 

 そうして考えるならば鈴は優花の騙し手に最適の相手だった。動きもしないし、障壁という当てる壁がある。何よりも彼女自身、非常に純粋(ピュア)だ。

 

 正しく、チュートリアルとしてはちょうど良かった。

 

「三本程度で成立するなら楽なんだけれど…その辺りは要練習ね」

 

 11本のナイフで作った回復魔法陣で自身の傷を癒しながら、優花は溜息を吐く。

 

 二、三本ならば騙すのも楽だし、手間もない。簡易的に魔法陣を作れる上に、敵にとっては不可避に近い一撃だ。かなり強くなる。

 

 試行錯誤が今後も必要そうだと思いつつも、優花は横にいる鈴をチラリと見る。

 

 鈴はぼうっと空を見ていた。ただ十秒間抑え込んだだけなので、意識は問題無くある。ただ彼女は、もう動く意味が無いだけで。

 

「…負けちゃった、嫌なのに。駄目なのに。勝たなきゃ…駄目だったのに」

 

 ただ虚に、彼女は呟く。どんな真意が彼女の言葉に込められているのかは分からない。同情する事も、敵だった自分には出来ない。

 

「儘ならないわね、戦いって」

 

 優花に出来るのは、残る二人の勝利を祈るだけなのだから。

 

──勝者、園部優花

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「天地よ、我が(ごう)に震えよ」

 

 一風変わった詠唱を、幸利が開始する。魔力光を空に立ち昇らせ、外套が魔力の圧力にはためいた。

 

 対する檜山が選んだ選択肢は、最速の突き。

 

 檜山は学んだ。幸利の戦闘スタイルは罠を幾つも用意し、続々と陥らせて行く…正しく()()()に似た様な物だと。

 

 ならば下手に手を打つのは下策。一刻も早く戦いを終わらせる方向に檜山はシフトした。

 

 だから檜山は低く構えて一拍。地面を蹴ろうとして──

 

『──ピィ』

 

 ──白鳩の鳴き声が耳朶を震わせた。

 

 ただ単純に聴こえただけならば過敏に反応する事は無かっただろう。しかし耳元から聴こえたその音は、生物が持つ危機感を揺さ振るに至る。

 

 結果、檜山は突貫を止め、槍を横薙ぎに放った。

 

 しかしそこに居たのはただの動物の群れ。首を、腹を槍が切り裂く。間違えてもその場所に、幸利の白鳩の姿は無い。

 

 瞬間、檜山は視界の端で捉えた。幸利が口角を確かに歪めた事を。

 

 檜山は一瞬、それを幸利が魔法で何かをしたのかと考えた。しかしふと思い出す。耳を揺さぶった白鳩の鳴き声に、何か違和感が有った事を。

 

 その違和感が、檜山にその答えを与えた。

 

(──ッ、イヤーカフスか!?)

 

 この闘技場を取り囲む結界は通常の物理的結界と異なり、外へ出る事に関しては全く阻害作用が存在しない。

 

 理由としては、教会が完璧で大きい結界を張る技術を要していない為だ。デメリット無しに広大な土地を結界で覆うなど、【ハイリヒ王国】の大結界や【アンカジ王国】の『真意の裁断』以外存在し得ない。

 

 だからこそ結界は基本的に足し引きで成り立っている。例えば空気を含むあらゆる物の行き来を遮断する様に設定したり、今回の様に一方向からの移動を自由にしたりとして行くのだ。

 

 その穴を塞ぐ為に『神前決闘』では逃亡を失格としているのだ。

 

 そしてルールには使い魔に関してのルールなど存在しない。加えて言えば、幸利はなるべくピナと接触しない様に、教会に存在を察されない様に動かしている。

 

 理由は変にピナを教会の監視下に置きたく無い為だ。その方が動きの自由度が大きいし、悪巧みも出来る。そして何よりも疑似的にチートを使えると考えたからだ。

 

 例えばそう…結界の外に置いてある何処ぞの吸血姫から貰った念話石から、檜山の念話石に使い魔が語り掛けるなんて事も出来るのだ。

 

 イシュタルはその事実にまるで気付かない。何故ならばこれは檜山のイヤーカフスにのみ、発声された物なのだから。

 

(好きな相手の念話石、ハイジャック可能ってどんだけハイスペックなアーティファクトなんだよ、あの念話石…)

 

 もう明らかにあの美人さん、厄案件だろ…と内心慄く幸利。しかしそれ以上に作り上げられた檜山の空白に、嗤う。

 

「蠢く闇、潜みし夜、這い寄る混沌、尽く我が後に続け」

 

 空白から意識を取り戻した檜山。それ以上言わせてなるものかと、瞬時に突撃した。

 

 槍は幸利の足元に向かって振われる。足さえ奪えば十秒抑え込むなど余裕だと、そう判断した為だ。

 

 だが遅い。遅過ぎた。詠唱は完結した。

 

 それを指し示す様に、世界を曇天が包み込む。それは予兆。もしくは世界の訴え。今から幸利がその身に宿らせようとしている力の正体に、全てを知る世界は恐怖しているのだ。

 

 幸利は最後の鍵言を告げる。

 

「我は影の支配者──“影帝”」

 

 そして檜山は見た。

 

 つい先まで幸利のみを見ていた己の視界。それが闇一色になる瞬間を。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 魔法の開発は基本的に魔導書の分析により行われる事が九割九部となっている。しかし稀に神話や歴史書からも行われる事がある。

 

 何故ならば魔法の詠唱は()()()()()を歌う事で成り立っているからだ。

 

 この力ある文章の判定は単純に「人々がどれだけその内容に思いを馳せているか」だ。例えば六大属性魔法の詠唱文の多くは神話から用いられる。開発自体は魔導書により理論付けられる。だがより魔法を強力にしようとするならば、人々が思いを馳せ易い神話が手っ取り早い。

 

 そうして読まれた力ある文章は魔力を宿す。それにより人々は魔法陣に体内魔力を注ぐ事を可能とするのだ。

 

 つまり魔法開発には「魔法の理論を完成させる(魔法陣の作成)」事と「力ある文章を探す(詠唱文の作成)」の二通りがあると考えて良い。

 

 そして幸利はその内の後者を先に行った。

 

 というのも何処ぞの吸血姫、ティアから託された魔導書は厳密には歴史書と言える代物であったからだ。

 

 書かれていた内容は遠い昔の、とある種族の王様が歩んだ歴史だ。

 

 彼は名君だった。過去数代に渡って続いた戦狂いの王とは打って代わり、知識と優しさにより民と共にあった。天職は【魔道師】で、アーティファクト等の扱いに対し強い適性を持ち、力も先代らと劣らない程であった。

 

 他種族領に干渉する事も少なく理性的。歴代を見ても、稀有な存在であった。

 

 ただ彼の身体は一時、乗っ取られる事となる。悪しき何者かによって。そして起こしたくも無い非人道的な実験の数々を行い、あまつさえ無意味に他種族領へ戦争させられそうになった。

 

 それを救ったのは彼の弟であり、そしてその弟が連れて来たとある組織であった。

 

 その組織は彼の内に居た悪しき者に競り勝ち、そして彼にその悪しき者に抗う術をもたらした。

 

 その後彼が、そしてその組織がどうなったかまではその魔導書には記されて居なかった。だが幸利が彼への理解を深め、そして組織がどの様な物で有ったかを知るには十分の内容であった。

 

「…やっぱ、こんな世界間違ってんだよな」

 

 その魔導書を初めて読み終えた日、幸利はそう呟いた。

 

 彼の意志を知った。しかしトータスは彼の望んだ様な世界になって居ない。

 

 きっと負けてしまったのだろうと思った。彼も、そしてその組織も。

 

 本を指先で撫でながらふと思う。かつて相反する事となったあの男。彼とももしかしたら分かり合う道があったのでは無いか、と。

 

「…ま、そんなの都合の良い妄想か」

 

 幸利はもう現実を生きている。

 

 甘い夢に踊らされる事はもう無い。自身の意志を裏切る真似はもうしない。

 

 だがこの一冊はそんな幸利の意志に、新たな意志を刻み込むには十分であった。

 

「アンタの力のついでにアンタの意志も俺が受け継ぐよ、ラスールさん。だからどうか…気持ち良く眠っててくれ」

 

 彼の名はラスール=アルヴァ=イグドール。【イグドール魔王国】と呼ばれる過去の国を治めた【魔王】。

 

 そして【解放者】ヴァンドゥル=シュネーの兄であり、【解放者】に救われその在り方に賛同の意志を示した、数少ない魔人族の王である。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 幸利の発動した古代魔法(エンシェントマジック)、“影帝”はラスール=アルヴァ=イグドールが生前用いた権能の一つだ。

 

 その効果はシンプルにして絶大、影を実体化し操るという物。

 

 形を成した影は時に剣となり、盾となり、そして脚となる。

 

 幸利の弱点は接近戦の弱さだった。絶大な魔法の才能と引き換えに、物理戦ではほぼ出来る事が無いという極端さ故に、優花に何度も辛酸を舐めさせられる事となっていた。

 

 それは脳の思考速度が問題では無い。反射神経や筋肉が単純に幸利の思考に追いつかないのだ。

 

 だからこそ“影帝”は幸利に効果以上の恩恵を与えた。

 

「チィッ!? 何だその訳分かんねぇ、影は!?」

「魔法だよ! とある王様が使ってた、なぁ!」

 

 即ち幸利に、これまでは有り得なかった接近戦という選択肢を与えるに至ったのだ。

 

 三本の影の剣が檜山を襲う。檜山はそれらを弾き、幸利に一撃を入れんと刺突を繰り返す。

 

 だがそれらの攻撃を幸利は影の脚により難なく回避。それどころかカウンターを入れる始末だ。

 

 ザシュッと檜山の軽装の一部が削れる。アーティファクトと同等の硬さと威力、それがこの影には込められている。

 

 当然、これだけ大きな力だ。発動条件も存在する。

 

 というかそもそも古代魔法とは、現代の手段ではどう足掻いても再現不可能とされている魔法だ。“神代魔法”がその代表的な物であるが、この“影帝”もこの一種に当たる。

 

 では何故幸利はこの魔法を使えるに至ったのか。答えは“闇魔法”の派生魔法、“降霊術”だ。

 

 “降霊術”には主に二通りの効果が存在する。

 

 一つはポピュラーな死者の魂を降ろす行為だ。死者の記憶や声を聞き、またその魂を死体に宿す事も可能となる。地球で言うサトリやシャーマンに近いと言えるだろう。

 

 そしてもう一つが幸利が今回用いた方法だ。即ち、死者のデータの再現を行う力だ。

 

 これは死者自身にほぼ干渉する事はない。代わりにその死者のデータを“死霊術”により『魂』として仮定し、そして己の身に宿すのだ。

 

 正直に言うとこれはかなり非合理的だ。何せ手間が掛かる。死者のデータを自身で集めねばならない、これが問題なのだ。

 

 今回の古代魔法の再現でも情報を集め、その上で考察を幾度と無く繰り返す事が必要だった。それはティアから与えられた魔導書が有っても難しい事であった。

 

 恐らくは幸利に魔人族と関わる経験が無ければ、ほぼ不可能に近かっただろう。

 

 そしてそれらを乗り越えたとしてもそもそもの問題がある。

 

 それは幸利自身の“死霊術”の適性がそれ程高くない、という点にある。

 

 適性が無いにも関わらず魔王級の古代魔法の再現、普通ならば無理だ。“闇魔法”の天才と言える幸利でも、まず無理だ。

 

 だから檜山に殺させたのだ、数多くの生命を。

 

 “死霊術”の根底は死後の世界と自己を繋げる事。だからこそ周囲に現在進行形で死後の世界へと行こうとする魂が多ければ多い程、“死霊術”の行使は容易となる。

 

 恐らく何十体という頭数でも難しかった。檜山がそれこそ一人で森に潜むほぼ全ての生命体を切り刻んで居なければ、幸利はこの魔法を発動出来なかった。

 

(動物の皆さんには悪いが…俺も負けられないしな)

 

 冷静に見えてギリギリの綱渡りの上で、幸利は勝機に手を伸ばせる。影が檜山の体を続々と削っていく。

 

「クソッ! 何でっ!? テメェなんかに、俺がァ!!」

「ああ、そうだ。悪いが…勝たせて貰う」

「俺はッ、南雲を殺して──」

「…ハッ、させるかよ」

 

 影の連撃は凄まじい。素早い筈の檜山が対応に回ってなお、優勢に回れる程に。

 

 聞かん坊の様に喚く檜山。するとその言葉の一部に、幸利は眉を歪める。

 

 それは間違い無く、怒りの表れだった。

 

「俺はな、あの大馬鹿に狂わされたんだ。きっとお前と同じでな」

 

 そう、幸利はあの図書館で出会ったあの瞬間に狂った。

 

 真っ直ぐに見つめて来て、愚直に称賛の声を上げ、挙句の果てに『友達』などと抜かした。

 

 だからこそ幸利は未だに【英雄(主人公)】になれず、そして生きている。

 

「アイツを知ってから俺の世界は変わった。クソみたいに一途で、そんで目を離せば突っ走って新しい世界に行ってる。アイツはそんなド阿呆で…そんで愉快な奴だ」

 

 だが悪くは無い。

 

 空想の様に世界は上手くは行かない。痛い思いはするし、喧嘩も良くする。戦闘訓練では散々辛酸を舐めさせられ、上を見れば自分が惨めになる程だ。

 

 それでも後悔は無い。世界を繰り返しても、清水幸利はきっと同じ様に此処に立っているに違い無い。

 

 アイツらと歩く荊の道なら悪くない、そう思えたから。

 

「そんな奴、アイツ以外に世界に居るか? 居ないだろ? あんな面白おかしい奴、他にいて溜まるかってんだ。…あ、いやもう一人いるか」

 

 ハジメは荊の道を全速力で駆け抜ける。止まるなんてしない。どれだけ傷だらけになっても、アイツは止まらない。

 

 優花も同じく荊の道を走り抜けている。時に二人の手を取って、こんな楽しい事は他に無いのだと胸を張って進む。

 

 ならば自分だけ取り残されては損だ。あの二人と同じ景色が見たいから。そして進み続ける二人を見ていたいから。幸利は同じ様に鼻歌混じりで進むのだ。

 

「だから譲らねぇよ。奪わせねぇ。俺からアイツを。アイツを見るとなり(特等席)を奪わせなんか、絶対にさせねぇ。だから──」

 

 影の猛威が増す。指揮者の激情が、その一撃一撃に込められる。

 

 やがて檜山の槍が柄本から砕けた。度重なる大火力の連撃に、細い槍では限界が来てしまったらしい。

 

 その事実に目を剥く檜山を眼下に、幸利は冷酷に告げる。

 

「──沈め、檜山。お前の望む世界と共に」

 

 それは絶対的な王命の如く、無慈悲に影の拳と共に下された。

 

 

 

 

 

 

 

「あ────、クッソ疲れた! 影の操作頭使うんだよなぁ! アーティファクトの所為で傷もアホほどいてぇ! 良く耐えた、俺!」

 

 出来上がったクレーター。埋もれる檜山。

 

 それを尻目に影の鎧を解くと、幸利は勢い良く仰向けに倒れた。

 

 背を十秒間付けば負けになってしまうが問題無い。

 

 アイツが負けるわけが無いと、そう信じている。

 

「だから…負けんなよ、相棒」

 

 グッと握りしめた右の拳。

 

 それをきっと誰にも届かないであろう応援(エール)と共に、空へと高く──

 

──勝者、清水幸利




※ありふれは名前の区切りが『・』か『=』のどちらか二択ですが、ぶっちゃけその違いが何であるのかよく分かって無いので、この作品では『=』で統一しときます。
作者が知らない事情を読者様が知ってるなら教えてくだせぇ。
その時はそれに応じて変えます。

====================================
園部優花 17歳 女 レベル:62
天職:投擲師
筋力:400
体力:420
耐性:390
敏捷:460
魔力:400
魔耐:390
技能:投擲[+精密投擲][+軌道操作][+速度強化]・風属性適性[+雷属性適性][+魔法陣省略]・言語理解
====================================
☆所持アーティファクト
・『群鳥』…十二本一式の感応石込みのアーティファクト。本来は一本に魔力を込めれば所有者の元に戻ってくるよって効果。でも優花さんはこれを遠隔簡易魔法陣作成用に使った。

====================================
清水幸利 17歳 男 レベル:59
天職:闇術師   職業:冒険者   ランク:黒
筋力:150
体力:140
耐性:200
敏捷:100
魔力:990
魔耐:910
技能:闇属性適性[+効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+イメージ補強力上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+死霊術微適性][+古代魔法微適性]・言語理解[+意思疎通強化]
====================================
☆所持アーティファクト
・『黒ローブ』…幸利は不審者感が漫画版・日常双方でありますが、明らかにコイツの所為だと思います。効果は闇魔法適性を引き上げるという物。シンプルだけどコイツの闇魔法底上げはかなりヤバい。



って感じです。
優花は良くも悪くもオールラウンダーってタイプ。
でもこれから遠隔魔法陣形成・発動が進化していきます。
単純に言うならハガ○ンの練丹術。
あのレベル。

幸利は完全特化型って感じ。
闇魔法を育て過ぎてるヤバい奴です。
原作でティオ操ったからこんぐらいはあるやろと盛っときました。

ふいーっ(書き切った感)

ちなみに知ってる人もいるとは思いますが、ラスールは『ありふれた職業で世界最強 零3』に出て来るボスキャラです。
正確に言えばそのラスボス時は中身がーーゴホンゴホンッ(ネタバレキャンセル)
ま、取り敢えずそっちのを流用したと思っていただければオケ丸です。
買おうぜ、零!(滅多にやらない本家ダイマ)

さて!
お待たせしました!
遂に次回から【錬成師】VS【勇者】のメインマッチです!
多分全四話になると思う!
ほぼ一ヶ月計算やね!
一章ラストスパート、頑張るぜ!


ーー追記
北原楓希様
楽々雷天様
静岡万歳!様
松影様
評価、誠に感謝致しますぜ!
及び誤字・感想を下さる皆々様にも絶大なる感謝をば!
この作品はそうしたエナジーによって生き残ってます。
ちなみに評価人数、只今111人とゾロ目です。
何か嬉しいです(安直)

それではまた、お会いしましょう!

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  • 感想返し!
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