恋する錬成師は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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遅くなった、ごめーんね!
って言うのも最近グラブルで星の砂の獲得方法知りまして…。
で、さまざまなHL攻略してたら執筆が疎かに…。

いや、ゴメン。
マジでゴメン。

取り敢えずどうぞ。


6、行き先は霧に隠れゆ

 城下町での軽い騒ぎから一ヶ月経った朝。ハジメは相変わらずメルドと剣を交わしていた。ただしその応酬は以前とは別物。その成長は正しく飛躍とも言えた。

 

 メルドの横薙ぎをナイフで逸らし、同時に横倒れになったまま空いた片手で地面に触れた。

 

「“錬成”!」

 

 するとメルドの片足が瓦解する。それにより崩れるメルドの重心。

 

 ハジメは腕を折り曲げ、そのまま勢い良く己が体を突き飛ばす。片手と言えど筋力値推定7()0()。チーターのそれに匹敵、或いは超えるだろう値は簡単にハジメの体をメルドの頭上へと跳ね上げた。

 

 メルドも直ぐにそれに対応しようとする。しかしすぐ眼前から迫って来た()()

 

 この鋼線はメルドの足場崩しと共に作られた物だ。出来は早急故にお粗末。しかし鋭さは明らか。メルドは回避を優先させられる。

 

 だがこの鋼線は攻撃そのものであり、布石。空中に舞い踊るハジメの手に確かに握られている。そして鋼線のその先は地面と癒着している。

 

 ハジメは力の限りその鋼線を引く。するとピィンと音を立てて張り詰める鋼線。それがまたもやメルドへと襲いかかる。

 

 そして同時にその反動によりハジメの体も下へと舞い戻る。そしてその落ちる先にはメルド。

 

 ハジメはその勢いに従い、ナイフを逆手にメルドへと繰り出す。

 

 鋼線とナイフ。同時に放たれるハジメの攻撃。どちらも受ければタダで済まないだろうそれをメルドは視認して──

 

「甘いっ!」

 

 瞬間、メルドから放たれたるは二重の斬撃。片方は鋼線を斬り砕き、そしてもう一撃はナイフを捉えた。

 

 メルドの一撃は強力だ。例え鍔迫り合いだとしても、まずハジメの実力ならば手を負傷してしまう。

 

 だからこそハジメは敢えてナイフを手放した。そして空中で回るとその遠心力を乗せて、蹴りをメルドの頭部へと放つ。

 

 だが所詮悪足掻きだ。メルドは屈んで避けると、ハジメの腹部を剣の持ち手で殴る。空中故に踏ん張れる筈もなく、ハジメは吹き飛んで地面へと転がり落ちた。

 

 地面に落ちた時点で起き上がるものの遅い。その首にはメルドの刃の無い剣が添えられている。動ける筈もない。勝負ありだ。

 

 そしてふーっと二人とも息を吐くと共に、泥の付いた手で汗を拭った。やがてハジメの方は地面へと倒れ込んだ。

 

「くぁ──!! 勝てないですね!」

「そりゃあ俺も騎士団長だからな、負けるわけには行かん。だが身のこなし・工夫どちらも及第点だ。非戦闘職である事を踏まえれば凄まじい成長だぞ、全く」

「ありがとうございます」

 

 このメルドの言葉に偽りは無い。何と言ってもメルドとしても最近は危なげなく、と言うことが無くなりつつある。“錬成”を接近戦に組み込むとか言うトチ狂った様な戦闘スタイルは、正しく初見殺しのオンパレード。メルドとしても目新しい物が多い。

 

 また体内魔力の循環の精度の上昇、それにより得た本来のステータスのおおよそ二倍という破格の恩恵。ハジメ自体のステータスが低い事もあるだろうが、一時的にでもステータス70程の動きが出来るのは脅威だ。

 

 更にはハジメの戦闘スタイルは武術特有の流麗さこそ無いものの、最適化をし続けた物。無駄を省き、合理的に仕上がったそれはとても我流と思えない程の精度だ。

 

 手加減はしているものの、最初に比べれば全く違う。メルドにとっての通常の手合わせ並みの物。要は彼の部下、王国騎士に施すそれと同等レベルだ。

 

 当然イコール王国騎士と同等、と言われれば答えは否だ。ハジメの戦いの前提には魔力循環促進による身体強化がある。即ちそれは体内魔力が減れば減るほど弱体化は免れない事を意味する。

 

 魔力循環でミスをすれば魔力量は当然減る。更に“錬成”を使って戦う以上、魔力がそう長くは持たない事は自明の理だ。

 

 当然魔力回復のポーションを使えばもう少し長く勝負もできるだろうが、それで王国騎士達と互角レベル。とても長期戦には向かない、と言うのがメルドとしての総評だ。

 

 ただハジメはあくまでも【錬成師】。かつて【無能】と呼ばれた男と考えれば、雲泥の差だろう。メルドとしては十分に合格ラインだ。

 

(ただ──)

 

『力も名誉も手に入れて! 才能なんて関係なくなるくらい強くなって! 世界が認めたくなくても認めざるを得ないぐらいに成り上がって──僕は君の横に立つ!』

 

 あの日、閉ざされた扉の奥で叫んだハジメの言葉。あの時からその眼は真っ直ぐだ。奈落の底で見た時よりも、遥かにだ。

 

 そしてその言葉に偽りは無い。ハジメは今も先程までの己の動きを頭の中で反芻している。恐らくは次には改善してくるだろうそれは、あまりにもその向上心を如実に示していた。

 

 改めて恋心とは恐ろしい物だ、とメルドは見て思う。そしてこんな人間だからこそ、姫様も力を貸そうと思えるのだろうとも。

 

 ブツブツ呟くハジメ。その気付け代わりにメルドはハジメを今巷で流行っている二つ名で呼ぶ。

 

「ほら。とっとと起きろ、【王女の騎士】」

「──違います!!」

 

 そのハジメの叫びは、虚しくも鍛錬場に木霊した。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 ──【王女の騎士】。その名は城下町でのハジメの()()を示す二つ名である。

 

 そのきっかけはあの日の爆弾発言だ。あれが本当に悪かった。

 

 人の噂と言う物は信頼できる様で、中々難しい代物だ。その理由は小さな嘘が積み重なる事で、何処までも肥大化していくからだ。

 

 そう。即ちリリアーナの「私の騎士」発言も、凄まじい肥大化を見せたのだ。しかも小っ恥ずかしい方向に。

 

 曰く、姫を庇って勇猛にも愚かな騎士と戦った。

 曰く、元々ハジメとリリアーナは騎士を試すつもりで共謀していた。

 曰く、目にも止まらぬ速さで騎士を気絶させた。

 曰く、リリアーナとハジメは絶大な信頼で結ばれた主従である。

 曰く、かの教皇の御言葉も本当では無いかもしれない。

 

 …まあ、何とも凄まじい掌返しだ事だ。とは言えこれが広まっているのはあくまでも城下町での事。貴族間や使徒間では未だ【無能】と蔑まれている。

 

 だが城下町でのリリアーナの評判は絶大。逐一街に下りては、人々との交流を行っている。そんな彼女がハジメの事を「私の騎士」と評すれば、素早い掌返しも仕方が無い物にも思える。

 

 更にリリアーナと同様、街の人々と良く交流している優花の存在も大きい。彼女もまたハジメについては言うまでも無く高評価だ。「助けて貰った」、「恩人だ」と良く言っているらしい。

 

 故に聖教教会が絶対だとしても、人々は訝しむ。彼女等が言っている事は嘘なのか、と。

 

 だからこそあれから一週間。前と同様、納品の為城下町へと向かったのだが…

 

「あら、リリアーナ様の…お仕事頑張って下さいね」

「仕事お疲れさん! 果実のオマケだ! 持っていきな!」

「ウォルペン工房の人間も…悪かねぇのかもねぇ…今度納品の依頼してみても良いかしら?」

「にーちゃんのヨメってリリアーナ様なの? ユーカ様なの?」

 

 この代わり様だ。悲しい事にこっちの世界では初対面の人間からは負の感情をぶつけられる事が多いハジメとしては、それらの言葉はあまりにもむず痒い。思わず仰け反ってしまう程だ。

 

 …まあ、最後の質問に関しては素で「何で?」と返してしまったが。

 

 だがいずれにせよ今の状況は居心地が今までに無く良い。何せ生活環境が変わったのは城下町だけでは無い。城でも面倒が減ったのだ。

 

 と言うのも、城下町で流れるハジメとリリアーナの噂。それを耳にした貴族や侍女はこう考える。南雲ハジメへの侮辱は王女リリアーナ=S=B=ハイリヒに対する反意に値すると。

 

 例えばハジメの背後にある人物が『使徒』ならば嫌がらせに問題は無い。彼等は確かに強い。戦う事になればまあ勝つ事は不可能だろう。

 

 しかし同時に彼等は統治者でも、為政者でも無い。言うならば、ただの戦士である。

 

 そして【ハイリヒ王国】は決して無法国家では無い。下手に暴力・権威に訴えれば、逆に彼等が追い詰められることとなる。ましてやハジメの評価は使徒の【裏切り者】。虐めは暗黙の了解であり、それを妨げる行為は教会への反意に等しい。

 

 要は敵対したとしても裁かれる事が無いため、ハジメを虐めた所でデメリットが少なかった、と言う話である。

 

 また愛子の場合はしばしば農地へと出向いている事もあり、王都にいる事が少ない。それ故にハジメを虐めたとて愛子の耳には届きづらい。

 

 だが背後にいる人物がリリアーナならば話は異なる。

 

 リリアーナは若き女傑だ。齢14にしながら勉学、楽器、魔法に社交術、それら全てにおいて優秀の一言。社交会に一歩踏み込めば、その美貌と所作により誰もを魅了する。

 

 何よりもまだ学園に通っていても可笑しく無い歳でありながら、両親を支える程に政治にも明るい。即ち為政者という立ち位置にリリアーナは存在する。

 

 またリリアーナが持つ人脈はあまりにも広い。メルドも多いがその比では無い。貴族、騎士や侍女は勿論、冒険者ギルドの団員に国民、商人、終いにはスラム街のならず者達まで彼女を慕っている。

 

 だからこそリリアーナに敵対すると言う事は、下手すれば龍人に遭遇するよりも恐ろしい。何せ圧倒的な人数が己と敵対するに等しいのだから。

 

 だからこそハジメに対する侮辱の視線はここ一週間で嘘の様に無くなった。またそれらの感情をハジメに直接ぶつけると言った事も減っている。それに反比例する様に陰口やらは増えている様だが、ハジメとしては実に心地良い。

 

『私は当然の事をしたまでです、南雲様。むしろ一時期は貴方を疑っていたのですから…この程度の事で感謝は必要ありませんよ』

 

 先日ハジメがリリアーナに感謝の土下座をしに行こうとした際に、リリアーナが静止。そしてそう言ってくれた。良い人だ、と拙い語彙力でそう思わされた。

 そう思わされた。

 

 とは言え残り四ヶ月。それまでにハジメが大きな功績を残さねばならない事には変わりない。あくまでも今回のリリアーナのそれは一時的な改善に過ぎない。たかが王国騎士見習い一人を捻った程度、功績にも成りはしない。

 

 またリリアーナも所詮は王女。国王であるエリヒドよりもその権威は乏しい。教皇イシュタルとは比べ物にもならないだろう。

 

 タイムリミットはジリジリと迫ってきている。既に三分の一を切った。だと言うのに打開策が一つも思い浮かばないというのは、何とも情け無い話である。今溢した溜息も仕方が無いだろう。

 

 焦っている。二ヶ月は短いと言う者も多いが、ハジメの努力は二ヶ月と言う範疇で留まる物では無い。だと言うのに未だに一寸の光も見えない。

 

 その焦りを誤魔化す様に、道中貰い受けたリンゴもどきを乱暴に齧った。マナーの悪いながらの食事であるが、心境的に気にしている余裕も無い。シャクシャクと皮ごと咀嚼する。

 

「…南雲?」

 

 リンゴもどきの芯ごと噛み砕き飲み込んだ後、背後から声がした。その声にハジメは()()()()()()()()()()()

 

 何故ならばその声の主はハジメにとって苦手も苦手な相手。暴力や威張ると言った事は無いが…代わりにとことん話が通じない。根本的な考え方が違うのだろう。そして実力でその説得力を補強してくるのが何とも厄介だ。

 

 ハジメは油を差し忘れたかの様にゆっくり、ゆっくり顔だけを後ろに向けた。さながら蛇に睨まれた蛙か。上擦った声で彼の名を呼ぶ。

 

「…天之河くん、お久しぶり?」

 

 そう、そこに居たのは今【ハイリヒ王国】において最も名声ある【勇者】。今日は気晴らしにでも来たのか、聖剣や聖鎧は無く、腰に準アーティファクトの剣を携えているのみ。服は簡素ながらも高級であろうシャツやズボン。さながら高名な貴族の息子と言った所か。

 

 そして鍛えたからこそハジメは理解する。両者間にある途方もない実力差を。

 

 更に冷や汗が噴き出た、そんな気がした。光輝はそんな事知らないだろう。まるで敵の様にハジメを睨みつけた。

 

「南雲、丁度良かったよ。俺は君に言いたい事が沢山あった。どうせ南雲の事だ。時間はあるだろう? なら少し話をしよう」

 

 明らかにOHANASHIをするつもりだろうという気迫。そもそもこっちの用事や気持ちは無視か。今仕事中だよ、暇じゃないですよ。どーせ、天之河くんにはそう見えるんでしょうけどねー!!

 

 と心の中でぐちぐち言えど光輝に聞こえるはずもない。とは言え本気で只今絶賛納品中だ。荷車にある商品もまだ少なくは無い。

 

 ここで仕事を放棄しては棟梁であるウォルペンに面目が立たない。取り敢えず穏便に宥める事にする。

 

「僕、今仕事中だからゴメンだけどまた今度に──」

「どうせそう言って逃げたいだけだろう? 南雲はいつもそうだ。それに俺はまた【オルクス大迷宮】に戻らなければならない。君と違って時間が限られている。南雲がどうであれ、仲間とコミュニケーションを取る事は大切な事だ。そう長く話す事でも無いんだから、聞く姿勢を少しでも付けたらどうなんだ?」

 

 怒涛の責め言葉にハジメは白目を剥く。こちらの事情を聞く気がまるで無い。ついでに言えば間違いなく長くなるので面倒だ、という経験則からの判断もある。

 

 脳裏に無視し続ける選択肢が出てきたがすぐ様棄却した。何せ相手は一国の期待をその身に背負う【勇者】だ。折角楽に暮らせる様になった城下町でまた視線を浴びる事になるのは辛い。

 

 前の評価マイナス時点なら無視も選択肢に取れたのになーとちょっと後悔する。

 

 そして折衷案としてハジメの納品作業中は光輝は干渉せず、その移動中に話を聞くと言う事となった。仕事は大切、という事を主張し何とかそうした形だ。

 

 結果…

 

「君はメルドさんや他のみんなに迷惑を掛けている自覚はあるのか? メルドさんは騎士団長だ。当然君なんかよりも到底忙しい。だと言うのに個人的な特訓を付けてもらっているそうだな。君は弱いんだ。努力は良いが、他人の迷惑は考慮すべきだ。更に偶にだがその特訓に龍太郎も参加していると聞く。龍太郎も君が憐れだったんだろう。身内には甘い奴だ、その優しさに漬け込むなんて…俺には理解できないよ。それに最近はリリアーナも巻き込んでいると聞く。彼女は君より年下だぞ? そんな彼女に負担を掛けている事に良心は痛まないのか、南雲? 彼等は俺の大切な人だ。彼等にはどうか幸せであって欲しいと思っている。だからな、いい加減彼等から自立……おい、聞いているのか南雲!?」

「うんうん、聞いてるよ。…次の納品は『チーズ! ホットドォッグ! 一番店』か。名前だけで何が目玉商品かすぐ分かる店名だなぁ」

 

 まあ案の定、移動中は一方的なOHANASHIだった。ハジメは磨きに磨き上げたスルースキルをフル活用。光輝の声を右から左へと流しながら、手元の納品書に集中する。

 

 お客さんには奇異の視線を一瞬向けられたが…やはりウォルペン工房の顧客は強し。何事もない様に話はスムーズだった。

 

 そして仕事が終わるまでの間、光輝の言葉責めとハジメのスルーによる合戦が城下町で繰り広げられた。この無駄に壮絶な応酬はリリアーナの「私の騎士」とは別の方向性で後々話題となるのだが…それはまだまだ後の話である。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「御免なさい、南雲くん!」

「え? 八重樫さん!? 何々!?」

 

 そしておおよそ夕方辺りだろうか。部屋に戻ろうとしていた廊下の最中、ハジメの目の前で雫が頭を下げていた。

 

 ハジメとしては特に雫が己に害を成した事は無く、疑問符ばかりが浮かぶのみ。だが雫は構わず謝罪を続けた。

 

「お昼、光輝が南雲くんにちょっかいを掛けたって言うのを…本人から聞いているわ。光輝自身は誇らしげだったけれど…仕事中に申し訳ないわ」

「ああ…別に良いよ、八重樫さん。適当に聞き流したし、僕自身にはノーダメージだからさ」

「そう言うわけには行かないわよ。身内の問題なんだから。…まあいつも通り都合のいい様に解釈したみたいだけれど」

「あはは…いつもお疲れ様だね」

 

 まるでお母さんみたいだ、と心中呟くハジメ。もっともそれを直接言えば雫は不満を露わにするだろうから、声に出す事はしない。ハジメは空気を読める男なのだから。

 

 そんなハジメの内心は知らず、眉間を揉む雫。見ればその目の下にはくっきりと隈が出来ていた。もう片方の手で腹を押さえている事からも、よっぽとストレスが溜まっている事が察せた。

 

 過度なストレスによる睡眠障害、腹痛…それ以外にも様々な負担がある事が予想できた。

 

 確かに雫がストレスを抱える事は多い。だがここまであからさまにするのも珍しい。ハジメがついつい尋ねる。

 

「八重樫さん、何かあった?」

「…何も無いわよ?」

「流石に分かるよ、隈とか様子で。八重樫さんには地球の頃からお世話になってるし…聞かせてくれないかな? 悩みを聞く程度の力には成りたいって思うから」

「で、でも南雲君だって大変でしょ? なのに余計気を利かせる様な事は…」

「むしろ八重樫さんがそんなのじゃ他の事に集中出来ないし…ね?」

「………南雲君って偶に強情になるわよね?」

 

 雫はハジメに負担を掛けることを躊躇ったが、何せこう言う時のハジメの押しは強い。「こっちが愚痴を言うのは申し訳ないけれど…」と前置きしながらも、話し始めた。

 

「まあいつも通り光輝とかみんなの事もあるのだけれど…最近、【ヘルシャー帝国】に行ったのよ」

 

【ヘルシャー帝国】、その名を聞きハジメもまた顔を顰めた。

 

 軍事国家である【ヘルシャー帝国】は元々傭兵団から国へと発展した些か特殊な国家である。その分形式と言った物には縛られず、聖教教会の教えも【ハイリヒ王国】程の浸透を見せていない。

 

 それ故に【ヘルシャー帝国】では奴隷制が執行されている。一度訪れれば人間、亜人、龍人、吸血鬼…様々な奴隷の痛ましい姿が見られる事だろう。

 

 なお【ハイリヒ王国】で奴隷制が()()無いのは単に聖教教会と密接な関係性を持つ為だ。教会では亜人とは見る事すらも唾棄する様な存在とされている。その為、奴隷として身近に置く事すら嫌悪する。だからこそ良くも悪くも【ハイリヒ王国】では亜人の姿が見られない。

 

「泣いてる人、憔悴し切ってる人、目を尖らせている人…怪我をしている人なんて数え切れないくらい。子供だって…沢山居たわ」

 

 百聞は一見にしかず。伝聞と実際の経験とではまるで物が違う。ハジメも悲惨だろう事は知識から知っているが、その光景や感情は同調出来るはずもない。

 

「光輝は何とかしようと躍起になっていたけれど…相手は国。力を持っていても所詮私達は子供で個人。それに私達にとっては奴隷制は残酷な事だけれど、帝国側からすれば当然の事。奴隷制を止める様叫んだ所で罪人はむしろ私達。…せいぜい心の中で祈る事しか出来なかったわ。見て見ぬふりだなんて相手からすれば加害者と変わりないのにね?」

 

 かつての日本とは倫理観がまるで異なる。帝国人はまるでペットに餌をやる様に、己の奴隷を嬲る。動けと恫喝する。そしてその尊厳を折るのだ。

 

 だがそれは罪では無い。ただハジメ達日本人と帝国人で他者の価値が違うだけ。責めた所で「可笑しい」と揶揄されるだけだ。

 

 一国を相手取れる様な権威が、力があるならば話は別なのだろう。しかしたかが個人では限界があるのは当然だ。

 

 そして責任の行き先は【ハイリヒ王国】にも向くだろう。たかが一個人の考えで巻き込める筈も無い。それを考えれば黙り込むのは感情だけで動かぬ冷静さを持つ証左だ。

 

 だが、雫に限ってそう己を楽観視する事は無いのだろう。クラスで横目に見て来た程度でも、ハジメはそう察する事が出来た。

 

「寝ようとする度に思い返すの。あの時出来ていた事は無かったのか、声だけでも掛けられなかったのか、ってね。責めてしまうの、私自身を。それを思うと…寝れなかったのよ。我ながら弱いわね」

 

 だが雫は人一倍責任感を持つ。忍耐こそはあれど、思考の切り替えが苦手。抱え込んだ悩みを捨てる事が出来ない性分だ。

 

 それでもなお耐え得る忍耐は凄まじいが、そう言ったタイプはふとした拍子に限界が来る。自殺者にも突然やって来た衝動に身を任せて、という事も多い。

 

 だからこそハジメはその心を安らげよう言葉を選んで…やめた。そして代わりに選んだのは謝罪。

 

「ごめん、八重樫さん」

「…いきなりどうしたのよ、南雲君?」

「いや、さ。ちょっと酷い事言うから」

「…?」

 

 雫は不思議そうに首を傾ける。普通ならば慰めの言葉やら同調やらが来る様な所での謝罪だ。当然そうなる。

 

「八重樫さんはさ、凄いよ。普通だったら自分は悪くないって言い訳する。僕ならそうする。そして安眠する」

「…そうなの? そうは見えないのだけれど」

「本当に言い訳だらけだよ。何なら昼間天之河くんに言われた事だってさ」

 

 仕事中、光輝に言われた。お前は他者の迷惑を考えない、と。

 

 ハジメは聞き流しつつも思った。()()()()()()()()、と。

 

「僕は甘えてるんだよ、皆の善意に。冤罪喰らいたくないとかって言うエゴの為だけにさ」

「で、でもそれは南雲君は悪くないじゃない! 実際あんな罪無いのに…」

「いや再度ゴメン。やっぱりそれも嘘だ。尤もらしく飾った皆を巻き込む理由。そりゃあ冤罪なんて嫌だけど、本当はもっとエゴだらけな…『強く成りたい』っていう凄く個人的な理由だよ」

 

 そう、やはりそれに行き着く。ハジメの今の根幹はそれだ。

 

 冤罪を免れる為ならば大人しく【錬成師】としての修練を積むのが最適解だ。何せそれがハジメに唯一与えられた才能。それを活かせる道に行くべきだ。

 

 しかしハジメはそんな賢い選択をしなかった。そして他人を巻き込んでいる。

 

 雫が意外そうに目を開く中、ハジメは自嘲気味に話を続けた。

 

「凄く今更かもしれないけど…格好付けたいんだ。僕の事を最初に認めてくれた人に。頑張って強くなって…隣に立てるぐらい」

 

 だから他人を巻き込む言い訳をする。冤罪や理不尽に立ち向かうと言う大層な理由にすげ替えている。

 

 我ながら情けの無い事だと思う。同時に雫が改めて凄いとハジメは思った。

 

「だからって言うのも何だけど、僕は八重樫さんの事凄いって思うよ。逃げずに自分自身を責められる君は、凄く強い人だよ。間違いない」

 

 雫がそうやって関係の無い事でも、手の届かない物であっても抱え込めるからこそ、頼りにする人間が多いのだろう。

 

 それがどれだけ負担になろうと投げ出したりしない。正しく善人だ。ハジメとしては己にない物を持っている人だと感じる。

 

 そして同時にこれは『抱え込む』事を是としている。それ故に雫は苦しんでいると言うのに、ハジメはその苦しみさえも肯定してしまっている。

 

 それに気がついたのか、雫はキョトンとする。そして一変、その口から笑い声が漏れ出した。

 

「ふふっ…普通落ち込んでる人間に、そんな事言うかしら?」

「でも八重樫さんはどう言おうがそういう性分だろうし…あと個人的にそれが凄い事だって認めて欲しかったって言うのもある」

「…確かに抱えて生きるのはやめられそうに無いわね、私は」

 

 多少気分は晴れたのか、先程までよりも表情は明るい。

 

 そしてついでとばかりにハジメは片手を雫へと差し出して、微笑んだ。

 

「まあ、それでも耐え切れないってなった時は…また相談してよ? 愚痴ぐらいは聞ける技量はあるつもりだからさ」

「そう…それならまた頼む事になるかもしれないわね?」

「その時は歓迎するよ。いつもお世話になってるし、八重樫さんには幸せになって欲しいって思ってるから」

「………それはやめておいた方が良いわよ、南雲君?」

「………何が?」

 

 雫がハジメと握手をしつつも、「あれ? もしかして南雲君って光輝と同じタイプ?」と呟く。それに疑問符を浮かべるハジメ。

 

 互いに何か釈然としない感じを残しつつ、己の部屋に戻ろうとしたその時だ。

 

 廊下の奥から何かがやって来る。それはハジメにとっては物凄く見覚えがある人物で…そして猛スピードかつ雄叫びを上げてハジメへと迫っていた。

 

「見つけたぞ! 小僧ぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「棟梁!?」

「え? あの人が南雲君の…」

 

 ハジメがウォルペンのその様子に目を剥き、雫はハジメの師がこんなんだとは思っていなかった様で意外そうに反応を示した。

 

 だがまあウォルペンは意に返さない。ハジメの目の前で急停止し、そしてキラキラと目を輝かせて告げた。

 

「小僧! めでてぇな! 遂にお前に()()()()だ!」

「えっ!? 本当ですか!!?」

「ちょ、直接依頼?」

 

 直接依頼は本来ならば工房に仕事を受注する所を、更にその工房の職人個人へと依頼するシステムである。それが無い職人は二流という風潮もあり、ハジメは目を煌めかせる。

 

 ウォルペンとしてもハジメは素行不良も無く、真面目かつ特異性のある職人である事から、評価されて嬉しいのだろう。先程までの爆進がそれを如実に示している。

 

「ああ、本当だ! …まあ、場所的にかなり長期の依頼になるが…大丈夫か?」

「そりゃあ勿論! 折角の御指名ですし!」

 

 断る筈も無い。今のハジメは【錬成師】見習い。失敗は恐ろしいがやはり経験は重要。にべもなく承諾する。

 

「重畳! まず依頼主様は工房の顧客の一人だな。そいつが面白そうだからって推薦した結果だ。場所は湖畔の町、ウル。な、中々遠いだろ?」

「そうですね。移動はどうしましょう?」

「それに関してはアテがある。問題ねぇ。…ってもお前も良く知ってるだろうがな」

「知ってる?」

 

 何故だろう、警鐘がした。ウォルペンは確かに色々エクセントリックで危なっかしいが、流石に移動手段でおかしい物を出して来れる筈がない。しかし何故か脳裏で鳴っている。

 

「そりゃあ当然だろ? 何たって──」

 

 

 

 

 

「お久しぶりですね、南雲くん! 先生は貴方が元気そうで嬉しいです。…あ、そういえば南雲くんには皆さんの事、紹介していませんでしたね。こちら神殿騎士のデビッドさんです。その後方にいられるのは同様に神殿騎士のチェイスさん、クリスさん、ジェイドさんです。優しい方々ですよ」

「…騎士、デビッドだ」

「…同じく、チェイスです」

「…クリスと言います」

「…ジェイドだ」

「ナグモハジメデス。ヨロシクオネガイシマス」

 

 直接依頼出発当日、ハジメの前に立ち塞がるように立つ神殿騎士四名。彼らは愛子が言う「優しい人」とは全く無縁の鋭い視線をハジメにザクザクっとな。目が明らかに「変な動きしたら斬ったらァ!!」と語っている。

 

 流石に神殿騎士の殺意は凄まじい。ロボットみたいな話し方になってしまった。

 

 すると背後から親しみのある声が二つ。

 

「よう。どうせ向こうに着くまで暇なんだ。馬車の中で魔法議論しようぜ、南雲」

「…アンタら楽しそうね? 楽しそうで何よりだけど。…ま、今日はよろしくね」

「あっ、うん。二人とも、よろしくね?」

 

 清水と優花だ。二人は片手を上げてハジメに気楽に声を掛けてくる。知り合いがいると言うのは何ともありがたい話だ。ホッとする。

 

「「「「「………」」」」」

 

 …その向こう側からやって来る不信の視線さえ無ければの話だが。

 

 その視線は馬車の中から来ている物だ。そしてそこで座る残りの「愛ちゃん先生護衛隊」と名乗るクラスメイト達。菅原妙子、宮崎奈々、相川昇、仁村明人、玉井淳史の総勢5名だ。

 

 彼らはデビッド達程顕著に威圧はしない。代わりにあるのは見定めの姿勢。そして警戒心である。

 

 まあ、ご覧の通りウォルペンの言っていた移動手段というのは「愛子ちゃん先生護衛隊」の活動に乗じるという物であった。どうやら偶々目的地が同じであったらしい。確かに彼等は揃いも揃って実力者達。ここまで安全な旅路はそうは無い。

 

 しかし今はひたすらウォルペン棟梁が恨めしい。今回の行動が懇意からなるものであることは分かっている…いや、あの人だったら何も考えずにやってるからもしれない。

 

 いずれにせよ、親切な人間は一部いるが代わりに突き刺さる視線の鋭さが凄まじい事に変わりない。

 

 果たして己はキチンと直接依頼を済ませられるのか。そもそも仲良い子が一部しかいない修学旅行の班みたいな空気は如何すれば良いのか。ハジメは悶々とする。

 

 だがハジメは、そして他の者達も知らない。

 

 

 

 

 ──この行き先で『使徒』が一人、堕ちる事となる事を。

 

 ──湖畔はその未来を覆い隠す様に、霧を立ち上らせていた。




書いてる途中で気づきましたが…リリアーナ若くね?
ハジメさん17に対して、リリアーナさん14?
つーか、リリアーナさん普通に中学生じゃん…。
そんな相手に婚約とか…歳の差大丈夫かよ…。
…え? ミュウ、レミア、ユエ、ティオに比べれば全然マシ?
そもそもファンタジー世界だから歳の差なんざ関係ない?
愛さえ有ればそれでよし?
……うん、そうだな!(お目目グルグル)
というかそんな事よりもこんな歳の姫様が何故労働基準法クソ喰らえな生活をしているのかが解せぬ…。

あと私は序章の檜山といい、前回の騎士くん(見習い)といい、今回の光輝といいヒールのセリフを書く時はスラスラ進むんですよね…。
ほぼ書き直しが無い。
良い人格の人間は書くのが難しいと言うのに…。
楽しいんだよな、ヒール書くの…。(ゲス)

原作本編光輝は表面上は正義背負ってる仲間思いの人間だし、本人もそうあると思ってるけど、実際は自己中心的でそれを当然としているのが面白い。(クソゲス野郎)
あと違和感に思った人もいたでしょうが、光輝が香織の話をしなかったのは最近香織がハジメに近づく気配が無いし、ハジメも香織に近づくアクションが無いからです。
だから光輝も「香織がようやく南雲から解放されたぞ! ヨシッ!」と現場猫している訳です。
実際には二人とも「あの人の為に強くならなきゃ!」ってなってるだけなのにね?
ちなみにもし光輝くんが香織の話題出してたら面白い事になってました。
まあそれはストーリーの進行上後回しにしますね。
ハジカオ好きはゴメンね、その話題は一章後半なんだ。

さて…取り敢えず一章一節は終了です。
まあ単純に言えば準備期間です。
次回からは一章二節と言った所でしょうか?
とは言え二節はハジカオするどころかそもそも香織の出番がほぼ無いです。
なのでその前に!
その前に!
ハジカオぶっ込みます!(作者個人的願望EX)
つまり番外編です!
…ま、イチャイチャでは無いけどな!

追記
竜導様、評価ありがとうございます。
評価は私のエナジーです。
当然、感想・誤字報告もありがてぇしております。
ガチなる感謝を全読者に!

この作品、アナタは何メイン目的で読んでる?

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