その軟くて酷い酸でできた海が君を溶かそうというのなら、
その海を凍らせてでも君を連れ出したい。
そんな馬鹿らしい願いをひた隠しにして、
僕は君に「夏休みに行かないか」と手を差し出したんだ。
今どこにいるのかと聞かれたら、青く澄んだ海の底に剣が無限に刺してある。そんな普通じゃありえない空間を思い浮かべて欲しい、そんなところに僕は居た。僕の外見はあんまりいらない情報だろうけど付け足しておくと、小学生くらいの女子が魔女っ子ステッキを持って青を基調とした魔法少女みたいな服装着てると思ってくれればそれで正解。コスプレではないし、こっちは真剣そのものだ。
一応今現在は五体満足で立っているけど、ところどころに怪我が出来ている。これ、明日がきついなぁ。後で回復魔法かけておかないと。
そんなことをぼぅと考えていた頭に弓を引く音が聞こえた。顔を上げて見れば、あいつによく似た半裸男が僕の方ではなく上空に向けて、弓を引いていた。まずい。さっきまではこっちを直接攻撃するような攻撃だったのに、今度は質より量で勝負する気か。僕が全打とりあえず回避とかやっちゃったから直攻は効かないって判断したのかも。どうしようかと頭の中で考えていると、手に持ったいかにも小学生くらいの女の子が好きそうな魔法のステッキから声がした。
『ほら、頑張ってくださいよ。攻撃来ちゃいますよ?』
若干こっちを小ばかにするような口調でステッキは喋る。声は(なぜか)若い男性の声、こういうのって普通は声も女の子だよね? それは置いておいて、それよりも重要なことを言っておこう。
「攻撃来ないように結界張るのが魔法のステッキの仕事じゃないかな!?」
『えー、結界張らなくたって貴女の回避スキルが仕事するからいいじゃないですか』
魔法のステッキってもっと便利なものだと僕は思ってたんだけど。そんな言葉は前々からこのステッキに言っているはずだけど、こいつは全く持って言うことを聞いてくれない。回避スキル自体は万能じゃないんだよ!
「ンなわけあるかぁ! さっさと結界張って!」
『ま、しょうがないですねぇ』
ステッキが僕の周りに不可視のバリアを作り出すのと、奴が弓を放つのはほぼ同時だった。雨のように降り注ぐ光弾が僕の周りだけを避けて地面へと突き刺さる。光弾が止むのと同時に僕はステッキを振りかぶって奴へと殴り掛かった。ステッキもその意図を汲んだのか魔力でできた簡単な刃のようなものを創り上げる。奴が僕に反応するよりも早く、ステッキが創り上げた刃が奴を一刀両断した。
「………」
すると、奴は断絶魔を響かせながらその体を粒子へと変えていった。その場に残るのは裏面に幾何学模様が描かれ、表面に双剣を模した影絵の描かれたカードのみになった。
『やりましたね。アキノさん! これで五枚目ですよ』
「そーだね。ようやく五枚目か……」
僕の名前は……ステッキがそう呼んでいるので、アキノと名乗ることにしよう。さて、僕がいったい何者なのかという問いをされたら、魔法少女ですと答えるしかない。そう、魔法少女、小学生くらいの女の子が憧れる「あの」魔法少女だ。ステッキを一振りしてなんでも解決☆ みたいな感じで描かれるアレ。もしくはファンシーさを逆手に取ったえげつない作品とかもあるアレだ。決して日曜の朝にやっている伝説の少女戦士とかじゃない。戦闘内容に関してはもうそれっぽくて笑えないけど。
僕の事情は一旦おいておくとして、いまだに宙に浮き続けているカードを僕は近づいて手に取った。その途端にカードを浮かせていた謎の浮力は失われてカードは僕の手元にすんなりと落ち着いた。よくよく見直せば表面にはR・Archerと書かれている。さしずめ「赤いアーチャー」ってところかたぶん緑のアーチャーもいるってことだよね? それ以上はどうなんだろう。居たら最悪だけど。
『んじゃ、空間解除しますよ』
「あいよー。んじゃ、シロウに頼まれたおつかいとっとと済ませようか」
あいつもなんだかんだで、この生活に慣れ始めてない? 喉元過ぎれば熱さを忘れるというかさー。とりあえず捜索行ってくるーって言ったら、じゃあこれ買ってきてくれよーってねぇ? しかもこれとある価格の安さに定評のあるスーパーのチラシじゃないか、これはまた
『アキノさんの外見からすると「はじめてのおつかい」って感じですよねー』
「いつも言ってるけど外見年齢に口出すようなら、凍らすよ?」
このムカつくステッキをどうにかしたい衝動に駆られるけど今は我慢だ。主に自分と親友兼幼馴染(偽)のためにも、さらに元をただせば精神面的な意味でだけど。
『ハンッ、できるもんならやってみてくださいよ。いつもやらないじゃないですか』
「カード回収するまではねぇ? したら絶対にやってやる」
『この調子じゃいつまでかかることやら』
「んー、こちとら時間
そんなことになる前に終わらせるつもりではあるけど。大体普通に現代生活満喫する予定がなんでこうなったし。
『んなに時間かけるようだったら、オレが腹パン決めてやりますよ』
「仮にも女子にそれはひどいからね!」
そんなことを言いながら変身を解いた僕と(僕の)体面上の問題で携帯電話のストラップと化している魔法のステッキことマジカルパールはとりあえず
―――― 僕ことアキノは16歳(仮)にしてなぜか乙女の憧れ? 魔法少女に なり/させられ ました。
いきなり魔法少女が魔法少女やっている話って少ないかと思ってやってみた。
とりあえず、この魔法少女さんおよび親友兼幼馴染(偽)はどこぞの氷娘さんとか食堂経営者とはあんまり関係ないです。あんまりと言ってる時点でお気づきかもしれませんがちょっとだけ関わりがある設定だったり。まあ、関係がない話ですが。閑話休題?
そもそもの正体がなんか不明な女の子が魔法少女やってますって話です。