恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

36 / 40
9/20 日刊19位!
トップ20位入りです!
すごない?(ドヤァ)
これもどれも皆様の応援あってです!
誠にありがとうございます!

そして!
TRPGがしたいっ!!(迫真)
という事でふうすけ様と協力し、卓囲もうぜ!って事になりました!
したいって人は感想欄でもダイレクトメールでも、Twitterでも良いから報告下さい!
ちなみに私はアホだし、ふうすけ神は仙人なので遠慮は要りません!
…と言っても、ふうすけ神と私の読者層って被ってそうだけど。


30、イーカロスの翼

 ギリシャ神話の人物の一人、イーカロス。

 

 彼は父ダイダロスの協力もあり、自らを閉じ込める塔を脱する為の蝋の翼を手に入れる。この翼により塔から飛び立ったイーカロス。しかしその経験によりイーカロスは慢心した。

 

 そして思った、「この翼が有れば太陽に手が届くのではないか」と。

 

 結果、彼は死ぬ事となる。太陽にすら手が届くと慢心したイーカロスを、太陽神たるアポローンは許さなかった。

 

 そうして太陽が放った熱がイーカロスの蝋の翼を溶かし、海原へとイーカロスを叩きつけたのだ。そしてあまりに高くを飛んだ事で、潰れる事となった。

 

 このイーカロスの話は一種の教訓として示される事がある。

 

 人間の傲慢(エゴ)、それがいずれ自身の破滅を招くと…。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

(────速いッ!?)

 

 天之河光輝は驚愕していた。

 

 敵はたかがハジメ。たかが【錬成師】。たかが【無能】。そう思い、見くびっていた。

 

 だからこそ遅れを取った。眼前一杯に広がるナイフによる連撃(ラッシュ)。それに対応する事に全霊を掛けざるを得なかった。

 

 とは言え光輝も訓練で『受け』は何度も行っている。鎧や両手剣を用いて、上手くいなした。

 

 そして反撃(カウンター)として両手剣による突き。それを光輝自身の胴体でギリギリまで隠し、放った。視覚外の一撃。間違い無く決まる。

 

 加えてハジメは鎧を着ていない。当たればそれだけで勝ちは確実。故に急所では無く、体幹の基点を押さえに掛かったのだ。

 

 だが──

 

「“魔錬・水音”」

「なっ!?」

 

 ──この範囲はハジメの領域(テリトリー)内だ。

 

 自然魔力を体外に巡らせる事による感知は、ハジメを中心として半径5メートル内となる。当然この距離ならば光輝の全身は感知圏内に収まる事となる。

 

 鳴り響く鉄のぶつかり合い。間も無く繰り返されるそれは、時間を追うに連れて加速する。互いが互いを越えんと力を振り絞っているのが理由だろう。

 

 ハジメと光輝、両者間にある本来のステータスの差は歴然とした物だ。ありふれた非戦闘職の【錬成師】と戦闘職最高峰の【勇者】。どちらが強いかと言われたならば、後者と誰もが断定するだろう。

 

 ステータスだけでは無い。固有技能の数やその質、更には天職自体による補正も【勇者】たる天之河光輝の方が上だ。

 

 しかしハジメはその差を見る影も無いまでに覆している。

 

 それは紛れも無く“魔錬・武装”による身体強化。この倍率は恐ろしく高く、凡百並みのステータスを擬似的に【勇者】のステータスに追い付くまでに昇華している。

 

 加えて半年間、メルド等との対人戦で鍛え上げ続けた駆け引きと技術。更には工房を中心に培った“錬成”というハジメの象徴(シンボル)。正しく光輝から見れば意識外の手を用いて、ハジメは攻め立てている。

 

「其は猛き光、眩き輝き、地平の先まで、光よ満ちろ──」

 

 予想外の展開に光輝は詠唱を開始する。唱える魔法は光属性中級魔法“光爆”。一定範囲に光属性の衝撃波を放つ、範囲攻撃だ。

 

 ハジメの攻撃スタイルはヒット&アウェイ、自ら攻撃を受ける真似はせず、回避や弾き(パリィ)により、相手の攻撃の直撃を防ぐのが基本だ。

 

 恐らくは弱い時期から戦い続けたが故の癖だろう。現在は“魔錬・武装”により防御もある程度あるものの、そのスタイルが基軸となっているのだ。

 

 だからこそ攻撃を一撃でも当てられたならばハジメの勢いを挫ける。そう判断した光輝は“光爆”により、確実に攻撃を当てようと──そうした。

 

 チームの二人と同様に、光輝も教会からアーティファクトを貸し与えられている。彼の主武器(メインウェポン)たる『聖剣』、『聖鎧』ほどでは無いが、高火力・高性能を誇る物ばかり。光輝の“光爆”もこれらにより、速く、強く発動できる…筈だった。

 

 だが光輝も教会も失念していた。相手は他でも無い【錬成師】である事を。

 

「──“錬成・壊”」

 

 蒼の魔力光が弾ける。

 

 光源は三つ。光輝が持つ剣の根本と身を包む鎧の胸当て、そして()からだった。

 

 すると刹那、光輝の剣が、鎧が、()()()が分解される。白銀の粒子が空を舞い踊る。鎧の下には防御魔法陣が刻まれた服も着ていたが、それごと分解された。

 

 アーティファクトには当然、光輝が使う魔法の魔法陣が刻まれている。ともすればこのハジメの一手は、光輝の魔法の発動を封じたとすら言えた。

 

 武器を封じられた光輝には意識の余白が作られる。その一瞬を、ハジメは取り逃がすなどしない。

 

「“錬成”」

 

 魔力光がまたもや輝いたと思えば、ハジメの手元には一対の双剣が完成していた。

 

 光輝がごくりと唾を呑んだのが、側から見てもよく分かる。それを感じつつハジメは構えた。

 

(まずは…()()()()は突破、かな?)

 

 そう、ハジメは心中で呟いた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「…ふーん、天之河フル装備じゃねーんだな?」

 

『神前決闘』では予め、各チームに敵方の装備情報が公開される。

 

 こればかりは一応平等らしいが、あくまでも明かされるのは武器の種類と名前のみ。どんな性能をしているのか、までは明かされる事は無い。

 

 つまりはどんなアーティファクトを敵方が持って来たのかは、ハジメ側チームにとっては本番のお楽しみに、という話である。

 

 まあ、それでも『聖剣』と『聖鎧』は装備欄に名前であれば分かる。天之河の装備欄にその名前が無いと言う事は…間違い無く天之河は本気で無い。

 

 この事実に幸利はニヤリと笑う。

 

「ハハハッ、敵さん油断したなぁ。南雲相手ならそれで済むとでも思ったんだろうなぁ。こっちにおりますのは【錬成師】! 並みのアーティファクトで勝てる筈が無いんだよなぁ!?」

「…うん? これって大丈夫なの、ユッキー?」

「おん? 何が?」

「『やり直し』の事でしょ? 『聖剣』とか『聖鎧』フル装備じゃないから、やり直ししまーすってゴネるんじゃない? って」

「ああ、それか。それについては何の問題もねぇ」

「へー、そなの?」

 

 この一件で一番気を付けるべきは『やり直し』についてだと、幸利が散々言っていた。『やり直し』は教皇が試合自体に難有りとした際に発動される。

 

 だからこそハジメ・優花はそう判断した訳だ。しかし幸利はチッチッと指を振り、それを否定する。

 

「良いか? 俺達が防ぐべきなのはあくまでも『こっち側の言い訳材料』だ。それ以外の材料なら十中八九レスバ完封出来る。…ま、その辺りは後々になりゃ分かるさ」

 

 どう言う対抗手段を幸利が用意してるのかは分からないが、彼がそう言うならば確実なのだろう。ハジメと優花は信頼もあってか、じゃあそうなんだろうなぁと即刻受け入れた。

 

 すると幸利と優花は察知した。ハジメのテンションが明らかに下がりやがったのを。

 

「…ねぇ、南雲。アンタ今『本気の天之河くんとやりたかったな〜』とか思ってない?」

「!?」

「粗方、そっちの方が白崎の隣に行けるとかそんなんだろうな…」

「!!?」

 

 ハジメはめっちゃ動揺した。口にも出していないと言うのに、心にした内容を読まれたからだ。

 

 もしやエスパーでは、とか思考し始めるハジメ。そんな彼を他所に目を尖らせる二人。怒り心頭は間も無くである。

 

 この前エゲツないくらい怒られたハジメはビクッ。取り敢えず目を逸らす事で危機を回避に掛かる。

 

「図星か…二兎追うものは一兎も得ず。欲張り過ぎだ。取り敢えず今回は無実獲得を優先しろ。どうしても今って訳じゃ無いんだ。応援はしてるが…俺の心臓に優しい程度で頼む」

「…まぁ、了解」

「コイツ、明らかに不満げよ?」

「前回の反省が見られねーな?」

「いやしてますしてますよ本当してますから許して」

「怒涛の勢いだな」

「最近、コイツの土下座に価値を感じなくなって来たわ」

「見慣れたよな。芸術点高いけど」

 

 と、言うわけで作戦会議に於いてハジメの方針は『ヌルゲー光輝を倒して勝つ』という風になった訳である。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「“げんか──」

「“錬成”」

「──いっ!?」

 

 天職【勇者】の固有魔法、“限界突破”。

 

 この“限界突破”は、一時的に魔力を消費しながら基礎ステータスの三倍の力を得る技能である。ただし、文字通り限界を突破しているので、長時間の使用も常時使用もできないし、使用したあとは、使用時間に比例して弱体化してしまう。酷い倦怠感と本来の力の半分程度しか発揮できなくなるのだ。なので、ここぞという時の切り札として使用する時と場合を考えなければならない。

 

 光輝はその切り札を切ろうとしていた。そうしなければ勝てないと、これまでの過小評価を排し、判断したからだ。

 

 その判断自体は正しい。実際、今の魔法が使えない光輝ではハジメとの戦闘は厳しい。基本、近接をメインにするハジメに対し、光輝は近中遠全てを用いて戦うスタイル。だからこそその一部が剥落した現状では形勢はハジメ側に向かっている。

 

 だからこそ、その突破口として“限界突破”を頼りにするのは当然の話だ。現在の形勢はあくまでもステータス差が少ない故の物。“限界突破”でステータス値を三倍にしてしまえば、その差は一気に広がる。力押しではあるが、光輝はそれがベストであると断じた。

 

 しかしその判断が遅過ぎた。既に光輝はハジメの間合いの内だ。

 

「“錬成”」

 

 蒼い魔力光が地面に走ったかと思うと、瞬間その光が円陣の形を成す。

 

 自然魔力により刻み込まれた魔法陣は瞬間──

 

「ここに風撃を望む──“風球”」

 

 ──風の暴威を解放した。

 

 風は光輝の身体をかち上げ、無防備を晒させる。その隙を逃す程、南雲ハジメという男は易い戦場を潜り抜けていない。

 

 すぐ様、距離を詰め拳を放つ。空中故に避ける事も出来ず、光輝はその一撃を受ける事となった。その一撃を何とか腕をクロスさせる事で受け止める。

 

(発動する間が──)

 

 武器があるタイミングで発動していればこんな窮地には陥っていなかった。剣さえ有れば間合いの確保も出来るし、魔法だって放てる。そうして生み出した隙で幾らでも発動可能だ。

 

 だが徒手空拳の現状では、あくまで光輝に出来る事は回避か防御のみ。そもそも地球の頃から剣の一辺倒であった為、それが無くなってしまった際の対処と言う物を光輝は知らないのだ。

 

 しかも相手はハジメだ。近〜中距離ならば大体対応可能たるこの男の間合いから逃れるのはまず困難だ。

 

「──“縮地”!」

 

 光輝が距離を取り、“限界突破”までの時間を稼ごうとしようとも──

 

「“錬成”」

 

 ──地面から形を成した槍が、光輝を強襲する。

 

「“剛力”!」

 

 地面を砕き、視界を防ごうとしようと──

 

「“魔錬・水音”」

 

 ──魔力の監視網を逃れる事は出来ない。

 

 武器を奪われた。まさかそれだけでここまで追い詰められるとは思いもしなかった。故の焦り、恐怖、そして逆上。

 

「ぅぁああああああああああああ!!!!!」

 

 負けている筈がない。そんな根拠も無い理由で光輝はハジメに拳を放って──

 

 ──ゴッ!

 

 胸元に潜り込んだハジメが、カウンターを光輝に見舞った。

 

 単に当たっただけならば良かったが…何せ部位が悪い。ハジメの拳は、ものの見事に光輝の顎に直撃した。

 

 視界が乱れ、平衡感覚が麻痺する。地面が崩れたかの様な錯覚を覚え、思わず狼狽えた。

 

 そして気付けば、光輝はハジメに組み伏せられていた。

 

「──ふぁ、あ?」

「“錬成”」

 

 仰向けに倒れた光輝の上でハジメが馬乗りとなっており、左腕を光輝の口に咬ましている。“錬成”により変形した地面が光輝の四肢を縛った。拘束力は弱いが人間の動きの基点ばかりを封じており、思う様に力が入らない。

 

『10ー!』

 

 カウントダウンが聞こえた。

 

 何故? そう疑問を呈する光輝。同時に自分が今、倒れているからだとすぐに答えが返ってきた。

 

『9ー!』

 

 秒針が刻まれる。

 

 見下ろす目と自分の目が合った。

 

 何故自分は見下されている、と疑問が湧く。同様の答えがまたすぐに返って来た。

 

『8ー!』

 

 負けている、その事実を漸く認識する。

 

 すると光輝は暴れようとする。身を焦がす様な激情と共に、拘束を振り解こうとする。

 

 しかし光輝への拘束は強度こそ低いが、基点を抑えている。故にチートだろうが、身体のコントロールが儘ならなくなっているのだ。

 

『7ー!』

 

 “限界突破”の鍵言を告げようとする。目の前の宿敵を吹き飛ばせと、心のままに叫ぼうとする。

 

 しかしハジメの左腕がそれを遮る。口を動かすどころか呼吸さえもが十分に行えない。声にならない苦渋と涎が腕と口の間から漏れるだけだ。

 

 噛み砕く程の力を顎に込めるが、腕が力強く口を押し付けている為か力が入らない。

 

『6ー!』

 

 駄目だ、嫌だ、違う、これは違う。

 

 光輝の内心が我武者羅に自身の劣勢を否定する。

 

 彼の血走った目がハジメを見上げる。対するハジメの表情は──無だった。

 

『5ー!』

 

 まるで下らない物を見る様な、茶番を見ている様なそんな瞳。

 

 何故そんな目をしているのか、光輝にはまるで分からない。

 

 カウントダウンが半分を過ぎた事さえも忘れ、光輝はハジメの目を見続ける。

 

『4ー!』

 

 沸々と何かが湧き出す。かつて【オルクス大迷宮】での香織の死闘。その際に彼女が浮かべた笑みを見て生まれた感情。

 

 しかし以前のそれよりも遥かに強く、そして黒い。

 

 光輝はその感情の名を知らない。

 

 何故ならばその感情を彼は今迄抱く事は無かったから。皮肉にも彼の才能が、その感情を表面化させなかったから。

 

『3ー!』

 

 その感情の名は劣等感。

 

 その感情の名は嫉妬。

 

 そしてその感情の名は──

 

(────巫山戯るな!)

 

 ──その名は憤怒。

 

『2ー!』

 

 カウントダウンが間も無く終わる。

 

 その前に光輝は虚空を掴む様に掌を広げ──

 

(来い──ッ!)

 

 ──その武器の名を、心中にて叫んだ。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 間も無くカウントダウンが1に行こうとした瞬間、その音は盛大に鳴り響いた。

 

 硝子を派手に割った様な、そんな音。それが客席に響き渡る。戦いの風景を写すシュタイガーンにより、王国領の人間にはその音は間違い無く聞こえた。

 

 砕けたのは戦場を囲む物理結界の一部だ。凄まじい衝撃による物か、かなりの規模の破損を迎えていた。

 

 第三者の参戦? 或いは片陣営への助太刀か? そんな疑惑が人々に伝播する中、皆それを見た。

 

「あれは…」

 

 それは美しい白の輝き。正しく流星とも見紛うであろうそれは、一本の剣だ。

 

 それは荘厳な黄金の光。剣を囲む様に展開されるそれは、鎧の部品(パーツ)であった。

 

 そして其れ等は空を駆け抜け──辿り着く。

 

「なっ!?」

 

 押さえ込みをしていたハジメはその光の強襲を、寸前の所で回避する。やはりそれも紙一重で回避した様で、ハジメにダメージは入っていない。

 

 だがそれは同時に、地面に縛り付けていた拘束が甘くなった事を意味する。

 

 剣が、『聖剣』が地面へ勢い良く突き刺さる。その衝撃波により残りの拘束具が形も残らず砕け散った。

 

 立ち上がる彼を鎧が、『聖鎧』が包み込む。その輝きは正しく色褪せる事の無い『絶対』を彷彿とさせた。

 

 彼の出立ちは形容出来ぬ程に神々しく、何と尊き事か。

 

 人々は遠くから、或いは画面越しにその光景を見る。それは正しく伝承の一(ページ)、英雄譚の挿絵と遜色ない。

 

『あ、嗚呼──』

『あれが…【勇者】』

『神が宿っているかの様な煌めき…美しい』

 

 人々は見惚れる。今自分達は伝説の一幕を見ているのだと、そう信じて止まない。中には膝を折り、祈りを捧げる者達まで居た。

 

 民衆の憧れ、希望、そして大義を一身に受ける彼は…最後の鍵言を告げた。

 

「──“限界突破”」

 

 瞬間、溢れた極光が天蓋を焦がした。

 

 この魔力光の奔流こそ【勇者】にのみ与えられる特権、“限界突破”。光輝の身を覆う魔力外骨格は『聖鎧』も相まって、『神の使徒』たる所以を瞬く間に人々に知らしめた。

 

 ハジメは構える。こうなってしまったからには油断は出来ないと。

 

 その判断は正しい。『聖剣』、『聖鎧』を持ち、かつ“限界突破”を行った光輝は先程までとは段違いの力を持つ。確かに油断してはならない敵だ。

 

 しかし、同時にそれは間違いだ。

 

「──遅いよ、南雲」

「ガッ──!?」

 

 油断してもしなくても、もうこの領域の光輝に対応する事は不可能なのだから。

 

 白閃が空に軌道を描く。咄嗟に手持ちのナイフで防御をしたが意味が無い。ナイフは無惨に砕け、赤い線がハジメの胴を斜めに走った。

 

 ブシュゥッ! と音を立てて噴き出す血。それに唖然とする暇も無く、光輝の猛攻は続く。

 

 剣道の突きがハジメの左腕へと襲い掛かる。全神経を持ってその一撃を掠らせるに留めたハジメは『聖剣』へ“錬成”を発動した。

 

 ──バチンッ!

 

 しかし意味が無い。『聖剣』は人工的なアーティファクトでは無い。言うなれば『神造武器』とも呼べる代物で、人智を遥かに凌駕したオーバーテクノロジー。その抵抗力(レジスト)は恐ろしいまでに高い。

 

 蒼い火花が弾け、思わずハジメはのけぞった。そのハジメの腹を蹴り、吹き飛ばすと光輝は詠唱を開始した。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ」

 

 天へと掲げられる『聖剣』。それを中心に地上を照らすかの様な光が渦巻いた。

 

 そこに込められたエネルギーは、見ているだけでも分かる。尋常では無いと。宙に舞うハジメは何とかその一撃だけは回避せんと、鋼線を“錬成”し、遠くの地面と癒着。そして引っ張る事で其方に飛ぼうとした。

 

 だが光は無慈悲にも、神敵に放たれた。

 

「──天翔閃!」

 

 ハジメの必死の足掻きも虚しく鋼線ごと包み込んで、光は進撃を開始する。

 

 “魔錬・武装”による自然魔力強化を全て防御に注ぎ込む。だが、膨大なエネルギーに耐え切れずベリベリと肌が焼け落ちて行く。

 

「ぐっ、がぁあああああああああああああああ!!!!!!」

 

 叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。

 

 痛い事だろう。辛いだろう。徐々に自身の体が削れていく感覚は、恐怖を覚えるに違い無い。

 

 やがて光は収束した。力の奔流から投げ出されたハジメはそのまま地面に転がった。目は腕により覆い隠され失明を防いだが、代わりに腕はかなりの重傷となっている。動かす事は出来るだろうが、その度に激痛が伴う事が予想される。

 

「何処を見ているんだ?」

「ッ──!」

 

 だが気にしている暇は無い。背後からの脚部狙いの横薙ぎを飛ぶ事で避ける。代わりに空中での刺突は横腹に受けてしまった。

 

 今、対応出来ているのはあくまでも光輝が三倍になったステータスに慣れ切っていないからだ。それ故の動きの無駄が、ハジメの対応を許している。

 

 だからこそハジメはこの瞬間に光輝を撃破せねばならない、が。

 

「はぁあああああああああああ!!!!!!」

(はやっ──)

 

 あまりにも早過ぎる。稀に『聖剣』の腹に攻撃を当て、攻撃をずらすのが出来る精一杯だ。

 

 血が舞う。衝撃に内臓が潰れ、光が肌を焼く。夥しいまでの血が口から吐き出ては、“錬成”した武器が間も無く砕けた。

 

 それ程のダメージを受けて尚、ハジメは倒れない。皮肉にも“魔錬・武装”の強化がハジメの脱落を許さない。ハジメ自身の強靭な精神が諦める事を許さない。

 

 これが差。頂点と自身の差。それを身を持ってハジメは知る。

 

 たった一手。それを許しただけで、先程の優勢が嘘の様に覆された。

 

 これまで修羅場に立つ度にハジメは進化して来た。最初のベヒモス戦では“錬成”の技術が洗練され、【ウル】では擬似的に“魔錬”による自然魔力強化を体感した。二度目のベヒモス戦では“魔錬”による戦闘法を確立して見せた。

 

 だがこれまでの経験を、そして至り得る先全てを見渡しても、この頂点には届かない。

 

 絶望、そんな二文字が脳裏に微かに浮かんだ。

 

 当然ハジメはまだ抗う。これまでもそうして来た様に、いつもの様に逃げない。

 

 だからこそ、二度目の極光が世界を焦がした。

 

「──“天翔閃”ッ!」

 

 そして──

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「…いやはや。【勇者】様が勝手な真似をされた時はどうなるかと思いましたが、杞憂でしたな」

「全くです、猊下」

「二度目の“天翔閃”の直撃…立てるはずもあるまい」

 

 空に浮かぶ映像が、ハジメの力無く倒れる姿を映している。一時優勢な時もあったが、【勇者】の本気がこれだ。敵うはずもない。

 

 イシュタルはもしもの時、光輝が『聖剣』と『聖鎧』を持ち込まなかった事をやり直しの言い訳の一つとして使おうと考えていた。人々の信仰と己の話術、それがあれば正当化出来ると考えていた。

 

 だからこそ光輝が『聖剣』と『聖鎧』を呼び寄せた時は驚いた物だ。規定外の武器の持ち込みは点数の低下となる。ただでさえ檜山と鈴が負けているのだ。両チームの点数差は酷く広がっており、このまま負けて仕舞えば言い訳のしようも無い差がそこにはあった。

 

 だが敵チームのリーダー、ハジメを倒して仕舞えばそれも話は別。よく思えば『聖剣』と『聖鎧』、そして“限界突破”まで出揃った【勇者】に勝てる筈がないのだ。イシュタルは自身の心配が杞憂であったと、そう判断した。

 

 しかも民衆の信仰も、光輝の神々しい姿により取り戻せている。観客席では【勇者】へ捧げられる応援(エール)が何重にも渡って捧げられる。ハジメへの物もあるが人数がまるで違う。まるで押し潰される様を示しているかの様だ。

 

 映像の先ではカウントダウンが始まっているにも関わらず、光輝がハジメへと近付いている。息を止める気でいるのだろうか。それも悪く無いとイシュタルは嗤う。

 

 ハジメが産み出した“魔錬”という技術は確かに凄まじい。酷いステータス差があって尚、こうして戦えているのもあの技術が有ってこそ。その技術が欲しく無いと言えば嘘になる。

 

 ただ生かすには、あまりにもハジメは不穏分子だ。彼を中心にしたメンバーは教会には届かないにしても、最早一大勢力と言える。【聖女】、【豊穣の女神】、王族、王国騎士、『神の使徒』…それぞれが旗頭となれる程の名声を持っている。

 

 世間では彼等がクーデターを目論んでいるのでは、とすら揶揄されている。その可能性は低いものの…その可能性を孕んでいる事自体が問題なのだ。

 

 だからこそ中心人物であるハジメを公衆の面前で殺すのは、教会に歯向かおうとする組織の牽制にも繋がる。次はお前だと、そう世界にアピールするのだ。

 

 “魔錬”は欲しい。だがウォルペンや【ウル】の【錬成師】が既に技術を獲得している。彼等を捉え、方法を尋問させ教会の下にある工房に伝えれば何ら問題は無い。何もハジメに拘らずとも良い。

 

 故にハジメは要らない。イシュタルは醜悪な笑みを持って、ただ見つめる。

 

 光輝がハジメの首へ剣を振り下ろす瞬間を──

 

 ★★★★★★★★★★★

 

 ──魂が巻き戻る。

 

 走馬灯とでも言うのだろうか。

 

 かつて僕が辿って来た世界が、客観する形で脳裏に映る。

 

 家族に初めて頭を撫でられた事。

 

 お父さんの仕事を見て、見様見真似でプログラムをし始めた事。

 

 初めて描いた絵を見せると、お母さんが年甲斐も無く対抗して来た事。

 

 お父さんがお母さんに秘密でアッハーンなゲームを見せてくれた事。

 

 お母さんが締め切り間際に何故か家族総出でコスプレ大会を開き出した事。

 

 家族全員で滅多に食えないレベルの高級肉を奪い合った事。

 

 お父さんの部下さん、お母さんのアシスタントさんどちらもが優しかった事。そしてどちらも隈が酷かった事。

 

 …我ながら家から外の思い出がまるで無い。振り返って見ると、記憶に残っているのは家族の事ばかりだ。

 

 やはり帰りたかった。そんな悔いが自身の心の中であった。もう充電の無い携帯電話を毎日の様に眺めているのもそれが理由だった。

 

 そんな景色も記憶の奔流に流されて…不意に見覚えの無い新鮮な景色が目の前に現れた。

 

 それは街中だった。何かに注目しているのか民衆は一点を見つめ、止まっている。ハジメはそれが気に掛かり、人混みを割って真ん中へと進んで行く。

 

 やがて進んで行くと、人混みの中心の光景が見えた。居たのは凶暴そうな荒くれ者達、戦いている子供と老婆。そして──

 

『すみませんでしたぁあああああああああああ!!』

「…………あっ」

 

 他でも無い、土下座をかましている僕だった。

 

 同時にこの光景がいつの物かも理解した。

 

 面倒な奴から逃げろと荒くれ者達が退散して行く。それに乗じて人目に晒されているかつての僕もその場から逃走し始めた。人混みの中を正確に進んでいたのを見て、逃げ足はこの頃から速かったかと再認識する。

 

 するとそのかつての僕が、進行方向とはまた別の場所を見た。それはとある人で…同時に()()もかつての僕を見つめていた。

 

 腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。

 

 今となっては忘れる筈がない彼女の姿。まさかこの頃の僕が一瞬とは言え、彼女を見ているとは思っても見なかった。

 

「…此処が、本当に始まりだったんだなぁ」

 

 そんな風に過去を懐かしんで、一拍。

 

 僕は次の記憶の一頁を捲った。




====================================
天之河光輝 17歳 男 レベル:74
天職:勇者
筋力:930
体力:930
耐性:930
敏捷:930
魔力:930
魔耐:930
技能:全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇]・全属性耐性[+光属性効果上昇]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和]・複合魔法・剣術[+無念無想]・剛力・縮地[+爆縮地]・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
====================================
☆所持アーティファクト
『霊剣・バーン』…本来光輝が持ち込んでいた武器。全方位の強化を行う。また魔力回復を促進する。
『礼装・アスタリスク』…本来光輝が纏っていた鎧。全方位の強化を行う。光属性適性を強化する。
念話石のイヤーカフス…壊れた。
・『聖剣』…「注意判定」対象(敵側に点数マイナス一点)。書き切れないぐらいチートの代物。具体的に言えば原作ハジメでもアフター前までは確実な改造は不可能だった。
・『聖鎧』…「注意判定」対象。こちらもまたチート。『聖剣』が攻撃なら、『聖鎧』は防御。でもどっちもステータス強化はするね…。

と言うわけで今回は光輝くんのステータス紹介です。
やっぱ一番レベルが高いですね,この人。
やはりチート、チートは全てを消しとばす。

次回、『とある少年の回想』


ーー追記
憲兵さん様
ソラカナ様
アソパソ様
異次元の若林源三様
評価感謝致します!
また誤字修正をやってくれるしっかり者の皆様!
及び作者と喋ってくれる感想投稿の皆様!
全てに感謝を!
この作品はそういった栄養分で構成されています!
ありがてぇ…。

ちなみにご報告をば。
遂にこの作品がお気に入り千人を超えました!
…マジでせう?
何つーか此処まで行くと一山越えた感が凄いです。
上はまだまだ居ますが、此処からも頑張りたいと思います!
改めて皆様に感謝を!

この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?

  • ハジカオ!
  • オリジナル展開!
  • 成り上がり要素!
  • 考察要素!
  • 曇らせ!
  • 感想返し!
  • ダイレクトマーケティング!
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