恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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読者「投稿くれえーーーーっ」
時間「無駄だ。もうこんなに遅れて投稿する奴はいない」
厨二野郎「いるさっ、ここにひとりな!」

という訳で遅れてゴメンネ?
お待たせしました。
Q.何で遅れたの? アンタ暇じゃろ?
A.スクロールしてみろ、それが答えだ。

10/9 日刊23位です!
感謝致します!

エリちゃんイベントたのちい…でへへへへ(理性蒸発)
でも私はエリちゃんのライブも普通に見に行きたいタイプなので、毎度主人公が嫌がる選択肢しか無いのはムカつきます。
第三の選択肢現れねーかなぁ?(ちなみに5分ぐらい選択肢の下を押し続けた男)

さてお待たせしました。
遂に神前決闘ラストバトルです。
個人的にはラストバトルに相応しい話になったと思っております。
それではどうぞ!


33、【勇者】VS【錬成師】

 地平線が赤く、赤く。

 

 脚を地に付けた夕焼けが、やがて来る終わりを顕著に示していた。

 

 そうして…太陽は、月は笑うのだ。

 

 世界が赤に照らされても尚、地上で蒼く輝く大空(ソラ)に。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 肉体が剥落する。

 

 攻撃は覚醒後、一度たりとも受けていない。武器で攻撃を逸らすか、或いは躱すか。少なくともまともな直撃をハジメは受けていない。

 

 にも関わらず打ち合う度に手の皮が剥がれ、爪が粉々に砕けた。走る度にヒビが入った事を確信し、眼球も外部の圧力を受けてか赤く染まっていた。

 

 単純に言おう、自分の動きにすらハジメの肉体は耐え切れていなかった。

 

 本来ならばそれは可笑しい。“限界突破”は全てのステータスを強化する技能だ。当然それは『耐性』、『魔耐』の強化にも繋がる。少なくとも自らのステータスによる自壊など、起こる筈もない。

 

 だがそれはあくまでも通常の“限界突破”での話。“魔錬・擬似限界突破”は一見同種に見えて、多少ながら能力が異なる。

 

 “魔錬・擬似限界突破”は光輝の“限界突破”を見様見真似した物だ。原理を頭で理解し,魔力を制御する事で擬似的に再現した紛い物。

 

 だから、という訳ではないが即席で再現したからだろうか。“魔錬・擬似限界突破”の倍率は“限界突破”と比べて低い。本来ならばハジメのステータス値のどれもが光輝に敵う事は無い。再現したとしても、そこで戦いは終了していた。

 

 しかしだ。再三言うが、ハジメの“魔錬・擬似限界突破”は“限界突破”の仕組みを理解した上での発動だ。だからこそ…()()も容易に可能となる。

 

 そう、ハジメは“魔錬・擬似限界突破”以降、『耐性』と『魔耐』の強化を切り捨てる代わりに他のステータスの倍率を引き上げたのだ。それまでの“魔錬”ならばステータスの変更はある程度自由に行ったが、“魔錬、擬似限界突破”ともあらば変更は容易では無い。その為、防御の際に『耐性』や『魔耐』に振り分けるという手は使えず、この二つに関しては、ハジメはただの一般人と変わらない。

 

 元より死に体。“魔錬・戦鬼”による戦闘続行能力があろうと、その体を蝕む痛み、倦怠感は変わらない。むしろ“魔錬”による肉体強化は神経をより過敏にする。故に走る痛みは通常時を超えてしまっている。

 

 自壊する肉体。彼の身体を包む蒼の清廉さとは程遠い残酷性。

 

 正しく捨て身の戦い。一度でも光輝からの攻撃を食らえば負ける。そんな確信がハジメの中にはある。

 

 故に一刻も早く光輝を倒す必要がある、が。

 

(動きが、読まれてる!?)

 

 永劫にも刹那にも思える白熱。その中でやはりと言うべきか…()()()()()()()()()

 

 二種の神造武器を引き出し、かつ“限界突破”を使って尚も倒せない相手。たとえその相手が認めたく無い相手であろうと、認めざるを得ない。

 

 これまでの光輝は全力だった。己が持ち得る全てを使って目の前の存在を否定しに掛かった。それは間違い無い。

 

 しかし今の光輝は同時に本気でもあった。全身全霊。自身のスペックをただ使うのでは無く、そのスペックを目の前のハジメ()に合わせて用いている。紛れも無い、今の光輝がこれまでの自分の中でも最強だ。

 

 ハジメの癖を見抜き、かつそれに対応する様に剣を振るう。地球にいた頃から用いていた『八重樫流』、そして此方に来てから学んだ王国式の戦闘法。それらをハイブリッドにした光輝だけの剣術だ。

 

 ハジメのナイフを流すと、すぐに脇腹へと横薙ぎが放たれた。ハジメはそれをしゃがみ込む事で回避する。同時に地面にいつの間にか描かれた魔法陣が煌めく。

 

「ここに焼撃を望む──“火球”!」

「甘い!」

 

 光輝の真下から放たれる焔。飛距離を零した故に発現と同時に爆発。されど光輝は僅かに飛び、『聖剣』を振るう事でその爆撃を()()()()()

 

 当然初級魔法を食らった程度で光輝にダメージは無い。『聖鎧』の防御力は並外れている。初級魔法程度ならば構えずとも、無効化可能だ。本来ならば避ける意味も、ましてやわざわざ無効化する意味も無い。

 

 しかし光輝は長い戦いからハジメの狙いはダメージでは無く、視覚を埋める事にあると理解している。だからこそ敢えて大きく回避し、爆撃を防いだ。

 

 死闘は徐々に光輝が押し始めている。気迫は確かにハジメの方がある。工夫の点を見ても、ハジメは良くやっていると言えるだろう。

 

 だが光輝は慣れ始めていた。滅多に使わない自身の“限界突破”の身体能力。同じく身体能力を活性させているハジメの速度。そして何よりも奇怪な事極まり無い、“錬成”を織り交ぜた戦闘スタイルにも。それら全てに適応しつつあった。

 

 これまでハジメが光輝との差を埋められたのは、当然彼の実力もある。しかしそれ以上に彼の持つ特異性、所謂『初見殺し』に近い戦闘スタイルが何よりもの武器だった。

 

 短期決戦ならば意味はあった。しかしこうも戦いが長期間続けば、ハジメの『初見殺し』も効果を成さなくなる。

 

 光輝は離れようとしたハジメとの間合いを埋める。それは互いの独壇場。されど光輝の方がソレに関しては、年季が違う。上手だ。

 

「ぐっ!? このっ!? ッ──!」

 

 ハジメはよく対応していた。迫り来る滅びの連撃、それを己が身に受けること無くやり合っているのだから。

 

 半年。僅か半年。それだけでこれだけ戦えるのだから大した物だと光輝もほんの少し感心した。されど胸を焦がす嫉妬()は益々燃え盛るばかり。

 

 遂に怒涛の攻撃によりハジメの姿勢が崩れ、光輝の方へと背を向ける。ハジメは短剣を持っているが、生憎背を向けた状態での防御は人間の構造上不可能。その背に光を集結させた『聖剣』、その突きを放つ。

 

「終わりだ! 南雲ォ!!」

 

 今度こそ油断も何も無い。床に仕込まれている魔法も無い以上、反撃(カウンター)でも無い。

 

 ──決まった

 

 そんな確信が光輝の中で駆け巡って。

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは見覚えがあった。

 

 この戦場に於いてはあまりに()()()。されど確かに()()はその正体を看破する。

 

 何故ならば他でも無い。彼に教えたのは彼女自身なのだから。

 

 だからこそ驚愕と呆れと称賛、そして歓喜を胸一杯にして彼女は口を開いた。

 

「…本当に節操なしですわね、南雲さんは」

「ええ。間違いありません、お嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光輝の一撃を避けたのは()()()()()における()()()

 

 かつてリリアーナ=S=B=ハイリヒが骨の髄まで教えて込んだ技術。本来ならば戦いには程遠い代物であるそれ。しかし一芸は万芸に通じると言う様に、しっかりと会得した上で工夫をこさえればその一芸は正しく()()()

 

 特殊で滑らかな足の運び。全身が流動する様に動き。戦場においてあまりに異色の動きに光輝は付いて行けず、その剣を空振った。

 

 ぼやりと光輝の目には、ハジメの背後に何かが見えた。だが余所見している暇は無いと、ハジメはターンの勢いのまま光輝の鎧に剣を叩き付けた。

 

(──!?)

 

 ダメージは無い。しかし驚愕がある。ハジメ特有の剣筋もまた、足運びとともに別人の様に切り替わったから。

 

 そしてその剣筋には見覚えがある。この半年嫌と言うほど見て来て、追い続けた人の剣。豪快ながらも繊細という矛盾した性質を秘める、光輝の記憶上最優の剣士。

 

(団長!?)

 

 王国騎士団長、メルド=ロギンス。

 

 何もハジメが完璧に彼の剣を模倣出来ている訳では無い。半年で追い越せる程、メルドの剣技はお粗末な物では無い。

 

 しかし光輝は幻視する。ハジメの背後にメルドを、リリアーナを。彼の背を押す姿を何故か見る。

 

「────ッッッ!!!」

 

 光輝の拳に力が篭る。巫山戯るなと彼の心が喚いて煩い。そしてその心模様に従う様に、凄まじい一振りがハジメへと放たれた。回避の隙間も与えんとする袈裟斬り。先程の様な足踏みでの回避でも擦りはするだろう。

 

 するとハジメの短剣が蒼に包まれる。知っている。変形の前兆だ。盾か、或いは籠手か。躱せない前提により、光輝は防御の類の武器を想定する。

 

 そして現れたのは、一本の()()()

 

「ふ──っ!」

 

 あまりに短い深呼吸の後、光輝が放った斬撃が()()()。何の抵抗も無く、まるで水が岩を避けて流れる様に。『聖剣』の一撃が虚しく、地面のみを砕いた。

 

 ──八重樫流“音刃流し”

 

 本来ならば反撃(カウンター)もセットの技だが、急席で作られたこの剣はあくまでも薄刃の剣。対する『聖剣』は剣に触れるのみでダメージが発生する。ハジメが『聖剣』の攻撃に対し、回避や武器での防御を選択するのはそれが理由だ。

 

 だから反撃(カウンター)は刀では無い。その()だ。

 

 砕けた刀は蒼により籠手と成る。そして雄叫びの様に詠唱を拳と共に放つ。

 

「猛り地を割る力をここに! ──“剛力!!」

 

 ──ズドンッ!!

 

 雷が落ちたと錯覚する轟音が響く。ただの籠手と鎧の衝突とは思えない衝撃波が周囲の遺跡を砂利に変えた。

 

 変わらずダメージは無い。『聖鎧』のダメージカットは堅牢その物。されど問題はハジメが()()()()()だ。

 

「ッ──!?」

 

 ──心臓打ち(ハートブレイクショット)

 

 心臓を麻痺させる様な衝撃は胸に伝わっていない。しかし己が急所に攻撃を入れられた、その事実が光輝の思考を一瞬白く染め上げる。

 

(雫? …龍太郎?)

 

 またハジメの背に人影を幻視する。何故お前の傍に二人が居るのか。それは()()()()()()()()と。

 

 とは言えダメージも無く、肉体的な麻痺でも無い。あくまでも感情が生み出したただの怯み。刹那にも及ばない隙だ。

 

 ならばと蒼の稲妻がハジメの足元を照らす。創り上げられるは強大な大剣。ベヒモス戦で創り出した物よりも遥かに重く硬い、常識を遥かに追いやった超級の質量武器。

 

 光輝でも分かる。まともに食らえば自分でもダメージが入ると。精神的な麻痺から脱した光輝は、その危険性を避ける為か。すぐにバックステップで距離を取った。

 

 対するハジメは大剣を中段に構えて──()()()開始する。

 

「速き水流よ、数多を切り裂け──“破断”」

 

 大剣を持ったハジメに意識が向けられた状態からの本命(“破断”)。自分を擬似的な囮とした刹那の攻防。光輝は知る由も無いだろうが、これはとある魔人族が用いた一手の擬似再現だ。

 

 “破断”の斬撃を『聖鎧』で受けると、今度は詠唱が聞こえる。

 

「惑わし、微睡む、気分屋な案山子(カカシ)。彼は今君の目の前に──“起異”」

 

 瞬間、着地しようとした光輝の脚ががくりと崩れる。五感を惑わせる闇魔法。とある【闇術師】が見せた技の一つだ。

 

 迫る大剣。そこでふと光輝は見る。

 

 南雲ハジメの背。そこには人がいた。

 

 彼を倒れさせない為に。彼の一歩を手助けする為に。その手でハジメを支えていた。

 

(──んで)

 

 蒼色のスカーフを付ける少女が。黒衣(フード)を被る少年が。豪放磊落な騎士団長が。金槌を握る棟梁が。ポニーテールの剣士が。野性味のある拳士が。ドレスを纏う姫が。小さくも強い先生が。鉄壁の微笑を持つ侍女が。月下で笑う吸血鬼が。闇に隠れる魔人族が。信仰に身を委ねない大人たち(神殿騎士)が。この異世界(トータス)でも笑う『使徒』(少年少女)が。喧しくも愉快な職人達が。知識を貪り知る学者達が。日々を懸命に生きる民衆が。遥か遠くで待つ両親が。

 

 そして最初からそこにいたただ一人の少女が、彼の傍にいる。

 

(何で…お前は…)

 

 それは孤独(ひとり)で先頭に立ち続けていた光輝には見える事の無い景色。かねてより焦がれるその景色を魅せられて、光輝は奥歯を軋ませた。

 

 彼等がいた南雲ハジメの軌跡。それを手繰り寄せて今──ハジメは正しく持っている全てを出し尽くす!

 

「ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「ガッッ────!!?」

 

 空気を裂く轟音。下手くそに振り回された大剣。されどそれは台風の如く荒々しく光輝を轢く。『聖鎧』を持ってして尚、無効化し切れない圧倒的な質量に光輝は呻き声を上げた。

 

 かのベヒモスをもよろめかせた一撃。【勇者】と言えどもこの一撃はまともに効く。

 

 その隙にハジメは二度目の捕縛に掛かろうと、大剣を“錬成”して擬似的な檻を創り出そうとする。

 

 ──が。

 

「ッッ──負けられる、ものかぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「っ──!?」

 

 肘と膝による挟み撃ち。腹に衝撃を受けて尚も放たれた一撃は大剣を粉々に粉砕した。

 

 光輝は認めない。自分の理想からかけ離れた世界を見たくなど無いと。泣き言を喚く子供の様に、光輝は目の前の存在を睨み付けた。

 

 現実を認めたくなど無い、有ってなるものか。もはや『正義』もへったくれもない、ただの我儘を叫ぶ。

 

「──“光爆”!!」

「ッ!?」

 

 魔力の衝撃波が光輝を中心に走る。ハジメにとっては、それを食らって仕舞えば一溜まりもない。気配を察した途端にハジメは大きく後ろに飛び退いた。

 

 二者間に作られた長い間合い。そしてそれが狙いだったと光輝は笑う。

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!」

「なッ!?」

 

 詠唱。

 

 それは知っている。知らない筈がない。【勇者】の代名詞たる絶対的な奥義。

 

 対大型魔物用の光属性最上級魔法“神威”。それがたった一人の少年の為だけに発動された。

 

 文字通りの必殺技に息を呑むハジメ。だがみすみす発動させる訳にも行かない。ハジメは地面から槍を“錬成”し、“魔錬”を増長(ブースト)。肉体を軋ませながらもその一撃を投擲した。

 

 かつての【ウル】での戦いを彷彿とさせる勢いで放たれた槍。それは光輝の胸に炸裂した。

 

 …それでもだ。

 

「────ッ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!」

「嘘、だろ!?」

「神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!」

 

 光輝は耐えた。『聖鎧』を込みにしてもなお、かなりのダメージになるであろう衝撃。それを堪えて詠唱を続行する。

 

 ならばもう一撃と槍を再度“錬成”するが…あまりに遅い。

 

 魔法は、完成した。

 

「終わりだ──“神威”ッッ!!」

 

 世界が白に染まる。

 

 “天翔閃”など比にはならない威力、速度、範囲。

 

 あらゆる地面を抉り、灰塵をも無とする究極の一撃。

 

 回避も、相殺も、()()も。全てが間に合わない。

 

「──────」

 

 ハジメは、その光に呑まれて…そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──彼が居たその場所には、だれも居なかった。

 

「ハハッ…ふははははははははは!!!! 勝った! 我らが【勇者】が勝ったぞ! あの忌々しいガキが、やっと消え失せおったわ!」

「きょ、教皇殿! 落ち着いて──」

「騒がせおって! 驚かせおって! あのガキが! 清々したわ!」

 

 南雲ハジメの死。それを確信してか、教皇は嗤う。やっと漸く神の意向を果たせからだろうか。胸が空く思いに違い無い。

 

 あまりに呆気ない結末。会場は疑念に囚われる。あの男がまだ何かをしでかすつもりで無いかを。

 

 だが地上に姿は見えず、かつ()()()()()()()()()()。“錬成”で地下に隠れた可能性も否めないが、“神威”の威力は地面を深く抉る程。余程深くに逃げていなければ極光に巻き込まれているだろう。

 

 だからこそ南雲ハジメの死が現実味を持ち始める。今度こそ逆転は無いのかと段々と信じ始める。

 

 砂塵が薄れていく。“神威”の余波が撒き散らしたのだろうか。光輝の前方で砂が舞い踊っている。

 

 その砂が降りて──やはり誰も、そこには居なかった。

 

 皆が確信する。この戦いは【勇者】が勝利したのだと。【錬成師】は皮肉にも一歩及ばなかったのだと。

 

 ある者は拳を掲げ、ある者は悲嘆に暮れる。その中で教皇は叫ぶ。

 

「この勝負! 我らが勝利──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 砂塵渦巻く世界の中で、一人だけが立っている。

 

 過去の建造物も、草木も、そしてハジメも何も無い。あらゆる物が焼き尽くされた平地がそこにはある。

 

 一瞬、世界を見渡して、光輝は『聖剣』を杖代わりに地面へと突き刺し、もたれる。

 

 限界だった。過去に無い長期間における“限界突破”の使用。それは光輝に限界を齎していた。

 

 凄まじい疲労感に手が痙攣する。脂汗が湧き、光輝の睫毛を湿らせた。それが億劫で、人差し指でその湿り気を払う。

 

「勝った…のか?」

 

 明けた砂塵には誰もいない。少なくとも光輝の目には誰も。

 

「ははっ、何だ…勝てたじゃないか」

 

 光輝の顔に喜色が宿る。それは何を思ってか。人を殺しておきながら口端を上げるその姿は、もはや狂人と言っても差し支えなかった。

 

 だが光輝自身はそんな事など知らない。息を荒げつつも、勝利と言う二文字に浸り、拳を握る。()()()()よりも自分の方が強かった、そんな事実を思って酔う。

 

 空が赤い。夕焼けはもう落ちようとしていた。逢魔時と言うべきか。何処と無く不穏な雰囲気が世界に漂っている。

 

 そして遂に夕焼けの残り一片が落ちて──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん…信じてたよ()()()()

 

 そんな中で彼女は()()()()()、微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? ────ッッ!!?」

 

 薄暗い紺青の空。其処で瞬く蒼を、彼等は見た。

 

 それは()()()()()

 

 あの蒼を紛う事は無い。紛れも無く彼の魔力光。

 

「南雲ッ!?」

 

 倒したと、そう思っていた敵の再来に光輝は今日何度も繰り返す驚愕を見せた。

 

 恐らくは跳躍してなるべく“神威”の直撃を避けたのだろう。そこまでは現状の光輝でも理解出来る。

 

 だが“神威”の攻撃範囲は“天翔閃”と比較しても尚膨大。龍をも飲み込むとされる程の攻撃面積を誇る。今、ハジメは上に避けたとしても、“神威”が掠りさえすれば即死圏内。

 

 ならば何故か。

 

 それはたった今砕けた()が答えだ。

 

 光輝はその魔法を良く知っている。この半年、その魔法に幾度と無く助けられて来たから。

 

 それは()()()()()()()()にして、()()()の極地。発動さえすればあらゆる攻撃を一度は無効化するとまで言われる奥義。

 

 そして同時に、とある少女の十八番たる魔法だ。

 

 その名は──

 

「──“聖絶”」

 

 答えを示す様に、ハジメは再度その魔法を発動する。ハジメの魔力量を考えれば有り得ない最上級魔法の連続使用。しかも()()()()()()()()にも関わらず、だ。

 

 何故そんな事が出来るのか。

 

 光輝は気付く由も無いが、客席から戦場を俯瞰する者達は見た。

 

 ──そこに刻まれている直径100mにも渡る、あまりに大きな魔法陣、“聖絶”のそれが輝いているのを

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「地脈を利用しますか…ふふっ、やっぱりハーちゃんは面白いですね」

 

 ハジメの体内魔力は少ない。単なる循環である“魔錬・武装”や“魔錬・擬似限界突破”は魔力を消費しない。しかし“錬成”や魔法陣を動かす“魔錬”は当然魔力を消費する。

 

 その違和感を大空に浮かぶ月は看破する。

 

 戦場の周囲に張り巡らされている結界や魔力感知機。その発動に関わる魔力の導線が戦場の地下には張り巡らされている。それをハジメは“魔錬”によって、地面に刻んだ魔法陣を発動する度に地脈の一部を拝借したのだ。

 

 元より有り余る程の魔力が流れる地脈。故に一部を掠め取られた所で各アーティファクトの発動に支障は無く、それ故に教会はその違和感にまるで気付く事が出来ない。

 

 それもその筈だ。教会はこれまでの、この【錬成師】の戦いを全くと言って良い程知らず、それ故に【無能】のレッテルを貼り続けて来たのだから。

 

「さぁて。()()()()()()()()()()()()()()()()()()ちゃーんと勝ってくださいね、ハーちゃん?」

 

 そう言う彼女の横にはこれまでの四つの陰とは異なる、()()()()()()がふよふよと浮かんでいた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

(何で──詠唱がっ!?)

 

 動揺する。目の前の存在に。故に思考の呂律が回らなくなる。

 

 それもその筈、光輝は騙されていた。“魔錬”は直接魔力を操作する技術、その使用の指向を定める為の魔法陣は必需であるものの、魔力を操作する為の()()()()()()()()

 

 だが光輝はこれまでハジメが詠唱していたが故に、騙されていた。光輝のみでは無い。外野の目をも欺いてみせた。原理を理解していれば分かったであろう(ブラフ)

 

 全ては、この一瞬の為に。

 

「ッ!」

 

 苦し紛れに光輝は『聖剣』による魔力の斬撃を放つ。だが再度展開された“聖絶”はそれを無効化する。

 

 ハジメが手中のナイフを握り締めたのが遠目でも分かった。

 

(あれが──南雲の渾身の一撃!)

 

 ハジメが元より満身創痍であるのは理解している。だからこそ光輝が奥義を放ち、疲労が見えた瞬間に勝負を決めに掛かったのだ。

 

 なればこそ、次の一撃こそが勝負の分け目。光輝はそう判断して『聖剣』を構える。『聖剣』にてナイフを砕き、その返しで反撃(カウンター)を決める。それこそが今光輝が考え得る最善。

 

(さあ来い!)

 

 そして光輝の読み通りハジメは腰を捻りナイフを突き出して────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そのナイフを()()()()()()()

 

「────は?」

 

 宙に放り投げられたナイフを辿る様に光輝の視線が、其方を向く。

 

 完全な計算外。突拍子も無い()()()()()()()。『聖剣』にて自身に投げられたナイフを砕くが、意味が無い。

 

 故にこの無駄な一手は、光輝の意識を奪う最良の一手に化ける。

 

 瞬間ハジメは“聖絶”の一部を剥落。同時に己の足元にある“聖絶”の障壁を蹴り、自身の軌道を無理矢理曲げる。内部からの衝撃に障壁が砕け、音が鳴る。光輝はまたもやその音に目が吊られる。

 

 ハジメはその一瞬を逃さない。体内を巡る全ての魔力を今、活性化(ブースト)する。

 

 溢れ出る魔力光。文字通り、自壊しかねない本気。“魔錬・戦鬼”の戦闘続行能力を持ってしても、連鎖する傷を抑え切れる事は無い。止めど無く溢れる血が、彼の苦痛を示す何よりもの証左だ。

 

 光輝が意識の余白から帰還し、此方を見やる。流石は【勇者】というべきか。もう迎撃の準備を完了している。油断などもう無い。全身全霊で己に挑む光輝の姿がある。

 

 そう、全身全霊で互いは戦っている。

 

 ならばまだ、ハジメの手には…残っている。

 

 それは【無能】と呼ばれた最初からあって、幾度と無く助けられて来た力。

 

 呪った時もあった。もっと強い手があれば平和にこの異世界を歩めたかも知れないと思った時期もあった。

 

 だがそれでも創意工夫をこなし、師より手解きを受け、共に研鑽を重ねた。

 

 今なら思える。自分に与えられたのがこの力で良かったと。

 

 ならばこそ、ハジメはその力の名を誇る様に高らかに叫んだ。

 

「────“錬成”!!」

 

 ハジメの脚から蒼の魔力光が地を伝い、波紋を広げる。その魔力光が光輝の足元まで届くと、すぐに変化は訪れた。

 

 隆起する。地面が八岐大蛇の様に変化し、光輝の胴体に絡まる。【オルクス大迷宮】の頃からずっと進化した、ハジメの捕縛技。

 

「俺は──まだッ!!」

 

 光輝は当然砕こうとする。この程度ならば砕けると“限界突破”しているその肉体で、此方に迫るハジメごと吹き飛ばそうとする。

 

 ──が

 

「…ぇ?」

 

 ──光輝の身体は動かなかった

 

 代わりに訪れるは()()()。元のステータスでも砕けるであろう薄さにも関わらず、身じろぎすら認められない。

 

 光輝は忘れている。“限界突破”はあくまでも一時的な強化だ。永続的に続くわけでは無く、魔力が不十分になって仕舞えばすぐに破綻する。

 

 しかも“限界突破”はその性質上、活動するだけで体内魔力を消費する。一方で全ての魔力が発動者の制御化にある“魔錬・擬似限界突破”は体内魔力の無駄(ロス)が限り無く零に近い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ハジメの方が有利だった。

 

 “限界突破”を発動してから三十分、ステータスチートの光輝と言えどもそれ程長い期間の発動には無理がある。体内魔力もほぼ尽きていて、身体が麻痺している。

 

「…嫌だ」

 

 口だって動く。大層な怪我がある訳でもない。ただ魔力が無くなり、【勇者】の特権が消えただけ。それだけで、光輝はあまりに無力に成り果てた。

 

「嫌だ嫌だ」

 

 迫る。蒼く闘志を燃やす羅刹が。固く握られた拳が。そして何よりも──敗北が。絶望が死神の足音を鳴らして迫る。

 

 これまでの人生において無縁だった恐怖が、絶望が。光輝の喉を震えさせた。

 

「いやだぁあああああああ────」

 

 ────ドッッッ!!

 

 唯一防具が無い顔面に直撃する拳。ミシミシと嫌な感触が捉えた頭蓋と己の拳、両方から鳴った。

 

 だがハジメは走る痛みにも構わない。更に拳へと力を込めて、光輝を吹き飛ばす。

 

「いやっ、ぁ…」

 

 4、5メートル吹き飛んだ後、地面に引き摺られて漸く光輝は静止した。そんな彼は血に塗れ、白目を剥いている。拳による衝撃は鼻の骨を折り、歯を何本か砕いていた。

 

 その光景はなんとまあ…哀れな物だった。

 

 当然と言うべきか。彼は既に延びており、テンカウントすら必要が無いほどである。

 

 審判は一瞬で切り替わった勝者に唖然としながらも、判決を下さざるを得なかった。

 

「…やっぱり、気持ち良い物じゃ無いなぁ」

 

 そんな事をボヤきながら、それでもハジメは戦場に立っていた。

 

──勝者、南雲ハジメ

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「ば、ばかなぁ…」

 

 教皇イシュタルは目の前の光景に青褪めていた。勝った、そう確信した数分後にこれだ。天国から地獄にでも落とされた気分だ。

 

 しかも試合結果をまとめればどうか。此方陣営は全員敗北。向こう側は幸利が疲労により十秒間背を付けたがそれだけだ。しかも光輝の反則もあり、見事な惨敗と言えよう。

 

 加えてもう一つの問題は『言い訳』がほぼ皆無である事だ。向こう陣営には非がなく、むしろ此方側の非ばかりが目立つ。

 

 端的に言おう、最悪だ。

 

(い、いやまだですぞ! 奴等の技はどれも初見殺しの物ばかり! もう一度やり直せたならば、そう出来れば対策は容易! 何かしらをそれらしく言えれば民衆操作などたやす──)

 

 だが流石と言うべきか。イシュタルは思考を切り替え、民衆を納得させ得る十分な『言い訳』を産み出そうとする。

 

 ただそうだ。イシュタルに非があるとするならば。

 

()()()()()()()、と言うべきだろう。

 

 ──パチパチパチパチパチ

 

 客席から拍手が鳴る。

 

『神前決闘』には暗黙の了解が存在する。例えば試合後、最初に反応を示すのは【教皇】で無ければならないという物が。

 

 すなわちこの拍手は無礼に値する。故に誰もが目を向け──必要無いと投げ捨てられた外套に、隠れていたその顔に目を剥く。

 

「……は?」

 

 それはイシュタルも同様。()()()()()()()()()()()()()、その答えを求めて困惑する。

 

 だがその疑問を解決する暇さえも無く、その男は全世界に轟かん程の呵呵大笑を響かせて、声を発する。

 

「ハハハハハハハハハハ!!!!!! まずは見事だ、若き戦士達よ! 貴様らの勇姿は全世界、永劫に忘れる事が無いだろう! これまで俺様が見てきた中でも引きん出て、良き試合だった」

 

 大胆不敵にしてあまりもの破天荒。教皇の言葉等知らんとばかりに、これまでの死闘を称賛する。

 

 本来ならば客席中にいる神殿騎士達が止めに掛かるだろう蛮行。或いは信者達がこぞって非難するであろう愚行だ。

 

 されどこの男には許される。何故ならばこの場において、この男に敵う者は居ないのだから。国にある全ての荒くれ者を()()のみで鎮める()()()()()()()

 

「改めて【ヘルシャー帝国】()()、ガハルド=D=ヘルシャーの名に掛けて…園部優花! 清水幸利! そして──南雲ハジメ! ()()()()()()()()貴様ら三人のみ、健闘を讃えよう!」

 

 紛れも無い、この世界の氷山の一角が『神前決闘』の場に姿を現した。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「──はぁ!? 皇帝ガハルド!? 何でそんな大物が此処にいるのよ!?」

 

 取り残される戦場の一角にて、園部優花はピナの“共眼”越しに目を剥いた。

 

 だがそれも仕方が無いだろう。『神前決闘』はあくまでも聖教教会主催の最終判決の儀式。そこに呼ばれる客人(ゲスト)は教会の庇護下にいる者達ばかり。聖教教会と()()()()ガハルドはまず呼ばれる筈がない。

 

 ならば何故──

 

 優花は横で笑うのを抑えている阿呆に目を向けた。

 

「オイ、アンタ。今度は何をしでかした?」

「プフッ、あのイシュタルの顔ヤバくね? 俺よく笑い声上げんの我慢したわ」

「今そんな事はどうでも良いのよ、ユキ! この事態を説明しなさい!」

「別に良いけど多分まだ中継中だぞ? 普通に話すぐらいならまだしも、そんな大声上げたら…()()()()()()()だぞ?」

「うぐっ!? …そうね、落ち着いたわ。私もああはなりたく無いし」

「まあ、もうとっくに中継終わってるけどな?」

「殺すわ」

 

 幸利は頬をリスの様に膨らませ、口を押さえる事で笑うのを我慢していた。ぶっちゃけ寸前である。というか漏れている。

 

 まあ優花としても、散々今までやらかしてくれたイシュタルが変顔を決めているのは噴飯物だ。しかしそれはそれ。これはこれ。それ以上に気になるのは客席で起きている状況だ。

 

 何とか笑うのを堪えられたらしい幸利が目元の涙を拭って答える。

 

「そんで? …あー、確か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「違──って予想はしてたけどアンタが呼んだの!? 何処で知り合ったのよ!?」

「中継が無くなったからって叫ぶな叫ぶな。うるせぇんだよ? いいか? 人の鼓膜は案外容易く破れるんだぞ? 俺の鼓膜が破れたらお前はどうしてくれる? もう少し俺と言うか弱い生物を甘やかして接して──」

「は や く こ た え ろ(木串装填)」

「了解であります! 正確には元より親交が有ったメルドさんの助力の下、この試合を見に来る様に誘導したであります!」

「…もしかして、コレがやり直し対策?」

「正☆解(良い男風の声)」

「…(木串)」

「あ゛──────────!!!!!」

「オラウータンの鳴き真似が上手ね?」

「くそッ…すぐに暴力に訴えやがって…」

「違うわよ、ユキ? これはね、躾って言うのよ?」

「俺ってペット!?」

「家畜よ?」

「断言された!?」

 

 試合のストレスからか。言葉の茶番が進む事この上無し。二人とも結構怪我やら疲労が凄まじいと言うのに生き生きとしている姿は、ある意味図太いと言えた。

 

 尻を押さえる幸利を椅子にしつつ、優花は質問を続ける。

 

「で、何で皇帝が対策になるのよ?」

「おーん…まあ、見れば分かるぞ? 先ずは見てろ。それでも分からない低脳なら説明してやる」

「………(木串再度装填)」

「私に説明させてくださいませ、園部様」

「それで良いのよ」

 

 何故いちいち煽るのか。そして何故いちいち木串なのか。それは質問してはならないポイントである。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「な、何故貴様が此処にいる!? この野蛮人めが!」

 

 視点は再び客席側に戻る。

 

 衝撃による麻痺から回復したイシュタルは即刻、ガハルドの賞賛を止めに入った。

 

「ふむ? 何だ、貴様かイシュタル。俺様は今気持ち良く称賛をしているんだ。邪魔しないで貰いたい…ああ、ただ貴様の気味の悪い笑みが剥がれたのは面白い。そこで顔だけ置いておけ、観賞用にしてやる」

「ッ──申し訳ありませんな、ガハルド殿。少しばかり冷静さを失っていた様です。ただ…()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ふーむ……それは無理な相談だな、イシュタル。俺様はあの者達の事を気に入った。喝采の一つや二つ、別に構わんだろう? 勝敗は決まったのだから」

「勝敗はまだ決まっておりませんぞ、ガハルド殿? 儂が判決を下すまでは──」

 

 教皇イシュタルと皇帝ガハルド。二者間に稲妻が走った幻覚を人々が見る。犬猿の仲である二人は、互いに棘の含まれた言葉を投げていた。特にイシュタルに関しては日頃の余裕ぶった様相が消え、言葉遣いも荒々しい。先の試合もあってだろうか、動揺が透けて見える。

 

 そしてその言葉の内、とあるワードにガハルドは如実な反応を示した。

 

()()? まだも何も()()()()()()()()()()()? 被疑者側の勝利だ。勿体ぶっても意味が無いだろう。さっさと発表しろ」

 

 ガハルドが取り上げた言葉に民衆がハッとする。確かに「まだ」と言ったと教皇の方を見る。

 

 イシュタルもこれにぴくりと眉を顰めた。同時に己の失言に心の中で叱咤を打つ。『神前決闘』は()()()()()決闘で判決を決めると言う物。イシュタルの「まだ」という言葉は明らかにそれに反している。

 

 だが負けを認める訳には行かない。言ってしまえば神からの使命を果たさない。故にイシュタルは動揺を巧妙に隠し、平静を繕って言う。

 

「そうは言いますがな、ガハルド殿。南雲ハジメは神敵、判断は慎重にせねば──」

「神敵である事は前提だろう? この決闘はそもそも被疑者側は神敵だ。それは何の()()()()()()()()。神は勝てば許すとしたのだろう? これはそう言う儀式だろう? 貴様は神の意に反するのか?」

「────」

 

 イシュタルは今度こそ言葉を失った。言い訳が無い訳では無い。返す言葉が無い訳では無い。だがどれもこれも目の前の男には反論され得る。

 

 これまでの『神前決闘』ではこんな事は無かった。では何故──

 

 だがそんな意識の余白すら無視して、皇帝は威風堂々と声を張り上げた。

 

「確か…『勝利判定後、教皇が試合結果に難有りと判断した場合、三日間期間を置き、再度『神前決闘』を行う。この際のチームの再編成は許可される。』、だったか? なる程、貴様はこの勝負を難ありもしているらしい。…ハッ、くだらんな。この死闘の何処が難ありだ? 【ハイリヒ王国】の者達よ! 何処に難が有るか口に出来る賢者はいるか!? 俺様は全く持って分からん!」

『……分かりません!』

『戦士かく有るべし、私はそう思わされました!』

『歴史に残る素晴らしき試合だったと存じます!』

「嗚呼、そうだろう? 【ハイリヒ王国】の賢者達をもてしても分からんと言うのだ。俺に分かる筈もない」

 

 皇帝の威光は瞬く間に人々を惹き寄せた。或いは決闘より出でた白熱が人々を感化させたのか。矢継ぎ早に声は増え、そのどれもがハジメへと寄っていた。

 

 そうだろう。何故ならば今まさに百の見聞に勝る証明が、戦場にて示されたのだから。

 

 人々が明らかに皇帝の方に、ハジメ側に比重が向いているのがよく分かる。イシュタルはしてやられたと唇を噛んだ。

 

「見ろ! 貴様に向けられたこの視線の数々が、先の死闘に拳を掲げた者達の数と知れ!」

 

 視線が、針の筵の如くイシュタルに向けられる。これまでは羨望や畏敬に満ちていたそれが、今は打って変わって疑念や不満を露わにしている。たった数時間で変わってしまったその視線にイシュタルは狼狽えた。

 

()()()()()()()()! 我が国でも同じ様に、この決闘は正しくその規則(ルール)に則るべきだろう? 何故それをしない? 理由(ワケ)を早く言え、クソジジイ」

 

 そうだ。早く理由を言って試合をもう一度行わねば、負けてしまう。

 

 だが、だが!

 

 此処で理屈を付けて言ったとて、此処にいる者達は納得するか? 過半数の信頼を勝ち取れるか? この男の口を塞ぐ事が出来るか? そんな思考がイシュタルの頭に過ぎる。

 

 本来ならば適当に理由を話すだけで勝ち取れる信用があった。神の威光が、イシュタルの背にはあった。イシュタル自身にもそれだけの話術があった。

 

 だが目の前の皇帝はそれを全て瓦解した。神の威光をイシュタルから取り除き、イシュタルの話術を途中で遮り説得力を掻き消す。

 

 たらりとイシュタルの頬に汗が流れたのがよく分かった。少しでも良い言い訳を作ろうと身体中が情報を集めようとする。

 

 まあ、しかし。やはりと言うべきか。それは目の前の皇帝にとっては遅すぎる。

 

 彼はトドメとばかりに最後に一つ付け足した。

 

「ついでに言っておくと、もしもう一度試合をやるなら()()()()()()()()()()()()()()()。俺様に味方になりたいと思わせたのは他でも無い南雲ハジメだ。これもまた奴の人脈と言えるだろう? ルール違反では無いな」

 

 即ちもう一度『神前決闘』を行う理由。それを根刮ぎに刈り取って行った。

 

 イシュタルの望みが、プツリと切り落とされた音が聞こえた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「つまりはだ。イシュタルは井の中の蛙だったって訳だ」

「私に分かる様に言え」

「あいよ。面倒だがしゃーねーな」

 

 ピナ越しの様相を見ながら、幸利は話を続ける。

 

「まずこの『神前決闘』の会場において一番権力を持ってるのはイシュタル、次にエリヒドだ。此処まではOKか?」

「うんうん、そうね。それで?」

「それが『神前決闘』で教会が無敵な理由だ。単純に言えばイシュタルがどんだけ滅茶苦茶な事を言っても、それに反論出来ない状況。それを作ってるんだ」

 

 例えばハジメ側での権力者はリリアーナ、メルド、ウォルペン、そして愛子だ。だが前者三人はエリヒド、そして愛子はイシュタルにより完封され得る。

 

 つまりは権力の上位互換が常に教会側にいる。反論しても消され、勝っても改竄される。嗚呼なるほど、確かに最強だ。

 

「だから俺達は外部から権力者を呼び寄せる必要があった。それこそどっちにも負けを取らない様な奴を」

「それが…皇帝」

「その通り! 【ヘルシャー帝国】は人類最大の国家! 戦争になれば王国と教会が手を組んでも勝てない一大勢力! しかも『人類最強』ともなれば申し分も無い! ならば…教皇に反論出来る人間が一人出来上がる。しかも…『神前決闘』の在り方は矛盾してる。例えば勝ったら良い筈なのに、ケチを付けられたらもう一回とかな? 国民も馬鹿じゃ無い、それに違和感やら疑念やらはある筈だ。それじゃ、それは何で言葉に出来ない?」

 

 教皇、国王。どちらも共にあるカーストの頂点達。それ故に誰もが反論出来ない。本来客席には【聖教教会】と【ハイリヒ王国】、その二つの勢力しか存在しないのだから。

 

 もう分かるだろう。客席にある者全てが、反論を口に出来ない理由が。

 

「ついさっきアンタが言った…()()

「その通りだ。厳密にはそれ故に矢面に立てないんだよ、全員。逆に言えば、それを言葉に出来ちまう旗頭がいればみーんなそっちに行ける。そんでぇ…この通り♡」

「えっぐい手、使うわね…」

「まあな? でも躊躇ってたら死ゾ? ならやる理由しか無いんだよなぁ」

「良くやったわ、ユキ。褒めたげる」

「やったぜ」

 

 ガハルドは旗頭だ。教皇に、そして『神前決闘』に物言いを示すための象徴(シンボル)

 

 教皇の持つ『やり直し』、これは一見最強の手札に見える。だがこれはあくまでも人々の信頼があってこそ成り立つ規則(ルール)。その力は実の所、かなり脆いのだ。

 

 幸利の狙いはその地盤を丸ごとひっくり返す事。人々に主張出来る場を作り、真の意味で判決を平等にしたのだ。

 

 そこでふと優花が気がつく。

 

「…でもぶっちゃけそれなら全部皇帝あっての事よね? もし皇帝が見るだけ見て何も言わなかったらどうするつもりだったのよ?」

「うん? それなら死ゾ?」

「とんでもないギャンブルじゃない!?」

「HAHAHAHAHA!」

「笑ってる場合かぁ!!?」

「いやー、その辺りは信頼した」

「何をよ!?」

 

 そう、幸利がメルドに頼んだのは「ガハルドを『神前決闘』に招待する」。それだけの話だ。ガハルドとメルドの親交は深く、それ故に呼ぶまでは作戦として確定していた。が、当然試合後どうするかはガハルド自身に委ねられていた。

 

 正直に言って作戦とも呼べない、ただの運任せ。以前の作戦会議の際のドヤ顔を良く出来たものだと優花は呆れる。

 

 だが幸利はこの作戦に絶対の確信を持っていた。

 

「皇帝の信念と()()()。そのどっちもだよ」

 

 ま、教皇が速攻でやり直しを宣言してたらそもそも無理だったんだけどな? と笑いつつ、幸利はそう断言した。

 

 改めてまあ、作戦とはとても言えない。人の意志などと言う不確定要素を取り入れているのだ。状況によって変化し得る乱数を、アテにするなど本当に愚行だ。

 

「…なら、問題ないかしらね?」

 

 だがまあ、優花はそれを否定する気にはならない。

 

 二人は共に南雲ハジメに()()()()()()()。彼が持つ惹きつける力を、嫌と言うほどに知っている。

 

「さぁて、さっさとあの馬鹿迎えに行くぞ?」

「そうね…何処のあたりに転がってるかしら?」

 

 そうして二人は歩き出す。

 

 本気で人の胃の事を考えず、無茶ばかりするド阿呆に怒りの鉄槌を下す為に。

 

 …あとついでに。本当についでに「よく勝った」とその背を叩く為に。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

(マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ!!!!)

 

 イシュタルは追い詰められた。

 

 神の意思に従い、その神敵に鉄槌を落とさねばならない。

 

 だが同時に此処にいる全てを納得させねばならない状況を作られてしまった。

 

 正しくどうしようも無い盤面。口を閉じ、押し黙っているがこれもいつまで持つ事か。

 

 その時だった。

 

 ──カツンッ

 

 足音が鳴る。

 

 ただの物音にも関わらず、そこに秘められるはどうしようも無い程の清廉さ。イシュタルばかりに目がいっていた人々の目が、自然と其方に吸い寄せられる。

 

 そして人々は、銀の輝きを見た。

 

「…ほぅ、貴様が出るか。ノイント=エリジュヒト」

「面識は無かった筈ですが、御存知とは。身に余る光栄です。ガハルド陛下」

「…ふん、食えん女だ。()()()()()()()()()()()()。俺様をそこらの雑兵と同じにされては腹が立つ」

「おや…それは御失礼を」

 

 二振りの大剣を背に負う絶世の美女。武力、知力、外見。ありとあらゆる面で秀でた彼女は正しく天から愛された女性と言えるだろう。

 

 本来の目的で有る白崎香織の護衛。それを投げ出しているこの状況にイシュタルは困惑する。

 

 そんなイシュタルを無視して、神殿騎士団長と【ヘルシャー帝国】皇帝、二人が相対する。二人は幾つか会話をするとお互いの狙いを把握し合ったのか、すぐに視線を逸らした。

 

 そしてノイントは棒立ちとなりつつあるイシュタルに視線をやる。

 

「そして私がこの場に降りたのは他でもありません。…()()()()()

「!?」

 

 何故自分の名が呼ばれたのか。動揺やら焦燥やらで回らぬ思考を回す。

 

(そ、そうかこの場に来られたのは儂を助ける為に──)

 

 そして希望を見る。他でも無い神が自分を救う為に連れて来られたのだと。胸の中で神への畏敬が類を見ない程増し──

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…はへ?」

 

 ノイントは侮蔑の言葉をイシュタルに投げ付けた。それは他でも無い…()()()()の言葉だった。

 

『神前決闘』の件において舵を取ったのは他でも無いイシュタルだ。表向きにしてもそうであるし、事実()()()()()彼が主導であった。

 

 だからこそ()()()()()()()()()()、全責任をイシュタルに擦りつけて斬り落とすのが最善手だ。この場において矛先を向けられているのは他でも無いイシュタル、ヘイトを押し付けるのはあまりにも容易い。

 

 だがやられた側からすれば溜まったものではない。

 

「ま、待ってくだされ! 儂は今迄教会の為に! そして何よりも我が主神、エヒト様の為に尽くして参りました! だと言うのにこれは! これは余りにも酷ではありませんか!?」

「ええ、貴方の献身は神も御存知でしょう。私自身も貴方の献身は知る所。故に何も死ねと言っているわけではありません。ただ…その()()を明け渡しては如何と聞いているのです」

「────ッ」

 

 それは事実上の解雇処分。教皇の椅子を明け渡しての地方の教会への天下り処分。一見すればかなり甘い処分に見えるそれ。

 

 だがそれは…()()()()()()()()()を除けばの話だ。

 

 教会は憎まれている。魔人族から。或いは亜人族から。何なら一部の人族でさえも教会からの不条理を憎んでいる。そして当然、その長とも言える教皇ともなれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だからこそ天下り処分となった歴代教皇は、誰も残酷な死を遂げている。苦渋に満ちた首を暫く晒される事となる。

 

 つまりはこの処分は事実上の死刑。イシュタルとしては何としても避けたい結末。

 

 だがその前に、ノイントがそっとイシュタルの耳元に唇を寄せる。周囲から見れば教皇を降りる事となるイシュタルへの最後の慈悲にも見えただろう。彼女の美しき外見がそう思わせる筈だ。

 

 だがそんな客観視とは異なり、ノイントは()()()()()を告げる。

 

「エヒト様は次の様に仰いました。『イシュタルの落ちて行く様も面白かった。来世も期待している』と」

「────ぁ」

 

 ノイントの起伏の無い声からでも分かる神の邪悪さ。同時に神は人間を愛してなどいない。神は人類の味方で遊んでいる。そんな事実等がイシュタルの中で明るみとなる。

 

 もう限界だった。イシュタルは膝を折り、地面に伏す。信仰が砕かれ、未来も無いただの老ぼれは正気の無い虚な表情をしていた。

 

 絶望に染まる前教皇を他所にノイントは客席のあらゆる者を()()、そして告げる。

 

「皆さま、誠に申し訳ありません。神聖なる決闘を()()()が穢したと言う罪深き行為…許せる物では無いでしょう。どうか来世こそ、彼の魂魄が浄化されている事を願います」

 

 ノイントの声は鈴の音の如く、瞬く間に伝播した。

 

 静かな声にも関わらず人々の耳を揺らし、心を掴んで止まない彼女の舌。距離など関係無く、見る者全てが否応無く彼女に“()()()()()

 

 ガハルドが彼女を詐欺師の如く見ているのを他所に、ノイントは黙々と言葉を続けた。

 

「当然この決闘の勝者は南雲ハジメとその御一行です。彼等には誠心誠意の治療を施した後に、其々の要望を口にして頂きます。何と言っても神の施した試練を潜り抜けた御方。丁重に迎えねば失礼という物でしょう」

 

 話は滑らかに通って行く。まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな風にも思えて仕方がない。

 

 しかし彼女を見つめる民草はそうでは無い。滅多に公に出ぬ神殿騎士団長の顔を拝見し、声を聞くことが出来た。ならば彼等は本望とばかりに涙を流す。

 

「…ハッ、気味が悪いな」

「何の事でしょうか?」

 

 そんな会話が最後にあったとか無かったとか。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「う、ぅん?」

 

 気絶していたのだろうか。少年は目を覚ます。

 

 眼前には幾億もの星が散らばる夜があった。雲一つ無い夜空。異世界に来てからはじっくりと見る余裕など無かったが、こうして見れば何と綺麗だ。…ただまあ、血のせいでどれもが赤いが。

 

 身体が動かない。そもそも“魔錬・戦鬼”が無ければ動けなかった身。その発動を解き、尚且つ“魔錬・擬似限界突破”で痛めまくった以上、動けないと言うのは当然の帰結である。

 

(勝った…んだよね?)

 

 いまいち実感が湧かない。夜の中で寝そべって、空を見上げる。痛みと倦怠感が身体中を支配し、意識が微睡む。

 

 もしかしたら勝ったのはあくまでも夢で、現実では惨敗したのでは無いか。そんな予想がハジメの中で生まれ出した。

 

 そうして混乱していると、視界の中である物が浮かび上がる。

 

「月…か」

 

 幾つもの星が煌めく中、その輝きにまるで劣らない月がある。血の中でもなお、その白い静謐な光が見える。あの日の、最初の約束の頃の月に良く似ていた。

 

 そして戦いの中、駆け巡った走馬灯と故に気付いた想い。だからこそ立ち上がり、戦って成し遂げた。そんな事を思い出して、くすりとハジメははにかんだ。

 

 きっとあの結末は夢じゃ無い。漠然とそう思えた。

 

 ともすれば少しだけ笑えて来て── 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起きたんだね。南雲くん?」

 

 ──素晴らしく既視感(デジャヴ)な状況になっていた。

 

「………もしやすれば僕はまた膝枕して貰ってますか?」

「嫌かな?」

「ウェルカ──あっ違う。嬉しいけど、格好が付かないので…」

「試合は終わったから寛いでも良いんじゃないかな?」

「違う、そうじゃない」

 

 ちなみに前回は軽傷(当社比)だったので後頭部の感覚があったが、今回はこれまでの中でも別格。後頭部の感覚すら麻痺している。改め無くてもヤバさしか無い重傷である。

 

 しかも前回とは異なり、ハジメは自分の思いに気付いている。緊張感やら焦燥感やらは前回の比にはならないレベルである。押し出す血も僅かだと言うのに、心臓が張り切っている。かなーりピンチである。

 

「それにしてもすごい怪我だね? …頑張ったんだね?」

「自分で言うのは何だけど…人生一頑張ったかな」

「ふふふっ。そっかぁ、ならたっぷり癒やしてあげないとだね!」

「…またお世話になります」

「大丈夫、大丈夫! 【聖女】の本領、見せてあげるよ!」

 

 瞬間、香織の周囲に“光球”が満ちる。其々が円環を繋ぎ、連結された魔法陣を完成させる。

 

 完全に本気(ガチ)の大魔法行使に思わず、「えっ」と声を漏らすハジメ。しかし香織は構わず詠唱を続けて…その魔法を発動した。

 

「──“天照・八尺瓊勾玉”」

 

 瞬間、香織の掌に幾つもの癒しの光玉が生み出された。それを香織が手で掬い、ハジメへと流す。ふわりとそれぞれの光が宙に浮き、やがてハジメの身体に染み込み始める。

 

 効果は──あまりにも絶大。瞬時回復。先程まで重かった身体が万全の如く。試しに起き上がり、軽く身体を動かす。調子は…まるで問題無かった。快復と言えるだろう。

 

「どうかな? 一応大丈夫だと思うんだけれどね?」

「うん……すごく調子が良い。こんなのもあったんだ…」

「迷宮の時は帰りの分の魔力も考えなきゃだったから使わなかったんだけど…今回は回復以外にする事も無いからね?」

「本当にありがとう。助かったよ」

「ふふーん。半年間がんばったからね! 南雲くんはすぐ怪我するだろうからなぁ〜って」

「待って。それは僕が怪我する前提で考えてませんか?」

「違うの?」

「ちが………うと言い切れ無いのが凄く悔しい!」

「それでこそ南雲くんって感じがするね!」

 

 Vサインを作り、自慢げに笑う香織。その笑顔はトータスの前から見ていた、自然な笑みそのものだ。傷付いていた時の面影はまるで無い。

 

 ころころと万華鏡の様に忙しなく変わる香織の顔。しかしそのどれもが楽しげだ。彼女のそんなかつてと変わらない姿を見ているだけで、ついついハジメの頬も緩んでしまう。

 

(…ああ、やっぱり好きだなぁ)

 

 そんな事をついつい思ってしまう。

 

 面してもその想いは変わらない。むしろ積もるばかりだ。風に靡く黒髪が、優しげな雰囲気が、無邪気な笑みが。上げればキリがない程、好きな理由が湧き出て止まらない。

 

 一方で、この感情を果たしてどうした物かと悩む。言うのか、或いは言葉にせず留めておくのか。まあぶっちゃけ我慢するにしても、長くは持たないだろうなとは思うのだが。

 

(ただ戦場(此処)で言うのはムードもクソも無いからなぁ。せめて普通の観光地とかで告白したいよなぁ)

 

 そんな事をハジメが思っていると、だ。

 

「あ、ところで南雲くん。えっと…ね。その…」

「うん?」

 

 ハジメは何か雰囲気が変わったのを察知した。

 

 明確に何が、かは分からない。しかしこの半年間揉まれに揉まれて来た経験値により第六感(シックスセンス)が発動! 結果、ヤバそうと言う事が分かった。…何も分からん。

 

 ただ凄みがある。とんでもない転換期が眼前にて起きようとしているのが分かる。()()()()()を全く知らないハジメでもそれだけは理解出来た。

 

 そして…それは告げられる。

 

「あのね…まず南雲くんが私を好きって言ってくれたの…すっごく嬉しかったよ!」

「待って?」

「その…単に嬉しいだけじゃ無くてぽやーってしたって言うかね。頬が熱くなっちゃって、堪らなくなっちゃったというか──」

「待って待って待って待って待って、お願いだから本気で待って?」

「う、うん。どうしたの?」

 

 ハジメは困惑する。まさかの告白前から、相手が自分の好意を知っていたというトンデモ事実に。ラブコメでもそんな展開まず無い──えっ、最近は有るんですか? 多様化してますね?

 

 それは兎も角。

 

「えっ、何で僕の気持ち知ってるの?」

「えーっとね? 試合の途中で南雲くんの声が通信越しで聞こえて来てね? それで──」

「えっ…えっ?」

「? どうしたの南雲くん?」

 

 ただ今、香織さんがトンデモない事実を話してくれました。まさかアーティファクトの通信で、自分の恥ずかしい呟きが()()()()()()()()()()()と言うヤバい事実を。

 

 そりゃあ当然香織も知っている訳だ。人類全員が知ってるんだもの。何もおかしくない話ですね、こんちくしょうが。

 

「迂闊だった…何で独白とかやったんだよ、僕ぅ〜」

「えっと…南雲くん、何処か痛いの? 治癒する?」

「心が、痛いです」

「ちょっと治せないね、それは」

「これ程過去に戻れたらって思った日は無いッッ」

「えーっと…どんまい、南雲くん!」

 

 頭を抱えて地面に転げ回る。好きな人の目の前だが、平静など保っていられない。過去の自分からのキラーパスは見事、今のハジメにクリティカルを発生させたのだ。

 

 恐らくは過去一レベルのダメージ。光輝の後にラスボスが居たとはまるで思っていなかった。なおハジメは既に致命傷である。

 

 ただまあ、香織はよほど嬉しかったのか。堪え切れないご機嫌ぶりを振りまきながら、話を続行させた。

 

「それでね…そこで私も私の心に気付いたんだ。だからちょっと聞いて欲しいなって思うんだけれど…いいかな?」

 

 鈍感なハジメでも気付く。これは…()()()()()()

 

 意図せずとも香織の想いを理解し、胸が跳ねる。互いの想いが重なり合っていた事が、堪らなく嬉しい。

 

 ただ、やはり此処は男の性とでも言うか。

 

「ちょっと待って、白崎さん。その前に僕にケジメを付けさせてください」

「ふぇ?」

「その…独白を聞かれてたかも知れませんが、白崎さん自身にちゃんと、想いを伝えさせてください」

 

 聞かれていたかも知れない。想いが通じ合っていたかもしれない。

 

 だがそれでも。やはりこの想いは直接彼女に伝えたかった。面と面を合わせて言葉にしたいと、そう思った。

 

「…うん、分かった。だから…南雲くんの想いをちゃんと聞かせてね?」

「ありがとう。白崎さん」

 

 彼女も頷く。恐らくは同じ想いでいてくれている。

 

 戦場の真っ平らな世界で、二人は向かい合う。

 

 嗚呼、胸が高鳴る。これまでのどの修羅場よりも身体に緊張が走る。自分の想いを直接彼女にぶつかる事。そんな簡素(シンプル)な事にどれだけの勇気がいるのか。ハジメは今、身を持って理解した。

 

 どんな言葉が良いのか。どんな顔をすれば良いのか。そもそも此処で良いのか。幾つもの選択肢がハジメの思考をよぎっては消える。

 

 それを幾度と無く繰り返して、結局ハジメは想いをそのまま形にする事にした。

 

 右手の掌を彼女に差し出して。精一杯の笑みを作って。

 

 ハジメは言う。

 

「白崎香織さん。僕は貴女の事が世界で一番好きです。どうか僕と、付き合って下さい」

 

 嗚呼、何と飾り気の無い言葉だろうか。あまりにつまらない。ただ彼の想いを絞り出したかの様な、誠心誠意の言の葉。

 

 出し切った。そんな達成感がハジメの中で産まれる。

 

 それと共に…差し出した掌に、温もりが灯った。

 

 己の右手を見る。そこには自分の手を握る、細やかな手があった。

 

 そこから視線を上げる。見た事も無い様な。それでいて世界一幸せそうな。そんな表情をする彼女がいる。

 

 彼女は頬に涙が伝うと共に。自身の想いをありのままに語る。

 

「…はい。私も、ハジメくんの事が…これ以上無いってくらいに大好きです。だから…よろしくお願いします」

 

 彼女の左手が同様にハジメの右手に添えられる。手を通してじんわりと心地良い温もりが伝わる。

 

 それがあまりに嬉しくて。ついハジメもまた彼女の手を、自分の両手で包み込んだ。

 

 彼女は目を丸くした後、恥ずかしそうに。けれど頬を桃色にしてはにかむ。

 

 そしてじっと、見つめ合う。

 

 視線が絡み合い、通じ合った様に同時に笑う。

 

 それがまた可笑しくて。二人して声を大にして笑い続ける。

 

 其処は間違い無く、二人だけが見れる世界なのだろう。

 

 それは二人の顔を見れば簡単に悟れる事実であった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 どれだけ顔を見合わせ続けた事だろうか。

 

 遠くから声が聞こえる。親しい人達の声が。支え続けてくれた人達の声が。

 

 だから二人とも、其方に歩き始める。

 

 月光が作る影が地面に描かれる。

 

 手を繋ぎ前へ進む二人の影が、其処にはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──【勇者】、それは何も天より授かった才能の名前では無い。誇り高き英雄の別称でも無い。もっと簡素(シンプル)で、泥臭い称号だ。

 

 それはある時は愚者と呼ばれ、幾度と無く傷付き、地に倒れ汚れ…だがまだ立ち上がる者。

 

 それは旅路の途中で幾度と無く壁を前にし、それでも越えようとし諦めない者。

 

 それは鮮烈な生き方故に人々を惹き寄せ、やがて一つの大きな渦を生み出す者。

 

【勇者】。それはその名の通り、勇気ある者を讃える二文字。

 

 

 

──第33話、【勇者(ゆうしゃ)】VS【錬成師(ゆうしゃ)】──

 

 

 

 

 

 

 




==================================
 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:61
 天職:錬成師
 筋力:70 (魔錬・限界突破時:合計2700)
 体力:70 (魔錬・限界突破時:合計2700)
 耐性:70 (魔錬・武装時:合計900)
 敏捷:70 (魔錬・限界突破時:合計2700)
 魔力:70 (魔錬・限界突破時:合計2700)
 魔耐:70 (魔錬・武装時:合計900)
 技能:錬成[+物質鑑定][+精密錬成][+複製錬成] [+高速錬成][+圧縮錬成][+物質分解] [+物質探査][+物質分離][+物質融合][+消費魔力減少] [+自動錬成][+干渉領域上昇][+イメージ補強力上昇][+消費魔力大幅減少][+超精密錬成][+並列錬成][+陣地作成][+想像錬成]・言語理解
 ==================================
☆所持アーティファクト
・手袋…厳密には手袋自体には何の効果も無い、魔法陣が掘られた準アーティファクトの品。ちなみに二度目のベヒモス戦後、“想像錬成”が発生したので今は別に要らない。勇者戦でもお守り代わりに装備していた。

つーわけで、コイツは作中で使ってる技はあくまでも技能頼りは無し。
あくまでもその果ての技術とか言う規格外のド阿呆です。
一章の5話と見比べようぜ!
あんまステータス自体は変わってないぜ!

はいっ! と言うわけで計22775字!
…ほぼ2話ですね、ハイ。
途中で切れやって声も聞こえて来ますが無視します。
作者はプロポーズ完了からの、サブタイトル表示がしたかったんや。
だから強制的に2話を統合した。
反省も後悔もありゃしねぇぜ!

そして遂に…実りました、ハジカオが。
長かった…本当に、本当に長かった。
ちなみに此処に行き着くまで、現実時間にしてほぼ一年近くです。
あと二ヶ月でガチで一周年となっておりました。
此処まで追って来てくれた皆様には敬礼を。
39話という文量を読み続けて、それでも尚ハジカオを求めて来た読者…まさに面構えが違う。

まだちょーっと伏線とかもありますが、その辺りはちゃーんと一章で収めるので御安心をば。

取り敢えず…次回一章エンディング。


ーー追記
らびさま様
AnotherDAY様
御留我威都我様
Груша様
踊り子の息吹様
XANX様
村井ハンド様
霧咲エルガルド様
評価誠に感謝、感謝させていただきます!
加えていつもご丁寧に誤字を教えてくれる皆様。
また嬉しい言葉を投げてくれる感想欄の皆様。
全てのお方に絶大なる感謝を!
この作品はそう言った応援にて出来上がっております。
『神前決闘』編を書き上げられたのは本当にそれが大きいです。
マジでありがと!

…あと一つ自慢させて頂きます。
この作品、ありふれ系の中で総合評価18位です!!!!(2021年8月16日現在)
軒並みいるありふれ界の猛者の中で18位獲得…控えめに言ってヤバ無い?(汗)
本気で皆さまの応援あってです。
ありがとうございます!

次回は遅れずに投稿したいと思います(戒め)

それではまた!

この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?

  • ハジカオ!
  • オリジナル展開!
  • 成り上がり要素!
  • 考察要素!
  • 曇らせ!
  • 感想返し!
  • ダイレクトマーケティング!
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