大魔王対戦   作:KINTA-K

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3話

 大魔王復活から三日後。

 マリエーナ王国城下町にある喫茶店『ウインド』

 店主のウェンディは、店の準備時間の間、趣味のセーターを編んでいた。手芸が趣味なのは間違いないが、完成されたセーターは売りに出されるので手は抜けない。手編みなだけに数が少なく、密かに多いウェンディのファンが競って買い求めているためさりげなく貴重な一品である。

 と、不意にその手が止まった。

 

「レミットさん、大丈夫なのかな…」

 

 どこぞの大国へと嫁がされることが決まり、ここ一ヶ月ほど店に遊びに来ていない少女のことを思い出して、ため息をつく。

 レミットはかつて共に旅をしていた時のリーダーで、そして今は気の置けない親友。意気地なしで悲観主義の自分に自身をつけさせてくれた彼女のことを、ウェンディは尊敬して慕っていた。

 侍女のアイリスは今でも店に来て情報を説明してくれるが(そもそも、共同で開いている店なのだから当然だが)、アイリスでもレミットに会うことは叶わないらしく、随分と気をもんでいるようだった。

 宮廷勤めのカレンとメイヤーも、侍女のアイリスでさえ会えないのだから当然会っていない。

 レミットが城に幽閉された頃、憤慨を紛らわすために強引にレミットを連れ出す計画を冗談半分にしていたのだが、最近は割りと大真面目にすることもあり危険な兆候だ。ウェンディは暴力沙汰は嫌いだが、それよりもレミットが望まぬ結婚を強いられる方がはるかに嫌だった。

 そして、最近は気になることが他にもある。

 

「最近、街の様子が変ですし……大人しいペットが唐突に騒ぎ出したり、魔族の人が急に暴れだしたり……」

 

 先日も、彼女の店で常連の一人の魔族が理由も無く暴れだしている。

 丁度カレンが来ていたため何事もなく取り押さえることができたが、何か世界に異変が起こっているような違和感を感じた。そして、何よりもそれを証明するものがあるのだ。

 

「三日前の、赤くなった南の空……あれは、なんだったんでしょう?」

 

 生来悲観的なところがあるウェンディには不安で仕方が無い。御伽噺の悪い魔王でも蘇ったんじゃないかと、そんなことまで本気で考えてしまう。

 と、その時、不意に喫茶店のドアベルが鳴った。まだ閉店時間なのに何だろうと思いながら、店に顔を出す。

 

「申し訳ありません、まだ準備中……ええ!?あなたは…」

 

 来店した人物を見て、ウェンディは驚愕の声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 カレンは言いようのない不安を抱えていた。

 なんとなく世界がおかしい。自分が訓練している傭兵達も、何かの異変を感じ取っている。

 いや、先日、傭兵隊に所属する一人の魔族が突然凶暴化して暴れだした。騎士隊には魔族なんぞ配属させているからだと笑われたが、そんなはずが無い。あの魔族は、普段は真面目で仕事熱心な男だったのだ。

 

「どうなっちゃってるのかしらね」

 

 はぁ、と地面に突き立てた剣の柄にあごを乗せてため息を吐く。ちょっと気分転換に素振りをしていたのだが、どうにも落ち着かない。

 

「レミットちゃんもまだ姿見せないし」

 

 未だに幽閉されているレミットを思って嘆息する。

 城勤めの彼女は、ウェンディよりも多くの情報を持っている。たとえば、レミットが嫁がされることになっていたヤネン帝国からの連絡が一切途絶えたこととか。

 三日前の不気味に赤く染まった空、音信が途絶えた国――悪い想像をすることは容易かった。

 

「う~ん、強引にレミットちゃんをお嫁さんにしようなんて考えたから、罰があったのかしら……なんてね」

 

 と、一人で冗談めかして呟いて笑う。ちっとも楽しくなった。

 

「ああ、カレンさん、あなたも手伝ってください」

 

 そこへ、知り合いの一人が声を掛けてきた。現在宮廷で考古学者として勤めているメイヤーだ。隣にはアイリスもいて、目が合うと軽く会釈してくれた。そして、二人の影に隠れるように小柄な女性がもう一人…

 

「って!」

「カレンさん、ここで名前を呼んではいけません」

「…あ、ああ、ゴメンね」

 

 アイリスに諌められて、慌てて口を噤む。

 

「カレンさん、協力してくれますよね?」

「フフッ、いったい何すればいいのかしら?」

 

 メイヤーの言葉に、カレンは楽しそうに口の端を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 マリエーナ城は混乱に包まれていた。

 実は、マリエーナ国の重鎮達はすでにヤネン帝国が大魔王の手によって滅びたことを知っていた。

 それを報告した者はメイヤーだった。

 

「こんな伝説があります。『魔王が現れしとき、地上のあらゆる動物が恐れおののき、多くの魔族たちが魔性を開放し、そして魔王の降り立つ天地が禍々しく赤く染まった』と。まぁ、御伽噺のような古文書の一文ですが、魔王の存在自体は史実です。恐らく間違いないと思いますよ」

 

 突然の大国の消滅に、国の重鎮は慄き、次は自分の国の番かと恐れ始めた。

 一方で、捕らぬ狸の皮算用をする馬鹿な大臣がいた。

 

「これで魔王が居なくなれば、広大なヤネン帝国を治める者はいなくなります。しかし、わが国にはかの国に嫁ぐことが決まっていたレミット皇女がいるのです。伝承どおりなら魔王は勇者に倒される。ならば、ナンデ王子の婚約者…否、妻のレミット皇女の存在を元にヤネン帝国の後継を主張すれば、その後に大陸の覇権をマリエーナ王国が手に入れることも夢ではありません!」

 

 なんと壮大でばかばかしい皮算用であることか。だが、現実から目をそらしたい国の重鎮はその意見を採用し、レミットを幽閉し続けた。

 それに我慢がならなかったのがアイリスとメイヤーの二人だ。

 アイリスはこの期に及んでレミットを拘束する国に嫌気が差し、メイヤーはあまりにも哀れな妄想を抱いた国の重鎮達を見限った。

 メイヤーは勇者に関する手がかりを見つけたと嘘をついて国の重鎮の意識をレミットからそらし、その隙をついてアイリスがレミットを幽閉された部屋から連れ出したのだ。

 

 

 

 

 

「で、こうしてこそこそと逃げてるわけですよ」

「メイヤーには似合わない無計画っぷりね」

「でも、おかげで無事に連れ出すことができました」

 

 城の中をこそこそと歩くメイヤー、カレン、アイリス、レミットの4人。レミットは万が一のことを考えて口を利いていないが、先ほどカレンと会った時、本当に嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「で、今後の計画は?」

「計画も何も、このまま城を出て『ウインド』に行くだけですよ。ま、この混乱した時期に旅にでるのは得策ではありませんし、ならば交渉カードを持っていた方がいいですしね」

「交渉カードって…彼女の事?」

 

 視線でレミットを示すカレンに、メイヤーは楽しそうに首を横に振る。

 

「それもありますが、正解は『勇者』ですよ。幸い、私たちは『勇者』と呼ばれてもおかしくない特殊な人を一人知ってます」

「ああ、あの子ね」

 

 メイヤーの言葉を聴いて、カレンもすぐに『勇者』が誰を指しているのか気づいた。

 確かに、あの数奇な経歴をもつ青年なら『勇者』と呼ばれることに遜色はないだろう。

 

「まぁ、詳しい話は『ウインド』でしますよ。なんとか、彼女の自由を勝ち取ってみせます」

「お二人とも、話はそれくらいにしてください。もうすぐ、城門に着きますから」

「そうね、じゃ、一暴れして見ましょうか」

「ふっふっふ、こういう荒事は久しぶりですね。腕が鳴ります」

「あの、二人とも、お手柔らかにしてくださいね?」

 

 アイリスの言葉に、カレンは楽しそうにウィンクして、メイヤーが不気味にメガネを光らせる。

 マリエーナ王国随一の剣の達人、カレン。そしてマリエーナ王国最強の攻撃魔法の使い手、メイヤー。

 彼女達がその力を発揮するのは、もう間もなくのことだった。

 

 

 

 

 

 そして、最終的にはかなり強引に強引にマリエーナ城を脱出した4人は、久しぶりに皆で訪ねた喫茶店『ウインド』で意外な人物との再会を果たす。

 

「いやはや、相変わらず元気そうで何よりですね」

「ホント、相変わらずよね、アンタ達って」

『ロクサーヌ!?フィリー!?』

 

 そこには、いつぞやの魔宝探しの旅の導き手であった吟遊詩人のロクサーヌと妖精フィリーが彼女達が来るのを待っていたのだった。

 




全てロクサーヌって奴のせいなんだ……っ!
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