魔王の苦悩アカデミア   作:黒雪ゆきは

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012:彼のそばの彼女。

 ウチは足早に教室を出た。

 心がザワつくのが嫌で。

 魔央と付き合ってるんじゃないかと茶化され、変に気まずくなってしまった。

 顔も見ることができない。

 

 って、ダッサいなーウチ。

 校門前を歩きながら、少し校舎の方を振り返る。

 アイツは悪くない。

 しょうがないってことをウチは知っている。

 

 ……のに。

 ウチは一方的に拒絶してしまった。

 ……ぜんっぜんロックじゃない。

 さすがに怒ってんかな。

 嫌われてなきゃいいけど。

 アイツに嫌われんのは、ちょっとだけ嫌なんだけ……ど……って、違う違う何考えてんのウチは!?

 これじゃ本当に……ウチがアイツのこと、す、す、すす───

 

「待つのだ我が眷属響香よ!!」

 

「へっ!? ま、魔央!?」

 

 なんつータイミングで現れんのよアンタわー!!

 ヤバいヤバいなんか顔が熱い!!

 振り向けないっての!!

 

「……やはり、我に対し怒りを覚えているのだな?」

 

「は!? な、なんで謝んのよ! ウチがアンタに怒る理由ないし」

 

「ではなぜこちらを向かないのだ!」

 

「向けない理由があんの! それとこれとは別だから!」

 

 今は無理!

 マジで今は無理だから!

 恥ずすぎて顔見れない!

 

「……そうか」

 

 しばらく黙ったと思ったら、アイツはポツリとそれだけ呟いた。

 ……今度こそほんとに嫌われたわウチ。

 こんなんアイツからしたらマジ意味わかんないじゃん。

 あー、もう、ウチ……最低だ。

 

「もうこちらを向いてよいぞ! 我はもはやそちらを向いていないからのだからなぁ!」

 

 アイツの声が聴こえた。

 ……え?

 何言ってんのアンタは?

 意味がわからなすぎて、ウチは毒気を抜かれ思わず振り向いてしまった。

 

 そこには───

 

 ───膝をつき、翼を生やした魔央の背中があった。

 

「フハハハハハ!! また乗せて欲しいと言っていたな響香よ。まったく、恐れ知らずの女よ! だから気に入ったのだがな! さあ、さっさと乗れ響香! 飛んで帰るぞ!」

 

 ウチは思わずクスッと笑ってしまった。

 

 アンタは昔からそうだよね。

 めちゃくちゃ気が利くってわけじゃないのに、時々欲しい言葉を欲しい時にくれたりする。

 不器用なんだか器用なんだか分かったもんじゃないよ、ほんと。

 ウチはゆっくりと、その大きな背中に手をかけた。

 

「安全運転、じゃなくて安全飛行でよろしく」

 

「フハハハハハ!! それは約束できんな!!」

 

 空を飛ぶってのは超怖くて、朝と同じようにめちゃくちゃ叫んじゃったんだけど、やっぱりウチは───そんなに嫌いじゃない。

 

 

 ++++++++++

 

 

 雄英高校、2日目の登校。

 今日から普通に授業が始まった。

 やっぱ雄英だし授業内容激ムズだったらどうしよー、とか思ったけど思いのほか普通だった。

 勉強に苦手意識は元々なかったが、高校に入った途端に落ちこぼれ、なんてこともあると思っていた。

 いやー、何とかついていけそうでよかったー。

 そして、あっという間に午前中の授業が終わり昼食となった。

 

 …………。

 

 はい、ぼっちね。

 知ってたし。

 俺にはありとあらゆる耐性が備わっている。

 ありとあらゆる、な。

 デメリットに目をつぶり、性能だけ見るなら『魔王』って個性は超優秀なんだよ。

 圧倒的防御性能。

 なんの問題もないね。

 

 …………。

 

 俺は弁当を広げる。

 ウインナーをパクっと食べる。

 相変わらず神楽坂さんの作ってくれた弁当は美味しいわー。

 

 …………。

 

 昨日、緑谷と麗日とは割と喋ったんだけどなー。

 アイツら学食派なんだもんなー。

 仕方ないなー。

 

 …………。

 

 はぁ……。

 全てを諦め、もうひとつのウインナーを食べようとした時───

 

「ういす」

 

 救いの女神は現れた。

 

「ほぅ、響香ではないか」

 

「ここ座んね」

 

 そう言うと、響香は空いている俺の前の席に腰を下ろした。

 そして俺の机で弁当を広げ、食べ始める。

 

「魔央アンタ、勉強はぶっちゃけ楽勝って感じ? ウチには普通にムズかったけど」

 

「ハッ、我は魔王だぞ? あの程度造作もないわ」

 

「やっぱそっかー。アンタ無駄にハイスペックだもんねー、昔っから。中学の時みたいにウチにまた勉強教えてよ。暇なときでいいからさ」

 

「フハハハハハ!! 我にお前の面倒をみろと?」

 

「そゆこと。よろしく魔王様」

 

「その胆力!! 気に入った!! いいだろう!! 配下の面倒をみるのも魔王の務めよ!!」

 

 友達と喋りながら弁当を食べている。

 この俺……が。

 

 …………。

 

 リア充過ぎるんだが!?

 

 俺は響香と話しながら弁当を食べる。

 弁当が軽く5万倍は美味しく感じる。

 そういや中学では1回も一緒のクラスにならなかったしなー。

 てかそれ以前に響香は俺と違ってフツーに友達多かったわ。

 

 あ、昨日の件は奇跡的に許してもらえたけど、昨日の今日で弁当を一緒に食べても大丈夫なのだろうか。

 また迷惑をかけてしまうのはさすがに嫌なんだけど。

 

「今アンタ、迷惑じゃないかとか思ったしょ?」

 

 え?

 

「まさか我の心を……読んだというのか!?」

 

「バカ、そんくらいわかるっての。幼馴染みだし」

 

 いやマジでビビった。

 個性『イヤホンジャック』の応用で心読めるようになったと本気で思った。

 それくらい正確に、響香は俺の内心を悟ったんだ。

 

「昨日はゴメン!」

 

 と思ったらいきなり謝られた。

 

「なぜ謝る?」

 

「昨日、態度悪かったっしょ……ウチ。結局ちゃんと謝れてなかったからさ」

 

 おいおいマジかよ。

 あんなん俺が100%悪いに決まってんじゃん。

 

「謝る必要などないぞ、響香。あれは我の───」

 

「いや絶対ウチが悪いから」

 

 遮られた。

 妙なところで頑固なんだよな、ははっ。

 ほんと、俺にはもったいない友人だよ響香は。

 

「フ、フハハハハハ! では寛大な我に感謝するといい! 水に流してやろう!」

 

 響香はクスリと笑い、あざっす、とだけ答えた。

 

 そのすぐあとのことだった。

 本鈴が鳴ると共に、大迫力のオールマイトが現れたのは。

 




お読みいただきありがとうございました。

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