大魔王対戦   作:KINTA-K

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11話

 ――小一時間後。

 

(マズイな、思ったよりも手強い…)

 

 カイルとリリトの戦いは膠着状態に陥っていた。

 カイルがリリトと戦った理由は極めてシンプルだ。戦うことでリリトの闘争本能を満足させたら正気に戻ると考えたからである。

 向かって来たカイルに対し、その思惑通りにリリトは反撃をして戦いが始まったが、そこで停滞していた。

 倒そうと思えば倒せない相手ではない。しかし、カイルの目的はリリトが正気に戻るまで暴れさせることだ。そのため殺さない様に戦闘を長引かせるしかないのだが、リリトの能力は長期戦が非常に難しいものだった。

 カイルが他所事を考えた一瞬の隙をついてリリトが距離を取る。リリトはカイルが自分に向かってくる前に唸りを上げて魔法を発動させた。ばじぃっ、と音がしてリリトを中心に紫電が迸る。 

 

「ちぃっ!」

 

 己の失態に気付いたカイルは舌打ち一つした後、素早く防御魔法を展開して紫電から身を守った。威力は低いが、攻撃を受けると電撃による痺れが生じて動きが鈍くなるため、防がざるを得ないのだ。

 電流の嵐が続く中、さらにリリトの咆哮が響いて来た。

 リリトの口の先から強力な電撃が生じ、それが稲妻となってカイルへと向かっていく。魔法の性質はライトニングジャベリンに似ているが、威力はそれをはるかに上回る。

 

「くっ!」

 

 カイルは素早く懐からスクロールを取り出して自分の展開した障壁に叩きつけた。直後、スクロールに書かれた古代魔法文字が輝き、障壁が強化される。

 現在は使われていない古代魔法文字。古代魔法文明から復活させたカイルの切り札の一つだ。魔力によって書かれたその文字は、一度効果を発揮すると魔力を失ってしまうが、代わりに詠唱の必要もなく魔法を強化できる。

 強化した障壁でカイルはその一撃を防いだが、リリトの攻撃はまだ終わりではない。電流の嵐が残る中、それに構わずにカイルに突進していき、その巨大な爪をカイルに向かって振り下ろした。

 

「このっ…!」

 

 カイルはその攻撃もなんとか魔法障壁で受け止めて、それにより完全に力を失ったスクロールをリリトに向けて突き出した。

 

「ルーンバレット!」

 

 カイルの言葉に応じ、スクロールに書かれた魔法文字が再び輝きだして弾丸となってリリトを打ち付け、リリトを弾き飛ばした。

 カイルが今使った魔法は古代魔法の一つで使用済みの魔法文字の魔力の残滓を利用し、弾丸として打ち出す魔法だ。威力こそあまり高くないものの魔力の消費も少なく、速射もできる中々にすぐれた魔法だが、これも古代魔法文明と共に廃れた魔法の一つだ。

 吹き飛ばされたリリトは、猫の様に空中で体を回転させて四つ足で着地する、そこへ間髪を入れずにカイルが手にした剣で斬りかかり、リリトは後ろに飛んでそれ逃れる。

 

(本当に厄介だな……っ!)

 

 距離を取られないようにリリトへと肉薄しながら、カイルは改善しない戦況に苛立っていた。

 リリトは電撃を得意とする魔獣で、その能力は相手を仕留めることに適しており、常に気が抜けず長期戦が難しい。

 若干のためを必要とするが、リリトが使った紫電の嵐を生み出す魔法は、威力こそ大したことは無いがまともに受けると痺れにより動きが鈍くなる。さらに攻撃の範囲に居る相手を察知する能力まである。

 先ほども言った通り、威力は低いためこれを防ぐことは難しくは無い。咄嗟に張った魔法障壁でも十分に防げる。問題はその先だ。

 魔法障壁を張って動けない所に、今度は極太の雷撃をぶつけてくるのだ。これは半端な障壁では防げないため、魔法障壁を強化するかイチかバチかで障壁を解いて回避するしかないが、まず一度張った魔法障壁を強化するのは通常困難であり(スクロールなんて裏技は古代魔法を復活させたカイルの専売特許みたいなもの)、障壁を解除して回避してもまだ周囲に電流の嵐が残っているため動きが鈍くなる。そこへ、今度は魔獣本体が突っ込んで爪や牙による攻撃を仕掛けてくるのだ。二重三重に罠を巡らせた必殺のコンボであり、カイルで無ければ初見でやられていただろう。

 加えて言えば、臨戦態勢のリリトは常に体に電撃を纏っており、迂闊に剣などで攻撃したり防御したりするとそこから電流が流れてダメージと痺れを受ける。

 リリトは普通に戦っても強いが、同時に相手に電撃による消耗を強いることで長期戦にも強い、時間稼ぎが非常に困難な相手であった。

 そして、何よりもカイルが気にしているのが若葉の存在だ。

 リリトを牽制しながら横目で若葉を見ると、彼女は離れた所でハラハラした様子でこちらのことを見守っている。

 カイルはリリトの意識が若葉に向かわないよう、またリリトの攻撃が流れ弾として若葉に向かわないよう、さらにはリリトに若葉を庇っていることを悟られない様に立ち回っているが、それもいつまでもつか分からない。

 もし、リリトの攻撃が若葉に向かい、それにより若葉が傷ついたら……リリトはきっと自分を許せずに正気に戻ったとしても姿を隠すだろう。それでは意味が無いのだ。

 リリトの意志が若葉に気付いて魔王の干渉を断つ可能性も0ではないが、失敗した時のリスクがあまりにも大きすぎる為試すわけにはいかない。

 ……実のところ、カイルはリリトを元に戻すための手段に心当たりがあった。だが、それは誇りを重視するカイルにとっては可能な限り避けたい手段だ。しかし、

 

(止むを得ないか)

 

 カイルは現状を考えてその手段に踏み切る決意をした。

 リリトの動きは戦い始めた当初よりもむしろ良くなっている。闘争本能を満足させてリリトを正気に戻すつもりであったが、むしろ魔獣の方の意識が強くなっているように感じられた。このままではリリトが若葉を攻撃すると言う、本当に最悪の事態になりかねない。カイルにとっては最悪の手前の手段を用いてでも、それだけは避けねばならなかった。

 

「ふっ!」

 

 カイルはリリトと距離を詰めるのを止め、逆に距離を空けるように剣の腹でリリトを跳ね飛ばした。リリトはカイルの予想外の攻撃に驚きながらも難なく着地し、また紫電の嵐を放とうと身構えるが、それよりもカイルの行動の方が早かった。

 カイルは素早く納刀すると両掌を胸の前に組み、魔獣の巨体を見下す様に睥睨して――体から巨大な魔力を放出させた。その魔力に気圧され、リリトが怯み硬直する。

 

「魔獣リリトよ!『魔族の制約』に従い、我が声に応えよ!」

 

 魔族の制約――魔王復活による魔族の暴走の根源にあるものだ。その内容はとてもシンプルなもので、魔力のより高い者に従うと言うものだ。

 この制約に関しては今までカイルも知らなかったのだが、魔王の洗脳を受けた時にその制約に触れ、理解した。

 

(……忌々しい力だ)

 

 他者を相手の意志を無視して従わせる。これほど相手の尊厳を無視した力があるだろうか。それは、誇りを重視するカイルにとって到底許せるものでは無かった。

 しかし、この制約を利用すれば、リリトを魔王の支配から自分の支配へと上書きすることで今の暴走から解放してやることが出来る。

 カイルはリリトに何かを命じるつもりはない。が、それでもリリトを従わせることには違いなく、カイルにとっては忌むべき手段ではあった。

 

(だが……)

 

 カイルは思う。そもそも、自分が考えていた人間との共存とは一体何だったのだろうか、と。

 ソウルの街の一件を思い出す。あの街は魔族の共存を図り、魔族を積極的に受け入れていた。いや、受け入れて『やって』いたのだ。

 人間側の上からの視点で、差別を受けている弱い魔族を憐れんでいたに過ぎない。だからこそ、魔王復活による魔族の暴走であのような事態になったのだろう。

 立場の弱い魔族を受け入れて優しくしてやっていたのに裏切られた。魔族はなんと恩知らずな者達なのだ、と。

 

(そんなものは共存ではない!俺様の望むものとはまるで別のものだ!)

 

 受け入れるのではなく、共に競うべき存在として認めさせる……否、当然の様にそうあるべきであり、その状態に疑問が生まれてはならない。それこそがカイルの願う真の魔族と人間の共存だ。決して憐れまれ、施してもらう立場ではない。

 

(『力』が必要だ……)

 

 カイル個人の力は確かに強大だ。卓越した剣技の使い手であり、古代魔法を復活させた最高の魔力をもつ魔法使いの一人だ。だが、それだけだ。

 魔族全体が強くなった訳でもなければ、カイル一人で人間全てを相手取ることなどできはしない。

 

(そうだ。国と言う、魔族全体の力が必要だ!)

 

 現状、魔族には拠り所が無い。外見がほぼ人間と変わらない魔族は人間の振りをして人間の社会に紛れて生活し、カイルやリリトのように魔族として特徴が色濃く出ている者は人間と関わらずに孤立している。それでは駄目だ。魔族が魔族であることに何一つ恥じる事無く誇りを持ち、そうなれる場所が無ければ魔族はいつまでも人間の下風にたったままだ。だからこそ、カイルは決意した。

 

「魔獣リリト!『魔王』カイル・イシュバーンの名において命じる!」

 

 ――それは、初めてカイル自らを魔王と称した瞬間だった。

 

「我が魔力の意に従い、我に服従し、その証を立てよ!」

 

 カイルから放出される魔力がさらに膨れ上がる。魔獣はその圧に押さえつけられて動けずにいる。

 

「跪けっ!」

 

 瞬間、カイルの力ある言葉と共にその体から放出されていた魔力が弾け、魔獣はついにその場に平伏した。

 ここに、カイルとリリトの間で主従関係が結ばれた。

 

 ……その一方で。

 

「は、はいっ!」

 

 何故か、離れた所でカイルとリリトの様子を見守っていた若葉も、カイルの強い語気に驚いて跪いていた。

 

 

 




あかんなぁ…SSの書き方忘れている。

次回この後の顛末と、主人公とレミっとの再会の予定。
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