大魔王対戦   作:KINTA-K

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1話

 異世界ヒューガハート。

 妖精だとか女神様だとか亜人だとか魔族だとかがなんやかんやでそれなりに平和に暮らしている世界。

 しかし!その平和が一人の魔族の手によって破られようとしていた!

 

「はーはっはっはっ、ついに…ついにこの時がきたぁっ!」

 

 世界でも指折りの大国ヤネン帝国の地底奥深くにあるダンジョン。

 そこで、一人の魔族の男が目前に立つ大きな鎌を持った魔人の石像を見て高笑いしていた。

 いや、それは石像ではない。徐々にではあるが、石像の体が肌の色へと変化している。

 その石像は、かつて世界を恐怖のどん底に落としいれ、魔族による世界征服を後一歩のところまで推し進めた大魔王。

 最後には勇者に負けて神の手によって石像へと姿を変えられて封印されていたのだが、今、まさにその封印が解かれようとしていた。

 そう、石像の目の前に立ち、腕を組んでのけぞりながら大笑いしている魔族の男の手によって。

 

「さあ、蘇るがいい!そして、この俺の望みを叶えるのだ!」

 

 魔族の男は高揚していた。

 ついに悲願が叶う。苦節うん十年。ようやくここまで辿り着いた。途中色々あったが、今となってはいい思い出…否!それがあるからこそ、今の彼がここにいる。

 彼は思う、大魔王が復活したら、先ずは何から着手するべきか。

 やらねばならないことはたくさんある。大魔王の復活は、その序章に過ぎないのだ。

 魔族は高笑いを止め、考え込みながら今まさに復活しようとしている大魔王の姿を眺めた。

 

「そうだな、まずは……とりあえず、公園のゴミ拾いでもやらせるか」

 

(かつて世界を恐怖のどんぞこに陥れた大魔王が、己の罪を悔いて奉仕活動にいそしめば、人間どもは魔族を見直すに違いない!完璧だ!完璧過ぎる計画だ!)

 

 彼の名前はカイル・イシュバーン。

 色々あって人間を見直した彼は、魔族と人間の対等な共存を願うナイスガイになっていたが、頭の方はちょっと残念なままであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この前の人助けはうまくいって良かったな」

 

 街道を歩いている二人組みの男女、その男の方が隣を歩いている女に話しかけた。

 男の名前は佐藤太郎。鉄筋にぶつかった衝撃で異世界に飛ばされると言う、訳の分からない理由でヒューガハートに来てしまった彼は、異世界でゲットした彼女、楊雲とともに人助けの旅をしていた。

 こっちに来て一年ほどは現実世界に戻るために魔宝を集めていたのだが、無事魔宝を集めて願いを叶えてくれるという暁の女神会えたものの現実世界に戻ることはできなかった。

 でもまぁ、こっちには惚れた女もいるし、案外暁の女神は俺の真の望みをかなえてくれたのかも…と好意的に解釈して、今では納得して異世界ライフをエンジョイしている。つい先日も人助けして感謝されたところだ。そのため、現在ちょっと浮かれている。

 

「楊雲?」

 

 しかし、女の方--楊雲からはしばらく待っても返事が無かった。

 怪訝に思って振り向くと、楊雲はいつの間にか足を止めて、南の空をじっと見つめている。彼は知らないが、その方角は大魔王が復活したヤネン帝国がある方角だ。

 

「どうしたんだ?」

「…なにか、良くない者が目覚めようとしています」

 

 思いのほかシリアスな楊雲の様子に、太郎も気になってオウム返しに聞き返す。

 

「良くない者?」

「ええ…とても巨大な力をもった邪悪な存在です」

 

 太郎は、そんな者がいるのかと思いながら適当に答えた。

 

「そいつは大変だな。でもまあ、今俺達が気にしても仕方ないだろ」

「…そうですね」

 

 以前は些細なことでも重く受け入れがちな楊雲であったが、太郎の影響もあって今では大分鷹揚になってきた。いや、これは太郎にたいする信頼の証か。彼が傍にいれば大丈夫、それが楊雲の認識だった。

 小走りに太郎に近づき、そっと腕を組んで彼の腕に頭を寄せる楊雲。そう、こうするだけで、彼女の不安は全部吹き飛んでしまうのだ。

 

「楊雲?」

「少し、こうさせてもらえますか?」

「あ、ああ、いいぞ」

 

 顔を赤くしながら腕を貸してやる太郎。楊雲も頬をほんのりと染めながら、幸せそうに目を細めている。付き合い始めて一年も経つと言うのに、未だに初々しい二人であった。

 彼らはまだ知らない。先ほど陽揚が感じた魔王の存在--それをめぐる戦いに、否応無く紛れ込まれていく未来を。

 現時点で幸せそうにいちゃいちゃしている二人には知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 レミットは超不機嫌だった。

 現在彼女は花嫁修業と称されて、城の一角に軟禁されている。彼女付きのメイドのアイリスに会うことすら許されない始末だ。多分、結託して逃げ出しかねないと思っているのだろう。まぁ、実際アイリスがいればそうする気であったが。

 つい最近までは、彼女は結構幸せだった。旅から戻った彼女は、国王に頼んで城下町の学園に通うことを許してもらった。魔宝探しに付き合ってくれたメンバーは、現在マリエーナ王国の城下町で暮らしていて、ちょっと前まで城下町の学園に通っていたレミットは頻繁に会いに行っていた。

 カレンはマリエーナ王国の傭兵の指導教官になった。彼女は優しそうなおねーさん風な外見には似合わず意外とスパルタで、あの豊満なおっぱいに魅了されて傭兵を志願した男が地獄の目に会うと言う光景がすでに日常になりかけている。

 メイヤーは宮廷お抱えの考古学者になった。色々と変人だが知識は確かで結構重宝されている。近々重要なポストを任せられると言う話だ。

 ウェンディは城下町で喫茶店を開いた。以前は人付き合いが苦手な彼女だったが、今では自分に自信がついたようで接客業務も意欲的にこなしている。なお、この喫茶店は、アイリス、カレン、ウェンディの3人で協力して経営しており、そのこともあって以前の魔宝メンバーでここに集まってお茶をするのが以前のレミットの日常だった。

 

「あーあ、久しぶりにカレンの淹れるアプリコットティーが飲みたいなー。アイリスの作るケーキが食べたいなー。ウェンディやメイヤーとお話したいなー…」

 

 喫茶店のことを思い出して憂鬱にため息を付くレミット。

 彼女は唐突に隣国のヤネン帝国のナンデ王子の下に嫁ぐことが決まってしまった。以前、学園に通わせてくれた礼もかねて宮廷パーティに参加したのだが、その時に相手に気に入られてしまったのだ。

 ヤネン帝国は大国で、小国に過ぎないマリエーナ王国は反対できる理由はなかった。と言うか、マリエーナにとってはむしろいい話である。王位継承権の無い第3皇女を嫁がせるだけで世界でも指折りの大国と縁がもてるのだ。断る理由を探すほうが難しい。

 だが、レミットにしては知ったことではなかった。そもそも、彼女は今まで王族として扱われたことはほとんどない。王位継承権が絶望的で、アイリスを除いてずっと放置されていたのだ。いまさら国のためと言われてもはいそうですかと頷けるはずが無い。第一、彼女には片思いの男がいるのだ。まぁ、その男は彼女持ちなのだけれど、まだその想いは消えずに彼女の中でずっと燻っていた。

 

「て言うか、相手が最悪過ぎるわよ。なんであの豚王子と結婚なんてしなきゃいけないの?」

 

 ナンデ王子は通称豚王子と呼ばれている。そう呼ばれても受け入れる懐の広さはさすがと言えるかもしれないが、逆にそう呼ばれることに興奮している節がある重度の変態なのだから始末に終えない。好物はピザまんで、好物に見合った見事なピザ体型の王子だ。

 レミットは唯一外と繋がっている南向きの窓--その先にあるヤネン帝国を見つめながら嘆息した。

 

「はぁ~あ、いっそヤネン帝国が滅んでくれたらいいのに」

 

 呟いた直後、唐突に南の空が赤くなった。なんか、ヤネン帝国のお城が燃えてるっぽいようにみえるのだが…

 

「え、ええっ!わ、私のせいじゃ無いわよね!?」

 

 そりゃ滅んで欲しいって呟いたりしたけど、本当にそうなってくれなんて--

 彼女の混乱をよそに、南の空はどんどん禍々しく赤く染まっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヤネン帝国ヤネン城--

 そのもっとも高い場所に位置する部屋で、ヤネン帝国第一王子ナンデ王子は愛しのレミット皇女がいるマリエーナ王国のある北の空を眺めながら、不気味に頬を緩ませていた。

 

「ぶひひっ、もうすぐレミットちゅんと結婚できるんや」

 

 豚のように品の悪い笑い声を上げながらずっとニヤニヤしている。レミットが来たらどんな風に罵って貰おうか、そんなことを真面目に考えている辺り救いようがない。

 

「や、やっぱり、豚王子って呼ばれるのが一番興奮すんなー。あ、あの可愛らしい小さな唇から豚王子って言葉が出るって考えるだけで、辛抱たまらんですたい!」

 

 ぶひひっ、と一笑いして、手元に山と詰まれたピザまんを食べる。が!

 

「って、これは肉まんやないかい!」

 

 間違えて肉まんが入っていて不機嫌になり、衛兵を呼びつけた。

 

「お呼びになりましたか?」

「間違って肉まんが入ってたぞ!料理人を即刻首にせい!」

「…はっ」

 

 衛兵はやりすぎだと思ったが、素直に首を縦に振った。この帝国で王子の発言は絶対だ。むしろ、打ち首にならなかっただけ幸運だと思ってもらうしかない。 

 

「まったく……」

 

 ナンデ王子は不機嫌そうに食べかけの肉まんをゴミ箱に投げ込み、別のピザまんを食べ始める。

 

「やっぱりピザまんは最高や!」

 

 そして、またもいやらしく頬をゆがめてレミット皇女の妄想を始めた。と、その時!

 

「な、なんや!」

 

 彼の眼下にある城下町が唐突に燃え始めたのだ。火の勢いは瞬く間に大きくなり、あっという間にこの城ごと飲み込んでしまった。

 気づいた瞬間には彼の部屋は炎に包まれていた。それだけではない、城下町ではありとあらゆる魔物が現れて逃げ惑う人々を襲っている。

 そして、彼の目の前にも、大きな鎌をもった魔族が現れていた。

 

「な、なんやお前は!え、衛兵ー!」

「呼んでも無駄だ。悪いが、この城はこれから我の拠点にさせてもらう」

 

 大きな鎌をもつ魔族、魔王は自分の後ろに控えている魔族の男にあごで指示をした。片頬に赤い紋章のある白髪の魔族の男--カイル・イシュバーンに。

 カイルは手にした剣を振り上げて、感情の欠落した顔でナンデ王子の前に立った。

 

「…シネ」

「な、なんでやねーん!」

 

 それが、ナンデ王子の最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日、大魔王が復活し、ヤネン帝国は滅び去り大魔王の支配下になった。

 これが後に大魔王大戦と呼ばれる戦いの始まりであった。

 




昔やってた自サイトに前日譚があるんでリンク貼ろうと思ったらサービス終了してた…(ヤフーの奴)

余裕があったらざっくりとまとめて0話を載せたい。
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