「ある戦士の話をしてやろう」
土を掘り、疲れていたであろう体を埋め、戦士の証であった大剣を突き刺しただけの墓標を前に語りかける。
「その戦士の出自には特異なことはなかった。両親を殺され、孤児となった彼女は彼の地スタフへと連れて行かれた。実にありふれた話だ」
私の後ろにも大剣が刺さり私の体を支えている。
「戦士になった経緯こそありふれた彼女は戦士としては特殊だった。
彼女は生死に興味がなかった。むしろ死にたがっていた節が合ったと言えるだろう。
しかし彼女は妖魔の血肉を受け入れることが出来てしまった。
だが恨みや生きる渇望すらない彼女はそれゆえに防御型としても不完全。攻撃型としても曖昧な訓練生となってしまった。
彼女に生きる理由などなかった。
けれど組織は生きる思考を持たない彼女が生き残ったという結果について興味を持ってないわけがなかった。
だからこそ環境が彼女を簡単に死ぬことを許さなかった」
空は白み始め焚き火の必要もない。
「そんな彼女に生きろと言う友人が出来た。
その友人は才気あふれる者でいつも彼女を傍で励まし、心配すらしてくれた。
その甲斐があってか彼女は少しずつ前向きに物事に取り組むようになった。
死を恐れ、力を付け、強くなり、生きたいと思うようになった。
順調に二人は戦士へとなったが、二人の友好は変わらず続いた。
もともと二人とも才能があったのだろう。
戦士となり幾ばくもたたずに二人は組織の上位No.へと駆け上がった」
空を鳥が二、三羽飛んでゆく。
「時は移ろい友人はかつてのNo.1を切り捨てNo.1となり、同じ作戦に参加していた彼女もNo.2へとなることが出来た。
そんな時期がしばらく続いた。
だが、永久に続くわけがない。
下から追い上げるものが出てきたのだった。
友人はその追い上げてきた者にとうとうNo.1の座を奪われてしまった。
プライドの高い友人はそれがどうしても納得出来なかった。
そう、いつまでも納得できないと腹を立てていたよ」
森の中にも朝日が差し込んでくる。
「あるとき二人は共同の任務に参加した。
元No.7の覚醒者を狩るものだった。
街一つの住人がすべて消え去り、廃墟となったところで周辺の町からの依頼があったほどのものだった。
任務事態は滞りなく済んだ。元とは言え、No.1と2が参加した作戦はあまりに簡単に成功してしまった。
それこそが友人の心に魔を射すきっかけになった。
難しい任務を成功させたことで、現在のNo.付けへの不満が一気に爆発したのだった。
任務遂行後、久しぶりに再会した二人は互いの近況などを教えあっていた。取るに足らない世間話だ。
だが、彼女は友人のプライドの高さを理解していなかった。
そう、No.について触れてしまったんだ」
朗々と語り続ける。今はいない者のために。
「それが友人を揺るがし、覚醒へと至った。
力のために、自分のために、復讐のために、覚醒した。
それを止めようとした彼女は悲しいことに非力だった。No.1と2にある壁は大きい。
覚悟、才能、そして自信。
それらが差を分ける。彼女は成すすべなく、友人に蹂躙された。
右半身に潰され、右目を抉られた。右利きだった彼女は力を失ったよ。
その様を見て友人は嗤い、己の力に半ば酔っていた。彼女は自分に使えるだけの身体の修復を行った。
その後組織へと帰還したもののしばらく右半身は潰されており、友人の暴走を止めることは出来なかった。
防御型として不完全な彼女の再生した右半身は常人よりは優れているが戦士としては下位No.程度の動きしか出来ない実に微妙なものだったんだ。
潰された右半身を満足に動かすためには、妖力開放を右半身にしなければ左半身の動きについていけない程だ。
右と左のアンバランスを解消し戦士として一通り体を動かせるようになったのは友人の死後だった」
淡々と話し続ける。今生きている自分のために。
「どうやらあの後友人は自分の後No.1になった者へと黒の書を送り、その場で殺そうとしたところを返り討ちにあったらしい。
名実共にNo.1は組織のトップとして君臨した。
それが彼女には信じられなかった。あの絶大な力を超えるものがいることが想像出来なかったんだ。
友人の死後力を落とした彼女はそれでも組織から解放されることはなかった。
No.を下位へと転落させ、名前を変えてでもまだ観察を続けたいらしい。
また投げやりになりかかっていた彼女は組織からの命令でNo.1との共同作戦を受けることとなった。
覚醒者の討伐だと思われた仕事は実際には複数の妖魔の討伐という非常に簡単な任務だったがそこで現在のNo.1の実力を垣間見た。
妖力開放をせず、妖気の先読みによりすぐさま妖魔を切り刻んでいく。
それだけだというのに恐ろしいほどの妖気感知により自分が動くよりも先に妖魔が始末されていくというそんな馬鹿げた動きだった。
それから彼女は自らがどれほど強くなれるかを知ろうとする。
あのときの友人を救えるほどの力が自分にあるのかを知るために」
立ち上がり、自分の大剣を引き抜く。
「そして、今日自分がどれほど未熟かを彼女は知ることとなった」
背中の鞘に剣を収める。墓標に背を向け、歩き始める。
「だが、歩みを止める気はない」
そうか、気に入らなかったのはシンと自分を重ねたからか。
結論付けてその場から去っていく。
朝日を受けた大剣がその場で輝いていた。
「もう目を開けていいのか? ミロワ」
しばらく歩いた先にルヴルが立っていた。
「……その名はずいぶん前に捨てた。今の私はロージだ」
左右非対称な瞳で睨み付ける。
「そうだったな」
その黒服は帽子を押さえながら視線をそらした。
「それで何のようだ?」
少々剣呑な口調で問いかける。
「なに、担当者として生死の確認に来ただけだ。覚醒者との戦闘後だからな」
その覚醒者がシンを指しているのか、あのデカブツを指しているのかは分からない。戦士ではないそいつの心のうちを推し量る術はなかった。
「まぁ、大丈夫なようでなによりだ。いや、むしろ良くなったというべきか」
相変わらず本心の読めない男だった。全てが演技のようにも感じる。
「あぁ、この通り眼球の回復、肉体の修復ともに完全に終わったよ」
「それは結構」
やつは口元に軽い笑みを浮かべながら答える。
「動きをことごとく映し出す〝幻鏡〟の通り名も復活か」
やはりシンとの対決をもしっているか。不気味な男だ。
「いや、左利きとなった今はまさに〝現鏡〟か」
口元に笑みを浮かべたままそう呟く。
「次の任務は?」
「まぁ、そう急ぐな。それを伝える前に一つ聞いておきたいことがある」
「何だ?」
「No.の昇格だが……いや、止めておこう」
彼は不敵な笑みを浮かべこう言った。
「また目が見えなくなるとも限らないからな」
自分の本心を見せないどころか私の心までも見透かすかのような言葉、やはり私はこの男が嫌いだ。
「用がないなら行かせてもらうぞ」
「ああ、問題ない」
私は背を向けルヴルから遠ざかって行く。
歩みを止める気はなかった今は遥か遠いNo.1にいつか近づけることを信じて。