恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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28日、日間15位を獲得しました!
見つけた途端、ファッ!?ってなりました。
皆様本当にありがとうございます。

あとランキングで別のハジカオ作品見つけて嬉しかったです。
…あっちの方がさてはハジカオしてるな?(名推理)
俺も負けてらんねぇ!!
ハジカオを書くんだぁ!!(それではどうぞ!)


2、午前は実践訓練 〜〜筋肉痛と頭痛を添えて〜〜

 昨晩、急に現れたリリアーナの腹心にして、ハジメの専属侍女代理となったヘリーナ。彼女についてハジメは少し考え事をしていた。

 

 まずリリアーナの腹心がわざわざハジメに付く事となったのは、先日侍女二人がハジメに対して暴言、迷惑行為、更には迷惑行為を行なったことが理由と事。

 

 懲罰をまだ受けていないハジメはレッテルのみではあるが『神の使徒』。その様な無礼は許されるものでは無い。

 

 結果、二人は減給及びしばらくの謹慎を喰らっている。少し甘い気もするが世間の評価上、仕方がない所だ。

 

 そうとなればハジメに対して誰かしら別の侍女を当てる必要がある。しかし侍女のほぼ多くが聖教協会の信者であり、彼女らの二の舞となる可能性がある。

 

 そこで目をつけられたのがヘリーナである。リリアーナの腹心たる彼女はリリアーナの命に背くことが無い。唯一ハジメに危害を与えないだろうと、リリアーナは判断した。

 

 そのためハジメにあった専属侍女を探し終えるまではヘリーナが担当を務める事となった、とここまでがヘリーナがハジメに昨夜伝えた理由である。

 

 ハジメの目から見てもヘリーナは優秀だ。昨夜掃除が終わった後、部屋は劇的ビフォーアフターを迎えた。部屋にこびり付いていた赤い汚れ等も今や痕さえ見えない。それに赤く乾いていた服も真っ新な新品の様に早変わり。赤色が滲んでいた木のベッドも、その色が見事抜かれていた。

 

 …先程から汚れの種類が主に赤色な何かしかないが、何も気にする必要はない。掃除していたヘリーナにちょっと気の毒そうに見られたが、本当に気にすることではないのだ。

 

 まあ、そう言った風に今までの生活が嘘の様に快適になった要因であるヘリーナ。ただ彼女に関して少し、疑念を拭えずにいた。

 

(何か…ヘリーナさんが来てから妙に落ち着かないんだよな…)

 

 それは対女性による緊張と言ったものではない。言うならば不安から、だろう。ハジメは敏感に何かを感じ取っていた。

 

 ただそれが何かは分からず。一夜挟んだ現在でもなお頭を捻らせざるを得なかった。

 

「…で? 話は聞いていたか、坊主?」

「………すみません、聞いてませんでした」

 

 今現在は深夜四時。まだ朝日も昇らない時刻ハジメとメルドは訓練場に来ていた。流石にこうも早いと人は来ておらず、紛う事なきマンツーマンだ。

 

 昨日から現れたヘリーナについて考えていたハジメは、ついうっかり目の前の優先事項を聞き漏らしていたのであった。

 

 メルドはそんなハジメに「まったく…」とだけ文句を言うと、すぐに先程まで言っていたであろう言葉の反芻を開始する。

 

「王国式の剣術にはそもそもの前提が存在する。例えば…筋力、敏捷が一定レベル高い事などな」

「ぐぬぅ──っ。やっぱりステータスの低さがネックですか…」

「当然と言えば当然だ。王国騎士には素質のある者を吟味した上で更に振るいを掛ける。ある程度は技術でカバー出来るとはいえ、お前クラスの低さはまず王国騎士にはいない」

「…まあ、そうですよね」

 

 メルドは強くステータス至上主義を断言した。改めて低すぎる己のスペックを恨めしく思うハジメ。しかしメルドの言葉には続きがある。

 

「ただ…坊主、お前には得難い素質が…二つ程ある。勇気と瞬時における把握能力だ」

「おおー! …お?」

 

 メルドに認められるほどの才能があった事をハジメへ素直に喜んだ。が、同時にそのメルドが言う才能に心当たりが無く、疑問符を浮かべた。

 

 分かりやすい二重のリアクションにメルドは顔を俯け、呆れた。そしてもう少し自覚を持てと叱咤する。

 

「お前さんは自覚がない様だからな、敢えて言おう。迷宮での戦い、あの時大概の者は我が身の保全の為闇雲に骨の兵と戦っていた。光輝達の場合撤退が視野に入っていなかった。俺に関しても光輝達を守る事を優先した。雫も薄々気づいていた様だが、場に呑まれて言えなかったのだろうな。要は冷静に成れている者がほぼ居なかった訳だ。──お前さんを除いてな」

 

 メルドがハジメを指さした。不思議と拳がぐっと握られていた。王国騎士団長の称号は伊達などでは無い。メルドのその言葉一つ一つには、有無を言わさぬ説得力が込められていた。

 

「お前さんは弱い。そして生憎軍官の様な指揮能力も十分とは言えんだろう。あの作戦には柔軟性が無かった上、行き当たりばったりのものだ。それは言うまでも無い事実だ。だがお前さんは未曾有の危機の中でもなお思考を巡らせる事ができる。弱者でもなお窮地に難なく飛び込める勇気がある。…だからこそお前さんはこの思考を鍛えるべきだ」

 

 メルドの目は真っ直ぐハジメを捉えている。その視線が外れる事もなく、恥ずかしげも無くハジメの『特別』を称える。

 

 我ながら単純すぎる、とは思うがハジメは見事メルドに乗せられている。だがそれはメルドが本心から己を認めてくれるが故だろう。目の前の男の偉大さの一面を覗いた気がした。

 

「王国式の剣術は一対一の戦いにならば非常に強力だ。相手が複数居ようと相手取る事も難しくは無い。しかし型の指導である分、騎士はどうしても対応性が足りなくなる。そして対応性が削られるのは坊主、お前の本分では無い。故に…俺は敢えて技術を教えない」

「──!? な、なんで!?」

 

 ハジメはてっきり漫画でよく言う「力が無いなら技を磨くまで!」的なスタンスで行くとばかり思っていた。それで強敵を倒すまではいかないが、時間稼ぎなりは出来るとは思っていたからだ。

 

 だからこそメルドの言葉には驚かざるを得なかった。

 

 流石にこれはメルドも悪いとは思っている様で、しっかりとハジメに説明した。

 

「恐らく俺が下手な事を教えれば、お前さんにとっては思考の枷になる。お前さんは常に思考すべきだ。どうすれば相手から逃れられるか、どうすれば相手の隙を突けるか、そして相手を倒せるかをな。故に行うのは実践形式での戦いだ。武器は…片手を空けて短剣にしよう。下手に大きな武器を使うより回避も取りやすい上、攻撃後に粗が出づらい」

 

 そう言ってハジメに渡されたのはシンプルなデザインの短剣だ。刃渡りは40センチあるかどうか。簡素な作りではあるが、グリップは手に馴染み、確かな実用性を備えている。

 

「とは言えだ。技術や思考を得た所でステータスの高さには勝てん。現に俺は技術だけならば光輝より上だが、“限界突破”を使ったアイツに勝つのは…そうだな二、三割程度と言った所か。後に完敗する事になるだろうがな」

「…えぇ」

 

 身も蓋もない話に、じゃあ今までの話は何だったの? という不満とステータスが明らか上の光輝くんに勝てるメルドさんって化け物? という畏怖の篭った声が口から漏れ出てしまう。

 

「ははは! それは当然だろう。技能、技術、アーティファクト、様々な搦め手はあるが、一番重要なのはステータスだ。…ところで話は変わるが坊主、戦闘職と非戦闘職の大きな違いは何だと思う?」

「え? …普通にステータスの高さじゃ無いんですか?」

「それだけか?」

「技能の得られる種類とか、魔法適性の高さ…ですかね?」

「そうだな、それらもある。他には?」

「…天職の発生確率とか」

「まあそれに関しては一概には言えんがそうだな。だが俺が欲しい答えじゃ無い」

「………すみません、分からないです」

「まあ仕方ない。これは世間にも伝わっていない上、理屈もよく分かっていない話だからな。じゃあ別の問題を出そう」

 

 戦闘職と非戦闘職、確かに区分されてこそいるがそこにあまり着目したことは無い。一応世間一般で言われていることを挙げてみたが、やはり違う様だ。

 

「実は俺の部下の一人には非戦闘職の騎士がいるんだ。ただそいつはお前さんと違って高いステータスの値を持っていたがな。そこは勘違いするなよ?」

「今日だけで僕は何度ステータスの低さを憎めば良いんですか?」

「機嫌を損ねるな、済まなかったな。…さて話を戻すがその騎士と同じステータス値で、『剣士』の天職持ちが居てなぁ。ちょうど技量も同じぐらいだったから二人に手合わせをさせてみたんだ。ああ、ちなみにどっちも“剣術”の技能は持っているぞ? するとどうなったと思う?」

「…イーブンくらいじゃないですかね? ステータス値も同じで、技術も同じぐらいなら」

「まあ、そうなると予想するだろうが、結果は『剣士』持ちの圧勝だった。技術レベルは分からなかったが…鍔迫り合いで『剣士』の方が壁まで相手を押さえ込んでなぁ…。そこからは滅多撃ちというわけだ」

「…ステータスは変わらないんですよね? それで力負けしたんですか?」

「ああそうだ。…じゃあここで問題だ。何故力負けしたんだと思う? ちなみに接近戦技能は双方それ程変わらんぞ?」

 

 ハジメが最初に思ったのは身体強化系の技能の差、しかしそれは無いと言われてしまった。それでは天職自体に武器を扱う差が発生するのか、とも思ったがメルドが言っているのは『力の差』だ。主旨が異なる。

 

 それならば天職によって発生する違いは──

 

「──見えないステータスの差があった?」

「まあ、そんな所だ。厳密には体に流れる体内魔力、こいつの流れが戦闘職の方が()()()()()らしい。王宮魔術師がそう言っていた。それで何故強くなるのかは分からんが…重要なのは理屈じゃ無い。わかるか、坊主?」

 

 体内魔力の流れの違い、確かに何故それで身体能力に差が出るかは分からない。人間でいう所の呼吸の様なものだろうか、と一瞬思考する。

 

 しかしそんな理屈はメルドの言う様に二の次だ。本題は魔力の流れの速さによる身体能力の強化、それにこそある。すなわち──

 

「体内魔力をコントロール出来れば…身体能力をカバー出来る?」

「恐らくは、だがな。それにお前さんの場合は魔力の全体量が少ない事を考えるとそれ程の影響は出ないと思われる。が、それでも可能性としてはあるだろう?」

 

 今から自分がするのは戦闘職が自然に行なっている事を頑張って真似することだ。しかもそれによる成長の見込みも非常に低い。されど成長の兆しは見える。

 

 同時に本気でメルドが己に合った訓練方法を考えてくれたのだと感じる。今までメルドが持っていたであろう常識をもかなぐり捨てて、ハジメを強くしようとしてくれている。

 

「それで? 坊主、あとはお前さんの覚悟だけだ。俺はお前さんのミスには口出しするが具体的な攻め方は何も言わん。普通ならば一から教える所を省くんだ。お前さんの負担は普通じゃない。それでもこの訓練を受ける覚悟はあるか?」

 

 メルドが木製の直剣を握り締めて構えた。切先はハジメに向けられている。その剣はハジメの短剣と違い、刃が落とされている。それでも十分に質量はあるし、一流の武芸者であるメルドが握れば間違いもなく凶器だ。当たれば手加減があろうとも、少なくないダメージを負うだろう。

 

「…僕の短剣、刃が付いてますけど」

「お前さんは人を傷つけるのを躊躇いやすい。悪いが慣れろ。言っておくが本気で振れよ? 加減して当てられる程俺は甘くは無いからな?」

 

 どうやらハジメの短剣の刃はワザと付いているらしい。他人を傷つける事勿れ主義ぶりがメルドにはバレているらしい。日本などの平和な世界では美徳だが、このような世界では足元を掬われかねないそれをメルドは矯正しようとしているわけだ。本当にこの人は自分の事をよく見ている、と思わされる。

 

 更に言えば護身術程度の訓練でなく、ハジメを本気で強くしようとしてくれている所からもそう思わされた。彼女に追いつけるほど強くなりたいというハジメの願いを知っているかの様だ。

 

 ならば応えない訳には行かない。

 

 体内魔力の循環、は良く分からないがそれでも絶えず意識する。そして右手で短剣を握りしめ、左手をそっと添えた。体は低くして、すぐに動ける様準備する。

 

 そして一声。

 

「お願いします!!」

 

 叫んだハジメにメルドはニヤリと笑う。そして示し合わせる事もなく二人は足を踏み込んで──

 

「あぐっ!?」

「あっ…すまん、坊主」

 

 一戦目は一合のみの決着となった。メルドが手加減してもなお、反応できなかったのだ。ちなみに今のメルドの動きをステータスで示すならば50程か。ハジメの4〜5倍程である。

 

「…もう少し、遅くするか」

「すみません、お願いします」

 

 何とも前途多難な開始となるのだった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「いててて…まだちょっと痛むな」

 

 朝9時、個人的な訓練が終わりメルドと別れた後、ハジメは食堂に来ていた。所謂エネルギー切れというものである。ただ正直腹に入る気がしない。精神的にも、物理的にも。

 

 修行は本当に過酷だった。体を動かし、魔力を意識し、相手の動きから最適な動作を予想して行う。まあ、戦闘どころか武芸さえも初心者なハジメは無惨にもメルドにボコスカ殴打された。

 

 ちなみに寸止め形式にしないのは「痛みが無ければ反省もし辛いだろう」というスパルタな理由から。改めてメルド師匠は容赦がない、そう思わざるを得なかった瞬間である。

 

 結果、ハジメの身体中には痣ができ、足や腕は筋肉痛、頭は体内魔力操作や瞬間思考の連続により頭痛で痛み、お腹はポーションを飲み続けた結果膨れていた。

 

 なおこの世界でのポーションは「飲んだら怪我がすぐ治る!」とか「魔力回復が速攻で!」と言ったものでは無い。どちらかと言えば回復を促すものであり、改善までの時間が短くなるだけのものだ。

 

 とは言え飲まなければ、この修行中にハジメは二桁に及ぶほどに死んでいただろう。味もかなり不味いのだが、迷宮での決死行に続き飲み続けた結果、特に気にならなくなりつつある。もはや慣れ親しんだ味とも言えた。

 

 ただまあ当然ポーションは薬品の部類であり、決して食品では無い。朝ご飯をこれだけにすると、何か詰め込まねば後々に響くだろう。

 

 ハジメも食費など最低限の生活ができる程度には、今も国から援助を受けられている。一応無くなったも同然だが『使徒』、無下にする訳にはいかないと本当に最低限の金額がハジメには与えられている。

 

 ただ今は腹に詰めることが先決。一番安い黒パンを買う事を決意する。アレは量の割に腹が膨れるが、残った分は昼に食べればいいと日本系ママン達な感性でハジメは行く。

 

 するとギラリギラリとこちらに向く視線の数々。そのどれもが害意、敵意に溢れたそれである。一人や二人でも気分が悪いだろうが、それが幾十人もから向けられたとなれば中々に堪えるだろう。

 

(またやってるな〜、そんな事より食事だな)

 

 なお本人としてはもう割り切った事であり、もはや恒例行事。気味の悪さや恐怖よりも食への使命感を優先させた。ちなみに体内魔力の循環は未だに意識しており、そちらに意識が散漫していた、というのもある。

 

 ただ本人としてはそうでも、周りは違う。むしろその余裕ありげな態度が気に食わないとばかりに騎士の一人が席を立つ。そしてハジメの方へと歩いてくる。

 

「おい! 【裏切りも──」

「あっ、南雲! 何でこんな所いんのよ、早く行くわよ!」

「へ───?」

 

 怒号をハジメに浴びせようとする前に、不意にハジメが何処かへと連れていかれる。ハジメ本人は何が何だか分からないが、ステータス差により外へ連れて行かれる。ハジメは名残惜しそうに黒パンの屋台を見つめていた。

 

「たく、時間ぐらいちゃんと見てなさいよ。約束の時間に間に合ってないじゃない」

「????」

 

 騎士や食堂の人間全員が瞬く間に食堂の奥へと消えていったハジメと『使()()』を見つめて、ポカンと口を開けるのだった。

 

 

 

 

 そして食堂から多少離れた城の野外、その一角。そこにハジメと彼女はいた。

 

 ただハジメとしては正直彼女と約束した事も、絡まれる覚えもない。そういえばメルドさんが言ってたなぁとは思っているが、その実接点がハジメの中で無いのは確かだ。

 

 とりあえずこの状況が何か尋ねようと声を掛ける。

 

「え──っと、園部さん? これ、どういうこと?」

 

 視線の先にいるのは『愛ちゃん護衛隊』のリーダー格にして、メルド曰く味方陣営の園部優花、その人だった。

 

 彼女は切長の瞳をギラリと光らせハジメを睨む様に見る。そして数秒、「ああもう!」と栗色の髪を乱暴に掻いてから口を開けた。

 

「何やってんのよ、南雲!? 何で食堂にノコノコと姿表してんのよ!? 周りアンタに危害加える気満々の奴等よ!? またベッド送りにでもなりたい訳!?」

「なりたく無いよ!?」

 

 まさかの物言いに反論するハジメ。ただ確かに彼女の言っていることは正論である。

 

 もしかして心配してくれたのか、と頭に過ぎるハジメ。そんなハジメとの距離を一歩詰めて、優花はヒートアップする。

 

「だったらもうちょい隠れるぐらいはしなさいよ! 一触即発寸前だったじゃ無い! そうなったら本気でベッド送りよ!? いや、アンタが悪く無いのは分かってるけど…こんな状況なんだから! また白崎さんが悲しむわよ!?」

 

 語調は荒く、言葉の選びは攻撃的。されどハジメを思って言っているのは確かだ。現に言葉の端々に優しさがこもっている。

 

 敵意に慣れ切ってしまったことや思考が足りなかったのだろう。堂々と人前に現れるのは、確かにハジメの警戒不足だ。香織の泣き顔を思い出しつつ反省する。

 

 優花は恐らく、何かしら心配してくれていたのだろう。理由は分からないが、それでも素直に感謝しようとは思えた。

 

「そっか、心配してくれたんだね。ありがとう、園部さん」

「いや別にお礼とか良いわよ。こんぐらいの事で。助けて貰った恩もあるし…」

「………助けた?」

 

 優花の言う『恩』にどうも心当たりが無い。そもそも話した覚えすらもほぼ無いのだ。果たしてそんなもの有ったか…、と記憶を辿る。

 

 するとハジメの内心を察したのか、「それもそうかぁ」と優花は頷いた。

 

「ああ…まあ色々あったもんね。そりゃあ忘れてて仕方無いわ。…六十五階層で骸骨に殺されそうになった所をアンタに助けられたのよ。あとはデッカい魔物も足止めしてたでしょ? そう考えたら二回もアンタに助けられてるって訳」

 

 ハジメの脳裏に蘇る記憶。確かに光輝に駆け寄る前に、一人“錬成”でトドメされ掛けている所を助けた様な…と思い返す。

 

 正直その後、ベヒモスの足止め、味方の誤爆、香織による救助、冤罪、被虐、そして昨日の約束…と怒涛の様にトラブルやらが押し寄せまくったハジメ。ついついその記憶を忘却し掛けていた。

 

「助けてくれなかったらまず私は死んでた。それに足止めしてくれてなきゃ、多分私以外にも死んでたわよ。周りの奴らがどうしてアンタを貶してるのか分からないけど…それでも私は覚えてる。感謝してる」

 

 風が吹く。そらに煽られて、彼女の栗色の髪がふわりと浮いた。視界にふと赤いゼラニウムの花びらが映る。

 

 そんな中、園部優花は顔を少しだけ赤らめて、ハジメの目を見る。その見つめる目にハジメは自然と視線を引き寄せられる。

 

 そして破顔して間もなく、彼女は言った。

 

「──あんがと、南雲。私はアンタが助けてくれた事、絶対忘れないから」

 

 ハジメがあの時走ったのはあくまでも己の為だ。他人の死を見たくない、誰かに傷ついて欲しくない。そんな独善で死地に己を放り込んだ。

 

 ただそれでも冤罪を掛けられることは理不尽だと思ったし、あの戦いで己の認識を改めてくれる人が居なかったというのも僅かにショックだった。

 

 だからこそ、純粋にその言葉は嬉しかった。

 

 あの戦い以降本当にロクな事はなかった。全員無事に助けられたものの、得られた物も改善された事も何も無い。ただ傷つけられ失っただけだった。

 

 何とも単純な話だ。しかし、彼女に認められた事によりあの時の戦いが誰かの救いに成れたのだと、ハジメは気づく事ができた。

 

 それが少しばかり照れ臭くて。それでも紛う事なく嬉しくて。ハジメは頬を掻きながら破顔した。

 

「こっちこそ…僕がやった事が無駄じゃ無いって思えた。だから…ありがとう、園部さん」

 

 すると優花は何故かそんなハジメを見て、一瞬硬直する。目を見開き、頬を赤く染める。そして硬直が解けるとすぐ目線を逸らしてしまった。

 

「…別に、そんな大した事言ってないじゃない」

「ううん。僕にとってはきっと大事な事だったから…」

「そう…なら良かったわよ」

 

 目線は逸らされたままだし、口調がまたもや素っ気ないものに戻っている。ただ口元に僅かに残る微笑みは隠しきれていなかった。それがまたハジメにとっては嬉しかった。

 

 するとそんな風に気が抜けたからだろうか。何とも間抜けな音がハジメの腹から鳴り出した。

 

 時間が経った為か、ポーションによるお腹の膨らみも無くなっている。マトモな飯を寄越せと、ハジメの胃はご不満の様子である。

 

「…そういや食堂向かってたんだっけ?」

「うん、朝からちょっと訓練してたから、どうもお腹が減っちゃってさ」

「でもまだあんま時間も経ってないだろうし、騎士連中もまだいる時間帯よね…」

 

 本来なら食堂に行って黒パンなり何なり買いに行くのだが、いかせん優花に注意された直後だ。行く事がどうも躊躇われる。

 

 仕方が無いが、今日は朝飯を抜きにしようとした所だった。優花がハジメに背を向けたのは。

 

 一体何だとハジメが気付いた所で、優花が急停止。そしてハジメの方に振り向いて指さす。

 

「ちょっとそこで待ってて、南雲!」

「えっ? アッハイ」

「5分…いや3分で戻るから!」

「りょ、了解です」

 

 ハジメがそう言うと、今度こそ優花は背を完全にハジメに向けて駆け出した。

 

 流石は戦士系の天職持ちと言うべきか。優花はパルクールの様な動きで、城の二階に着地する。そしてその先の廊下へと走り出した。ハジメから見えない程に遠くへと行くのにはそう時間は掛からなかった。

 

 先程無理矢理引き摺られた事といい、あまりものステータス差に若干のショックを隠せない。

 

 すぐにハジメは意識し忘れていた体内魔力の回転を、再び意識し始める。単純に対抗意識が出てしまったのだろう。そういったところはまさしく男子である。

 

 やがて頭痛が再発した頃、優花が二階からハジメの元へと飛び降りて来た。重力を感じさせず音もなく着地した優花は、手に持っていた何かを「ん」とだけ言って差し出した。

 

 どうやらそれは木製のバスケットの様だ。花柄の布で蓋をされており、何やら(かぐわ)しい匂いがする。

 

 優花に許可を取り、その布を取ると現れたのは色鮮やかなサンドイッチが姿を現した。卵、レタス、ハム、照り焼き、ホイップクリーム…一品ごとに異なる具材が挟まれており、手が混んでいる物だと察する事ができる。

 

「流石に朝飯抜きは可哀想だしね。それ、食べて来なさいよ」

「えっ!? 悪いよ!」

「何? 一応それ私が作った物よ? 流石に食べる前から不味そうって決めつけるのは酷くない?」

「違うよ! って園部さんが作った物なの!? なら余計悪いよ! 僕なんかにこんな手間暇掛けたものくれるなんて…」

 

 見た目があからさまに手作りの範囲を通り越しているサンドイッチに、かなりの遠慮を見せるハジメ。悲しいことに彼は人の好意という物に甘える事に慣れていなかった。

 

 しかし優花は遠慮するハジメをかえって鬱陶しそうにしながら、受け取るよう迫る。

 

「問題無いわよ、それあくまでも試作品だし。私、趣味料理だからさ。適当に作ってみんなに配って、感想聞こうってだけだったから。だからそれがアンタの手に渡っただけだし、何の問題もないわ」

「でも…」

「それにもし南雲が食堂戻ってベッド送りになったり、昼飯抜いてそこらで倒れられても困るからね。受け取っといてよ」

「…園部さん、僕のことなんだと思ってるの?」

「火中の虫より儚い生物」

「それは流石に酷くない?」

「良いから受け取りなさい。もし甘えるだけじゃ悪いって言うなら感想でも教えて。これでも飲食店の娘だからね、リピートは欲しいのよ」

「ま、まあそれじゃあ…頂きます」

 

 見事に押し切られたハジメは、サンドイッチを一つ頬張った。ハムとレタスのサンドだ。シャクシャクとレタスを食む音が口から鳴る。見た目に劣らぬ美味しさ。

 

 続いて手を伸ばしたのはチキンの照り焼きサンドだ。味のしっかりした照り焼きソース、そして飽きさせない様辛子が所々に散りばめられている。

 

 思わず目を輝かせるハジメ。そしてハジメが気付かぬ間に、優花は胸を撫で下ろしていた。舌に合わない、と言った事が無く安心した様子だ。

 

 そうして割と量があったにも関わらず、バスケットはものの見事に空となった。一人で完食してしまったのを謝ったが、優花は「製作者としては嬉しいわ」と上機嫌で言った。

 

 その後、多少強引に押し切られる形で、今後の昼飯は優花が作ってくれる事となった。好意に甘える形で悪い気もしたが、美味しかったのもあって一日の楽しみが一つ加わる形となった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 十分に腹を満たし優花と別れた後、訪れたのは昨日と同じく王立図書館だ。メルドに教えられた事もあり、今日は魔力方面について調べようとしていた。

 

 …が、ここで一つ問題があった。

 

「魔法関連の書籍って…やっぱメインは魔法そのものなんだよなぁ…」

 

 目の前の本棚には『火属性魔法・初級魔法詠唱文』、『風から雷への進化方法』、『幻の神代魔法を求めて三千里』など…、本当に魔法そのものの書籍しか無い。

 

 仮にタイトルに魔力とある物を見つけても、『魔力光による告白法』といったもの。…いや、これはこれで何かは気になるが…。

 

「うーん。魔力魔力魔力…何か無いかなぁ」

 

 やがてハジメはそう呟きながら本棚を舐め回す様に探す。側から見ると明らかに不審者だ。現にそんなハジメから目を逸らして本探しをする人も少なく無い。司書さんが僅かに眼光を鋭くした。

 

 ただそんな周りが見えていないのか続けて呟きながら捜索を続けるハジメ。そんな彼にトントンと何かが肩を叩いた。

 

 集中していたところにそれだった為、目を向いて飛び退くハジメ。そして体を翻し、叩いた者を見る。その人物は予想外に見た事のある人物だ。

 

 特徴的なのは顔にあるそばかすとその顔を覆うフードだ。髪は目に届く程で、余計陰気な雰囲気を醸し出している。

 

 ──【闇術師】、清水幸利。

 

 メルド曰く中立派。しかしその中でも取り分けハジメの話題に興味を持たなかった、とされている。

 

 そんな彼を少し警戒して見ていると、幸利は一冊の本を差し出して来た。

 

「これ…魔力関連の本。…探し終わったよな? なら退いてくれ」

 

 その本のタイトルは『魔力とは』という如何にもシンプルなタイトル。これならばハジメが求めていた内容とさほど変わりは無いだろう。

 

 同時に邪魔になる訳にはいかないと横にずれて、清水に場所を譲る。そしてハジメは図書館の勉強机へと向かおうとして、清水の声をふと聞いた。

 

「何で生物干渉に関する本がねぇんだよ、畜生…何処だ何処だ何処だ…」

 

 ぶつぶつとそう呟く清水は先程のハジメ同様、不審者扱いされている様だ。清水の場合服装も相待って尚更だろう。人々が逃げる様に離れていく。

 

 だがハジメはその声を聞いてある本を取り出し、清水の元へと行く。距離を詰める途中、清水が「また来たのか」とうざったらしそうな目を此方に向けて来た。だがハジメが持つ論文を見て、反応を変える。

 

「『無意識的な非干渉領域生成説』…」

「これ、清水くんが探してた物に割と合致すると思うんだけど…どう?」

「お、おお」

 

 ハジメが取り出して来たのは前日読んだ論文、その一つだ。その太さはかなりのものであり、他の論文と比べ時間を取られた事をよく覚えていた。

 

 兎も角探していた関連の書籍を差し出され、困惑しつつもそれを取ろうとした清水。しかしその前にハジメがその書籍を引っ込めた。

 

 どう言うことか、と懐疑的な視線を向ける清水。それに対してハジメはある提案を行った。

 

「これは提案なんだけど…この論文って無駄な内容が多いんだよね。神様関連とか独りよがりな発想とか。多分さっき清水くんが渡してくれた本もそうだったでしょ?」

 

 この世界では地球に比べ、物事を客観的に観測するという視点は培われていない。宗教が根強く広まっていると言うのもあるのだろう。

 

 この論文にも「つまり神エヒトが我々に与えてくださった形無き鎧であり…」と言った独りよがりな供述が数多くあった。そもそもそう言った内容が半分以上だった。地球であれば「素人質問恐縮ですが…」とボコボコにされるレベルだ。最も本人の思想による水増しが多いだけで、考え方などはまともであったが。

 

 そう言った打算もあったが、ハジメが誘った理由としてはもっと直感的な何かだ。敢えて言うならばメルドに話すのを勧められていた事が挙げられるかもしれない。

 

 兎に角、清水を引き止める為に誘うハジメ。そんなハジメを清水は胡乱な目で見た。

 

「お、おう。それが何だよ?」

「だからさ、ちょっと教え合わない? お互いに読む時間も少なくなるし、新しい視点も取り入れられるだろうからさ。…どうかな?」

「…やなこった。お前に付き纏われたら面倒しかねぇだろ」

「ちなみに僕、これ以外にも幾つか生物干渉に関する論文読んでるよ?」

「お前【錬成師】だろ!? 何でだよ!?」

「いや…普通に読み物として面白くて…」

 

※普通に地球で言う大学数学レベルの難問です。“言語理解”があっても割と難しい分野です。

 

 清水は非常に面倒臭そうにハジメを見る。恐らく内心葛藤しているのだろう。手を取る事によるメリットとデメリット、どちらが強いかを。

 

 ハジメ自身を嫌悪しているわけでは無いことは中立派であることからよく分かる。プラスの感情は無いだろうが、同時にマイナスも無いと言った所だろう。今面倒くさがっているのも、ハジメと共にいる事に対してと確信している。

 

 やがて清水は面倒臭げなのには変わらないが、チラリとハジメの顔を見る。そして勉強机へと向かった。言うまでもなく、ハジメの席から向かい側の場所だ。

 

「…よろしく」

「うん、よろしくね。清水くん」

 

 こうして午後の勉強会が幕を上げる。




ハジカオ書くと宣いつつ、ハジユウを書くこの度胸。
誰か褒めてくれ。(前書きはどうした)
弁明はしておきましょう。
私、悪くないです。(根拠ゼロ)

ちなみに戦闘職は体が戦闘しやすい状態になってる。
非戦闘職は体が自壊しないようになってる。
これと体内の魔力循環速度がどう関わるかはまた後々。

それにしても花言葉って素敵ですよね。
愛の言葉から殺意まで何まで示してくれるんですよ。
素晴らしい代物です。
私も非常に重宝したいと思っています。
いやまっこと素晴らしい。

そして次回は午後です。
清水くんとの交流…いや魔法談義がメインになります。
本気で次回からはガチで書くので、その辺りの設定が面倒な方様に後書きで簡易説明会を行いたいと思います。
それでは!

追記
北原楓希様
静岡万歳!様
Sioの極み様
爆弾様
紅海兎様
ゼロ2130r様
評価感謝致します。
こんなんいくらあっても良いですからねぇ〜(コント風)
本当にありがとうございます。

この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?

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  • オリジナル展開!
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  • 考察要素!
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  • 感想返し!
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