ウチは足早に教室を出た。
心がザワつくのが嫌で。
魔央と付き合ってるんじゃないかと茶化され、変に気まずくなってしまった。
顔も見ることができない。
って、ダッサいなーウチ。
校門前を歩きながら、少し校舎の方を振り返る。
アイツは悪くない。
しょうがないってことをウチは知っている。
……のに。
ウチは一方的に拒絶してしまった。
……ぜんっぜんロックじゃない。
さすがに怒ってんかな。
嫌われてなきゃいいけど。
アイツに嫌われんのは、ちょっとだけ嫌なんだけ……ど……って、違う違う何考えてんのウチは!?
これじゃ本当に……ウチがアイツのこと、す、す、すす───
「待つのだ我が眷属響香よ!!」
「へっ!? ま、魔央!?」
なんつータイミングで現れんのよアンタわー!!
ヤバいヤバいなんか顔が熱い!!
振り向けないっての!!
「……やはり、我に対し怒りを覚えているのだな?」
「は!? な、なんで謝んのよ! ウチがアンタに怒る理由ないし」
「ではなぜこちらを向かないのだ!」
「向けない理由があんの! それとこれとは別だから!」
今は無理!
マジで今は無理だから!
恥ずすぎて顔見れない!
「……そうか」
しばらく黙ったと思ったら、アイツはポツリとそれだけ呟いた。
……今度こそほんとに嫌われたわウチ。
こんなんアイツからしたらマジ意味わかんないじゃん。
あー、もう、ウチ……最低だ。
「もうこちらを向いてよいぞ! 我はもはやそちらを向いていないからのだからなぁ!」
アイツの声が聴こえた。
……え?
何言ってんのアンタは?
意味がわからなすぎて、ウチは毒気を抜かれ思わず振り向いてしまった。
そこには───
───膝をつき、翼を生やした魔央の背中があった。
「フハハハハハ!! また乗せて欲しいと言っていたな響香よ。まったく、恐れ知らずの女よ! だから気に入ったのだがな! さあ、さっさと乗れ響香! 飛んで帰るぞ!」
ウチは思わずクスッと笑ってしまった。
アンタは昔からそうだよね。
めちゃくちゃ気が利くってわけじゃないのに、時々欲しい言葉を欲しい時にくれたりする。
不器用なんだか器用なんだか分かったもんじゃないよ、ほんと。
ウチはゆっくりと、その大きな背中に手をかけた。
「安全運転、じゃなくて安全飛行でよろしく」
「フハハハハハ!! それは約束できんな!!」
空を飛ぶってのは超怖くて、朝と同じようにめちゃくちゃ叫んじゃったんだけど、やっぱりウチは───そんなに嫌いじゃない。
++++++++++
雄英高校、2日目の登校。
今日から普通に授業が始まった。
やっぱ雄英だし授業内容激ムズだったらどうしよー、とか思ったけど思いのほか普通だった。
勉強に苦手意識は元々なかったが、高校に入った途端に落ちこぼれ、なんてこともあると思っていた。
いやー、何とかついていけそうでよかったー。
そして、あっという間に午前中の授業が終わり昼食となった。
…………。
はい、ぼっちね。
知ってたし。
俺にはありとあらゆる耐性が備わっている。
ありとあらゆる、な。
デメリットに目をつぶり、性能だけ見るなら『魔王』って個性は超優秀なんだよ。
圧倒的防御性能。
なんの問題もないね。
…………。
俺は弁当を広げる。
ウインナーをパクっと食べる。
相変わらず神楽坂さんの作ってくれた弁当は美味しいわー。
…………。
昨日、緑谷と麗日とは割と喋ったんだけどなー。
アイツら学食派なんだもんなー。
仕方ないなー。
…………。
はぁ……。
全てを諦め、もうひとつのウインナーを食べようとした時───
「ういす」
救いの女神は現れた。
「ほぅ、響香ではないか」
「ここ座んね」
そう言うと、響香は空いている俺の前の席に腰を下ろした。
そして俺の机で弁当を広げ、食べ始める。
「魔央アンタ、勉強はぶっちゃけ楽勝って感じ? ウチには普通にムズかったけど」
「ハッ、我は魔王だぞ? あの程度造作もないわ」
「やっぱそっかー。アンタ無駄にハイスペックだもんねー、昔っから。中学の時みたいにウチにまた勉強教えてよ。暇なときでいいからさ」
「フハハハハハ!! 我にお前の面倒をみろと?」
「そゆこと。よろしく魔王様」
「その胆力!! 気に入った!! いいだろう!! 配下の面倒をみるのも魔王の務めよ!!」
友達と喋りながら弁当を食べている。
この俺……が。
…………。
リア充過ぎるんだが!?
俺は響香と話しながら弁当を食べる。
弁当が軽く5万倍は美味しく感じる。
そういや中学では1回も一緒のクラスにならなかったしなー。
てかそれ以前に響香は俺と違ってフツーに友達多かったわ。
あ、昨日の件は奇跡的に許してもらえたけど、昨日の今日で弁当を一緒に食べても大丈夫なのだろうか。
また迷惑をかけてしまうのはさすがに嫌なんだけど。
「今アンタ、迷惑じゃないかとか思ったしょ?」
え?
「まさか我の心を……読んだというのか!?」
「バカ、そんくらいわかるっての。幼馴染みだし」
いやマジでビビった。
個性『イヤホンジャック』の応用で心読めるようになったと本気で思った。
それくらい正確に、響香は俺の内心を悟ったんだ。
「昨日はゴメン!」
と思ったらいきなり謝られた。
「なぜ謝る?」
「昨日、態度悪かったっしょ……ウチ。結局ちゃんと謝れてなかったからさ」
おいおいマジかよ。
あんなん俺が100%悪いに決まってんじゃん。
「謝る必要などないぞ、響香。あれは我の───」
「いや絶対ウチが悪いから」
遮られた。
妙なところで頑固なんだよな、ははっ。
ほんと、俺にはもったいない友人だよ響香は。
「フ、フハハハハハ! では寛大な我に感謝するといい! 水に流してやろう!」
響香はクスリと笑い、あざっす、とだけ答えた。
そのすぐあとのことだった。
本鈴が鳴ると共に、大迫力のオールマイトが現れたのは。
お読みいただきありがとうございました。