恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

38 / 40
9/25 日刊87位! 感謝だぜい!

そしてぇ…来たぞ、ノゲノラ最新巻!
来たぞ、エリちゃん復刻!
来たぞ、零最新巻!
いやー、素晴らしいラインナップです。
作者を殺す気でしょうか、殺す気ですね(確信)
取り敢えず三回死んだので問題は無いです(原因→尊死)
期待でお胸が一杯な中、作者は取り敢えず遅れた最新話を投稿する事にします。
ゴメンね! それではどうぞ!


32、矢文

『ぎ、疑似…“限界突破”!?』

『有り得ん! 【勇者】様の真技だぞ!』

『だ、だがあの魔力の奔流は確かに…』

『そんな事よりも【聖女】様の名を! 訳が分からんぞ!』

 

 世界が揺れる。

 

『…まさか、此処までとはな』

『ははは…すっかり我々も抜かれてしまいましたね、デビッド』

『やったれー! 南雲ォー!!』

『いけいけー!!』

 

 人々が魅入る。

 

『馬鹿な!? 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 神聖なる【勇者】のみに許された力を…あの神敵が!? 何故っ! ふざけっ!』

『猊下!? 落ち着いて下さい! 所詮模倣です! オリジナルの【勇者】様には及ぶ訳がありません!』

『そ、それもそうですな。ふっ…ふぅ』

 

 ある者は畏れ、

 

『嗚呼、素晴らしい! やはり彼は限界を超えた! 天運も神の助けも無く、凡夫たる己の手で! …貴方はどう見ます? 『三代目』?』

『…ただ敬意を示そう』

『ふふっ…貴方でもそれだけの評価をするのですね? 当然では有りますが』

 

 ある者は敬い、

 

『ククッ…クハハハハハハハハハハ!!』

『お父様、落ち着いて下さいまし。我々はお忍びですわよ? …勿論私としても『彼』がとても、とてーも気になりますが』

『ハハハ…予想外だ。全くもって痛快だ! ()()()め、とんでもないサプライズプレゼントを用意してくれたものだな』

 

 ある者は熱狂する。

 

 そんな間にも二者間の剣戟は加速する。

 

 蒼と極光。遥か先の客席からでも視認出来る二つの光は止まる事なく戦場を駆け回る。

 

 もはやそこには圧倒的なワンサイドゲームは存在しない。互いが全霊を掛け、勝利を渇望する。正しく死闘がそこにはあった。

 

『ぁああああああああああああああああああああああああ!!!!』

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

 人々の声を掻き消す様な咆哮が轟く。その真意は威嚇か、或いは己の激励か。少なくとも最早、威嚇として意味の無い雄叫び。その気迫を乗せて、また一撃が振われた。

 

 そして剣が振り下ろされる度に、また一つ声が上がる。その場にいる誰もがその熱狂に呑み込まれる。

 

『やれぇ! そこだァ!!』

『頑張れェ!!』

『負けるなァ!!』

 

 町の荒くれ者が、辺境の貴族が、矮小な男児が声を上げ始めた。

 

 その声が誰に向けられた物か、言うまでも無いだろう。教会への信仰、周囲からの無言の圧力、潜在的な罪悪感。それ等を置き去りにする程、彼の在り方は鮮烈だった。

 

 だからこそ、自分もその一つに加わるべきなのだ。

 

 分かっている。理解している。頭はそう在るべきなのだと結論を出している。何故なら彼は自分との約束を果たす為に彼処に立っているのだから。

 

 だと言うのに、何故だろうか。ただぼうっと彼を見詰める事しか出来ない。

 

 息が荒い。頬が熱い。波打つ鼓動が痛くて五月蠅い。

 

 ──僕は、白崎さんが好き…なんだなぁ

 

 あの言葉が、耳から離れ無い。

 

(どうしちゃったのかな、私…)

 

 白崎香織は知らない。

 

 自分が抱いているソレが、俗に言う所の『照れ』である事を。

 

 そして自分の胸にある答えを、この瞬間はまだ──

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

(此処に来て、まだ互角!)

 

 そして戦場を照らす蒼、それを纏うハジメは今迄無い苦戦を強いられていた。現在の実力は正に互角。どちらに勝負が転ぼうと誰もが疑わない程に拮抗している。

 

 “魔錬・擬似限界突破”。これは光輝の“限界突破”を見て数分、その間だけで自ら組み立て、そして現在尚も頭で演算し再現している言わば()()()()()だ。“限界突破”の様な()()()()()()()、継続出来る技では無い。

 

 ハジメが編み出した“魔錬”と言う技術は、単に『自然魔力や自己体内魔力を操作する』と言った物。その性質故に、“魔錬”での操作には常に魔力の全てに意識を置き、操作を行わねばならない。

 

 これは一応、【錬成師】という天職においては不可能な事では無い。何故ならば【錬成師】は鉱物を構成する一つ一つの土粒子、それらを全て操作する事によって“錬成”を行っている。全員がそうとは言えないが、ハイクラスの【錬成師】に関しては分子操作の五歩手前までは辿り着ける。ちなみにハジメは三歩手前、と言った所だ。

 

 だが今のハジメは身体を動かし、幾種類もの“錬成”を個別で発動している。最早その行動は並列思考(マルチタスク)にまで行き着いている。完全な唯一無二(オンリーワン)とさえ言える程の現状。

 

()()綻びが生じる可能性も、また近いのだ。

 

 これ程の連続行使、本来のハジメでもまず不可能だ。それを為しているのは他でも無い、今迄に類を見ない程の集中力だ。

 

 だが逆にその集中力が途切れた瞬間が、ハジメの終わりだ。

 

 その上“魔錬・擬似限界突破”には仕方が無かったとは言え、()()()()()()()()()()()()()()以上、長期戦は不利となる。

 

(倒す──この一瞬で。僕の全霊を掛けてッッ!)

 

 俄然不利。されど折れる気は無い。南雲ハジメに退路は元より存在しない。

 

 だからこそ蒼を纏い、少年は刃を振るい────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミツケタ」

 

 ────ソコに、何かがいた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「あはは…やっぱりこうなるかぁ」

 

 コロシアムの遥か高い場所。人目が一切無いその場所で、『使徒』は笑っている。だがその笑みに感情は無い。笑みの含まれてい無い目が、空に映る戦いを捉えていた。

 

 だがそこに驚愕は無い。まるで()()()()だと言わんばかりに、彼女には余裕があった。

 

 わざわざ用意した駒は負けた。軽く助言した駒も沈んでいる。本命の【勇者】さえも互角の場所まで追い詰められている。

 

 だがそれでも『使徒』は表面上は笑っていた。会場に渦巻く驚愕、賞賛

 熱狂…それ等に呑まれる事無く、がらんの笑みを絶やさず、ただ一人戦場を俯瞰する。

 

「はぁ、見事だよ。敵ながらあっぱれって、こう言う時に言うんだねぇ。やっぱりボクの判断は間違ってなかったかもね。本当に面倒な物だよねぇ」

 

 腕を前に伸ばす。人差し指と親指が広げられ、その間にはハジメの頭が映っている。『使徒』はそれを確認すると、ゆっくりと人差し指と親指を閉じた。

 

 それはまるでハジメの未来を暗示しているかの様だった。

 

 そしてニタリと擬音が聞こえる様な笑みが、一瞬で切り替わる。指をぐりぐりと、目線の先にある少年を擦り潰して一言。

 

「本当に…邪魔だよ、南雲ハジメ」

 

 刹那、怖気が走る不快な声が一帯に染み渡った。

 

 つい先程まで露程も見せなかった『使徒』の内心。それを閉じていた蓋が、僅かにズレた。そんな一瞬だった。

 

「…まっ、ボクからすれば勝っても負けてもどっちでも良いんだけれど…どうせだし光輝君に勝って欲しいよねぇ〜」

 

 だがすぐに顔に笑みを張り付け直した。変わらぬ笑顔。まるで人形の様なそれを空に向けながら、『使徒』は画面の少年に聞こえない呟きを残す。

 

「だから南雲君、頑張ってる君にプレゼントをあげよう。とっておきだよ? どうせ用意したんだから、ちゃーんと…受け取ってね?」

 

 それは何処までも冒涜的で、邪悪な()()の結末。

 

『使徒』のそんな呟きを本能的に感じ取り畏れたのか、画面の先でほんの僅かな変化が現れる。しかし誰も気付かない。誰も分からない。誰もがその戦場に目を向けながら、誰もがその揺らぎを認識する事は無い。

 

 今、正に激闘が繰り広げられる二人の戦場。皮肉にも白熱する試合に、誰もが目を奪われていたが故に。

 

 警報(ブザー)も鳴らない。魔力感知機に血を入れるのは試合の前に公然の目の前で行われた。それ以外の機会には血の取り入れは出来ない様に保管もしてある。本来ならば選抜外の人間の体内魔力を感知し、鳴るはずだ。

 

 しかし鳴らない。それもそうだろう。『使徒』の協力者、彼が自身の血と共にもう一人分の血を混ぜて機器に取り入れたからだ。

 

 その事実は教会さえも、イシュタルでさえも知らない。『使徒』は他人を信頼していない。利用はすれど、頭の全貌を晒す様な殊勝な性格はしていない。

 

 協力者と()()()()、その二人以外はまず知り得ない。

 

 正真正銘の反則(チート)。しかし気付かない。当人のハジメも、熱狂に声を上げる人々も。その場にある一切合切気は気が付く事が無い。

 

「さてと…南雲君。王手(チェックメイト)だよ?』

 

 最後の…遠藤浩介(透明な駒)が、ハジメ(キング)の隣に配置された。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 ──しかしそれは、ただ一人を除いての話だ。

 

(何かが…いるっ!?)

 

【聖女】白崎香織は見た。姿形は見えない。気配などこの遠くから分かる訳が無い。

 

 しかし香織には見える。【暗殺者】の脳に住む“闇魔法”、その痕跡を視認する。

 

 天職【聖女】の固有技能“浄眼”。本来、人には不可視の物を見る事が出来る常時発動型技能。その視認対象が()()()()かは香織自身、理解に及んでいないが…遠くからでもその悍ましい力はくっきりと目に映っていた。

 

 幾度と無く繰り返されたであろう洗脳と激痛の痕跡。魔法自体はもう完結している様で、洗脳者の体内魔力はもう【暗殺者】の体内には存在していないらしい。

 

【暗殺者】が果たして何者か、香織は認識出来ない。それ程までに彼は戦場に溶け込んでいた。

 

 しかし本能的に理解する。【暗殺者】は間違いなくハジメに害を為す者だと。

 

(──南雲くん!)

 

 気付いている者は誰一人居ない。自分以外には、ハジメ当人でさえも。

 

 だからこそ駆けようとした。人が居ない場所に出れば自分も助力出来る。その思考の下、席を立つ事を優先した。

 

 ──が、横に居るのが誰かを忘れてはならない。

 

「止まりなさい、白崎香織」

「ッ──!?」

 

 眼前に見えるは細やかな手のひら。同時に動きを御する銀の視線が真横から確認出来た。

 

 神殿騎士団長、ノイント=エリジュヒト。人類最強という座をとある男と争う、教会の最大戦力。世界でも上澄み側にいる香織でさえも、まだ先が見えない程の実力者だ。

 

「教会の通達を忘れましたか? 貴女は南雲ハジメへの肩入れがあまりにも過ぎる。こうして私が貴女の側にいるのも、監視が目的である事をお忘れ無く」

「──ッ…はい」

 

 彼女が何故香織の横にいるのか。それは【オルクス大迷宮】へ無断で単独突入した罰だと()()()()()。【聖女】が【勇者】と同等に重要な天職である為、その話を香織自身も先程までは疑っていなかった。

 

 しかし今になって気付いた。ノイントの目的は『監視』では無く『牽制』、あるいは『妨害』だという事に。

 

 恐らくは香織がやらかさずとも、教会は何らかの言い訳を持って香織の側にノイントを置いただろう。護衛…それも無い事は無いのだろうが、それ以上に生まれる効果が今此処にある。

 

 この遠距離からの【暗殺者】の感知、そんな事が出来るのは対魔を極めて得意とする【聖女】ぐらいだ。また香織の得意分野は魔法、遠距離攻撃による【暗殺者】の除去を成立させてしまう可能性がある。

 

 当然戦場には魔力感知機がある。魔法を放てば警報(ブザー)が鳴り響くだろう。だからこそ教会()()はそこで満足していた。

 

 だが『使徒』はそうは考えなかった。常に想像の先を行くハジメとその仲間、その可能性を見越していた。そして香織ならば警報(ブザー)を鳴らさずに【暗殺者】の無力化が可能であると予測した。

 

 だからこそ『使徒』は見えぬ第四の刺客を突入させた。

 

 だからこそ『使徒』は香織の牽制を行った。

 

 勝負は試合が始まった時点で決まっていたのだ。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 じわり、じわり。

 

 音も無く、ハジメと【暗殺者】の距離が縮まる。今のハジメは仮にも“限界突破”を使用した光輝と互角。その敏捷は凄まじく、改造と強化を施された【暗殺者】と言えども簡単に手を出せない程。

 

 だからこそ【暗殺者】は忍び続ける。生じるであろう僅かな綻びを、ただ待つ。下手に手を出すよりも、機を捉えた一撃の方が何倍も効果がある事を【暗殺者】は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

【暗殺者】は本来、善性の人間であった。少なくとも当たり前の如く、殺人をする様な人間では無かった。彼の友人等もそう断ずる事だろう。

 

 だが『使徒』はそれを許さなかった。“闇魔法”による洗脳、教会直々の()、薬物の投与などにより、少年の自我はほぼ全て失われた。もしやすれば僅かにあるのかもしれないが、それは泡沫にも似た儚い物だろう。

 

 そうして生み出された怪物に、躊躇いは無い。単純に対象を殺す傀儡として成り果ててしまったのだから。

 

 故に選択は一撃必殺。皮肉にも自分達を助けた少年の心臓に刃を突き立てようとしていた。

 

 そうして待っていると、ハジメが光輝に敢えて吹き飛ばされる事で距離を取り、次の武器を創ろうとしていた。光輝との一対一(タイマン)と考えれば悪手では無いこの一手。距離もそう遠くない。【暗殺者】ならば刹那で届くであろう距離だった。

 

 懐から何かを取り出す。それはあまりに鋭く細い、刺突性能を存分に高めた針。刺す箇所さえ間違えなければ容易く人を殺せる、もう手に馴染んでしまった暗器だ。

 

「────」

 

 何かを言おうとしたのか、【暗殺者】は僅かに喉を震わせた。しかしそれが空気を揺らす事は無く、形になるはずだった声は喉に飲み込まれてしまう。

 

 そうして静かにも必殺の一撃は放たれて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────?」

 

 ──光を、見た。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

(集中、しなきゃ)

 

 数十秒前、香織は別の手段に切り替えた。

 

 下手に動けばノイントが動く。一つ大きな動きをしてしまえば、助力はまず不可能になるだろう。

 

 だからこそ香織は指先から細かな光の粒子を放っていた。

 

 ──“光球”

 

 それは香織が最も得意とする魔法にして、遂に詠唱破棄に辿り着いた魔法。体内魔力をそのままに外部へと放出でき、魔法陣の作成に香織は使用している。加えて魔法の遠隔発動も可能。だからこそ香織はノイントから離れた箇所で魔法を完結させ【暗殺者】を倒す。そう決めた。

 

 そして目論見は当たったらしく、ほんの僅かな魔力の粒子ならば流石のノイントも気付かないらしい。

 

 ただ一つ、この手段には致命的な問題がある。

 

「──ッ!?」

「? どうされましたか、白崎香織?」

「い、いえ。なに…も」

「…でしたら構いませんが」

 

 それはコントロールの圧倒的な難易度だ。

 

 日頃、香織はある程度大きな“光球”を幾つか放出する事で魔法陣の作成を行なっている。一つ一つに込められている魔力量は体積に反して凄まじく、五つも有れば中級魔法の一つでも放てる程だ。

 

 では何故それだけの魔力を一つに込めるのか。一つは少ない数で魔法陣を成立させる為だ。数が少なければ操作難易度も下がる。単純な話だ。

 

 そしてもう一つ。それは発生するであろう“光球”からの魔力漏出だ。再三説明するが“光球”は体内魔力の集合体を外部に放った結果である。それ故に“光球”のコントロールが杜撰になって仕舞えば、体内魔力が外部に漏れてしまい、ロスが発生する。

 

 しかも今回は放つ必要のある“光球”の数は多く、かつノイントに気付かれない為に微量となる。少しでも“光球”から体内魔力を漏出すれば、“光球”自体が消失してしまいかねない。

 

 加えて【暗殺者】がいつハジメに攻撃するか分かりはしない。だからこそなるべく早く魔法陣を完成させる必要がある。

 

 “光球”の数は1000を優に超えた。それらをなるべく速く、しかし丁寧に頭上へと移動させて行く。自身の身体になと気を向ける暇も無い。全身全霊で魔法陣の完成に努める。

 

 同時発生する演算の数々に目が眩む香織。耳朶を打つ声もあやふや。外界を感じられない程の計算量。

 

(南雲くんは、いっつもこんな事をやってるんだ)

 

 それはハジメの“魔錬”に近い操作だ。単純に属性を生み出し、その動きを操作する属性魔法と異なり、“錬成”は構造を理解した上でその構成物一つ一つを操作する魔法だ。同時に一流であればある程、細かく操作が可能となる魔法でもある。

 

 そしてハジメは魔力の粒子一つ一つを制御し、戦っている。体内魔力や自然魔力、膨大なそれらを瞬時に並列的に動かしながら戦っている。

 

 香織は自身の体内魔力を制御するだけでも大変だと言うのに。

 

 果たしてそれを習得するにどれ程の努力を重ねたのか。思考を繰り返したのか。修羅場を潜り抜けたのか。

 

(凄いなぁ……嬉しいなぁ)

 

 ──待ってて、白崎さん。必ず、必ず君の元までたどり着くから

 

 あの日の約束の為に走り続けてくれたと思うと、白崎香織の内から込み上げる物があった。

 

 単純な驚愕や感心と共に、これ以上無い程の歓喜が香織の心を満たしては溢れる。彼が今も戦っていると言うのに、それだけ想ってくれる事があまりにも嬉しい。

 

 苦痛はもう無い。ズキズキと警告を響かせる頭痛を否定し、魔力の粒子を操作する。蛍火よりもほのかで力を感じさせるその光はやがて巨大な円環を築き上げた。

 

(あぁ…欲張っちゃうなぁ)

 

 これだけ想ってくれる事がどれだけ貴重で素晴らしい事か、それに気付かない香織では無い。だからこそこんなにも心臓が煩いのだ。

 

 だがやはりと言うべきか。白崎香織は結局の所、強欲なのだ。

 

 戦場から遥か遠く高い彼方の空。太陽と重なり、尚も煌めく円環。あまりにも淡く輝くそれを誰もが陽光として疑わない。

 

 そしてその中央で一つの矢が形成される。かつてベヒモスを穿った矢とはまた違う…言うならば『救いの矢』。

 

 上空にて創り上げられた超巨大の魔法陣。その魔力に気付いたのかノイントが空を見上げる。その魔法陣を視認したのはノイントを含め五人のみ。

 

 彼等の内の数人がその魔法陣に対処しようとする前に、その光は放たれる。

 

「好きだよ、南雲くん」

 

 ──“天穿・八尺瓊弓(やさかにのゆみ)

 

 発射から着弾までの時間はコンマにも満たぬ刹那。『聖剣』により創り上げられた結界の穴を通り抜けて、矢は落下する。

 

 そして見えぬ【暗殺者】を貫いて、矢は痕跡も残さず影の中で消えていった。

 

 貫かれた【暗殺者】はその陽炎を揺らして、その後()()()()()()戦場から姿を消した。

 

 死んではいない。怪我もしていない。これはそう言った技では無いのだから。

 

 ハジメが倒れる様子も無い。ただ倒すべき敵を見つめている。それで良い。自分がやったのはあくまでも助力なのだから。

 

「だから…勝ってね?」

 

 そうして彼女は、悪戯っぽく笑った。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「…は?」

 

『使徒』は固まる。眼下にて繰り広げられる闘争、それがまだ続いている事実と()()()()

 

 即ち自身の“闇魔法”が解除されたという感覚ともう一つの理由に戸惑っていた。だがもう一つの話は今どうでも良い。洗脳が解かれたと言う事実が問題だ。

 

 原因は分かっている。白崎香織に違い無い。遠隔から【暗殺者】の存在に気づき、“闇魔法”解除などまず他の人間には出来ない。【聖女】たる彼女のみに許された絶技だ。その可能性があったからこそ『使徒』はノイントを側に配置した。流石にノイントの監視を潜り抜ける事は出来ないと、そう慢心していた。

 

 まさかノイントから気付かれない位置から魔法を発動したなど、思いもしなかった。

 

「ああ…どいつもこいつもボクの予想を超えて来るなぁ」

 

 加えて魔力感知の警報(ブザー)も働いていない。恐らくは香織の放った魔法に魔力の無駄が無かったからだろう。魔力の全てを何らかの効果に費やしたならばそれも原理上可能だ。魔力感知が効果を見せるのはあくまでも空気中にある漏出した体内魔力のみ。何らかの効力により消費される魔力に対してはその限りでは無い。

 

 問題は原理上は可能であるものの、その様な事をしでかす人間がまず居ないと言う点である。

 

 エネルギーの無駄を省くと言うのは凡ゆるエネルギー置換に於いて不可能とされる問題である。電気から光を生み出す際に熱が生まれる様に、運動をする際に音が必ず鳴る様に。極微小に抑えると言うのは出来ても、無くすと言うのは現段階の人間にとっては絶対不可である。

 

 だが今、目の前で起きた現象は間違いない。香織はそれをしたのだ。特筆すべき香織の才能と腕に、『使徒』は小さく笑う。

 

「ふふっ…ボクもまだ()()を過小評価してたのかなぁ?」

 

 空のとある一点を見上げ、自嘲気味に笑う。今日初の己の失敗だと認めざるを得ない。

 

 そして“()()”を通して彼女に伝える。

 

『もう良いよ、()()()()。後はもう光輝くん達次第だ。どっちに転んでもおかしくない。だから…()()()B()を念頭に置いておいてくれないかなぁ?』

『…そうですか。まあ構いません。()()()()()()()()()()()()ですから』

『ホント良い空気吸ってるね、あの神様。ま、ボクとしては気楽だからイイけどね? あ、あと遠藤くん死んでないんだよね〜。ま、元から行方不明扱いだから表に顔を出したら、捕えられるだろうけど。…ま、一応注意しておいてね?』

『左様ですか。では、もう“念話”を切らせて頂きますよ?』

『うん、お疲れ様〜』

『失礼致します』

 

 全貌の読めぬ会話を終えて、『使徒』は鼻歌を歌う。

 

 その歌の間、ずっと『使徒』は()()睨み付けていた。

 

「さぁて、ボクも本腰入れて行かないとね?」

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 何が起きたのか、まるで彼には分からない。

 

 だが一つだけ理解に及ぶのは、()()()()()()()()()()という事だけ。

 

 何から彼女が自分を守ってくれたのかは分からない。しかし彼女が自分を守ってくれたと言うだけで、可笑しい程に力が湧いて来る。

 

 ──勝ってね?

 

 そんな応援(エール)が聞こえた気がした。幻聴だ。遠くにいる彼女の声が此処に届く訳が無い。

 

 そんな事は分かっている、が。

 

「本当に…単純だな、僕は!」

 

 胸から込み上げる熱を感じる。踏み込む脚が余す事なく力を地面に伝える。素晴らしいまでの全能感が全身を駆け抜けた。

 

 迫る白刃を潜り抜け、瞬時に双剣による連撃(ラッシュ)を繰り出すハジメ。対する光輝はそれ等を『聖剣』や『聖鎧』を用いて防御する。突破不可能のこの組み合わせ。

 

 だが、ハジメの眼光は煌めいていた。

 

「“錬成”!」

「なッ!?」

 

 瞬間、彼が持っていたナイフが蒼いスパークと共にその刃を伸ばした。

 

 ハジメがこれまで敢えて隠していた全速力の“錬成”。それはまるで持っている武器が入れ替わったかの様な錯覚を敵に覚えさせるであろう。

 

 ナイフは唯一剥き出しである頭部目掛けて振り抜かれて──

 

 ──ザシュッ!

 

 光輝の頬に、一筋赤い線が描かれた。

 

 光輝自身もそれを知覚したのだろう。それは“限界突破”後、初めてまともに作られた傷だった。

 

「くそっ! また──っ!?」

 

 狼狽える光輝に続け様に放たれる刺突。光輝は上半身をずらして避ける。だが先よりも余裕は無い。

 

 光輝は確信する。この土壇場に立って尚、ハジメの力が増していると。

 

 生半可の意識では勝てない。光輝は頬の傷の屈辱をすぐに脳裏から消し、『聖剣』に光を収束させた。

 

「ッ! …行くぞ、南雲ォ!!」

「──“錬成”ェ!!」

 

 ──もはや勝負を妨げる物は何も無い。

 

 ──邪魔者も外野も関係ない。

 

 ──決着が、訪れようとしていた。




===================================
遠♦︎○介 17歳 男 レベル:71
天職:暗殺者
筋力:800
体力:860
耐性:240
敏捷:2100
魔力:410
魔耐:410
技能:暗殺術[+短剣術][+隠蔽][+追跡][+投擲術][+暗器術][+遁術][+致命]・気配操作[+気配遮断][+滅心]・影舞・言語理解
===================================

====================================
白崎香織 17歳 女 レベル:70
天職:聖女
筋力:130
体力:190
耐性:210
敏捷:110
魔力:3600
魔耐:3600
技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遠隔操作][+遅延発動]・結界術適性[+魔力効率上昇][+発動速度上昇][+遠隔操作][+連続発動]・付与魔法[+効果上昇][+効果時間上昇][+発動速度上昇][+連続発動][+複数同時発動][+消費魔力減少]・複合魔法・高速魔力回復[+瞑想]・浄眼・■■・言語理解
====================================

遠藤君はアフターの主人公みたいな所あるからね!
私が虐めようとするのは仕方ないよね!()
ちなみにアビさんファンの方、ご安心ください。
彼の逆転は今後からです。

香織のステータスはバグりかけです。
光輝より大分強そうに見えますがアイツは“限界突破”に加えてこれから“覇潰”も獲得するので別にそうでもなかったりします。
ただ香織さんも魔力以外のステータスをバフ盛りで強化して来るので、普通に接近戦とかも問題無かったりします。
ただ上位ティアーの接近職には通じないってだけ。

あと香織の必殺技についてちょっと説明します。
アレは“光属性魔法”、“付与魔法”の二種複合魔法になります。
攻撃特化型の“天叢雲”、回復・状態異常解除特化の“八尺瓊”、防御・強化特化の“八咫”のいずれかの三種の付与を選びその上で、『剣』、『勾玉』、『鏡』、『弓』の四種の武器に付与する奥義となっています。
つまり実質十二種類にわたる技となっております。
三種の神器モチーフの奥義になってるんですが、何故か『弓』があります。
理由としては香織の「何処にいてもハジメを助ける」という願いを叶える為、生まれた物です。
今の所は弓ばっかですが、今後は他の種類も活躍して来ます。
お楽しみに!

………ま、とりあえず凄いで考えればええよ(面倒くさい)

ーー追記
バカヤロウ逃げるぞ様
マノエアキラ様
PC356様
さて様
評価感謝致します!
また誤字修正をブッパしてくれる方々!
あと感想を投げてくれるありがたい方々!
ありがとーね!
この作品のエネルギーだからホント感謝!
一部感想返せてませんが、それは明日に。(ごめんね)
ほんではまた!

この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?

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