「ロクサーヌ!?どうしてあんたがここにいるのよ!」
ロクサーヌを見たレミットが開口一番で食って掛かる。実はあんなふうに強引に脱出するんなら別に黙ってなくても良かったんじゃと、城を出てから気づいたのだが、恥ずかしいのでそのことは触れずに居た。空気は読むものだ。
レミットの質問に、ロクサーヌは「ははは」と朗らかに笑った。
「どうしたんですか?そんなにカリカリして。カルシウム不足、していませんか?」
「あんたの存在がムカつくからよ!」
「姫様、そんな野蛮な言葉遣いをされては…」
飄々とした態度のロクサーヌの様子に苛々するレミット。一方、メイヤーとカレンはロクサーヌの相手をレミットとアイリスに任せてウェンディに事情を聞いていた。
「で、どうしてロクサーヌが居るの?」
「さあ、私にもさっぱり……何度か聞いたんですけど『後で分かりますよ』の一点張りで」
「相変わらず性格の悪い方ですねー」
呆れたように嘆息するメイヤー。彼女自身、昔からロクサーヌを怪しいと思っていたので、言葉に遠慮が無い。
なぜ自分にも知らない魔宝なんてものの存在を知っていたのか?
なぜ自分達の行動を先読みするように動くことができたのか?
なぜ自分達を誘導するような真似をしていたのか…etc
メイヤーにとってはただ胡散臭いと言うだけでは説明が付かなくなっている存在だ。
「ちょっと、ロクサーヌ、少しくらいは説明してあげなさいよ」
「あら、あんたもいたの、虫」
「姫様、その言葉はあんまりでは…」
「虫言うな!折角助け舟出してあげたのに!」
レミットの前に飛んできてにらみつける妖精のフィリー。レミットも長い幽閉生活でやさぐれているのか、いつにも増して口が悪い。
しばし「う~」と唸りながらにらみ合い、やがてフィリーが「ふんっ」と鼻を鳴らして顔を背けた。
「そんな態度取ってると教えてあげないわよ!」
「う~ん、よくよく考えると聞かなくてもいい気がするのよね。あんた達が関わってろくな目にあった験しがないし」
「おや、いいんですか?佐藤太郎さんに関わる話なんですが」
「え!?」
一度は興味をなくしかけたレミットがばっとロクサーヌの方に顔を向ける。ロクサーヌはにやりと口元を歪めて。
「いやー、盛大に釣れましたね。ははは」
「…殺すわ」
地獄の底から這い出てくるような妙に低い声だった。
その声に本気だと感じたのか、カレンが「まあまあ」と割ってはいる。
「とりあえず殺すのは話を聞いてからでいいでしょ」
「止めないんですか!?」
驚いたように声を上げるアイリスに、カレンはあごに指をあてて「う~ん」と考えるそぶりを見せて。
「話の内容次第かしら」
「…あんた達、やけに物騒じゃない」
「まぁ、荒事してきたばかりですから、気が立ってるんですよ。と言うわけで、私も冗談とかちょっと笑って許せるような心境じゃないんですけどね」
こんなことを言ってるが、殺すうんぬんは当然冗談である。半殺しくらいのレベルだったら本気かもしれないが。
剣呑な周囲の空気に、ロクサーヌは呆れたように嘆息した。
「いやー、ちょっとした冗談で和ませようと思ったんですが、見事に失敗でしたね。はっはっは」
「…いや、あんたが言うな」
フィリーがぼそりと突っ込む。こんなやつでも、今の自分の主だったりするのだ。(ああ、あたしって可哀想!)とかフィリーが自己陶酔しても仕方が無いことなのである。
「しかし、話ですか……そうですね、一体どこから話せばいいのか……」
ロクサーヌは考え込みながら、ポロンとリュートを鳴らして言葉を探す。
「あれは、今から36万……いや、一万4千年前のことでしたか……」
「ボケはいいから」
苛々したように突っ込みを入れるレミット。本当にカルシウム不足なのかもしれない。
「まぁ、これ以上引き伸ばしても仕方ないのでもう素直にいいますが、ぶっちゃけまだ話せないんですよ」
「へぇ~、そこまでひっぱといてそんなこと言うんだ…」
「レ、レミットさん、落ち着いてください、店内で攻撃呪文なんて放っちゃだめです!」
冗談抜きに手のひらをかざして呪文詠唱始めた彼女を、ウェンディが慌てて止める。今、レミットが唱えようとしていた魔法は『ヴァニシング・レイ』。最強とも言われる攻撃魔法の一つだ。レミットの本気の殺す度を察して、ウェンディは冷や汗を掻いた。
が、どこまで言ってもロクサーンは動じない。
「私たちは、少々ここで待たせてもらおうと思ってきたんですよ」
「待つ…ですか?一体誰を?」
聞き返すアイリスに、ロクサーヌはにっこりと笑って、
「それは秘密です♪」
ゴッ!
次の瞬間、ロクサーヌの座っている隣の椅子が粉砕した。
「ごめ~ん、手が滑っちゃった」
「カレンさ~ん、店の物を壊さないでくださいよぅ」
カレンが手にした剣をロクサーヌの隣の空間に叩きつけていたのだ。さしものフィリーもこれには驚いたようで、慌ててロクサーヌに代わって答える。これを答えることまでは許可されていたのだ。
「佐藤太郎よ!あいつがもうすぐこの街に来るの!」
「…本当に?」
「ええ、今度は冗談じゃありませんよ。近い未来、彼は必ずここを訪れます」
怪訝そうに聞き返すレミットに、ロクサーヌが頷く。さんざん冗談めかしていた彼女?だが、そのときは真面目な顔だった。
「私は彼に話すことがあってここに来たんです。でもまぁ、まだ全てを話すときには至っていません。ここに来るまでの間に、彼はある困難な出来事に出会います。それをクリアして頂かない事には話すに話せない内容ですので。それで、丁度いいから懐かしい顔の確認の意味も含めてここに来たんですよ」
「…困難、ですか?」
「はい。まぁ、どのような困難かはお答えできないのですけどね」
肝心なところをはぐらかすロクサーヌに、しかしレミットは今度は突っ込まなかった。
「そっか、あいつが来るんだ…」
「…姫様、嬉しいですか?」
「どうなんだろう?会ってみないとわかんないわよ」
ロクサーヌは冗談は言うが嘘は言わない。彼女?が来る、と言うのなら必ず来るのだろう。レミットは、胸がざわめくのを止められなかった。
「そう言うわけでして、佐藤太郎さんがここに来るまで、私たちもここに滞在させてもらってもよろしいですかね?まぁ、少しくらいならお手伝いもしますし……そうですね、一つだけ、貴方達の疑問に答えてあげてもいいですよ」
何とも上から目線でずうずうしいことを言うロクサーヌに、レミットは思考に沈みかけていた頭を切り替えて言い返してやろうと息を吸い、
「そうですね、では、私の質問に答え貰いましょうか」
「って、メイヤー!?」
「まあまあ、ここは私に任せてください」
メイヤーはロクサーヌの前に立ち、そっと彼女?の瞳を見つめた。相変わらず、何を考えているのか分からない顔で、ただニコニコと微笑んでいるだけだ。その瞳の奥底にあるものを暴いてやりたくて、メイヤーは質問を投げかけた。
「やっぱり、佐藤太郎さんが魔王を倒す勇者なんですか?」
ロクサーヌは「ほう」と感心したように嘆息して、頷いた。
「貴方達はもう魔王の存在に気づいていましたか。ええ、その通りですよ。佐藤太郎は、魔王を倒す勇者なんです」
周りの皆が驚愕半分、納得半分のあいまいな顔で見守る中、メイヤーは得心したとばかりに頷いた。
「なるほど、これで一つ疑問が解けました。つまり、暁の女神は、最初から佐藤太郎を元の世界に返してやるつもりは無かったんですね。…そうですよね『ロクサーヌ』さん?」
メイヤーの問いに、皆が驚きの顔で見守る中、ロクサーヌはニコニコとした顔のまま、わずかに唇の端をあげた。
佐藤太郎と楊雲は相変わらず仲良くくっつきながら旅をしていた。
いや、今は三日前とは少し違う。楊雲の顔にはどうにも抑えきれない不安が残っている。彼女の影の民としての力が、巨大な闇の出現を感じ取り不安にさせているのだ。太郎に触れていないと、思わず竦んでしまうくらいに。
太郎の方もそんな自体が続いたことで、ようやく『本当に何かあるんじゃないか?』と思い始めていた。
(……こりゃ、一刻も早く南に向かわないとな)
このまま南にいけば、確かレミットの母国のマリエーナ王国の城下町に付く筈だ。さすがにお姫様のレミットに会えるとは思っていないが、大きな街に着けば楊雲も落ち着くかもしれない。気丈に振舞っている彼女の様子をこれ以上見ていられなかった。
と、その時!
「クリムゾン・ナパーム!」
「…っ!?」
不意に巨大な魔力を感じ取り、太郎は慌てて楊雲を抱き上げて跳んだ。直後、彼が居た場所が真っ赤な炎に包まれる。
「太郎さん…!」
「ああ」
楊雲を降ろして、並んで炎を睨み付ける。その炎の向こうから、人影がこちらに向かって歩いてきていた。
やがて炎が消え、その人影の姿が露になる。
それは、二人の見知った人物の姿だった。
「お前は…!?」
「どうして、こんなところに…」
その人影は驚愕に顔をゆがめる二人の前で足を止め、黒いマントを翻して顔を上げた。
「佐藤太郎……コロス!!」
「バカイル!?」「カイルさん!?」
突如として現れたカイルは、手にした剣を振り上げて問答無用で佐藤太郎に斬りかかって行った。
次回 主人公VSカイル