カイルは若葉とリリトのパン屋があるソウルの街の通りに突如として姿を現した。
「さて、若葉達の様子を見に行くか」
突然の出現に驚いている周囲の通行人を無視して足早にパン屋に向かう。なぜだか、非常に悪い予感がカイルの脳裏を占めていた。
そもそも、普段ならこんな目立つ場所に転位することなど、いくら迂闊なカイルであってもありえないことだ。若葉達が働いているパン屋には遠目で見ただけで直接立ち寄らなかったから転位できなかったが、もし転位できていたら直接そちらに向かっていただろう。上手くやっているのならそれでいいと、格好つけて会わずに立ち去ったことを今更ながら少し後悔したが、もう詮無いことだ。
(…ん?)
ふと、向かう先の通りから妙な賑やかさを感じて眉を顰める。
そこは確か若葉達の店がある所で、其の周辺に複数の人が集まっている気配を感じる。通りを曲がった先だからまだ様子は見えないが、こちらまで微かに聞こえる怒声が状況の剣呑さを示していた。
(ちぃっ!)
確信に近い胸騒ぎを感じ、カイルは舌打ちして駆け出した。
駆け出したカイルが通りを曲がった先に見たものは、パン屋の前で大勢の人間に囲まれて糾弾されている若葉の姿だった。
「リリトはいい人です!何かの間違いです!」
若葉は店の前に集まった人達に向けて、懸命に呼びかけていた。
リリトが突然若葉の前から姿を消してすぐに街の人が魔族に襲われる事件が多発した。ここソウルの街は他の街と比べて多くの魔族がすごしている。街の政策として早い内から魔族の受け入れをやっていたためか住人の魔族に対する反発が小さく、そのこともあって若葉はリリトと共にこの街でパン屋を開くことにしたのだ。
だが、この街で上手く共存できていたはずの魔族達が、リリトが消えた日を境に突然暴動を起こしたのだ。
その被害は存外に大きく、街の住民は元より、暴動を鎮圧に来た騎士隊にも死傷者が出るほどの事件になっていた。信じて共存していた反動もあるのだろう。その事件を受けて、街の住人達はすぐさま自警団を作り魔族の排斥運動を始めて――それが、若葉の店にまで及んだのだった。
若葉の店を取り囲んでいるのは、街の自警団を結成した住人達と、リリトに襲われたと主張する数名の青年。その青年が声高に若葉の弁明を否定した。
「いや、俺はここの魔族に襲われたんだ!お前が嘘をついているんだ!」
「リリトはそんな人じゃありません!」
若葉は信じている。リリトがそんなことをする筈が無いと。
(約束したんです!)
もう、二度と自分の境遇を拗ねて人間にぶつけたりしないと。
自分と共に、人間との共存の道を歩んでくれると。だから、青年が言うことは何かの間違いに…勘違いに違いないのだ。
そう、先ずは落ち着いてもらって、それで話し合えばきっと分かってくれる筈だ。だって、リリトは何も悪いことなどしていないのだから。
「ふざけたことを言うな!ならその魔族を連れて来い!」
「それは……」
途端に若葉の語気が小さくなる。リリトは逃げるように去って行ったあの日から一度も帰ってきていない。若葉とて、リリトの行方をずっと気にかけて探している所なのだ。
「ほら見ろ!お前があの魔族を庇い立てしてるんだな!違うと言うのなら今すぐ魔族を連れて来い!」
「…っ、リリトは…居ません…けど!リリトがそんなことする筈なんて無いんです!何かの間違いです!」
「まだ言うか!」
青年は若葉に詰め寄り、激昂に任せて突き飛ばした。若葉は「きゃあ」と小さく悲鳴を上げて地面に転がった。青年は倒れた若葉を威圧するように見下ろし、尚も詰め寄ろうとして――
「…ゲスどもが」
「がっ!?」
それよりも早く、強烈な衝撃の波動が二人の間に突き刺さり、青年を吹き飛ばした。位置的に考えて若葉にも同じ衝撃が向かったはずなのだが、彼女は髪を揺らすことすら無く何が起こったのか分からずに呆然と眼前を見つめている。
その目の前に、一人の魔族の男がマントを翻しながら割って入った。この遣り取りの一部始終を眺めていたカイルだ。状況的に魔族の自分が出て行ったら余計に話がややこしくなると思い事態を見守っていたのだが、若葉に危害が及びそうになって我慢ができなくなった。
自警団の住民達が、割って入ったカイルの、魔族の姿を見て怯んだように一歩後ずさる。
「…カイル、さん?」
住人達が困惑する中、若葉は魔宝探しの旅以来一度も会ってないカイルとの思わぬ再会に、その場に蹲ったまま呆然と呟いた。
それを聞きとがめた住民達が、ここぞとばかりに非難を再開する。
「ほらみろ、やっぱりお前は魔族とグルだったんだな!」
「あの魔族だって、お前が庇っているんだろう!」
「そもそも、魔族と一緒に暮らしていることからして怪しかったんだ」
散々に好き勝手なことを言う住民達に、若葉は反論もせず俯いていた。
彼らに対して怒りは無い。反感もない。ただ、魔族魔族と声高に非難している彼らの姿が、どうしようもなく悲しかった。
「黙れ」
その騒ぎを静かな声が遮った。カイルだ。
決して大きくはない声。しかしてそれは、聞く者全てを従わせるような強烈な威圧感を伴って発せられた。
カイルは静まり返った住民達に向き直り、軽く右手を掲げた。その右手に禍々しい黒い光が集まっていき、黒い塊を作り出した。
「俺様は今機嫌が悪い。今すぐここから立ち去れ。さもなくば…」
黒い塊が一際強く輝く。その尋常でない様を見て、周囲の者達が示し合わせたかのように息を飲んだ。
「殺す」
そのまま塊を地面に叩き付ける。途端、地面が破裂して近くにいた住民達を吹き飛ばした。土煙が消え去った後には、地面にぽっかりと大穴が残されていた。その穴の大きさから、今の威力を知った住民達は恐れ慄き、身を震わせた。
「今から10秒以内に俺様の視界から消えろ。残った奴らは皆殺しだ」
淡々と告げる冷徹な声。直後、住民達は悲鳴を上げ我先にと蜘蛛の子を散らすように慌てて逃げ出した。
「ふん…つまらん」
冷めた眼で其の様子を眺めていたカイルは、心底つまらなさそうに鼻を鳴らした。
ここまですれば逃げ出すだろうと計算した上での行動だったが、完全に予想通りの結果になってしまったのが少々不満だった。
(自らに正義があると語るなら、なぜ踏み止まらん)
少なくとも、自分が正しいと思っているのなら相手の暴力に屈してはならない。それが、カイルの考える誇りを持つ者の生き方だ。
(ま、徒党を組むような奴らには過ぎた期待だったか)
そもそも誇りを持つものならば大勢で寄って集って一人を糾弾などしない。あいつらはただ被害者ぶって弱い者いじめしたかっただけのつまらない存在だ。
カイルは呆れたように嘆息し、振り向いて自分の背後にいる若葉に声を掛けようとして…
「カイルさんっ!」
「お、おう?」
なぜか若葉の方から、心なしか怒った様子で詰め寄られた。若葉の予想外の反応に、カイルは思わず間抜けな声を出してしまう。
「こ、殺すだなんて、酷いことを言ってはいけません!」
「あ、あれはただの脅しだぞ?実際殺さなかっただろう?」
自分が糾弾されていたにも関わらず、そんなことを言い出す若葉。若葉でなければ甘いと切って捨てるところだが、かつての付き合いから若葉の性格を知っているカイルはつい言い訳がましい返答をしてしまう。
「それはもちろん分かってますけど、でもあんな言い方はいけないと思います!」
「いやな、あの場はああでも言わなければ収まらなかっただろう?」
「でも、あんな酷いことを言ったら、またカイルさんが誤解されてしまいます!」
これが、カイルが若葉をイマイチ苦手としている理由だった。
若葉は世の中に悪い人なんて誰もいないと信じている。魔族のカイルもリリトもいい人だと主張し続け、その通りに行動してきた。普通にしているだけでも悪者呼ばわりされることもある魔族にとっては、若葉の態度はあまりに新鮮で眩し過ぎた。
唯我独尊のカイルですら、若葉の言葉に強く言い返せないくらいに。頑なに孤独を貫いていたリリトが、ほだされて共に歩む道を選んでしまうくらいに。
カイルが人間を認めることになった背景には、宿命のライバルたる主人公の存在だけでなく、魔族の自分を信じ続けてくれた若葉の存在も大きかった。
とは言っても、せっかく助け舟を出してやったというのに責められるのはさすがに面白くは無かったが。
だからだろう。カイルは、迂闊にも大きな地雷を踏んでしまった。
「ええい!だいたいお前も、あんな連中を追い払うくらいできただろう!仮にも一年間魔宝探しの旅に付いて来たのだからな!」
若葉の性格上、出来ないのは重々承知している。これは苛立ちの結果こぼしてしまったようなものだ。
カイルはてっきり若葉は「そんなことしてはいけません!」と強く否定するのかと思ったが、若葉はおびえた様にビクリと肩を震わせた後で、消沈して俯いた。
「…無理、です。そんなこと」
「あ?なぜだ?」
「だって、集まっていた人たちの中には、私の店のお得意さんも居て……」
「…何?」
「美味しくパンが焼けたときは、上達したねって声を掛けてくるおばさんや、気さくに挨拶してくれるおじさんも居て……それなのに、追い払うなんて……」
次第に声に嗚咽が混じり、若葉は俯いたまま静かに涙を流した。カイルは苦渋に満ちた表情で、舌打ちしたくなるのを何とか堪える。
実際には、若葉の言う店のお得意さんは群集に混じって見ていただけで、糾弾していたわけではない。そう、ただ見ていただけで、何も助けようとしなかっただけだ。
改めて考えてみると、リリトを庇う若葉の態度は以前にリリトがいい人だと主張したときよりも弱かったように感じた。言い淀んで口ごもるなど若葉らしい態度ではない。やりとりを聞いていてリリトが居なくなったためと考えていたが、それだけではなかったのだ。
あきれるくらいお人よしな若葉は、人を責めることはしない。見ず知らずの相手ならば自分の考えを主張できるが、それが見知った相手ならば自分に何か至らない所があるのではないかと自分を責めるだろう。
さらに考えるのなら、挨拶もせずにカイルに詰め寄ってきたことも不自然だ。恐らく、彼女は相当まいってしまっている。
(くそっ……)
未だに声を殺してしゃくりあげている若葉の姿を見て、カイルは苛立たしげに内心で舌打ちした。泣き続けている若葉に、ではなく余計なことを言ってしまった挙句、どう接すればいいのかわからない自分自身に対してだ。これが佐藤太郎なら優しく胸でも貸してやっただろうが、あいにくカイルにはそんな天然たらしみたいなことはできない。
と、そこでカイルは唐突に思い出した。このままここでじっとしているのはマズイということを。先ほど逃げ出した自警団は、このままだと確実に街の警備兵を連れてくるだろう。蹴散らすくらいは訳ないがこれ以上面倒ごとが増えるのはさすがに御免だった。
(ええい、仕方ない!)
「えっ?」
若葉が不意に声を上げる。と言うのも、いきなりカイルに抱きかかえられたからだ。脇に抱えなかっただけ、カイルにしては十分紳士的だ。
「え?え?カ、カイル、さん?」
「ここから離れるぞ」
涙で眼を腫らしたまま混乱する若葉に、カイルは短く応えて詠唱を始めた。
「シルフィード・フェザー」
風の精霊の羽を作り出す古代魔法。本来使用者の敏捷を高める役割の魔法だが、カイルによってアレンジが加えられたその羽は、短い距離ならば飛翔することも出来る。この街から一飛びで脱出するくらいなら十分だ。
カイルは未だに困惑している若葉を他所に、そのまま飛び立とうと足に力をこめて、ふと自分があけた大穴に眼をやった。
「………ちっ」
舌打ちをして、呪文を詠唱する。すると、たちまちの内に大穴は消えてなくなった。
カイルの本音では、こんな街の連中をフォローしてやるつもりなど皆無だが、これ以上若葉達の立場を悪くするのも問題だと判断したからだ。
今度こそ、カイルは強く地面をけって、街の空へと飛翔した。
程なくして街の外の森の傍に着地し、カイルはそこでようやく若葉を下ろした。
「うう……少し眼が回ってしまいました……」
カイルにとっては十二分に気を遣って腕から降ろしたのだが、若葉は地面に降りると少しふら付いて近くの木に手を付いて体を支えた。
自分の意思でなく抱きかかえられて空を飛んでいたのだから、多少恐怖に感じたのは仕方がないだろう。ぐんぐん離れていく地面を見て、必死でカイルに抱きついていたこともあってか、カイルと視線を合わせ辛いと言ういともあった。
もっとも、カイルはそんな若葉の様子を一顧だにすることも無く、さっさと本題を切り出した。
「さて、リリトを探しに行くぞ」
「どうして、リリトが居なくなったことをカイルさんが知っているんですか?」
「先ほどの愚か者の集団とお前の遣り取りは聞いていた。リリトが居ないと言っていただろう」
「あ……そう、なんですか。聞いて、いたんですね」
若葉の表情に一瞬影がさしたが、まさしく一瞬のことで、すぐに気を取り直してカイルに向かってお辞儀をした。
「お久しぶりです、カイルさん。お元気そうで何よりです。あの、挨拶が遅れてしまって申し訳ありません」
「気にするな。のんきに挨拶をしていられる状況ではなかったからな」
律儀にお辞儀をしてくる若葉の態度にカイルは苦笑をもらし、すぐに話を戻した。
「それより、今はリリトだ。あのバカを早いとこ見つけてやらないとな」
「リリトはバカじゃありません!…でも、どうやって探すつもりですが?私も心当たりは全てあたったんですけど、見つからなくて…」
気を落とした若葉に、カイルはふふんと自信たっぷりに鼻を鳴らした。
「ふっ……俺様に任せておけ。リリトくらいの魔力の持ち主なら、すぐに分かるだろう」
そして、呪文詠唱を始める。唱え終わった後、カイルは一瞬怪訝そうに眉を顰めてから「こっちだ」と若葉を促して歩き始めた。若葉は慌てて後を追いながら、不思議そうにカイルに質問する。
「もう分かったんですか?」
「まだ確信は無いが、手がかりにはなるだろう」
「?どういうことですか?」
首を傾げる若葉に、カイルは歩きながら説明した。
先ほどカイルが使った魔法は周囲の魔力を探知する魔法で、現在最も大きな反応があったところに向かっている。リリトは魔族の血がかなり濃いためか人間よりも遥かに魔力が高かったから、これで見つかると判断した。が、今向かっているのはカイルがリリトの魔力と想定していたものよりも遥かに大きな魔力を示した場所だ。
「どうしてですか?」
「俺が探知できる範囲に限定しての話だが、以前感じていたリリトと同程度の魔力も無かったからな」
加えて言うのなら、魔王の復活の影響を受けて魔力が暴走している可能性もある(さすがにこの事は言わなかったが)。ともあれ、カイルはその魔力の反応がある場所――人が滅多に踏み込まない森の奥へと向かっていた。
「でもカイルさん、魔力を探知する魔法なんて使えるんですね。そう言えば、先ほどの空を飛んだ魔法も全然知らない魔法でした」
若葉も魔法探しの旅に付き合っていただけあって、結構な魔法の使い手だ。一番得意なのは回復魔法だが、他にも広い範囲で魔法に精通している。にも関わらず、先ほどからカイルが唱えたいた魔法は見たことも聞いたことも無い魔法だった。
「まあな。あれは現在では失われた古代魔法だ。まぁ、俺様のアレンジも入っているがな」
「そんな魔法がつかえるなんて…凄いです、カイルさん!」
「ふっ、それほどでもあるぞ」
そんな遣り取りをしつつ森の奥へと分け入っていく。そして――
「あれは…」
「…っ!」
目的の魔力の反応があった場所。そこには、一匹の巨大な魔獣がたたずんでいた。静かに、ではない。突然姿を現したカイルたちを敵意のこもった眼で睨みながら、それでも何かに押さえつけられているかのようにその場でじっとしている。
その魔物は狼を大きくしたような外見をしており、よく晴れた空のように明るい空色の体毛で覆われていた。全長は3~4メートルほどもあり、猫のように瞳孔の細い眼が赤く光っている。
若葉はその魔物を見たとき、ほぼ直感的に魔物の正体に気づいていた。
「リリ、ト?」
呆然と呟く。リリトの髪の色の毛並み。リリトと同じ赤い瞳。そしてどことなくリリトに似た魔力。若葉は直感でありながらも、その魔獣がリリトであると断定していた。何よりも、自分がリリトを分からないはずが無いという自負が若葉に合ったからだ。
「…なるほど、そう言うことか」
若葉の呟きを耳にして、眼前の魔獣がリリトだと確信を得たカイルは、以前からリリトに感じていた疑問が一つ解けたと考えていた。
リリトが同じ魔族からも迫害をされていた理由――外見からしてはっきりと分かる魔族は、それ故に似た様な境遇の魔族とは繋がりが強くなるのが普通だ。にも関わらず、リリトは同じ魔族からも孤立していたし、彼女自身も望んで距離を取っていた。
(リリトは、魔獣の血を引いていたのか……)
魔族と魔獣のハーフ。カイルとしては不愉快な話だが、同じ魔族であってもリリトを忌避したものは多いだろう。だからこそ、リリトは一人で暴走していたのだ。
今のリリトの姿は、魔王によって魔族――ひいては魔獣の力が活発になったのが原因だろう。爛々と輝く瞳には獰猛な敵意しか宿っておらず、理性を残しているとは考えがたい。ヴァンパイアの力を無理やり引き出されたティナのように、リリトも己に眠る魔獣の力を無理やり引き出されたのだ。
「そんな、どうして……」
ショックを受けたように呆然と呟く若葉。だが、カイルはそんな若葉の態度とは裏腹に、むしろ笑い出しそうになるくらいに気分が良かった。
「若葉、お前はリリトを誇りに思え」
「え?」
カイルの言葉に弾かれたように振り向く若葉。彼女の視界に、挑戦的な視線を魔獣――リリトに向けたカイルの横顔が写る。カイルは若葉を振り向かずにリリトを見据えたまま、告げた。
「リリトは、己の暴走を事前に悟り人の立ち寄らない森の奥へと姿を消した。そして今……魔獣はこれほど敵意を示しているのにも関わらず、動けずに居る。なぜか分かるか?」
若葉は返事ができず、戸惑うように口をつむぐ。それを確認するでもなく、カイルは言葉を続けた。
「お前との約束を守るためだ」
「…私、との?」
「ああ、人間を傷つけないという約束をな。そのために森の奥に姿を消し、そして今は魔獣の本能に反して動きを縛り続けている。全て、お前との約束を守るためだ。そこまでして約束を守ろうとするリリトを誇りに思え」
「…リリト…」
若葉は思わず目の前の魔獣を見つめる。その眼は直視できないくらい剥き出しの敵意に光っていたが、それでも佇んだまま決して動こうとはしない。そうさせているのが他ならぬリリトの意思なのだ。若葉は胸に温かいものがあふれてくるのを感じた。
そしてカイルは、そんなリリトを毅然とした眼で見つめ、不適に唇を歪めた。こんな高揚感は久しぶりだった。誇りに思える人間と魔族、若葉とリリトのような者がいるのなら、自分の人間と魔族の共存の考えは決して間違ったものではないのだ!
「魔獣リリトよ!次はこの俺様がお前に魔族として誇りを取り戻させてやろう!この誇り高き魔族、カイル・イシュバーン様がな!」
カイルは己の剣を構え、獰猛な視線でこちらを睨みつける魔獣に向かって行った。
ここからカイルがシリアスになっていく予定。
あ、これがストックの最後です。