大魔王対戦   作:KINTA-K

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6話

「あんのクソ魔王がー!俺が復活させてやった恩を忘れおって!!」

 

 正気に戻ったカイルは、太郎たちの話を聞き怒りに肩を震わせて絶叫した。

 

「復活させたって……魔王を!?」

「当然だ。俺様を誰だと思っている」

 

 太郎の言葉に、カイルはふんと鼻を鳴らして胸を張る。もっとも、

 

「さっきまで洗脳されていたバカイル」

「ぐっ…ええい!あれは魔王が不意打ちしてくるからだ!そうでなかったら封印されるような間抜け魔王なんぞ遅れは取らんかったわい!」

「……一体、何があったのですか?」

「『復活させた礼に何でも願いを叶えてやる』などと言ったから『とりあえず公園でゴミ拾いして来い』と命令してやっただけだ!そしたらあのクソ魔王、卑怯にも勝手に怒り出して不意打ちしてきやがった」

「…マジでそんなことを願ったのか、お前は」

 

 カイルの言葉に、太郎は呆れる。まさか魔王の方もゴミ拾いしてこいなどと言われるとは夢にも思っていなかっただろう。しかし、カイルは大真面目に頷いた。

 

「無論だ!だいたい、あいつが愚かにも世界征服なんぞたくらんだ挙句失敗しおったから今の魔族があるのだ!その汚点を挽回するチャンスを与えてやったと言うのに…!」

 

 カイルの中では『魔王が反省して慈善活動を行う→人間が魔王の謙虚な姿に感激して魔族を見直す→魔族の地位復活!』のようになると決まっていた。一方が一方を支配しようなど愚かなこと、互いに競い合ってこそ高みに上ることができる、それが魔宝探しの冒険で佐藤太郎と競い合った末に導き出した結論だった。

 その思想は立派だが、なかなか単純な頭までは治らなかったらしい。だからこそのバカイルなのだが。

 太郎は興奮さめらぬ様子でいきり立つカイルの姿に嘆息し、それから真面目な表情になって楊雲に話しかけた。

 

「楊雲が言ってた魔王が復活した、ってのは本当だったんだな」

「私も例えで言っただけです。まさか、本当にそんなことになっているなんて……」

「くそっ、俺がもう少し深刻に受け取っていれば」

「いえ、二人して悪い思考に固まっていても前には進めません。太郎さんがいたから、私は闇に抗うことができたんです」

「楊雲…」

 

 何気にいい雰囲気になって見詰め合う太郎と楊雲。しかし、そうは問屋が卸さなかった。

 

「な~に俺様を無視していい雰囲気作ってやがる」

「あ、いや、悪い。一瞬素で忘れてた」

「余計悪いわ!」

 

 恥ずかしそうにわずかに距離を取る楊雲に少しだけ寂しさを感じながら答える太郎。楊雲は結構太郎にべったりなのだが、人前だと少しは恥ずかしいらしい。いや、正確には人に指摘されると恥ずかしさを感じて遠慮してしまうだけだが。

 とりあえず太郎は誤魔化すように咳払いしてから、改めてカイルに話しかけた。

 

「魔王が復活したことは分かったけど、できればもっと詳しい情報を教えてくれないか?」

「そうだな。洗脳されてた頃のこともようやく思い出してきた頃だ。特別に教えてやろう」

「…洗脳されていたときのことを覚えているのですか?」

「ふんっ、当然だ。俺様を誰だと思っている」

「バカイル」

「バカイル言うな!と言うか、いちいち上げ足を取るな!」

「いや、すまん。つい…」

 

 そんな遣り取りの後で、カイルは太郎にこれまでのことの一部始終を説明した。

 洗脳されてから魔王の手下となりヤネン帝国を滅ぼしたこと。そして勇者を殺せと命令されたこと。一部始終と言っても、大枠はその2点だけだ。

 

「勇者と聞いて俺の所に来たのか?」

「どちらかと言うと『敵』と言う言葉から連想したな。確かに、俺様にとってお前は倒さねばならないライバルだが」

「…異世界からこの世界にやってきた、と言う出来事に理由をつけるのなら、勇者だからと言うこともありえるかもしれません」

「う~ん、ただの事故だったんだけどな~」

 

 自分のことをそんな大層な人間だと思っていない太郎は首を捻る。まあ、それはそれだけで終わる話題だ。

 

「ヤネン帝国って、確か世界でも指折りの大国なんだよな?」

「はい。軍事力と言う点では1、2位を争うとも言われています」

「魔王が封印されていた遺跡があったことを考えれば、マナが豊富だったのだろうな。あっさり滅ぼすことができたのも、王都を奇襲できたからだ。事実、まだ帝国内には抵抗組織がいくつかあった筈だ」

「…なら他国の侵攻はしばらくないか?」

「断言はできんが、そこまで地盤は固まっていないだろう」

 

 問題なのは魔王が支配する国が生まれたことが問題だった。しかも、その国の領土は相当広い上に…

 

「太郎さん、ヤネン帝国の国境の近くには…」

「ああ、俺もそれを心配していた」

 

 マリエーナ王国領内ではあるが、ヤネン帝国との国境近辺に彼らが以前一緒にパーティを組んでいたリラとキャラットが暮らしている。正直に言ってしまえば、太郎にとってはヤネン帝国がどうとかよりもこっちの方が重要だった。

 

「さっきも言ったが、魔王はまだ他所に進行できるほど地盤が固まってはおらんだろうよ。あまり楽観視はできんが、そこまで悲観する必要もあるまい」

「…そう、だな。でも、どっちにしろ、一度様子を見に行かないとな」

「そうですね」

 

 太郎の言葉に楊雲が頷く。それから太郎はカイルに話を振った。

 

「お前はこれからどうするんだ?」

「決まっている。この俺様を洗脳するなどとふざけたことをしてくれた大馬鹿魔王をぶっ殺しに行く」

 

 カイルはきっぱりと言い切った。さっきからそうだったが、カイルはまるで魔王を恐れていない。

 

「魔王相手に勝算はあるのか?」

「当たり前だ。封印なんぞされる間抜けにこの俺様が遅れを取るはずがない」

 

 そう言うカイルは洗脳されたわけだが、さすがに突っ込まなかった。それに、あれだけあっさりと洗脳から脱したのはカイル自身の力が強かったためとも言える。カイルの言葉に、太郎はにやりと口の端を歪めた。

 魔王が相手だというのにカイルのバカはいつも通りだ。それが心強く、同時に嬉しかった。

 

「なら俺も勝ち馬に乗らせてもらうか。カイル、魔王を倒しに行くのなら俺達も付き合うぜ。ま、露払いくらいの役には立つさ」

 

 太郎が軽い調子でいい、楊雲がその傍らで同意するように微笑を浮かべて頷く。太郎達の旅の目的は人助けだ。魔王退治は、十分それに含まれるだろう。何よりも、このバカがここまでやる気を出していると言うのに、自分達が傍観者で居るわけにはいかない。

 カイルは一瞬間抜けな顔をした後、ふんっと鼻を鳴らして居丈高に胸をそらして言った。

 

「ふんっ…まぁ、そこまで言うのなら特別に連れて行ってやもいいぞ」

「ああ、よろしく頼む」

 

 そんなこんなで魔王退治と言う今後の方針が決まったその時。

 

「…太郎さん、魔の気配がこちらに近づいてきています」

「魔の気配?」

「この気配は…まさか…!?」

 

 楊雲が警戒するように視線を森に向け、カイルも驚愕を浮かべて同じ方向に顔を向ける。魔だとか闇だとかを感知する力では、太郎は到底二人には及ばない。だが、その太郎も、少し時間がたつと冷気にも似た不吉な気配を感じ取ることができるようになってきた。

 

「なんなんだ、この不気味な気配は……」

「…恐らく、高位の魔物。この感じは、バンパイアかもしれません」

「バンパイアだ」

 

 楊雲の推測に、カイルが断言する。

 太郎と楊雲が驚いてカイルを見ると、カイルは険しい目つきで森をじっと睨み付けていた。

 

「いや、正確にはバンパイアハーフだな。そうだろう、ティナ」

 

 カイルの呼びかけと同時に、一人の少女が森の中から姿を現した。魔宝探しの冒険でカイルのパーティにいた少女、ティナだ。魔宝探しのライバルとは言え、太郎もティナのことは記憶にあった。だが…

 

(ティナ……あんな、雰囲気の子だったか?)

 

 もっと大人しく、楚々とした雰囲気の少女だった。それが、今では挑戦的な視線をこちらに向けて妖艶な笑みすら浮かべている。

 太郎たちが注目する中、ティナは無邪気に微笑んでいった。

 

「カイルさんもこんなところに居たなんて奇遇ですね、お久しぶりです」

「…こんな状況で会いたくはなかったがな」

 

 ティナの言葉に、カイルは忌々しげにはき捨てるように言う。ティナは少しだけ困ったような笑みを見せた後で、今度は太郎に視線を向けた。

 

「佐藤太郎さんも、お久しぶりです」

「あ、ああ……」

 

 にっこりと微笑んで頭を下げる。仕草は丁寧なはずなのに、太郎はティナから不吉な何かを感じていた。

 ティナは無邪気とも言える満面の笑顔になって、続けて太郎に言った。

 

「佐藤太郎さん、今日はあなたをいただきに来ました。うふふ」

 

 ティナがそう告げて微笑むと同時に、ティナの姿は突如として発生した深い森の霧に紛れて消えた。

 




ティナ個別EDの主人公に対する執着はちょっと怖かった思い出。
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