魔王の苦悩アカデミア   作:黒雪ゆきは

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011:本質。

 個性把握テストも残り僅かとなった。

 ここまで『バイキルト』と素の身体能力で何とか乗り切っている。

 あと翼。

 多分最下位はない……と信じたい。

 今はソフトボール投げを皆やっている。

 俺は既に終わっているから皆の様子を見ているのだが……居心地がとても悪い。

 

 なぜなら、ずっとこっちを何人か殺してそうな目付きで睨んできてる奴がいるからだ。

 確か、手で爆発を起こしてたヤツ。

 今もずっと俺を睨んでる。

 絶対殺してやるとか思ってそう。

 

「……殺すッ!」

 

 仕舞いには言ったぞ。

 何がアイツの気に障ったんだろう。

 え、一応ここって超難関の雄英だよね。

 なぜにあんな不良が受かってんの?

 まさかアレ? 漫画の世界でしか存在しないエリートなヤンキーってやつ?

 

 ……そして、俺の居心地が悪い理由はもうひとつある。

 響香だ。

 俺はチラッと響香の方に目を向ける。

 

「…………」

 

 一瞬目が合い、一瞬で逸らされる。

 はい終わったー。

 唯一無二の友人を失いましたー。

 原因は分かってる。

 最初のアレだ。

 俺の発言で響香に恥ずかしい思いをさせてしまった。

 

 そりゃ嫌だろこんなイタイ奴と付き合ってると思われるなんて。

 しかも初日でよ?

 最悪だ。 

 

 全然意味わからん爆発野郎はずっとこっちを睨んできてるのに、唯一の友達は目も合わせてくれない。

 ねー、なんでこんな上手くいかないようにできてるんですかねこの世界って。

 

「な……今確かに使おうって……」

 

 ん?

 声の方を見てみると、ソフトボール投げの順番が緑谷となっていた。

 

「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」

 

「消した……! あのゴーグル……そうか! 視ただけで人の個性を抹消する個性! 抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』!!」

 

 えー、個性消す個性とかあんのかすげー。

 てかそういえば今のところ緑谷っていい記録出せてないんか、ヤバいじゃん。

 

「個性は戻した……ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」

 

 あれ、これ『バイキルト』かけてやった方がいいんかな?

 ……いや、さすがにそれは失礼だわな。

 何上からもの言ってんだって話よ。

 

 それにアイツは───たぶん大丈夫でしょ。

 

 暗い表情でブツブツと何か言ってるようだったが、緑谷は吹っ切れたように大きく振りかぶった。

 そして───

 

「SMASH!!!!!!」

 

 かけ声と共にボールをブッ飛ばした。

 結果は700m超えという大記録。

 

「先生……! まだ……動けます!」

 

 緑谷は指だけが変色している。

 つまり、あの超パワーを指だけに使って700mという記録をだしたということになる。

 当然だが、投げるという行為には全身の筋肉を使う。

 

 要は───ほんの僅かな個性の使用でこの威力ということ。

 

 ハハッ。

 やっぱとんでもない個性だ。

 もし全身であの力を完璧に扱えるようになった奴と戦う場合どうする?

 俺が奴の領域に届くのは『バイキルト』を使った1発のみ。

 ダメだ、近接戦では分が悪い。

 いや、俺の防御能力を考慮し、尚且つ『アタカンタ』で牽制し、『ルカニ』で奴の防御能力を低下させつつ立ち回ればいけるか?

 

 それでも押し負ける可能性は十分に有り得る。

 ならやはり俺のアドバンテージは翼を用いての飛行能力と遠距離攻撃。

 奴の遠距離攻撃手段としては投擲と超パワーによる風圧。

 加えて超機動能力もあるわけだからどのみち戦闘は泥沼、か。

 

 

 ───負けうる。

 

 

 自惚れていたわけではない。

 ただ事実として、今までの人生で勝てないと思ったのはたった1人しかいない。

 オールマイトだ。

 オールマイトをテレビで初めて見た時、現状ではどう足掻いても勝てないと思った。

 それ以来だ。

 それ以来初めて出会った。

 

 俺が負けうる存在と。

 

 …………。

 

 …………。

 

 ……って、なんで俺緑谷との戦闘をガチシミュレーションしてんの?

 え、こんな戦闘狂だったっけ俺。

 あーいやだいやだ。 

 平和な世界で友達をいっぱい作って、のほほんと生きていきたいんだよ俺は。

 

「どーいうことだ! ワケを言え! デクてめぇ!」

 

 いきなり響いた怒鳴り声。

 見れば俺をずっと睨んできたあの爆発不良だ。

 まあすぐに相澤先生に捕縛されていたが。

 嫌だねー、あんなのに絡まれたくない。

 そんなことを考えながら、俺は緑谷の元へと向かった。

 

「フハハハハハ!! 見事!! 見事だったぞ!! さすがは俺の見込んだ男だ!!」

 

「は、破魔矢くん。うん、ありがとう」

 

「さて、指を見せろ」

 

 俺は『ホイミ』をかけてやる。

 2、3回かけてやると、もはや指の色は元に戻っていた。

 

「あ、ありがとう、破魔矢くん。何度見てもすごい個性だね!」

 

「ハッ、戯け者が。我は魔王だぞ? この程度造作もないわ」

 

 入試のとき俺はコイツに『ホイミ』を使っている。

 緑谷は毎回全力を出し、俺に回復を頼むこともできたんだ。

 そうすれば、なんならこの個性把握テストでトップだって狙えただろう。

 でも緑谷はそうしなかった。

 最下位は除籍処分だというのに。

 

 ───本当に凄いヤツだ。

 

 この個性把握テストで、個性だけなら凄いやつを何人も見た。

 だが、最初に緑谷を見た時のようなあのビビっとくる感覚はない。

 一体緑谷との違いはなんなんだろうな。

 

「おいおい、あっという間に治しちまったぞ!?」

 

「身体能力の向上、翼での飛行、そして先程の回復。一体どんな個性なのでしょう……」

 

「彼の能力はそれだけではないぞ! ぼ……俺が見た時は火に雷も操っていた」

 

「……ま、まじで魔王……なんじゃねぇの?」

 

「凄い個性だわ、けろ」

 

「…………チッ!」

 

 うわー、なんか色々言われてる。

 そしてやっぱりあの不良俺を睨んでるー。

 え、俺いいことしてるよね今。

 不安になってきたんだけど。

 

「残り僅かとなったが、悔いの残らないようにな」

 

「うん、本当にありがとう! 破魔矢くんも頑張って!」

 

 はぁ、なんかみんなと距離がある気がする。

 でも緑谷は良い奴だな、うん。

 

 それから残りの種目を終わらせ、いよいよ結果発表の時となった。

 その結果、緑谷は最下位となってしまった。

 最下位は除籍。

 暗い空気が流れたが、それは一瞬。

 どうやら合理的虚偽ってやつらしい。

 なんそれ。

 とりあえず良かったんじゃないの。

 あー、疲れた。

 

 

 個性把握テスト 最終結果

 

 1位 破魔矢 魔央

 2位 八百万 百

 3位 轟 焦凍

 




お読みいただきありがとうございました。

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