俺の名前は『
個性は『魔王』。
魔王っぽいことがだいたい出来るって個性だ。
分類的には複合型になるらしい。
俺の頭には2本のゴツいツノが生えている。
今はないが、生やそうと思ったら翼も生やせる。
それだけならいい。
でもそれだけではない。
着た服が全て、妙に豪華で禍々しいローブとマントに変わるのだ。
マジで最悪。
だって……はっっっずいもん!!
いやどこのこじらせた厨2病患者だよ!!
街を歩くだけでも苦痛だわ!!
……まあいい。
幼少の頃からこの個性とは向き合ってるんだ。
いい加減慣れ……てはないが割り切ってはいる。
一応、強個性ではあるとは思う。
俺はこの個性が発現してから『魔力』というものを扱えるようになった。
これが結構万能で、身体能力を強化することはもちろん、魔力をバリアに変えたり、放出して遠距離攻撃なんかもできてしまう。
しかも魔力は基本俺にしか知覚できないから不可視の攻撃である。
うん、それなりに強いと思う。
本能的にだけど、魔力はもっと色んな使い方があると思う。
例えば魔力を火に変えたり、雷に変えたり、それこそ空間を歪めて瞬間移動、なんてこともできそうな気がする。
いや、多分できる。
俺にはなぜか確信があるのだ。
でも今はできない。
練習はちょくちょくしてるんだけど、そう簡単にはいかない。
世の中甘くないよなー。
……とまぁ、自分の個性を褒めてきたわけだけど……この個性にはデメリットがある。
それも生易しいデメリットではない。
俺の人生を盛大に狂わせるほどのとんでもないデメリットがある。
それが……『魔王ロールプレイ』の強制。
これが最悪だ。
要は、魔王が言いそうなこと、やりそうなことを強制的に行ってしまう。
行動の方は、案外制約がゆるい。
例えばいきなり世界征服のために勝手に体が動きだす、なんてことはない。
こっちはむしろ、“魔王がやらなさそうなことは出来ない”、といった感じ。
魔王といえば、天上天下唯我独尊を体現したような存在だ。
何者にも縛られることがない存在。
つまり───俺が少しでも『嫌だ』とか『やりたくない』と感じることは基本できないのである。
なぜなら魔王は自身の快・不快のみが行動指針なのだから。
この時点で、俺の人生から一般的な社会人として生きる、という道が消える。
他人と協力し、報告・連絡・相談を重んじる現代社会において、こんな嫌なことは一切しません、なんて奴を採用したい企業があるだろうか?
あるわけがない。
つまり俺が生活していくためには、そう───『ヒーロー』になるしかないだろう。
それもただのヒーローではダメだ。
大抵の事は許されるほどの圧倒的トップヒーローになる他ないのである。
はぁ……辛い。
俺は別にヒーローに憧れてるわけでもないのに……。
ただ人並みの幸せを手にして平穏に暮らしたいだけなのに……。
言動も俺の悩みの種だ。
本当に胃が痛い。
まず魔王が言わなさそうなことは基本言えない。
他者に助けを求めるような類の言動がそれに当たる。
そして、言えることにも補正がかかる。
例えば───
『みんな』→『愚民ども』
『あと5分だけ寝させて』→『誰だ? 我が眠りを妨げる愚か者は?』
『ちょっと待って』→『この魔王から逃れられると思っているのか。とんだ道化だ』
こんな感じ。
…………。
…………。
……死にたい。
もう無理ほんと。
黒歴史は歴史になるから笑い話にできるんだと思う。
だけど俺は?
死ぬまで黒歴史製造機なんですけどッ!?!?
絶対そうだよ。
絶対これのせいだよ!! 俺がぼっちなのはな!!
まあ、1人だけ喋ってくれる友人……と呼んでいいかは不安だけど居るは居る……はず。
でもこのままいけば結婚はおろか友達も恋人もできず……孤独死。
そんな未来しか見えないんだが。
あぁ、不幸だ。
不幸すぎる。
───だって、今俺が直面してるこの不幸もこの個性のせいなんだ。
俺の目の前にはどう考えても凶悪そうなヴィランと、それに襲われそうな女の子がいる。
……ただの女の子ではない。
俺の唯一の大切な友人だ。
……でも、逃げるべきだ。
絶対に戦うべきじゃない。
逃げてヒーローを呼んでくるのが正解だ。
なのに……俺は……逃げることができない。
否、許されない。
なぜなら魔王とは───決して逃げないから。
伝説の勇者パーティが乗り込んできたとしても決して逃げず、余裕の笑みと共に玉座に座して待つものだからだ。
たった1人で正面から迎え撃つものだからだ。
だから俺は、怯えに怯えている内心とは裏腹に口角を吊り上げ、マントを翻し、余裕の笑い声をあげながらそのヴィランの前に姿を現す。
「フハハハハハ!! 何やら楽しそうなことをやっているではないか。我も混ぜてはもらえぬか?」
何言ってんだ俺ぇぇえええ!!!!!
お読みいただきありがとうございました。