「私は葉隠透! よろしくね破魔矢くん!」
皆に観られながら戦うの嫌だなー、恥ずいなー、と思いながらも自分の番が来たので会場となる建物に俺は入った。
すると話しかけられた。
振り返り目を向けると、グローブとブーツだけが浮いていた。
「ごめんね、さっき話してるの聴こえちゃって名前知ってるんだー。 ……て、どうしたの破魔矢くん?」
俺の脳はあらゆる想定を高速で処理し始めていた。
葉隠、と名乗った女子の個性はおそらく『透明化』だろう。
グローブとブーツのみ見えていることからそれは明らかである。
ではなぜグローブとブーツのみ見えるのか?
もしコスチュームにそういった特性を付与できるのであれば、グローブとブーツのみをその対象から外す理由は一体なんだ。
いや───まさか、そんな。
ありえる……のか?
これは、いやしかしそれしか考えられない。
つまりそこから導き出される最も可能性の高い結論、それは───
「……今、貴様はそれ以外の服を着ていないのか?」
「うんそうだよ! 私も本気だからね!」
────クハァッ!!
俺はあまりの事実に理解が追いつかず、見えない血を吐きながら膝をついた。
「だ、大丈夫破魔矢くん!? 体調悪いの!?」
「我は魔王よ。心配などいらん、少し目眩がしただけだ」
「そ、そう? 無理しちゃダメだよ」
……なんてことだ。
認識が……認識が甘かった。
ここまでレベルが高いとはな雄英高校ヒーロー科!!
ダメだ集中しよう。
これみんなに観られてんだぞ?
葉隠と組むことは一部の危険性を内包している。
それは女子全体に嫌われるという、死と同義の極めて恐ろしい可能性だ。
葉隠に妙な視線でも向けてみろ。
次の日にはクラス全体、いや、学校全体の女子から後ろ指をさされることは自明の理。
今こそこれまで培った己の全能力を総動員し、“意識しない”ことに努めなければならない。
ここが最大の勝負所だ!
まずは話を……逸らす!
「案ずるな葉隠、その身なりでは不安もあるだろうが───貴様が傷つくことは万に一つもない。魔王である我が守ってやるのだからな」
俺はただ真摯に、その真紅の瞳で葉隠を見つめながらそう呟いた。
実際には見えていないが。
「…………っ! う、うん。アリガト……破魔矢くん」
保身でしかないその言葉。
だが、葉隠にはそうは聴こえない。
本人さえ自覚のない『魔王』の力の一端、『魔王のオーラ』が遺憾無く発揮されてしまい、激しく心を掌握されてしまったからである。
顔が熱くなるのを感じ、手をバタバタとさせる葉隠。
そして、その様子をモニター越しに見ていた耳郎響香は───
「…………」
「耳郎ちゃん、怖いわ」
不機嫌な様子を隠そうともせず、耳たぶのプラグを高速でグルグルとさせていた。
2人の心を良い意味でも悪い意味でも揺れ動かした魔央だが、当然そのことには気づいていない。
「さて、我らに歯向かう愚か者共は轟と障子といったか。確か個性は───」
「あ、そ、それなら私知ってるよ! 昨日見てたから! 轟くんは氷をバーって出してて、障子くんは腕とかすっごい増やしてた」
「ふむ」
葉隠の言葉を聴き、俺はシミュレーションを始める。
警戒すべきは轟の方だ。
昨日の個性把握テストを見る限り、かなり個性の扱いに慣れていた。
もし、あの氷を際限なく出せるのだとしたらとんでもない個性だ。
いや、そう仮定して行動した方がいい。
だとすれば、奴が初手に繰り出す可能性が最も高いのは───
「そういえば、破魔矢くんの個性って聴いてもいいかな? 私の個性は見ての通り『透明化』だよ。直接戦闘は苦手だけど、不意打ちなら任せて! 破魔矢くんは増強系だよね? 昨日のテストすごかったもん!」
葉隠が話しかけてきたので、俺は一旦思考を中断する。
そしてまた俺は、ウザったい口調で話始める。
「フハハハハハ!! 我がその程度の力しかもたないわけなかろう? 特別に教えてやるとしよう、我が力の一端をな」
もうすぐ始まる。
とりあえずできることをしよう。
++++++++++
───訓練開始。
障子は轟と共にビルの中に入り、個性を用いて索敵を始める。
耳を複製し、細かく判断しようとするのだがヴィラン側に動きはなく、障子は相手の警戒の高さを感じた。
「殆ど動きがないな。どうやら2人とも4階の同じ場所にいるようだ」
「関係ねぇよ……お前には悪いが、外に出ていてくれ───すぐ終わる」
轟の言葉に取り敢えず外に出た障子。
しかし次の瞬間───障子は我が目を疑う。
───ビルが一瞬で凍りついたのだから。
障子は驚きを隠せない。
それはモニター越しにその様子を見ていた者たちも同様であった。
「なんて事だ……仲間、核、建物も傷付けずに制圧するとは。これならば敵も弱体化できる!」
「無敵じゃねぇか!!」
「あの自分を魔王って言うヤバそうな奴と推薦組の戦いだから見物だと思ったけど……これじゃ勝負になんねぇぜ……!」
「…………」
しかし、響香だけは別のモニターを見ていた。
ゆえにいち早くその事実に気づき───またプラグを回転させる指に力が入る。
それを隣で見ていた蛙吹梅雨は、その恐怖により『けろ……』と弱々しく呟いた。
「お、おい……見ろよアレ」
誰かが声を上げる。
そして、次々と気づく。
未だ『魔王』が健在であるという事実に。
「破魔矢の奴ピンピンしてるぞ!! アイツマジで魔王だぜ!! 超カッケー!!」
「っておい、アイツなに葉隠のことお姫様抱っこしてんだよ!? ちきしょー羨ましぃぃいいい!! オイラと変われこのやろうぅぅううう!!!」
そのモニターに映っていたのは、凍りついたはずの地面に悠然と立ち、葉隠を抱きかかえている魔央の姿。
そして次の瞬間───甲高い悲鳴を上げながらその魔央に良い音のビンタをする、葉隠の姿だった。
++++++++++
危なかった。
やはり俺の考えは正しかった。
足元の寸前まで凍りついた床を見ながら、俺は自分の予想が当たり、尚且つ最悪の事態は避けられたことに安堵する。
無事機能するか直前まで不安だったが───俺の足は凍っていない。
よかったー。
やっぱ自分以外の攻撃にも適応されるわ。
俺は状態異常に対してとてつもない耐性があるっぽい。
「あ、あの、破魔矢くん……」
葉隠が俺を呼びかける。
俺は今、いわゆるお姫様抱っこというやつで葉隠を抱いている。
轟の個性次第では、初手でこうしてくる可能性に気づいたからだ。
実際その判断によって俺たちはなんの被害も受けずにすんだのだから、問題はない。
……はずだった。
俺は1つだけミスをおかしてしまった。
ただのミスではない。
極めて重大なミスだ。
それは────
───俺の左手が、意図せず葉隠の胸を掴んでしまっていたということ。
葉隠はグローブとブーツ以外、何も着ていないわけで。
落ち着け俺。
判断を誤るな。
欲に屈してはならない。
左手だけはピクリとも動かすな。
次だ、次の一手に全てがかかっている。
下手な言い訳などなんの意味をなさない。
誠心誠意、全力で謝罪する。
それ以外に俺の生きる道はない!!
俺は、葉隠にこれが俺の意図したものではない事を理解してもらい、どうにか許してほしかった。
だが、俺は個性の呪いにより全く別の事を言ってしまったんだ。
「ほう、なかなかに良いものをもっているではな───」
「キャーッ!!!!!」
「────ブベラッ!!」
俺は、雄英に通い始めて初のダメージを受けた。
お読みいただきありがとうございました。