魔王の苦悩アカデミア   作:黒雪ゆきは

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001:魔王の独白。

 俺の名前は『破魔矢(ハマヤ) 魔央(マオ)』。

 個性は『魔王』。

 魔王っぽいことがだいたい出来るって個性だ。

 分類的には複合型になるらしい。

 俺の頭には2本のゴツいツノが生えている。

 今はないが、生やそうと思ったら翼も生やせる。

 それだけならいい。

 でもそれだけではない。

 着た服が全て、妙に豪華で禍々しいローブとマントに変わるのだ。

 マジで最悪。

 

 だって……はっっっずいもん!!

 いやどこのこじらせた厨2病患者だよ!!

 街を歩くだけでも苦痛だわ!!

 

 ……まあいい。

 幼少の頃からこの個性とは向き合ってるんだ。

 いい加減慣れ……てはないが割り切ってはいる。

 

 一応、強個性ではあるとは思う。

 俺はこの個性が発現してから『魔力』というものを扱えるようになった。

 これが結構万能で、身体能力を強化することはもちろん、魔力をバリアに変えたり、放出して遠距離攻撃なんかもできてしまう。

 しかも魔力は基本俺にしか知覚できないから不可視の攻撃である。

 うん、それなりに強いと思う。

 

 本能的にだけど、魔力はもっと色んな使い方があると思う。

 例えば魔力を火に変えたり、雷に変えたり、それこそ空間を歪めて瞬間移動、なんてこともできそうな気がする。

 いや、多分できる。

 俺にはなぜか確信があるのだ。

 

 でも今はできない。

 練習はちょくちょくしてるんだけど、そう簡単にはいかない。

 世の中甘くないよなー。

 

 ……とまぁ、自分の個性を褒めてきたわけだけど……この個性にはデメリットがある。

 それも生易しいデメリットではない。

 俺の人生を盛大に狂わせるほどのとんでもないデメリットがある。

 

 それが……『魔王ロールプレイ』の強制。

 

 これが最悪だ。

 要は、魔王が言いそうなこと、やりそうなことを強制的に行ってしまう。

 行動の方は、案外制約がゆるい。

 例えばいきなり世界征服のために勝手に体が動きだす、なんてことはない。

 こっちはむしろ、“魔王がやらなさそうなことは出来ない”、といった感じ。

 

 魔王といえば、天上天下唯我独尊を体現したような存在だ。

 何者にも縛られることがない存在。

 

 つまり───俺が少しでも『嫌だ』とか『やりたくない』と感じることは基本できないのである。

 

 なぜなら魔王は自身の快・不快のみが行動指針なのだから。

 この時点で、俺の人生から一般的な社会人として生きる、という道が消える。

 他人と協力し、報告・連絡・相談を重んじる現代社会において、こんな嫌なことは一切しません、なんて奴を採用したい企業があるだろうか?

 あるわけがない。

 

 つまり俺が生活していくためには、そう───『ヒーロー』になるしかないだろう。

 

 それもただのヒーローではダメだ。

 大抵の事は許されるほどの圧倒的トップヒーローになる他ないのである。

 

 はぁ……辛い。

 俺は別にヒーローに憧れてるわけでもないのに……。

 ただ人並みの幸せを手にして平穏に暮らしたいだけなのに……。

 

 言動も俺の悩みの種だ。

 本当に胃が痛い。

 

 まず魔王が言わなさそうなことは基本言えない。

 他者に助けを求めるような類の言動がそれに当たる。

 そして、言えることにも補正がかかる。

 

 例えば───

 

 

『みんな』→『愚民ども』

 

『あと5分だけ寝させて』→『誰だ? 我が眠りを妨げる愚か者は?』

 

『ちょっと待って』→『この魔王から逃れられると思っているのか。とんだ道化だ』

 

 

 こんな感じ。

 

 …………。

 

 …………。

 

 ……死にたい。

 

 もう無理ほんと。

 黒歴史は歴史になるから笑い話にできるんだと思う。

 だけど俺は?

 死ぬまで黒歴史製造機なんですけどッ!?!?

 

 絶対そうだよ。

 絶対これのせいだよ!! 俺がぼっちなのはな!!

 

 まあ、1人だけ喋ってくれる友人……と呼んでいいかは不安だけど居るは居る……はず。

 でもこのままいけば結婚はおろか友達も恋人もできず……孤独死。

 そんな未来しか見えないんだが。

 

 あぁ、不幸だ。

 

 不幸すぎる。

 

 

 ───だって、今俺が直面してるこの不幸もこの個性のせいなんだ。

 

 

 俺の目の前にはどう考えても凶悪そうなヴィランと、それに襲われそうな女の子がいる。

 ……ただの女の子ではない。

 

 俺の唯一の大切な友人だ。

 

 ……でも、逃げるべきだ。

 絶対に戦うべきじゃない。

 逃げてヒーローを呼んでくるのが正解だ。

 

 なのに……俺は……逃げることができない。

 

 否、許されない。

 

 なぜなら魔王とは───決して逃げないから。

 

 伝説の勇者パーティが乗り込んできたとしても決して逃げず、余裕の笑みと共に玉座に座して待つものだからだ。

 たった1人で正面から迎え撃つものだからだ。

 

 だから俺は、怯えに怯えている内心とは裏腹に口角を吊り上げ、マントを翻し、余裕の笑い声をあげながらそのヴィランの前に姿を現す。

 

 

「フハハハハハ!! 何やら楽しそうなことをやっているではないか。我も混ぜてはもらえぬか?」

 

 

 何言ってんだ俺ぇぇえええ!!!!!




お読みいただきありがとうございました。


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